第8号 FCの市場獲得戦略における問題点
Arranged by T. HOMMA
1. 1996年FCセミナー
1.1. FCの市場獲得戦略に於ける問題点
1.2. アメリカEPRIの提唱する市場戦略シナリオ
1.3. ONSI社の市場戦略と実績
1.4 サクラメント市による市場分析
2. 新しいPAFCシステム展開
3.1. MCFC
3.2. Santa Clara Demonstration Project:Today’s Experience
4. SOFC
5. FC自動車とPEFC
6. FC競合技術の動向
1. 1996年FCセミナー
・1996年Fuel Cell Seminarが、11月17日から20日まで、アメリカ・フロリダ州OrlandoにあるHyatt Orlando Hotelにおいて開催された。総勢768名が参加、内日本人の参加者は123名であった。このセミナーの特徴を一つ挙げるとすれば、PAFCが商業化の段階を迎えて、市場戦略に関する従来よりも突っ込んだ討議が行われた点では無かろうか。  
1.1. FCの市場獲得戦略に於ける問題点
・上記セミナーのKeynote Addressに於けるW.E.Crattyの講演は、抽象的で且つ難解な面もあったが、FCの市場戦略を考える上で極めて示唆に富む内容を含んでいる。以下この講演内容を中心に、幾人かの講演内容も含めて、FCの市場戦略上におけるFCの特性について考察する。(W.E.Cratty;Commercial Aspects of Fuel Cells)

・新しい革新的技術をベースとして生み出される製品やサービスを商業化するためには、その基本となる技術について次の2つの条件を満足しなければならない。その第1は、技術的性能が実証済みであること、そして第2は、その技術が生み出す製品やサービスが競争的市場に於いて勝利をもたらすような価値を顧客に提示し得ることである。ONSI社はFCの技術について実証に成功したが、ERI(Equitable Resources, Inc.)は、 ONSI社と協力して第2の条件を実証しようと努めている。(同上論文)

・革新的技術が一般的にそうであるように、FCは破壊的要素を持つ技術(disruptive technology:by J.L.Bower & C.M.Christensen)である。すなわち、FCは電力業界や他の産業界において既成概念として永年受け入れてきたサービスの概念や価値観を部分的に否定し、それらを変革させてしまうような特性を備えている。このような破壊的特性を持つ新技術の導入は、従来から主流の座を占めてきた従来技術の顧客に対しては厳しい選択であり、従来の顧客がそれを積極的に取り入れようとする意欲を挫く結果になりかねない。

・FCの推進者が、実証段階を超えて商業化の段階へFCを進めようとするならば、上記のような障害を乗り越えなければならないが、そのためには他の技術によっては満たすことのできないようなFC特有の応用範囲(killer application)を見いだすことが必要である。それはFCによってこそ顧客に利益(profits)を提供することのできる適用分野を意味し、それを探査するための市場調査が要求されている。パーソナルコンピュータが、ビジネスマンが利用できるようなソフトウエアが開発されるまでの期間、マニア(hobbyist)のおもちゃにしか過ぎなかったように、FCに於いてもkiller applicationが見いだされるまでは、FCの市場への浸透は遅々とした速度に留まることであろう。(W.E.Cratty) 
1.2. アメリカEPRIの提唱する市場戦略シナリオ
・アメリカの電力業界はかってない大きな変革の波に襲われている。過去2年間に9件の合併があり、又広い範囲のエネルギーをパッケージ化して顧客に提供する新しいエネルギーサービス産業が発生しつつある。この様なエネルギー産業に於ける構造改革は、FCの商業化に対しては障害として作用する面もあるが、同時に新しいエネルギー供給サービスを展開することによって、FCの活路を見いだす可能性も残されている。

・過去10年間における小容量まで含めたガスタービン技術の著しい進歩は、歴史的に信奉されてきた“発電施設に於ける規模のメリット”の論理を崩壊させつつある。今やガスタービンの効率は単独で45%、コストは$500/kW以下が目標になりつつあり、又建設期間も1年を切ることを考え合わせると、革新的なガスタービンやコンパクトなコンバインドサイクル発電は、ボイラー付中央発電所よりも安価な電力を供給することができる。この様なFCに対する競争関係にある技術進歩の動向を考えれば、FCの市場は分散型エネルギー供給システム於ける新しいサービスのあり方ついてのに検討課題の中で模索されなければならくなってきた。FCのデベロッパーは、費用有効性(cost-effective)と付加価値(value added)の高いサービスを提供し得る製品の開発を目指すべきである。(D.M.Rastler, 1996 Fuel Cell Seminar, pp481-484)  
1.3. ONSI社の市場戦略と実績
・出力200kWPC25TMPAFCの過去3年間に於ける初期のユーザは、主としてオフィスビル(commercial building sector)であったが、それは新しい技術としてのFCに対するちょっとした興味から発生したものであった。ユーザが最も関心を持つ課題は、ビルのエネルギーシステムに整合性を持つFCの選択、ならびに彼等のビジネスに対して如何なる便益をFCが供給し得るかを見いだすことにある。(R.Whitaker;Added Value for On-Site Fuel Cells through Eqipment and Application Integration, 1996 Fuel Cell Seminar, p485)

