第19号 多種燃料改質技術続報と中国でのFC開発
Arranged by T. HOMMA
1. ガソリン等多種燃料改質技術
2. 可搬式小容量PEFCのための改質装置
3. 中国に於けるFCの開発戦略と研究動向
4. ブラジルのサンパウロに於けるFCバス実証計画
5. イタリアに於けるPEFC開発
6. スイスに於ける低コスト膜の研究
・A POSTER COLUMN
1. ガソリン等多種燃料改質技術
 去る10月21日のアメリカDOEFederico Pena長官による“ガソリン改質の成功”に関するニュースは、New York Timesを初めCNNやアメリカ3大TVネットワークで報道されるなど、MEDIAを大いに賑わす結果となった。これはLatest News 18で述べたように、ガソリン、エタノール、メタノール、天然ガスの多様な燃料から部分酸化法(POX)によって効率的に水素を取り出す技術が、A.D.LittleとLos Alamos National Lab.によって開発されたというもので、Ballard製(5kW)およびPlug Power製(1.5kW)のPEFCとの連系によって発電実験が行われた。A.D.LittleのJeffrey Bentley副社長は、運転時間の合計は20時間、又最長連続運転時間は4時間であったと述べている。又Bentley氏はその性能について、POXとFCを連携した総合システムでの実験により、以下で定義される燃料改質プロセッサー効率(fuel processor efficiency)
Fuel Processor Efficiency= LHV of H2 to fuel cell/LHV of total fuel input
が、ガソリンで約78%、エタノールで約84%に達したと述べている。エタノールは硫黄分を含まない点で望ましいバイオマス燃料であり、これの利用が進展すれば、将来休閑中や未開墾の畑を利用して正にエネルギー栽培農場を形成することができそうである。A.D.Littleは、この技術を商業化するために数カ月以内にも別会社を創立させるとともに、この技術開発を促進させるためのスタッフを募集すると述べている。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, November 1997 Vol.XII/No.11, p1)
 なお上述のアメリカPlug Powerとは、Mechanical Technology, Latham, NYとEdison Development Corp.,Detroit, MIの両社によって昨年(96年)夏に設立された合弁企業で、その目的は家庭を対象としたセントラル空調用FCシステムの生産に置かれている。(H&FCL Aug.1997, Vol.XII/No.8, p4)
2. 可搬式小容量PEFCのための改質装置
 Arthur D. Littleは過去6年間に亘って多種類燃料の改質装置の開発に従事してきた。本来の主要な開発目的は、PNGV計画の目標を達成し得る自動車FCエンジン用改質装置の実用化であり、それは液体又は気体のエタノール、メタノール、メタン、プロパンおよびガソリンの何れの燃料でも使用可能な出力50kW級の改質プロセッサの実現に置かれていた。他方同社は上記開発計画の延長として、全く新しい設計概念に基ずいた数百W級可搬式小容量のFC用改質プロセッサを開発しつつあることを発表した。この小容量改質プロセッサの設計仕様は以下のように示されている。
 ・プロパン、天然ガス、ブタン、メタノール、エタノールが使用可能
 ・燃料の熱入力は500W又はそれ以下のレベル
 ・大気圧で動作し、コンパクトで大きさは3lit.以内
 本装置の特徴は、プロセス内に於ける温度分布を利用して、熱損失が小さく、したがって高い効率を達成した点にある。同社が設計製作した装置での運転実験結果によれば、燃料としてメタノールおよびプロパンを用いて場合、改質ガスに於けるCO濃度は2000ppmであった。又装置の表面温度が40℃以下であるという事実は、熱ロスが小さいことを物語っている。以上の開発成果によって、ADL社は25Wから250kWの4桁に跨る広範囲な出力規模に於いて、多種類燃料型改質装置の実現に道が開けたと語っている。(J.M.Bentley他:Multi-Fuel Processor for Small-Scale Fuel Cell Systems, 第38回電池討論会講演要旨集、1997年11月、p65)
3. 中国に於けるFCの開発戦略と研究動向
(1)エネルギーと経済事情
 現在中国はアメリカに次ぐ世界第2位のエネルギー生産と消費国である。石炭の生産量は年間14億トンで、これは全1次エネルギー消費量の75%に相当する。(アメリカの1次エネルギー消費量は年間約10億トンで、石炭はその25%である)天然ガスの生産量は徐々に増えており、1990年には153億cu.mであったのが、95年には173億cu.mになり、97年には200億cu.mに達するものと想定される。又石油については95年に於ける生産量は1億5000万トンで、輸入を加えて消費量は1億5600万トンであった。原子力発電は210万kWで目下中国全発電設備容量2.36億kWの1%に過ぎないが、2010年には2,000万kWにまで増加させる予定である。更に中国では2ないし3億トンのバイオマスが消費されているが、その利用方法のほとんどは調理や暖房用熱源としての薪又は木炭で、一部バイオガスが使われている。
 他方1990−95年に於ける平均経済成長率は12%であり、96年には9.8%に下がったものの、97年上半期のデータからの類推では97年度には再び10%を超えると思われる。

