第9号 FC新市場開拓と定置式発電用PEFCの開発
Arranged by T. HOMMA
1. FC新市場の開拓と価格
2. 定置式発電用PEFCの開発
3. 再生型SOFCの開発
4. FC自動車の開発
5. 政府の施策と予算
・A POSTER COLUMN
1. FC新市場の開拓と価格
・東芝は、インドとマレーシアに出力200kWPCモジュールを輸出することになり、97年4月までに受注契約を締結すると発表した。インド向けは、ハイデラバード市にある国営重工業メーカの研究用電源として、又マレーシア向けはクアラルンプール市の企業に配備される予定。東芝、ONSI、CLC3社は彼等が共同で開発した200kWPCモジュールを世界に販売する戦略を立てているが、アジアを販売市場とする東芝は、97年度は25台、98年度は60台を販売目標として掲げている。又大幅にコストを引き下げるため、東芝京浜工場での生産を止め、ONSI社コネチカット工場での集中生産に切り替えた。その結果標準モジュールの単価は40万円/kWとなり、更に周辺装置の改良により2000年には30万円/kWの実現を目標としている。同年度にはアジア地域での販売台数を100台と見込んでいる。(日刊工業新聞96年12月25日)

・ONSI社はコスト削減を徹底し、現在単価を30万円/kW程度にまで下げているが、三菱電機も設計の合理化や海外調達等を念頭においてコストの削減を強化しよとしている。富士電機は出力100kWモジュールに集中してコスト削減のための開発を進め、2000年までに商用機を実現するとの構想を持っている。(日経産業新聞96年12月26日)

・アメリカに於ける6つの大学、国立研究機関、民間企業が共同で新しいコンソシアム”Fuelcell Propulsion Institute”(Dr. Arnold R.Miller:Prof.Colorado School of Mines in Golden, CO)を1996年11月に設立した。このコンソシアムの主要な目的は、今まで見逃されてきたFCの新しい適用分野を見いだすことにある。鉱業と農業の分野においてFCの導入は可能であり、障害と考えられていた「インフラの欠如、FCの比較的低出力密度とコスト」等の課題は、克服されるであろうと会長のA.R.Millerは述べている。
 同教授の提唱する”Project Clean Mine”は、FC駆動のクリーンな採鉱車(coal mining vehicle)を開発しようとするもので、水素は炭床から噴出するメタン(coalbed methane)の水蒸気改質によってオンサイトで生成される。
 農業分野に於ける構想「燃料増殖計画」(Project Fertile Fuel)は、開発途上国向けの太陽エネルギー利用アンモニア生成プラント(solar ammonia plant)の開発を主体とするもので、アンモニアはFCの燃料および肥料の生産に利用される。Miller教授によると、1950年代末には、アンモニアを使ったFC駆動のトラクターが、Allis-Chalmers社によって運転されたとのことである。
 Millerは今後10年間に、世界銀行や国連開発資金(UN Development Program)から5,000万ないし1億ドルの資金を集めたいと述べている。なお本コンソシアムに参加する機関として、Colorado School of Mines以外にNatinal Renewable Energy laboratory, Sandia National Laboratory, South Dakota State University, Texas A&M College Station, Westinghouse Savannah River Co.の名前が挙げられている。(Hydrogen & Fuel Cell Letter, Dec.1996, Vol.XI/No.12, ISSN 1080-8019, p6)

・中国の水素エネルギー協会(China Hydrogen Energy Association)および科学技術協会(China Association of Science and Technology)は、アメリカに於ける水素エネルギー利用計画に係わる科学者、技術者、教育者を含むの専門家に、ミッションとして中国を訪問するよう招待した。ミッションは、1997年5月に約2週間の予定で、Beijin, Xian, Guilin, Shanghaiにある各機関を訪問し、環境に有利なZero-emmision技術の諸問題について、中国の専門家と討論することになっている。そしてこれらのテーマの中には、水素利用やFCの両国による共同開発についての議題が含まれている。(同上資料)

