25号 平板型SOFC積層化技術の開発進展 
1. 国内外の国家的機関による施策
2. PAFCの新市場と商業化戦略
3. SOFCの研究開発
4. 改質装置の開発
5. FC材料の開発体制
6. PEFC用電解質膜の開発成果
7. PEFCの開発戦略
8. ドイツ自動車会社の挑戦
9. 水素燃料FCバスに関する科学者の評価レポート
A POSTER COLUMN

1. 国内外の国家的機関による施策

(1)DMFC開発研究
 通産省は、98年度からDMFCの研究開発事業を開始することにした。2005年までに技術的めどを立て、2010年頃の実用化を目指しいている。98年度は補正予算で5億5000万円を計上し、高分子膜の開発用施設や車両搭載シミュレーション装置等、研究開発のための施設を整備する予定。(日刊自動車新聞98年5月12日)

(2)NEDOのクリーンエネ自動車開発
 NEDOは、自動車からのCO2排出削減を目的に推進している“高効率クリーンエネルギー自動車の研究開発”の詳細計画を決定した。本プロジェクトは97年10月にスタートし、日本自動車研究所経由で各自動車メーカに研究開発および調査を委託する方式で進められている。開発目標は現行の燃費を2倍以上に引き上げることで、技術内容は圧縮天然ガス(CNG)を利用したセラミックス高効率クリーンエネルギートラック、液化天然ガス(LNG)を利用したLNGハイブリッドバス、ジメチルエーテル(DME)を利用したハイブリッドバス等多岐に亘っているが、FCについては日産自動車がメタノールFCハイブリッド自動車の開発を担当することになっている。(日本工業新聞98年5月25日)

(3)ドイツの官民協力によるFC自動車の開発
 ドイツ運輸省とDaimler-Benz、BMW、VW、Shell等自動車、エネルギー大手7社は、低公害の自動車用燃料や駆動システムの開発・実用化を目的に共同研究を進めることで合意した。FCエンジン車、電気自動車、天然ガス車等、環境性に於いて優れた新エネルギーや駆動機関を比較・検証して、99年末までに有望な方式を絞り込む予定である。そして2000年以降、理想的な方式を選定し、実用化と普及に向けた共同研究に取り組むと共に、最終的には参加企業が共同研究の成果を基に自動車やその燃料を商品化することを目指している。(日本経済新聞98年5月13日) 


