35号 自動車用SOFCエンジンの開発が始まる

Arranged by T. HOMMA
1. PAFC市場開拓
2. MCFCプロジェクトの進捗状況
3. 自動車動力用SOFCの開発
4. PEFC開発
5. FCV最前線
6. 最近のトピックスから
A POSTER COLUMN

 
1. PAFC市場開拓

(1)UPSとしてのFC市場
 東芝は電気代を半減できる以外にCO2の2割削減を可能にする省エネルギー型無停電発電用PAFCシステムを開発した。病院やコンピュータ室等、常に安定した電力供給を必要とする事業所向けに販売する。従来のUPSとデイーゼル発電機を組み合わせたシステムは、系統電力の2倍以上のコストを要するので、これに替わってPAFCを適用しようとする構想である。システムは出力200kWPAFCとインバータで構成され、燃料には都市ガスを想定している。通常はコンピュータ等重要な設備にはPAFCから安定した電力を供給し、残った電力はインバータを介して系統電力に送電される。事故などで都市ガスが停止した場合でも、常時ストックされているプロパンガスによって対応できる体制が採られている。システム価格は約1億1千万円で、通常のUPS・デイーゼル発電機システムに比較してほぼ2倍の設備投資を要するが、通常のシステムではUPSで電力を調整する際にエネルギーロスが発生し、重要な電力供給先向けの系統電力の発電効率が通常の半分以下になるため、電力コストは35?40円/kWhになっている。本システムではこのロスが無く、コストは20円程度になり、5年以内での投資回収が可能と同社は語っている。
(日経産業新聞99年5月19日)

(2)セイコーエプソン
 セイコーエプソンはパソコンや携帯電話等に使う水晶振動子を製造する伊那事業所(長野県箕輪町)に、PAFCコジェネレーションシステムを導入することにした。同事業所の工場増設に伴う電力不足分を、LNGを燃料とするFCでカバーしようとする計画で、99年12月に出力200kWのPAFCを2台導入、更に2000年度に2台追加する。総事業費はは約5億円。これにより工場内の電力供給のみならず、従来は重油ボイラーで供給していた工場内の空調や加温・加湿、温水をFCによって賄い、電気・重油代やボイラー管理費等の削減で年間1,400万円の経費を節減できると同社は語っている。PAFCのコストは通常の発電機に比べて2ないし3倍程度高いが、系統電力によって同工場の電力不足を解消するためには特別高圧設備を設置する必要があり、この設備にもPAFCプラントと同程度の出費を要することになる。そのためクリーンで運転経費の削減が可能なFCを導入する方が経済的にも有利になると同社は判断したようである。又環境面からは、LNGを使うことにより通常電力を使う場合に比べてCO2排出量は35%削減され、NOXやSOXも大幅に減らせると期待されている。
(日経産業新聞99年6月1日)

2. MCFCプロジェクトの進捗状況
 わが国MCFC研究組合で進められているNEDOプロジェクトの1000kW級発電プラントは、いよいよ運転研究に向けて最終段階である調整運転に入っている。本来は6月中旬に定格出力を得る予定であったが、電池の昇温過程で一部配管接続部に不具合があり、今回は万全を期して慎重に対策・調整が行われている。そのため工程が若干遅れることになったが、99年6月中旬には電池の昇温を開始、下旬から周辺機器の起動・調整を始める予定である。通気・遮断確認、無負荷運転調整、負荷運転調整を経て7月下旬には定格出力を実現したいと同組合では述べている。
(南大塚だより、1999.6.1、No.202)
3. 自動車動力用SOFCの開発
(1)トヨタ
 トヨタ自動車は、FCEV(燃料電池電気自動車)用SOFCの開発に着手した。触媒電極の上にCVD(化学的蒸着)法やPVD(物理的蒸着)法等で導電性セラミックス膜を生成することにより、高性能なSOFCの開発を目指すことになった。従来トヨタではトヨタ中央研究所以外に、フォークリフト用FCを開発してきた豊田自動織機があり、更に関連会社のアイシン精機の研究所がプロトン伝導性セラミックスを利用したFC型常温核融合装置の開発に着手しているので、これらのポテンシャルをベースにSOFCの将来性に着目することになったようである。目下のところ、セラミックスのプロトン導電性は固体高分子膜に劣るが、半導体製造技術を利用したCVD,PVDによって非常に薄いセラミックス膜を生成することができれば、水素イオンの導電性を向上させることができる。セラミックスは耐久性に於いて固体高分子膜よりも優れており、導電性の問題が改善されれば、優れたFCV用FCが実現する可能性が指摘されている。
(日刊工業新聞99年4月28日)

