30号 強気の市場予測を支えるFCVへの期待

Arranged by T. HOMMA
1. PAFCの利用展開とコストダウン計画
2. SOFC情報
3. 燃料電池自動車(FCV)の開発に関するトピックス
4. FCV(FC自動車)の市場予測
5. FC自動車(FCV)の問題点
6. FCスクータの開発計画
7. 家庭用PEFCの市場開拓
8. FCによる炭酸ガス濃縮
A POSTER COLUMN


1. PAFCの利用展開とコストダウン計画
(1)東邦ガス
 東邦ガスは、99年1月から新たに東海理化電機製作所の本社工場(愛知県大口市)および名古屋栄ワシントンホテルプラザにPAFCを設置する計画を進めている。ともにコジェネレーション用で、前者には出力200kW、後者には同100kWのプラントが設置される。又同社はSOFCの技術開発にも取り組んでおり、21世紀初頭にはPAFC事業を商業ベースに載せ、SOFCについては早期の実用化を図る予定である。
(日本工業新聞98年10月21日)

(2)富士電機
 将来PAFC市場が本格的に立ち上がるとの予想を前提に、富士電機は出力100kW機種の大幅コストダウンと高機能化を図り、本格商用機の出荷を2001年にも開始することにした。2001?2年には同社変電システム製作所(千葉県市原市)内に最新の量産設備を整備し、本格的な販売活動を展開する予定。解決すべき具体的な課題としては、FCスタックに用いられるカーボン材の低コスト化、出力密度の向上によるセル数の削減、セル量産化技術の開発、主要機器の複合化と削減によるシステムの簡素化、機器の小型・軽量化等が挙げられている。当面のコスト目標は現在の60万円/kWから40万円/kWにまで下げることにあるが、量産効果による更なるコストダウンを実現するため、燃料および排熱の多様化を図るなど適用範囲を拡大して市場展開を積極的に進めていく予定である。少なくとも年間50台、長期的には年間100台程度の受注を確保し、周辺機器、メインテナンスを含めて80億ないし100億円の事業規模にしたいと語っている。なお同社による今までの累計納入PAFCプラント数は101台で、出力の総計は12,900kWを超えている。
(電気新聞98年10月23日)

(3)有機廃棄物リサイクルのためのPAFC導入計画
 汚染水(processed wastewater)や有機廃棄物のコンポスト(composting of biological waste)から生成されるメタンを燃料として動作するONSI製PC25C2台が、アメリカ・カリフォルニア州に導入されることになった。発注者は同州Camarilloにある分散型エネルギーのサービス機関 ”Energy 2000” で、メタンは ”Rancho Las Virgenes Biosolids Composting Facility” から供給され、PAFCで得られた電力と熱は先ず廃棄物の処理プロセスと同施設に於いて消費される。排出されたメタンを燃焼させるよりも、2台のPAFCの導入により年間500万ポンド(225万kg)の有害物質や温暖化ガスの排出が抑制されるとONSI社は述べている。ロスアンジェルスAir Quality Management Districtは今後排気規制を強化していくであろうことを考えると、今後は燃焼過程を導入することは不可能で、これをきっかけにFCの導入が更に広がっていくであろうとEnergy 2000の社長はその期待を表明した。

 ドイツでもCologne市および同市の電力業者GEWが、下水処理プラントの発酵過程で生成されるガス(fermentation gas from a sewage plant)で運転するONSI製プラントを導入しようとする計画が進行中で、1999年半ばには運転を開始する予定と報じられている。投資額は130万ドルと推定される。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter Oct.1998, Vol.XIII/No.10, pp5-6)


2. SOFC情報

 Siemens社は、Erlangenで行っていた平板型SOFCの研究開発を中止し、今後はWH社の円筒型SOFCの開発に努力を集中することにしたようである。同社自身がこの決定を公式に認めているわけではないが、同社の役員や子会社KWUのCEOは、この事実を伝えている。スイスのSOFCの専門家Ulf Bossel氏によれば、Siemens社が設計した平板型SOFCは、セルのシールに於いてトラブルを抱えていた。すなわち、スタックの周辺に位置するセルのシールをチェックするためのアクセスは可能であるが、内部に位置するセルのチェックは難しく、ここに問題があったようである。しかし、Bosel氏は「これは設計上の問題(conceptual design problem)であって、平板型SOFCの実用性を否定するものではない。現に日本に於いてシールに成功した幾つかの例を見ることができる」と述べている。

