第15号 ガス事業者によるPAFC実証運転実績
Arranged by T. HOMMA
1.法制的政策
2.ガス事業者によるPAFCの実証運転実績
3.PAFCの商業化戦略
4.PAFCの新しい展開
5.MCFC
6.SOFC
7.PEFC
8.FC自動車
9.太陽光発電
10.コージェネレーション
1.法制的政策
 資源エネルギー庁は、新エネルギー利用促進法の施行に伴う事業実施等に関する基本方針及びガイドラインの策定作業を始めることになった。基本方針は新エネルギーの供給者、ユーザ、 機器メーカ、国がそれぞれの役割を果たすために守るべき基本的事項を、またガイドラインは 新エネルギー利用の種類および方法を定めるものである。これらは新エネルギー促進法による支援措置を実施する際の認定基準となるもので、閣議決定を経て公表される。なお同法の対象事業としては、太陽光発電、風力発電、太陽熱利用、温度差エネルギー利用、天然ガスコジェネ、燃料電池、廃棄物を原料とする燃料製造、廃棄物の燃料利用、廃棄物を原料とする燃料の発電への利用、電気自動車、天然ガス自動車、およびメタノール自動車が挙げられている。
(電力時事通信97年6月23日)
2.ガス事業者による PAFCの実証運転実績
 東京ガス、大阪ガス、および東邦ガスの3社は、PAFCの実証運転実績を発表した。東京 ガスでは10台のPC25A、および3台のPC25Cを運転中で、5月末現在での累積運転 時間については、田町FCセンターのPC25Aが28,550時間に、PC25Cについては三園浄水場のそれが6,501時間に達した。梅田センタービルの大阪ガスによるPC25Aは、 累積運転時間で35,000時間を超え、97年末までには目標である40,000時間に達する見込みである。部品の取り替えにより初期に見られたトラブルも無くなり、MTBF(Mean Time Between Failure)も3,000時間を超える等、全体として111頁調に運転が進められている。 大阪ガスでは現在O N S I社、東芝、富士電機、三菱電機の各社によるPAFC約30台を運転中である。東邦ガスは富士電機製50kWユニット3台(内 1台は実証試験終了)、同100kW機1台、○NSI社製PC25AおよびPC25C各1台の実証運転を実施している。
(日刊電気通信97年6月9日、10日、11日)
 上記の情報とは別に、H&FC Let ter,Vol XI l/No6は、IFCの発表として東京ガスによってオフイスビルに設置された P C25 Cが、連続運転で9,500時間を記録したと報じている。運転停止は、日本の法規制に某ずく定期点検のためである。
(Hydrogen& Fuel Cel l Let ter, June l997 Vol XI I/No.6)
3.PAFCの商業化戦略
 東芝はPAFC商用化を促進するための戦略を発表した。
 現在商用機の P C25 Cの価格は、ユーザ指定場所での車上渡し条件で約40万円/kWであるが、市場への普及を更に進めるためには、20万円/kWに近いレベルにまで低下させることが必要であると考えられている。コスト削減にはFC自身の技術革新と共に、生産の習熟、材料・部品・機器の大量一括購入、製造ラインの自動化、生産向上の稼働率向上等を複合させた 量産効果を実現しなければならない。コスト低減と量産効果の良循環が形成されれば、市場への普及は加速されることになろうが、この点に於いて通産省が1997年度に実施する「先導的高効率エネルギーシステムフィールドテスト事業」によるFCへの公的助成は、大きな意味を持つと思われる。
 東芝は安定した市場が形成されるまではPAFCユニットの生産をONSI社に集中させ、エンジニアリングから保守に至るまでのユーザに対するサービスは、東芝が責任をもって対処する方針を採用している。現在約10名の技術者が同社からIFC/ONSI社に派遣されており、彼等は技術開発から出荷までの一貫した活動を展開中である。また市場開拓の一環として東南アジアへの浸透にも積極的に取り組んでいる。 又同社は標準機に加えて以下のようなオプションを準備し、それらについての開発研究を実施している。すなわち
 1)吸収式冷凍機との組合せが可能な高温水(最高120℃)又は蒸気(160℃レベル)を供給する
