第20号 SOFCの開発成果とIFC社のPEFC
Arranged by T. HOMMA
1. アメリカのFC開発政策
2. ガス事業者による実証運転実績
3. FCの新たな市場展開
4. SOFCの開発成果
5. 電発でのSOFC実証運転計画
6. AFCエンジン自動車の登場
7. IFC社のPEFC
8. Daimler、Ballard、Ford3社によるFCエンジン開発のための連合
9. マツダがFCEV“デミオ”を発表
1. アメリカのFC開発政策
 アメリカ大統領科学技術諮問委員会は、CO2排出量を少なくする化石燃料の利用技術開発を推進するよう勧告する報告書を提出した。同委員会は「ビジョン21」と題する新たな研究開発計画を策定するよう提案し、DOEの研究開発予算額も97年度の7,000万ドルを2003年には1億1,300万ドルへ増額するよう求めている。同報告書は又、FCが実用化すればガソリンに替わって水素が重要な燃料になると指摘し、99年度からは水素の利用技術開発に着手、2003年にはそれに700万ドルの研究費を割くよう提案している。更に温暖化防止対策に結びつく技術開発として、CO2固定化やそれをメタンに閉じこめる技術開発の重要性も指摘した。他方石炭燃焼によって排出されるNOxやSOxの低減技術は実用段階に入ったとして、開発研究費を削減するよう求めている。日本では温暖化防止対策として原子力発電所の増設を考えているが、アメリカでは化石燃料の高度化利用技術に開発の力点を置いているように思われる。(日経産業新聞97年11月27日)
 上述の報告書は、大統領の諮問に応えるために、”President’s Committee of Advisors on Science and Technology(PCAST)”に属する”Energy Research and Development Panel”によって提言された勧告を指しているように思われる。このPCASTとは、クリントン大統領からの行政的命令(Executive order)によって設立された民間人による最高レベルの科学技術グループ(the highest level private sector S&D group)であり、その中に含まれるるエネルギーパネルは21人の委員から構成され、その議長は、Harvard大学のJ.P.Holden教授が勤めている。報告書の内容についてH&FC Letterはかなり詳細に紹介しているので、以下にFCに関係の深い部分について要点を記述する。
 先ず21世紀には水素が電力と同等に重要なエネルギー媒体になるであろうと評価し、この分野の研究開発が非常に重要な中長期的課題であることが強調されている。この様な観点から、上掲のニュースにあるように水素の生成、貯蔵、供給インフラ、定置式発電用および自動車用FC等水素関連の研究開発を求める勧告が述べられている。又FCについては、低温での動作が可能で高出力密度の特性を持ち、かつ大量生産によって大幅にコスト低下が実現し得るPEFCが、自動車用動力源として有効であり、最も将来性のある機種として評価されている点が注目される。他方現在進められているプロジェクトの中で、その実現性について疑問を感じさせるようなテーマについての指摘も含まれている。その1例が自動車用動力機関としての水素燃焼内燃機関であり、理由については天然ガス自動車に対する競争力が問題視されている。
 PNGV(Partnership for a New Generation of Vehicles)は、1993年から10年計画としてスターとしたが、短期間にあまりにも多くの目標を掲げており、技術の選別が行われたのは今年であることを考えると、実質的な研究開発期間は4年でしかない。中長期的な視点に立って開発を効果的に推進するためにはこのプロジェクトでは不十分であり、新しくPNGV−IIを設立するよう求めている。(Hydrogen & Fel Cell Letter, December 1997 Vol.XII/No.12, p1)
2. ガス事業者による実証運転実績
 東京ガスは97年10月末現在でのガス事業者によるオンサイト用FCのフィールドテスト実績を纏めて発表した。トピックスとして、1)三園浄水場(東京ガス)および酉島FCセンター(大阪ガス)で運転中のPC25Cが1万時間を突破した、2)阪急電鉄本社ビル(大阪ガス)の富士電機製50kW2ユニットが97年9月末で運転を終了した、3)東邦ガスが同8月にトヨタ自動車本社工場で富士電機製100kWユニットの運転を開始した、が挙げられている。累積運転時間が3万時間を超えている機種は以下の通りである。