・上記プラントは今までに100基以上が生産されたが、1996年7月現在、北アメリカ、ヨーロッパ、およびアジアに跨る12カ国で70基が運転されている。これらのプラントの累積運転時間は110万時間で、平均稼働率(availability)は95%に達している。これは通常の発電設備のMTBFO(Mean Time Between Forced Outage)が500ないし800時間であるのに対してFCのそれは2,200時間であるからである。又発電性能については40%の効率、80%の総合効率が実証されている。(同上論文、PP485-486)

・世界で運転されているPC25A、B、Cの67ユニットの運転実績についての発表によれば、20,000時間以上の運転実績を持つプラントは27ユニットに達した。先に述べたように、MTBFOは2,000時間であるが、連続運転時間において6ヶ月を超えるのは約30ユニットあり、そのうち3ユニットは1年以上の連続運転を記録した。運転停止の原因に関する分析結果によれば、FCの基本的機能の故障によるものは無く、周辺又は補助装置(例えばファンを駆動するためのベルトの破損やバルブ等)の故障によって停止を余儀なくされている。これらの経験は全てPC25Cの設計では取り入れられ、機能は改善された。(E.W.Hall, W.C.Riley, G.J.Sandelli;PC25TM Product and Manufacuring Experience, 1996 FC Seminar, p529)

・IFC社は74台のPC25AおよびBをConnecticut州、Middletownの工場で生産してきたが、PC25Cの生産に伴って、新鋭生産設備(8万平方フィート)を持つ工場を同州South Windsorに建設した。又東芝、CLCと共同で、全世界にサービスネットワークを設立した。(同上論文p530)

・大阪ガス社はONSI製PAFCの49ユニットを試験した結果、4万時間の運転時間で出力の低下は10%以下になろうと述べている。(M.C.Williams;Stationary Power Fuel Cell Commercialization Status Worldwide, 1996 FC Seminar, p1)

  ・上記のような信頼性および性能に関する実証を踏まえて、ONSI社はオンサイトエネルギー供給、バックアップ電源(Backup)、無停電電源(UPS)、高品質電源(Quality Power)、独立電源(Stand-Alone)、遠隔地電源(Remote)の6種類の市場に於けるPAFCの利用方法について検討している。PC25の運転コストが低く且つそれはユーザに価値の高いオーダメイドの電力(valuable dedicated power)を提供することができるので、上記6種類の市場については、他の市場に比べて経済的に優れた価値をもたらすと評価している。(R.Whitaker; 1996 FC Seminar, pp486-487)

・95年11月から国内市場に導入が始まった「PC25C」の運転実績が東芝により発表された。それによると、現在合計11台(大阪ガス;4、東京ガス;3、東邦ガス;1、東芝;3)が稼働しており、1,000時間以上の累積運転時間(96年11月1日)記録を持つプラントは以下のようになる。
  大ガス  酉島FCセンター     3,009時間   東ガス  田町研究所    2,396時間
  東ガス  東京都三園浄水場   2,359時間   東芝   京浜事業所    1,122時間
 来年3月末までに、大阪ガス;5、東京ガス;2、東邦ガス;1、東芝京浜事業所;1、東芝原子力研究所;1、日石ガス新潟基地;1、の台数が稼働の予定である。(電力時事通信96年12月11日)