・東京ガスは、栗田工業と共同で、FC用新水処理装置を開発したと発表した。これはセルスタックの冷却や燃料改質に用いる超純水を、電気脱イオン装置(CDI)で生成しようとする方式で、従来使われていたイオン交換樹脂方式に比べれば、装置が大幅に小型・軽量化されるとともにメインテナンスフリーになり、発電コストも低下すると予想されている。CDIでは、イオン交換樹脂に吸着した不純物イオンは電気的に除去されるため、塩酸や苛性ソーダによる樹脂再生行程が不要になり、連続して純水を得ることができる。従来のイオン交換樹脂方式では、重量が1本当たり50kg以上ある円筒型容器を3ヶ月毎に交換する必要があり、これがメインテナンスコストの約半分を占めていたが、新装置ではその費用が0になるため、初期費用は高くついても運転コストは減少する。初期費用は2年で回収され、それ以降は発電単価が従来よりも1kWh当たり1円強低下すると見積もられている。同社では最終確認試験を経て、97年度後半に購入するPC25Cに組み込んで実用化する予定である。(化学工業日報97年1月9日)  
2. 定置式発電用PEFCの開発
・社会情勢の急速な変化の中にあって、電力業界に於いても、顧客の要求に応えるよりきめ細かいサービス(a more customer oriented service business with tailored solution)を提供することが要求されている。他方PEFCは、運転モードに於ける柔軟性(flexible operation)や、多様な市場適応性(multiple market platform)を持っており、定置式発電用としての市場展開に期待を抱くことができる。このような発想から、Ballard Power Systems社は定置式発電用としてのPEFCの商業化を目指して開発を進めてきた。
 開発の第1段階では、天然ガスを燃料とする出力10kWユニット(proof-of -concept plant)を試作し、その運転実験を完了した。このプラントには商業ユニットとしての設計要件(design features of the commercial unit)を備えた各種コンポーネントがパッケージ化されており、実用条件を模擬して運転することができる。
 現在は第2段階にあり、出力250kW実証プロトタイプ(engineering prototype power plant)の詳細設計を完了、製作段階に入っている。1997年第1四半期には組立が完了、初期テスト(commissioning and initial testing)は同年第2四半期中に終了する見込みである。本ユニットの容積や重量は、実験のための空間や実験用機器が備え付けられる関係上、商業ユニットに比較して若干大きく、8×8×24 feet3 (2.4×2.4×7.3 m3)および3,5000ポンド(15,900 kg)となった。
 各コンポーネントについては、大きさ40ft3(1.13 m3)の改質器を含む燃料処理装置(Fuel Processing Subsystem:FPS)や、内蔵型冷却装置付ターボチャージャーから構成される空気圧縮系(Air Pressurization Subsystem:APS)は、試験運転によってそれらの性能が確認されており、又インバータは97年1月に配送される予定になっている。プラントに使用されるスタックは、面積1.4ft2(0.13 m2)のセルを積層した構造を持つが、既に設計は完了し、現在試験運転中である。
 今までの開発実績から、Ballard社は「商業ユニットの設計・製作に対して確信を持つに至った」と述べている。来るべき商業ユニットは、容積は8×8×18 ft3(2.4×2.4×5.5m3)、重量は25,000ポンド(11,300 kg)であり、発電効率は40%(LHV)と予想している。(D.S.Watkins;Commercial Ballard PEM Fuel Cell Natural Gas Power Plant Development, 1996 Fuel Cell Seminar, pp501-504)

