26号 PAFCの新しい利用と商業化計画  
1. 内外の国家的機関による政策
2. PAFCの運転実績と商業化活動
3. バイオガス利用PAFC
4. イタリア製小型FCトラックがVeniceに登場
A POSTER COLUMN
*FCセミナー組織(プログラム)委員会について
*6th Grove Fuel Cell Symposium(in 1999)開催予告


1. 内外の国家的機関による政策
(1)98年6月1日に開催された総合エネルギー調査会第36回需給部会に於いて、新しい長期エネルギー需給見通し等に関する中間報告が承認された。今回の報告はCOP3で採択された京都議定書での取り決め事項を踏まえて、わが国のエネルギー・セキュリテイの確保と適正規模の経済成長を実現するための努力目標を示したものであり、2010年のCO2の排出量を1990年度に対して安定化させ得るエネルギーの需要・供給両面のパターンを描いている点に特徴がある。
 新エネルギーに関しては、2010年度での供給量を1,900万klとし、その内訳は以下の通りである。太陽光発電:500万kW、太陽熱利用:450万kl、風力発電:30万kW、廃棄物発電:500万kW、コジェネレーション:1,002万kW、クリーンエネルギー自動車:365万台、燃料電池:220万kW、等が示されている。
(日刊電気通信98年6月3日)

(2)アイスランドの水素エネルギー構想
 アイスランド政府は、Daimler-BenzやBallard Power Systems社の協力を得て、水素エネルギーシステムを実現するための構想と計画作りに取り組もうとしている。アイスランドは、人口がわずか26万人の小国で、人口密度は極めて希薄で平均2人/km2に過ぎない。又同国はクリーンな水力資源に恵まれ、開発可能な水力資源量は64,000GWh/年、その内45,000GWh/年が経済性を満足すると推定されている。これに対して、自国での消費量は少なく、1990年に於ける消費量はわずか4,200GWh/年でしか無かった。水力以外にも地熱資源も豊かで、90年には5,000Gwh/年の熱エネルギーが、家庭の暖房用等に供給されている。したがって、同国はクリーンな水素エネルギーシステムの構築には最も相応しい国と考えられている。計画の最終目的は、15ないし20年間に、アイスランドを水素エネルギー化することに置かれている。
 エネルギー省からこの構想を検討するためのグループ長に指名されたアイスランド議会議員のHjalmar Arnason氏は、H&FCLとの電話インタービューに応じて次のように語っている。先ず計画の第1歩として、Daimler-Benz社がここ1、2年以内に水素FCバス(NEBUSの名前が挙げられている)の運行試験を開始、次いで漁業が同国の最も主要な産業である点に着目し、大型漁船をFC駆動に切り替えること、そして自動車、バス、トラック等の燃料をメタノールおよび水素に切り替えた場合の経済的インパクトについて調査することになっている。更に水素をアイルランド製エネルギー媒体として他国に輸出する体制を確立することが可能かどうかの検討も計画されている。別の情報によれば、これらの水素エネルギー構想に対して日本を含む国内外の企業が関心を示しているとのことである。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, June 1998, Vol.XIII/No.6, pp1-2) 


2. PAFCの運転実績と商業化活動
(1)ガス事業者によるフィールドテスト実績
 東京ガスは、ガス事業者によるPAFCのフィールドテスト状況を纏めて発表した。98年5月末現在で、累積運転時間が3万時間を超えたのは、14ユニットに達している。
下表に98年5月末現在で累積運転時間が3万時間を超えたプラントを示す。
事業者   設 置 場 所 容 量 (kW)           メーカ 運転開始(年/月) 累積運転時間(hrs) 備 考
大ガス 梅田センタービル   200 ONSI   94/10   42,628 移設中
東ガス 東京イースト   200 ONSI  92/11   37,238
東ガス  東ガス田町  200 ONSI  92/11   37,029
大ガス コープ姫路白浜  100 富士電機   93/05   36,786 新型セル
大ガス オーツタイア泉大津工場  200 ONSI  93/06   36,717
東ガス TG千住営業技術センター  200  ONSI  92/12   35,342
東ガス TG袖ヶ浦工場  200 ONSI  93/06   34,563
大ガス RITE   50 富士電機   93/10   33,566
大ガス UNEPセンター   50 富士電機   93/09   33,206 新型セル
大ガス NEXT21  100  富士電機   93/09   32,645 新型セル
大ガス マイカルボーレ三田  100 富士電機   93/12   32,509 新型セル
大ガス 松下電工本社工場  200 ONSI  93/12   32,385
大ガス 住友化学大阪工場  200 ONSI  93/06   32,022
大ガス 酉島FCセンター  200 ONSI  93/02   32,022 旧NTT
(日刊電気通信98年6月10日)

