34号 NECAR4ワシントンでの華麗なデビュー

Arranged by T. HOMMA
1. PAFC実証運転実績
2. SOFC研究開発情報
3. PEFCの要素とシステム開発
4. FCV最前線
5. 水素吸蔵技術
6. 国の政策
A POSTER COLUMN


 
 
1. PAFC実証運転実績
(1)実証実績
 PAFCの実証運転実験では、99年3月末現在、次の4ユニットが累積運転時間で4万時間を超えた。東京ガス;田町200kW(ONSI)、大阪ガス;コープ姫路白浜100kW(富士電機)、大阪ガス;酉島FCセンター200kW(ONSI)、大阪ガス;大津タイヤ泉大津工場200kW(ONSI)。又最長連続運転時間では電源開発若松総合事業所の50kW機(富士電機)が1万時間以上の世界新記録を達成した。
 99年から運転を開始した機種は、東京ガス;都立科学技術大学200kW(ONSI/東芝)、東京ガス;NTT武蔵野研究開発センター200kW(ONSI/東芝)、大阪ガス;コープ姫路白浜100kW(富士電機)、大阪ガス;マイカル三田200kW(ONSI/東芝)、東邦ガス;名古屋栄ワシントンホテルプラザ100kW(富士電機)、東邦ガス;東海理化本社工場200kW(ONSI/東芝)

(2)生ゴミバイオガス
 鹿島は高温メタン発酵型の生ゴミ処理システムによって得られるバイオガスを燃料とするPAFCの実証実験を行うことになった。調布市の技術研究所内で実証設備の設計・製作に入り、7月頃の試運転を経て99年9月には実証運転を開始する予定である。生ゴミを1日に200kg処理して約40mのバイオガスを生成し、PAFCによって50kWhの電力を発生させることができると予想している。40mのバイオガスは濃度調整、不純物精製を経て50mのガスホルダーに一旦貯蔵され、ガス成分を確認した後PAFCに導入される。鹿島は既に固定床式高温メタン発酵式の有機性廃棄物再資源化システム“メタクレス”を95年に商品化しており、大型商業施設に納入した実績を持っている。今回のプラントは、バイオリアクターや浸漬膜活性汚泥法による2次処理プロセスで微生物濃度を高くするなどにより、コンパクト化を図った点に特徴がある。又PAFCについては、東京都江東区の大型複合商業施設“イースト21”で、都市ガスによる200kWプラントを4万時間以上運転させた実績を持つ。
(化学工業日報99年4月20日)
 

2. SOFC研究開発情報
 平板型SOFCを市場に出すことを目的に、アメリカGRI (Gas Research Institute)およびEPRIが、Utah大学や民間企業MSRI (Materials and Systems Research, Inc.)と共同で設立したコンソシアムは、更に産業界からの協力を取り付けて、ここ3年から4年以内に準商業化実証ユニットを製作したいとの期待を述べている。平板型SOFCは、従来WH社が開発した円筒型に比べて技術的に困難な問題が多いとされ、例えばドイツのSiemens社はWH社のFC部門を吸収して以来、平板型の開発を断念した。コンソシアムの開発責任者であるDr.Kevin Kristの発表によれば、このGRI/EPRIプロジェクトによって開発されてきた平板型SOFCは、他機関で開発されたタイプには見られない多くの長所を備えている。その第1はセルが薄い電極に支えられた薄い電解質で構成されているため、電解質でのオーム損が極めて小さく、高い発電効率と同時に高い電力密度が得られる点にある。最近の実験成果は動作温度800℃で、単セルでの出力密度2W/sq.cmを実現した。第2の特徴は600ないし700℃の低い温度で動作が可能なことである。そのため材料に安価な金属を構造材料として使えるので、大幅なコスト低減をもたらすことができる。Dr. Kristは最終的にはこのタイプのSOFCシステムは、47から65%の高い発電効率を持ち、システムコストについては$700/kWが実現可能であると予想している。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 1999, Vol.XIV/No.3, p8)
3. PEFCの要素とシステム開発
(1)日本ガス協会
 日本ガス協会は、99年4月15日、経団連会館で記者会見し、協会内に家庭用FCコジェネレーションの研究開発を行うためのPEFC開発プロジェクトグループを99年2月に設立したことを明らかにした。協会はNEDOから補助金を受け、1)発電効率30-35%、総合効率60-70%、2)コスト低減、3)300lit.冷蔵庫並小型化を目標に開発研究を行う。既に東京、大阪、東邦ガスの大手3社から技術者が派遣されており、出力1kW級PEFC3台を設計した。PEFC本体の開発はメーカにまかせ、大手ガス会社は都市ガスの改質装置を開発、協会自身はシステム化とパッケイジ化を担当する。
(電気新聞99年4月16日)

