36号 低温型を含む各種SOFCの開発が進展

Arranged by T. HOMMA
1. 国家的施策
2. MCFC
3. SOFCおよびマイクロガスタービン
4. 低温動作SOFC
5. FCV最前線
6. 家庭用PEFCの実証研究と普及活動
7. ガソリン改質PEFCシステムの実証運転
8. 亜鉛/空気FCの開発
A POSTER COLUMN

1 国家的施策

 資源エネルギー庁は、99年度から2002年度に掛けて、中国の国家発展委員会と共同で、メタン発酵ガスを燃料とするFC開発のための研究協力事業を実施することになった。この事業は中国内陸部等電力系統化が困難な無電化地域や電力不足が続く地域に於けるFC発電の普及を意図するもので、畜産糞尿からの発酵ガスを利用したFC技術の実用化を目的としている。実証運転研究のため広東省に出力200kW程度のFC発電所を建設する。同時に糞尿排水処理・残渣の肥料化を含む総合システム等環境負荷低減技術の実用化研究も実施する予定で、FCを含めてこれらはグリーン・エイド・プラン(GAP)事業の一環として進められる。
(化学工業日報99年6月9日)
2 MCFC
 電力中央研究所は、石炭ガス化ガスをMCFC用燃料として用いる技術開発の一環として、燃料ガス中に含まれる硫黄化合物を除去するための高温脱硫剤の研究を行ってきた。既に亜鉛と鉄の2種類の金属を含む亜鉛フェライトに2酸化ケイ素を加えた脱硫剤を開発しており、これは温度450℃、圧力10気圧の条件下に於いて、ガス中の硫黄化合物の濃度を1ppm以下になるまで除去することができる。又亜鉛フェライトが吸収した硫黄化合物は、同程度の温度で酸素を含むガスを通すことによって分離・回収され、亜鉛フェライトを再使用することも可能である。しかしこれを実用化するためには、硫黄化合物を含んだガスが亜鉛フェライトの内部まで速やかに浸透し、硫化反応を促進させる必要がある。そのためには、亜鉛フェライトを多孔質な粒子とすることが有効であることが分かっていたが、亜鉛フェライトの持つ細孔(直径0.005ないし0.1μm)と硫化反応の関係については直接観測が難しく、その機構については推定の域を出なかった。今回最新の透過型電子顕微鏡によって粒子構造を直接観測することが可能になり、細孔の成因や粒子構造と脱硫性能との関連性を明らかにすることに成功した。それによると、亜鉛フェライトの粒子は直径0.01?0.1μmよりも微細な粒子の集合で、細孔はこの微細な粒子が集合したときにできる隙間であることが観察された。又亜鉛フェライトを繰り返して使用した場合には、粒子の直径が0.01μm程度で極めて小さいときには、集合した粒子が高温下で融着し、0.5μm以上の大きな粒子となって細孔がほとんど消失する結果、硫化反応が妨げられることが判明した。他方粒子の粒径が0.05?0.1μm程度と大きい時には、繰り返し使用しても粒子同士が融着を起こすことなく、初期の性能を維持することができる。
したがって、細孔を増やすためには粒径が小さい方が有利ではあるが、性能を維持するためにはそれに適した粒径が存在するようである。
(化学工業日報99年6月15日)
3 SOFCおよびマイクロガスタービン
(1)東京電力
 東京電力はアライドシグナル社およびキャプストン社から各々発電出力75kW、28kWのガスタービンを購入し、9月から技術開発センターにおいて、系統連系運転試験を行うことになった。アメリカの電力会社等15社によるマイクロガスタービン性能評価プロジェクトにも参画する。同社首脳は「今後は系統による電力の安定供給に加え、マイクロがスタービンやSOFCによる分散型エネルギーシステムの売り込みも進める」と語り、電力会社としては初めて分散型電源ビジネスに対する前向きな対応を明確に打ち出した。
(日刊工業新聞99年6月16日)

