A POSTER COLUMN
WHEC-14からの話題
カナダのモントリオールで02年6月9日から13日まで開催された第14回世界水素会議(14th World Hydrogen Energy Conference; WHEC-14)において、カナダの水素エネルギー界の長老Sandy Stuart氏は、その歓迎挨拶に中で「水素エネルギーの構築は、単に科学者、水素産業、政府関係者のみの課題(challenge)ではなく、経済学者の課題でもある」と述べた。水素エネルギーは、恐らく新しい"John Maynard KeynesやMilton Friedmansに相当する新しい経済学者"の誕生を求めることになろう(It is a challenge for economists―perhaps a new breed of economists)、そして水素の価値やそれから得られる幾つかの利益が総合的に評価され、統合された結果、水素の価格に如何に反映されるか、それが経済学上の課題である」がStuart Energy Systems社長の意見である。外部経済性(externalities)を考慮して、水素が適正な価格(its true value)になった時、水素の導入によって齎されるべき利益を、最大限かつ速やかに社会に還元するよう、市場の力が作用する。
"The Hydrogen Planet"の副題を冠したこの第14回世界水素エネルギー会議には、過去の最高記録であるWHEC-11(1996 in Stuttgart)の800人を上回る1,000人が参加した。以下にここで披露された幾つかの話題を紹介しよう。
ドイツでは、自動車用燃料として水素の社会的適応性(everyday suitability of hydrogen)を評価することを主目的に、9社の主要な企業とドイツ政府による新しい産官協議会"Hydrogen-based Clean Energy Partnership Berlin(CEP)"が設立された。勿論、純水素以外にメタノールや合成デイーゼル油についても評価が加えられことになろう。03年からスタートする第1期計画のゴールは、水素をベースと30台の自動車を試験運転することに置かれており、5ヵ年計画で水素供給ステーションの建設と、このスタンドを主要なガソリン配送会社であるAralが運用することを決めている。Aral以外の参加企業は、BMW、DaimlerChrysler、Ford、Opel、トラックとバスのメーカMAN、ベルリン交通会社BVD、ガス供給会社Linde、高性能水電解槽の製作会社GHWの8社である。
多くの発表の中で、最もドラスチックな話題は、中国における急速な進歩であったと報道されている。日本のエンジニアリング振興協会岡野氏によって、まだ外部には公開されていないFCVの写真2枚がスクリーン上で紹介された。その内の1つは、出力18kWPEFCを動力源とする12人乗りのバスで、走行距離は165km、燃料となる圧縮水素ガスの容器は天井に格納されている。他の1つは、同じ出力18kWPEFCで駆動するワゴン車で、速度は72km/hが可能であり、写真を見れば圧縮水素ガス燃料は天井に積まれている3本のボンベに蓄えられているのが分かる。両車両とも北京のTsinghua大学とBeijin Green Power Co.によって水素FCVに改装された車両である。
中国においては、Dalian Institute of Chemical Physics(DIPC)およびChinese Academy of Sciencesが30年以上に亘ってFCの研究を行ってきた。そして2001年には、中国政府が"High Technology Development Plan"と称される5ヵ年間の国家的R&Dプロジェクトをスタートさせた。このプロジェクトは、ハイブリッドや電気自動車、FCV、FCスタックおよび材料の開発以外に水素の生産や貯蔵の開発を課題として含んでいる。この5ヵ年間の総予算は、9億中国円(1億1,000万ドル)に達する見込みである。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, July 2002 Vol.XVII/No.7, pp1-4)
―― This edition is made up as of June 25, 2002. ――