 Siemens社はWH社の非核電力部門(non-nuclear power generation section)を12億5000万ドルで引き継ぐが、この1部として円筒型SOFCが含まれている。買収に伴うリストラに5億ドルの費用と4年間の年月を要するので、これが直ちにSiemens社の利益に繋がるわけではないが、両社による合計売り上げ額135億ドルは、Siemens社の発電技術部門の業績 (international power generation business)を、GE社に次ぐ2番目の地位に引き上げることになろう。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter Oct.1998, Vol.XIII/No.10, p1)


3. 燃料電池自動車(FCV)の開発に関するトピックス

 フォードのFCV(FC自動車)のプロジェクトを指揮するフォード・エレクトリックドライブ・カンパニーのロス・ウイッチョンキ社長は「フォードは環境に優れた車種の開発を優先順位の1位に置いている。これまでにも低公害車を開発しており、北米市場ではその車種は12種類にも達する。しかし長期的にはFCVが有力で、フォードは4億2000万ドルをFCVの開発に投じている」と語った。
 日産は“日産環境会議”でFCVの試作車を公開した。PEFCはバラード社製で、メタノール改質装置および蓄電用のリチウムイオン電池が搭載されている。同社は「自動車用FC技術はバラード社が独走しているのではないか」と語り、FC動力部分については外部調達の方針を固めているようである。
(日経産業新聞98年9月24日)

 メルセデス・ベンツ日本(MBJ)のライナー・ヤーン社長は、将来日本市場にFCVを投入する考えを明らかにした。ダイムラーベンツ社は、99年初頭に第4世代FCVを発表する予定で、2004年にはFCVの量産体制に入ると述べている。
(日刊自動車新聞98年9月25日)

 Ballard Generation Systemsの新しい開発とパイロットプラント製作センターの発足を記念して、98年9月に開催された”round table discussion”において、同社S.Weiner社長は「我々が必要としているのは、FCの市場を創造する能力と活力(market-enabling activity)であり、我々は既にそれを確実なものにしている」と語ったと報じられている。更に彼は「FCはもはや将来技術ではなく、今日の技術としてここに存在し、生産はもう間近に迫っている(product is just around the corner)。しかしコストはなお一つの障害として残されている」と宣言した。1,800万カナダドルを投じたこのセンターの敷地面積は11万sq.m(約1万m2)で、その内の半分弱が生産設備、残りは事務所、支援設備、および職員のための駐車場で占められている。職員数は現在120人であるが、将来は270人にまで増加する見込みで、又商業生産は1999年12月に開始の予定である。設備は当面のPEFC250kW生産ラインを構成するものであり、又1kWから1MWのレベルにあるFCの小用量生産が可能な配置になっていると報じられている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter Oct.1998, Vol.XIII/No.10, pp3-4)


4. FCV(FC自動車)の市場予測

 21世紀の新技術・新市場調査によると、低公害車の本命とされるFCVについては、2005年に1兆4000億円の世界市場が創出され、2020年までにはその10倍の14兆円市場にまで成長すると予測している。FCVと競合するのが直噴型エンジン車で、現在の市場規模は1兆2000億円強、2020年には16兆8000億円に達し、FCVよりも大きな市場となる。定期バス等でその利用が有望視される天然ガス車は、2020年に世界で4兆5000億円、ガソリンエンジンとモータを併用するハイブリッド車、EVもそれぞれ同2兆5000億円前後にまで育つと見られている。しかしこれらの低公害車は、FCVへのつなぎ役との見方が大勢を占めている。
(日経産業新聞98年10月6日;ホームページhttp://www.nikkei.co.jp/ss/sangyo/)


5. FC自動車(FCV)の問題点

 日経産業新聞は、ダイムラーベンツ社リサーチ部門代替エネルギー担当シニアマネジャーのエルリッヒ・エルデレ氏とのインタービューを掲載しているが、その中からFCVに関する重要な問題点について抜粋し以下に記述する。