(2)BMW
 BMWはDelph Automotive Systemsと共同で、自動車用小型SOFCを開発する。この度ミュンヘンで発表された協定ではDelphiがSOFCエンジンを開発し、BMWがそれを自動車にアセンブルすることになっている。BMWの発表によれば開発期間は約5年とされているが、同社の技術者は2000年にも第1次プロトタイプが試作されることになろうと語り、他方Delphi側は、新聞記者発表に於いて、近い将来製品を完成させることになろうが、それが商業化のための生産(production in commercial quantity)に繋がるかどうかは不明であると述べている。
 2年前、BMWはIFCと共同でセダン型自動車に搭載する5?10kWPEFCエンジンを開発すると語ったばかりである。燃料には内燃機関車で実績を持つ液体水素が想定されていたが、同時にガソリン車にPEFCを適用するとも述べていたことから、ガソリン改質を視野に入れていたようである。
 上記の事情にも係わらず、従来定置式発電用としての利用が考えられていたSOFCに目を向けることになった理由は、PEFCに要求される高純度の水素生成がもたらす改質器への負担を軽減させるためと思われる。現にBMWの技術者は、SOFCは800℃の高温で動作するので、水素の純度に対する要求は厳しくなく、かつ貴金属触媒を使う必要がないという長所があると語っている。更にSOFCエンジン自動車の場合は、水素やメタノールの供給インフラを待つ必要もない。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 1999, Vol.XIV/No.5, pp1-3)

4. PEFC開発
(1)松下電器産業
 松下電器産業はPEFCの研究開発を強化するため、グループ各社から関係する各分野の研究者を集めた横断的組織"FCラボ"を設立した。この組織は生活環境システム開発センターを母体に、松下電器産業の研究開発部門、社内分社の電化住設社、エアコン社、関係会社の松下電池工業、松下冷機、松下精工、松下産業機器の研究者60人で構成されている。事業所や家庭に設置する分散型電源システムや自動車動力源に適用可能な数kWから数十kWレベルのPEFCを開発することを目的とする。
(日本経済、日刊工業新聞99年4月29日)

(2)Energy Partners
 PEFCのデベロッパーEnergy Partners社は、PEFCのコスト低下をもたらすバイポーラプレートの低コスト生産技術を開発したと発表した。この生産プロセスはgraphite polymer材の鋳型型込成型法(molding process)と説明されており、同社はクッキー打ち抜き型による複合グラファイトバイポーラ集電プレート(composite graphite bi-polar collector plates cookie-cutter fashion)と称している。生産サイクルは25秒以下で、1生産ユニット当たり年間生産量は約30万ピースに達する。次の目標はサイクルを10秒以下に下げることで、これが実現すれば現在1ピース当たり100ドルもするバイポーラプレートのコストが1.5ドルにまで低下すると同社は語っている。更に生産部門の副長であるRhett Ross氏は、「我々が言いたいことは、これでコレクタープレートは、コスト問題の対象でなくなったと言う事実である。そしてPEFCの経済条件を満足させるための次の目標はMEA(Membrane Electrode Assemblies)に移ることになった」と述べている。用いられた材料は、PEFC環境下に於いて65,000時間の耐久性が実証されており、又リサイクルも容易である。又完成されたプレートの導電性を向上せしめ、水素の浸透を防ぎ、且つ水分の吸収を抑えるための後処理を要しない。これは生産時間を短縮し、コストを低減させる効果を持つ。同社は99年中にも生産体制に入る予定。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 1999 Vol.XIV/No.5, pp7-8)

