第16号 PAFCの世界市場
Arranged by T. HOMMA
1.政府関係機関の施策
2.PAFCの市場展開
3.FC自動車の開発
1.政府関係機関の施策
 工業技術院は、国際電気標準会議(IEC:International Electrotechnical Comission)の審議に会わせて、97年度内にもFC国際標準設定のための国内対策委員会を開設する予定である。新エネルギーの中では、太陽光発電、風力発電については、IECの中に専門委員会(TC: Technical Commission)が既に設立され、国際標準の樹立に向けて議論が進められているが、FCについてはIEC会長直属のアドホック・グループがTC設立のための準備を進めている段階にある。FC国内対策委員会はIEC・TCの開設に会わせて始動することになり、事務局は既にFCのJIS化のための調査検討を行っている電機工業会が担当する。わが国の工業規格や技術基準は国際的に整合性のあることが必要であるとの認識が高まっているが、一般に国際規格は歴史的に欧州主導で進められた経緯があり、わが国の意見を国際規格に反映させるためにも、それ相応の準備をしておく必要がある。今回の動きはそのような意向を反映したものと思われる。
(電気新聞97年6月26日)

 環境庁は、平成9年度地球環境研究計画(地球環境研究総合推進費による研究計画)を決定したが、この中に課題検討調査研究として二酸化炭素の分離が含まれている。その内容は化石燃料を効率よく利用して二酸化炭素の排出抑制を図るとともに、発生した二酸化炭素を分離回収する技術を開発しようとするものであるが、課題として"SOFCを主体とする複合サイクルシステム"が加えられている。
(日刊電気通信97年7月24日)

 NEDOは97年7月9日に、先導的高効率エネルギーシステムフイールドテスト事業に関する共同研究者公募の説明会を開いた。これは資源エネルギー庁の今年度新規事業で、PAFCの量産化と普及を実現することを目的に、PAFCを導入する事業者、自治体、研究機関等によって、耐久性、信頼性、経済性等のデータを共同で蓄積する。7月31日まで応募を受け付け、9月上旬を目途に共同研究者を決定する予定。事業費の3分の1をNEDOが補助するが、今年度予算は33億円で、テスト地点数は10地点前後になろう。PAFCについては、ONSI社製のPC25型200kW機が商業化計画に於いて先行しているが、NEDOは特定のメーカや機種に偏らず、幅広い事例を選んでデータ収集を行う意向を持っている。
(電力時事通信97年7月2日)

 新エネルギー財団(NEF)は7月10日から97年度「21世紀型新エネルギー機器表彰(新エネバンガード)」に係わる公募を開始する。これは資源エネルギー庁が新エネの導入促進と普及啓発を目的に昨年度創設した制度で、特に優れた新エネ機器およびその導入事例を表彰する。対象種目は太陽光発電、太陽熱利用システム、風力発電、廃棄物発電、クリーンエネルギー自動車、コジェネシステム、燃料電池、未利用エネルギー活用型熱供給システム、その他となっている。応募は個人、グループ、法人、自治体いずれも可で、9月10日に募集を締めきり、NEFに設立される学識経験者等で構成される委員会で審査される。審査の結果、優秀と認められた物にはそのレベルに応じて"通産大臣賞、資エ庁長官賞、新エネ財団会長賞"が授与される。
(電力時事通信97年7月9日)
2.PAFCの市場展開
(1)ロシアに於ける市場開発
 アメリカIFC社は、97年6月現在で185ユニットのPC25200kWプラントを受注し、その総売上額は1億1100万ドルに登ると発表した。特に注目に値する発注者は世界最大級の天然ガス会社であるロシアのGazprom社であり、同社は環境性に優れた都市開発を目的にFCの導入に踏み切ったようである。このプラントは今月ロシアに向け船積される予定になっている。IFC社のFC商業化プロジェクトの責任者であると同時に副社長のRick Whitakerは、「Gazprom社がFCに対して興味を示す理由の一つは、FCの持つ高い信頼性にある」と述べている。氷で覆われた厳寒のツンドラ地帯に発電プラントが設置されたとして、例え1週間か2週間に1回といえども、オイル交換や修理のために都市から数十マイルも離れた地域にまで出かけなければならないのは、決して好ましい作業ではない。その点 FCは現在のディーゼル発電機よりも有利であり、気候条件に対しても幅広い許容性を持っている。ONSI社のmarketing manager、Gregory Sande11iは、「PC25型機は−40℃から50℃に至る幅広い気候条件で運転が可能である」と述べている。Gazprom社がロシアに於ける電力事業者として新しい役害Iを演じようとしていることを考えると、今後ロシアとの間でFCの契約が拡大していくものと期待される。同社は西ヨーロッパに至る長さ15,000kmの天然ガスパイプラインを管理しており、そのためのコンプレッサーや労働者のために建設された町村に電力を供給するため、総容量200万 kWに登る発電施設を抱えている。今回のPC25機導入を手がかりに、今後それらの集積による1MWユニットや10kWレベルの小出力機の導入も考えており、それについてG・Sande1liはPAFCのみならずPEFCも対象機種となり得るとの見解を示している。更に同社は、FCをアメリカから購入するだけではなく、FCプラントを生産するためにアメリカと合弁会社を設立することに興味を抱いているようである。ロシアで FCを生産することができれば、輸送費の肖I減と安い労働力の確保によってコスト削減が可能になるのみならず、当局の許可を得やすいというメリットを享受することができる。