事業者名
設置場所
容量
(kW)
メーカー
運転開始
月/年
累積運転時間
(hrs)
備考
大阪ガス
梅田センタービル
200
ONSI
10/94
39,021
東京ガス
東京イースト21
200
ONSI
11/92
33,364
連続9500hrs
東京ガス
東京ガス田町
200
ONSI
11/92
32,932
大阪ガス
大津タイヤ泉大津工場
200
ONSI
6/93
32,829
大阪ガス
コープ姫路白浜
100
富士電機
5/93
32,021
新型セル
大阪ガス
阪急電鉄本社2号
50
富士電機
3/93
31,015
9月末終了
東京ガス
TG千住営業技術センター
200
ONSI
12/92
30,978
東京ガス
TG袖ヶ浦工場
200
ONSI
6/93
30,622
連続8079hrs
(日刊電気通信97年11月28日)
3. FCの新たな市場展開
 アサヒビールはCO2排出量を削減するための対策として、燃料の使用効率向上や省エネの推進に積極的に取り組むことを決定し、今後3年間にこの関連分野で100億円を投資することにした。推進策の一例として四国工場に燃料のリサイクルを目的としたFCの導入が挙げられている。同社は2000年にCO2排出量原単位(ビールの1klit.当たり排出量)を90年比20%削減し、150kgとする目標を掲げている。(日経産業新聞97年11月27日) 
4. SOFCの開発成果
 ファインセラミックスセンター(名古屋市)は、SOFCの燃料極であるNi-YSZの長期安定化技術を開発したと発表した。噴霧熱分解法により原料粉末の形態を制御し、高温下でのNi粒子の成長を抑えた結果、6000時間の長期テストでも性能劣化はほとんど見られなかった。より具体的には以下のように説明できる。 すなわちNi-YSZ原料粉末を溶液にして霧化し、電気炉で乾燥・熱分解させる噴霧熱分解法で形態制御すると、Ni粒子の表面が微細なYSZ粒子で覆われた形の複合粉末になる。この粉末を適切な条件下でスクリーン印刷し焼き付けると、Niが熱に強いZrによって包み込まれ、長期間安定した構造を作り上げることができる。それが今回のNi-YSZ燃料極である。(中日新聞97年11月22日、日刊工業新聞97年11月25日)
5. 電発でのSOFC実証運転計画
 電源開発と三菱重工業は、97年11月27日、北九州市若松総合事業所内に於いて10kW加圧(5気圧)円筒横縞型SOFCモジュールの建設に着手したと発表した。現在は運転試験で用いるセルチューブやモジュールの製作を行っており、98年3月から7000時間の運転を実施する予定と伝えられる。電発は従来からSOFC/GTコンバインドサイクル発電の実用化を目標に、加圧型SOFCの開発を進めており、96年1月に於ける常圧型モジュールでの5000時間連続運転に続いて、97年1月には加圧型1kWモジュールで連続1000時間の運転を実現した。SOFCの実用化のためには、セルの長寿命化と低コスト化が大きな課題とされていたが、同社ではセルチューブの製造に新技術を適用することによって既設火力プラントと同等のコストを達成し得るとの見通しを得たようである。又電発は総発電容量の約40%が石炭火力であるが、SOFCを石炭ガス化炉と組み合わせることにより、現在40%前後の発電効率を50%以上にまで向上させることを期待している。(電気新聞97年11月28日、日経産業新聞97年12月10日)
6. AFCエンジン自動車の登場
 イギリスに本部を置くZEVCO社は、AFCと鉛蓄電池を搭載したハイブリッド自動車(van)を製作し、98年4月からロンドン市内に於いて実証運転を始めることになりそうである。この社名“ZEVCO”は ”Zero Emission Vehicle Company” に由来し、同社はAFCの技術をベルギーのElencoN.V社から引き継いで1994年に設立された。実証運転が予定されているロンドン市内の自治区City of Westminsterでは、既に水素スタンド設置のため2カ所が選定されたと伝えられている。ELCAT Cityvan200として知られることになろうバンのFCモジュールは5kW水素−空気システムで、蓄電池の充電用および補機類の電源として用いられる。FC全体の容積は約200lit.重量は100kg以下、蓄電池の容量は250Ah/5hで重量が460kg、駆動用電動機の出力は14kW-DC、そしてAFCモジュールは8時間運転で26Nm3の水素を必要とする。実証第1号車の価格は$67,700、現時点で車両用5kWプロトタイプスタックのコストは$20,000($4,000/kW)であるが、同社の創立者であるN.Abson氏は1年後には、2kWシステムを想定し、水素の貯蔵用容器を含めて$3,000/kWが実現できると述べている。又AFC用材料のコストは$85/kWで、この3分の1はニッケルメッシュによって占められる。
 これとは別にZEVCO社は、アメリカのTug Manufacturing Corpが製作した空港での荷物運転用トラクタの駆動源をAFCに置き換える業務を開始しており、98年4月にはそれがTug社に引き渡される予定になっている。(Hydrogen & Fel Cell Letter, December 1997 Vol.XII/No.12, pp1-4) 
7. IFC社のPEFC
 IFC社によって製作された正味出力50kW(255V,DC)水素燃料PEFCが間もなくフォード社において試験運転に入る予定である。このPEFCは大気圧で動作し、空気送入のためにわずかに加圧するブロワーを備えてはいるもののコンプレッサが無く、構造が簡単でかつ補機動力が少ないのでその分効率が高くなっている。定格出力の25%運転において60%、定格運転において50%の効率が得られると報じられている。重量は約135kg、容積は255lit.で、これは自動車のボンネットの下に充分入る大きさである。BallardやPlug Powerの両社もIFCと同様、PNGVでフォードと同一グループに属しているが、IFCのTransportation Fuel Cell DepartmentのマネージャAlfred Meyer氏は、最も強敵であるBallard社にこれで勝つ自信ができたと述べている。フォード社は来年の暮れには新しい軽重量車P2000の駆動源としてFCを搭載する予定と発表しているが、実証車が道路を走行する時期については定かでない。(Hydrogen & Fel Cell Letter, December 1997 Vol.XII/No.12, pp4-5)

