41号 2000年以降のMCFCプロジェクト

Arranged by T. HOMMA
1. 国家的施策
2. PAFC
3. MCFCの開発
4. PEFC実証試験運転
5. 家庭用PEFCの商業化計画
6. PEFC用イオン交換膜の開発
7. FCV最前線
8. 微細炭素繊維による水素貯蔵改質装置
A POSTER COLUMN

1. 国家的施策

(1)運輸省
 運輸省は、FCVの安全性や公害防止について新たな技術基準を導入する方針を決めた。同省としては、FCVの本格的な普及を前にして、低公害性や安全性について評価するための環境を整備することにした。今年度中に技術基準設定のための評価方法の作成や審査、検査についての基準を策定する予定。まずFCユニットの評価方法を作成すると共に、技術指針も策定する。特に水素やメタノール等、それぞれの燃料を使うFCVにおける安全上の問題や公害の発生状況について調査し、将来の普及をにらんで審査や検査についての基準も策定する。
(日刊自動車新聞99年11月17日)

(2)通産省
 通産省は2010年以降の石油業界のあり方について検討するため、有識者や石油業界を加えた検討組織を設置し、2000年3月までに報告書を取りまとめることになった。検討組織には日石三菱、出光、昭和セル石油、ジャパンエナージー、コスモ石油、東燃の石油業界に加えて石油連盟や全国石油商業組合連合会が参加、それに石谷東大教授等の学識経験者も加わり日本エネルギー経済研究所の十市勉氏が座長を務める。具体的にはFCVや家庭用FCが普及し始めた場合のガソリンスタンドの活用方法などが議論される見通しである。
(日本経済新聞99年12月1日)
 通産省は12月8日、自動車動力用PEFCの普及に備えて、"FC実用化戦略研究会"を24日に発足させることを明らかにした。学識経験者、自動車やエネルギー業界の関係者を集めて燃料となる水素の供給方法などを検討し、2000年3月までに報告書を作成することにしている。
(化学工業日報99年12月10日)
 通産省は、通産大臣の諮問機関である総合エネルギー調査会に新エネルギー部会を設け、新エネルギーの本格利用の可能性や技術開発の動向等を調査して、太陽光や風力発電、燃料電池などの新たな導入促進策を検討することになった。98年に改定された長期エネルギー需給見通しでは、2010年にはエネルギー総供給量に占める新エネルギーの比率を現在の1%強から31%まで高めるとされている。しかし国内での新エネルギーの普及は必ずしも順調ではなく、新たな施策の必要性を指摘する声が強まっていた。
(東京新聞99年12月12日)
 

2. PAFC
(1) 富士電機
 富士電機は、現在の5年間、すなわち4万時間の運転後に行っているPAFCユニットのオーバーホールを、7.5年、すなわち6万時間運転後までに大幅に延長できるような機種の開発に着手した。保持材(マトリックス)におけるリン酸の蒸発を抑え、それを蓄えていく手法の導入や、改質装置の触媒の寿命を延ばすなどにより、ユニット自身の寿命を大きく延長させることに努める。オーバーホールでは電池の心臓部や解質装置をそっくり入れ替える作業となる。又価格については、現在標準化している出力100kWの価格60万円/kWから、脱硫装置と改質装置の一体化や、製造工数の減少等によりコストの削減に努め、2001年の出荷からは40万円/kWまで引き下げるとしている。同社はこれまで第1次商品機種として100kWに標準化した製品を販売しており、出力50kWも加えたオンサイト用発電装置としては計88台を、更に電力用発電設備やナフサ実験用・車両用等を合わせると111台を販売している。
(日刊工業新聞99年11月12日)
 
