40号 FCV用燃料供給インフラの議論が本格化

Arranged by T. HOMMA
1. 国家機関による施策
2. PAFCの市場展開
3. SOFCおよびMCFCの開発
4. PEFCの開発
5. PEFCの実証運転
6. FCV最前線
7. メタノール燃料供給インフラの動き
8. 改質装置

1. 国家機関による施策

 通産相は、自動車の動力源等への利用が期待されているFC開発の促進と普及を目的に、近く自動車、エネルギー業界等に協議機関の発足を呼びかけ、機器の標準化や、燃料の供給拠点の構築等に関する官民共同の研究・開発態勢を確立することになった。新たな協議機関は、自動車メーカ、石油・ガス供給会社等関係業界を始め、学識経験者、利用者代表で構成されるが、国際石油資本(メジャー)等海外からの参加受け入れも視野に入れている。同省は既に“クリーンエネルギー自動車”の研究開発や水素の利用、貯蔵方法の研究などに取り組んでおり、資源エネルギー庁は2000年の概算要求で86億円を計上している。普及に向けての課題としては、水素を生成する燃料としてのメタノールや天然ガスの効率性、水素を供給するサービスステーションの立地・管理、FCの機器・部品の標準化等が挙げられており、これらの課題を早急に協議して、普及への道筋をつけたいと考えている。又現在シカゴやバンクーバーで行われているFCVの実地走行テストを1?2年以内に実施し、国民に対する安全性や無公害性のPRを通して、世論の盛り上げも図っていく意向である。
(産経新聞99年10月28日)

 通産省は、2000年代初頭に実用化が見込まれるFCVに関係して、燃料の選択に関する戦略論を議論する“FC実用化推進会議(仮称)”を、早ければ年内にも立ち上げる予定である。
(日刊自動車新聞99年11月1日)
 

2. PAFCの市場展開
(1) 東芝
 東芝はアメリカ国務省から、在日アメリカ大使館等3箇所に、合計4台のPAFC・PC25Cを受注したことを明らかにした。内3台は六本木の大使館員宿舎(2台)とドイツ・フランクフルトのアメリカ領事館に納入するのが確定している。六本木の2台はベースロード発電用で、熱エネルギーは90℃と60℃の熱水で取り出し、内60℃の熱水は給湯・暖房用に、90℃のそれは吸収式冷温水器と組み合わせて冷暖房空調用に用いられる。総合効率は80%に達し、従来の電力系統からのエネルギー供給に対するCO2排出削減効果は40%と推定されている。
 東芝は99年度にPAFC14台を受注しているが、横浜市の下水処理場からのメタン発酵を利用したシステム、防災スポットへの適用、半導体洗浄用メタノール廃液のリサイクル用等、PAFCの用途は広がりを見せている。
(日刊工業新聞99年10月19日)

(2)川崎製鉄
 川崎製鉄はゴミから発生したガスを燃料としてPAFCの実証運転を行うと発表した。千葉製作所に完成した1日ゴミ処理量150トンのガス化溶融炉2基(スイス・サーモセレクトから技術導入)に、2000年に東芝から購入する200kWPAFCを組み合わせて、40%に達する高効率発電の実現を目指している。現在実用化している焼却炉では20?25%が発電効率の最高レベルとなっている。同溶融システムで発生するガスは、33?35%の水素と共にそれと同量のCOを含んでいるので、これらのガスを改質してPAFC用燃料とし、得られた電力は溶鉱炉の動力として消費される。
(日刊工業新聞99年10月21日)

(3)鹿島
 鹿島はNEDOと共同で、生ゴミを発酵させて生じるメタンガスを燃料としてPAFCで発電するシステムを開発した。1トンの生ゴミから、一般家庭で使用する電力量の2か月分に相当する約580kWhを供給することができる。この度約1億5千万円をかけて完成した実証プラントは、同社が開発した“高温メタン発酵装置”に出力50kWPAFCを組み合わせたシステムで、1日当たり200kgの生ゴミを処理する能力がある。このメタン発酵装置は、割り箸など混入物を取り除いた生ゴミをスラリー状に微粉砕し、55℃に保ったバイオリアクターを通して、メタンガスとCO2を主成分とする“バイオガス”を効率的に発生させる。現在生ゴミの再資源化は自治体や流通業界にとって大きな課題になっており、既に数件の引き合いが来ていると同社は語っている。より多くの混合物を除去するなど、装置の改良を重ねて製品化を急ぐことにしており、将来生ゴミの処理量2?3トン規模の装置を完成させて、自治体やスーパーなど商業施設での設置を提案していきたいと考えている。
(日経産業、日本工業、日刊工業新聞99年10月13日)

