第21号 定置式発電および過程用電源としてのPEFC
Arranged by T. HOMMA
1. 気候変動に関する政府間パネル報告と京都COP3
2. 梅田センタービルPAFCが運転時間4万時間を達成
3. 富士電機製新型PAFCの事業化計画
4. 定置式発電用PEFCの生産、実証、市場展開
5. Daimler、Ballard、Ford3社によるFCエンジン開発のための連合
6. マツダがFCEV“デミオ”を発表
・A POSTER COLUMN
1. 気候変動に関する政府間パネル報告と京都COP3
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第2次評価報告書によれば、地球温暖化に寄与する主要な温室ガスであるCO2の濃度は、産業革命前の約280ppmから現在は360ppmにまで増加し、更に上昇を続けている。このため過去100年間に地球上の平均気温は0.3ないし0.6℃上昇したが、このような気候変動は過去1万年の間に例を見ない現象であったと言われている。これに関連して、世界気象機関(WHO)の「1997年版年次報告」によると、1996年の全世界の地表平均温度は平年(1961年から90年までの平均値)よりも0.22℃高く、1860年に観測が始まって以来8番目の高温を記録したとのことである。
 IPCCによる“中位の予測シナリオ”によれば、このまま温室効果効果ガスの排出増加傾向が続いた場合、2100年には気温は2℃、海面は50cm上昇することになる。海面が50cm上昇すれば、高潮被害を受けやすい人口は全世界で現在の2倍の約9200万人になり、日本の場合には砂浜の7割が消失すると推定されている。又地球の全森林面積の3分の1で現在の植生が大きく変化する可能性があるとも言われている。
 先に述べたIPCCの最新の評価によれば、1年間に化石燃料の燃焼とセメントの製造により大気中に放出されるCO2等の量は炭素換算で55億トンであり、更に熱帯域の森林が他の土地利用形態に変化することにより約16億トンが放出されていると見積もられている。したがって両者の和である71億トンの炭素が1年間に人為的に放出されていることになる。他方海洋による大気中のCO2吸収が炭素換算で20億トン、北半球の中高緯度にある森林の再生による吸収が5億トン程度、陸上生態系により吸収される量は13億トンと推定されるので、大気中に残留する炭素量は33億トンと見積もられる。この結果大気中のCO2濃度は年間約1.5ppmv(容積比で100万分の1)の割合で増加し続けているわけである。
 わが国から排出される温室効果ガスの地球温暖化への寄与は、 CO2が約95%を占めるが、 CO2排出量の91.7%はエネルギー消費に起因している。わが国の1995年度のCO2排出総量は炭素換算で3億3,200万トン(1人当たり2.65トン)であり、基準年である1990年に対して約8.3%(1人当たりは6.9%)増加した。この間イギリスは4.9%減、ドイツは11.8%減、旧ソ連・東欧は29.7%減、アメリカが5.1%増、カナダが7.8%増であるから、先進国の中では日本とカナダが突出して増加したことが分かる。
 1995年に於ける各部門別のCO2排出量の割合は、工場等産業部門が31%、発電所や精油所等エネルギー部門が30%、自動車、航空機、船舶を含む交通運輸部門が20%、事務所や家庭等の民生部門が12%の順になっている。これに対してアメリカでは交通運輸部門が32%(1996年)と大きく、国土の広さとライフスタイルの相違が反映されている。
 先に述べたように1990年から5年間にわが国に於けるCO2排出量が、総量および1人当たり共に著しく増加した理由は、80年代後半に於いて、自動車やトラックが増加し、更に家庭電化製品の大型化、空調の普及率の向上によって交通運輸や家庭用のエネルギー需要が顕著な伸びを示したためと思われる。輸送に関しては、絶対量の増加に加えて、貨物と旅客輸送の何れもが、エネルギー節約的な鉄道や船舶からエネルギー多消費型の自動車や航空機へとシフトした。これを定量的に説明すると、貨物輸送の需要(単位はton・km)は80年から90年にかけて22.1%増加したが、増加分の内訳を見るとトラック輸送の寄与率が22%で最も大きく、鉄道、内航船舶、国内航空の寄与率は各々−2.7%、2.7%、0.1%となっている。旅客輸送の場合は、需要(人・km)が同上期間内に52.9%と大幅に増加しているが、その中で自動車の寄与率は群を抜いて大きく39.1%に達している。鉄道・バス、内航船舶、国内航空の寄与率は各々10.5%、0%、3.5%であった。
 こうしたエネルギー多消費化への傾斜は、バブル経済の影響もあってこの期間特に顕著であったが、今後はこのような上昇カーブは消失し、エネルギー消費とCO2排出量は横這いで推移するか、政策や人々の意識変革、あるいは技術開発の努力次第で減少に転じるものと思われる。(環境庁編;平成9年度版“環境白書”解説、1997年、佐和隆光;地球温暖化を防ぐ、岩波新書、1997年)  1997年12月に京都で「気候変動枠組み条約第3回締結国会議(COP3)」が開催され、日本は温室効果ガスの排出を1990年を基準に2012年までに6%削減することを求めた“京都議定書”が採択された。温室効果ガスの大半を占めるCO2は、日本では現在既に1990年より8%以上増えているので、6%減少させるためには実質十数%の削減が必要になる。これは極めて厳しい現実で、通産省はエネルギー使用の合理化に関する法律(省エネ法)を改正強化して、工場やオフィスビル、家電製品、自動車等のエネルギー消費をより厳しく削減することを目指している。例えば乗用車については、燃費を2010年までに95年比で20%向上させることを義務ずける方針である。又低公害車の普及のために、98年度から新型ハイブリッド車を購入する際の自動車取得税が2%軽減される他、同クラスのガソリン車との差額の半分程度に相当する補助金を受けられる制度も発足させる予定である。(朝日新聞98年1月6日等)
 通産省資源エネルギー庁は、97年12月25日に平成10年(1998年)度エネルギー関係特別会計予算の概要を纏めて発表したが、それによると予算額は1兆1934億円で、対前年度比0.3%の微減となった。しかし、クリーンエネルギー自動車の開発および導入促進関係の予算は大幅に増額となり、導入促進には83.9億円(前年度28.1億円)、技術開発には6.2億円が計上されている。
