37号 ガソリン水蒸気改質マイクロチャネル出現

Arranged by T. HOMMA
1. 国家および地方自治体による施策
2. MCFCプロジェクトの立ち上がりと研究開発成果
3. SOFC用高性能電解質の開発
4. FCV最前線
5. PEFC家庭用コジェネ開発
6. PEFCの新しい利用展開
7. マイクロチャネル形ガソリン水蒸気改質器
8. 高性能水素吸蔵合金の開発
A POSTER COLUMN

1. 国家および地方自治体による施策

(1)資源エネルギー庁
 資源エネルギー庁は2000年度から、例えば風力発電等による電力購入の制度化や地方自治体による新エネ支援事業への助成措置等、新エネルギー等の新市場創出を目的に官民共同戦略構想を打ち出すことになった。資源エネルギー庁は、従来から各種助成措置により発電コストの低減や新エネルギー導入量の増加において成果を挙げてきたが、新たな課題として電力系統連系に対する技術的対応や新エネルギー事業化のための環境整備が求められるようになってきた。これら新しい課題に応えるため、官民による研究会や審議会を通して技術的、制度的対応を検討する。  FCについては、産業競争力強化の観点から実用化に向けた評価手法の確立や標準化のための技術開発を行うと同時に、天然ガスや石炭からの水素燃料製造技術開発を実施していく予定。
(化学工業日報99年7月8日)

(2)建設省  住宅用PEFCの開発と普及を目的として、建設省は8月中にも"住宅用燃料電池の研究会(仮称)"を発足させることになった。エネルギー関係の学識経験者を中心に、セキスイグループ等の住宅メーカが参加する。又同省は99年度から環境共生住宅モデル事業の補助対象にコジェネレーションを追加する。
(環境新聞99年7月28日)

(3)愛知県
 愛知県は中部国際空港の空港島とその対岸部地域開発用地にFCを核とするモデル地域を設定し、FCの普及・促進を図るためのインフラを整備を行うと共に、FCを核とする新産業を集積する計画を発表した。これに対応して99年7月12日、学識経験者やジャーナリストで構成される"第1回基本構想策定委員会"を開催し、今後同委員会に於いて、技術開発の現状や将来性を探査し、水素の生成・供給設備等FC利用に必要なインフラのあり方、新規産業創出の可能性などを検討することになった。
(日刊工業、建設通信新聞99年7月9日、日本経済、中日新聞99年7月10日、流通サービス新聞7月23日)
 

2. MCFCプロジェクトの立ち上がりと研究開発成果
(1)MCFC/NEDO
 NEDOからの委託でMCFC研究組合が、関西電力尼崎燃料電池発電所で進めている"200kW級内部改質型MCFCスタックの運転試験"において、200kWの出力を達成したことが確認された。スタックの製作は三菱電機で、運転研究試験は関西電力が担当した。99年6月18日に昇温開始、30日に初発電に成功、7月13日に200kW電気出力を確認した。MCFC研究組合では、今年度中に5,000時間以上の運転実験を計画している。
(化学工業日報99年7月22日)

(2)電力中研
 電力中央研究所は、石炭ガス中に含まれる塩化水素を1ppm以下に低減する"石炭ガス精製用ハロゲン化物吸収剤"を開発した。同研究所では、従来から石炭ガス中の硫黄化合物のみならず、ハロゲン化物を化学反応させてそれを除去する乾式吸収剤の研究を進めてきたが、ハロゲン化物と高い反応性を持つナトリウム化合物に着目し、種々の合成材料を作って効果を検討した結果、炭酸ナトリウムとアルミ酸ナトリウムを主成分とするハロゲン化物乾式吸収剤の開発に成功した。この吸収剤が塩化水素を1ppm以下に維持する時間は、炭酸ナトリウムの8倍以上である2,015分で、塩化水素と混合して硫化水素が2,000ppm含まれる石炭ガスに於いても、上記の性能を維持できることを実験で確認した。又乾式脱硫剤等他の施設に与える影響も小さいので、石炭ガス化ガスMCFCの開発に大きく貢献するものと評価されている。今後は2001年度までに、使用後の吸収剤を再生・再利用できるような方法を検討すると共に、ポーラスフィルターと組み合わせた"乾式ガス精製システム"の開発を目指す。
(電気新聞99年7月23日)
 