(4)大阪ガス
 大阪ガスは94年4月から5年間、社員が実際に住みながら実施してきた集合住宅(NEXT21、16戸、約50人)でのPAFCコジェネレーション実証実験結果を発表した。エネルギー消費量で27%の省エネ効果が確認できたと報告されている。大阪ガスは、2000年4月から始める実験では、PEFCでのコジェネ効果を検証することにしており、2005年までには商品化したいとしている。
(朝日、読売新聞99年11月3日)
 

3. SOFCおよびMCFCの開発
 アメリカのMcDermott Technology,Inc. AlliedSignal,Inc. NexTech Materials,Ltd. およびTechnology Management,Inc.の4社は、DOEによる超低コスト(ultra low cost)SOFCの開発プロジェクトに参加することになった。次世代円筒型および平板型の両者が含まれる。コスト目標としては、プラントで$400?600/kW、スタックでは$100/kWの数字が挙げられている。契約額は現在交渉中であるが、例えば最も額の大きいMcDermott社の場合、自己資金の1,000万ドルを加えて1,860万ドルと伝えられている。同社はテープキャステイング、パンチング、スクリーン印刷法等の製作技術の開発を担当することになっている。
 これとは別に、DOEはSOFCおよびMCFCの経済性や性能の向上、および材料の開発プロジェクトへの参加機関として、Siemens-Westinghouse, AlliedSignalの2社、およびthe University of Missouri, the University of Florida, the University of Utah, およびSouth Carolina Research Institute,Univerity of South Carolinaの4大学を選定したと発表した。このプロジェクトに予定される総費用は240万ドルで、その20%を参加機関が負担する。課題については、例えばUniversity of MissouriはNexTechとの共同で、SOFCのカソードマイクロ構造および電極材料に関する研究開発を実施する。University of Floridaは、SOFC用の復層電解質構造(bi-layer electrolyte structure)の研究を担当、又South Carolina Research InstituteはMCFC用カソード材料の研究を実施することになっている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, Nov.1999, Vol.XIV/No.11, pp7-8)
 
4. PEFCの開発
(1)バラード社
 バラードオートモーテイブ社のニール・オットー社長は、日刊自動車新聞記者とのインタービューで、同社がPEFCユニットの量産体制作りに入ったことを明らかにした。2001年までに年産20万台規模の能力を持つ新工場をバーナビーに建設してコストダウンを実現、ユニット単体でUS$20/kW、システム価格ではUS$30/kWを目指すとしている。同社長は「現在PEFCは試作段階から商業化段階に入りつつあり、2003年頃には量産体制を整える」と述べるとともに、自動車メーカー各社が独自にPEFCの開発に取り組んでいることに対しては「我々の特許なくして高性能のPEFCユニットを生産するのは難しい」と語り、今後も同社が優位な立場に立つとの見解を表明した。コストの削減は、メンボリンと呼ばれる電解質膜を自社開発する他、触媒等のコストを大幅に低減、更に生産ラインを自動化することで対応する予定。
(日刊自動車新聞99年10月26日)

(2)旭ガラス
 旭硝子はNEDOからの受託研究で、99年度からPEFC電解質用薄膜(20〜40μm)の量産技術開発に着手した。同社が開発するイオン交換膜は、パーフロロアルキレンを主鎖骨格にして、その1部を構成するパーフロロビニルエーテル側鎖の末端にイオン交換基を有するパーフロロスルホン酸膜である。側鎖が長い割には高いイオン伝導性を有している点に特徴を持つ。同社はこの開発計画において、量産時の膜強度や平滑性などの幅広い特性に関するデータを取得することにしている。
 PEFC用イオン交換膜の研究開発は、実質的には旭硝子、旭化成、DuPont、W.L.ゴアの4社に集約されようとしている。W.L.ゴアがフッ素系樹脂(PTFE)にイオン交換樹脂を含侵させた薄膜化プロセスを採用している以外は、各社ともプロトン交換膜の基本骨格にはパーフロロアルキレン基を使い、これに長い側鎖をつけたパーフロロスルホン酸が基本になっている。
(化学工業日報99年10月25日)

(3)Proton Energy Systems社による再生型PEFCの実験
 Proton Energy Systems社は、再生型PEFC(PEM Unitized Regenerative Fuel Cell:URFC)の実験に成功したと報じた。再生型PEFCは電気を水素に変換してエネルギーを貯蔵するとともに、需要に応じて水素から電力を取り出すことができる。現在電力貯蔵には高性能2次電池が用いられているが、これに比べてURFCの方が貯蔵容量やコストの点で優れている。同社のTrent Molter副社長は「この成功はPEFCを用いた低コスト電力貯蔵の道を開く革新的なブレークスルーである」と語っている。
(Fuel Cell NEWS, Vol.XVI No.3, Fall 1999, p3)
 

