23号 石炭ガスFC複合発電プラントの建設計画 
1. アメリカに於けるFC開発予算の動向
2. PAFCの新市場展開
3. SOFC研究開発
4. 石炭ガス利用FC複合プラントの建設
5. 工技院によるSOFCの研究開発計画の見直し
6. PEFC用メタノール等燃料の改質システム
7. GM社の新しいPEFC開発戦略
8. トヨタ社の取り組み
9. ガソリン改質技術の開発促進とその戦略
A POSTER COLUMN 
1. アメリカに於けるFC開発予算の動向
 COP3の合意を受けて環境問題に積極的に取り組む姿勢を表明したアメリカClinton大統領による議会演説(President Clinton’s State of the Union Message)の趣旨に沿って、政府が議会に提案した1999年度予算要求では、新エネルギー関連の予算が大幅に増大している。中でもDOEによる水素エネルギー計画(Hydrogen program)は、98年度に於ける1,600万ドルから2,400万ドルへと50%増加し、太陽光等再生可能エネルギー開発計画は、98年度の27,200万ドルから37,230万ドルへと37%の上昇となっている。水素エネルギー計画での予算要求額増大分の1部は、Desert Research Institutute(DRI)の提案による遠隔僻地に於ける再生可能エネルギーと水素FC発電を組み合わせた統合型エネルギーシステム(L.NEWS, No.22)に関する実証研究に配分されるようである。水素エネルギー計画の班長(the hydrogen program team leader)は、50kW出力のPEFCとオーバーサイズの水蒸気改質装置を組み合わせた電力・水素エネルギーシステムを、魅力的な相乗効果(attractive synergistic)を持つコンセプトであると評価しているし、DRIのエネルギー・環境技術センター長で且つDOEのHydrogen Technical Advisory Panel(HTAP)の議長を務めるAlan Lloyd氏は、「水素関係予算の大幅な伸びは我々を大いに勇気ずけるものである」と述べている。

 しかし、議会には共和党のBob Livingston氏のように再生可能エネルギー開発計画に批判的な議員も存在するので、今後の議会での審議が注目される。

 FC分野では、自動車動力用FCに関する技術開発予算要求額が、98年度の2,360万ドルから99年度は4,460万ドルへと大幅に増額されている。各種テーマとそれらの開発目標は、先ずFCシステムに関して“ピークの25%出力に於いて55%の効率を実現する”が挙げられ、コンポーネントについては、1)100ppmのCO濃度に於いても性能劣化をもたらさない高性能触媒の開発、2)700Wh/lit.のエネルギー密度を持つ水素媒体を貯蔵する車載可能な燃料タンクの製作と安全性テスト、3)多種燃料が適用可能な50kW級改質プロセッサー(fuel-flexible processor)の開発で、その性能は起動時間が3分以内、軽量コンパクトであること、4)10ppm以下のCO濃度を実現するclean-upプロトタイプの完成、が記されている。

 DOE’s Office of Advanced Automotive TechnologyのdirectorであるPandit Patil氏は、「1999年度予算措置によって多種燃料が利用可能な50kW級FCシステムの構成(integration)が可能になれば、次には熱処理、低温起動、動的過渡特性(transient response)等、システムレベルでの性能の実現に関心が移って行くことになろう」と述べ、HTPAのLloyd議長は「まだ水素媒体を前提とするFC社会を誕生させるためには、なお基礎的研究開発の努力が必要である」と語っている。

 化石燃料開発計画(fossil energy r&d program)で進められている定置式発電用FCの開発ついては、DOEの99年度予算要求額は4,220万ドルで、98年度の4,020万ドルに比べてわずかに増加しているが、97年度の4,880万ドルに対してはかなりの減額となっている。資金投入の中心課題は、コスト低下と性能向上を目的とするシステム開発と商業化計画に移りつつある。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 1998, Vol.XIII/No.3, pp1-2) 


