第185号 経産省がIGFCを開発から実証段階へ
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体の施策
3.公共企業団体の活動
4.SOFC技術開発と事業展開
5.PEFC要素技術開発
6.エネファーム事業展開
7.FCV&EV最前線
8.バイオFCの開発研究
9.水素生成精製技術開発と事業展開
10.水素輸送・貯蔵技術の開発
11.FC部材関連技術の開発と事業展開
12.FCおよび水素関連計測観測技術開発と事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)環境省
 環境省は9月1日、太陽光パネル、風力発電設備、FCなど省エネルギー製品の普及に向け、中小企業や家庭がこれらを借りる際の料金を軽減する"エコリース促進事業"の対象リース業界に、計28社を追加指定したと発表した。既に1次公募で67社を選定して6月からスタートさせたが、「震災直後で十分な準備ができなかった」とする被災者の業者による要望を受けて7,8月に2次公募を実施した。(山梨日日、四国新聞、新潟、岩手日報、福島民報、福島民友、沖縄タイムス11年9月2日、宮崎日々新聞9月9日)

(2)経産省
 LEDや抗菌繊維、家庭用FCなど、日本が得意とする29分野の製品に関する性能評価について、経済産業省は2〜3年で日本発の国際標準をつくり、国際機関に提案する。安さで売り上げを伸ばす中国製などに対し、日本製の品質の高さをアピールするため。家庭用FCについては、省エネ度や安全性の評価法を国際電気標準会議(IEC)に来年度にも提案する。まだ日本企業しか商品化していないが、中国勢などの追い上げを見越す。(朝日新聞11年9月5日)
 経済産業省は9月9日、蓄電池などの節電設備を導入すれば国が購入費を補助する"節電エコ補助金"制度を新設すると発表した。第3次補正予算案の目玉事業として2000億円を要求する。蓄電池や太陽光発電、FCの他、HEMS(Home Energy Management System)について、一般家庭が導入する場合には最大で費用の3割程度を補助する。企業や学校が節電目的で施設を改修する場合も補助対象とする。(読売、朝日、中日新聞11年9月10日、電気新聞9月12日、化学工業日報9月14日)
 経済産業省は火力発電の高度化に向けた技術開発支援を拡充する。近くまとめる2012年度予算の概算要求で、次世代の石炭発電方式として実用化が期待される"石炭ガス化FC複合発電(IGFC)"の実証経費を新たに盛り込む。高効率ガスタービンについても従来実施してきた要素技術開発が今年度で区切りを迎えるため、12年度から実証段階に移行する方針。政府は中長期的に原子力発電への依存度を下げる方針を表明しており、代替電源の要となる高効率火力の開発を急ぐ。IGFCは石炭をガス化した燃料でガスタービンを回し、廃熱で蒸気タービンを駆動、石炭ガス化の工程で生じた水素でFCを動かすトリプル複合発電であり、発電端で約60%の高効率が見込める。経産省はIGFCの早期実用化とともに、将来はCO分離回収とも組み合わせ、外部へのCO排出を0にする究極の石炭火力を目指す。(電気新聞11年9月26日)

2.地方自治体の施策
(1)岐阜県
 岐阜県は、太陽光発電とFC、蓄電池を組み合わせた次世代新エネルギー設備を導入する県内の一戸建て住宅や小規模事業所を対象に、1件につき600万円を上限に導入経費の半分を補助する。一般会計補正予算案に事業費3000万円を計上する。(中日新聞11年9月2日)

(2)福島県
 福島県の第3次補正予算要求は、電力不足対策として節電に重点を置き、節電エコ補助金では太陽光発電設備や蓄電池などの普及を支援、又本県を再生可能エネルギーの研究開発拠点にするため1000億円の基金創設を盛り込んだ。エコ補助金は家庭向けの場合、従来あった太陽光発電、FC向けの支援策を拡充し、蓄電池やエネルギー使用状況を管理する補助金も加える見込み。(福島民報11年9月10日)

