第13号 フォード社FCV実証試験車の製作を計画
Arranged by T. HOMMA
1.FC自動車の開発
2.DMFC
3.PEFCの開発
4.PAFC
5.MCFC
6.電力の規制緩和
7.SOFC
8.支援システム
1.FC自動車の開発
  1997年3月20日、 Bal lard Power Systems社は、わが国日産自動車との間でPEMFCとその試験装置を供給する U S$160万の契約を結んだと発表した。これらの装置は日産自動車によるFC駆動自動車の研究開発計画において用いられることになろう。 Bal lard社のPresident and Chief Executive officerである Firoz Rasul氏は、「同社と日産自動車との関係は、我々が試験用FCシステムを彼等に供給した1991年に遡る。我々は日産自動車のFCエンジンに関する開発フェーズの進展を喜ぶと共に、今後彼等とより緊密に協力していく積もりである」と述べている。なお Bal lard社のPEMCは、現在FC自動車および定置式発電用FCの開発を目的として、Daimler-Benz,General Motors,日立、本田、Volkswagen,Volvo,GPU Internationalの各社において使用されている。(Private Comunication)
 Bal lard Power Systemsと Daimler-Benzの両社は、97年4月14日、FC自動車を開発するために技術提携することを明らかにした。 Ballard社の PEMFCを搭載した自動車を実用化するために新しい FCエンジン会社を設立し、開発投資額は4億5,000万円以上になる模様である。又同社は2000年以降 FCエンジンの世界的なリーダとしての地位を獲得するため、今後3年間に2億ドルの資金を投じてFCとFCエンジンの商業化開発を推進すると述べている。
 Bal lard社の F.Rasul社長は「我々は過去4年間に亘って Daimler-Benz社と協力し、コスト有効性の高い F CおよびFCエンジンの開発に成功した」と述べ、 Daimler-Benz社の副社長兼FCプロジェクト最高責任者の Dr.F.Panikは、FCエンジンを内燃機関に本気で競争し得る代替エンジンと位置付けた上で、「同社が FCエンジンを備えた自動車を市場に供給する第1人者としての地位を獲得することを望む」と語っている。 (NEWS Release; Vancouver/Stuttgart,April 14,1997/CNW-PRN/)
2.DMFC
  アメリカ・ロスアンジェルスに本部を持つエンジニア会社DTI Energy社は、JPL(Jet Propulsion Lab)からメタノール直接変換型PEM(DMPEM)に関する特許実施権を得て、これを自動車駆動用FCとして開発することを目的に、ドイツの Daimler-Benz社と話し合いに入った模様である。DMPEMを出力40ないし50kWの規模までスケールアップする技術開発とともにこれの商業化計画が含まれる。DTI Energy社のTodd Marsh社長は、「我々はDaimler Benzと真剣な話し合いを続けており、早急に協定が成立することを希望する」と述べている。
 Daimler-Benz社は昨年純水素を燃料とする PEM駆動のミニバン"NECARU"を発表して世界に大きなインパクトを与えたが、当時から同社は水素を車内に搭載するのは現実的ではなく、将来の商業車はメタノールを燃料とするものでなければならないと主張していた。同社の役員はDTI Energyとの話し合いの事実を確認すると共に、「我々はあらゆる新技術に関心を抱いている」と述べている。
 他方JPLは1990年代初期から、California Institute of Technology、USC(University of Southern California)、Giner,Inc・等とチームを組んで、DMPEMの開発研究を行ってきた。試作したプロトタイプユニットは、現在連続で200時間、累積で3,000時間の発電運転実績を持ち、34%の効率を記録したと伝えられるが、出力についての記録は無い。JPLのFCチームマネジャーのG.Halpertは、次に出現する改良型は45%の効率になると予想している。研究室規模での DMPEM( JPLでは direct methanol 1iquid feed fuel cell:DMLFFCと称している)については、電極面積 10cm× 15cm、動作温度90℃、動作圧1.4気圧において、0.5V、25Wの連続出力が得られたと記されている。又軍事用電源として開発した50 Wユニットは、5in(13cm)×4in(10cm)×2.5in(6cm)の大きさで、数週間の連続運転が可能である。 (Hydrogen & Fuel Cell Letter, April 1997, Vol.XII/No.4 ISSN 1O80-8019)
 Bal lard社の F.Steck研究開発担当副社長は、「同社は既にDMFCの開発に取りかかっているが、これの実用化にはまだかなりの時間を要する。当面メタノール改質FC自動車を目標とするが、DMFC自動車は大きな長所を持っており、それを次世代FC自動車と位置づけている」と語った。(H&FC Letter, April 14,1997,Special)
3.PEFCの開発