2. PAFCの新市場と商業化戦略
 東芝は既に報じられているように、アジアでの市場開拓を進めており、インドの総合電気メーカBHELには98年5月末に200kWプラントを納入したが、今後は運転・保守等の技術を供与し、共同で販売を促進することになった。BHELには、更に2年間で7台の供給を予定している。又両社は中国市場をにらみ、香港の都市ガス会社にも製品供給と技術支援を計画中である。いずれにしても、電力供給網の整備されていない地域ではFCな有効な発電システムであり、その観点からアジアでの潜在需要は大きいものと期待されている。将来は組立技術もBHELに供与し、アジアでのFC生産拠点に育成する構想も検討されている。(日本経済新聞98年5月27日)
 三菱電機は、PAFCの商業化に対する同社の戦略を発表した。歴史的には、95年度までに出荷した10台のプラントを第1世代と位置ずけ、96年度には第1世代機のフィールドテスト結果をベースに信頼性を向上させた第2世代機を製作した。第2世代1号機は奈良医大に設置され、運転時間は既に1年間を経過したが、今までにトラブルは皆無で、信頼性は確立されたものと思われる。現在コスト低減を実現すべく革新的な設計を取り入れた第3世代機の開発を進めている。更にPAFCの市場を拡大するためには、用途の開拓やメインテナンス体制の確立も必要であり、これに関連してプラントの故障診断や故障予知技術力の強化と共に、関連会社ともタイアップしてアフターサービス体制の整備を計画している。(日刊電気通信98年5月29日)
 アメリカニューヨーク市のTime Squareに建設された新しい4棟のオフィスビルに、間もなくPAFCによるライトアップがお目見えすることになった。発注者はDurst Organizationで、ビル正面のライトアップを第1の目的に、2基のIFC・ONSI社製PC25(総出力400kW)がビルのフロアに設置される。契約価格は明らかにされていないが、1台当たり60万ドル、合計120万ドルと思われる。Jody Durst氏は、たとえ停電時でも、PAFCがビルの1部には電力を供給すると語っている。ビルの設計者であるRobert Fox氏は、将来我々設計する他のビルにも、FCを使う積もりであると語っている。(European Fuel Cell, Vol.5 No.2 April 1998, p27) 
3. SOFCの研究開発
 大阪ガスは、新しい構造を持つ平板型SOFCの積層化技術の開発に成功した。これはニッケルフェルトを介して各セルを連結した構造で、積層化してもセルが破損せず、又昇降温サイクル時における信頼性の低下も見られない点に特徴がある。その理由はニッケルフェルトが緩衝材となって高温時におけるセルのそりを吸収するとともに、空気マニホールドが各セルの側面を固定しているので、荷重はマニホールドにかかるような構造となっているからである。大阪ガスは、60枚のセルを直列に積層した新構造のスタックを試作、10回に亘って室温から1000℃まで昇降温を繰り返す運転条件での発電実験に成功し、同構造の優位性を確認した。この様な厳しい昇降温サイクルに耐え得る多層構造平板型SOFCの開発は、世界でも初めての成果と思われる。大阪ガスは、「多層化の実現によって、平板型SOFCの実用化が大きく前進する」と期待しており、今後メーカの協力を得て早期の実用化を目指した開発を進める予定である。(日本工業新聞98年5月27日) 
4. 改質装置の開発
 IHI社は従来の内部燃焼型に比べて2倍の水素生成が可能なLNG改質装置“外部燃焼プレートリフォーマ”を開発したと発表した。今回公表された装置は250kWレベルで、集中燃焼対向流方式が採用されており、1段当たり12Nm3/hrの水素を発生する。従来のチューブ型に比べて圧力損失は10分の1以下、改質温度も約200℃低い780℃で動作し、NOXの発生はゼロに近い。この改質器はアメリカMC-Power社のデモプラントにも採用されている。更に改質室と加熱室を相互に積層することによって構造が簡単になると共に効率も向上し、内部に局所的な高温スポットの発生がなく、最高温度は外部燃焼器の温度のみで決まるので、運転が容易になっている。同社では今後量産化によってコストをkW当たり1?3万円にまで下げ、更に近い将来には1万円以下にまで下げたいと語っている。(化学工業日報98年5月6日) 
5. FC材料の開発体制
 呉羽化学工業は、既にリチウムイオン電池用炭素負極材やバインダーの事業化を進めてきたが、将来ニッケル水素電池やFCが自動車用動力機関として普及する可能性の大きいことを重視して、今後電池材料の開発体制を大幅に拡大することになった。その一環として同社の持つポリマー合成・コンパウンド技術を生かして、柔軟で薄型化できるポリマー電極・電解質や、ガスケットに用いる軽量で耐熱性のある機能樹脂等の開発を手がけていく計画を立てている。電池材料の新たな素材としては、フッ素樹脂やポリフェニレンサルハイドを応用する。研究開発体制については、98年4月1日付けで研究室制をチーム制に変更、そして電池材料開発チームを発足させることにより、マーケットイン型の商品開発スピードを大幅に高めることにした。なお同社は、既存製品の高品質化で、電池材料の売り上げ高を2000年度には97年度のそれの2倍にする計画であるが、その後は新材料の伸びが期待できるものと期待している。(日刊工業新聞98年5月19日) 
6. PEFC用電解質膜の開発成果