(2)東芝
 東芝は-40℃の低温下で85秒で起動が可能なPEFCシステムの開発に成功したと発表した。気温が氷点下以下になるとFCで生成された水が氷結して配管が詰まり、起動が遅れる等の問題を生じる恐れがある。同社はFCから排出された水蒸気を液化する以前に回収すると同時に、FCの冷却には不凍液を用いることにより低温下での起動・運転を可能にした。この技術を適用して出力50kWのPEFCを試作し、自動車メーカーにサンプルを提供する予定。
(日本経済新聞99年3月20日)

(3)イギリスAPS社
 イギリスのAdvanced Power Sources(APS)社は、DTI (Department of Trade and Industry)の資金援助で進められてきた“PEFCのコスト低減を実現するための生産技術の開発”を目的とするプロジェクトを完了し、低コスト且つ高性能PEFCの商業化に対する目途をつけたと語っている。冷却装置を組み込んだ金属製バイポーラプレートを採用したPEFCが、同社が開発した大量生産工程を用いて作製された。1998年12月に完成した出力1.4kW PEFCユニットは、電極面積が200cm2、白金合金保持量が0.4mg/cm2で、水素ガスおよび空気が0.5気圧の動作条件に於いて、スタック中央部で1.2kW/lit.、0.4kW/kgの高い出力密度を記録したと報告されている。2気圧の動作圧では、電流密度0.5A/cm2以上でセル電圧は0.7V、出力密度は1.7kW/lit.、0.5kW/kgを達成した。ここで実証された技術を適用して出力10kWフ準商業化実証ユニットを開発すると同社は話している。
(UK Newsletter, Issue 8, March 1999)

(4)旭硝子
 旭硝子はPEFC用イオン交換膜の開発を本格化し、今後30ないし40μm厚の膜を量産する技術の確立を目指すことになった。同社は食塩電解用で培ってきたイオン交換膜の技術をベースにPEFC用電解質膜の開発を進め、50μm膜については既に試作段階にあるが、これを更に薄膜化するとともに、従来の押出成形法では膜の強度に影響のある均一性に限界があるため、新しい成型法を採用することにした。膜の高性能化と同時に効率的な製造方法を開発し、3ないし5年後には本格生産に入りたいと述べている。PEFCを用いたFCV1台当たりに使用するイオン交換膜は30m2程度と推定されるので、仮に100万台普及するとすれば需要は3,000万m2になり、世界で稼働中の食塩電解用膜の約40万m2をはるかに上回る市場となる。
(化学工業日報99年4月19日)

(5)アメリカDOEプロジェクト
 アメリカDOEは、PNGVの目標性能を達成するような自動車用PEFCフ開発プロジェクトに7,000万ドルを拠出することになった。プロジェクトの期間は2ないし3年で、AlliedSignal、Arthur D. Little、Energy Research Corp.を含む11の会社および研究機関が参加する。これはDOEのBill Richardson長官によって99年3月始めに発表されたものでる。なお本プロジェクトにはビルのコジェネレーション用PEFCの開発も含まれている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 1999, Vol.XIV/No.3, p3)
 

4. FCV最前線
(1)Daimler-Chrysler
 Daimler-Chryslerは液体水素を燃料とするFCV “NECAR4”を発表した。“メルセデスAクラス”の自動車で、最高速度は時速144km、1充填走行距離は約450kmと発表されている。同社はこれを「実際に試乗できるアメリカにおける初めての自動車」と位置ずけており、アメリカ政府に対する印象を意識してか、“デトロイト”ではなく“ワシントン”でイートン、シュレンプ両会長が記者会見を行った。2004年に生産を始める計画で、両氏は「これは普通のガソリン自動車にひけをとらないFCVで、自動車業界では初の快挙」と話している。
(朝日、日本経済、日刊工業、日経産業、日刊自動車、電波新聞99年3月19日)