 荏原製作所は、カナダの企業(Bal lard社と思われる)と技術提携してPEMFCの分野に進出することを決定した。FCの利用目的は80℃レベルの熱を前提とする.ジェネレーションで、これを総合環境事業を展開するための重要な新技術と位置ずけている。(日刊工業新聞97年4月4日)
4.PAFC
 東京ガスによるオンサイト用 PAFCフィールドテスト実施状況の発表によると、1997年4月10日現在でイースト21のPC25Aが連続運転時間で9,376時間、累積運転時間で29,457時間に達した。又大阪ガスによってNTT関西ネットワークセンターに設置されていたPC25Aは酉島FCセンターに移設された。PC25Cについては、NTT関西ネットワークセンターに大阪ガスが設置したユニットが3月28日に、東邦ガスがデンソー西尾製作所に設置したユニットが3月24日に運転を開始した。(日刊電気通信97年4月16日)
5.MCFC
 M C-Power社によって製作された電気出力250kWMCFCは、Miramar Naval Stationに於いて電力と蒸気の供給を開始した。MC-Power社のスポークスマンの発表によれば、今までに得られた最大出力は210kWで、熱を含めた総合効率は80%にも達する。(H&FC Let ter,Apri1 1997,Vol.XI/No.4 ISSN 1080-8019)
6.電力の規制緩和
 ここ数年間IEA加盟の数カ国において、電力供給事業の大幅な改革と再編成が進められている。これらの変革は、発電、送電、配電の一貫事業体制を分離して、各々を個別の事業にすること、および送電・配電への第3者によるアクセスを自由化することが柱となっている。例えばEUに於ける1996年6月の最終協定では、電力の供給業者を自由に選択できる制度を大口消費者に適用することになった。本協定が各国の国内法で採択されれば、遅くとも2年以内に、年間40GWh以上の電力を消費する消費者は電力の供給業者を自由に選択することができる。又3年後にはこの限界が20GWhに、更に6年後にはそれが9GWhにまで下げられる予定になっている。スエーデンでは、1995年10月に電力産業再編成法が採択され、発電と送配電を分離、顧客は自由に電力供給者を選択できるようになった。すなわち、発電と電力販売が競争条件下に置かれたわけである。
 他方アメリカでは、連邦電力規制委員会(FERC)が、1996年4月、卸売送電の法的分離、送電費や補助サービス費の標準化等に関する規則を提案しており、これが具体化すれば競争下にある電力販売量は急速に増加するものと思われる。各州によって規制されている小売り電力市場の自由化についても検討が進められており、カリフォルニア州では、大口消費者については1998年から、家庭等の小口消費者については2003年から電力の購入先は自由化される予定である。(NEF News,Vol.4,No.4,PP.9-1O)
7.SOFC
 大阪ガスは早くから SOFCの重要性について注目し、FCプロジェクト部ではWH社製セルモジュールによる運転実験を、基盤研究所では性能向上と評価技術の確立を目指した基礎研究および村田製作所と共同で平板型SOFCの開発に取り組んできた。
 1995年以来WH社および東京ガスと共同で行ってきた25kW級SOFC.ジェネレーションシステムの試験運転については、総発電運転時間が97年1月末で 13万時間に達し、10回の起動停止を含めて劣化率は、PAFCのそれを凌ぐ0.1%/1,000Hr以下であることが確認された。
  一方、大阪ガスが試作した円筒形セルは、カソードがCIP(Cold Isostatic Press)成型と 1400℃での焼成による肉厚3mmのLa(Ca)MnO3、電解質はEVD法によって厚さ約l8μm に成膜された10mol%YSZ、およびYSZ膜との界面が Ru/YSZサーメットであるようなアノードから成り立っており、試作セルの最大発電出力密度は、950℃で約0.7 W/cm2、900℃で0.5 W/cm2の高い値を記録した。又試作したアノードの面方向比抵抗は、4〜5×10−4であり、NiOとYSZ粉末から作成するNi-YSZに比較して極めて低い値を示している。SOFCはセラミックスの積層構造から成り立つので、信頼性や耐久性を向上させるためには、温度勾配と熱膨張に伴うセラミックスの破壊を避ける必要がある。同社ではモジュールの温度分布を把握するためのシミュレーション手法を既に開発しており、これを用いて内部改質方式を含む円筒型SOFCシステムの設計や運転条件の検討が行われているようである。
 同社は結論として、円筒型SOFCに関する限り、性能、信頼性、および耐久性について技術的な見通しは得られており、今後はセルのコストダウンやガスタービンとのコンバインドサイクル技術の確立が重要な課題になると述べている。 (鈴木、山崎、越後;エネルギー・資源学会、第16回研究発表会講演論文集、 12-3、 pp.293-296、1997)
8.支援システム
  FCを用いた系統連系.ジェネレーションシステムの設備容量計画および運用計画に於いてエネルギー需要量の不確実性を考慮した最適化手法が、大阪府立大学によって提案されている。システムは、FC、ガスボイラ、温水吸収冷凍機、ガス吸収冷温水機、放熱器、および受電設備から構成され、FCの燃料には都市ガスが用いられる。FCから回収された排熱は、需要に応じて冷房、暖房、および給湯に利用され、過剰の熱は放熱器により廃棄される。(伊東、蒲生、横山;エネルギー・資源学会、第16回研究発表会講演論文集、 10-1 pp.225-230)

 ―― This edition is made up as of April.16,1997――