・海外に於けるPC25C導入実績は、アメリカ;18、韓国;2、イタリア;1の計21台となっている。(同上)     
1.4 サクラメント市による市場分析
・サクラメント市公益事業管区SMUD(Sacramento Municipal Utility District)のART(Advanced and Renewable Technologies)計画は、実証運転研究の経験を通して新エネルギーに最も適した市場の開拓を目的としている。FCについては、1994年に出力200kWPAFCを2台導入したが、その第1のユニットは南サクラメントにあるKaiser病院に系統連系で設置され、排熱は病院内の給湯および暖房に用いられた。第2のユニットはSMUD本部アネックスビルに、同じく系統連系で設置されたが、排熱は利用されていない。同本部は高品質の電力を供給する無停電電源(UPS)としてFCを位置ずけており、連系方式としてはGrid-Independent/Grid-Synchronizedを考えている。定常状態ではFCは系統とは同期しているものの独立で運転されているので、FCおよび負荷は系統に於ける擾乱の影響を受けることがない。もしFCの出力がダウンした時には、1/4サイクルの時間で負荷は系統に連系される。ユーザとしては、FCの高品質無停電電源としての特徴を生かして、高度な医療設備、国の機関や大学の計算センタ−、データセンタ等の電源としての利用が挙げられている。(S.L.Eklof;Making the Grid the Backup:Utility Applications for Fuel Cell Power, 1996 FC Seminar, p87)  
2. 新しいPAFCシステム展開
・東京ガスは、東邦ガス等都市ガス8社、新日本空調、東京ガス・エンジニアリングと共同で「コジェネレーション総合評価プログラム」を開発したと発表した。このプログラムはコジェネレーションの最適な設計提案書を1台のパソコンで短時間に作成し、需要家へ迅速に提案資料を提供することを意図して作成されたもので、FC等の適用も視野において最新の技術開発データを反映できるよう工夫されていると同社では述べている。(日刊工業新聞96年11月20日)

・四国総合研究所は、1993年度から工業技術院の「エネルギー使用合理化関係技術実用化開発費補助金」の交付を受けて、石油化学プラントから副次的に発生する水素を有効利用して省エネルギー化を図る技術開発に取り組んでいたが、この度東亜合成社と共同で同社の製品製造過程で発生する水素をPAFCに適用するプラントを完成し、96年11月27日に現地で竣工式を行った。発電には出力100kWのPAFC(富士電機製)が適用されており、燃料極から排出される未反応水素を再利用する水素リサイクル技術を採用すると共に、化学プラントから発生する水蒸気とFC排熱を互いに利用し得る熱交換器を備えることにより、発電効率は38%にまで向上した。更にFCから発生する排熱を熱交換器を介して自家用発電プラントに活用すれば、総合発電効率を42%にまで高めることができると考えられている。なお同社の試算では、石油精製、石油化学、ソーダ業界を合わせると年間68億m3の水素が発生しており、この内10億m3はFC用燃料に利用可能と見積もっている。(日刊工業新聞96年11月27日、電気新聞同年11月28日)

・大阪ガスは、京都大学、大林組、日本野鳥の会等が参加した産学協同プロジェクト「“NEXT21”による居住実験」についての中間報告を発表した。“NEXT21”は6階建で延べ4,600m2の床面積を持つ省エネルギー実験集合住宅で、大阪ガスの社員16所帯が入居して実験に参画している。天然ガスを燃料とするFCコジェネレーションを採用すると共に、屋上や共用スペースには樹木を配し、太陽エネルギーを利用、生ゴミや生活排水は建物内で処理する等、21世紀の都市住宅の理想像を想定して設計されている。同報告は具体的効果として、従来の住宅に比べて27%の省エネルギーを達成し、Nox排出量は74.1%削減できたと述べている。(読売新聞・大阪、日本経済新聞96年11月29日)  
3. MCFC
・石川島播磨重工社は、同社が独自に開発した出力40kW級外部改質型MCFCプラントの1万時間に達する総合運転試験を完了した。最大出力50kW、発電端効率40%の性能が得られ、連続運転時間は1,600時間を超えた。プラントとしての性能、構成機器の信頼性、および運転安定性についての確認と共に、スケールアップによって発電効率50%程度の設計も可能であるとの自信が得られたと同社は語っている。同プラントの特徴は、スタックと改質器を容器内に一体化してコンパクト化を実現した点と、スタック反応熱を改質器の熱源として利用するカソードガス顕熱改質方式を採用することによって発電効率を高めたことにある。これらの成果は、MCFC研究組合が進めている1MWプラントの開発に反映される予定である。(電気新聞96年11月26日)

