38号 欧米でSOFC/GTプロジェエクト準備中

Arranged by T. HOMMA
1. 国および地方公共機関による施策
2. MCFC開発成果
3. SOFCプロジェクト
4. FCV最前線
5. AFC技術の新しいブレークスルー
6. 水素貯蔵技術開発

1. 国および地方公共機関による施策

(1)通産省の2000年度概算要求
 通産省による2000年度予算要求の重点施策によると、新エネルギー部門では、これまで研究開発としてのみ計上されていたPEFCについて、それの本格的な市場形成を目的に、実用化開発に新規予算を計上することになった。PEFCについては、92年度からニューサンシャイン計画の基で若干の研究開発費が支出されてきたが、現在民間企業によって自動車や家庭用での利用を目的に開発が加速されている。そのため如何にして市場を形成するかが課題として浮上しており、同省としても実用化のための予算を計上してPEFCの本格的な市場形成に乗り出すことにした。他方PAFCを対象とする"燃料電池フィールドテスト事業"は減額となり、又昨年総計で100億円が予算化された"クリーンエネルギー自動車普及促進対策費"は、インフラの問題などで予算が繰り越されたこともあり、横這い若しくは若干減額になる模様である。他方地方分権推進法案等が成立した経緯を踏まえ、自治体が独自に新エネルギーを補助できるような枠組み並びにそれを支援のための予算を新設することになった。
(環境新聞99年8月4日)
 通産省は8月14日、官民共同の科学技術振興政策"ミレニアムプロジェクト"の柱として、FC開発を促進するための国家プロジェクトに関する概算要求を計上することにした。ミレニアムプロジェクトには、小渕首相も強い関心を示しており、概算要求基準で決まった2500億円の"経済新生特別枠"の目玉にしようとしている。通産省は数十億円を予算化して、2004−5年までに自動車や家庭用発電用等でFCの実用化を達成、この分野で国際的に主導権を握りたいと考えている。FC開発のために官民一体で取り組むべきテーマとして、1)FC本体、水素燃料精製等の技術開発推進と、FCV、家庭用FCの開発、2)耐久性、安全性等各技術基準の検討と策定、3)FCの国内標準の検討と国際化、を挙げている。
(毎日新聞99年8月15日)

(2)WE−NET計画  工業技術院は、WE−NET計画第2期研究開発事業の1分野として、水素吸蔵合金を使った水素FCVシステムの開発に着手することになった。99年度から5年計画で研究開発を実施、2002−3年には水素供給システムと組み合わせた公道での走行実験を行う予定で、2010年頃の実用化を目指している。研究開発グループには、日本自動車研究所、マツダ、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業も参加し、99年8月にも研究体制を確立する。開発テーマとしては、車両搭載水素吸蔵合金タンクの衝撃試験等、安全性立証のための試験とタンクの設計指針の策定、水素急速充填法、燃費測定方式、水素充填用コネクターの開発が挙げられている。又上記車両システムの開発と平行して、天然ガス改質と水電解法を採用した水素供給ステーションの開発も行うことになっている。なおWE−NETでは2010年時点で、水素供給ステーション200カ所、登録自動車数9千ないし1万8千台の初期導入シナリオを描いている。
(日刊自動車新聞99年8月12日)

(3)技術評価検討会  資源エネルギー庁の資源・エネルギー技術評価検討会は、99年8月11日、FC用石炭ガス製造技術開発(EAGLE)等の評価報告書を纏めた。EAGLEプロジェクトについては、国による支援の必要性が認められるとする一方、経済合理性に係わる目標を明確にして取り組むことが必要であると指摘している。
(電気新聞99年8月12日)

(4)愛知県  2005年秘本国際博覧会(愛知万博)の会場となる瀬戸市海上(かいしょ)の森と愛知青少年公園(長久手市)を結ぶ観客輸送計画を検討している同県は、FCV等クリーンエネルギー車を使った複数のシャトルバスに、1人の運転手で複数の車を運行することができるAHS(走行支援道路システム)を導入する方式を最有力候補として選び、今後関係機関と協議することになった。AHSについてはトヨタ自動車等が研究中であるが、現在専用レーンを使った実験において、バス6台を連ね2台目以降は無人運転ができる段階にまで達している。愛知万博の場合、ピーク時で観客輸送数は22万人になると予想され、これだけの観客数を捌くためには車1台ずつの運行では難しいと思われる。又安全面でも不安があるので、研究が進んでいるITS(高度道路交通システム)の中でも、隊列走行も可能なAHSの導入を目指すことにした。
(中日新聞99年7月31日)
 

