42号 PEM;開発から大量生産体制への移行

Arranged by T. HOMMA
1. 国家的施策
2. 市場予測
3. PAFCの生産動向
4. 廃棄物利用のためのFC
5. 電解質膜の研究
6. 家庭用および定置式PEFCの開発と運転試験
7. FCV最前線
8. 石油産業の動向
9. 石炭からのFC用燃料の精製
10. 電子機器用超小型FCの開発
A POSTER COLUMN

1. 国家的施策

(1)通産省
 21世紀の新エネルギーとして自動車などへの実用化が期待されるFCについて、資源エネルギー庁は12月16日、開発に不可欠な統一基準を2000年夏までに策定することを決めた。世界に先駆けて標準化を策定することによって、市場での主導権の確保を意図している。12月24日に発足させた"FC実用化戦略研究会"(座長茅陽一慶大教授)で検討し、自動車メーカに対して水素の供給源や貯蔵方法など国内メーカが共有すべき基盤技術の統一基準を提供する。水素の供給源としては、ガソリン、メタノール、天然ガスの改質が有力視されているが、研究は業界や各社毎にばらばらで、国内メーカからは「方向性を示して欲しい」との要望が強かった。このため燃料の種類や水素の貯蔵方法を研究会で検討し、基準を示すことになった。研究会は学識経験者の他、トヨタ、日産、本田技研の自動車3メーカ、日石三菱、東京ガス、大阪ガス、LPガス協会等で構成されているが,海外からダイムラークライスラーやロイヤル・ダッチ・シェルの参加が検討されている。
(毎日新聞99年12月16日)
 大蔵省が12月20日に通産省に内示した2000年度予算額によると、自動車関連のFC分野に99年度比で約2倍の81億円が配分されている。FCVの普及に向けた基盤整備事業として標準化への取り組みに13億5,000万円を新規に配分した他、技術開発費にも新規で満額にあたる20億円を認めた。又FC用燃料ガス高度精製技術開発費として、これも要求の満額にあたる10億円を新規に認めるなど、FC分野に関する予算額は、99年度比86%増の81億1,000万円となっている。
(日刊自動車新聞99年12月21日)
 資源エネルギー庁は、家庭におけるコジェネ用小型・高効率なFC発電システムの実用化を促進するため、PEFC試作モデルの研究開発に着手することにした。併せてFCの安全性、信頼性実証試験のために必要な実証試験用装置を開発する。研究開発期間は5年程度を予定、2000年度予算に20億円を計上した。
(日刊工業新聞2000年1月4日)
 資源エネルギー庁は、2000年度から"FC普及基盤整備事業"に乗り出すことになった。PEFCの実用化に向けて、基盤となる標準の策定とそのために必要な技術開発を実施することにより、世界における標準化競争をリードしていく考えである。又FCの課題の1つとなっている安全性や耐久性について評価基準を設けるなど、評価手法を確立することにしている。
(日刊工業新聞2000年1月27日)

(2)運輸省
 運輸省は"第1回FCV技術評価検討会"を開催し、石谷東大教授を座長として選出するとともに、FCVシステムについて説明し、FCVとして要求される性能、安全の確保や保全を図るために必要な指針の検討方法について議論した。FCV用FCにはAFCやPEFCが考えられるが、当面はPEFCを中心に議論することとし、同検討会は一定の技術指針を策定して安全確保や環境保全を図るとともに、適切に技術評価することにより技術開発を促進することを目的とする。検討期間は3年程度を予定している。
(日刊自動車新聞99年12月16日、18日)

(3)環境庁
 環境庁は、FCのばいじん測定を免除するため、大気汚染防止法の改正を検討することにした。現在FCについては、出力200kW以上のPAFCを中心にばいじんの測定が義務づけられているが、FCのばいじん、SOx、NOxの排出は極めて少ないので、ランニングコストを下げる観点から、ばいじん測定の運用を変更すべきとの意見が産業界から出されていた。同庁はガス・ガソリン機関の測定と同様、排出係数などを参考にすることで排出状況を把握する方法に切り替える方向で検討を進めることにした。現在排出状況等のデータを調査中で、この結果を踏まえて必要な大気汚染防止法施行規則および通達の改正を行う予定。
(電気新聞2000年1月25日)
 

