24号 アメリカNJ州が道路情報表示用PEMを発注 
1. PAFCの市場展開
2. MCFCプロジェクト
3. 家庭用コジェネ用SOFCの開発
4. SOFCの新構造
5. マツダによるFC自動車の開発戦略
6. PEFC用固体高分子膜の開発成果と評価
7. PEFC関連技術の開発
8. PEFCの新市場
9. FC市場予測
10. イギリスのガソリン改質技術
A POSTER COLUMN 
1. PAFCの市場展開
 サッポロビールは、ビール生産に伴って発生するメタンガスを利用する出力200kWのPAFCを同社千葉工場に導入することになった。メタンガス利用PAFCの導入は日本では初めての試みで、本事業は97年6月末施行の「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」に基ずく補助金の認定を受けた。投資額は2億3000万円。従来は排水処理で発生するメタンガスをボイラーで燃焼して再利用していたが、これをFCに導入利用することにより、NOxやCO2の発生を抑制するとともに、電力原単位(1klのビール生産に要する電力量)は6%、燃料原単位は3%削減される見込みである。(日本経済新聞98年4月7日) 
2. MCFCプロジェクト
 関西電力は、尼崎燃料電池発電試験所で出力200kW級MCFC発電プラントの建設に着手し、99年から実証運転を開始する。MCFCスタックは三菱電機製内部改質型で、大きさは縦2m、横2m、高さ6m、220枚のセルから構成される積層構造である。なお本プロジェクトはNEDOの研究委託事業でMCFC研究組合の基に推進された。(日経産業新聞98年4月28日) 
3. 家庭用コジェネ用SOFCの開発
 東京ガスは、家庭用3kW級SOFCの開発とそれの実用化を指向しているようである。SOFCは現在実用化されているPAFCに対して小型化が可能であり、動作温度も高いので家庭等でのコジェネレーション用系統連系電源として用いることができる。スイスのズルツアー社は「電気も作る湯沸かし器」と称する1kW程度のSOFCユニットを開発しており、東京ガスのFC技術開発部は、これを家庭用コジェネモデル機として注目していると語っている。(東京新聞98年4月7日)

 家庭用コジェネレーション用電源として開発された天然ガス利用1kWSOFCデバイス(SOFC micro-cogenerator)の設計図がドイツ銀行の地下室に眠っており、それの新しいオーナを探しているとのことである。このデバイスの開発者であるドイツのHerrmann Waermesysteme GmbHは、97年11月突如としてこのビジネスから撤退することになった。デバイスの開発に同社は500万ドルを費やしたとのことで、ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリアで4件の特許が取得されている。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 1998 Vol.XIII/No.3, p5) 