2. PAFCの新市場展開
 東芝と三井物産化学プラントは、共同開発したFC・ラジアントファームの成果をベースとして、PAFCを組み込んだ環境に優しい資源循環型システムを実用化し、今後積極的に市場展開に乗り出すことになった。この戦略の第1弾として開発されたFC・ラジアントファームとは、畜産ふん尿から生成される消化ガスを燃料とするPAFCを用いて、地中暖房用等に電力と熱を供給するコジェネレーションシステムであり、畜産施設と農業施設が隣接しているような寒冷地に向いている。地中60cm付近に配熱管を埋設し、ラジアント液と呼ばれる特殊な熱媒体を循環させることによって、地中でのバクテリアの繁殖や根の育成に必要な20℃前後の温度を維持しようとするのが地中暖房システムの目的であり、ビニールハウス内の地中をまんべんなく暖めることができる点に特徴がある。

 目下のところシステム価格は全体で10億円程度の見込みで高価ではあるが、農水省が環境保全型農業を推進しようとしており、需要は拡大する可能性があると見られている。
(日経産業新聞98年2月26日)

 東芝はONSI社と共同で開発したPC25Cを中心とするオンサイト型200kWPAFCの市場開拓に本格的に取り組んでいる。従来の都市ガス経由の販売活動に加えて、日本石油ガスや岩谷産業のようなLPG販売会社と共同で市場活動を展開しており、又自治体等エンドユーザにダイレクト販売するルートにも力を注いでいる。燃料についても天然ガス、LPGガス以外に下水汚泥消化ガス、排水処理のバイオガス、副生水素等幅広いオプションを用意しつつあり、上記のFC・ラジアントファーム以外に、食品工業の排水処理や生ゴミの処理過程で得られるバイオガスを燃料とするシステムが近く稼働の予定と伝えられる。FC本体の価格は40万円/kW、1台8,000万円であるが、消化ガスやバイオガスを使えば燃料コストは不要になる。(化学工業日報98年3月13日) 


3. SOFC研究開発
 電源開発は98年3月12日、若松総合事業所において加圧式10kW級SOFCモジュールによる発電実験を開始したと発表した。このSOFCモジュールは同社が三菱重工業と共同で開発を進めてきた円筒横縞型であり、外径は1,500mm、高さは2,520mmで、414本の発電セルによって構成されている。動作圧力を5atmまで加圧することにより、電解質中の酸素イオン伝導性を高め、電気出力を増大させようとする点に特徴があり、このような高圧運転は世界でも初めての試みである。FCの後段にガスタービンを組み合わせることにより、石炭ガスを燃料にして50%以上の発電効率の実現を目指している。加圧による発電特性の向上効果とともに、加圧モジュール構造やその耐久性についての検証と確認、加圧制御技術の確立等、各種性能に関する確認試験を12月まで行う予定である。(日刊工業、日経産業、日本工業、電気新聞98年3月13日) 
4. 石炭ガス利用FC複合プラントの建設
 電源開発は石炭ガス化設備とMCFC又はSOFCおよびガス・蒸気タービンを組み合わせた石炭ガス化FC複合発電システム(EAGLE)のパイロットプラントを、若松総合事業所に建設することになった。1日150トンの石炭を処理して得られるガスを精製してFCを含む複合発電システムに導入し、石炭IGCCの45%を大きく上回る55%の発電効率を達成するのが目標であり、2000年までにプラントを建設を完了、2001年から2004年まで実証運転を行う予定になっている。パイロットプラントには、日立製作所を中心に石炭利用水素製造技術研究組合が建設した石炭ガス化設備を3倍にスケールアップした設備が導入され、これによって得られた400℃の石炭ガスは、遠心分離器、ダストフィルター、水洗浄塔および脱硫器を経て、硫化水素濃度1ppm以下、塩素も除去してCO、水素、メタン以外の成分を含まないガスに精製される。石炭ガス中に含まれる硫黄成分等の不純物がFC本体の材料であるニッケルを損傷し、FCの寿命を大幅に下げる可能性が指摘されているので、硫黄分等を取り除く精製技術が課題として挙げられている。なお本プロジェクトはNEDOからの委託で、パイロットプラントの建設に総額240億円が投入される。

 なお若松総合事業所ではEAGLEとは別に、加圧流動床(PFBC)複合発電システムの開発も行われており、発電出力7,100kW実証プラントが建設され、既に800時間の連続運転に成功している。
(日刊工業新聞98年2月27日、日本工業新聞98年3月13日) 