5. PEFCの実証運転
(1)荏原
 荏原は次世代廃棄処理技術として位置ずけられる非焼却発電・炭化システムの研究開発を本格化させることになった。これは廃棄物のガス化処理工程で発生する熱を利用して木質系廃棄物を炭化し、その際発生するガスを改質してFC用燃料を生成するシステムである。藤沢工場内のガス化溶融炉実証設備を改造、炭化装置を組み入れて試験運転を開始した。改造した設備の処理能力は1日当たり20トンで、2000年度にはBallard Power Systems社製1kWPEFCをシステムに組み込んで実証運転を行う。更に2002?3年度に掛けては200kWPEFCによって実用レベルでの試験運転を実施する予定である。一般ごみ処理によって20%の発電効率が可能で、又イニシアルコストはFCを含めても従来の小型焼却炉(1基当たり6,000?7,000万)に比べて1.2倍程度と推定される。他方ランニングコストは、FCからの電力や熱を利用できるので、低くなると予想している。
(化学工業日報99年10月26日)

 荏原と荏原バラードはNTTと共同で定置式PEFCコジェネレーションシステムのフィールドテストを実施することで合意したと発表した。NTTはこのテストにより、PEFCシステムの基本性能を確認し、分散型電源としての利用を検討する。
(日本経済、日経産業、日刊工業、日刊建設工業、建設通信、電気新聞99年11月2日)

(2)日石三菱
 日石三菱は、99年度中に横浜製油所に出力7kWPEFC実証設備を設置し、試験運転を始めることになった。当面ナフサを改質して水素を生成するが、最終的には灯油を燃料として用いることを計画している。灯油はナフサに比べて炭素成分が多いので、それだけ改質が難しく、効率よく水素を生成するために、触媒や硫黄分を減らす技術を開発する。同社は「灯油はガソリンスタンドや販売店等で容易に入手可能であり、実用化後の普及に有利である」と語っている。試験運転は4年間の予定で、連続運転による耐久性の評価や起動時間の短縮、故障時の対策などを検証する。最大の課題である設置コストについては、石油コジェネレーション設備と同等の20万円/kWまで引き下げたいと考えている。用途としては主に工場のコジェネレーション用を目指しており、実用化の時期は2004年を予定している。
(日経産業新聞99年10月15日)

(3)松下電工
 松下電工は99年10月25日から都市ガスを燃料とした家庭用コジェネレーションを目的とするPEFCシステムの実証実験を開始する。当面PEFCの出力は250Wでスタートするが、2000年1月には1kWに引き上げる予定。本社内に建設した実験住宅内に設置、商品化のために必要なデータを収集し、2004年に商品化したいと考えている。予想される商品の仕様は、1kWPEFC発電器と給湯器、直交変換器から構成され、価格は約50万円と予想される。一般家庭での電気やガスの利用料は月1万5千円程度であり、これを使えばランニングコストを2割程度引き下げられると期待されている。
(日経産業新聞99年10月13日)
 

6. FCV最前線
(1)1999 Frankfurt & Tokyo Motor Show
 9月中旬に開かれた ”1999 Frankfurt Motor Show” で、Ford社は新しい小型FCV車“FC5”を公開した。これは同社が近未来車(near-future car)と位置付けているように、実用車向けに設計された (a realistic vision)5人乗りのFCVで、5年後には現実の道路に登場するものと期待されている。性能や技術的データの紹介は無いが、解っているのは燃料はメタノールで、FCエンジンにはBallard Power Systemsの PEFCが用いられている。FC5の大きな特徴は、FCシステムの主要なコンポーネントは全て床下に格納され、ドライバーには広いスペースが提供されている点にある。後部ドアを開けば、そこには大きなトランクが備えられている。 NECAR-3およびNECAR-4の設計思想が受け継がれていると云える。
 Ford社のNeil Ressler技師長(chief technical officer)は「現在のFCはまだ重くて大きいが、しかしだんだん改良されつつある。FC5はこの点に関して大きく一歩を踏み出したと云えよう。今後の主要な問題はコストであるが、量産効果が入れば一般の人が買うことができるレベルにまで下げられると確信している」と語っている。
 10月までに開催される東京モータショウでは、日本の自動車メーカを含めて、更に多くのFCVコンセプトが発表されるものと期待されている。過去2回の東京モータショウでハイブリッド車に寄せられたのと同様の注目が、今回はFCVに集まるとも予想される。しかし、Warburg Dillon Reed Securitiesの東京アナリストPeter Boardman氏は「多くの自動車メーカがFCVの実物やコンセプトを発表しているが、この先10年ないし15年以内に、それらがカストマーの手に届くレベルに達することは無いであろう(These won’t become affordable for 10-15 years)」と語っている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, October 1999, Vol.XIV/No.10, p1,pp5-6)