2. 梅田センタービルPAFCが運転時間4万時間を達成
 大阪ガスが竹中工務店との共同事業で梅田センタービルに設置している天然ガス利用ONSI製PC25Aが、98年1月7日、耐久性の目標値である延べ運転時間4万時間に到達した。国内では初、世界では2番目。(朝日、読売、毎日新聞他98年1月9日)
3. 富士電機製新型PAFCの事業化計画
 富士電機は、新型のPAFC(FP−100)を開発し、フィールドテスト用に販売を開始することになった。燃料は都市ガス13A(オプションとしてプロパンガス仕様を含む)で、公称性能としては発電出力が100kW、発電効率(送電端LHV基準)が40%、熱出力は高温水90℃、低温水50℃で、熱を含めた総合効率は87%、1年間の連続運転と5年の寿命が可能と記されている。容積は長さ3.8m、奥行き2.2m、高さ2.5mで、出力1kW当たりの設置面積は0.08m2/kWになり、全重量は12トンである。出力1kW当たりの設置面積はONSI製PC25Cと比較して全く同等であり、重量はやや重く、容積はやや優れている。価格は6,000万円と推定されるが、同社燃料電池事業推進室では、「フィールドテストで検証を進めながらコストを低減し、商品として事業化を図っていきたい」と語っている。(化学工業日報98年1月8日)
4. 定置式発電用PEFCの生産、実証、市場展開
 フランスの有力な電力および鉄道機器メーカ”GEC ALSTHOM”は、定置式発電用PEFCの生産と市場開発に関連して、Ballard社と手を組むことになった。相互理解についてのメモランダムに基ずいて、GEC ALSTHOM社は生産と市場開拓のノウハウを提供すると共に、Ballard Generation Systemsによる250kWPEFC生産設備の建設に対して3,900万ドル相当の投資をすることになるようである。この3,900万ドルの内、2,100万ドルは資金であるが、残り1,800万ドルは技術と専門知識として提供される。これにより、Ballard Power Systems、GEC ALSTHOM、GPU Internationalの3社は、Ballard Generation Systemsの株式の内各々63.8%、21.4%、14.8%を所有することになる。又BallardおよびGEC ALSTHOMの両社は、ヨーロッパに生産、販売、運送設置を担当する新会社を設立するため、3,725万ドルを投資するとも伝えられている。新会社の 名前や場所は未だ公表されていないが、場所はフランスになると思われる。Ballard Generation SystemsのScott Weiner社長は、「世界的な電力規制緩和の結果、新しく成長しつつある分散型エネルギープラント市場に的を絞って事業を展開する積もりである」と語っている。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, January 1998, Vol.XIII/No.1, p2)
 アメリカのEPRIおよびボストンにあるAmerican Power Corp.による共同プロジェクト“3kW級(ピーク出力10kW)家庭用PEFCシステム”の実証運転試験に、少なくとも電力会社9社とドイツの有力なガス会社が関心を表明していると伝えられる。このプロジェクトの目的は、家庭用発電機(Residenntial Power Generation:RPG)の設備、運転、保守並びに経済性についての問題点あるいは修正すべき点を摘出するため、顧客(ユーザ)と共同で実証運転を実施することにある。発電機は改質器を備えており、燃料は天然ガス又はプロパン、系統連系又は独立運転が可能、そして効率は40%と記されている。目下のところコストはシステム当たり77,000ドルと高価であるが、最終的な価格目標はユニット当たり4,000ドルで、その時の発電原価は7−8cents/kWhとなる。遠隔地では発電原価が20−50cents/kWhとなっているので、この単価は充分採算に合う値である。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, January 1998, Vol.XIII/No.1, pp4-5)  
5. Daimler、Ballard、Ford3社によるFCエンジン開発のための連合
 1997年12月15日、従来のDaimlerとBallardの提携に加えて、アメリカのFord社もこれに加わることになり、マスコミは自動車動力用燃料電池の開発に対していよいよ世界連合が形成されることになったと伝えている。この新たな提携では、DaimlerとBallardによる既存の合弁会社にFordが参加する他、動力伝達システムを担当する新会社が設立されることになり、Ford社の投資額は4億2000万ドルに達する予定である。Daimler社の声明によると「2大自動車メーカによる代替電池技術、およびそれに燃料電池で世界の最先端を行くBallardの技術を融合することによって、乗用車やトラックの燃料電池動力機関を開発し、2004年までには現行の内燃機関と同水準の価格で市場に投入する」が目標として掲げられている。(日経産業、東京、日刊工業、日刊自動車、電波新聞97年12月17日)
 マツダのミラー社長は、97年12月19日の年末記者会見で、上記3社による開発合意を受け、「マツダもFordとの関係で貢献する領域があると思う」と発言した。(毎日新聞97年12月20日)
6. マツダがFCEV“デミオ”を発表
 マツダは水素燃料FCを搭載した電気自動車(FCEV)“デミオ”を開発したと発表し、97年12月に京都で開催された「エコ・ジャパン97」に出展した。蓄電池をFCによって充電するハイブリッド車で、FCシステムの特徴は、これまで必要であった空気加湿器を省いてシステムをよりコンパクトにしたこと、および加速時に於ける出力補助としてウルトラキャパシタを採用した点にある。基本性能は、最大出力40kW、最高速度は90km/h、1回の水素充填で約170kmの走行が可能、そして低速トルクが大きく発進時の加速性能はガソリン車と同レベルに達している。(毎日、流通サービス新聞12月26日)