(3)大阪市
 大阪市は9月21日、エネルギー政策の方針を示す"大阪市エネルギービジョン(仮称)"の骨子を取りまとめた。エネルギーの地産地消型都市を目指す。大阪湾岸の夢洲地区にはメガソーラーや高効率ガスタービンコンバインドサイクル(GTCC)発電所立地を検討し、企業立地につなげる。又約2900m2の鶴見区市有地に太陽電池、FC、蓄電池を兼ね備えた一戸建て住宅を20戸以上集めたモデル地区を作る。2014〜2015年の完成を目指す。(産経、日刊工業新聞11年9月22日)

3.公共企業団体の活動
 都市ガス会社、エンジニアリング会社、ガス機器メーカーなどでつくる天然ガス導入促進センターは、9月1日付けで"コージェネレーション・エネルギー高度利用センター"に改称、これまでコージェネシステム全般の一般普及に取り組んできたが、新たにFC室を設け、新体制で活動を始めた。理事長には柏木東京工業大教授が就任した。(日経産業新聞11年9月2日、電気新聞9月7日)

4.SOFC技術開発と事業展開
(1)北大
 北海道大学大学院工学研究科の本橋准教授らの研究グループは、汎用元素のみで構成される酸素貯蔵材料を開発した。資源的に豊富なカルシウム、アルミニウム、マンガン、酸素で構成しながら、優れた酸素の吸収放出性能を示しており、元素戦略的に有利な材料となる。温度・雰囲気の僅かな変化で3.0wt%もの多量な酸素を高速・可逆に吸収放出することから、酸素濃縮やSOFCなどへの応用が期待されている。現在、三菱化学との共同研究を進めており、同物質の合成プロセスの最適化による酸素貯蔵能の向上を図り、応用展開を検討する。多量の酸素を低温で可逆に吸収放出する金属酸化物は、酸素貯蔵材料と呼ばれ、生産性向上や環境保護にかかわる様々な高温プロセスへの応用が期待されている。例えば酸素貯蔵材料を活用した新規酸化還元触媒は、低炭素化プロセスなどを通じて環境保護に貢献し、又新しい高性能電極材料はSOFCの研究開発を加速する。現在も国内外の複数グループで、セリアやジルコニア固溶体に代表される既存材料の性能向上を目指した研究が行われている。(化学工業日報11年8月31日)

(2)JXエネ
 JX日鉱日石エネルギーは、モデルハウス"ENEOS創エネハウス"にSOFCを設置し、一般見学を開始した。現行のPEFCに比べ約40%小型化するとともに、定格発電効率45%(LHV)を実現した。発電を担う中核部分のスタックは京セラから調達している。10月の市場投入を予定。(化学工業日報11年9月8日、電気新聞9月9日)

(3)大ガス
 大阪ガスの尾崎社長は9月8日、エネファームでSOFCタイプを2012年にも発売すると発表した。発電効率が高く、給湯の使用量が少ない少人数家庭などでは高い省エネ効果が期待できるという。(読売新聞11年9月9日)

5.PEFC要素技術開発
(1)東北大
 東北大学多元物質科学研究所の宮下高分子・ハイブリッド材料研究センター長、および松井助教らは、0.1S/cmのイオン伝導度を有する新規プロトン伝導膜の開発に成功した。安価なケイ素と有機材料からなる有機―無機ハイブイリッド材料で高い耐熱性を持ち、薄膜化も容易であることから、PEFC用高分子電解質として利用できる。高温、無加湿状態でも高いプロトン伝導度を有することから白金触媒の使用量削減、低コスト化が期待される。同グループが開発したのは、ダブルデッカー型シルセスキオキサンにプロトン伝導性を持つリン酸基を結合させた化合物(PHOS-DDSQ)。ガラスと樹脂の成分から構成される材料で、従来の有機材料に比べて高耐熱性、難燃性に優れる。溶媒に溶かした材料を基板に塗布、乾燥させることで薄膜化も容易に行える。プロトン伝導度は、95%湿度、85℃で0.1S/cmで、既存のフッ素系ポリマーと同等の性能を実現する。又無加湿の状態でも高いプロトン伝導性を有しており、170℃で10−4S/cmを示した。(化学工業日報11年8月31日)