3. MCFCの開発
 2000年度から始まるのMCFCの実用化を目指したNEDOによる開発プロジェクトでは、IHIを中心に開発体制を再編成し、東芝、荏原、神戸製鋼所、川崎重工業は開発チームから撤退することになった。現在中部電力川越発電所での出力1000kW級、および関西電力尼崎FC発電試験所での200kWの両MCFC発電実証運転は99年度で終了させ、数万kW規模等の実用化を目標にした5年間の実用化研究が2000年度から開始されるが、そのプロジェクトはIHIを核として、それに日立製作所および三菱電機がバックアップする体制で進められる。本プロジェクトには5年間に120億円が投入される予定である。東芝はMCFCの開発に15年間に亘り取り組んできたが、同社は今後FC開発をPEFCとPAFCに特化するため、本プロジェクトからの撤退を決意した。
 今後のMCFCの最も重要な開発課題は、コストダウンと信頼性の確保にあるが、効率向上に向けてスタックの高性能化および周辺機器の効率化にも取り組み、標準化を目指した基本モジュールの製作が予定されている。内陸部でも立地できるシステムの実現が目的で、今回は横型300kWスタック2基とマイクロガスタービンを組み合わせて800kW複合プラントを完成させることになっている。より具体的には、1mの発電セルを200枚積みあげる高積層化技術(川越では70枚)、5気圧から12気圧への昇圧とそれに伴うニッケル溶出問題のクリアと4万時間耐久性の実証、コスト低減のための周辺機器の簡素化等が課題として挙げられている。実用プラントは内陸部需要近接地区に設置され、LNGによる中規模発電で61%、石炭ガス化と組み合わせた大規模発電で53%の発電効率の実現が目標である。
(日刊工業新聞99年11月8日)
 
4. PEFC実証試験運転
 日石三菱は99年度下期から同社横浜製油所内で、定置式コジェネレーションシステムの開発を目標として、ナフサや灯油の改質ガスを用いた数kW規模のPEFCシステムによる実証試験を開始する。研究の期間は2002年まで。改質触媒や脱硫触媒については既に同社オリジナルの技術を持っているが、石油系燃料から如何に安く水素を生成するか最大のテーマとなる。PEFC用燃料の開発も念頭に置いている。
(化学工業日報99年12月6日)
 日石三菱はナフサを燃料に、PEFC用高効率改質プロセッサーの開発に着手、2000年4月を目途に数kW規模の定置式PEFCシステムを製作する。改質ガスに含まれるCO濃度を10ppmまで下げるために、CO変成器、CO除去器が改質器の後段に設置されており、又LCA手法を用いてトータルエネルギー効率の高い装置を作り上げることを目指している。なお同社はダイムラークライスラーと車用FCの共同開発に同意していることから、今回の成果を乗用車のエンジンにも応用していくことになろう。
(日刊工業新聞99年12月8日)
 
5. 家庭用PEFCの商業化計画
(1)大阪ガス
 大阪ガスは、都市ガスを燃料とする家庭用コジェネレーション用PEFCシステムの商品化を進めるため、99年12月1日付で"プロジェクト部"を新設した。これは開発研究部、営業技術部などに分かれている関連部門を統合して創られた組織で、設置期間は5年間とし、人数は20人、年間約10億円の研究開発費を投入する。2005年の商品化を目標としており、当初は発電効率35%で、小型冷蔵庫程度の大きさのコジェネシステムを50ないし60万円で発売することを目指している。電力とともに供給される熱出力形態は、台所や浴室に利用できる温水となる。同社は「電気までガスで賄えば、1戸当たりのガス需要は3倍にまで増える見込みで、ガス事業の生き残りのためには避けて通れない関門」と語っている。
(読売新聞99年11月14日、朝日、読売、日刊工業新聞99年11月23日)

(2)富士電機
 富士電機は、2004年から家庭用等数kW級PEFCの製品出荷を目標に、11月から富士電機総合研究所(横須賀市)での同部門の研究を、新事業推進室の燃料電池部(市原市)に統合し、2000年2月にも1kW級の水素・空気型を完成させる予定。更に2000年度には改質ガスを燃料とする数kW級規模のシステムの製作に乗り出すことにしている。PEFCの市場は他のFCに比べて格段に広いと予想されるため、同社は今後のFC開発の主流をPEFCに絞り、開発テーマの中でも最大の投資をして実用化を急ぐと述べている。高信頼性のセル開発では、これまでに単セルで初期3,000時間連続運転において、1,000時間で時間当たり3mVと、0.5%の劣化率を実現している。
(日刊工業新聞99年11月18日)
 