4. SOFCの新構造
 BNFL(British Nuclear Fuel Labratory)のDr.Bob Lewinは、同研究所はSOFCに構造上の改良を加えることにより、出力密度の大幅な上昇を実現したと発表した。新しい改造点とは電解質であるYSZタイルの両側面に集電体としての役割を持つurania layerを挿入したことである。この様な構造を採用した結果、SOFCの出力密度は大幅に増加した。代表的な測定結果を示すと、例えば、動作温度800℃において、出力密度およびセル電圧は、各々400mW/cm2および0.7Vであり、動作温度1000℃では、970mW/cm2、0.65Vの値が観測されている。このurania層は平板型、円筒型何れのタイプにも適用可能であるとDr.Lewinは述べている。このuraniaと電解質は同等の熱膨張率を持つので、セル構造に応力を生じることが無く、更に酸化並びに還元雰囲気に対して安定であるため、劣化率の低下や耐久性の向上にも効果があると期待されている。
(Fuel Cell UK Newsletter, Issue 6, March 1998) 
5. マツダによるFC自動車の開発戦略
 自動車会社の“マツダ”は、98年4月8日、アメリカのFord、ドイツのDaimler-Benz、カナダのBallard Power Systemsが共同で開発を進めているFCEV開発事業に参加すると発表した。マツダによる資本や人員の派遣はないものの、情報交換や交流の推進と同社が独自に取り組んでいるPEFC技術を提供する模様である。同社は91年以来自動車用PEFCの開発に取り組んできたが、今後はFCユニット自身の自主開発は中止し、3社から提供されるユニットをベースに、FCEVの開発と実用化を目指す予定である。これにより多額の研究開発費を節約できる上、FCシステムを安く調達することができる。(朝日、読売、毎日、中国、日本工業新聞等98年4月9日) 
6. PEFC用固体高分子膜の開発成果と評価
 つい最近まで固体高分子膜のコストがPEFCの商業化に対する重大な障害と考えられていたが、その問題は今や解決しつつあると専門家は見ているようである。DuPont’s Nafion Global Business CenterのmanagerであるDr.C.G.Michael Quahは「我々は$10/kWまでコストを低下させ得る自信がある」と述べると共にシステム性能に関しても「現在の3kW/m2からおおよそ5.5kW/m2まで向上させることは可能であり、ある研究者は単一スタックで7?8kW/m2をも達成した」と語っている。この情報は98年3月に開かれたアメリカDOEの”Hydrogen Technical Advisory Panel(HTAP)の第13回会合において紹介された。
 膜のコストは当然のことながら大量生産によって大幅に下落する。Quah氏は当初Nafion膜は$475/m2であったが、生産量が250万m2に達すれば50ドルそこそこにまで低下するであろうと述べている。(D.H.Swanは、1989年に書いた“FC自動車のコスト分析”に関する論文に於いて、Nafion膜の価格として$550/m2を引用、大量生産によって少なくとも1/5に、更に将来は1/10まで下がると仮定した。又FCEVの実用時における出力密度については10kW/m2を予想している)現在この種の膜はchlor-alkali産業において大きく需要が伸びており、Quahが上述の会合で紹介した生産設備では、圧延工程によって幅4?5feet(1.2?1.5m)、最小でも長さ100mの膜が生産されている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter April 1998 Vol.XIII/No.4, pp1-3, cf.D.H.Swan;SAE Technical Paper Series 89174, pp123-128, 1989)

 イギリスDTI(Department of trade and Industry)は、専門の研究者に委託して、性能およびコストの両面から固体高分子膜の総合評価を実施した。これはPEFCの商業化のために、高分子膜が満たさなければならない条件を見いだすことを目的に行われた。これについて、Cranfield大学のDr. Keith Lovellは、自動車等の動力機関用PEFCの商業化に対しては、$150/m2が受け入れ可能なコスト目標であり、定置式発電用に対してはこれよりも高い価格が容認されると述べている。現在の膜の価格$900/m2は、目標値に比べてはるかに高価であるが、材料価格が$10/m2であることを考慮すると、大量生産体制によって目標値を満足すべく充分コストが下がり得ると考えられる。他方耐久性については、50,000時間を超える耐久試験によっても顕著な性能劣化が認められなかったとの観測結果が発表されており、又Ballard社は同社の開発したBAM3G膜について、良好な安定性のあることをリポートしている。DTIレポートは更に効率に関して、膜の水分管理のために燃料ガス中に水分を注入する必要のない構造の開発を提案しており、動作温度を高く維持することによって、より高い効率を実現することが可能であると論じている。これらの事実を総合して、“固体高分子膜がPEFCの商業化に対して基本的な障害にはなりえない”との結論が下されたようである。
(Fuel Cell UK Newsletter, Issue 6, March 1998)

 Foster-Miller社の主任研究員(senior scientist)であるRobert Kovar氏は、150℃の高温で動作可能で安価な膜の開発に成功したと語っている。従来の膜を用いたPEFCでは、水素電極側では水分が不足し、酸素電極側では過剰になる傾向があり、それが水分の制御を困難にしていた。同社による新しい膜はこの問題の解決に寄与するものと期待される。PEFCの高温動作は、酸素極での水の発散を促進し、PEFCに於ける水分の制御を容易する。これは高いイオン伝導性を持つ成分を、微細ポーラス構造を持つ高分子膜基質(microporous polymer substrate)に合成して作られたmicrocomposite膜で、力学的強度が高いと共に安定性も改善されている。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 1998, Vol.XIII/No.4, p5) 