2. 市場予測
 資源エネルギー庁は、2010年度のFCの市場規模はおよそ5,000億円にまで膨らみ、又雇用創出効果はおよそ2万人に達すると予測している。又FCを始めとする新エネルギーの導入目標の達成により、2010年時点で年間70万トンのCO削減効果と年間約69万klの省エネルギー効果を見込んでいる。同庁はFCの導入量が年間38万kW、発電電力量が年間110億kWh、FCVの導入台数が年間4万台に達すると仮定して、上記市場規模を試算した。又新規雇用については、定置式FC製造分野で約1万人、FCV製造分野で約1万人を想定した。
(日刊工業新聞2000年1月25日)
 
3. MCFCの開発
 日本電機工業会は、このほどFCの98年度生産調査動向を纏めた。それによると、98年度FCの全体生産量は34台、3,121kWであるが、その内PAFCは18台、3,101kWで、前年度に比べて大幅に増加、着実に拡大が図られていることが分かる。この数値は過去の推定生産量と比べると決して高いレベルとは言えないが、93年、94年、95年、96年には、500kW以上の大容量機があったことや、電力会社向けの実績が多かったことを考慮すると、それ程低い値ではなく、むしろ近年では高い水準と判断される。容量区分では、200−500kW、100−200kWに集中しており、他の容量域の実績は皆無である。200−500kWの中で、単機容量として生産実績があるのは200kW機のみの14台、2,800kWであり、容量ベースで全体の90%を占める。100−200kWでは100kW機のみで、98年度は3台、300kWであった。市場動向では、電力会社向けが減少する一方で、製造業等の需要に増大の傾向が見られる。ガス関連では、ガス会社経由の納入案件を含めて10台、1,700kWに達し、全体の50%を占めた。電力の実績はゼロ、官公需はすべてガス会社経由で大学を中心に3台、600kW、製造業は、ガス会社経由分1台を含めて6台、1,200kW、最終ユーザでは最大ですべて工場に設置されている。その他民需は、ガス会社経由分4台を中心に6台、801kWであり、ホテル、ビル、遊園地等での設置が目立つ。又海外はインドの研究施設向けに1台、200kWが輸出された。海外を除く17件の内、12件は通産省の助成制度を受けており、公的制度が普及に寄与していることが伺える。
FC全体生産量の内、PAFC以外はPEFCのみで、16台、20kWの実績である。
(電気新聞99年12月20日)
 
4. PEFC実証試験運転
(1)東芝
 東芝は、日本エネルギー経済研究所からの委託により、中国にある大規模養豚場から発生する家畜糞尿から消化ガスを回収し、それをPAFCに導入して発電する"メタン発酵ガスPAFC発電システム"の実用化開発に着手することになった。NEDOと中国国家発展計画委員会、広東省計画委員会との間で締結した基本協定に基づいて日本のエネ研と中国側開発公司(広東省)が共同でプロジェクトを立ち上げることになり、それを東芝が受注した。NEDOとしては、中国向けグリーンエイドプランの1つとして実行される4年間の事業である。より具体的には、広東省内の養豚場(豚8000頭)から出る糞尿の嫌気性発酵によって発生するメタンガスを出力200kWPC25Cに導入、40%以上の効率で発電すると共に熱を利用する。バイオガス発生システムからPAFCに至る全システムの設計と建設を東芝が受託した。
(日刊工業新聞2000年1月19日)