(2)FCの開発指針
 中国に於いては、実用化を目的としたFCの技術開発は始まったばかりである。膨大な人口を抱える中国は、特に都市部への人口集中とそれに伴う環境汚染が激しくなることを勘案して、都市でのクリーンな輸送交通システムの開発が緊急の課題となっている。都市部での主要な公共的交通手段として先ず期待されるのはバスであり、したがってFCの開発指針としてはFCバスのエンジンであるPEFCの開発に重点が置かれている。未確認ではあるが、FCバス開発のための設備を建設するため、1,000万Yuan(約125万ドル)の初期投資を行うとの情報も伝えられている。又中国は豊富な石炭資源を保持しているので、このクリーンユースも重要な課題であり、このような観点からMCFCの開発にも着手することになった。しかし、急速な経済発展に伴うエネルギー供給体制の確立が当面の急務であり、水素エネルギーやFC等未来型技術開発については、組織的な研究開発体制が確立しているとは言い難く、FCの研究開発についても幾つかの大学や研究機関が独自に外国との共同研究を進めているのが現状のようである。以下分かっている範囲で、具体的な研究開発動向を紹介する。

(3)FCの研究開発動向
 The Shanghai Institute of Organic ChemistryのJiang Biao教授は、過去10年間PEFCのためのfluoride-type 電解質膜についての研究を行ってきた。 彼は外国の研究機関と共同研究を続けており、又彼自身がDelawareにあるDuPontに数年間滞在した経験がある。同教授によれば、中国の目標は2000年までに電解質膜とPEFCスタックのプロトタイプを試作することである。開発目標は2段になっており、最初のは10×10cm2、次いで50×50cm2のセルが開発される予定である。一方中国では出力規模1.2kWのPEFCが、Chemical Ministryの主導の基、Dalian Chemical Physical Sciences InstituteおよびBeijing Chenmical Research Instituteによって開発されようとしており、このプロジェクトとBiao教授のセル開発は共通か少なくとも相互に関係していると思われる。教授の話では、このPEFC技術開発には、これらのプロジェクトに対して上海の自動車メーカおよびDuPont等アメリカの機関が協力しており、先進国と協力して科学技術を発展させようとする中国の姿勢が伺える。
 バス駆動用PEFCの開発研究は、北京のTsinghua大学Institute of Nuclear Energy Technologyでも始められようとしており、そのための研究資金はFCに関心を持つ企業および政府の組織であるScience and Technology Commissionから供与される。政府資金の額は20万ドルと伝えられている。又同大学はドイツのKarlsruhe Research Centerと共同で、当初出力が0.75kWで36セルから成るPEFCスタックを開発することになっていたが、ドイツの資金が大幅にカットされたため、スタックの規模は縮小されたようである。これは2輪車の駆動用エンジンとしての利用が目的である。
 先に述べたように、中国ではPEFC以外にMCFCの研究開発も初めようとしている。上海のJiao Tong大学の応用化学部長(Chairman of the University’s Department of Applied Chemistry) であるWu Yihua教授は、研究の目標は約2年先にPEFCおよびMCFCの各々について、100Wレベルの小規模な実験用デバイスを試作することであると語っている。燃料としては石炭から生成される都市ガスおよび天然ガスが予定されている。研究資金として当面中国科学アカデミーによってPEFCに対しては380万Yuan(475,000)が、MCFCに対しては120万Yuan、合計500万Yuan($625,000)が供与されるとのことである。Wu教授は、Japan’s Central Institute of Electricityがこのプロジェクトのための試験装置を提供し、又オランダの研究グループとも共同研究を行うことになるかも知れないと述べている。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, November 1997, XII/No.11, pp1-3)
4. ブラジルのサンパウロに於けるFCバス実証計画
 ブラジルのNational Department of Water and Electric Energyの次官であるD.Barbosa da Silvaが語ったところによると、国際基金であるGlobal Environment Facility(GEF)が、この程サンパウロ市に於けるFCバス実証プロジェクトPhase-1に必要な資金60万7000ドルの内その約半額を出資することに同意した。Phase-1はFCの商業化の動向、水素供給の可能性、FCバスの需要予測等、ソフト面での調査と評価が課題で、18ヶ月で完了する予定になっている。実証プラントの準備と必要なハードウエアの調達はPhase-2に入ってから行われることになろう。サンパウロに於ける2大バス会社であるSao Paulo Metropolitan Transit AuthorityおよびSP Transporteが推進母体になると思われる。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, Nov.1997 Vol.XII/No.11, p6)
5. イタリアに於けるPEFC開発
 イタリアのDe Nora社は、従来の炭素系バイポーラプレートに替えて金属系プレートを用いた先進的PEFCの設計を進めている。金属合金のプレートは熱伝導が高いので冷却が容易であり、特に振動やショックに対する機械的強度が強い。そして大量生産プロセスに有利なため、コスト削減を実現することができる。既に5kWおよび10kWスタック(30V, 330A)は製作済みであり、現在30kWスタックが開発途上にある。このPEFCの重量は120kg、大きさは59×43×50cm3で、1.5気圧で運転される。同社は定置式発電設備としてのFC開発に努力を集中しており、自動車用FCについては考えていないようである。(H&FC Letter, Nov.1997, Vol.XII/No.11, p6) 
6. スイスに於ける低コスト膜の研究
 低コストのPEFC膜の実現を目的とした開発研究が、スイスのPaul Scherrer InstituteのFelix N. Buechi研究員によって続けられている。F.N.Buechi氏は化学的安定性の優れた安価な膜を造る手法として、放射線重合法(radiation grafted method)を採用した。この方法は電池や透析装置に使われる膜を低コストで生産する手段として既に確立された技術であり、ガス透過率や膨張性等、諸特性の制御も容易である。コスト目標は$200/m2で、この値はNafion膜の$850/m2に比べて安く、又この手法で生産された膜は、プロトン伝導性、ガス分離および機械的性能においてもより優れた特性を示すものと期待されている。 (H&FC Letter, Nov. 1997 Vol.XII/No.11, p6)