2. MCFC開発成果
 電力中央研究所は中部電力、IHIと共同で進めている10kW級MCFCスタックの運転研究で、99年8月7日に5気圧の加圧下では世界で初めて1万時間の連続運転記録を達成した。このスタックは反応有効面積0.5mのセル14枚を積層して構成されており、電解質には従来のリチウム/カリウム系に替えて、電極の溶解度が小さいリチウム/ナトリウム系溶融炭酸塩が用いられている。セパレータはプレス型加工の3相構造である。内部抵抗を減らして初期電圧を高めるとともに、従来電圧低下の原因になっていた腐食反応による電解質の消耗を抑制し、又加圧条件で寿命への影響が懸念されていた電極の溶解に起因する内部短絡も抑制されることが判明した。これらの効果により電圧はセル平均で約840mVを現在でも維持しており、当初の目標を上回る性能が達成されている。
(日刊工業新聞、化学工業日報99年8月6日、日本経済、日経産業、電気新聞8月9日)
 
3. SOFCプロジェクト
 SOFC実証プラントの開発が大きく第一歩を踏みだそうとしている。少なくとも3つのプロジェクトが予定に上がっており、その内の2つはヨーロッパにおいて、他の1つはアメリカにおいて計画および進行中である。更にその内の2つはガスタービンとのコンバインドサイクルを目指している。未だ誰も公式には語っていないが、4番目のプロジェクトが南ドイツにおいて準備されつつあるとも伝えられている。
 ヨーロッパに於ける第1のプロジェクトは、代表的なドイツの電力事業者の1つである "RWE Energie" によって99年7月初旬に公表された出力300kWのSOFC/GTプラントである。RWEはSiemens-Westinghouseと共同で国際コンソシアムを組織しようとしており、同社スポークスマンはコンソシアムは99年秋にも発足の予定で、SOFCプラント計画は2000年にはスタートするであろうと語っている。サイトは未だ正式には決まっていない。World Fuel Cell CouncilのM.Nurdin氏は「これはFCを分散型電源として取り込もうとするドイツの電力事業者による重要な一歩である」と語っている。又RWEは「この技術が市場に受け入れられる充分なレベルに達するまでには、5ないし10年を要しようが、その後に於ける市場占有率は10%に達する」と見ているようである。
 天然ガスを燃料とする出力250kWユニットが、University of CariforniaのNational Fuel Cell Research Center、Irvineにおいて進行している。大学の研究者とEdison Technology Solutionsから派遣された技術者は、現在サイトの準備を進めており、99年10月にはシステムの建設が始められることになろう。発電効率60%を想定、商業ベースに於けるコスト目標は$1,000〜1,500/kWに置かれている。FCからの排熱はタービンに導入され、タービン出力は空気圧縮用マイクロコンプレッサーおよび発電機の駆動のために消費される。
 ヨーロッパではShell HydrogenとSiemensが99年7月中旬に、新しいタイプのSOFCプラントの開発と市場開拓を目的とするプロジェクト計画を発表した。このプラントはShellが開発したCOの隔離技術(carbon dioxide sequestration technology)を備えており、空気中にグリーンガスを全く排出しない点において特徴を持つ。隔離されたCOは空になった石油およびガス貯蔵槽に導入される。プロジェクトが何時、どこで実施されるかについて関係者は口をつぐんでいるが、Shellは彼等の持つ石油とガスの精製施設での利用を予定しているようである。基礎技術は69,000時間以上の実証運転を経験したオランダの100kWユニットのそれであり、これをベースに開発されるSOFC商用プラントは250kWから10MWのレベルになろうと語っている。大量生産体制に於ける建設コストのターゲットは$1,000/kWで、これが実現すれば発電原価は現状のレベルが保持される。現状の発電所よりは広い面積を占有する代わりに高さは低くなり、建設期間は短く抑えられそうである。排気がクリーンである点も考慮すれば、地球上の環境空間を侵す度合いはより少なくてすむ(less intrusion on the skyline)と見なすことができる。
 4番目のプロジェクトは、ドイツ、フランス、オーストリアの電力会社およびSiemens-Westinghouseの共同による1MW SOFC/マイクロガスタービンサイクルと伝えられているが、公式には未だ誰もそれについて語ってはいない。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, August 1999, Vol.XIV/No.8, p1、p8-9)
 