6. PEFC用イオン交換膜の開発
(1)電子技術総合研究所
 工業技術院電子技術総合研究所エネルギー部本間格主任研究官は、PEFCの電解質膜として現在主流になっているフッ素樹脂系イオン交換膜に比べて、動作温度が100℃前後高い有機無機ハイブリッドイオン交換膜を開発したと発表した。これはポリエチレンオキサイド(PEO)やポリプロピレンオキサイド(PPO)、ポリテトラメチレンオキサイド(PTMO)等とシリカが分子レベルで結合した複合膜で、モノドデシルフォスフェート(MDP)や1,2−タングストリン酸(PWA)等をプロトン導電性供与剤としてドープしたものである。このイオン交換膜は、200℃までの耐熱性があるとともに柔軟性に優れており、160℃で10−4−3Sの伝導度を示すことが確認された。同研究官は「160℃での伝導度としては世界最高のレベルの性能であるが、フッ素膜のそれに比べるとまだ低い。しかし今後改善できると考えている」と語っている。100℃から200℃前後までの高温域で良好なプロトン伝導性を示すイオン交換膜が開発されれば、フッ素樹脂系イオン交換膜で問題となっているCOによるアノードの被毒を心配する必要がなくなり、又カソードの過電圧の引き下げによる電池効率の向上が期待される。今後の課題としては、プロトン伝導性の向上に加えて、水管理および長時間運転での安定性の確認や改良などが挙げられている。
(化学工業日報99年11月15日)

(2)名古屋工業大学
 名工大の野上正行教授らは、ゾルゲ法により水素イオンに対して伝導性の高いガラスを開発したと発表した。湿度60〜80%、室温における伝導度は0.03〜0.1S/cmで、通常のガラスに比べて106倍、PEFC用電解質として使われているナフィオン膜と同程度の伝導性を持つ。このガラスはP−SiO系で、金属アルコキシドの原料を加水分解してゲルを作成、500〜800℃で加熱してガラスとしたものである。ナフィオン膜に比べれば化学的、熱的耐久性に優れており、将来FC用電解質としての利用が期待されている。実際このガラスを電解質としてFCを組み立て、水素・空気を適用して発電実験を行ったところ、ナフィオン膜のPEFCに比較して1/10程度の電圧、電流を検出した。ナフィオン膜に比べて電圧・電流値が低いのは、電極の接着に際して、これが無機系素材にも関わらず、有機系であるナフィオン膜と同等の方法を使ったためと説明されている。接着方法の改良が行われれば、ナフィオン膜以上の性能が得られるものと期待される。
(日刊工業新聞99年11月22日)
 

7. FCV最前線
(1)DaimlerChrysler・Ballard
 DaimlerChryslerFCプロジェクト総括責任者のフェルデイナンド・パニク副社長は、99年11月29日の記者会見で、2004年を目途に市場投入を予定しているFCVに関して「10年以内に性能・コスト面で内燃機関を上回り、2020年までには5〜25%の範囲で普及する」との見通しを示した。彼はFCエンジンが既存のエンジンよりも競争力が高いと述べており、その根拠として例えば「熱効率はガソリンが15%、デイーゼルが24%であるのに対して、FCは37%であり、製造コストでもガソリンエンジンを凌駕するであろう」ことを挙げている。又Ballard Power Systemsのフィロツ・ラスール会長は「内燃機関と同等のコストでFCを開発中である」と語った。
(読売、毎日、日本経済、日経産業、日本工業、日刊工業、日刊自動車新聞99年11月30日)

(2)東芝
 東芝は99年11月29日、2000年1月を目途にガソリンを燃料とするPEFCシステムの試作品を開発し、日米欧の自動車メーカに供給すると発表した。同社は従来、出力10〜50kWPEFC本体の試作品を自動車メーカに供給してきたが、今回のは同社が開発する出力50kWのPEFCを、IFCが開発するガソリン改質装置に組み合わせてシステム化したプラントである。
(日本経済、日経産業新聞99年11月30日)
 

8. 微細炭素繊維による水素貯蔵
 アメリカと中国の研究者は、single-walled carbon nanotubesにより、室温において4.2%の水素吸着率を記録した。同研究グループはScienceの11月5日号で、吸着した水素の3/4以上を常温常圧において、残りの水素は若干の加熱によって放出することができたと報告している。このナノチューブは容易に製作できること、およびデータは比較的控えめながらも再現が可能な高い水素貯蔵率(reproducible and modestly high hydrogen uptake)を示しており、本方式による水素貯蔵の実用性を示唆する結果として注目に値する。研究グループを構成するアメリカの研究者は、MITのDepartment of Physics and of Electrical Engineering and Computer ScienceのMildred Dresselhaus氏であり、中国からはInstitute of Metal ResearchのC.liu, Y.Y.Fan, M.Liu, H.M.ChangおよびH.T.Cong氏の5人が参画している。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, December 1999, Vol.XIV/No.12, p3)

