第14号 ヨーロッパにおけるFC開発状況
Arranged by T. HOMMA
1.MCFC
2.FC自動車
3.DMFC
4.PAFC
5.ヨーロッパの挑戦
1.MCFC
 電力中央研究所は、97年4月28日、MCFCの寿命評価加速試験装置を開発したと発表した。MCFCは加圧運転によって化学反応が活発になり電気出力や発電効率は向上するが、同時に加圧化は電極から Niを電解質中に溶出せしめ、電極間にいわゆる"ニッケル短絡"現象を引き起こす。これがMCFCの寿命を制限する大きな要因として注目されていた。電力中研は逆にこの現象を利用して加圧による Ni溶出現象を加速せしめ、寿命を短時間で評価するための加速試験方法を開発したわけである。MCFCは通常5気圧で運転するのが最適とされているが、本装置の動作圧力は世界最高の44.5気圧であり、したがって本来の装置に比べて10分の1程度の時間で Ni短絡に基づく電圧低下現象をシミュレーションすることができる。同研究所ではMCFCを1気圧から445気圧までの範囲で圧力を変え、種々の圧力条件で1,200時間運転した結果、多量の Niが溶出し、短絡発生が加速されている事実を確認した。また10気圧以上になると電池電圧が下降することが判明したが、これは加圧によって水素がメタンに変換されるためで、この現象が防止できるとすれば35気圧程度までは電池電圧が上昇し続けるという注目すべき現象を発見した。(化学工業日報97年4月30日、電気新聞97年5月2日)
2.FC自動車
  97年4月22日付ニューヨークタイムズ紙は、アメリカ大手自動車メーカーのフォード社が、FC式電気自動車の開発を進めていると報じた。同社は2000年までにプロトタイプ車を製作する予定。(電波新聞97年4月24日)
3.DMFC
 FCシステムの簡素化は、自動車駆動用あるいは可搬式電源用にFCを適用しようとする時には特に極めて重要な要件となる。 DMFCシステムは、改質器を要しない点に於いて優れた特性を持ち、従来から多くの人々の注目を集めてきた。例えば、アメリカのARPA(Advanced Research Projects Agency)はこの DMFCを、可搬式電源として最も有効なデバイスとして評価し、特に軍関係で広く用いられている1次電池に替わる電源になり得るとの期待を持っている。
 しかし、DMFCの欠点は出力や効率等の性能面に於いて他のFCに劣ることであり、この欠点を克服するために、アノード電極に於けるメタノールの酸化反応を促進するための触媒の探査や、燃料のcross-overを避ける手段についての研究が進められてきた。具体的に言えば、現在開発されているH/airによるPEM FCではセル電圧0.6ないし0.7Vにおいて600mW/cm2の出力密度が可能であるが、DMFCではこのような高い出力密度を実現することは困難と考えられている。しかし、先に述べたように DMFCは改質器を要しない点にシステム上の大きなメリットがあり、改質器に於ける損失を考慮に入れると、200ないし300mW/cm2の出力密度の実現が、PEMFCに対する競争の限界点になるものと予想されている。ヨーロッパはメタノールと空気で動作するDMFCを商業化するための最低条件として、セル電圧0.6V、200mW/cm2の数値を挙げている。
 近年DMFCの技術には極めて著しい進歩が認められる。もともとDMFCは、1960年から70年代に掛けて、ShellやExxon-Alsthomによって開発が手がけられたが、当時のそれらには電解質として硫酸やアルカリ水溶液が用いられていた。その後白金触媒を適用するようになってその性能は大きく向上したが、それでも1980年代に於ける代表的なデータによれば、アノード側単極電圧0.4V(vs RHE)に於いて20ないし25mA/cm2の低い電流密度にしか過ぎなかった。それが現在では、後に述べるようにイオン交換膜を電解質とするDMFC単セルによって、0.5V,200mA/cm2の高い性能が得られるに至っている。
 アメリカでは、前述のARPAおよびDOEの資金によって、DMFC開発グループが形成されているが、これにはJPL(Jet Propulsion Lab)とGiner Inc.、LANL(Los Alamos National Lab)、およびIFCが参画している。又ヨーロッパでは、 E C(European Commission)がJoule計画に基ずいて、ここ10年間DMFCプロジェクトに開発資金援助を行ってきた。
 ヨーロッパで大きな成果を収めたのは、SiemensとNewcastle大学であろう。Johnson Mattheyは、Joule3計画に基づいて、Siemensおよび lnnovision(デンマーク)と協力体制にあり、液体メタノールを用いて常圧で動作する高効率スタックの開発を行っている。
 下表に各機関において開発された DMFC単セルの仕様と性能を示す。動作圧はアノードで大気圧から4atm、カソードで2.4から5atm、に設定されている。
 