5. FCV最前線
 日産自動車は99年5月13日、2003CCクラスRV"ルネッサ"を改造したFCEV(燃料電池電気自動車)を公開し、走行試験を開始したと発表した。国内メーカではトヨタ、マツダに次いで3番目である。動力源には三菱化工機と同社が開発したメタノール水蒸気改質器とBallard Power Systems社製PEFCシステムが、又蓄電池にはリチウムイオン電池が用いられている。ガソリン車に比べて総重量は500kg程重く2トン、燃費効率はガソリン車の約80%、容量40lit.のメタノール燃料タンクを満杯にすれば約300kmの走行が可能である。実験車の費用は公開されていないが、材料費だけで1億円以上と見られている。後部座席を占領している燃料電池システムのコンパクト化が今後の課題の一つで、来年には最高時速100km以上、1回の燃料補給で400ないし500km走行できるプロトタイプを開発、2003年の実用化を目指している。
(朝日、読売、毎日、日本経済、産経、東京、日刊工業新聞等、化学工業日報99年5月14日)
6. 最近のトピックスから
(1)アメリカNHA会議から
 99年4月7日から9日に掛けて開かれたNHA(National Hydrogen Association)の第10回年次大会(10th Annual US Hydrogen Meeting and Exhibition)において、FCを含む水素関連技術の開発成果の多くが公開され、戦略論が議論された。先ず基調講演において、共和党のJohn E. Peterson議員が、250人を超える聴衆を前に「水素に対する期待が高まる中で、議会は水素開発のためにDOEによる要求額以上の予算を付けてきた」と語った時には、参加者から盛んな拍手を浴びていた。実際1999年度のDOE要求額2,225万ドルに対して議会の承認額はそれを大きく上回る3,000万ドルであり、2000年度においてはDOEの2,800万ドルに対して議会の承認額は3,500万ドルとなっている。今回で退任するHNAのVenki Raman会長は、水素エネルギー展開プランを発表した。この計画は、先にHNAが発表した水素商業化計画と対をなすものであり、経済的にも有利な水素市場の展開とその機会の実現、参画する企業の特定、それに決定権を持つ政府関係者を納得させるような内容を目指したものである。24頁に亘る提案書は、当面世界各地に跨って少なくとも50MWの水素FCプラントを稼働させると共に、2015年までには、新しく建設される発電プラントによる発電量の10%を、水素FCが賄うような状況を実現すべきであると論じている。
 論文発表の中には日本人のそれも含まれている。大規模PEM型水電解槽とFCを組み合わせた負荷平準化のための電力・水素エネルギー貯蔵システムに関して、その概念設計とコスト評価が神鋼Pantec(神戸)と中部電力の研究者によって発表された。電解槽は毎時700Nm3の水素を生成することが可能で、FCは1MW級の規模を持つ。FCの種類や性能についての記述はないが、PEM型ではないかと思われる。彼等のコスト試算によれば、資本費(capital charge rate)を16%、オフピークに於ける電力コストを3cents/kWhと仮定すれば、水素のコストは電解槽の電流密度が1A/cm2においては$6.3/kg、より高い6A/cm2においては$4/kgとなっている。電解槽自身のコストは、低電流密度のタイプでは約100万ドル、高電流密度のそれで200万ドルを若干下回る値が提示されている。
 DCH Technology, Valencia, CAは、Los Alamos国立研究所と共同で、低出力小型円筒型FC(PEMと思われる)を開発したと発表した。このFCスタックは低出力でも効率の高い点が特徴で、定格出力に於いては57%の発電効率を記録した。Wレベルの低い部分負荷においてもなお高い効率を維持できると同社は語っている。約15gの水素を蓄えるシリンダーが取り付けられており、それによって250Whの電力を取り出すことができる。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 1999 Vol.XIV/No.5, pp5-6)

(2)トンネル工事用FC機関車の開発
 トモエ電機工業は三菱重工業と共同で、PEFCを動力源とするサーボ・ロコ(トンネル工事等で使われる機関車)の実用化実験を開始すると発表した。この車両はトンネルという閉鎖的な空間で動作するためクリーンである必要があり、したがって燃料には水素が採用された。又長距離運転ができるよう、水素燃料の貯蔵には体積密度の高い水素吸蔵合金が選択された。今年度下期中に評価を終え、2000年度に大手ゼネコンの協力を得て製作を開始する予定。この技術が実用化されれば、鉄道のトンネル工事や電線の地中化に伴う共同溝施設作業などで求められている1工事区間の長距離化が容易のなる。
 トンネル工事は通常2ないし3kmを1工区とし、工区毎に立坑を掘っている。しかし、コスト削減のため、最近は1工区を6km程度に長く、立坑を少なくして、作業のをスピードアップするという対策が採られている。そのためロコも高速で長距離輸送が可能なものが求められている。今回のプロジェクトでは、1工区が10ないし20kmでも使用できるロコの開発を目指している。
(日刊工業新聞99年6月1日)
 

― This edition is made up as of June 3, 1999 ―


A POSTER COLUMN

1. 日本GMによるFC技術広報資料
 日本GMは、GMグループに於けるFCの開発状況を纏めた小冊子「FC広報資料(日本語版)」を発行した。アメリカGMは30年前からFCの研究開発に取り組んでおり、同書ではGMグループによる開発の歴史と取り組み、およびそのメリットが分かりやすく解説されている。自動車メーカが発行した初の日本語による本格的な技術解説書である。現在GMはドイツとアメリカの計3カ所に"世界代替動力源研究センター"を設けて、FCVの実用化を目指した開発研究を実施している。
(化学工業日報99年5月14日)

2. PEFC膜の開発
 上智大学理工学部の緒方教授と陸川講師等のグループは、Nafion膜に匹敵する特性を持ちながらも、価格が大幅に安いプロトン伝導膜を開発したと発表した。これは耐熱性が高く含水性を持つポリデンズイミダゾールの側鎖にアルキルスルホン酸を導入して製作された芳香族系膜で、従来のフッ素系膜に比べて安価な点に特徴がある。同研究グループはこれが、フッ素系膜を大きく上回るプロトン伝導性と共に幅広い温度範囲でも安定した動作を示すことを確認した。より具体的には、スルホン酸基にブタンスルホン酸を導入したものは、 30?85℃の範囲においてNafion 115に比べて1桁高い導電率を示し、又温度変化に対する安定性についてもNafion膜の2倍以上の性能をもつことが確認された。陸川講師は「開発した膜はPEFCの電解質として充分な性能を持っている。フッ素系膜に比べて安価であり、今後機械的強度の改善を図っていきたい」と語っている。
(化学工業日報99年2月22日)