4. FCV最前線
(1)本田技研
 本田技研工業は、2000年にアメリカ・カリフォルニア州大気資源局(CARB)主導のFCV(FCEV)の大規模な実証実験に参加する方針を決定した。この同実証実験は、車両自身以外にFCEVの運行に必要な関連設備インフラの整備を含む総合的な交通システムの構築を目的に実施される。ダイムラークライスラーやバラード社以外に大手石油会社が参加することになっており、本田技研も同実験に参加することによって燃料やその関連設備等の技術を習得し、これを機にFCVの2003年実用化を目指して開発活動を加速させようとする意図がある。従来から本田は同社独自による開発とバラードとの連系による開発路線を同時並行的に進めてきた。今回の実験は当初ダイムラークライスラーとバラードの連合が主体で進められる予定であったが、主導権がCARBに移ったことから、本田も参加のメリットがあると判断したようである。
(日本工業新聞99年8月5日)

(2)日本でのFCV公道試験
 フォードとダイムラークライスラーは共同で、2000年に日本国内でFCVの公道試験を実施することになった。日本へFCVを早期に投入普及することを目指して、現地での走行条件に適合したFCVの仕様を具体化するのが目的である。FCVは過去に経験のない動力機関のため、従来の内燃機関で培われてきたノウハウを応用する部分が少なく、したがって公道での実証試験を通してデータを積み上げる必要があるとの判断されている。日本での公道試験には、2ないし4台の試作車を用意する予定であるが、実施場所やスケジュールは検討中と伝えれる。
(日刊自動車新聞99年8月13日)
 トヨタ自動車は、FCVの公道試験を国内で実施する方向で検討を開始した。ダイムラークライスラー/フォード連合が日本でも公道試験を実施することを決めたのを受けて、両社と開発競争を展開しているトヨタとしても、早期に公道試験に乗り出す方針を固めた模様である。
(日刊自動車新聞99年8月14日)

(3)フォードとモービルによるガソリン改質車  フォード・モータとモービルは、99年8月16日、ガソリン改質FCVを共同開発すると発表した。両社は先ずガソリンの改質器を共同開発する。計画では、化学反応が始まる温度を従来のそれよりも数百度低い800から1300℃の範囲にまで下げ、改質器の大きさとコストをそれぞれ30%程度低下させると共に、重さも半分以下の50kgにまで抑えることになっている。ガソリンFCV自身の性能は、従来のガソリンエンジンの1.5倍の燃費効率を持ち、既存のガソリンスタンドを利用できると同時に、環境面ではアメリカ排ガス基準に適合した車種になる。2004年にも一般向けに商品化する予定と述べている。
(日本経済新聞99年8月17日)
 

5. AFC技術の新しいブレークスルー
 AFCシステムの開発を進めてきたZeTek Power社は、Texas A&M, College StationおよびUniversity of Bordeaux(France)と共同して、低コスト化が可能なコバルト系触媒を開発したと発表した。このZeTekとは昨年AFCと蓄電池のハイブリッド車 "black cab"をロンドンで、今年はそれをニューヨークで公開したあのZEVCO社の新しい持ち株会社(holding company)の名称である。これによりAFCのコストは約1/3は低下するものと期待される。ZeTekのCEOであるNicolas Abson氏は、これは貴金属でない金属を触媒として用いることを可能にした素晴らしいブレークスルーであり、これによって"商業的に現実性のあるクリーンパワー"をAFCによって車のみならず家庭やビジネス、black cabからベニスの水上タクシーにまで提供する道が開かれるであろうと語っている。研究室での消費レベルでは、コバルトの値段は白金のそれとそんなに変わらない。しかし大量生産、大量消費の段階に達すれば、コバルトの値段は白金のそれの半分位になろうとAbsonは述べている。又同社はコバルトの処理プロセスをFCの生産システムに組み込む技術も開発しており、このZeTekの新技術によって、粉末から電極までの一貫したプロセス(dry power going in and electrodes coming out) が可能になった。現在ZeTekのAFCセルは、120mA/sq.cmの電流密度を記録しており、これを30%高めて160mA/sq.cmにまで高めることを試みている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, August 1999, Vol.XIV/No.8, p3-4)
 