 ―― This edition is made up as of January 19, 1998――


A POSTER COLUMN
 下表はArthur D. Little社によって開発されたガソリン等改質システムの性能、および次世代改質システムの予想性能を、PNGVの目標値(2000年)に対して示したものである。

性能項目
PNGV
(2000年目標)
1997年の性能
次世代装置に於ける
予想性能
エネルギー効率
70%
78%
78-80%
容積出力密度
600W/lit.
700W/lit.
600W/lit.
重量出力密度
800W/kg
500W/kg
800W/kg
コスト
$30/kW
$16-25/kW
$16-25/kW
最大出力までの起動時間
2min
2min
2min
応答時間(10→90%)
20sec
3-5sec
3-5sec
排気
<TierII
≪TierII
≪TierII
CO含有量
100ppm
10,000ppm
50-100ppm
 
 下表はADLによって過去3年間に開発された改質システムの仕様と性能および次世代改質システムの予想される仕様と性能である。

世代
利用目的
出力規模
燃料
起動時間(分)
備考
移動体動力源
50kW
エタノール/メタノール
60
改質器1号
同上
50kW
ガソリン/エタノール/メタノール
天然ガス/プロパン/JP-8
30
硫黄成分1ppmv
商業用水素生成
50kW
ガソリン/エタノール/メタノール
天然ガス/プロパン/JP-8
10
触媒温度処理の改良、
水蒸気発生
可搬用
300W
ガソリン/エタノール/メタノール
天然ガス/プロパン/JP-8
10
kW以下のスケールでの実証
移動体動力源
50kW
ガソリン/エタノール/メタノール
天然ガス/プロパン/JP-8
2
次世代システム
出典:W. Mitchell; Fuel-Flexible Fuel Processor for Transportaion, Commercializing Fuel Cell Vehicles 97, 20-22 October, 1997, Frankfurt, Germany