 先ずコストについて、FC本体は許容価格の500ないし1000倍高く、実験車は大まかな推定で1万ドル/kWのレベルに達している。内燃エンジンは現在50ドル/kWで、それと同等かそれ以下に下げる必要がある。今の市販車より10%以上高価な車では魅力が無く、我々は最終目標を20ドル/kWに置いている。高価な白金の使用量は、実験車では4mg/sq.cmであるが、これを1/10まで減らしたい。又高分子膜も恐らく500ドル/m2以上で高すぎるが、安くするためには大量生産体制を確立する必要があり、それには膨大な設備投資を要しよう。先ず実証車で生産方式を確立し、量産の前段階の設備を建設できればと考えている。幾つかのタイプの改良車を試作して、最初は年産数千台の規模で始めたい。2004年の生産開始計画までには間に合わせる積もりでいる。

 燃料については、液体燃料を車上で改質するのが望ましく、最も水素を製造し易いのはメタノールである。石油は将来枯渇するとして、メタノールは天然ガスから大量に製造できるし、長期的にはバイオマスや太陽エネルギーも製造に利用できる。しかし水素燃料の実験車ではキーを回せばすぐに起動できたが、メタノール実験車(NECAR3)の場合は改質器の加熱(300℃)に時間がかかり、始動には10?20分を要した。

 ドイツでは2005年の燃料消費量を92年のそれに対して25%、欧州では同15%減少させることを目標としている。車両の軽量化によってこの目標は達成されそうであるが、制限がもっと厳しくなればFCVが有利になる。
(日経産業新聞98年10月6日)


6. FCスクータの開発計画

 計画が期待通り進行すれば、来年の早い時期にDRI(Desert Research Institute)のキャンパスで、世界初のFC駆動スクータが運転を始めているかも知れない。カリフォルニア州の無排気車規制(zero-emission rules)の制定に続いて、台湾でも“販売されるスクータの1%は無排気で無ければならない”との新しい規制がここ数年以内に導入されようとしている。台湾の主要なスクータとモータサイクル生産企業”Sanyang Industry Company”(台北)は、DRI、Texas A&M’s Engineering Experiment Station、Taiwan Institute of Economic Researchのようなアメリカと台湾に於ける研究機関と共同で、FCスクータの実用可能性を調査検討するためのチームを設立した。プロジェクトの費用は56万ドルで、調査対象にはスクータ本体の他燃料の選択や燃料供給インフラも含まれる。このSanyang社は昨年台湾で33万5000台、海外でも17万1000台のスクータを販売しており、台湾に於いては全シェアの1/3を占めている。50から125ccの2行程エンジンを持つスクータは経済的であり、アジアに於ける最も主要な交通手段となっているが、同時にそれは都市部での公害発生源にもなっている。

 調査研究の第1段階では、Zap Power社によってアメリカに導入された蓄電池搭載の電気スクータ”Sun Com”の動力源の1部をPEFCに置き換えたとして、必要なPEFCの出力やサイズを算出するための作業から始められた。Sun Comのピーク出力は約4hpで、約25mphの最高スピードが可能である。これをベースに判断してFCスクータは恐らくピーク出力1.8kWのPEFCと小容量蓄電池を組み合わせたハイブリッド型になろうと思われる。スクータには燃料改質器を搭載するだけの余裕はなく、当面燃料は純水素が使われようが、水素は金属合金のような水素化物(hydride)に蓄えられ、水素の排出にはFC等の排熱が利用される。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter Oct.1998, Vol.XIII/No.10, pp2-3)