・東芝は、電気新聞“技術シリーズ”に於いて同社によるMCFCの開発成果について発表した。MCFCの電解液である溶融炭酸塩はアルミナ系セラミックスLiAlO3製の多孔質マトリックスに保持されるが、同社ではLiAlO3の粗大化対策として、基材を従来のγ−LiAlO3からα−LiAlO3に変更した新マトリックスを開発した。常圧での小型単セル試験の結果によると、従来仕様のマトリックスでは電圧低下速度が10mV/1000hであったが、新仕様のマトリックスの場合、1万時間の運転によってもほとんど電圧に変化が見られなかったと報告されている。又電解質中への酸化ニッケルの溶け出しに関しては、加圧下で2万時間以上の寿命について見通しが得られたようである。現在同社の開発による柔構造セパレータを組み込んで、反応面積1200m2の単位電池を3個積層したFCユニットを試作し、それによる発電試験が続けられている。(電気新聞96年11月28日) 
3.2. Santa Clara Demonstration Project:Today’s Experience
・1996年4月25日、ERC社はサンタクララにおいて世界最大の系統連系MCFC発電プラントの運転が開始されたと高らかに宣言、その後2週間以内に同プラントは1.93MWの発電出力を記録した。ERCの子会社であるFuel Cell Engineering Co.のDon Glenn社長は、世界最大のFC発電所の成功に大いなる誇りを表明するとともに、「我々の実証運転の目的は、ここで得られた経験を次世代MCFCの設計に生かすことにある」と述べている。(ERC Review, Fall/Winter 1996, p2)

・運転開始から約2週間後、発電出力に異常(electrical anomalies)が検知され、原因追跡と修理のために発電運転は停止された。故障の原因は、絶縁材料として使われていた接着剤(adhesive)の劣化にあることが判明、問題の材料を除去すると共に、物理的損傷を受けたスタックの修理が試みられた。(同上)

・運転再開において、2スタックの性能が劣化し、全出力での運転状態に戻すまでに修復するのは不可能であることが明らかになったため、プラントの編成を変更(reconfigure)した上で発電を続行することが決断された。変更された主要な内容は、16スタックの内、8スタックをバイパスすることで、それに伴い電圧降下をカバーするためにインバータとグリッドの間にトランスが挿入された。(同上)

・ERCの社長Bernard Bakerは、「この運転プロジェクトにおいて、我々は多くの最大且つ最良の結果 (firsts and bests)と貴重な経験を得ることができた。我々が経験した支障の原因については完全に理解され、今後の設計ではこの様な支障は起りえないと信じている。又本プロジェクトが、MCFCの電力業界に於ける商業化の実現に、大きく貢献したものと確信している。」とコメントした。(同上)  
4. SOFC
・大阪ガス、東京ガス、およびWH社が共同開発した出力25kW級円筒型SOFCコジェネレーションシステムの運転実験を、1995年3月以来ピッツバーグのWH社の工場で行っていたが、本年11月末で総発電時間が1万1,000時間に達した。又連続運転時間についても6,493時間となり、総発電時間を含めて従来の世界記録を更新する成果を達成した。なお従来の記録は、東京ガス、大阪ガス、関西電力、およびWH社の4社で共同開発した出力25kW級発電システムによるもので、総発電時間は7,064時間、連続運転時間は4,495時間であった。(電気新聞、日刊工業新聞他96年12月4日)

・WH社は、Ontario-Hydro Technonogies社と共同で、動作圧15気圧で円筒型SOFCを試験中であり、又1997年にはオランダにおいて1,152のセルから成る出力100kWプラントの発電運転を実施する計画を進めている。FCセミナーでの情報によれば、同社は年間4MWSOFCの生産能力を持つ設備をアメリカに於いて完成したようである。(M.C.Williams;Stationary Power Fuel Cell Commercialization Status Worldwide, 1996 Fuel Cell Seminar, p1)

・アメリカに於ける平板型SOFCの開発は、ZTEK、Allied-Signal、SOFCO、およびTMIで進められているが、特にZTEK社は1kW規模のスタックによって数千時間の発電運転を終了した模様である。2.0W/cm2の出力密度が可能と考えられている。(同上論文)

・ヨーロッパや日本においても、円筒型および平板型SOFCの開発が多くの機関によって進められているが、日本のMHI社は円筒型10kWおよび平板型5kWプラントの試験を1996年中に終了する予定になっている。 Siemens社は1996年には20kW試験運転を、又1998年には100kW試験運転を行うことになろう。(同上論文)

・EPRI(Electric Power Reseach Institute)は、彼等の行った市場分析に基ずいて、もし目標とされている$1100/kW以下のコストが実現すれば、15kWから1MWの出力範囲のSOFCが、現存する900,000戸の商業ビルにおける電力需要の大部分に対して、現在の価格より安い価格で電力を供給し得ると予測している。(D.M.Rastler;Markets and Commercialization Scenarios for Emerging Fuel Cells in Evolving Electricity Markets, 1996 Fuel Cell seminar, p484)

