28号 進展するPAFC市場と自動車会社の市場戦略
1. 国家的施策
2. PAFCプラント開発成果
3. PAFCの市場展開
4. MCFCの開発
5. SOFCの開発
6. 石炭ガス化FCの開発プロジェクト
7. PEFCの実用性調査
8. 家庭用PEFCの開発
9. FC自動車開発戦略



 
 
1. 国家的施策
(1)工業技術院
 工業技術院は99年度から、地球温暖化問題に対応する技術開発を強化することになった。97年12月のCOP3で締結された2010年までの温室効果ガス削減目標を達成するため、ニューサンシャイン計画等でCO2等温室効果ガスの排出抑制に効果のある革新的技術の開発に取り組む他、更に長期的観点から温暖化を防止するための技術開発を進めることとし、99年度予算要求に向けてテーマの絞り込みを行っている。
 具体的には産業技術審議会、エネルギー・環境技術開発部会、基本問題検討小委員会が纏めた中間報告の内容に沿って、2010年までに実用化が期待できる技術、および実用化の時期が2010年以降になると予想される技術に区別し、短期および長期の両視点に立って技術開発を推進する予定である。特に長期的観点から進めることになる技術開発課題としては、太陽光等自然エネルギーや工場排熱を利用した水素生成技術、石炭の完全脱灰技術等に加えて水素FC自動車の開発が新規に挙げられている。
(電気新聞98年7月28日)

 工業技術院は、ニューサンシャイン計画で進めているFC発電技術開発を抜本的に見直す方針を固めた。MCFC、SOFC、PEFC、DMFC等を含むFC全体の総合的な研究開発戦略を今年度中にも策定する予定である。開発戦略には国の関与のあり方、民間活力の導入策等が盛り込まれることになっており、これにより国家プロジェクトの効率化およびスリム化を図るのが狙いと思われる。既にSOFCに関しては、98年3月に纏められた産業技術審議会の中間答申を基ずき、数十kW級モジュールへのスケールアップを断念、平板型セルについては基礎技術の確立、円筒型については海外での技術開発成果を考慮して長期運転研究による信頼性や耐久性の実証研究を進めるべく基本計画が変更されている。工技院ではMCFCについても技術評価が近くスターとするのを受けて、開発に対する国と民間の役割分担を明確にすることにより、研究開発投資の効率化を実現するとの方針が打ち出されている。
(化学工業日報98年8月5日)
 
 
 

(2)NEDO
 NEDOは98年8月13日、“先導的高効率エネルギーシステムフィールドテスト事業”の98年度新規共同研究事業者を決定した。同事業は次世代PAFCを民間企業の工場などに設置、長期試験運転を行うもので、今年度新たに実施するのはキリンビール栃木工場、東京都立科学技術大学、名古屋ワシントンプラザホテル等7カ所で、発電設備容量は総計1,200kWになる。(化学工業日報、電気新聞98年8月14日)
2. PAFCプラント開発成果
 NEDOおよびPAFC研究組合が共同で1991年度から97年度まで実施した都市エネルギーセンター型5,000kW級(加圧型)プラント、およびオンサイト型1,000kW級(常圧型)プラントに関する開発成果の集約結果が発表された。
 5,000kWプラントについては、累積運転時間;6,410時間、発電電力量;13,816,000kW、発電端効率;45.7%、送電端効率;38.5%、設置面積;0.23m2/kW等の実績が得られた。又1,000kWプラントについては、累積運転時間;16,072時間、発電電力量;16,017,000kW、最長連続運転時間;4,102時間、送電端効率;38.2%等が得られている。
(電気新聞98年7月6日) 
3. PAFCの市場展開
(1)アジア市場
 東芝はアジアに於けるPAFCの市場開拓とその販売を積極的に進める予定で、FC推進本部は「インド、フィリピン、香港等から受注を確保すると共に、中国市場へもアプローチする」と語っている。既にインドの総合電機メーカ“BHEL社”とは前年度に1台が成約、現地での据付けを実施しており、更に今後2、3年以内に7台程度の納入が内定しているようである。香港については都市ガス会社“香港ガス”で数回に亘るプレゼンテーションが実施されており、フィリピンへは日本政府の補助事業経由による輸出を目指している。又中国については、同社が開催した重電技術展示会等でFCに対する関心の高さが示されており、将来最も有望な市場として対中戦略を推進していく考えである。「PAFCは電力網の整っていない地域では有効な分散型電源であるのみならず、生ゴミ処理で発生するバイオガスからの副生水素ガスも燃料として利用できるので、環境面からその効果は大きく、アジアに於ける潜在需要は大きい」と同社は期待している。
(電気新聞98年7月17日)