 名古屋工業大学の野上正行教授の研究グループは、PEFCの電解質材として有望な、水素イオン伝導性を持つと同時に耐久性の高い新ガラス材を開発したと発表した。この材料はケイ素とリンのアルコキシドと呼ばれる2種類の金属有機化合物を原料に用い、水を含ませたまま加熱して固めて作られており、汎用ガラスに比べてリン酸と水を含んでいるのが特徴である。材料中に存在する水素イオンがケイ素等の原子から束縛を受け難くなり、動きやすくなるため水素イオン伝導度が極めて高くなっている。本材料はPEFCの固体高分子膜と同程度の電気伝導度を実現することが確認されており、無機のガラス材であるため有機の高分子材料よりも耐久性に於いて優れていると考えられている。(日経産業新聞98年5月18日、日本経済新聞98年5月18日) 
7. PEFCの開発戦略
 荏原はカナダのBallard Generation Systems(BGS)と産業用PEFCを日本で製造・販売する合弁企業を日本に設立することになった。合弁会社の資本金は約21億円、出資比率は荏原が51%、BGSが49%であるが、同時に荏原はBGSへ資本参加し、その出資額は約13億円になる予定である。荏原は下水処理場やゴミ処理で発生するガスをFC用として利用し、CO2排出の少ない資源循環型コジェネレーションシステムを構築しようとしており、それを商品として市場に参入、国内では独占的に製造・販売する計画を立てている。具体的には合弁会社が2000年から出力250kWの大型PEFC実証プラントの運転を開始し、2003年には商用機を製作、同年には年間約40ユニットの販売を目標としている。なおBGSはBallard Power Systemsの子会社で、定置式発電用PEFCの開発を担当、既に出力250kWPEFCを完成している。(日本経済、日刊工業新聞98年5月21日、電気新聞、化学工業日報同22日) 
8. ドイツ自動車会社の挑戦
 ドイツ化学会社大手のBASFは、ドイツのDaimler-Benz、アメリカのFord社、カナダのBallard 社に対して、彼等が共同で開発に取り組むメタノール燃料FC自動車の改質装置に有効な触媒を供給することになった。触媒は銅、亜鉛、アルミニウムから成り、それを200?350℃に於いてメタノールと水の混合液に加えると、水素、CO、CO2が生成される。水素は燃料としてFCに導入、COは酸化してCO2に変換される。(日経産業新聞98年5月15日) 
9. 水素燃料FCバスに関する科学者の評価レポート
 アメリカ議会での新たな総括的交通議案(a new omnibus transportation bill)の審議を控えて、関係科学者団体(Union of concerned Scientist:UCS)は、環境、経済性、および運行性能に関する観点から、天然ガス駆動バス、FCバス等各種新型バスをデイーゼルエンジンバスに対して比較し、それらの優劣を総合的に評価したレポート(UCS report)を発表した。結論として水素を燃料とするFCバスを推奨しているが、以下に評価の主な論点を紹介する。
・スモッグを発生させるような大気汚染物質の排出量の観点から評価すれば、1台の天然ガス駆動バスの道路への導入は、20ないし30台の自動車を道路から締め出すのに匹敵する効果を発揮する。
・純水素燃料駆動のFCバスは、大気汚染物質の排出に関しては全くクリーンであり、温室効果ガス(heat trapping gas)は排出量を50%カットする効果を持つ。
・純水素FCバスは高いエネルギー効率によって、その寿命期間(lifetime)内に於ける運行費の節約額は18万ドルに達する。天然ガス駆動バスに於ける節約額は5万1000ドルである。
・現時点ではプロトタイプFCバスは他の新型バスに比べても極めて高価である。標準的なデイーゼル内燃機関バスの価格は平均で24万9000ドルであるのに対して、圧縮天然ガス(CNG)バスのそれは28万7000ドルから31万1000ドルである。これらに対して現在シカゴ市で運行されている3台のBallard製PEFC駆動New Flyer路線バスの場合は、1台当たり価格が140万ドルであり、過去2年間に3台のバスの運行に要した水素燃料予算は90万ドル、それにガレージの修正等も加わって、3年間に費やした3台の総運行経費は960万ドルに達している。
・バス事業は儲からない産業(resource-starved industry)として敬遠され、バス利用者は減少の傾向にあったが、Santa Barbara市に於いて見られるように、電気自動車の導入によって利用者が増加した例も報告されている。それは電気自動車がよりクリーンで静かであり、乗心地もよいと思われたからで、乗客がデイーゼルバスを乗り過ごして次の電気自動車を待つような情景も見られようになってきた。
・路線用FCバスに関しては、水素供給基地によって供給された純水素を燃料とする運行方式と、改質器を車載することによって、高圧天然ガス、メタノール、ガソリン、エタノール等既存の炭素系燃料を用いてバスを運行する方式に分けられる。前者の場合は改質プラントが路線区内に設置されるか、水素供給システムが構築されることによって実現されるが、排気は100%ゼロであり、後者に比べて車体重量は軽減され、効率やコストの面で有利になると考えられる。専門家による水素供給プラントの運営体制が整備されれば、環境性や効率に加えて安全性の面でも有利になり、水素FCバスが最も優れた選択肢となるとUCSリポートは述べている。そして、FCシステムのコストが$150/kWになれば、その環境性における絶対的な有利性から、水素FCバスの将来は極めて明るいものになろうと結論ずけている。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, May 1998 Vol.XIII/No.5, p3)
― This edition is made up as of May 31, 1998 ―