(2)三菱重工業
 三菱重工業は、石炭ガス化複合発電(IGCC)とSOFCを組み合わせた高効率発電システムの実用化を目指して研究開発活動を加速させることになった。同社は89年から電源開発と共同で円筒型SOFCモジュールの、又90年からは中部電力と共同で1体績層型SOFCの開発を進めている。同社としては、数十kW級モジュールの構造、100kW級発電システム技術、MW級モジュールへのスケールアップ化技術の確立を経て、電力事業用SOFC複合発電プラントの実証へと駒を進めたい意向である。なおこのシステムが実現すればIGCCとの組合せに於いては55%の効率を、又天然ガス炊きガスタービンとの組合せでは65%の発電効率を得られるものと期待されている。(化学工業日報99年6月23日)
 なお三菱重工と電源開発は、 両者が従来から研究開発を進めていたSOFC円筒横縞タイプにおいて、セラミックチューブ内で天然ガスを改質する内部改質型を開発し、発電効率を20%向上させる新機種を99年秋にも完成させると発表した。同時に100kW級SOFCの製作に於いて、セラミックス基体上に燃料極等を積層する過程で、各層をスラリー状にしてコーテイングする湿式スラリー法を導入し、製作コストを10分の1以下に低減、更に量産効果で1kW当たり5万から10万円程度の製作コストを実現したいと述べている。
(日刊工業新聞99年6月25日)

4 低温動作SOFC
 三菱マテリアルは大分大学工学部滝田祐作教授等と共同で650℃の低温で動作するSOFCを開発し、3.57kW/m2の高い出力密度を得ることに成功した。電解質材料にはランタンガレート系ペロブスカイト酸化物(La,Sr)(Ga,Mg,M)O3-δが用いられている。三菱マテリアルでは今後、材料の改良からセルの大型化、更に量産技術の開発を進め、この種SOFCの早期実用化を目指すと述べている。
(日刊工業、日本工業、日経産業、建設通信新聞、化学工業日報99年6月25日)
5 FCV最前線
 アメリカGMグループに属しているドイツ・オペル社のシュトウリンツ副会長が来日し、「2004年までに現在開発中の小型FCEV"ザフィーラ"を欧州市場に投入し、その後日本を含む世界各国に輸出する方針である」と語った。なお99年春に発売を開始した排気量1,600ccのガソリンエンジン搭載"ザフィーラ"は、1,800ccモデルを含めて、99年末までに日本にも投入する意向である。(読売、日経産業新聞99年6月16日)
 トヨタ自動車の張富士夫社長は、就任後初の記者会見で、FCVの開発をスピードアップし、2003年にも実用化を目指す意向を表明した。FCV開発に関しては、99年6月25日付けで"FC技術企画部"を新設し、グループの総力を挙げて開発に取り組めるよう総勢300人による開発体制を整えた。なお奥田会長は懇談の席上「最近バラード社を訪問したが、提携しようという話にはならなかった。うちの技術の方が進んでいると確信している」と述べた。(化学工業日報99年6月29日、中日新聞同6月30日)
 三菱自動車工業は、2000年末までに小型FCEV(FC電気自動車)の試作車を開発する計画を実現するため、共同開発の相手である三菱重工業と小委員会を設置した。なお電気系統では三菱電機、燃料等に関しては日石三菱の支援を受ける等、三菱グループを挙げてFCVの実用化を目指す予定である。
(日本工業新聞99年6月25日)
6 家庭用PEFCの実証研究と普及活動
(1)東京ガス
 東京ガスは99年6月10日、燃料に都市ガスを用いたPEFCによる家庭用コジェネレーションの実証運転を開始したと発表し、その実験の様子を公開した。この実証運転にはシステム構成が単純で小型・低コスト化を優先した改質ガス供給型ならびに純水素供給型の2種類が用いられる。PEFCは国内外によるメーカから調達されたが、改質装置や水素分離装置は東京ガスが独自に開発した製品が使われている。このコジェネレーションでは投入エネルギーの30%が電気に、40%が熱に変換され、従来の方式に比べて1次エネルギー消費量は約21%、CO2発生量は約27%削減できると期待されている。電気・給湯・暖房等に対する運転性や省エネ効果を検証するが、最終的には各住宅で使用できるようにPEFCコジェネの最終商品仕様を固める目的でデータはFCメーカに公開される。一般住宅用システムは出力が1ないし3kW、エアコンの室外機くらいの大きさに収め、50万円程度の設備費に抑えるのを目標としている。2001年度からは一般家庭に設置してフィールドテストを行う予定。(日刊工業、電波新聞99年6月11日)

