第12号 サンタクララMCFC実証運転のその後
Arranged by T. HOMMA
1.MCFC実証計画と市場検討
2.PAFCの実証運転計画
3.PEFCの市場展開
4.FC自動車の開発計画
5.アメリカの予算動向
6.その他の情報
1.MCFC実証計画と市場検討
 1996年4月25日以来、ERC社によって実施されていたサンタクララMCFC2MW実証プラントの系統連系発電運転は、97年3月3日に完了したことは既に伝えられているが、ERC社のスポークスマンは、今年の後半以降により大きな新スタックによる実証運転を実施するであろうと述べている。
 新スタックは従来の6 ft2(0.56m2)から9 ft2(0.84m2)と大きくなり、熱交換器や熱回収蒸気発生器等のコンポーネントもよりコンパクトに改良されるとともに、モジュールとしてより効果的にパッケージ化されている。新しいプラントは定格出力1.4MWで設計されているが、ERCが抱いているアイデアではスケールの変更可能な実証プラントの建設であり、そうであれば恐らく1MWから出発して最終的には3MWまで拡大されることになろうと上記スポークスマンは述べている。実験場所はE R C本部の Danburyに近いアメリカ東海岸になる見込みで、今年の後半から建設を始め、運転開始は1999年と予想されているが、まだ資金の調達を含めて最終決定には至っていないようである。
 2MW-SCDPプラント運転中止の理由は予算にあると発表されているが、本プラントの運転期間中に16スタックの内2スタックが電気的なショートによって破損されるという事故が発生した。SCDP企画委員会(Steering Committee)のPaul.H. Eichenberger 議長は、この電気的短絡は接着剤(a glue-type material)が、高温に晒されて炭化したために発生したと発表している。電力事業に席を持つ Eichenberger (assistance director of the electric utility for the City of Santa Clara)は、「この装置を破棄してしまうのはあまりにも残念で勿体無い」と述べ、彼の電力会社で設備を引き取って何らかの形で試験運転を続けたいと考えているようである。
 ワシントンDCにある Fuel Cell Commercialization Groupは、MCFCの商業化に対する新しい戦略を議論するため、3月始めに会合を開いた模様である。この新戦略とは市場の動向により、商業化するMCFCの規模をMW級からより小容量の数 100kWレベルにシフトすることにある。 (Hydrogen & Fuel Cell Letter,March 1997,Vol.XII/No.3,p4)
2.PAFCの実証運転計画
 東邦ガスは、○NSI製200kWPC25C1台をデンソー西尾製作所に設置し、97年4月から実証運転を開始すると発表した。燃料には都市ガス13Aを使用、ガス消費量は43m3/hである。発電電力は系統と連系されており、熱は蒸気として回収し、冷暖房および工場のプロセス蒸気として利用する以外に、温水として既設ボイラーの給水加熱にも利用される。FCの運転データはデンソー西尾製作所から電話回線を通して東邦ガス総合研究所に伝送され、そこで遠隔監視されることになっている。(日本工業新聞、日刊工業新聞、中日新聞97年3月26日)
3.PEFCの市場展開
 97年2月アメリカ National Institute for Occupational Safety & Health(NIOSH)は、産業界、労働界、政府機関、および学界から約40人の専門家を集めて、炭坑運搬車(coal mine haulage vehicle)の動力源としてPEMFCの適用可能性を検討するための会議を開催した。Follow-up Meetingは、3月25日シカゴで開かれる予定。関係者はこの試みはFCの初期市場として有望であるとの認識を抱いており、Instituteの長官Arnold Millerは、"US. Labor Department's Mine Safety and Health Administration(MSHA)による安全確認"および"運搬車の経済性"の2項目を問題点として挙げている。前者に対してはMSHAやEPA(Environmental Protection Agency)のメンバーを加えた顧問会議を持つことにしており、後者の経済性についてMillerは、「我々は自信を持ってはいるが、あえてFSをやる積もりである」と述べている。動力源には50kW出力のPEMおよび水素吸蔵合金が適用されるものと思われる。水素吸蔵合金はバッテリに比べて同一のエネルギーを蓄えるのに5ないし10分の1の大きさですむとMillerは評価している。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 1997 XII/No.3,P3)
4.FC自動車の開発計画
 Chrysler社によるガソリン改質F C自動車の開発計画は既に公表済みであるが、デトロイトからの通信によると、 Delphi Automotive SystemsおよびBallard Power Systemsの両社がこれに参画することになった。実証車用出力30kW(40HP)のPEMをバラード社が供給する。 Delphi社がFCを担当するとの噂が流れていただけに、このニュースはいささか驚きを以て受けとめられたようである。GMの子会社である Delphi社は、世界で最も大きな自動車用パーツの供給会社であり、又FCについてはDOEプロジェクトの基で、同社独自のメタノール改質P EM技術を開発してきた実績を持っている。しかし2年以内に実証車を完成するという計画を実現するためにはリスクをできるだけ避ける必要があり、より多くの経験を持つバラード社に注文が入ったようである。Chrysler社の発表によれば、同社は電気駆動系、制御系、およびアッセンブリーを受け持つようで、実証車は内燃機関車に比べて効率が50%高く、少なくとも90%以上クリーンとのことである。
 ガソリン改質FC自動車のキーテクノロジーである車載改質装置について、Chrysler社はPNGVプロジェクトで実績のある Authur D.Little社と緊密な協力のもとで開発を進めると述べている。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 1997, XII/No.3, ISSN1080-8019)
5.アメリカの予算動向
 この時期F Y1998年予算要求が話題に上っているが、クリントン大統領の「我々は今エネルギーと環境技術の開発にもっと力を入れなければならない。さもなければ我々は将来環境のためにより多額な資金を支払いを余儀なくされるであろう」(Atlantic Monthly)との意を反映してか、新エネルギー開発関連予算は上昇傾向にある。近年下降傾向を示してきた水素開発計画の議会に対する予算要求も98年度には増加に転じたし、太陽光発電等再生可能エネルギー利用技術の予算は約1/3上昇した。内務省(Interior Department)の発表によれば、交通機関用FC開発予算は昨年度の2,100万ドルに対して2,960万ドルにまで増加している。定置式発電用FCの予算は、5,010万ドルから4,620万ドルに減少したが、ピル用小用量F Cについては100万ドルから200万ドルに倍増した。DOTの F Cバス計画は今年度の750万ドルから650万ドルに減少、DODによるMCFC開発予算については目下の所不明である。その他新予算での実施を期待されているプロジェクトの中に、再生可能エネルギー利用システムとして適用可能な水雷解とFCの再生型デバイス技術の開発が挙げられている。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, March 1997, XII/No.3,P2)
6.その他の情報
 資源エネルギー庁・ N E Fは97年5月中旬から一般住宅を対象とする平成9年度太陽光発電システム設置補助金の交付先公募を開始する。同補助金は個人が太陽光発電システムを戸建住宅又は住宅団地の屋根等に設置する際に行う助成であり、 H8年度まではモニター事業として実施してきた。資エ庁では住宅用太陽光発電の早期市場化を実現するために助成制度を抜本的に拡充することになり、予算は前年度比3倍の111億円と大幅に増額した。補助率は kW当たり30万円を上限に3分の1、システム容量の上限は4 kW、補助枠は9,400件を予定しており、これも8年度の1,600件に比べて格段に増加している。(電力時事通信97年3月31日)

 ―― This version is made up as of April.2,1997――