(2)九大
 九州大学大学院工学研究科の小江教授は、触媒に白金ではなくニッケルとルテニウムの化合物を使ったPEFCの基礎技術を開発した。発電性能は白金を使う従来型と比べて1/25を実現した。同教授は「これから白金に肩を並べる発電性能を目指したい」としており、高価で枯渇性資源の白金に替わる触媒開発を進める。FCの研究開発を行っているダイハツ工業と共同研究を始める。(西日本新聞11年9月13日、日経産業、日刊工業新聞9月14日)

6.エネファーム事業展開
(1)パナソニック
 パナソニックは9月6日、2011年度のエネファーム生産台数を当初計画比1.2倍の6000台強に上方修正したことを明らかにした。東日本大震災以降、家庭で発電できるFCへの注目が高まっているためで、生産態勢を整え、更に上積みを図る。(産経新聞11年9月7日)

(2)日本海ガス
 日本海ガス(富山市)は、新型エネファームを販売する。JX日鉱日石エネルギー製の定格出力700WのSOFCで、小型化と同時に発電効率は45%に向上した。(北日本、富山新聞11年9月13日)

(3)東邦ガス
 東邦ガスは、同社が2009年5月から販売を始めたエネファームの累計販売台数が千台に達したと発表した。09年度202台、10年度515台、11年度は9月2日で283台となり、累計で千台を突破した。(電気、日刊工業新聞11年9月15日)

(4)大ガス
 大阪ガスは、ガスコージェネレーションシステムの普及状況をまとめて発表した。エネファームについては今年度の目標値の半数1500台を7月までに突破した。(電気新聞11年9月15日)

(5)JXエネ
 JX日鉱日石エネルギーは9月15日、SOFC型エネファームを10月17日に本体価格270万円(工事費別)で市場投入すると発表した。9月から270人のモニターを募集しての限定販売し、それ以外の顧客には2012年1月以降に納入、2012年には現行型と併せて5000台の導入を目指す。木村社長は9月15日に記者会見し「SOFC型の発売を機に、東日本大震災後のエネルギーニーズに応える"ENEOS総エネ事業"を推進していく」と意気込みを語った。家庭向けには12年夏を目途に、自立を支える独自の蓄電池システム(6kWh、価格は100万円以下)を投入、エネファーム、太陽光発電システムとともに展開し、又エネルギー診断サービス事業も実施する。(読売、毎日、日本経済、電気、日経産業、日刊工業、建設通信、中日、西日本、中国、静岡新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報11年9月16日、朝日新聞9月19日、住宅新報9月20日、産経新聞9月23日)

7.FCV&EV最前線
(1)ホンダ
 ホンダは9月5日、FCV"FCXクラリテイー"を、成田国際空港と都心を結ぶ国際線利用者向けのハイヤー走行実験に提供したと発表した。実験は"水素供給・利用技術研究組合(HySUT)が実施する。FCXクラリテイーは2009年にアメリカと国内でリース販売を始めた市販のFCVで、これまで日米で36台を納入した。実験には羽田と成田を拠点のタクシー事業者2社が参加、FCVは羽田を拠点とする事業者に日産自動車が、成田を拠点とする事業者にはトヨタとホンダが各1台提供し、ビジネス客向けの送迎サービスに使用する。(朝日、日経産業、日刊工業、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ11年9月6日、日本経済新聞9月13日)