6. 水素貯蔵技術開発
(1)工学院大学による水溶液水素貯蔵
 工学院大学の須田精二郎教授を中心とする研究グループは、FCVに適した水素燃料の新しい保存技術を開発した。これは水素と金属化合物の水溶液であり、樹脂製のタンクに安全に保存できると共に、触媒に触れると常温で水素を分離するするので、FCVには適した水素燃料と考えられる。又熱や振動で水素が出ていくことはないので、車載での貯蔵に対しても問題はなく、50lit.の燃料で400kmは走行できるので、ガソリンに劣らない性能を持つ。同教授らは水素貯蔵を必要とする住宅用FC電源としても有効であり、当面住宅用での実用化を目指して、積水化学工業と共同研究を開始した。
(日本経済新聞99年8月9日)

(2)Shell HydrogenおよびEnergy Conversion Device(ECD)社の戦略
 石油メジャーのRoyal Dutch/Shellの子会社Shell HydrogenおよびECD社は、アモルファス材料を用いた固体水素貯蔵技術の開発を促進し、それを商用化することを目的に合弁企業を設立するという相互理解協定(open-ended memorandum of understanding)に調印した。プロジェクトの資金規模等詳細は未だ発表されていないが、ECDは商用化のための開発は今すぐにも始める予定で、2001年を目途に商用プロトタイプを完成させたいと語っている。又車載水素タンクのみならず水素供給スタンドへの適用も視野に入れている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, August 1999, Vol.XIV/No.8, p1)

(3)アルカリ金属をドープしたカーボンナノチューブによる水素貯蔵
 National University of Singapore物理学部のK.L.Tan教授を中心とする研究部グループは、代表的な水素化物や極低温吸着(cryoadsorption)に比較して数倍も性能の高いカーボンナノチューブを開発したと、7月2日付けの雑誌 "Science" に発表した。彼等が製作したリチウムあるいはカリウム等アルカリ金属をドープしたカーボンナノチューブ(CNTs)は、下表に示すように実験室においては20ないし14%(重量)の高い水素貯蔵能力を示したとリポートは述べている。アルカリ金属をドープした実験データは何れも常圧に於いて常温および200ないし400℃の温度条件で記録された。このような高い吸収能力は、カーボンナノチューブの特別な形状とアルカリ金属による触媒作用によるものと考えられる。勿論アルカリ金属をドープしたグラファイトでも、水素貯蔵能力を持つが、それらはCNTsに比べて35ないし70%でしかない。Kをド−プしたCNTsの方が、Liをド−プしたそれに比べて低い温度で吸収能力を持つが、化学的には後者の方が安定であるとの結論を彼等は下している。水素はより高温で排出(脱着)されるが、吸着と脱着の繰り返しサイクルにおいても、吸収能力の低下はほとんど認められなかった。
 

 K-doped CNTsLi-doped CNTs
温度313K(40℃)473-673K(200-400℃)
貯蔵水素密度(重量%)1420
エネルギー密度4.2(kWh/lit.)
4.66(kWh/kg)
6(kWh/lit.)
6.66(kWh/kg)

 今後この材料を水素貯蔵システムとして開発する予定であるが、当面の課題としては"動作温度を下げること、および応答時間の短縮にある"と同研究チームの1人であるLin Jianyi助教授は述べている。又同助教授は将来の課題として「我々のチームは、FCの効率を向上させるために、この材料を電極として開発する計画についても考えている。又カーボンナノチューブを使って比較的低温で水素を発生するための手段を提供できるかも知れない」。更に企業との協力に関しては「現在自動車メーカ2社と開発協力についての協議が進められているが、未だ協定にサインする段階には達していない」であった。この成果の発表後、Eメイルには質問が殺到したが、大部分の質問内容は、"水素の吸収・放出サイクルにおけるロスは?"および"ナノチューブは値段が高いのでは?"の2種類に分類される。彼は何れの質問に対しても"NO"であると答えている。
 しかし、シンガポールの研究チームが報告したCNTsの貯蔵能力は、先にNortheastern UniversityのN. RodriguezとT. Baker等が達成した吸収率67%に比べるとはるかに低い値であるし、又これは実験室での成果であって、技術の実証にまでは至っていない。カーボンナノチューブを実用化するためには、なお多くの努力を必要としよう。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, August 1999, Vol.XIV/No.8, p1,p7-8)
 
― This edition is made up as of August 18, 1999 ―