(2)ビール会社への導入
 アサヒビール、サッポロビールに続いてキリンビールも、同社の栃木工場に三菱電機製出力200kWPAFCを導入することにした。年内に設置工事を開始、来年始めには稼働の予定で、投資額は約2億円と伝えられる。ビール工場で発生するメタンガスをPAFCによって電力と熱に変換し、それによって工場消費電力の約5%を賄う計画である。(日本経済新聞98年7月14日)
 アサヒビール、サッポロビールに続いてキリンビールもPAFCの導入を決めたことにより、ビール各社によるFC導入競争が始まったとの観測も流れているが、各社とも2号機以降の導入については慎重であり、1号機の稼働状況を観てからとの方針で一致している。あるビール会社の担当者は「現在の出力200kWプラントで2億円の価格は容量が小さい上に高価であり、せめて1000kW級で価格が半分にならなければメリットは無い」と語っている。今後の課題は如何に費用対効果を向上させられるかに懸かっている。
(日本工業新聞98年7月29日)

(3)実証運転試験
 西部ガスとハウステンポス熱供給は、 NEDOの先導的高効率エネルギーシステムフィールドテスト事業の一環として、ハウステンポス(佐世保市)内にONSI・東芝製200kWPAFCプラントを設置し、フィールドテストを実施することを決定した。実証期間は2002年3月までの予定。
(西日本新聞98年8月14日、日経産業8月17日、日刊建設工業8月20日)

(4)生ゴミFC発電
 エキシー社(千葉県市川市)は、生ゴミを燃料とする200kWPAFC実証プラントを白井町工場に建設、98年10月から稼働させることになった。生ゴミを紛状に破砕して得られたスラリーからメタンを生成し、それをFCに導入する過程に於いて、発生メタンガスから不純物を除去するため、同社が独自に開発した2種類の鉱物触媒を用いた点に本プロセスの最大の特徴がある。生ゴミの破砕技術はドイツのミュラー社から導入、スラリーのメタン発酵速度は従来の4倍にまで高速化されている。燃焼方式のバイオガス発電では、CO2やダイオキシンが発生し、残留物の量も通常2割強と言われているが、本方式ではカルシウムや鉄分が若干残る(4%)だけで、野菜分は完全に分解されると同社社長は語っている。産業廃棄物処理業者等の協力により、飲食業や事務所の生ゴミを引き取り、余剰電力は東京電力に売却する。なお生ゴミの1日の処理能力は6トン、設備費は約4億円で、通産省の補助金を受けることになっている。
(日刊工業新聞98年8月19日)
 
 
 