(2)シーメンス、ボルボ、ダイムラー
 独シーメンスとスウエーデンのボルボ・カーは、EVの共同開発で合意した。提携内容は電気駆動装置、電池マネジメント、充電など広範囲に及んでおり、これらはボルボが開発を進めているEV"C30エレクトリック"に統合システムとして搭載される予定である。急速充電方式は車載、車外設置の両方式を検討する。将来的には再生可能エネルギーを水素に変換して利用するFCV開発につなげたい考えだ。一方ダイムラーのツエッチェ社長は12日、フランクフルト国際自動車ショウ(IAA)の開幕を前にしたイベントで、EVよりも走行距離や充電時間などで勝るFCVの開発に一層注力する意向を強調した。(電気新聞11年9月14日)
 ダイムラーのEV・FCV開発責任者のクリステイアン・モーアデイエック氏は9月13日、フランクフルト国際自動車ショウで、FCVについてトラックなど大型車での開発を検討していると語った。同氏は「FCVは一般的に航続距離が長く、大型車に向く。車種や顧客の要望に応じてEVと使い分けたい」と語った。又日産・ルノーとの提携事業の一環であるEVの共同開発について、ルノーが13年から市場投入する予定の小型車"トウインゴ"のEVモデルに「ダイムラー製バッテリーを供給したい」との意向を示した。又同社はFCV"F125"を公開した。燃料は水素で1度の補給で約1000km走行、燃料の注入は約3分で終了する。(日刊自動車新聞11年9月15日、日経産業新聞9月16日)

8.バイオFCの開発研究
 東京農工大の秋山助教と森島准教授らは、昆虫の体液を利用して発電するバイオFCを開発した。体液に含まれる糖分のトレハロースを分解して電気を得る。昆虫にFCを搭載してカメラやセンサーを動かし、原子力発電所事故の現場などで活躍する災害用ロボットとして実用化を目指す。FCの大きさは縦2.5cm、横2cm、厚さ1mm。昆虫の体液に含まれるトレハロースを酵素でグルコースに分解した後、酵素で酸化させて発電する。ゴキブリにFCを取り付け、10.5μWの電力を得た。昆虫は隙間などに入れる上、ゴキブリは放射線への耐性が人間の数十倍程度高いと云われ、作業員が近づけない現場で情報収集ができる。又電気刺激で昆虫を操る部品を取り付ければ、情報を集めたい場所へ移動させることもできる。民間企業と組み、1年以内の実用化を目指す。(日本経済新聞11年9月19日)

9.水素生成精製技術開発と事業展開
(1)川崎重工
 川崎重工業は2015年からCOを排出せずに液体水素を製造、輸送、利用する仕組みの構築に乗り出す。17年にも試験運用を始める計画。豪州で未利用の低品位炭(褐炭)から水素を精製、液化して日本に輸送し、FCVなどの燃料に使う。先ず1日当たりFCV約100台分に相当する10tonの液体水素を供給できるようにする。30年には供給量を同700tに引き上げて本格的に商用化するとともに、海上輸送船やガスタービンの燃料も水素に置き換え、エネルギー供給・利用全体でCOを排出しない仕組みの確立を目指す。褐炭の採取地は豪ビクトリア州を候補に検討している。褐炭は先ずガス化して水素とCOに分離、吸着剤を使って集めたCOはパイプラインで天然ガス田だった場所に運び、圧縮した上で地中に埋める。水素は別のパイプラインで港に送る。褐炭のガス化などの工程で使用するエネルギーには、発電時に出るCOの回収・貯留などの対策を行っている同州の発電所の電力を使う。川重はNEDOプロジェクトに参画、研究開発費100億円以上を投じ、褐炭から水素を精製する技術や、安全に配慮した水素輸送船、水素を積み下ろしする装置などを開発する。政府に支援を求めるとともに、都市ガス、自動車、海運などの企業に参画を呼び掛ける。(日刊工業新聞11年9月1日)

(2)東芝
 東芝は化石燃料を使わず、高温ガス炉で水蒸気を分解し、水素を効率良く取り出す基本素子を開発した。水を原料とする製造法の中でも、既存の手法に比べて2倍となる約80%の高効率で水素を製造する"高温水蒸気電解法"を使う。基本素子はジルコニア系の電解質膜を2つの電極で挟んだ3層構造のセラミックス製素子で、SOFCとほぼ同じ構造を持ち、発電とは逆方向の電解反応を用いている。今回、材料中に微小な気孔を作るなど電極材料を工夫し、米国立研究所が持つ従来の電解特性トップデーターを7%上回る水素製造能力を持たせることに成功した。6000時間以上の連続運転で素子の耐久性も確認した。COを出さないグリーン水素を作り出すシステムとして2020年頃の実用化を目指す。 (日刊工業新聞11年9月13日)