5. 工技院によるSOFCの研究開発計画の見直し
 工業技術院は98年3月30日に産業技術審議会の評価部会を開催し、ニューサンシャイン計画関連では3件の開発プロジェクトに関する評価結果を報告したが、このうちSOFC開発計画については98年度から予定されていたモジュールのスケールアップを中断すること等、プロジェクトの内容について踏み込んだ提言を行っている。

 同報告によると、SOFCを発電部門に於ける省エネルギーと石油代替を促進する上で有望なFCの1種と評価したものの、モジュールに使用するセラミックス板の耐久性や信頼性の面で問題があることを指摘した。又SOFCのみならずFC全体の総合的な開発戦略を構築し、各方式のFCの位置付けを明確にするようにとの指摘も述べられている。更に同報告は、民間の開発意欲を最大限に発揮させることを念頭に、現在のようなナショナルプロジェクトの基でSOFCの開発を進めることの是非を含めて、国の関与の意義や必要性を再検証する必要があるとの見解も示している。

 工技院では上述の指摘を踏まえて、数kW級モジュールによる基本構造の研究を継続することとし、予定していた数十kW級モジュールへのスケールアップを断念した。又SOFCの研究開発期間は当初99年度までの予定であったが、耐久性と信頼性に時間を要すると判断し、プロジェクトの終了期間を2000年度まで1年間延長することにした。
(日刊工業、日経産業新聞、化学工業日報98年3月31日)  


6. PEFC用メタノール等燃料の改質システム
 メタノールの水蒸気改質には、水とメタノールを蒸発させる気化器(200℃)、改質反応を司る改質器(300℃)、気化器および改質器に熱を供給するためFCオフガスを燃焼させる触媒燃焼器(350℃)、シフト反応でCO濃度を下げるCO選択酸化器(200?100℃)のように動作温度の異なる複数のコンポーネントを必要とする。したがって従来の定置式発電用PEFCの改質器は、化学プラントのようなシステム構成となっていたが、自動車動力用の車載式PEFCに対しては、この様な複雑で大きなシステムは不向きであり、車の振動によって配管の一部が損傷する可能性も考えられる。

 これらの障害を克服するため、三菱電機は気化部、改質部、CO選択酸化部、および触媒燃焼器の4つのコンポーネントを、それぞれ平板構成にして積層配置した“積層型メタノール改質器”の開発に成功した。この改質器の特徴は、設備のコンパクト化に加えて、発熱反応(燃焼部およびCO処理部)と吸熱反応(気化器および改質部)を熱的に結合一体化することにより、放熱損失を抑え熱効率を向上させた点に認められる。又平板構成となっているので、出力規模の異なる車種に対しては積層数を変化させることによる対応が可能であり、更に動作温度が300℃と低いため、安価で成形が容易なアルミニウムを構成材料として用いられる点も長所として挙げられる。

 他方、アメリカでは上述の“水蒸気改質”以外に“部分酸化方式”の開発を進めているが、後者はメタノールを燃焼させながら改質するため、前者に比べて熱効率が悪く、又温度が800℃と高いのでアルミニウム等の金属が使えないと言う欠点がある。しかし、メタノールの直接燃焼による発熱と改質による吸熱をバランスさせることによって始動と負荷変動に対する優れた追随性の得られる点が長所であり、特に最近話題になっているガソリン燃料に対しては、この方式の改質技術が開発の対象となっている。
(光田他:メタノール改質固体高分子型燃料電池発電システム、電気新聞98年2月26日) 


7. GM社の新しいPEFC開発戦略
 アメリカのGeneral Motors(GM)は、PEFCの開発と商業化レースに備えて、世界的なネットワーク作りに乗り出す模様で、その一環としてドイツのOpel社や日本のいすず社とパートナーとしての協力関係を構築しようとしているようである。プロジェクトのco-directorでGM Global Alternative Propulsion CenterのMcCormick氏は、「この新しいプロジェクトの目的は、世界的なネットワークを通してFCに関する専門知識を社内外の開発拠点に結集することにある」と述べている。GM社の国内でのFC開発拠点は、ミシガン州Warrenにある技術センター、およびニューヨーク州Rochesterに1996年に設立されたFC開発設備(fuel cell development facility)と思われる。