(2)トヨタ・GM
 トヨタの張社長とGMのリチャード・ワゴナー社長は、99年10月20日、東京モータショウで記者会見し「トヨタ自動車とGMの両社は、共同開発中のFCVについて、純水素を燃料として積載する方法を最終目標として選択した」と発表した。両社は水素を燃料とするFCVの課題を解決するための研究チームを結成したが、2003年頃を目標とする最初の市販車では、他の燃料から改質して水素を生成する方式にならざるを得ないと判断しており、当面は純水素と改質の両方式を平行して開発することにしている。ワゴナー社長は「純水素のFCVが採算が取れるまでには、なお超えるべきハードルが残されている」と述べ、コスト面での問題解決を中心に、純水素駆動FCVの開発を強化することにしている。
(読売、日本工業、日刊工業、日刊自動車新聞99年10月21日)

(3)デルファイ
 世界最大の自動車部品メーカのデルファイ・オートモーテイブ・システムズは、FCVの商品化に向けて、GM、ダイムラークライスラー、BMWとそれぞれ別個に共同開発に着手したことを明らかにした。
(日刊工業新聞99年10月21日、日刊自動車新聞同10月25日)

(4)三菱自動車・三菱重工
 三菱自動車工業の河添克彦社長は、99年10月19日、三菱重工業と共同開発中のFCVについて、2005年には商品化することを明らかにした。FCVの商品化には、コスト低減や耐久性の向上等まだ解決すべき課題は残されているが、同社長は「世界最高レベルの製品を作れる目途が立った」として、初めて商品化の時期を明言した。しかし同社長は同時に、同社が開発した直噴ガソリンエンジン“GDI”が次世代エンジンの主流になるとも語っており、GDIエンジンと、電気モータ、ターボ、自動暖気運転停止機構等周辺技術を積極的に組み合わせた新車を投入する意向も表明している。
(日経産業新聞99年10月21日)

 上記に関連して、三菱重工は自動車エンジン用PEFCの開発プロジェクトを、従来の広島研究所中心から会社全体のプロジェクトとしてスケールアップし、相模原製作所もこれに加わることになった。
(日刊工業新聞99年10月20日)

(5)Ballard Power Systems
  Ballard Power Systemsによるバス用PEFCエンジンの最新型が、Orlandoで開催されたInternational Public Expo ‘99において公開された。出力275hp(205kW)のPhase4(P4)エンジンは、シカゴやバンクーバーで実証運転が行われたバスのPEFCエンジンP3に続くシリーズであるが、P4エンジンは出力はP3とほぼ同じながら重量は2,050kgで約半分にまで減少した。出品された60人乗りで走行距離400kmのバスの後部にはP4エンジンが格納されている。又このエンジンのコンポーネントは、P3のように特注品ではなく、既製品が用いられている点にも特徴がある。「このP4エンジンは以前のそれに比べて革命的な進歩を達成した」とdbb fuel cell engines社のDr.Ferdinand Panik社長は述べ、更に「これでzero emission busの商用化に対する準備は整った。我々は2002年に商用バスを市場に出す予定である」と付け加えた。
 同社の経営責任者Ric Pow氏は「商用車のエンジンはP4よりも若干軽くなるであろう」と述べると共に「我々は年間500台のPEFCエンジンの生産能力を持つ工場建設を計画している。生産量は需要に合わせて徐々にその規模を拡大し、2006年から2007時点でフル生産に入ることになろう。目下のところ場所は未定であるが、商売の見通しがつきさえすれば何処えでも進出する(wherever “the best commercial opportunities” will be found)」と語っている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, Nov.1999, Vol.XIV/No.11, p1, 3)
 