 2)LPG、ナフサ、消化ガス(下水汚泥の処理過程で発生するガスで、約60%のメタン成分を含む)等、利用燃料の多様化を実現する
上記2)燃料の多様化については、東芝と日本石油ガスが、国際環境技術移転研究センター(ICETT)からの補助金を得て、LPG燃料による出力200kWユニットの実証運転研究を行っている。又消化ガスを燃料とするPAFCシステムの開発については、横浜市と東芝の共同による同200 k W実証研究を、横浜市北部汚泥処理センターに於いて実施中である。
(日刊電気通信97年6月2日)
4.PAFCの新しい展開
 アサヒビール社は98年春に完成する四国工場に、リサイクルエネルギー計画の一環として、東芝製200kWPAFCを導入することを決めた。嫌気排水処理設備から発生するメタンガスの有効利用を図るのが本計画の目的で、メタンガスを燃やして蒸気を発生せしめ、このエネルギーでアンモニアを圧縮してビールエ場に必要な冷凍能力を得ると共に、FCにより電力を発生させる。アンモニア吸収式冷凍機で600kW、FCで200kWの合計800kWがリサイクルエネルギーとなり、年間約1億円の電気代が節約される予定である。
(日経産業新聞97年6月3日)

 四国総合研究所と富士電機は、東亜合成徳島工場における100 k W PAFCの試験運転状況について発表した。本システムは同工場の電解プラントから発生する副生水素を燃料として利用した「副生水幸有効利用による省エネルギーシステム」であり、96年11月末に試験運転が開始された。96年12月と97年1月に、計測系へのノイズによる誤動作を3回、寒波による水素ラインの凍結による緊急停止を1回経験したものの、それらの対策を完了した97年3月からは、順調に発電運転が続けられている。
(日刊電気通信97年6月4日)

 横浜市水道局は1997年17日に「東芝と共同で下水処理場の汚泥から発生する消化ガス(腐食ガス)を燃料とする PAFCシステム技術の開発に成功した」と発表した。本共同開発研究は1994年8月から進められていたが、96年2月から横浜市鶴見区にある北部汚泥処理センターにプラントを設置して発電実験を行った結果、1ヶ月間連続して200kWの安定した電気出力が得られた。PAFCはPC25Bで、電池本体は容積が縦3m、横7m、高さ3.5mで、重さ約27トンである。天然ガスに比べて汚泥を発生源とする消化ガスは硫化水素、塩化水素、アンモニア等の不純物を含んでいるため、これらを除去する前処理装置(脱硫器および吸着器)の開発が成功の鍵になったと思われる。計算上は35,000所帯から排出される下水から100所帯分の消費電力を賄うことができる。
(日本経済新聞、産経新聞、毎日新聞、日本工業新聞等97年6月18日)
5.MCFC
 MCFCの耐久性を阻む要因の一つとして、正極からのNiの溶出現象が注目され、これを避けるための方法として、Li/Kに替わってLi/Na系電解質の採用が提案されている。この効果に関する各研究機関や企業による研究成果は、既にFCDICシンポジューム等でも発表されているが、この程大阪工業技術研究所からLiとNaをおよそ半分ずつとそれに少量のCaを添加したLi/Na系電解質によって、MCFCの寿命が約2倍になると同時に高出力化も期待できるとの研究成果が発表された。650℃で運転実験を行った結果、Niの溶ける速度が半分になるとともに、より高い導電率が確認された。
(日経産業新聞97年6月9日)
6.SOFC
 中部電力と三菱重工業が開発した出力5.1kWのSOFCは、幅、奥行き、高さ共に30cm程度で、これは一般家庭の生活に適用できる規模である。今までに10日間の連続運転に成功しており、将来都市部の分散電源や、電気自動車、あるいは非常用電源としての用途が展開されるものと期待されている。(東京新聞97年6月10日)
7.PEFC
 大阪工業技術研究所は、PEFC電極触媒の白金量を半減させると共に、電極の製造工程を 簡略化する手法を開発した。これは電極を構成する炭素材料を過マンガン酸カリウム等で酸化処理した後に白金溶液に浸し、粒径1nmの白金粒子を炭素表面に均一に付着させる方法である酸化処理工程で炭素表面にカルボン酸基が付着し、その水素イオンが白金に置き換わるため、白金溶液に炭素を浸す方法で見られるような白金粒子の凝集がなく、付着した白金の表面積を広くすることができた。この電極製造技術が実用化すれば、PEFCのコストは約10%低減する見込み。2005年時点での実用化を期待している。