・中部電力は、三菱重工業と共同で開発を進めてきた平板型の一種である一体積層方式MOLB(Monoblock Layer Built)SOFCによって、10日間の連続運転を行い、世界最高レベルの5.1kWの発電に成功したと発表した。今回発電に成功したSOFCは、発電膜を波形に加工した点において特徴があり、従来の物に比べて有効反応面積が約2倍、接触抵抗は2分の1になるとともに、電解質の機械的強度が高まり、燃料ガスのシールも向上したと伝えられている。スタックは200mm角で40段積層の電池2ブロックで構成され、出力密度は0.23W/cm2を記録した。(電気新聞96年12月12日)  
5. FC自動車とPEFC
・アメリカDOEは、クリーン自動車の開発に先導的役割を果たそうとしている。過去10年間に自動車用PEFCについては、その性能およびコストの面において飛躍的な発展を遂げたが、なお内燃機関車と太刀打ちできる段階に達するには解決すべき多くの問題が残されている。交通機関用FC開発の主要な推進機関は、従来の自動車に比べて3倍の燃費(中型セダンで80mpg)の実現を目標に掲げているPNGV(the Partnership for a New Generation of Vehicles)であるが、PNGVは上記目標のために選択した3種類の動力源候補の1つとしてPEFCを挙げている。(S.G.Chalk, S.R.Venkateswaran;Breaking Down the Barriers to Commercialization of Fuel Cells in Transportation Through Government-Industry R&D Program, 1996, FC Seminar, pp258-261)

・DOEでは2000年までの短期目標として、以下の性能を満足するPEFCの開発を掲げている。すなわち1)最大出力40kWに於いて51%以上のエネルギー効率、2)EPA(U.S. Environmental Protection Agency, Tier II emission)基準の100倍以上クリーンで、3)ガソリン、メタノール、エタノール、天然ガス又は水素が適用可能、である。又2004年を期限とする中期目標は、顧客の期待に添うような自動車駆動システムの開発であり、具体的にはコスト、性能、走行距離、安全性、および信頼性の面に於いて内燃機関と競争可能なFCの実現を目指している。(同上論文)

・PNGVの目標を満足するFCの開発を効率的に進めるために、DOE、産業界、国立研究所、および大学でthe National Fuel Cell Allianceが設立された。この同盟(Allince)は、産業界のコンセンサスを形成する場を提供すると共に、開発計画に対して勧告し、政府の出資によって得られた開発成果を産業界が享受するために便宜を与えることを目的としている。(同上論文)

・東芝は、高分子電解質膜への水分供給方式として“直接水供給法”を開発した。従来の燃料に水蒸気を添加する方式は、水蒸気が燃料極を進行していく過程で凝縮するので温度による影響が大きく、電解質膜への均等な水分供給が困難であった。直接水供給法は、冷却水の一部を多孔質である透過板から燃料極を通して直接電解質膜に供給するため、水分供給が温度の影響を受けることなく、したがって積層した電池の性能を均一化することができる。この方式を適用して電極面積1,200cm2の単位電池を5個積層した1kW級スタックを試作、動作温度100℃、圧力3気圧において、電流密度0.4A/cm2、平均電圧0.77V、平均出力密度0.31W/cm2、総出力1.8kWが得られた。(電気新聞96年11月28日)

・H&FCL(Hydrogen & Fuel Cell Letter)は、あるアメリカの主要カーメーカが、97年1月11日から20日までデトロイトで開催される自動車ショー(Detroit Auto Show)で、FC自動車を発表するとの情報を得ている。デトロイト筋によれば、それはフォード社ではないようである。この自動車はPEM(PEFC)駆動で、燃料となる水素は、車内に搭載した部分酸化法を用いた改質器によってガソリンから生成される。現時点では、これ以上の詳しい情報は分からない。(H&FCL;Dec.1996, Vol.XI/No.12, ISSN 1080-8019, p1)
6. FC競合技術の動向
・三菱重工は、ミサイルに搭載する小型ガスタービンエンジンを転用した非常用発電装置“MGUNシリーズ”を本格販売することになった。運転時の騒音が低く且つ自己空冷式のためコンパクトな点が特徴で、今まで金融機関や印刷会社等に12台の販売実績がある。市場調査の結果、定格出力375kWから3,000kWの範囲で製品の系列化を図り、本格的な民需の開拓に乗り出す予定で、この度専門の営業チームを事業所内に設置した。価格はkW当たり20万円と伝えられている。(日経産業新聞96年11月20日)

・シーメンス社は、アメリカ・ミズーリ州のシングルシャフトタービン複合サイクル発電所のターンキー建設を受注した。複合サイクル発電の総出力は25万kW(ガスタービン出力17万kW)、発電効率は58%を超える見込みで、これが実現すればアメリカの複合発電では最も高い効率となる。99年初頭に操業を開始する予定。(電気新聞96年12月10日)  

 ―― This edition is made up as of December 16, 1996――