4. MCFCの開発
 MCFC研究組合による最近の開発状況調査によれば、MCパワー社はアメリカ・サンデイエゴでの250kWスタックによる発電運転試験に続いて、98年秋にも75kWスタックでの運転実験を予定している。又MTU等によりヨーロッパで実施されていた280kW内部改質型MCFC(Hot Module)による運転試験は97年中に修了したようである。イタリア、スペインが計画している100kWMCFCの運転試験については、アンサルド社でのスタックの製作が完了、先ずスペインでスタックを試験した後、再度イタリアに移送されてシステム試験が実施される予定とのことである。
(日刊電気通信98年7月22日)
5. SOFCの開発
 東京ガスは98年7月14日、将来家庭への導入が期待される都市ガスが利用可能な出力1kW級平板型SOFCの発電実験に成功したと発表した。実験に用いられたSOFCユニットは、12cm角、厚さ0.2mm、電極面積100cm2の薄型セル48枚を積層して構成されたスタックを2個並列接続したシステムで、内部改質方式が採用されている。1,000℃に加熱してメタンと水蒸気を吹き込んだ結果、1.68kWの発電出力を記録した。内部改質型平板型SOFCの場合、ガスのシールや熱応力の緩和など技術的課題を克服する必要があり、今までにkW級モジュールでの実施例は存在しなかった。今回の発電実験の成功は、メカニカルシール、内部マニホールド方式の採用など高度な積層化技術に加え、同社が独自に開発した“高性能且つ耐久性に優れた電池材料”および“アルミナを用いたセパレータ”を組み合わせることで可能になったと説明されている。メタンを主成分とする都市ガスを用いて簡単に発電できる点において家庭での利用に有利と判断される。同社は今後耐久試験や構造等の研究を進め、21世紀初頭での実用化を目指すことになった。
(日本経済、日経産業、日本工業、電気新聞、化学工業日報等98年7月15日)
6. 石炭ガス化FCの開発プロジェクト
 電源開発は北九州市の若松総合事業所でFC用石炭ガス製造技術開発(EAGLE)パイロットプラントの建設工事に着手したと発表した。これは石炭ガス化複合発電(IGFC)に適用可能な石炭ガス製造設備の開発を目的としたプロジェクトで、通産省の補助金を受けて実施されている。IGFCは、FC、ガスタービン、および蒸気タービンを組み合わせたトリプルコンバインドサイクルで、送電端効率53%を予想している。すなわち石炭ガス化炉で微粉炭をガス化し、ガス精製設備で石炭ガス中のダストや硫黄化合物を除去、FCに適用が可能なレベルまでガスをクリーンにする。それをFCに導入して発電した後の高温高圧ガスによってガスタービンを回転、更にその排ガスで蒸気タービンを回転させる方式である。2000年度までに石炭ガス化炉や精製設備等を製作し、2001年度から2004年度に駈けて運転試験と評価を実施する予定となっている。試験規模は石炭処理量で150トン/日、又2004年度までに至るプロジェクト全体の開発費用は、国の補助を含めて約240億円(内2/3は国からの補助)と見積もられている。IGFCに適用するFCとしては、電発が現在開発中の加圧型SOFC(現在は出力10kW級)が挙げられており、この開発研究は今後EAGLEと歩調を合わせて進められることになろう。
(電気、日経産業新聞98年8月4日)
7. PEFCの実用性調査
 ドイツ電力大手のBEWAGは、ドイツHEV、プロイセン・エレクトラ、VEAGおよびフランスEDFの電力大手4社と共同で、定置式PEFCの実用性に関する調査を始めることになった。PEFCは自動車用のみならず自家発電用にも普及が見込めるとの判断に基ずくもので、実証のため出力250kWPEFCをBEWAGの構内に設置する。プラントはBallard Generation Systems(BGS)が開発し、ドイツのアルストム・エネルギーテヒニックが生産したFCで、99年前半には設置を完了する予定である。燃料は天然ガスの改質ガスと共に、太陽光発電から得られた電力による水電解で生成された水素が用いられる。このため出力10kWの太陽光発電と水電解装置も設置される。投資額は750万マルクで、その4割をECが出資、残りの6割が5社の分担となる。
(日経産業新聞98年8月19日)註
8. 家庭用PEFCの開発
 三洋電機は既に水素燃料可搬型PEFCユニットの商品化を行っているが、更に天然ガスを燃料とする家庭用PEFCユニットの実用化開発を進めており、今世紀中にも市販化したいと語っている。同社の戦略としては、家庭用にFCを広く普及することによってコストを低減し、続いて自動車用を目的としたメタノールやガソリン改質PEFCの開発を進めるものと思われる。
(日刊自動車新聞98年7月11日)
9. FC自動車開発戦略
(1)オペル社
 ドイツのアダム・オペル社は、FCの開発機関“GAPC”の活動を開始した。GAPCはオペルおよび同社の親会社であるアメリカGM社の自動車用代替燃料エンジンの研究開発を推進する機関である。2004年を目途にFCエンジンを実用化することを目指しており、GMのウオーレン研究所(ミシガン州)およびロチェスター研究所(ニューヨーク州)と共同開発を行うことになろう。
(化学工業日報98年7月24日)