(2)中部電力
 中部電力は2000年1月7日、火力発電所の取水口周辺に集まるクラゲなどの魚介類や生ゴミなどの廃棄物を、FC用燃料として発電に利用するための実証試験を本年3月にも同社武豊火力発電所で開始すると発表した。取水口周辺のクラゲは配管を詰まらせるなど火力発電のトラブルの原因になることもあって定期的に除去しているが、これを発電のエネルギー源に利用しようとする試みは世界にも例がない。2005年の日本国際博覧会会場での実用化を目指すことにしている。具合的には発電所の取水口で採取できるクラゲや貝などの魚介類の他、発電所の調理場などから出る生ゴミや汚泥を粉砕し、これを処理プラントにおいて約60℃の環境で微生物の働きによって有機物を分解、バイオガスを発生させる仕組みである。バイオガスを発生させる処理プラント能力は、1日当たり約60kgで、既に構内に設置されており、汚泥処理装置で実績を持つ日本碍子と共同で3月にも本格運用を開始する予定である。24時間稼動させた場合、1日約4.8m3のガスを発生させ、発電出力は500W程度と見積もられている。投入されるエネルギーに対する発電量の割合、すなわちエネルギー効率は50%程度と予想され、天然ガスを燃料する場合にほぼ匹敵するレベルと同社は語っている。
(中日新聞2000年1月8日)

(3)エキシー
 エキシーは東芝等と、FCを用いて生ゴミで安定的に発電と給熱ができるシステムを完成した。排出元でゴミを液状化する粉砕装置と発酵・FC発電所設備を携帯電話網で一元的に遠隔制御し、燃料となる良質のメタンガスを得る。各排出元での分散加工、効率的収集装置、および発電プラントが約10億円で建設可能であり、8年で償却できると同社は語っている。本社に処理能力400kg、出力5kWの実証設備を稼動させ、ゴミ処理と電力・給湯による費用削減効果をセールスポイントに、5年で約300箇所への普及を目指すとしている。
 エキシーは94年に発足した会社で、有機性廃棄物からメタンを発酵、それをPAFCに導入したコジェネレーションシステムの開発では草分け的な存在である。98年には通産省の創造活動法認定法人としての指定を千葉県から受け、99年にはFCメーカの東芝や、タンク類に強い甲陽建設工業、香港上海銀行の出資により資本金は5億7950万円になった。
(日刊工業新聞2000年1月21日)
 

5. 電解質膜の研究
 東京大学の中尾真一教授と山口講師等は、多孔質のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の細孔内部に、同教授等が独自に開発したプラズマグラフトフィリング重合法を用いてイオン性ポリマーを充填することにより、200℃までの高温に耐える電解質膜の開発に成功したと発表した。この"細孔フィリング電解質膜"は、PEFCで課題となっていた電解質膜の130℃以上での高温域における機械的強度不足を解決するとともに、PEFCの高温動作によって白金系電極触媒のCO被毒が防止でき、又膜の構造的な特性によって燃料メタノールの浸透を制御することを可能にする。これはDMFCの実現に向かって大きく前進させる成果である。同教授は「現在、細孔内のイオンポリマーにスルホン酸基やホスホン酸基等の強酸基を持つものの導入を行っており、これまでに蓄積してきたミクロンオーダーの薄膜技術を活用することでプロトン伝導性の向上を目指す」と語っている。
 上記の新しい電解質膜の製法をより具体的に説明すると、厚さ70μmの多孔質(孔径50nm)PTFEに、イオン性ポリマーとしてスルホン酸基を持つアリルスルホン酸ナトリウム(SAS)、メタルスルホン酸ナトリウム(SMS)、pスチレンスルホン酸ナトリウム(SSS)をモノマーにして、重合促進を行うためにアクリル酸を用い、プラズマグラフト重合を行う手法である。合成した膜は、アクリル酸とSASの強重合したものと、アクリル酸の単独重合で、それぞれの膜中には、カルボン酸基とスルホン酸基の存在が確認されている。得られた膜の構造は、構造骨格となるPTFE膜の表面だけではなく、内部にもイオン性ポリマーの存在が入り込んだ構造となっている。耐熱性については、200℃までは熱分解が見られず、重量の減少も検出されなかった。一般的にアクリル酸は弱酸基を持つので、イオン性ポリマーと比較して解離度が低くて、メタノール阻止性は良好ではないとされているが、今回製作した細孔フィリング型電解質膜のアクリル酸膜は80μmで、Nafion117の211μmに比べて薄いにもかかわらず、Nafion膜を上回るメタノール阻止性を示したと報告されている。
(化学工業日報2000年1月24日)
 