・カナダ連邦政府は、Technology Partnership Canada(TPC)計画に基ずいて、Ballard Power Systems社の定置式発電用FCの開発に対し、3,000万カナダドルを出資することを決定した。カナダ政府のこの措置は、Ballard社の新本部ビル(new corporate headquarters)の開所式において、J. Chretien首相およびJ. Manley産業相(Industry Canada Minister)によって発表された。Manleyは、「この措置はカナダ、環境、およびBritish Columbiaのいずれにとってもgood newsである」と述べ、他方Ballard社のF.Rasul社長は、「他国に於ける我々の競争者が、自国の政府から資金援助を受けている現状で、このカナダ政府の決定は我々が世界の第一線に留まるために有効である」と語っている。同社は発電用FCの開発に多額の資金を必要としており、政府からの出資をてこに今後3年間で更に6,000万ドルの資金調達を目指している模様である。(Hydrogen&Fuel Cell Ltter;Dec.1996 Vol.XI/No.12, ISSN 1080-8019, p4)
3. 再生型SOFCの開発
・関西電力は三菱重工業と共同で、電気分解と発電の可逆過程が可能なSOE/SOFCを試作し、単セルながら運転モードの切り替え試験運転に成功した。充放電回数は10回でまだ少ないが、この種の実験による検証は世界で始めてと思われる。この方式が実用化されれば、夜間の余剰電力をSOE運転モードによって水素と酸素に変換・貯蔵し、昼間の電力消費時間帯にはSOFCモードによって電力を発生することができる。試作された単セルの大きさは75mm角、有効面積は20 cm2で、電解質にはYSZが用いられている。(日刊工業新聞97年1月6日)  
4. FC自動車の開発
・クライスラ−社(Chrysler Corportion)は、 Arthur D. Little社と共同で、ガソリンを燃料とするFC自動車の開発中であることを明らかにした。この発表は、97年1月6日North American International Auto Showに於いて、同社副社長Francois Castaingによって公表された。クライスラー社の開発目標は、例えばChrysler Concordeのような中型サイズセダンに搭載可能なFC駆動システムの開発であり、このシステムは燃料タンク、ガソリンの改質装置、FC本体、蓄電池、および駆動用モータをパッケージ化した構造となっている。主要な開発要素の一つは、ガソリンから水素を生成するための改質システムであるが、これは石油精製において既に実用化されている部分酸化法がプロセスの一つとして組み込まれており、Arthur D. Little社においてハードウエアの開発が進められている。そして燃料としては、ガソリン以外にデイーゼル油、メタン、アルコール等も候補として挙げられている。同社のDr.C.E.Borroni-Birdは「今後2年以内に実証車が完成することを希望する」と述べている。
 同社の副社長Castaingは、ガソリン改質FC自動車の開発の意義について、次のように述べた。現在各社で純水素やメタノールを燃料とするFC自動車の開発が行われているが、これらの実用化と普及に対する最も厄介な障害は、燃料供給のためのインフラストラクチャーの構築にある。今日のガソリン供給系に対しては2,000億ドルの資金が投資されており、メタノールや水素自動車が実現したからといって、これらが一夜にしてメタノールや水素の供給系に置き換わるものではない。また水素やメタノールの車内での貯蔵はガソリンに比べてより大きな容積を必要とする。ガソリン改質FC自動車はこれらの障害を克服する点に於いて画期的な挑戦であると云えよう。この技術の成功は“明日のファミリーセダン”の出現を10年間早める効果を持つかも知れない。(Auto Emissions Control, http://www.newspage.com/NEWSPAGE/info/d13...ic.pre/public/A.p0106134.700.prw75100.htm)
5. 政府の施策と予算
・工技院のFC発電技術等開発補助金(NEDO)政府案によると、平成9年度の同補助金総額は、54億6,995万2,000円で、対前年度比5.7%減となった。項目別には
 MCFC研究開発   4,603,401,000円  −7.2%(対前年度比)
 SOFC研究開発     410,000,000円         0%
 PEFC研究開発       380,000,000円      0%
  (日刊電気通信97年1月10日)     

 ―― This edition is made up as of Jan.16, 1997――


A POSTER COLUMN
・雑誌 ”Popular Science” の12月号は、1996年に於ける100の最も優れた技術的成果(greatest achievements)の一つに、”Necar II fuel cell minivan” を採択した。 Daimler-BenzとBallard Power Systems社による技術開発成果は、普通自動車にFCを適用しようとする道筋の中で、一つの画期的な前進(a dramatic step)をもたらしたと評価している。又イギリスの “New Scientist” は、German work on hydorgen-powered cars, including fuel cells, i.c.engines and robotic filling stations と題する記事を掲載しているが、イギリスのinternet hydrogen newsgroupの投稿者は、「これは一読の価値がある(worth reading)」と推薦している。
 

・FCDIC学術会員の募集
 FCDICは97年7月から始まる平成9年度から、学術会員を募集することになりました。それに伴って会則も変更されます。学術会員の募集要項は、後日発表され、公募が始められますが、大体以下のような要領になる予定です。
 年会費は5,000円で、出版物の配布、事業への参加等については、正会員(法人会員)とほぼ同等の特典が得られます。
 If you have someone you would like to work with in the field of fuel cells, please get together with that person now through the FCDIC network.
 The revision in the articles of association is under way. We have been trying to come up with an acceptable proposal for the new version. 

 

A QUESTIONNAIRE AND COMMENT COLUMN

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