3. SOFC用高性能電解質の開発
 東邦ガスは第1稀元素化学工業と共同で、従来のYSZに比べて酸素イオン伝導性の高いスカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)を電解質として用いたSOFCを開発したと発表した。同材料を焼結して作った電解質は、イオン伝導度がYSZに比べて2ないし3倍高いので、高出力密度したがって同一出力に対して3分の2から半分程度の小型化が可能である。又800℃の動作温度でも1000℃のYSZと同等の出力が得られるので、動作温度を低くすれば周辺部品を金属に置き換えることが可能で、SOFCの低コスト化にも寄与する期待されている。ScSZの価格はYSZの1.5倍ないし2倍程度と予想されている。
(日刊工業新聞99年7月15日)
 
4. FCV最前線
(1)松下電池社長の談話
 松下電池工業の安田幸伸社長は、個人的な意見としながらも「数千万円のFCなら今すぐにでもできるが、2010年でもFCが商用ベースに乗る価格までは下がらない」と断言。新価格に引っ張られる電気自動車用鉛蓄電池を引き合いに出し、FCでも簡単に儲けさせてくれそうにない自動車メーカには「それにしても・・・」と渋い顔で苦笑いをした。
(日本工業新聞99年7月16日)

(2)ヤマハ発動機
 代表的な2輪車メーカ"ヤマハ発動機"は、巨額の開発資金を軽減するため、FCの自前開発を断念し、バラード社から水素PEFCの調達契約を締結した。内容はバ社FCの1年更新リース契約で、年間契約金額は25万USドルと伝えられる。事実上FCの開発をバ社に委託し、同社自身は非4輪車へのFCの応用技術の開発を図りつつ、将来は商品化に向けて量産されるFCの調達も視野に入れている。具体的な応用技術は、水素の管理技術、モータとそのトルク制御を行うためのセンサー類とその周辺技術、FC駆動装置のコンパクト化等で、2輪車や船外機に加えてエアコン用ヒートポンプ等での実用化も検討することにしている。
(日刊工業新聞99年7月19日、中日新聞7月20日、日経産業新聞7月23日

(3)台湾に於けるFCスクータ
 台湾でモータ付2輪車の最大手生産企業"San Yang"を抱えるChinfong工業グループは、PEFC駆動のスクータの開発プロジェクトを本格的に立ち挙げるため、台湾の政府や企業、それにアメリカの大学や企業の参加する合弁企業を設立することにした。このプロジェクトはアメリカのW.Alton Jones Foundationの支持により、既に1年前に始められていたが、今回合弁企業の設立によって、計画がいよいよ現実のものになったと云えよう。参加企業には、Desert Research Institute、Texas A&M University、それにTaiwan Institute for Economic Researchが含まれており、プロジェクトリーダには台湾生まれで現在Texas A&M Agricultural Experiment StationのDr. Douglas Loh教授が就任する。
 台湾政府は数年前、空気汚染の原因となっている2気筒オートバイとスクータの40%を、2000年から2004年に掛けて電動機駆動車に置き換えるという政策を打ち出しており、最初バッテリーによる電気オートバイが検討された。しかしバッテリー車は、重量や走行距離、および充電に於いて問題があり、結局FC車にスイッチされることになったと報じられている。台湾では150万台の2輪車が生産されているので、もし政府の政策が実現すれば、2004年までに40%に当たる60万台がFC駆動になっていなければならない。  FCスクータ実現のためのキーテクノロジーは、車載可能な軽量小型の3kWPEFCスタックおよび空気冷却システムのコンパクト化である。この両者ともTexas A&M's Center for Electrochemical Systems and Hydrogen EnergyのデイレクターであるDr.J. Applebyおよびその研究者によって設計されている。全出力で3時間、走行距離にして80kmを保証する燃料の水素は水素化物の缶(hydride canisters)に蓄えられ、水素は中国の石油企業と台湾の水素精製会社によって供給されることになろう。2001年までには4種類のプロトタイプが完成、実証運転は2001年から2002年の間に開始、そして2003年までには生産体制が完成する予定と報じられている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, July 1999, Vol.XIV/No.7, p1, p7)
 