開発機関 電解質 触 媒
(anode: cathode)
動作温度 (℃) セル電圧
(V at 400mA/cm2
Siemens
Newcastle

LANL

LANL

JPL/Giner



Naf ion-117
Naf ion-117

Naf ion-112

Naf ion-117

Naf ion-117



Pt/Ru: Pt
Pt/Ru/C: Pt/C

Pt−RuOx: Pt black

Pt−RuOx: Pt black

Pt/Ru/C: Pt/Ru/C



130
98

130
110
130
110
90
90


0.52(O2
0.5(O2
0.4(air)
0.57(O2
0.52(air)
0.47(O2
0.39(air)
0.47(O2
0.38(air)


(M.P.Horgarth and G.A.Hards:European Fuel Cell NEWS, Vol.4,No.1,Mar.1997,pp.l4-19)
4.PAFC
 日本石油ガス社は LGを燃料とする200kWPAFCによる実証運転を新潟ターミナル で進めているが、この程東北電力との間で系統連系運転を開始した。本研究は96年7月から99年3月まで3年間の計画で、研究費は総額3億2000万円、内1億6000万円は(財)国際環境技術移転研究センター(ICETT)からの補助金による。同社は東芝と共同で同種PAFCの商用機を開発する予定で、商用機の開発に成功すれば1日約1トンの L P G需要が新たに出現すると予想している。(化学工業日報97年5月19日)
5.ヨーロッパの挑戦
(1)開発の歴史と現状
 ヨーロッパでは 1950年代から60年にかけてはオランダ、ドイツ、イギリスで、60年代から70年代にかけてはフランスに於いてFCの開発研究が始まったが、これらの開発活動はそれぞれ種々の理由によって中止されるに至った。広範囲にわたる研究開発が始められたのは、80年代に入ってからである。その頃EC(European Commission)は、FCの重要性に注目し、基礎研究に対して資金的な援助を行うと共に、各国産業界に於いても FCの将来性に強い関心を持ち始めていた。しかし、ECのサポートがあったにも係わらず、ヨーロッパの研究開発活動は充分組織化(coordinated)されたものではなく、その上開発資金の総額は日本やアメリカのそれらに比べて半分程度にしか過ぎなかった。
 もともとヨーロッパでは基礎科学の分野では高いレベルを持ちながら、産業技術や商業化の面ではアメリカや日本に対して後れを取っており、FCの分野に於いても増大する需要を賄うだけの生産力を持つ中核的企業(core manufacturing capacity)は存在し得ない。この様な現状からヨーロッパでは基礎研究から技術開発へ、更に実証運転研究を加速させる必要性に迫られており、ユーザの信頼を獲得するためにも、上記のような開発ステップを実現させる努力が払われるようになってきた。

(2)未来への挑戦
 ヨーロッパの開発体制に於ける弱点の一つは、開発目標や活力が分散していることにある。 ヨーロッパではアメリカや日本に対する技術開発の後れを取り戻すことが当面の重要な課題であると考えられており、そのためにはヨーロッパ全体としての開発戦略を樹立し、資金や技術力を組織化する必要があるとの認識を抱いている。したがって後に述べるように、開発目標の設定に於いては、日本やアメリカのそれらとの比較において議論が展開されることが多い。
 定置式発電用 FCの市場展開について、日本では2000年までに200MW、2010年までに2,200 MWの導入を目標として掲げている。これらの数値目標は、ヨーロッパの現状から見れば野心的に過ぎるものであり、ギャップを埋めるための努力が傾注されたとしても、2000年までに50 MW、2010年までに500 MW程度が現実的な導入の数値目標と見なされている。しかし、2000年の時点では供給力の一部を外国企業の技術や生産に依存するとしても、2010年までにはヨーロッパの技術力を成熟させしめ、彼等自身がFCプラントの供給力を持つようにしようというのが彼等の主張である。
 この様な目標を達成するためには、技術開発のみならず市場の育成、法制度、資金援助、標準や技術基準の実現が重要な課題である。そして市場に於ける競争力を獲得するためには、FCの性能や信頼性の向上に加えてコスト低減が実現されなければならないが、それには生産技 術の開発が不可欠な課題として挙げられている。
 交通機関の駆動用FCに目を向けると、現在自動車メーカーや石油会社の問では、電気自動車の最終的な動力形態は FC駆動方式になるであろうとの認識が広がっている。ECにはアメリカの"Program for a New Generation of Vehicle"に対応する自動車用 FCの長期開発計画として、"Car of Tomorrow"が設立されている。この計画にはヨーロッパの都市を走行するバス、タクシー、公共用自動車等による実証運転導入目標が含まれており、それによると2000年までには少なくとも10の都市で各々5台以上、2010年には少なくとも5,000台のFC自動車の導入を実現すべきだと述べられている。 (Fuel Cells for Europe: The Challenge; European Fuel Cell NEWS, Vol4 No」,Mar」1997,pp6-8)

 ―― This edition is made up as of May.19,1997――