(2)生産力の拡大とコスト予測
 上記185ユニットの契約に加えて、現在契約の意志表示あるいは関心を示しているユーザ数は235にも達している。これらプラントの大部分は1998年から99年にかけて出荷されることになろう。同社による現在の生産能力は、スタックについては年間200ユニット、システムのassembleにおいては年間60ないし80のレベルであり、如何にして今後増大傾向にある需要に対応するか、それは緊急の課題(pressing question)であると R.Whitakerは述べPC25の場合、上述した売り上げ額とユニット数の関係から見ても、1ユニット当たり平匂価格は60万ドルであり、アメリカ政府による補助金($1,000/ kW又は総価格の1/3)を適用したとして、ユーザの買い取り価格は40万ドルのレベルとなっている。昨年度はONSI製PC25の41プラントにこの制度が適用された。IFC社は2000年時点になれば、政府の補助金抜きで40万ドルのレベルに達するであろうと予測している。
(Hydrogen& Fuel Cell Letter,July 1997,Vol.XII/No.7)

(3)ドイツによるPAFCの導入
 地球環境の保全とエネルギー資源確保の観点から、今後1次エネルギーは化石燃料から再生可能エネルギーへと徐々に移行すべきであるとの思想がヨーロッパには強い。そしてそのためには輸送と貯蔵が容易で且つクリーンなエネルギー媒体である水素が大きな役割を果たす物と期待されている。Euro-Quebec Hydro-Hydrogen Pi1ot Plant ProjectやSolar-Hydrogen計画は、そのような思想を反映して発足した。この様な燃料選択の変遷を予測して、ヨーロッパでは水素を燃料とするFCの開発が進められようとしている。その一つの例をドイツに見ることができる。Hamburgのエネルギー供給会社Hamburgische Electricitats-Werke AG(HEW)とHamburger Gaswerke GmbH(HGW)は、オンサイト用.ジェネレーションプラントとして、天然ガスに加えて今回水素を燃料とする PAFCを導入することを決定した。もともと上記2社は、発電プラントから発生する熱出力はH GWが持つ熱供給パイプラインネットワークによって、電力はHEWのグリッドを通して各消費者に供給する事業を行っている。天然ガスを燃料とするFC発電プラントとしては、既にONSI/CLCのPC25機(電気出力200kW、熱出力220kW)が1995年中頃に導入され、実証運転によってFCの運用に関するノウハウを獲得した。
 そして実証運転の第2段階としては、水素を燃料とする PC25改良型を導入することになり、それは97年7月から運転が始められる予定になっている。燃料は液体水素の形態で60m3のタンクに蓄えられ、FCスタックに供給される直前に気化される。このタンク容量は約2週間の運転を保証するものと考えられている。
 この様な水素システムを導入するためには、技術的問題の克服に加えて、社会的アクセプタンスを獲得する必要があり、安全性や環境性を含めて技術的且つ社会的情報は極力公開されることになろう。
(European Fuel Cell NEWS,Vol14,No.2,July l997)

(4)東邦ガスによるトヨタでの実証試験
 東邦ガスは、富士電機製出力100kW新型PAFCをトヨタ自動車の本社工場に設置し、8月下旬から実証試験を開始することになった。電力は工場内で消費するが、発生した熱は温水として回収し、塗装前処理工程の洗浄用水槽の加温に利用する。東邦ガスによるPAFCの実証試験は、4月に導入したデンソー西尾製作所に次ぐ2件目となる。
(日経産業新聞97年7月24日)

(5)Ansaldo/CLCの開発
 既に確立されたPAFC技術を前提に、Ansaldo/GLC社は800〜900kWの出力規模を持つ水素利用PAFCの概念設計を完成した。船積みの便官さを考慮して、FCのモヂュールは標準寸法のコンテナーにそのまま格納されるよう、工場でパッケイジ化される手筈になっている。このFCの発電効率は最大50%(LHV)、総合効率は最大80%(LHV)であり、熱出力は最高温度140℃の蒸気で取り出すことができる。水素濃度が50ないし100%(体積率)の燃料が使用可能であるが、水素濃度によって出力や効率等の性能は変化する。これとは別にAnsaldo Groupの研究法人組織 Ansaldo Ricercheは、1970年代後半からFCの開発事業に係わってきた。最近の主な事業活動には、PC25の商業化以外にイタリアのミラノに設置されるL3MW PAFCプラントの設計と建設、同社固有のMCFCプラントのスケールアップ、FC自動車やボートの開発が挙げられている。
(European Fuel Cell NEWS,Vol.14,No.2,July 1997)
3.FC自動車の開発
(1)トヨタ自動車は、「トヨタ環境フォーラム」の席上、主要車種のCO、HC(炭化水素)、NOx等の排出量を98年初めから順次、規制値の1/10以下に引き下げていくと共に、新たにメタノールを燃料とするFCEV(燃料電池自動車)の開発に取り組む方針を明らかにした。同社はFC自動車を次世代低公害車と位置づけており、燃料に水素を用いるタイプに加えて、メタノール改質車の開発も手がけている。
(日本経済新聞97年7月10日)

(2)ヨーロッパに於ける新エネルギー戦略
 European Commissionは、Green Paper on Energy for the Future-Renewable Sources of Energy,において、2020年までにヨーロッパに於けるエネルギー発生(European energy generation)の12%以上を再生可能エネルギーによって賄うという極めて野心的な目標を掲げている。同文書は又水素と共にFCを新省エネルギー分野に於ける特に重要な技術と位置づけており、デモンストレーションと市場展開の問に存在するギャップを埋めるための技術開発について言及している点は注目に値する。更にヨーロッパの開発シナリオを描いたECの論文"Energy to 2020"では、FCによる出力規模の目標を2005年時点では19GW(190万kW)に、2020年時点では3.6GW(360万kW)と設定されている。

 ―― This edition is made up as of July.24,1997――