(2)日本石油ガス
 日本石油ガスはLPGを燃料とする家庭用FCの普及活動を目的として、ガス販売会社や大手ゼネコン等と共同でコンソシアムを結成、研修会や学習会の開催、PR資料やパンフレットの作製等の事業を行うことになった。2005年頃までに家庭用FC用LPGの販売を始めたいと考えている。
(日経産業新聞99年6月16日)

7 ガソリン改質PEFCシステムの実証運転
 アメリカのBostonの本拠を置くEpyx社とPlug Power社は、ガソリン改質プロセッサーとPEFCを組み合わせた出力10kW電源システムの実証運転に成功したと語っている。
同社は約1年半前(1997年10月)世界で初めてガソリン改質プロセッサーとPEFCの連系運転によって数kWの発電実験に成功しており、それはDOE長官が自ら記者発表を行ったという点に於いても人々に強い印象を与えた出来事であった。「前回の実験はガソリン改質技術の実用可能性を検証したに過ぎなかったが、今回のそれは改質プロセッサーとPEFCが一つのシステムとして完全に統合されており、自動車や家庭用に於ける実用プラントを模擬した状態で実証運転された点に意義がある」とEpyx社の研究運転主幹(Chief operating officer)のJeffrey Bentley氏は述べている。今回のそれではシステム効率を向上させるため、アノードから排出されるオフガスはシステム内で再利用されるよう設計されており、出力20kW規模の45kg触媒POX改質プロセッサによるガソリンから改質燃料への変換効率は78%であった。これらの成果からトータルシステム効率の目標値である40%の実現に向かって大きく前進した(well on the way)と同社は語っている。又排気に関しては、無公害車の基準であるULEV(Ultra Low Emission Vehicle)の条件はクリアされている。なお動作圧は自動車用エンジンを想定して3気圧に設定されたが、家庭用電源として用いられる場合は、常圧で運転される予定である。なおこの研究はDOEの援助の基に行われているが、DOEのDan Reicher氏は、今回の運転成功は極めて印象的な成果であると高く評価した。Epyx社のパートナーであるPlug Power社は、今後改良ガソリン、エタノール、メタノール、M?85、および天然ガスによる改質実験を行う予定である。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, June 1999, Vol.XIV/No.6, pp5-6)
8 亜鉛/空気FCの開発
 Metallic Power社は、4年前に設立されたアメリカ・カリフォルニア州Carlsbadにある小さな会社であるが、同社は一風変わった現在亜鉛/空気FC(zinc/air fuel cell system)の商業化を目指して研究開発を進めている。このFCでは通常のFCに於いて燃料の水素に相当するのが亜鉛で、副産物の水に相当するのが酸化亜鉛である。亜鉛は毒性がなく不燃性であり、且つ資源量は豊富で224・1015トンにも達すると推定されている。イスラエルの会社が開発した亜鉛/空気FCでは、燃料としてカセット状の亜鉛板が用いられたが、同社の燃料は直径が1mm程度の亜鉛粒子で、それをKOH水溶液に混入しることによりスラリー状に保たれている。したがって、FCへの燃料注入、およびリサイクルユニットへの酸化亜鉛の導入等には、ポンプを用いることができる。副産物の酸化亜鉛は電力で再生されるので、FCと言っても2次電池の特性を備え持っている。燃料の持つエネルギー密度は225Wh/lit以上、200Wh/kg以上と推定され、他の蓄電池に比較して優れている。サイクル効率(FCからの発電電力量/亜鉛リサイクルのために消費する電力量)は、出力パターンやリサイクル割合によって異なるが40?60%の範囲にあり、又FCとしての効率は内燃機関の2.5ないし3倍に相当すると同社は語っている。電極触媒にはコバルト又は銀ベースの金属又は白金が有効であるが、同社は有機コバルト(organic cobalt compound)を使用した。同社が既に試作した出力4kW(48V)のプロトタイプでは、リサイクル又は充電時間は5分と報告されている。
 同社は2000年に50ユニットの亜鉛/空気FCを製作し、3ヶ月間に亘って実証実験を行う予定を立てている。定置式発電として利用する場合には、電池本体とリサイクルユニットは別々に設置されるが、自動車用動力源としての利用に於いては、両者はパッケイジとして一体化されることになろう。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, June 1999, Vol.XIV/No.6, pp4-5)
 
