39号 MCFCパイロットプラント定格出力達成

Arranged by T. HOMMA
1.国家機関による施策
2. MCFCパイロットプラント
3. 自動車用PEFCの開発
4. 分散型電源としてのPEFC
5. FCV最前線
6. PEFCの新しい利用展開
7. 巨大ゼオライト単結晶の合成
A POSTER COLUMN

1. 国家機関による施策

(1)通産省関連
 通産省は8月23日、石油代替エネルギーの第1の候補と見なされる石炭から高濃度の水素を抽出し、それをFCに利用する新技術を確立するため、2000年度から本格的な研究開発を始めることを明らかにした。既に資源環境技術総合研究所と石炭利用総合センターが、石炭と水を高温高圧状態で化学反応させ、特定の還元剤を加えることにより、80%の水素と20%のメタンを取り出す改質技術に成功している。改質ガス中には硫黄酸化物はなく、CO2の大部分は純粋な形で回収できている。石炭から水素を取り出す技術は以前から存在したが、80%の高濃度改質は理論的な限界に近く、通産省は“画期的なシステム”と評価している。しかし高温高圧状態を作り出すために大きなエネルギーが必要であれば、エネルギー効率はそれだけ悪くなるので、より低圧力で高濃度水素を抽出する技術の実用化が目的として挙げられている。
(毎日新聞99年8月24日)

 通産省は2000年度重点政策で、ITS(高度道路交通システム)の推進策を強化すると共に、FCVの早期実用化に取り組む方針を決めた。ITS関連では規格化事業を前年度に続いて実施する他、地域でのモデル検証を行い研究開発を促進する。予算的にはミレニアムプロジェクトで要求する情報化技術開発費86億円の1部を使い、ITSの地域でのモデル検証を実施する。FCVの早期実用化および低公害車普及促進関連では、FCの評価技術の確立および技術開発を推進するため、PEFC技術開発に20億円を新規で要求する他、特別枠でFCの標準化、評価技術確立に18億円を要求する。この他低公害車の普及促進費として、地方自治体が導入するクリーンエネルギー自動車の購入補助事業に、今年度比8.5%増の34億円を、クリーンエネルギー自動車・燃料供給施設導入補助事業では81億円(99年度比20%減)を要求することにしている。
(日刊自動車新聞99年8月28日)

(2)工業技術院関連
 工業技術院は8月26日、産業技術審議会評価部会を開催し、各種プロジェクトの評価を行ったが、PEFCについては「発電システムの実用化検証を目的とした研究成果では海外の水準に達していると推定される。今後はPEFCに係わる社会的な情勢の変化に対応して実用化のための指標を絞り込み、実証運転時間等、明確な目標値を設定してそれの実現を目指したシステム開発を進めるべきである」と提言している。
(化学工業日報99年8月27日)

 産業技術審議会のFC発電技術研究開発評価委員会(委員長;内田東北大学教授)は、工業技術院が来年度まで実施するFC発電技術に関する研究開発成果のプレ最終報告書を纏めた。それによると、自動車用FCに関するこれまでの研究で、FC出力を低下させることなく白金の使用量を5分の1に低減することに成功し、それが電池の低コスト化に大きく貢献したとしてこの研究成果を高く評価している。評価委員会では「PEFCを実用化にはまだ時間がかかる技術であると位置付け、国が積極的に研究開発に取り組む意義は大きい。そして今後は実用化を前提にコスト意識を更に明確化し、材料レベルからシステムまで標準化を目指した開発体制を構築する必要性がある」と断じている。
(日刊自動車新聞99年9月17日)

(3)環境庁
 生活排水の垂れ流しによる山小屋の環境破壊を阻止するため、環境庁は8月27日、排水処理システムの動力源として、小型の風力発電装置やFCの開発に乗り出すことを決めた。送電線の無い山岳地帯の山小屋や避難所を対象に、トイレ等から排出される生活雑排水や汚泥を浄化する処理システムを稼働させるための小規模電源を開発するのが目的で、太陽光、小水力、風力発電の他、糞尿から発生するメタンガスを利用したFC等あ候補として挙げられている。2000年度予算に3,000万円を概算要求し、今後3年間で設置マニュアルを作成し、国立公園内での普及を目指す。同庁は新しく開発した電源を利用し、山小屋等に携帯電話の中継アンテナを新設、ハイカーの遭難防止にも役立てたい意向である。
(読売新聞99年8月27日)