7. 家庭用PEFCの市場開拓
(1)Plug Power
 出力7kWの家庭用PEFCプロトタイプを、98年7月に公開したPlug Power社は、市場開拓(marketing breakthrough)を目的に、GE Power Systems社と共同で新しいベンチャー企業GE Fuel Cell Systemsを設立することになり、この程相互理解の覚え書き(memorandum of understanding)に調印した。新企業は家庭又は商用小用量PEFCシステムに関する販売・設置・サービス業務を受け持つことになる。Plug PowerのGary Mittleman社長は「GE Power Systemsとのパートナーシップは、技術の専門家、市場、サービスインフラへのアクセスに道を開くと共に世界的な先進企業のブランド名(brand recognition of the world’s leading energy technology and service company)を持ち得る点にある」と語っている。事業が期待通り進行すれば、99年の早期には準商業(pre-commercial)ユニット1号機が実証運転を開始し、2000年の後期にも商業ユニットが出現するかも知れない。ユニットの小売価格は3,000ないし5,000ドル、発電原価は燃料コストによって変わるが7?10セント/kWhの範囲になるとの試算が発表されている。又初期のユニットは天然ガス、プロパン、メタノールを燃料とし、発電効率は40%、排熱を利用した時の総合効率は70?80%に達すると予想されている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter Oct.1998, Vol.XIII/No.10, p4)

(2)松下電工
 松下電工は98年10月21日、一般家庭で使用されているカセットコンロ用ボンベを利用した小型小容量PEFC“カセットボンベ式FC小型発電機”を商品化し99年秋に販売を開始すると発表した。新しく開発されたRu系触媒によりブタンガスを水蒸気と反応させて水素を生成する改質方式を採用しており、出力250Wユニットであれば、カセットコンロ用ボンベ2本で約3時間の発電が可能である。重さは30kg、価格は80万円、屋外レジャー用のみならず災害時の非常用電源としても利用できると同社は語っている。2003年にはこの方式を家庭用コジェネレーションシステム(給湯)として商品化する方針で、出力は300Wないし1kW、燃料もブタンガスの他、プロパンガス、天然ガス、都市ガス等その範囲が拡大される。なおシステムの寿命としては約2万時間を想定している。
(読売新聞98年10月22日、電波新聞同10月23日)


8. FCによる炭酸ガス濃縮

 横浜国立大学の元平直文助手とIHI社は共同で、MCFCの化学反応プロセスを利用してCO2を効率的に濃縮するための技術を研究している。このプロセスによって大気中の極めて低いCO2濃度を、原理的には最大で67%まで濃縮することができると同時に、酸素濃度を増加させる効果を持つ。火力発電所の煙突にこの装置を設置して排気中のCO2を固定・回収できる他、室内の空気浄化にも利用できると新聞は報じている。

 MCFCに於いては、カソードで1モルのCO2と0.5モルのO2が外部回路から電子を受け取って炭酸イオンCO32?を生成する。この炭酸イオンは電解質中を移動し、アノードに於いて1モルのH2(燃料)と反応して再び1モルのCO2とH2Oを生成し、同時に外部回路には電子を放出する。この過程に於いてもCO2の濃縮効果が存在するが、今回開発された方式は上記のカソードに於ける反応とその逆反応を利用し、外部から電圧を印加することによってCO2の濃縮を実現しようとするものである。したがって、この場合の電極反応は
 カソード:CO2+0.5O2+2e → CO32?
 アノード:CO32? → CO2+0.5O2+2e
である。すなわちカソードで導入されたガスの1成分であるCO2は、電解質中での炭酸イオンの移動を経た後、アノードに於いて1モルのCO2と0.5モルのO2が生成されるので、原理的には67%のCO2濃度を持つ酸素との混合ガスが発生することになる。同研究チームは、外部電源から供給した電流に対するアノードガス流量の関係を実験によって測定し、理論値と極めてよく一致することを確認した。又電池の両極に90mmV程度の印加電圧によって、大気中の薄いCO2濃度を10倍にまで高められること、印加電圧を高めれば過電圧は上昇するが、最大66%まで濃縮できることを確認したと伝えられている。
(H. Kasai他;電気化学および工業物理化学第66巻第6号p635、日経産業新聞98年9月24日)


 ― This edition is made up as of October 28, 1998 ―

A POSTER COLUMN

 東芝は98年10月からエネルギー事業本部のFC推進部を事業部組織に昇格させFC事業推進部とした。又同社はPAFCの普及促進を目的に、各種情報を社外に広く伝えるため「地球の未来を考える?東芝のFC」と題するFC専用のホームページを開設した。重電業界初めての試みである。なお同社のFCは現在、内外の工場、病院等で170台以上が稼働している。
(日刊工業、電気新聞98年10月1日)