(3)岩谷産業
 岩谷産業(大阪市)は9月13日、山口県周南市にあるトクヤマの徳山製造所内に液化水素プラントを建設すると発表した。新プラントの生産能力は3000L/hで、共同出資で新会社を設け、2012年秋の稼働を目指す。半導体や電子部品など産業分野向けの他、FCV向けも視野に入れる。(日経産業、中国、山口新聞11年9月14日)

(4)横浜市大
 横浜市立大学の高見澤教授は、新規カルボン酸金属錯体の単結晶を開発した。これは酢酸銅型の2核構造体がピラジンで架橋された金属錯体の単結晶となっている。溶液中で合成して結晶化させるが、単結晶なので透明性のある材料にできる。又1次元鎖を形成している分子結晶であり、弱い分子間力で固体を形成している。その結晶中に、狭いところで0.2nm、広い所で0.4nmの空間が規則正しく空いており、そこに多様なガスを物理吸着することができる。又そのとき固体構造を変化させてガス包摂共結晶を生成する。この単結晶は、特に水素の分離に優れた特性があるため、FC用の高純度水素製造に応用できる可能性がある他、広い用途でガス分離にかかわる応用展開が期待できる。(化学工業日報11年9月20日)

10.水素輸送・貯蔵技術の開発
 理化学研究所は、希土類金属とd-ブロック遷移金属という異なる金属を組み合わせた新タイプの水素吸蔵合金"多金属ヒドリドクラスター"の合成と構造分析に成功、水素と反応する様子をX線構造解析で観察することを可能にした。今回の成果は、多金属ヒドリドクラスターの構造と水素の吸着・放出の相関を知るとともに、FCへの利用が見込まれる水素吸蔵材料の実用化へ向けた動きとして注目される。(化学工業日報11年9月20日)

11.FC部材関連技術の開発と事業展開
(1)ナカサ
 ナカサ(東京都)は、厚さ0.2mmのアルミニウム板をほぼ直角に深絞り加工することに成功した。3種類の金型を使って、通常1工程の絞りを3工程に分けることにより、深さ12mmまで絞ってもアルミ板の四隅が割れずに成形できる。絞った面はいずれもひずみがなく平面性が高い。大手アルミニウム圧延メーカーから試作注文を受けて開発したもので、FC部材などの利用を見込む。四隅の曲率半径はそれぞれ1.0と小さく、ほぼ直角に近い状態でも割れずに成形できる。(日刊工業新聞11年8月30日)

(2)ナカヤマ精密
 金属加工のナカヤマ精密(大阪市)は9月12日、熊本県菊陽町に加工精度が10nmレベルの金属加工工場を建設すると発表した。2012年1月に着工し、同年9月に操業する。投資額は10億円。新工場はFCセパレーターや非球面レンズ製造用金型の加工などを手掛ける予定。(日刊工業新聞11年9月13日、日経産業、熊本日日新聞9月14日)

12.FCおよび水素関連計測観測技術開発と事業展開
(1)SIIナノテク
 セイコーインスツル子会社で計測分析装置製造のエスアイアイ・ナノテクノロジー(SIIナノテク:千葉市)は8月30日、リチウムイオン電池(LiB)やFC関連の工場向けに、20μm程の細かな金属異物を数分で検出できる自動検査装置を開発したと発表した。X線透過検査装置と元素分析装置、顕微鏡を1つの装置にまとめたことで、作業効率が大幅に向上したという。装置はLiBや部材メーカーの工場などで使う。電極板や絶縁体などを入れると自動でX線画像を撮影し、どのような金属異物が混ざっているかを分析、混入した金属異物の個数や種類、大きさなどが分かる仕組みである。前処理の必要がないため、簡単に故障解析や抜き取り検査が出来るのが特徴。価格は標準タイプで5000万円程度を想定している。(日経産業新聞、化学工業日報11年8月31日)