 環境庁は2000年度から自動車メーカと共同でFC等を利用した超低公害型の大型トラック(貨物車)の試作研究を開始する。抵公害車はこれまで乗用車を中心に開発が進められており、大型デイーゼルトラックの分野では1部のメーカがLNG車を試作している程度に過ぎない。同庁は大気汚染への影響が大きい大型車の分野で、産業界の研究開発を促進したい考えで、試作エンジンとしてはFC、ジメチルエーテル燃料車、LNG車等が挙げられている。メーカとしては、日野自動車、いすず、日産デーゼル、三菱自動車の4社がある。
(化学工業日報99年9月20日)
 

2. MCFCパイロットプラント
 NEDOは99年9月10日、中部電力川越発電所構内で8月4日以来実施してきたMCFC1,000kW級パイロットプラントの実証運転実験に於いて、9月6日に定格出力を達成したと発表した。LNG燃料で今年度中に5,000時間の発電運転を行い、発電効率;45%、電池劣化率;1%/1,000時間等の開発目標を確認する予定。
(電気新聞、化学工業日報99年9月13日、鉄鋼新聞9月14日)
 
3. 自動車用PEFCの開発
 三菱電機は2気圧では0.8kW/lit.の出力密度(内部加湿器を除く)を持つような、自動車搭載用2kW級PEFCスタックを開発したことを明らかにした。電池スタックを4輪車の内側の床下に配置できるよう、それは厚さ12cmの偏平型で、改質ガスを燃料とし、常圧動作で出力2.1kWの電気出力を得ることに成功した。燃料流路の出口における水素濃度の低下で1部のセルが使用不能になるのを防ぐため、セルの中に中間マニホールドを置いてここに水素を吸収させて電流の減少を防ぎ、改質ガスにも強いスタック構造を作り上げた点に特徴がある。セルの厚さは2mm弱、スタックのガスシール性は高く、容積は7.9lit.と発表されている。2000年度には10kWにパワーアップする予定である。
(日刊工業新聞99年9月10日)
 
4. 分散型電源としてのPEFC
 中国電力はマイクロガスタービンやPEFCによるエネルギーシステムの事業化を前提とした“分散電源特別プロジェクト”を9月1日に発足させた。このプロジェクトは2001年1月までに出力100kW以下のマイクロがスタービンおよびPEFCによるコジェネレーションシステムを構築し、それを需要地近接型電源として事業化することを目的としている。マイクロがスタービンは東京、中部、関西の中央3社が購入を決めているが、中部電力も海外メーカを選定して技術評価を始める予定である。
(日刊工業新聞99年9月1日)
 
5. FCV最前線
(1)本田技研
 本田技研工業は9月6日に栃木県茂木町の“ツインリンクもてぎ”で開かれた環境技術発表会で、同社が開発した2タイプのFCV実験車を公開した。1つは水素吸蔵合金で蓄えた水素を燃料とする“FCX?V1”で、他の1つはメタノール改質型“FCX?V2”である。前者(V1)はバラード社製のFCが、後者(V2)には自社開発のオートサーマル方式の改質器および同じく本田製FCが搭載されている。FCスタックの出力60kW、モータは永久磁石型交流同期型で49kW、車体には電気自動車用に設計した“ホンダEVプラス”が用いられた。吉野浩行社長は「FCVのエンジン用FCは業界に於ける最大の競争技術であるが、普及するのは20ないし30年先」と語り、同福井専務は「水素がどのような形で供給されることになるのか分からないので、2方式を並行して研究を続けている。エンジン用FCについては、出力や信頼性ではバラードに及ばないが、心臓部に当たる技術なので追いつきたい」と述べた。
(朝日、読売、毎日、産経、日刊工業、日刊自動車新聞99年9月7日)

(2)GM・オペル
 GMとオペル社はFCVを2004年に商品化し、2010年にはFCVの売上高をグループ全体の10%、2025年には25%にする方針であることを明らかにした。同グループは環境技術開発でトヨタと提携しており、年内に共同開発の体制を整える。アメリカのウオーレン(ミシガン州)、同ロチェスター(ニューヨーク州)、ドイツのマインツの3つの研究所に、計250人のスタッフを配してFCVの開発を進めているが、マインツの国際代替駆動装置センターでは、水素吸蔵合金、メタノール、無硫化ガソリンの3タイプのFCVを平行して開発する。
(日本経済新聞99年10月7日)
 