(日経産業新聞97年6月9日)
 H-Power社は、1kW以下の小容量 PEMFCの開発とそれの商業生産を目的として、カナダのQuebec(恐らくモントリオール)に本部を置く子会社"H Power of Canada"を設立する。この小容量PEFCは道路標識や監視用ビデオカメラ等の電子機器のバッテリーに対する代替品 と位置付けられている。新しい子会社は97年中にも第1号のFCを市場に出す予定で、設立資金はカナダにあるハイテク産業への出資機関(Canadian high-tech finance group)から供給される。なおH-Power社は Sacramento Municipal Utility Districtと共同で、革新的な小型車やバス用、並びに家庭や民生用電源としてのFCの開発を進めつつある。
(Hydrogen& Fuel Cel1 Letter、June 1997 Vol XII/No.6)
8.FC自動車
 Daimler-Benz社がFC駆動ミニバンNECAR-IIを記者発表して1年が経過した97年5月、同社はこれに続く第2段として、水素を燃料とするPEMFC駆動バス"NEBUS(new electric bus)"のデモンストレーション構想を明らかにした。 NEBUSは、いわば Daimler-Benz 0405NモデルのFCバージョンと称すべき車両で、長さが12m、客席数34、立ち席24の仕様を持つ。FCはBallard製の総合出力250kWPEMFCであり、これは150セルから成る出力25kWスタックの10ユニットによって構成されている。燃料となる300bar(約300atm)の圧縮水素ガスは、7本のl50litterガスボンベに封入され、バスの天井に設置されている。
 標準的なドライブパターンでのシミュレーション結果よれば、250kmの走行が可能である。 同社上級副社長(Senior Vice President)で且つFC開発部門の長であるDr. Ferdinand Panikは、今後約半年間の社内テストの後、1998年には適当な場所で実証運転に入り、1999年初頭から2000年にかけて20台のバスを製作する予定であると述べている。更に彼は「現在シカゴおよびバンクーバーで6台の Bal lard製バスが走行中であるが、 F C技術についてはそれらを超えて新しいステップに入っている」との見解を示した。コストについてPanikは、最初のプロトタイプバスは200万DM(120万ドル)前後であるが、2年後には約80万DM(47万ドル)にまで低下するであろうと語っている。
 上記の情報とは別に、ドイツのカーメーカが、人々をしてあっと言わせるような奥の手(an ace up its sleeve)を使ったいわゆるA-Class model と称されるメタノール改質PEMFCモデルを、97年秋に開かれる Frankfurt Auto Showにも発表する計画があるとの情報が伝えられている。
(Hydrogen& Fue1 Cell Letter, June 1997 Vol. XII/No.6)
9.太陽光発電
 出力3kW規模の系統連系家庭用太陽光発電の普及が急速に進んでいるが、ミサワホームは97年4月に3.3m2当たり50万円程度で、太陽光発電システムー式を組み込んだ住宅を発売した。同社は「これで家庭で使う電気はほぼ賄える。将来は更にコストダウンが期待される」 と述べている。(東京新聞97年6月10日)
10.コージェネレーション
 日本.ジェネレーション研究会のまとめによると、1996年度に於ける.ジェネレーション(燃料電池を除く)導入実績は、民生用が186台、68,123kW、産業用が136台、334,604kW、合計322台、402,727kWであった。1997年3月末現在の累積設置台数と発電容量は各々3,755台、3,849,645.7kWである。(CRS NEWS,Vol.13,June 1997)

 ―― This edition is made up as of June.23,1997――