(2)東芝による国内市場開拓
 東芝はPC25C機種を中心に、国内市場に於いてPAFCの拡販に積極的に取り組む姿勢を打ち出した。97年度の受注台数は10であったが、98年度は20ないし30台の受注を目標に、環境対策強化に取り組んでいる食品業界、畜産の尿処理ガスや下水汚泥の利用を指向する地方自治体、ライフスポット関連設備の整備を進める地方自治体等に的を絞って販売を拡大することを考えている。97年度の10台は、“先導的高効率エネルギーフィールドテスト事業”の補助金を受けた名古屋大学(東邦ガス)、NTT中央研究所(NTT・東ガス)、立川都市センター(東ガス)、大阪ガス泉北製造所、RITE(大ガス)、大阪ガス梅田センタービル、並びに“新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法”の補助金を受けたサッポロビール千葉工場(後述)、アサヒビール四国工場の他、自社内での設置等である。(電気新聞98年6月10日)

(3)東京電力の取り組みと運転実績
 東京電力では、需要家からの問い合わせ等に対して適切な対応ができるよう、TEPCO新エネルギーパーク、京橋1、2丁目地区熱供給センター(京橋DHC)、技術開発センターの3カ所にPAFCを設置して、運転操作性、信頼性、耐久性と寿命、点検作業性、電気・熱利用特性、経済性等の課題についてデータ収集・分析を行っている。なお運転実績としては、TEPCO新エネルギーパークの富士電機50kWプラントに於いて、98年3月末現在での累積運転時間が33,601時間に達した。(電気新聞98年6月10日)

(4)三菱電機の販売戦略
 三菱電機は、89年以来10台以上のPAFC実証機を出荷しているが、それらの実績から信頼性は確保できたと判断し、98年度から出力200kWPAFC商用機を市場投入するとともに、2001年度を目途に量産体制に入る計画を立てている。このプラントの用途はコジェネレーションで、温水の他に160℃の蒸気を供給することができる。蒸気は工場の生産工程での利用が可能であるし、蒸気吸収式冷温水器で空調用冷熱を作り出すこともできるので、温水のみを供給するFCに比べて設置対象が広がるものと期待されている。価格については当面40万円/kW程度が目標となる。
(日経産業新聞98年6月9日) 


3. バイオガス利用PAFC
 サッポロビール千葉工場に設置された排水処理施設から発生するバイオガス(メタンガス)を燃料とするPAFCが、98年6月19日から稼働する予定である。これまでバイオガスはボイラ等で燃やされ、専ら熱として利用されてきたが、PAFCの設置によって、同ガスの持つ発熱量の約8割が熱とともに電気としても利用されることになった。FCからの発電量は年間172万8000kWhで、これは同工場の電力使用量の6%を賄い、更に年間152万Mcalの熱が回収利用されることになる。これにより燃料消費量が2%節減されると見積もられている。同社はFCの導入と周辺整備に、総額2億3000万円を投資した。“新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法”に基ずいてNEDOを通して支給された補助金の額は5000万円であった。
(毎日新聞98年6月9日) 
4. イタリア製小型FCトラックがVeniceに登場
 イタリアの会社DeNora S.p.A製PEFCエンジンを搭載した重量0.5トンの商品集配用小型トラック(pickup truck)のハイブリッドプロトタイプ車が、98年5月にベニスに登場した。これはもともと空港や大学のキャンパス等、免許を必要としない限られた区域での使用を目的に、Bechtel Systems社を退任した技術者Warner O. Harris氏が設計し、新会社Coval H2 Partnersが製作したプロトタイプ車である。日本のダットサンを少しめかしたようなスタイルで、5月1日にはベニスのExcelsior Palace Hotelに於いて開かれたDeNora社75周年記念シンポジウム(invitation-only)に於いて公開された。
 エンジンの心臓部を構成するPEFCは出力6.5kWで、大きさは12in.(30cm)×12in.(30cm)×34in.(86cm)、わずかに加圧されてはいるがほぼ常圧で動作し、電極には商品化されたE?TEK製のELATガス拡散電極が用いられている。使用燃料は2個の鋼鉄製圧力容器(commercial K-type steel welding bottle)に封じ込められた2lbs(0.9kg)の圧縮水素ガスで、それにより40マイル(64km)の走行が可能である。動力部には鉛蓄電池が設置されており、この電池による走行距離の増分は同じく40マイルと推定されている。しかし、Harris氏によれば、将来の商業化段階に於いては、耐圧340気圧の軽量カーボン繊維系圧力容器 (carbon/fiberglass pressurized tank)に150気圧の水素ガスを封入する予定で、満タンでの走行距離は200マイル(320km)にまで達すると期待されている。既に述べたように、このトラックの動力はハイブリッドであり、FCが蓄電池を充電し、蓄電池からの放電によって動力が発生する。もし蓄電池容量の20%が放電すると、FCは直ちに充電を始めることになっている。
 価格についてHarris氏は、DeNora社が1000セルのバッチ生産をすると仮定しての話ではあるが、トラック1台当たり25,000ないし30,000ドルの範囲を考えているようである。それに対してDeNora社は、具体的な数字を挙げるのは時期早々と語っている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, June 1998, Vol.XIII/No.6, pp3-4)
― This edition is made up as of June 23, 1998 ―