A POSTER COLUMN

*Hannover Industrial Fairに於ける水素とFCの新技術が展示
 1998年4月20日から24日までドイツのHannover市で開催されたハノーバ工業展では、水素エネルギーとFCの開発に従事している36の企業および研究機関が、彼等が実施中の新プロジェクトについてプレス発表し、新製品と試作品を展示した。参加会社の中にはイタリアのAnsaldo CLCやイギリスのBOC Gases等、4社の外国企業も含まれている。この中から人々の関心を引いた技術と製品について簡単に紹介する。
 ここで最も注目を集めた技術の一つは、Fraunhofer Institute for Solar Energy Systemsによって開発されたnotebook computer用電源としての超小型FC電源で、試作品としてはFC電源を備えたSiemens-Nixdorf notebook computerが展示された。配布されたプレス原稿には具体的な技術内容の紹介は無く、このFCがPEFCの1種なのか、それとも全く異なる機種なのかも明らかではないと記者は語っている。しかし、研究所のWebsiteに示された絵によれば、FCは平板型4層構造(4-layered sandwich-type structure)で、内蔵された水素化物に蓄えられた水素を燃料として動作する。10時間の運転が可能であり、FraunhoferのプロジェクトリーダであるRoland Nolte氏は、「小型電解槽によって水素貯蔵ユニットに水素を補充(充電)できるし、バッテリのように簡単に取り替えることもできる」と語っている。重量は通常のバッテリと同程度であり、Nolte氏は大量生産すればリチウム電池よりは安価になろうと述べている。
 同研究所は又自動のPEFC用天然ガス水蒸気改質システムについても発表した。システムは2段階の改質部と選択的CO酸化部から構成され、CO濃度は10ないし20ppmと発表されている。3月以来技術センターにおいて15kWPEFCに連系して実験運転が行われており、今年末までに最終段階のデータ収集が完了する予定である。
 電気動力システムやフライホールのメーカとして知られているMagnet-Motor GmbHは、過去4年間に亘るPEFCの開発成果を発表したが、同社は構成材料に大幅な改良を加えることによって重量や容積のみならずコストを大きく下げることができると語っている。将来の価格見通しについてはDM200($112)/kW、周辺機器を含めた重量密度(但し空気冷却の外装部分は除く)については3.5kg/kw、容積密度(空気冷却用ダクトは除外)については3lit./kW等の値を挙げている。
(Hydrogen &  Fuel Cell Letter, May 1998, Vol.XIII/No.5, pp6-7)