 McCormick氏は更に、彼がDetroit Auto Showで行った記者発表を補足して、50kWPEFCセルとそれに組み合わされる燃料処理装置はいずれもGM製であり、既にデータ収集のための試験運転に入っていることをほのめかした。彼は「それはIFCの50kWでも、Ballardの50kWでもなく、正にGMの50kWである」と語っている。開発費やコスト予測については言明を避けたが、2004年に”production-ready vehicle”を完成させるのが目標であることを明らかにした。この”production-ready vehicle”とは、“設計が完成して性能が確認され、商売やマーケットに対する見通しが得られるようになった状態”を指し、必ずしもshowroomに自動車が展示されている段階を意味するものではないとのことである。又燃料の選択に対する質問に対しては、「我々はfuel-neutralである。勿論他社同様メタノールに注目はしているが、石油製品、特にガソリンについては関心を持っており(let me put “gasoline” in qotes)、1年半前から燃料改質技術に関してExxonやArcoと実質的なパートナーシップを築いている」と述べている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 1998, Vol.XIII/No.3, pp1-3) 


8. トヨタ社の取り組み
 トヨタ自動車は、代替燃料車の開発を強化することを目的に、98年3月1日付でBRFE(Business Reform Future Engine)室を設置した。当面はFCの開発を中心に活動する予定で、これを搭載する次世代FCEVの早期実用化を目指すものと思われる。
(日刊自動車新聞98年2月28日) 
9. ガソリン改質技術の開発促進とその戦略
 ガソリン改質で名を馳せたArthur D. Little社は、部分酸化法(POX)燃料改質技術のノウハウを、同社が設立した新会社 ”Epyx” に移転することになった。この”Epyx Corp.”は、97年秋から話題にはなっていたが、その設立が公式に発表されたのは98年2月25日で、Chief operating officerにはADL社におけるPOX開発の立役者であったJeffrey Bentley氏が就任した。従業員数は目下のところ25人であるが、今年中には約60人まで倍増される見込みである。”Epyx”の名称は、英雄(heroic)と新時代の夜明け(epoch―dawn of a new era)を意味する言葉”epic”に由来する。ADL社のCEOであるCharles R. LaMantia氏は、「この新会社設立の意味は、“環境に優しい自動車の開発と実用化”を加速することにある」と述べている。そしてそのミッションは、ガソリン、エタノール、メタノール、プロパン、天然ガス等、多種類の燃料改質が可能な燃料改質プロセッサーを生産し、それを全世界に供給することにあり、そのためにADL社による独自の技術をベースに優れた設計技術を確立し、製品のコスト低下を実現することを唱っている。

 彼等はFCとの組合せで想定する製品市場を、1)100Wから5kWレベルの小容量ポータブル電源ユニット、2)2?250kWの家庭又は民生用定置式電源、3)50?250kWの範囲にある自動車やバスの動力用電源、の3分野に分類し、事業計画では第1ステップとして今後2年以内、すなわち世紀の節目に小容量ポータブルユニットの販売を始めるべく準備に取りかかっている。Bentley氏は、Epyxは当面ADL社からのサポートを受けることになるが、将来は独立の会社として独自の道を歩むことになろうと語っている。
(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 1998 Vol.XIII/No.3, p5)
 

           ― This edition is made up as of March 31, 1998 ―
 


A POSTER COLUMN
・RenaultはPEFCとニッケル・水素蓄電池を動力源とするFCハイブリッド・プロトタイプカー ”Fever”を製作した。 Feverは普通乗用車を想定して製作された2人乗り試験車で、車体重量は2,200kg、最大スピード120km/hを出すことができる。FC動力源の電気出力は30kW(90VDC)、重量は300kg、容積は225lit.で、動作温度は70℃、純水素と空気で駆動する。車載極低温タンクに8kgの液体水素が蓄えられ、それによる走行距離は500kmと記されている。なおこのFeverプロジェクトは、ECのJoule計画の基で、1994年以来開発研究が進められてきた。(R&D number 7 October 1997)