6. 家庭用および定置式PEFCの開発と運転試験
(1)松下電器産業
 松下電器産業はPEFCを用いた家庭用コジェネレーション装置を試作、社内で実証実験を開始した。発電出力は1kWで、排熱は台所や風呂の給湯に利用し、エネルギー効率は35%以上と伝えられている。大きさは幅95cm、奥行き32cm、高さ100cmで、現時点では世界で最小と評価されている。家族4〜5人程度の家庭向きユニットとして2004年頃に商品化する予定。出力1.5kWユニットで50万円以下の製品価格の実現を目標とすると同社は語っている。
(日本経済新聞99年12月11日、2000年1月20日)

(2)三洋電機
 三洋電機は99年12月20日、都市ガスを燃料とする出力1kW家庭用PEFCコジェネレーションシステムを開発したと発表、今後機器の小型化やコスト低減を進め、2003年頃に市販したいと語っている。都市ガス中のメタンを水蒸気改質し、改質ガスのCO濃度を10ppm以下にすることに成功した。発電効率は35%、熱回収効率は30%で、排熱は台所や風呂の給湯に使用される。同社の試算によると一般家庭で年間3万8千円の電気・ガス代の節約が可能になる。価格は50万円以下になる見込みである。
(日経産業、日刊工業、日本工業、電波新聞99年12月21日)

(3)東京ガスと荏原バラード
 荏原はPEFCを使った家庭用コジェネレーション事業に進出することになり、同社とBallard Generation Systems(BGS)との合弁会社"荏原バラード"が東京ガスの協力により、開発・販売を受け持つことになった。システムはBallard Power Systemsが供給するPEFCを中心に、東京ガスが持つ都市ガス燃料処理装置、インバータ、排熱回収装置で構成される。出力は1kW程度で、大きさは長さ80cm、幅30cm、高さ1mで、販売価格は30万〜40万程度にする計画である。2004年を目途に商品化し、家庭用コジェネレーションの普及が予想される2008年には年間20万〜30万台程度の販売を目指すと語っている。
 他方、荏原は現在BGSの250kWPEFCコジェネレーションシステムの日本における事業化を進めており、2000年からフィールドテスト、2003年から商用機の販売を計画している。
(日本経済、日経産業、日本工業、日刊工業、電気新聞2000年1月14日) 

(4)日本ガス協会
 日本ガス協会は、2000年1月11日から、ガス会社の分室内実験住宅に設置した出力1kW級家庭用PEFCコジェネレーション用システムの試験運転を開始した。同協会では今後実用化のための性能評価を行い、2002年頃から実際の住宅で試験を行い、2005年頃から普及させたいと語っている。
 同協会はNEDOの助成金(総予算2億2千万円;助成金1億4千万円)を受け、99年2月から2000年2月までの計画で同種システムの実用化開発を進めているが、このほど松下電器産業、三洋電機、松下電工の3社が製作した運転試験用システムについて、各々東京ガス分室、大阪ガス分室、東邦ガス分室の3箇所で試験運転を開始した。同システムはPEFCスタックを中心に、都市ガス燃料処理装置、インバータ、排熱回収装置をユニットとして纏めたもので、大きさは松下電器製の場合、幅95cm、奥行き32cm、高さ92cm、これはエアコンの室外機を一回り大きくした程度である。発電電力は系統連係され、排熱は60℃の温水として回収、給湯や床暖房等に利用される。導入初期の目標は、発電効率で30〜35%、排熱利用を含めた総合効率は70〜80%と設定されており、従来の電力・ガスのシステムと比較して20%程度の省エネルギー効果と30%程度のCO削減効果があるものと期待されている。なお普及のためには導入コストを1台50万円程度に抑える必要があると見ており、今後システムの最適化、効率化、そしてコスト低減を図る。
(日本経済、日刊工業、電気新聞、化学工業日報2000年1月13日)