5. PEFC家庭用コジェネ開発
(1)日本ガス協会
 日本ガス協会は、99年度新規事業として、PEFCを用いた家庭用コジェネレーション技術の開発を行う。システムの設計・製作、家庭での電力・熱負荷パターンを想定した運転研究が挙げられている。NEDOから1億4千万円の補助を受けるが、研究内容としては燃料改質系や排熱回収系等の効率化、制御システムの簡素化によるコスト低減、構成要素機器の複合化による小型化、高効率運転が実現可能な電力・排熱システムの検討等が記されている。
(化学工業日報99年6月16日)

(2)東京ガス
 東京ガスによる家庭用コジェネ開発動向についてはLatest News 36で紹介したが、その詳細はFC NEWS LETTER Vol.11, No.4, p9に紹介されている。

(3)セキスイグループ
 セキスイグループは、住宅メーカとしては初めて家庭用PEFCを組み込んだ新住宅システムの検討を開始した。同社はこれまで大阪ガスが開発したシステム、すなわち都市ガスから水素を取り出す小型天然ガス改質装置を使ってPEFCで発電し、発生する熱を給湯や暖房に利用する家庭用コジェネレーションシステムを考えていたが、ここにきて天然ガスのインフラや輸送、コスト面等を配慮した最適な手法について再検討を始めることになった。月に1回程度大阪ガスと勉強会を開き、水素の供給方法を含めた最適なシステムを検討し、2005年を目途に商品化する計画である。将来は新たな手法を大阪市天王寺地区にある未来型実験集合住宅に取り付けて運転評価を行うことにしている。
(環境新聞99年7月28日)
 

6. PEFCの新しい利用展開
 東芝は液化石油ガス(LPG)を用いたPEFCによる自動販売機システム構想を纏めた。電力の供給を電力系統からPEFCに切り替えるので、コードレスでどこでも設置が可能であり、又発生する熱を利用することにより大幅な省エネルギー効果が期待されている。自販機の隣りにLPGボンベとPEFCを設置、したがってLPGを交換する人が巡回すれば良く、メインテナンスも容易になる。  元来自販機は電気容量が冷凍機で470W、電気ヒータが800W、照明に100Wを消費し、年間消費電力量は3,040kWh、それに対する電力料金は7万6,000円と積算されている。これに対してPEFC利用の場合は、 発電効率が30%、排熱効率が30%として年間発電電力量は1,691kWh(LPG消費量が430kg)となり、 LPGが1kg当たり100円として燃料費は4万3,000円で済むと同社は見積もっている。
(日刊工業新聞99年7月30日)
 