A POSTER COLUMN
*北京市でのFCバス実証運転プロジェクトに対する入札
 中国のState Science and Technology Commission(SSTC)は、北京市を舞台に展開されるFCバスの実証運転プロジェクトに対して外国企業の参加を求めており、その入札(sealed bids)を実施することになった。プロジェクトに要する費用は、外国企業と中国の対応企業(Chaina counterpart)の両社が負担することになる。入札の詳細な要件や方法(detailed requirements and instructions)を記した12頁に登る英文の説明書が発行されているが、入札の期限は98年6月末で、英文を付した中国語でなければならないと記されている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, June 1998 Vol.XIII/No.6, p7) 
*FCセミナー組織(プログラム)委員会について
 去る98年4月22日と23日の両日、アメリカ・カリフォルニア州Palm Springs Convention Center においてFCセミナー組織委員会が開催され、プログラムの決定と、60の発表(oral)論文と約140強のポスター論文についての選定作業が実施された。このConvention Centerで1998FCセミナーが11月17日から19日まで開催される。

 Palm Springsとは、ロスアンジェルスから高速道を自動車で快走して約2時間で到着する位置にあり、その名の通り椰子の木が立ち並ぶ砂漠の中のオハシスである。街にはあちこちに温泉ホテル(Spa-Hotel) の看板がネオンサインに彩られて輝いており、リゾート地特有のしゃれたレストランや店が立ち並んでいる。ロスアンジェルスからPalm Springsまでの道は、砂漠色をした山の間を突き抜けているが、比較的滑らかな山の傾斜には、多数の風力発電プラントが群をなして立ち並び、車窓からは世界的にも有数の大ウインドファームを間近に見ることができる。

 FCセミナーのSession数はOpeningを含めて11あり、その内訳は以下の通りである。なおOpeningの最後には、Student Poster First Place Speakerの発表が予定されている。

11/17(火)
  午前: Opening Session
  午後: 2A-Power Plant Applications & Demonstrations I
         2B-MCFC R&D
11/18(水)
  午前: 3A-Transportation Applications I
         3B-SOFC R&D I
  午後: 4A-Power Plant Applications & Demonstrations II
         4B-Economic, Environmental, & Reguratory Challenges/Manufacturing
         Capabilities
11/19(木)
  午前: 5A-PEMFC/SOFC R&D II
         5B-PEMFC R&D I
  午後: 6A-Transportation Applications II
      6B-Portable & Compact Systems
 上表から見られるように、今回のセミナーではPAFCのR&Dに関するSessionが無く、開発研究に関してはSOFCとPEMFCに重点が置かれていることが分かる。2Aおよび4AにもMCFCとSOFCが多く含まれており、PAFCに関する論文は4件に過ぎなかった。他方PEMに関係する論文数は多く、それらは3A、5A、5B、および6A以外に、6Bの全てがPEM、DMFC、および改質技術によって占められることになった。FCの開発研究に対するアメリカの関心をうかがい知ることができるように思われる。(本間) 


*6th Grove Fuel Cell Symposium(in 1999)開催予告
 Steven Glaser氏の情報によると、上記 Symp.は1999年9月13日から15日までロンドンの”Queen Elizabeth II Center”に於いて開催される予定である。同センターはWestminster Abbeyの向かいに位置する名高いビル(very prestigious building)で、ロンドンでは最も高価な会場の一つとGlaserは述べている。(Fax from Steven Glaser;EscoVale)
*”Fuel Cell Technology”および”Workshopの開催予告
 自動車用FCの商業化戦略を議論するための Conference ”Fuel Cell Technology” が、1998年9月21日と22日の2日間、又 ”Post Conference Workshop A&B” が23日にアメリカのシカゴ市 ”Midland Hotel” にて開催される。この会議に付けられた標語は

 Maximising Returns from the Latest Revolutionary Energy Source
               “Fuel Cell Technology”
  Discover the Commercial Implications for the Automotive Industry

で発表者の顔ぶれは以下に示すように多彩である。

World Fuel Cell Council, IFC, Rocky Mountain Institute, Energy Partners,
 American Methanol Institute, SGL Technik GmbH, EPYX, General Motors,
  Chicago Transit Authority, Johnson Matthey, Autopolis, Arkenol Inc.
   W.L.Gore & Associates, Natinal Renewable Energy Institute, Exxon R&G Co.

又23日のワークショップのテーマは

 A:Marketing Strategies for Fuel Cell Vehicles;AUTOPOLIS
  B:Fuel Cell Transportation:Advanced Manufacturing technology and Process
    Imprication;McDERMOTT TECHNOLOGY INC.(MTI)

となっている。目下参加受け付け中であり、申込先は
 Call:800-882-8684, or 973-256-0211, Fax:973-256-0205
  E-mail:info@iqpc.com, Web Site:http//www.iqpc.com