(2)トヨタ&GM
 トヨタ自動車とアメリカGM社は、99年4月19日、EV、FCEV、ハイブリッド車等次世代自動車に搭載する先進環境技術の共同研究開発で、包括的な提携関係を結ぶことに同意したと発表した。 両社間で技術開発分野毎にワーキンググループを設置し、2003年までの今後5年間を目途に、これら次世代車の駆動・制御システムの共通規格や、車両の安全基準作りを始め、将来のシステム設計を含む要素技術開発で協力する。目下のところ具体的な車両を開発する計画はないが、特許申請など共同の研究開発成果についてはその都度両者間で協議して、公開していくとしている。
 先行的技術開発の分野では、トヨタはこれまでもEVの充電システム開発でGMと手を組んできたし、又高度道路情報化システム(ITS)分野では、ドイツのフォルクスワーゲンと提携するなど、技術分野でグループ化を進めてきた。今回のトヨタ・GM間の包括的提携について、トヨタは「他の参加企業があれば受け入れる」と言っており、今後もグループ化を積極的に推進していく方針のようである。(朝日、毎日、読売、日本経済、日経産業、産経、日本工業新聞99年4月20日)
 トヨタの和田副社長は、99年4月22日に行われた記者との懇談で、FCVの開発のためにはGMの子会社である“オペル”との技術交流や協力体制が強化されるとの見通しを示した。同副社長は「次世代カーの開発は、実際にはドイツのオペルが担当している」ことを強調した。又当面2003年までの5年間の契約期間としたGMとの提携については、「5年間で契約を打ち切る可能性は低いだろう」と語り、契約を長期間続けたいとの意向を表明した。
(中日新聞99年4月23日)

(3)アメリカにおけるFCVの走行試験
 バラード社は99年4月20日、自動車大手のフォード、ダイムラー・クライスラー、石油大手のロイヤル・ダッチ・セル等の企業連合が、カリフォルニア州と共同で、2000年から3年間、FCV約50台による走行テストを行うと発表した。この運転計画では、フォードとダイムラー・クライスラーが当初それぞれ5台のFCVを出場させ、カリフォルニア州は25台程度のバスを運行させる。又アトランテイック・リッチフィールド、ロイヤル・ダッチ・セル、テキサコの石油大手各社もこれに参加し、最適な燃料の開発や燃料供給体制のあり方などについて検討する予定と伝えられる。
(日刊工業、日本工業新聞99年4月22日)
 

5. 水素吸蔵技術
 東北大学工学研究科の岡田益男教授のグループは、常温で水素吸蔵能力の極めて高い合金を開発したと発表した。新合金の水素吸蔵量は世界最高水準の2.5-2.6wt%で、この値はランタン・ニッケル合金の約2倍の大きさである。水素吸蔵合金は、水素と結合する金属と水素を結合しない金属を数種類組合せて造られる。前者の金属類としては希土類やバナジウム、チタン等が挙げられるが、バナジウムは3.8wt%の高い性能を持つものの結合力が強く、水素を放出し難い欠点を持っている。現在は水素吸蔵量が1.2wt%であるランタン・ニッケル合金が電池等に応用されている。同教授等が開発した新合金は、バナジウムの比率が全体の1ないし2割で、残りはチタンと水素を吸蔵しないクロムで構成されており、それによって20-40℃での有効吸蔵量2.5-2.6wt%を実現した。水素燃料FCVの実用化に貢献するものと思われる。
(河北新報99年3月23日)
6. 国の政策
 工業技術院はニューサンシャイン計画で進めているPEFCの開発目標を一部見直す。すなわち、PEFCの開発目標を早期実用化の観点から変更し、用途別の技術開発を加速する。数十kW級の事務所用電源については、従来電池本体のコストとサイズを小さく抑えることが可能な加圧型システムを指向してきたが、コスト、システムの両面から再検討した結果、加圧型に比べて常圧型システムの方が製作コスト、発電効率、信頼性において優れていることが判明したので、システムの開発目標を常圧型に変更することにした。又数kW級の家庭用電源についても、使用燃料を天然ガスに特化、メタノールについては開発対象から除外する。自動車用PEFCについては民間の開発意欲が高いことから、今後2年程度かけて官民の役割分担を再検討し、国のプロジェクトでは民間の取り組みを加速する観点から、低コスト化技術や燃料供給インフラ面での基盤技術を充実していく方針である。
(化学工業日報99年4月16日)


