第22号 再生可能エネルギーとFCの結合システム
Arranged by T. HOMMA
1. 工技院によるSOFC開発計画の見直し
2. NEDO事業
3. PAFCの実証運転実績
4. MCFCプロジェクト
5. ヨーロッパに於けるDIR−MCFC開発
6. SOFC情報
7. 熱電併給用PEFCの商業化
8. 再生可能エネルギー源に水素媒体を組み込んだ統合型エネルギーシステム
9. FC自動車の開発情報
10. PEFC駆動のフォークリフト
11. 自動車用AFCエンジン
1. 工技院によるSOFC開発計画の見直し
 工技院はSOFCの研究開発基本計画を見直し、97年度で終了予定の要素技術研究開発を1年延長する方向で検討に入った模様である。当初計画では97年度までに数kWモジュール技術を確立し、98年度から数10kWのモジュール開発に入る予定になっていた。現在その当否を決定するための中間評価を行っているが、実績と達成目標の間には性能の一部に若干の隔たりが見られるようである。SOFCは定置式発電用としても効率が高く、又移動体用電源としての利用も考えられるので、その有効性を考慮して開発計画を当面1年程度延長し、要素技術の確立を図ることが必要との認識が広がりつつある。(電力時事通信98年2月13日)
2. NEDO事業
 NEDOは地球温暖化問題に対する積極的な事業展開の一環として、平成10年(1998)度に新エネルギー導入促進および省エネルギー対策事業を大幅に拡充することにした。具体的には既存のフィールドテスト事業および新エネルギー法に基ずく事業支援等を強化するとともに、新たに高性能工業炉、省エネ設備、氷蓄熱式空調、ガス冷房、クリーンエネルギー自動車の導入促進等、産業・民生・運輸の分野に渡る補助事業を創設する。
 クリーンエネルギー自動車等普及促進補助制度の予算は80億円で、電気自動車(ハイブリッド車を含む)、天然ガス自動車、メタノール自動車の購入者および燃料供給施設の設置者に対して補助事業を行う。補助率は、例えば自動車については、同クラスに於けるガソリン車との差額に対して1/2程度になる。これまで各事業個別に施策が決められ、補助事業が行われていたが、今後はNEDOで一元的に集約し、クリーン自動車のより効果的な導入促進を図る。
 既存事業の拡充については、太陽光発電や風力発電等の再生可能エネルギー利用のフィールドテスト事業に対する予算が大幅に増加する他、先導的高効率エネルギーシステムフィールド事業(燃料電池)については3.6億円(9年度は3.3億円)が計上された。(日刊電気通信98年1月20日)  
3. PAFCの実証運転実績
 ガス事業者によるオンサイト用PAFCフィールドテスト実績の発表によると、1998年1月末現在での運転基数は48、総発電容量は27,500kWである。この内国のFCフィールド事業対象となっているのは、東京ガスによって板橋エコポリスセンターに設置された富士電機製新型セルを用いた出力50kWユニットを含む合計16ユニットである。又ONSI製PC25Cは10ユニットが運転されている。1998年1月末現在で累積運転時間が30,000時間を超えたユニットは、下表に示すように10ユニットに達した。

事業者名
設置場所
容量
(kW)
メーカー
運転開始
月/年
累積運転時間
(hrs)
備考
大阪ガス
梅田センタービル
200
ONSI
10/94
40,256
 
東京ガス
東京イースト21
200
ONSI
11/92
35,771
連続9500hrs
大阪ガス
大津タイヤ泉大津工場
200
ONSI
6/93
35,035
 
東京ガス
東京ガス田町
200
ONSI
11/92
34,793
 
大阪ガス
コープ姫路白浜
100
富士電機
5/93
34,002
新型セル
東京ガス
TG袖ヶ浦工場
200
ONSI
6/93
31,780
連続8489hrs
大阪ガス
RITE
50
富士電機
10/93
31,309
 