(5)大阪ガス
 大阪ガスは1月20日、家庭のコジェネ用PEFCを住宅に設置して生活する実験を2000年4月から開始すると発表した。同社が大阪市天王寺区に所有する実験集合住宅"NEXT21"(16戸)の1戸当たり発電容量は0.5kWであるが、今回はその内の2戸に松下電工と共同で試作した出力0.5kWPEFCと三洋電機製1kWPEFCを設置する。まだ試作段階でコストや性能等に改善の余地があり、5年間大阪ガスの社員がこの住宅で生活してデータを収集し、2005年の商品化を目標に、そのための問題点を探索することとした。蓄電池等を含むシステムの大きさを小型冷蔵庫なみに抑え、60万円以下の販売価格にしたいと考えている。
(毎日、読売、日経産業新聞2000年1月21日)
 

7. FCV最前線
 Ballard社は、2004年までに社会に登場する予定になっている第1世代FCVエンジン用の新型PEFC"Mark 900"スタックのパッケージ化を完成したようである。この模型は99年秋、StuttgartにあるDaimler-Chryslerの研究施設において既に公開された。メタノール改質ガスで出力75kW、市販の水素で80kWの連続発電が可能なこの新しいMark 900スタックは、先のMark 700に比べて出力密度において約30%は向上した。純水素燃料に対してはその容積出力密度は1,310W/lit.、メタノール改質ガスに対しては1.23kW/lit.となっている。より具体的には、スタックのみの容積は61lit.、これにマニホールド、空気加湿器、およびセンサーを加えたモジュールの容積は77lit.であり、Mark 700モジュール(出力66kW)の131lit.と比較して半分強にまで小さくなっていることが分かる。したがってモジュールで計算した出力密度は、改質ガスで0.97kW/lit.、純水素で1.04kW/lit.となる。性能についてもMark 900は、Mark 700に対して幾つかの点で改善が図られている。具体的には冷却水は後者では脱イオン化水が使われたのに対して、前者はエチレングリコール/水であり、前者では−40℃での動作と、−25℃での起動が可能となった。しかし、Ballard AutomotiveのNeil Otto社長は、出力密度以上に重要な改良点として、モジュール構造に関する問題を挙げている。同社は自動車会社の意見や協力を得ながら、幾つかの点で構造上の前進を実現したようである。例えば、第1に新しいモジュールでは、センサーやエレクトロニクスデバイスを含むコンポーネントが統合されて1つのボックスの中に収納されており、第2にいかなる自動車にも適用できるよう、出力やモジュール形状を変えられるようになった点である。例えばモジュールを床下に設置できるよう、高さを低く薄い形状にすることが可能であるし、ハイブリッドカーにも適用できるよう、出力を40kWに低減することも自由である。
 これらにも増して最も重要な課題は、低コストを実現するために大量生産体制を確立することである。これについて「我々は6秒間に1つのセルを機械的に作り出す連続自動生産ラインの技術を開発した」とOtto社長は語り、Firoz Rasul会長は「1つのスタックが約400セルによって構成されるとして、この技術は年間30万ユニットのスタックの生産を可能にする」と述べている。同社長は「これが将来の連続生産ラインに組み込まれる最終的な設計(frozen design for future series production)である」と語り、同社の技術者も「触媒やシール等幾つかの点について修正はあるかもしれないが、これが生産ラインに導入される基本的な設計であることは間違いない」と社長の主張を追認した。更にRasul会長は「設備の実現には3億から4億ドルの投資が必要ではあるが、この額はエンジンプラントに比較しても決して大きな負担ではない。それよりも最も画期的な出来事は、Ballardがいよいよ開発会社から生産会社に移行を始めたという事実であり、これは自動車のみならず他の多くの分野でのPEFCの普及に大きな効果を及ぼすことになろう。場所は未定ではあるが、我々は北アメリカのどこかにPEFCの大量生産設備を建設すべく計画を作成中である」と語り、更に「Ballardは今や未審査の案件を含めて400件もの特許を持つ知的財産の所有者としての地位(very strong intellectual property position)を獲得した」と首脳陣は誇っている。
 このMark 900は、Ford社がDetroitのオートショウで発表したメタノールFCVプロトタイプ"Th!nk FC5"(Fuel Cell-5th Generation)にも既に搭載されている。Fordの役員は、このFC5は今後6ヶ月以内にCalifornia Fuel Cell Partnershipに参加するため、当地に配送されることになろうと述べた。
 GM社は、基本的にデイーゼルハイブリイドカーである"Precept"のFC versionを、2000年1月に開催されたDetroit Auto Showで公開した。"H&FCL,Feb,2000"の1ページに、このGM's fuel cell "Precept"の周りに多くの見学者が集まっている様子が写真で描かれている。もともとPreceptは、アメリカのPNGVの燃費目標を達成し得る高効率なハイブリッドカーとして注目されてきたが、今回のこの水素で駆動するFC versionの発表は人々に驚きを以って迎えられた。
 自社製のPEFCスタック(第9世代)の定常出力は75kWであり、出力密度は1kW/lit. および1kW/kgと発表されている。しかし、この動力機関の驚くべき特徴と革新性は、水素貯蔵システムにあると言うべきであろう。後部床下に備えられた2ユニットの120kgタンクは水素化物で構成されており、4.9kgの水素を蓄える能力を持ち、PEFCの動作温度である80℃において水素を放出する。水素化物は80から150℃、10から15気圧の範囲で動作する。起動性をよくするため、タンクにはコイルが備えられており、車載の蓄電池から供給されるコイル電流によってタンクは加熱される。この水素化物について、GM社の指導者はそれが粉体から構成されていること以外、物質の種類等については何も語っていない。
 同社は「これでわが社は水素燃料の路線を歩むと決定したわけではない」と述べている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, February 2000, Vol.XV/No.2, p1,5,6,7)
 