― This edition is made up as of April 30, 1999 ―

A POSTER COLUMN

Daimler-Chrysler社ワシントンでNECAR-4を華々しくデビュー
 Daimler-Chryslerがアメリカの首都ワシントンに於いて ”NECAR-4” を華々しく公開した模様は、Hydrogen & Fuel Cell Letterによっても詳しく報じられている。同社の会長代理(co-chairman)Bob Eaton氏は、”It was important for us to come to Washington”と語っているように、この新しい液体水素FCVの公開を、リーダやオピニオンメーカ達の集まるワシントンで行うことにより、同社自身とこのzero-emission FCV技術に対するアピールの効果を計算していたようでる。演出も極めて派手で、大きく響きわたる大音響と華やかなスクリーンの映像を伴って、まるでHallywoodのshowbizを思わせるように、Eaton氏の運転するブルーと銀色の小型車 ”NECAR-4” がRonald Reagan International Centerの舞台中央に登場したと同紙は報じている。
 NECAR-4は5人乗りで、そのエンジンはBallard製PEFC2スタックで構成されている。その出力は70kW、前回のNECAR-3に比べて車のサイズは同一ながら、出力は40%大きく、したがって最高時速は144kmで約20%高くなっている。そして走行距離(450km)も30マイルは長く、燃費は50%改良されたと同社は語っている。 すなわちNECAR-4は100km当たりにデイーゼル油の3.2lit.に相当する水素を消費するが、同社FCVのプロジェクトリーダであるDr.F.Panikの言葉を引用すれば、現在ヨーロッパで販売されているデイージェル車に比較して燃料効率は2倍にまで高められたことになる。エネルギーフローの分析結果によっても、タンクから車輪までの熱効率は、New European Driving Cycleによる分析で約36%であり、今日の性能の高いデイーゼル車(good diesel)の24-25%、ガソリンエンジンの約22%に比較して極めて高い性能を示している。しかもNECAR-3のようにメタノール改質を要しないので、始動は極めてスムーズである。3年前に公開された圧縮高圧水素ガスを燃料とするミニバンNECAR-2が最高時速68mph(110km/h)、走行距離148mile(240km)であったことを思い出すと、技術的性能が着実に進歩している様子が伺える。
 「NECAR-3は技術的には優れた車であったが、FC、改質装置、その他の補助装置が車のスペースの半分を占めていた。私は3ヶ月前にそれを運転したが、まるで“騾馬”に乗っているようであった」とEaton氏は述べている。NECAR-4では後輪の車軸上に設置された7kg(100lit.)の液体水素を蓄えた高性能断熱タンク(superinsulated tank)を除いて、全ての動力機関用コンポーネントは2重層構造の床の間にサンドウィッチ状に押し込められている。「同社は2004年までにFCVの限定生産(limited production)を始める予定に替わりなく、そのために14億ドルが費やされることになろう」更に「我々は最も困難な(most challenging)技術的問題を解決した。今日FCVの技術的可能性の実証を目指すレースに挑戦する」これは同社の幹部による発言の要旨である。
 しかしこれで全ての問題が解決された訳ではない。最も重要な問題は先ずコスト低下であろう。大量生産を仮定したとしても、FCエンジンハードウエアの価格は現時点で30,000ドルであり、この値は内燃機関の10倍の大きさになる。FCVのパーキング中に於ける液体水素の蒸発量についても疑問が投げかけられたが、これに対してDr. Panikは1%/日に過ぎないと答えている。1つの解決策として、小さい水素化物を車に搭載して、蒸発した水素ガスそれに吸収させる方法も考えられる。インフラ問題も又大きな課題である。これには莫大な資金を要しよう。California, New York,および Massachusetts州に存在するサービスステーションの30%をメタノールに変えるだけで、4億ドルの資金を必要とするとの報告も出されている。水素への変換には14億ドルの出費が必要かも知れない。更に燃費を向上させるためには、車体の軽量化も必要である。NECAR-4の車体重量は1,580kgであるが、この値は標準のAクラスデイーゼル車の1,120kgに比べてかなり大きく、同社は300kgは軽減したいと語っている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 1999, Vol.XIV/No.3, pp1-2)