6. PEFCの新しい利用展開
(1)荏原
 荏原は99年度下期から、ガス化溶融炉の高付加価値化の一環として、廃棄物処理工程中で発生するガスから取り出した水素を、発電用FCの燃料として利用する技術を2003年を目途に開発を推進することにした。環境装置メーカ各社は、次世代型焼却炉と言われるガス化溶融炉の将来性に着目しているが、受注競争を優位に進めるため、廃棄物処理性能の向上に加えて、最終的に生成されるスラグや処理工程中で発生するガス等の有効利用を目指して研究を進めている。荏原は、この発生ガスの活用法としてFCを取り上げることにし、これにはBallard製PEFCが適用されることになった。又同社はガス化炉の廃熱を利用して木質系建築廃材等を炭に変換する技術開発にも取り組んでおり、これについては99年度中に開発を完了させる予定である。藤沢工場の“流動床式ガス化溶融炉実証試験設備”(1日当たり処理能力20トン)を、上記2テーマの研究開発用に改造中であり、10月にも研究を始めたいと語っている。
(日本工業新聞99年9月24日)

(2)松下電工
 松下電工は99年10月7日、都市ガスを燃料とする家庭用PEFCコジェネレーションシステムを開発、同25日から実証実験を開始すると語った。これは同社が世界で初めて開発したブタン改質PEFCの技術が基本になっており、実証試験用システムは、都市ガスを燃料とする出力250W発電部と熱水を貯蔵する150lit.の貯湯槽、電力系統連系用インバータから構成されている。なお排熱回収温度は60℃である。商品化目標は出力が1kW、システム価格が50万円程度と記されている。2000年4月からは大阪ガスが開発した改質器を同社のシステムに取り入れ、全体出力を1kWにまで高めたタイプでも実証テストに加えることを予定している。
(読売、毎日、日刊工業、電気、電波新聞、化学工業日報99年10月8日)

(3)バラード社
 バラード社のフィロス・ラスール会長は、同社は2003年を目途に、PEFCの価格を現在の10分の1である3,000ドルにまで引き下げ、2000年には出力1?5kW級PEFCを使った携帯用電気製品事業に進出する予定であることを明らかにした。現在までの自動車会社への納入実績については、ダイムラー・クライスラー、フォード以外に、GM、フォルクスワーゲン、本田技研、日産自動車が含まれると述べている。現在出力密度は1,200W/lit.まで増大したが、コストは3万5,000ドルに範囲に留まっている。なおバラード社への出資比率は、ダイムラー・クライスラーが20%、フォード・モータが15%であるが、その理由を聞かれた同会長は「ダイムラーは87年にFCの開発に乗り出して高い技術力を維持しており、フォードは低公害車の開発に明確な戦略を持っている。日本のメーカとも接触したが熱意が感じられなかった」と述べた。産業用発電については、荏原と合弁会社を設立、下水・ゴミ処理場や商業ビルで使う大型PEFCシステムを2003年にも発売する予定で、携帯用では松下電工と提携している。なお98年の売上高は2,500万カナダドルであった。
(日経産業新聞99年10月5日、朝日新聞10月6日)
 

7. 巨大ゼオライト単結晶の合成
 化学技術戦略推進機構と物質工学工業技術研究所のグループは、最大約3mmサイズのゼオライト単結晶を合成したと発表した。これはゼオライト結晶形態の制御が可能な“バルク体溶解(BMD)法”の開発によって実現することができた。今までゼオライトは粉末状又はコロイド状の原料から水熱反応で合成していたため、数ないし数十ηm程度の小さな結晶しか得られず、それが応用に対する大きな障害となっていた。今回の大型結晶の実現によって、気体分離膜や膜状反応器、FC等、新しい応用分野が拡大するものと期待される。
(日刊工業新聞99年9月17日)