東京ガス
TG千住営業技術センター
200
ONSI
12/92
30,978
 
大阪ガス
NEXT21
100
富士電機
9/93
30,728
新型セル
大阪ガス
UNEPセンター
50
富士電機
9/93
30,488
新型セル
(日刊電気通信98年2月10日) 
4. MCFCプロジェクト
 MCFC研究組合は3月上旬に1000kW級MCFCパイロットプラント改質器の調整運転試験を開始する。燃料の天然ガスを1時間当たり141kg送り込み、水素50%、水蒸気34%、CO10%から成る燃料ガスを生成するのが目標で、3月末までに改質器単体の性能を確認する予定になっている。プラント全体の総合調整試験では、改質率96.6%の達成が目標として掲げられている。(電力時事通信98年2月13日) 
5. ヨーロッパに於けるDIR−MCFC開発
 1996年から98年まで3年計画で進められている“先行的内部改質型MCFC開発計画(Advanced DIR-MCFC Development Project)”の目的は、MCFCのコスト低下をもたらすため、スタックおよびシステムの両面に於いて革新的なコンセプトを導入することに置かれている。このプロジェクトは、オランダのBCN、ECN、Schelde Systems、イギリスのBG plc、フランスのGaz de France、それにスエーデンのSydkraft ABが参画している。この先行的なMCFCは、市場性を至上命令(top-down drive)として開発が進められた機種であり、技術、経済、法制、および環境に関する全ての面を満足するオンサイト型コジェネレーションプラントである。以下に ”SMARTER system” と称される開発中のシステムプラントについて、その利用目的と特徴を簡単に紹介する。
 本システムは病院等でのコジェネレーション用プラントとしての利用を第1の市場として想定しているため、電気出力は400kWに設定され、燃料には天然ガスが用いられる。高い発電効率と幅広い運転条件とともに、簡単な構造と低コストを実現するため、内部改質型(Direct Internal Reforming) スタックには、電気化学、熱、流体工学的特性を総合的に生かした設計思想が取り入れられた。セパレーターには新しく改良された腐食防止機能が施されており、より性能の優れた改質用触媒を見いだすための研究は、BG plc社によって続けられている。(Dr.P.J.Kortbeek and R.G.Ottervanger;MCFC’s for the City of Tomorrow: European Fuel Cell NEWS, Vol.5, No.1, Jan. 1998, pp15-16)
6. SOFC情報
 アメリカDOEとWH社は、1970年代初旬に発足した現行SOFC開発計画に関する契約を更に5カ年延長することで合意した。同計画に於ける今後5カ年間の開発目標として、オートメーション化した製造施設の建設、250kW級システムの設計、製作、および試験、1MW級試作装置の開発が挙げられており、予算総額は2億200万ドルである。最終ターゲットは、天然ガスを燃料とする出力MW級のSOFC/GTシステムの実用化で、発電効率70%以上の実現を想定している。又DOEは、FCによる発電方式を取り入れることによって、現行火力発電に比較してSOxについては年間10万lb(45,000kg)/MW、NOxついては年間4万1,000lb(18,600kg)/MWの排出量を削減できると語っている。(NEDO;新エネルギー海外情報 1997−11)
7. 熱電併給用PEFCの商業化
 三洋電機は災害時や工事現場に利用可能な非常用可搬式PEFC電源を98年4月から発売する予定であることは既に発表済みであるが、更に一般家庭や店舗向け熱電併給用PEFCを開発し、2000年を目途に実用化を目指すと発表した。これは都市ガス(天然ガス)を燃料とするPEFCで自家発電し、それを補助電源として使う一方、発生した熱を空調機械や給湯器に利用しようとする構想で、発電容量は50kWクラス以下になるものと思われる。又同社は小型装置の量産技術を適用して家庭用電源のコスト削減を実現し、市場を開拓することにより、FC事業全体で2000年に50億円、2010年に500億円の売り上げを目指すと語っている。更に将来構想として自動車用エンジンへの適用も視野に入れている。(日経産業新聞98年1月27日)
 三洋電機は98年4月中を目途に、東京製作所(群馬県大泉町)で小型の民生用PEFCの生産体制を整備することになった。当面は手作業を中心に各工程を組み合わせたバッチ方式の生産方式を採用し、生産能力は最大で月間300台程度、非常用や工事用電源としての製品が主体で価格は100万ないし130万円に設定される見通しである。2000年には約3000台の販売を目標としているが、将来は一般家庭用電源としての市場を開拓していくことになろう。(日経産業新聞98年2月3日)
8. 再生可能エネルギー源に水素媒体を組み込んだ統合型エネルギーシステム
 アメリカDOEは、水素開発プログラムの一環として、太陽光や風力発電等再生可能エネルギーを水素と組合せて利用する統合型水素エネルギーシステム(Integrated Renewable Hydrogen Utility System)の開発と実証研究に資金援助することになり、1997年6月末に本計画を公示して以来、企業からの提案を求めていたが、この程3つの企業グループが選定され、関係機関と契約についての交渉が始められることになった。プロジェクトに係わる費用の半額を国が負担することになるが、1998年度の資金から初年度計画に充当される費用について、DOEは50万から250万ドルまでの範囲になるものと期待している。開発計画の最終目的は、遠隔地や僻地等に適した分散型独立電源(off-grid)を前提とする水素利用再生可能エネルギー利用システムの商業化に置かれている。開発期間は5年ないし10年で、2段階(two phase)に区分される。前期はコンセプトの評価で、後期に予定されるシステムの建設と試験運転(shakedown test)、そして準商業化規模(pre-commercial size)のデモンストレーションプラントによる実証運転に進むべきかどうかの可否が決定されることになろう。