7. マイクロチャネル形ガソリン水蒸気改質器
 99年6月23−25日にArgonne National Lab(ANL)で1999 Review of Fuel Cell Researchが開催された。 DOE's Office of Advanced Automotive Technology(OAAT)が支援した主要な研究成果が、このレビューで紹介されている。ここで注目を集めた国立研究所による研究成果は、超小型チャネル形式のガソリン水蒸気改質プロセッサー(compact microchannel steam reformer for gasoline)および500ppmのCOに耐え得るアノードの開発結果であった。 OAATのプログラムマネジャーでこの会議のコーデイネータでもあるDr. JoAnn Millikenは、Pacific Northwest National Lab(PNNL)によって発表されたマイクロチャネル式ガソリン水蒸気改質器に関する小規模な予備実験データを顕著な成果であると評価し、もしこれのスケールアップに成功すれば、水蒸気改質器は現存のそれに比べて10分の1まで小さくなるであろうと語っている。しかし、これを実用化するためには未だ解決すべき多くの問題が残されている。先ずコンポーネントが単一の実験室システムとして組み上げられなければならないし、過渡応答性や耐久性についても実証が必要であろう。これがDr. Millikenの意見である。
 PNNLのRobert Wegeng氏等による上記改質プロセッサーの研究成果についての発表によれば、これはガソリンの蒸発部と改質部によって構成されている。蒸発部の大きさは7.6cm×10cm×3.8cmであり、50kWeのFC出力に相当する300mL/minのガソリンを処理することができた。1つのユニットがEpyx 社によって試験されたが、その性能は満足すべきものであったと報告されている。蒸発部の成功はPNNL研究チームをしてガソリンの水蒸気改質へと進ませることになった。彼等が製作した容積18cm3の改質テストセクションは、常圧運転で出力0.5ないし1kWeに相当し、ガソリンの成分であるイソオクタン(2,2,4-トリメチルペンタン)での実験結果によれば、滞留時間が1.1−2.3msec、S/C比が3.1−6.1、温度630−670℃において、改質ガス中の水素含有率が67−72%、転換率67−90%、水素selectivityが91−99%であったと伝えられている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, July 1999, Vol.XIV/No.7, p1, p7, p8)
 
8. 高性能水素吸蔵合金の開発
 東北大学岡田益男教授等は、既存の合金に比べて水素吸蔵量が2倍以上高い新しい合金を開発したと発表した。バナジウム、チタン、クロムを成分とする合金で、常温で水素を貯蔵・放出するできる点に特徴がある。具体的には、原子の隙間に水素を多く取り込むが、水素を放出しにくい性質を持つバナジウムの割合を1割程度にととどめ、更にクロムを混ぜることでバナジウムと水素が結合しにくくすること等、成分を調整することによって性能は向上した。又比較的安価なクロムを多く含むため製造原価は低くなると考えられる。40℃で加圧すると1kg当たり26gの水素を吸収することが確認された。この数字はセリウム・ニッケル合金によるそれの2倍以上である。又新合金は圧力を下げるだけで水素を放出するため、水素の貯蔵・放出に必要なエネルギー消費も大きく減らせるものと期待されている。
(日経産業新聞99年7月11日)
 
― This edition is made up as of August 5, 1999 ―


  A POSTER COLUMN

ドイツのシュレーダ首相、FCVに試乗運転
 ヨーロッパに於けるFord社の新研究センタ−の開所式(ribbon-cutting ceremony)に出席した機会を捉えて、ドイツのGerhard Schroeder首相は、Ford社のWilliam C. Ford会長を客席に乗せ、同社の実証研究用FCV"P2000"を自ら運転してつかの間のドライブを楽しんだ。この研究センターはCologne近郊にあるFordの生産工場から約40マイル、ベルギーとの国境近くに存在する。同首相はこのFCVを"素晴らしい(exemplary)車"と賞賛し、スピーチで次のように述べている。 「FCVは走行距離が短く、あまりにも重く、そして乗心地も悪いと聞いていたが、私が運転した感じで、そんなことは全く無いことが解った。すべては順調に動いており、これをものにするための如何なる努力も無駄にはならないであろう(It's worth every effort to make a go of it)」
 首相は更に「FCVは一般の消費者に受け入れられ、大量に生産されてこそ環境上の意義を持つ」とのFord会長の意見に賛意を示すと共に、「そのためには現在の車と同じ容姿を持ち、現在の車と同じようにのように乗り心地良く、そして安全で無ければならない。今日私が試乗した車は、正にその展望を予想させるものである」と語った。
 W.C.Ford会長は、フォード社の創立者である彼の偉大なる祖父Henry Fordの言葉「それが自動車でさえあれば、それを如何なるデザインにしようと、それは顧客が選べばいいではないか(Customers could have any color they wanted as long as it's black) 」を引き合いに、「我々は、それが環境に優しい車(FCV)でさえあれば、顧客の好きなどんな車でも提供しよう(We are declaring that customers can have any vehicle they want, as long as it's green) 」と冗談混じりに語った。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, July 1999, Vol.XIV/No.7, p1, p9)