(2)フォルクスワーゲン社
 ドイツのフォルクスワーゲン(VW)は、同社ウオルフスブルグ工場でFC研究室の建設に着手した。VW社は2000年までに最初のプロトタイプを完成させる方針で、このプロトタイプ車は、最高速度の向上とブレーキによるエネルギー回収を目的に蓄電池を搭載したハイブリッド車になる模様である。
(日刊自動車新聞98年8月13日)

(3)東芝とUTCによる合弁会社
 東芝とアメリカ航空機部品大手のユナイテッド・テクノロジー(UTC)社は、自動車動力源用PEFCを共同で開発することに同意した。98年8月1日付でアメリカに合弁会社を設立、2000年までに普通乗用車に搭載可能な出力50kW級FCを開発し、2003年までに市場へ投入する予定である。新会社の出資比率はUTCが90%強、東芝が10%弱であるが、自動車会社の参加を呼びかけることになっている。
(日本経済新聞98年8月2日、電気、日経産業新聞同年8月4日)

(4)ZEVCO社によるFCタクシー
 石油大手のRoyal Dutch Shellの支援を受け、ZEVCO社が開発したヨーロッパに於ける水素燃料FCキャブ1号車が7月末ロンドンの議事堂前で披露された。イギリスに於けるタクシーの伝統的スタイルを持つこの黒色キャブ ”Millenium Taxi” は、都市環境に優しい排気ゼロの次世代自動車で、ZEVCOの代表 Nick Abson氏は記者発表に於いて「我々が開発したキャブは商業化が可能な世界最初の代替エンジン車であり、これは交通運輸技術に於ける目覚ましい変化(sea change)を実現する礎を築いた」と語っている。新聞発表にはShell UKやロンドン自治区のthe City of Westminster、バッテリメーカ、環境団体Greenpeaceの代表も参加した。ZEVCOは、「現在のPEFCエンジンのコストはPound 1,250($2,030)/kWであるが、2001年までには$326/kWに、そして10年後には$65/kWが実現できるものと期待している」のように述べている。又Milleniumu Taxiの現状価格は、同型のデイーゼル車に比べて4,100ドル高いが、ZEVCO社はそれでもlifetime costに於いては既に経済的であるとその成果を誇示している。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, August 1998, Vol.XIII/No.8, p1)

(5)カーボンナノチューブによる水素吸着
 本田技研工業は先ほど2003年までにFC自動車を開発する旨宣言したが、同社は今アメリカの再生可能エネルギー研究所(NREL)と共同で、炭素ナノチューブを水素吸蔵に活用する技術開発を進めている。
(日経産業新聞98年8月25日)

(6)市場予測
 日本経済新聞社が実施した未来技術の市場予測調査では、水素燃料FCを動力源とする自動車の世界市場は、2020年時点で110億ドルに達するとのことである。又“クルマ”の変身は、FCやその周辺機器の市場だけでなく、社会システムのあり方そのものに変革を迫るので、新たな“モータリゼーション”によってもたらされる社会的インパクトについての青写真を描く必要があると論じている。
(日経産業新聞98年8月25日)

(7)水素燃料の利用可能性
 California’s Air Resources Boardの委託で進められていたFC自動車の将来展望に関するリポート ”Status and Prospects of Fuel Cells as Automotive Engines” は、今までに自動車メーカによって投入された動力源用FCの開発資金は15ないし20億ドルに達しており、その効果もあってPEMスタックについてはFCEV用エンジンとして利用可能なレベルに達したと述べている。しかし水素燃料については、その自動車内での貯蔵が技術的にもコスト面からも難しく、又水素供給のためのインフラに莫大な投資を要することから、近未来に於いて自家用自動車(private automobiles)に使われることは無いであろうと論じている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, August 1998, Vol.XIII/No.8, p1-2)
 
 
 

― This edition is made up as of August 31, 1998 ―


 
 
 
 
 

註 本新聞情報には、特に“PEFC”の記述は無いが、BGS社が定置式PEFC250kWの生産設備を開発しつつあるとの報道(Hydrogen & Fuel Cell Letter, Vol.XIII/No.1 p2およびEuropean Fuel Cell NEWS, Vol.5, No.2, p4)からPEFCであると思われる。