7. メタノール燃料供給インフラの動き
(1)DaimlerchryslerとFord Motor
 FINANCIAL TIMESの99年9月20日号の記事によると、DaimlerChryslerとFord Motorの両社は、石油企業British Petroleum、Texaco、Exxonに対してメタノール供給ポンプを燃料供給ステーションに設置するよう要請する話し合いを始めたようである。水素はその貯蔵のためには圧縮するか液化せざるを得ない点において高価かつ取り扱いが困難のため、FordおよびDaimlerChryslerは、FCVエンジン用燃料としてガソリンやメタノールを検討してきた。石油会社にメタノールの供給ステーションを促すことで、両社は第1世代のFCVの燃料問題に優先権を確保することを狙っているように思われる。
 DaimlerChryslerの技術研究担当役員Klaus-Dieter Voehringer氏は「我々は目下のところ最も望ましい燃料はメタノールと考えており、主要な燃料供給会社との間でインフラに関する議論を始めている。特に石油企業との話は進んでおり、間もなく同意に達するであろう」と述べ、更に「最初のメタノール供給システムは、アメリカ、イギリス、およびドイツに建設されるであろう」と予測している。
 DaimlerChryslerは、2002年までに一連のFCVを社会に提供したいと思っている。トヨタとGMもFCエンジンを開発中であるが、トヨタはガソリンを燃料とするハイブリッド電気自動車に大きなマーケットを期待しているようである。
 American Methanol InstituteのJohn Lynn会長は「5万ドル又はそれ以下のコストでサービスステーションにメタノール供給用ポンプを付け加えることができる。現在カリフォルニアではガソリンの価格が$1.45/gallon(1 gallonn=3.785lit.)であるのに対してメタノールのそれは88cent/gallonであり、それはクリーンで使いやすくかつ安価である。メタノール業界は、DaimlerChryslerとFordのリーダシップに賛辞を表したい。我々はFCVのためにメタノールに関する世界的な標準(a worldwide methanol standard)を打ち立てるべく自動車会社や石油業界と既に作業を開始した。今回のFinancial Timesの記事は、メタノールが次期ミレニアムにおける主要な交通用燃料(a key transportation fuel)になるであろうとの我々の確信を勇気ずける情報である」と語っている。
(Fuel Cell NEWS, Vol.XVI No.3, Fall 1999, p1, p3)

(2) 日石三菱とダイムラー
 日石三菱は99年10月14日、自動車用FCの開発や、その燃料を供給できるガソリンスタンドの整備について、ダイムラークライスラーの日本法人と共同研究を進めることで合意した。日本の石油会社が自動車メーカと共同研究に乗り出すのは始めてである。ダイムラークライスラーは2004年頃FCVを市場に導入する予定で、日石三菱は「国内でのFCVの普及に向けて先鞭をつけたい」と述べている。日石三菱によれば、今回の共同研究はダイムラークライスラー側からの要請に答えたもので、両社は2000年度末までに、FCVの走行テストを実施する計画である。燃料の選択については目下のところ未定であり、今後は他の石油会社を含め、かつ幅広い関係業者の参加を募って、コストや流通面から最適な燃料を選定し開発したいとしている。
(朝日、読売、日本経済、産経、東京、日刊工業新聞99年10月15日)

(3)東洋エンジニアリング
 東洋エンジニアリング(TEC)は、メタノールを1系列で日量5千トン製造可能な“MRF(多段間接冷却ラジアルフロー)?Zリアクター”の受注活動に力を入れることになった。現在2004年前後を目標に、世界の自動車メーカの多くがメタノール利用FCVの量産を開始すると発表しているが、これが実現すれば将来メタノールの需要は著しく増大するものと予想される。例えば2015年の世界の自動車台数が現在の6億から10億になり、もしその10%がメタノールFCVになると仮定すれば、メタノールの需要は現在の3,000万トンから1億3千万トンにまで増大することになる。今回のTECの決定はこのようなメタノール需要の増大に対応するのが目的である。
 MRF-Zリアクターは、ラジアルフロー型反応器に冷却管群を同心円状に配置し、その周りに触媒を充填した構造を持つ。天然ガスを原料に生成されたCOとH2からなる合成ガスと触媒が触れ合うことことにより、メタノールが精製される仕組みになっている。他の方式が1系列で最大日産2,500トンの容量しかないのに対して、MRF-Zリアクターは同5,000トンが実現可能である。1系列で日量5千トンのメタノールが精製可能なリアクターは、事実上このMRF-Zリアクターだけと言われている。
(化学工業日報99年10月29日)
 

8. 改質装置
 大阪ガスと富士電機は、都市ガスやプロパンガスを原料として、毎時100m3の高純度水素(99.999%以上)を発生させる低価格のオンサイト型水素発生装置“HG?100”を開発、99年10月30日から販売することになった。価格は9,800万円。待機運転モードを使用することで、運転ボタンを押してから約20分で高純度水素が得られる。水素ガス1m3当たりの標準的なランニングコストは、水素ボンベで供給する場合に比べて30%安くなると両社は語っている。
(日経産業、日本工業新聞99年10月15日)

 

 ― This edition is made up as of November 10, 1999 ―