IFCによるPEFCシステムの仕様と設計目標の比較

設 計 目 標
1997年7月に於ける製品設計仕様
正味出力50kWDC
正味出力50kWDC@255V
6 lb/kW(2.7 kg/kW)
6 lb/kW(2.7 kg/kW)
0.25 mgPt/cm2/cell
0.48 mgPt/cm2/cell
電圧最低値250 V
電圧最低値 255 V
30”×36”×34”(76cm×91cm×86cm)
26”×33”×24”(66cm×84cm×61cm)
≦30psig(≦2 atm)
1 psig(0.7 atm)
(Ronald Sims;Ford’s Fuel Cell Research & Development Activities, Commercializing Fuel Cell Vehicles 97, 20-22 October 1997, Frankfurt, Germany)

 上表から製作されたPEFCは白金添加量を除いて設計目標を凌駕している。白金添加量が目標を満足できなかった点について、IFC社は新しい高分子膜の供給が間に合わなかったためと説明している。あお重量については135kgで説明と表の値は一致するが、容積は表では338lit.となり、説明文にある255lit.よりも大きな値となる。
8. Daimler、Ballard、Ford3社によるFCエンジン開発のための連合
 1997年12月15日、従来のDaimlerとBallardの提携に加えて、アメリカのFord社もこれに加わることになり、マスコミは自動車動力用燃料電池の開発に対していよいよ世界連合が形成されることになったと伝えている。この新たな提携では、DaimlerとBallardによる既存の合弁会社にFordが参加する他、動力伝達システムを担当する新会社が設立されることになり、Ford社の投資額は4億2000万ドルに達する予定である。Daimler社の声明によると「2大自動車メーカによる代替電池技術、およびそれに燃料電池で世界の最先端を行くBallardの技術を融合することによって、乗用車やトラックの燃料電池動力機関を開発し、2004年までには現行の内燃機関と同水準の価格で市場に投入する」が目標として掲げられている。(日経産業、東京、日刊工業、日刊自動車、電波新聞97年12月17日)
 マツダのミラー社長は、97年12月19日の年末記者会見で、上記3社による開発合意を受け、「マツダもFordとの関係で貢献する領域があると思う」と発言した。(毎日新聞97年12月20日)
9. マツダがFCEV“デミオ”を発表
 マツダは水素燃料FCを搭載した電気自動車(FCEV)“デミオ”を開発したと発表し、97年12月に京都で開催された「エコ・ジャパン97」に出展した。蓄電池をFCによって充電するハイブリッド車で、FCシステムの特徴は、これまで必要であった空気加湿器を省いてシステムをよりコンパクトにしたこと、および加速時に於ける出力補助としてウルトラキャパシタを採用した点にある。基本性能は、最大出力40kW、最高速度は90km/h、1回の水素充填で約170kmの走行が可能、そして低速トルクが大きく発進時の加速性能はガソリン車と同レベルに達している。(毎日、流通サービス新聞12月26日)  

 ―― This edition is made up as of January 7, 1998――