7. PEFC関連技術の開発
 山梨大学渡辺政廣教授のグループは、水素ガス中に含まれるCOを選択的に除去する新触媒を開発したと発表した。これはPEFCの実用化に大きく寄与する成果と期待されている。新触媒は、PEFCスタックに導入される改質ガスから反応に有害なCOを除去するため、スタックの手前に設置されたCO除去器のガス通路に適用される。触媒は白金とルテニウムの合金微粒子で、ナトリウムイオンを含んだ珪素とアルミニウムの多孔質複合酸化物の穴の内面に分散配置される。この様な構造を持つ通路に水素、CO、CO2の混合ガスを空気と一緒に通すと、COと酸素のみを選択的に反応させてCO2に変換する。実験に於いて、CO濃度1%を含む150℃の混合ガスを通した結果、CO濃度が0.1%に下がることを確認した。用いた触媒の量は約0.1gで、反応を2回に分けると99.8%までCOを除去することができた。COのみを反応させることができたのは、多孔質材料を用いて穴の大きさを制御したためと同教授は語っている。すなわち、水素はそのまま通り抜けるが、COと酸素は穴の内部に凝縮して吸着し、合金微粒子が選択的に反応を起こさせる。ガスの流速が速くしても効果があり、自動車用PEFCエンジンの開発に大きく寄与するものと思われる。(日経産業新聞98年4月27日) 
8. PEFCの新市場
 H Power Corp.はNew Jersey州の交通局から小用量PEFCを65ユニット受注したと発表した。高速道路の情報表示板用電源として用いられる”Power PEMTM 50”と称される出力50W級重さ11lbsの小用量PEFCで、契約総額は74万9000ドルと伝えられている。燃料は高圧水素ガス(2,000psi, 134atm)又はアンモニアから分解生成される水素になる予定で、直径9インチ(23cm)長さ58インチ(147cm)の高圧水素シリンダーで約14kWhのエネルギーを蓄えることができる。この情報表示板用電源には従来太陽電池が使われていたが、これをFCに切り替えるか、FCによって電源としての機能を補完するものと思われる。H Power社CEOのDr. H. Frank Gibbardは、「喜ばしいことに、PEMFCの商業化が、予想される2004年ではなく、New Jersey州の調達によって現在既に始まった」と述べている。

 H Powerは、もともと30Wから1kWレベルの可搬式小用量PEFCの開発と商業化について、先導的な役割を果たそうと努めてきた。彼等が指向しているPEFCシステムの用途として、遠隔僻地での冷凍(房)用電源、鞄に入るラップトップ電源(portable power briefcase for laptops)、バッテリーの充電器、車椅子のためのFC/バッテリー電源等が挙げられている。同社は又バス、トラック、自動車、あるいは定置式利用を目的に、数kW以上の発電規模を持つPEFCシステムの開発も進めている。同社の発表によると、もともと宇宙用に開発された”FC metal ‘platelet’ process design”と称される技術の特許を獲得したようである。 これは複数の機能を1枚のメタル板上に結合させるプロセス技術で、これを利用することによりセルスタックのサイズと同時にコストも30ないし50%減少させることができると期待されている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 1998, Vol.XIII/No.4, pp3-4) 


9. FC市場予測
 日経新聞と日経リサーチによって実施された156分野の未来予測調査結果の発表によると、FCはエネルギー分野の中で高い成長が期待されていることが分かる。日本市場と海外市場に分けて表示された数字によると、98年から2000年、2000年から2010年、2010年から2020年にかけての市場成長率は、日本に於いては各々109.0%、520.2%、328.3%、海外については各々296.6%、587.8%、291.5%となっており、成長率に関する限り高効率ガスタービンやIPPを大きく抜いている。