― This edition is made up as of October 10, 1999 ―

A POSTER COLUMN
Ford Motorによる水素ステーションのオープンと、FCV、水素ICエンジンの研究
 アメリカミシガン州Detroit市の近郊Dearbornに於いて、Fordは新しい水素供給ステーションをオープンした。青と緑の文字で
   “Bill’s Hydrogen Gas Station,  Rockets & Cars Welcome”
と書かれてた看板が掛けられている。”Bill” それはFord Motorの研究担当副社長の名前Bill Powerに由来する。北米で初めての液体および気体の水素を供給するステーションで、このステーションに水素を供給するのは、世界最大の生産量を誇り又NASAへ独占的に水素を供給している”Air Products and Chemicals”である。99年8月中旬、水素ステーションの前に置かれたFordのP2000HFC(FCVセダン)を背にして、Bill Power副社長は新聞記者に、このステーションの内容と同時に同社によるクリーン自動車関連技術の開発計画について詳しい説明を行った。
 この水素ステーションは2つの液体水素ポンプと2つの水素ガスポンプを備えている。現在はガスのみが作動しているが、液体水素の方も間もなく動作を始める予定で、それはP2000の燃料が水素ガスから液体水素に切り替えられる時期に合わせて来月になろうとPower副社長は語っている。このFCV車載液体水素タンクはドイツのMesser Griesheim製になる模様である。ステーションの液体水素タンクは1,650ガロン(6,250lit.)の貯蔵容量を持ち、水素ガスは750psi(50atm)および5,500psi(370atm)の圧力で貯蔵される。そして低圧水素ガスは約1,300feet(400m)の地下パイプを通って隣接する研究棟に供給される構造になっている。この研究棟にはダイナモメータ試験機(dynamometer bench test)が備えられており、FCおよび水素内燃機関エンジン(HICE)の開発研究が行われている。
 「Fordは次世代自動車としてFCVのみに注目しているわけではない。内燃機関を含めたあらゆる可能性について検討しているが、未だ回答を出すには未解決の問題が多く横たわっている(There are many unsolved issues to which ”we don’t know the answer yet”)」と副社長は述べている。
 Fordによる水素ICエンジンの研究開発は1998年初頭から始められた。BMW、 Daimler-Benz、それに日本の武蔵工業大学は1970年代から80年代に掛けて水素ICエンジンの研究を精力的に行い、幾つかの試作品を製作した。特にBMWはFCVの実用可能性について懐疑的であり、水素ICエンジンの研究開発を現在も続けている。Fordに於ける先進型エンジンの専門家William Stockhausen氏は「FCおよび水素ICEともに研究開発途上にあると言われているが、ICEは100年の歴史を持ち、構造はFC程複雑ではない。又現状ではFCに比べて軽量で小さい。しかし、効率および排気に於ける環境性の点ではFCの方が優れている」と語っている。そして彼はFordの基本的なスタンスは「それがICEであれFCVであれ、環境面に置いて優れた動力機関をマーケットに提供する第1人者になること(Ford want to be first in the market place)である」とつけ加えている。(We make engines, we don’t make fuel cells. It all depends on how good a job we can do on emission)
 Ford社の役員Bradford Bates氏は、水素貯蔵技術と改質プロセッサーの開発成果について以下のように披露した。第1はcarbon nanotubesによる水素貯蔵の問題で、Northeastern大学のNelly RodriguezとTerry Bakerの両氏による研究を支援してきたことを明らかにした上で、この分野において多くの研究開発努力がなされたが、未だ実験室での研究段階にあり(It is very much in early stages in the laboratory)、この貯蔵法が大きなタンクに置き換わる可能性を信じるまでには至っていない。“技術の実用性に対するブレークスルーが間近に迫っているかどうか”我々には解らないが、実現すればそれは素晴らしい技術であり、我々は問題の解決を切望している。なおこの研究は嘗てDaimlerChryslerによって支援されていた。
 第2にFordとMobil社が共同で行っている改質プロセッサーに開発において、大きな進歩が得られたことが紹介された。これはより小さく、より軽く、且つより安価な車載POX改質プロセッサー(ガソリンと思われる)の開発を目的とするプロジェクトである。新しい触媒の発見により低温での運転が可能になった結果、上述した目標に加えて起動時間が大幅に短縮され、従来のガソリンICEのそれと同等のレベルになったとMobilのJim Katzer技術担当副社長は述べている。Katzer氏によればこのプロセッサーによって改質されたガスをICEに適用すれば、ガソリンICEに比べて効率は50%上昇すると期待されている。触媒の種類について同氏は明らかにしなかったが、その値段は安価であると伝えている。しかし先に述べたBates氏は水素ICE開発の紹介の中で、水素ICEはガソリンICEに対してコストは同等、効率は25%向上すると期待していると述べている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, September 1999 Vol.XIV/No.9,p1-3)