8. 石油産業の動向
(1)石油産業発展方向性検討委員会
 "石油産業発展方向性検討委員会"のワーキンググループ(主査十市日本エネルギー経済研究所理事)は、このほど第1回会合を開き、トヨタ自動車と日本ガス協会の両者からFC関係のプレゼンテーションを受けた。トヨタ自動車の中村FC技術企画部長は、FCVについては技術開発とコスト、およびインフラ整備の3課題があると述べた上で、燃料源の選択は単に技術的判断だけで決定する問題ではなく、インフラ整備などで国と燃料業界と歩調を合わせていく必要があると語った。又「我々は将来的には燃料として水素ベースを想定しているが、一挙に水素とすることは困難があるので、その間はメタノールや天然ガスを燃料源としなければならない」と述べている。
(化学工業日報99年12月27日)

(2)出光興産
 出光興産は民生用灯油需要を掘り起こすため、1)石油セントラルシステムの推進、2)灯油集中給油システムの提案、3)灯油ヒートポンプの普及、を積極展開することになった。これらにより民生用灯油需要を開拓しながら、将来FCが家庭に普及してもエネルギー源として灯油を使うシステムに切り替えることで、石油会社としてのポジションを不動のものにできると判断している。
(日刊工業新聞2000年1月11日)
 

9. 石炭からのFC用燃料の精製
 資源エネルギー庁は、2000年度から次世代型大型FC向け"FC用燃料ガス"の精製技術に関する研究開発に乗り出すことになった。これは石炭から不純物を取り除き、取り出した水素を高度精製することを目的とする技術で、電源開発に研究開発を委託し、研究開発費の2/3を補助する。  同庁は"FC2010"プロジェクトを進めているが、これは2005年までに燃料電池の実用化および商業化を図り、2010年を目途に本格的な導入を実現しようとする開発戦略である。既にPAFCは業務用、工業用として普及導入段階に入っているが、発電出力が1万〜10万kW級の火力代替大型SOFCについてはまだ試験研究段階にあることから、この研究開発を加速することにした。しかし、大型のSOFCを開発普及するためには、使用可能な燃料ガスを高度精製する技術が前提となる。石炭から水素を取り出す技術は、例えばメタノールの改質技術に比べてはるかに難しく、この技術を確立するためのプロジェクトを設立することになった。
(日刊工業新聞2000年1月18日)
 