 なお田中貴金属工業は、山梨大学の研究グループが開発した高性能化触媒の実用化開発に乗り出した模様で、性能を更に向上させたり量産方法を考案して、年内にもサンプルを出荷する予定と伝えられる。
(日経産業新聞98年4月8日) 


10. イギリスのガソリン改質技術
 アメリカではA.D.LittleやArgonne Natinal Lab.に於いて部分酸化法によるガソリン改質技術が開発され、実証運転段階に入っているが、イギリスでもWellman CJBが水蒸気改質法によるガソリンやデイーゼルを対象とするベンチスケールの改質器を試作し、既に50時間以上の運転に成功したと伝えられる。この研究はイギリスDTI(Department of Trade and Industry)の援助を受けて実施された。低温シフトリアクター出口での改質ガスのCO濃度は0.5%以下、水素の濃度は76%であったが、Wellman社はCO濃度を10ppm以下まで低減させることのできる同社固有の選択的酸化プロセス(proprietary selective oxidation process) 技術を保持しているようである。他方、Johnson Matthey(JM)は、ガソリン改質については、触媒部分酸化によるautothermal reforming processを高く評価している。同社は又アメリカとイギリスの共同開発計画に於いて、ADL社の改質プロセッサとの組み合わせを想定して、選択的酸化法によるgas clean-up systemを製作した。(Fuel Cell UK Newsletter, Issue 6, March 1998)
 
           ― This edition is made up as of May 6, 1998 ―

A POSTER COLUMN
 

*Siemens社がWH社の電力部門を買収
 既に伝えられているように、97年11月、アメリカおよびヨーロッパの承認の基に、ドイツのSiemensがアメリカのWH社の電力部門を、15億2500万ドルで買収することを決定した。 WH社は円筒型SOFCの開発に於いて世界をリードしており、同社による100kWプロトタイプがオランダに設置され、98年初頭から実証運転が始められている。他方Siemens社は平板型SOFCの研究開発を実施中で、最近10kWスケールの実証運転を行った。 WH社のSOFC開発計画はこの中に含まれるものと思われるが、これらがどのように買収に係わるのかは、未だに不明の点として残されている。(FUEL CELL UK Newsletter, ISSUE 6, March 1998)

*21世紀には環境問題を軸に冷戦が起こるかも知れない?
 98年3月18日から19日に掛けて開かれたSAE(the Society of Engineers)の”Fuel Cell for Transportation” TOPTEC Workshopに於いて、「炭素系燃料の改質による水素生成は、zero emissionエネルギー経済に至る過渡的な“代償”であって、我々は全く排気のないクリーン燃料による交通システムの実現というより大きな目標を見失ってはならない」との見解が披露された。Desert Research Institute(DRI)のAlan Lloyd氏は、昼食会での講演に於いて、「FCへの化石燃料の使用は、FCを商業化するために必要な道程かも知れない。しかしアメリカに於ける大気汚染の現状は、平均余命を2ないし3年間縮める程深刻で、この事実を勘案すると再生可能でクリーンな水素エネルギーをベースとする動力機関の実現が最終的なターゲットでなければならない」と訴えた。同氏は更にUCLAのKumar Patel氏の言葉を引用して、「21世紀には環境問題を軸に世界に“冷戦”が発生するかも知れない」とも述べている。

 車載水素貯蔵は問題があると言われているが、もしnanofibersに水素を高密度に貯蔵する技術が確立されれば、それは水素燃料の登用に大きなインパクトになろうと予想されている。他方、水素燃料による自動車が排気ガスに満ちた都市間道路を走行するとき、前方を走行する自動車からの排気ガスが、FCエンジンの性能や耐久性に与える影響について、今後検討する必要があろうとの見解も表明された。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 1998, Vol.XIII/No.4, pp4-5)