 先に述べた3つの企業グループの内、第1グループはDesert Research Institute(DRI)を筆頭に5社以上の企業で構成され、その中にIFC社が含まれている。彼等が提案するプロジェクトの最終的な実用化イメージは、北極圏にあるアラスカ海岸に位置する人里離れた集落(isolated shore community)”Kotzebue”に建設しようとする統合型エネルギープラントであり、そのシステムは現存する3台の出力66kW風力発電機に、水電解槽、水素貯蔵タンク、およびFCを組み合わせて構成される。水電解によって得られた水素によって、オフピーク時のエネルギーを貯蔵し、水素から電力への変換はIFC社製出力50kWPEFCによって行われる。この様な極地に近い僻地では、発電原価は$0.25−0.75/kWhの範囲にあり、アメリカの平均電力コスト$0.10/kWhに比べてはるかに高価なため、この様なシステムは経済性を満足する可能性があると見なされている。第1段階の実験では、出力12kWの風力発電機、5kWのPEFC、10kW規模の電解槽とコンプレッサーによって構成されるシステムが設置・運転される予定になっている。
 第2グループは、Energy Partners社を中心に6社によって構成されている。第1グループとほぼ同様のシステム構成と用途を提案しているが、再生可能エネルギーの種類や適用場所については目下のところ指定がなく、具体的なイメージは不明である。
 Proton Energy Systems(PES)やArizona Public Service等4社で構成される第3グループは、”UNIGEN”と称される再生型FCを提案している点において注目される。UNIGENとは”unitized regenerative fuel cell system”の略で、単独のセルでありながら、スイッチの切り替えによって水電解およびFCのいずれの機能も果たすことができる。コンセプトが示されているのみで、具体的な構造については不明である。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, February 1998, Vol.XIII/No.2, pp1-3)
 ドイツでも上述と同様な統合型再生可能エネルギーシステムの開発計画が存在する。
 2000年にドイツのHannoverで開催される”Germany’s Expo 2000 World Fair”に、5000万ドル(DM8,400万)の費用で再生可能エネルギーパーク ”demonstration renewable energy park”が建設されることになったが、それには出力34kWのPEFCと電解槽、そして太陽光発電を組み合わせたデモンストレーションプラントが含まれる。
 他方、”KonWerl 2010”とは、10MWの電力と8MWの熱出力を持つコジェネレーションシステムを、ルール地方Dortmundの東に位置する小さな町Werlに建設しようとするプロジェクトのコード名である。このシステムにはバイオマスや廃棄物発電、太陽光発電(12kW)、風力発電(2MW)、それにFCやバッテリが構成要素として含まれている。(Hydrogen & fuel Cell Letter, February 1998, Vol.XIII/No.2, pp6-7)  
9. FC自動車の開発情報
 フォード社は北米国際自動車ショー(デトロイト市)で、アルミ合金製車体の抵公害車“P2000”を発表すると同時に、今後FC自動車等新世代カーの開発に積極的に取り組んでいくことを明らかにした。P2000は排気量1,200ccの5人乗りファミリーカーで、車体重量は約900kg、ほぼ同じサイズの主力セダン“トーラス”に比べて車体重量を約40%削減させている。J.ナッサー社長はハイブリッド車に加え、2000年を目途にFC仕様車を開発すると明言した。同社は既にダイムラーベンツとFC自動車の開発で提携しており、新型P2000の登場が期待される。(日経産業新聞98年1月23日)
10. PEFC駆動のフォークリフト
 1997年11月、Siemens Power Generation Group(KWU)は、世界で初めてPEFCによって駆動するフォークリフトを開発した。PEFCの正味出力は10kW、動作温度は60℃、モジュールの大きさは長さ660mm、幅410mm、高さ410mmで、動力装置全体の大きさは1,220mm×800mm×920mmと報告されている。燃料の水素はチタン系水素吸蔵合金に蓄えられるが、23m3の水素ガスで8時間の運転が可能である。
 KWUの次のステップは、MAN社のバスに搭載される30kWPEFC4ユニットの生産で、1999年中頃までにはこのバスが道路上に登場することになろう。(European Fuel Cell NEWS, Vol.5, No.1, January 1998, p21)  
11. 自動車用AFCエンジン
 Electric Auto Corp(EAC)の会長(Chairman & CEO)であるR. Aronson氏は、同社が自動車動力用内燃機関に替わるハイブリッドFCエンジンの生産を計画していると述べている。このエンジンはAFC(アルカリ型FC)と鉛−コバルト蓄電池の組合せであり、AFCの開発にはオーストリアGraz工科大学名誉教授のK.Kordesch氏が参画する。同教授は1970年にUnion Carbide社の研究スタッフとしてFCの実用化に貢献した経験があり、現在オーストリアに於けるEAC Fuel Cellの試験を監督する立場にある。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, February 1998, Vol.XIII/No.2, p3)

 ―― This edition is made up as of February 16, 1998――