10. 電子機器用超小型FCの開発
 Los Alamos国立研究所とMotorolaの研究者は、極めて小さいDMFCのプロトタイプを試作したと発表した。Motorola社は、今後3ないし5年以内に、携帯電話やラップトップコンピューター用電源として、生産に入ることになろうと語っている。エネルギー密度は通常の蓄電池の10倍であり、携帯電話なら1ヶ月以上、コンピューターなら20時間以上の使用が可能となる。試作されたFCは、2.5cm四方、厚さ2.5mmの大きさであり、Los Alamosで1,000時間の運転実績がある。プロジェクトリーダーのShimshon Gottesfeld氏は「これはDOEおよびDefense Advanced Research Project Agency(DARPA)の資金援助で開発されたDMFCの技術を基礎に試作したもので、今後はより大きな1kW機の開発に向かって駒を進める」と述べている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, February 2000, Vol.XV/No.2, p.4)

 

 ― This edition is made up as of January 27, 2000 ―

A POSTER COLUMN

三菱重工業によるSOFC、PEFC、マイクロガスタービン開発動向
 三菱重工業は中期経営計画の中で、研究開発の最重要項目の一つとして分散型エネルギーシステムに焦点を当て、SOFCおよびPEFC、およびマイクロガスタービンの自主開発に会社を挙げて取り組むことになった。同社独自の研究開発予算は99年度については400億円であったが、上記分散型エネルギーシステムの開発は、研究開発テーマの中で「トップクラスにランクされる」と田中常務取締役技術本部長は述べている。  SOFCについては、三原製作所の印刷技術をベースに大幅なコストダウンが可能な技術開発に成功しており、これを使って電源開発と出力100kW級プラントの開発を実施する。燃料極、インターコネクター、空気極の層形成に印刷技術を適用し、一体積層印刷焼結技術で従来の製造工程を3分の1まで縮小することが可能になった。 既に出力15kWユニットでは7,000時間の実証運転に成功しており、この100kW級は2001年に完成の予定である。コンセプトは長崎研究所で纏められることになっている。
 純水素を燃料とするPEFCについては、海洋科学技術センターの潜水艇用動力源として実用化した実績があるが、今回三菱自工と共同開発に乗り出した乗用車用はメタノール改質型PEFCエンジンである。高分子膜についても研究開発に乗り出しており、改質器は既に製作技術を保有している。今回10年後の普及に向けた開発体制を設立した。同社は定置式(家庭・業務用)PEFCにも高い関心を持っている。この場合出力のターゲットは数kWから数十kWで、現在国家プロジェクトで開発を進めている他社との共同開発も視野に入れて開発を進めることにしている。
 マイクロガスタービンは、分散型エネルギーでは1番手での市場投入を目指しており、汎用機事業本部と原動機事業本部が一体となって相模原事業所を核に、高砂研究所、長崎研究所を開発体制に加えて商業化を加速することになった。ターボチャージャー技術を適用、規模は50kWから100kWの範囲である。
(日刊工業新聞99年12月16日)
 水深3500mの深海を母船の誘導なしで300kmの単独航行が可能な、FCエンジン搭載の自律型無人潜水ロボット試験機が三菱重工業神戸造船所で完成し、2000年1月21日に公開された。ロボットは"AUV―EX1"で、全長10m、幅1.3m、高さ1.5m、重さ7トン、船体の外壁は繊維強化プラスチック製、純チタンのフレーム構造である。動力源にはリチウムイオン電池と水素燃料使用のPEFCが採用されている。燃料の水素と酸素を加圧することにより、ロボット内に長距離航行に必要なエネルギーを蓄えることに成功した。海洋科学センターの委託を受けて三菱重工が製作したもので、約2年の期間と27億円が投入された。本簿ロボットは3月に同センターに引き渡され、航続距離4,000mの実用機を開発するために、更に研究が続けられる。
(神戸新聞2000年1月23日)