― This edition is made up as of July 2, 1999 ―
 
 
 
A POSTER COLUMN
 本記事は、THE LATEST NEWS 32の "A Poster Column" に掲載されたDavid Hart氏による "アメリカは何故ガソリン改質の道を歩むのか?"のコメントに対するアメリカのDr.Pandit G. Patil;Director of the Energy Department's Office of Advanced Automotive Technologiesによる反論である。

 アメリカDOEは、市場に受け入れられ、市場が普及を促進する(market driven)ようなFCVの開発を目指している。そのためには起動性、応答性、耐久性、信頼性を含む全ての性能に於いて現存の自動車に劣ることがなく、その上環境に優しくて、かつ限界コスト(marginal cost)が低いようなFCVを開発する必要がある。
 燃料の選択に関しては、我々は現時点でその燃料供給インフラまで提供し得るような予算を持っている訳ではない。しかし燃料選択のための分析は重要な課題である。もし新しい燃料が導入されるのであれば、それは安全で入手が容易であり、給油時間が短く、且つコストが見合う(cost parity)ものでなければならないであろう。
 水素燃料は、それの車載がスペースを犠牲にすることなく可能であるなバス等の大型車には適しており、更に水素供給インフラが厳しく管理され制御されるような条件が満たされる場合には有効である。しかしこれを普通乗用車に適用しようとすれば、コンパクトな水素貯蔵技術の実現が必要があり、そのためには科学的なブレークスルーが無ければならない。我々は長期開発計画に於いては、DOEの水素開発プロジェクトと共同で、車載貯蔵を含めた水素燃料関連技術の開発研究を実施する予定を持っている。
 DOEは長期に亘ってメタノール水蒸気開発のプロジェクトを支持してきた。その成果の一つが98年10月にパリのオートショウで公開されたGMによるミニバン "Zafia" の誕生である。しかし、メタノール供給インフラはまだ限られたものであり、この問題を克服するために我々はPOX(Partial Oxidation Process)による多種燃料改質の道を追求することにした。メタノール、エタノール、天然ガス、およびガソリン等多種燃料を改質できる点に於いて、POXは燃料インフラの構築という厄介な問題を気にすることなく、近未来にFCV普及のための道を切り開くことを可能にする。より重要なのは、多種燃料開発技術の実現がFCVの市場導入をもたらし、それがガソリンに替わる新しい代替燃料供給インフラの開発を刺激すると思われることである。実際我々はガソリン以外の燃料の供給インフラが構築されるのを歓迎するが、国が燃料市場の選択を命令することはできない。我々の任務は技術開発を促進することであり、燃料の選択はその結果として創出されるマーケットに委ねられるべきものと考えている。
 ガソリン改質に批判的な人は効率の低さを問題にする。彼等はPOXガソリン改質PEFCトータルシステムのサイクル効率は、現状技術のレベルに於いては、35%に過ぎないとのArgonne Natioanl Lab.の解析結果を引用するが、この場合最も進んだ技術を適用すれば45%の効率が達成可能との議論はしばしば無視されている。しかもこの45%効率は、定格出力50kWにおける性能であり、ドライブサイクルに於ける平均出力12.5%に於いては約50%の効率さえ達成可能である。更にArgonne国立研究所の解析は、POXに水蒸気改質を導入すれば、更にシステム効率を上昇させ得ることを示唆している。
 FCVの市場導入を想定するとき、POXの採用によるわずかな効率の低下とという犠牲と、インフラ設立のためのコストやわずらわしさとの間にはトレードオフの関係があると思われる。勿論少しでも効率を向上させることは研究者にとって第1の使命であるが、速やかにFCVを市場に導入できなければ、社会的エネルギー効率の向上も石油の代替も達成されないのである。それにPOXは、起動時間が短く、負荷変動に対するレスポンスが早いというFCVにとって欠くことのできない特性を持っている。
 POXに係わるもう一つの問題点は、通常のガソリンを燃料として選択するためには、未だ改質技術が未成熟であるという事実である。 しかし、ガソリン改質は未だ開発の歴史が浅いので、今後の技術発展が期待されている。我々の目標は、ガソリンスタンドで容易に購入可能なレギュラーガソリンの改質であり、これが実現できればFCVの普及は加速されることであろう。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, January 1999, Vol.XIV/No.1, pp3-4)