 

 ― This edition is made up as of December 12, 1999 ―

A POSTER COLUMN

Stuttgart vs Tokyo
 「もし早ければ、クリスマスに間に合うかもしれないが、そうでなければ来るべき1000年紀早々には登場することになろう」との見出しで、DaimlerChryslerが次世代FCVNecar5の公開が間近いことをH&FCLは報じている。DaimlerChryslerの経営トップは、99年11月10日から11日にStuttgartで開かれたショウと"Innovation Symposium 99"において、Necar5の公開を予告した。
 Necar5はメタノールを燃料とするFCVで、メタノール/水改質装置と新PEFCスタックから構成されるエンジンは、床の下に2枚の板で仕切られたスペース(double-walled sandwich floor)に格納されるまでに小型化されている。 したがって、Necar5はA−クラス車としての本来の乗車定員と、若干の制限はあったとしてもトランクのスペースを確保することに成功している。
 Stuutgatからバスで約45分、Nabernに位置する"Fuel Cell Project House"のテクニカルツアーにおいて、同社の技術者はリポーターにplexiglassで作られたNecar5の模型を公開した。PEFCスタック(Mark900)の出力はNecar4に比べて5kW大きい75kW、写真は禁止されていたので正確には分からないが、外見は高さ1フィート、幅が1.5フィート、長さが3フィート前後(約120lit.)と推定された。新型メタノール/水改質器は、複雑な構造ながら容積はコンパクトになっており、スタックと同程度の容積と記されている。Necar3に比べて装置がずっと小型化されている点に、顕著な進歩が認められる。
 Necar5の前に発表されたNecar4は、液体水素を燃料としているので、改質器の必要がなく、それだけ空間に対する制限は小さいが、液体水素は貯蔵、燃料補給を含めてハンドリングが複雑であり、ドライバーに優しい燃料(consumer-friendly fuel)とは言いがたい。技術担当役員のKlaus-Dieter Voehringer氏は、車載での水素貯蔵に関してはまだ解決しなければならない問題が残されており、最終的な解は得られていないと述べている。
 水素内燃機関の可能性についての質問に対しては、Voehringer氏は「我々は20年前、このアイデアに挑戦して研究に取り組んだが、水素エンジンは実現可能な選択肢ではないとの結論に達した。その理由は他の燃料に比べて効率が低いという基本的な壁であり、エンジンをFCに絞ったのはこのような経緯からである」と語った。
 他方、東京では"東京モータショウ"に先立って99年10月に開かれた環境シンポジウムにおいて、トヨタとGMがFCを含む環境技術開発協定の締結を発表すると共に、トヨタが最近達成したFCVに関する技術開発成果の幾つかを披露した。トヨタの研究者は、FCスタック、改質装置、空気圧縮機、および水素吸蔵合金の分野で大きな成果があったことを明らかにした。
 先ずPEFCスタックの出力を70kWまで高めたが、冷却と加湿ループを一体化すること等により、システムの容積と重量を大きく減らすことに成功した。現時点でのスタックの容積は65lit. 重量は75kgと発表されている。
 改質器についても燃料の気化部、改質反応部、およびCO変成部を一体化することにより、小型化を実現した。"Fuel Cell 2000"の技術アナリストを務めるRhett Ross氏は「吸熱や発熱を伴う各部を熱的に統合管理することによって熱損失が著しく低減している」との評価を下している。又新しい触媒の導入は、反応温度の低下を可能にし、改質効率を向上させると同時に起動時間の短縮を実現した。トヨタは起動時間は3分以下、容積40lit. 重量が20kgの改質ユニットは、定常状態においては毎分750lit.の水素を供給することができると述べている。
 空気圧縮機については、silent scroll方式を採用することによって、効率は60%以上にまで上昇した。最大空気圧は0.15MPa、流量3,000m/min.のコンプレッサー容積は10lit. 重量は20kgである。
 水素吸蔵合金による水素貯蔵タンクは内臓熱交換器の形状やユニットの統合によって、その大きさは60lit.になり、100kgの合金は2.2kgの水素を蓄えることができる。なお実験室では、チタン系の合金によって、3wt%の貯蔵容量を達成したと同社は述べている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, December 1999, Vol.XIV/No.12, pp1-2, pp7-8)