(2)IHI検査計測
 IHIグループのIHI検査計測は、FCV向け性能評価装置で市場攻勢をかける。FCへ供給する水素ガスと酸素の圧力・流量・温度・湿度などを最適に制御するための装置。同社の装置は、FCについて寒冷地から温暖地域までを含め、様々な条件を変化させ、電池性能を測定するもので、特に反応ガスの露点温度・ガス温度・ガス背圧などはFCの挙動に大きく影響するため、高い応答性が要求される。長年蓄積した制御技術と加湿器などの技術を融合して製品展開しており、既に大手メーカーを中心に110台以上を納入してきた。各顧客ニーズにきめ細かく対応できる強みを生かして市場展開に拍車をかけ、15年までに150台の販売を狙う。(化学工業日報11年9月21日)

 ――This edition is made up as of September 26, 2011――

・A POSTER COLUMN

停電でも稼働するFCの開発
 JX日鉱日石エネルギーは、蓄電池と一体運用し、停電時でも運転が継続する家庭用FCシステムを開発した。東京ガスもFCと組み合わせる外付け電池の開発を進めている。東日本大震災後の計画停電では、電力会社の送電線にFCの電力が流れ込む現象を防ぐ機能が働きFCが相次いで止まった。家庭用FCは有力な分散電源として期待を集めているだけに、各社は露呈した弱点の修正を急いでいる。
 JXエネルギーは来夏を目途にLiBと一体で運用するFCの販売を始める。停電で停止する現在のFCの弱みを解消し、燃料のガスがある限り連続運転が可能になる。
 中国で組み立てたパソコン向けLiBを調達、電池90個を組み合わせ容量6kWhの蓄電池を製作した。停電を想定した実証運用では、自動的に蓄電池にためた電力を受け取る運転に切り替わり、継続して発電できることを確認した。又蓄電池を構成する個々の電池の劣化情報を遠隔監視し、販売店などが保守も手掛ける。FCと同じく10年のメーカー保証を付ける方針だ。
 蓄電池単体の価格は100万円程度に抑え、FCとセットで販売、2012年度の補助金の設定水準にもよるが、利用者負担は一式で260万〜270万円程度になる見通しである。12年度には4000台の販売を目指し、半分は蓄電池一体型を見込む。
 東京ガスもFC向けにバックアップ用外付け電池の開発を進めている。FCとは別売りでオプションの形で販売する方針だ。大阪ガスも対応を急いでいる。
(日本経済新聞11年9月8日)

経産省の新たなエネルギー産業研究会「新エネ市場が世界で86兆円」の展望
 経済産業省の"新たなエネルギー産業研究会"が9月16日、新エネルギー産業の展望に関する中間整理案をまとめた。太陽光や風力、蓄電池など、新エネ関連産業の世界市場規模は2020年に86兆円と10年間で2.8倍に拡大すると試算、輸出比率は30.5%と自動車関連産業の27.9%(乗用車のみでは52.9%)を上回る。
 国内では来年7月に再生エネルギー全量買い取り制度が導入されるが、中国製太陽光パネルなど海外の安価な製品が大量に流入し、システム価格が低下するのは確実である。研究会は新エネルギー産業の強化策として、1)太陽光、2)風力、3)太陽熱、4)蓄電池、5)FC、6)省エネ住宅・建築物の6分野の産業について、必要な政策課題を提示した。
 環境規制の強化に伴い、米国や英国では洋上風力発電の建設が進んでいる。洋上風力はコストが高く、部材の腐食性なども課題だが、研究会は「我が国における技術の強みを生かし易い」として洋上風力を積極的に進めるべきだと指摘した。蓄電池では太陽光や風力発電の系統に対する負荷を抑えるための"蓄電システム"の開発・実証が必要だと提言している。
 日本の再生可能エネルギー買い取り制度の導入で、20年までに太陽光発電関連だけで44.8万人の雇用を創設できるとの試算がある。研究会は「海外市場での競争力を備えるには、市場の分析・把握力、コスト競争力を戦略的に強化する必要がある」と指摘した。
(日本経済新聞11年9月17日、朝日新聞9月19日、日刊工業、建設通信新聞、化学工業日報9月20日、日刊自動車新聞9月22日)