 ―― This edition is made up as of November 20, 1997――

・A POSTER COLUMN

第32回東京モータショーに於けるFC自動車の展示
 1997年10月25日から11月5日まで、第32回東京モータショーが幕張メッセで開催された。97年12月に開催されるCOP3との関連もあって、今回のショーでは特にクリーン自動車の展示が人々の注目を集め、FC自動車も勿論その例外ではなかった。自動車メーカ各社のFC関連自動車の展示状況は以下の通りである。

・ダイムラーベンツ:Aクラス車にFC(25kW2基)を搭載した実車(NECAR3)を展示。メタノール改質装置を搭載しており、38lit.のメタノールで400kmの走行が可能である。動力源としてのバッテリーは搭載していない。

・トヨタ自動車:実車構造モデルを展示。メタノール改質装置を搭載し、2次電池にはニッケル水素電池が採用されている。回生制動による電力の回収が可能。

・日産自動車:構造モデルを展示。メタノール改質装置を搭載し、2次電池にはリチウムイオン電池が採用されている。回生制動による電力の回収が可能。

・フォード:実車構造モデルを展示。

・マツダ:FC自動車の部品を展示。水素燃料供給用としての水素吸蔵合金が展示。

(中沢、森田;32東京モータショー見学手記)

・各自動車会社によるプロトタイプFC車の公表又は公表計画年次

1993/94
1995/96
1997/99
Ballard
1 バス
1 バス
+6 バス
Daimler-Benz
1 バン
1 MPV
+1 バス
+1 乗用車
US DoE
1 バス
2 バス
2 バス
Toyota
 
1 RAV4
1 RAV4
IVECO/Fiat
 
 
1 バス
Renault(with Volvo)
 
 
1 乗用車
Peugeot
 
 
1 バン
Neoplan
 
 
2 バス
MAN
 
 
1 バス
Ford, Chrysler, GM
 
 
+3 乗用車
VW(with Volvo)
 
 
1 乗用車
(M.Nurdin;Fuel Cell Vehicles - An Increasingly Competitive Reality?,Commercializing Fuel Cell Vehicles 97, 20-22 October 1997, Frankfurt, Germany)