第181号 北九州水素基地でFCスクーターの実証開始
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方公共団体による施策
3.外国政府関係機関による施策
4.FC要素技術の開発
5.PAFCの事業展開
6.SOFCの開発と事業展開
7.エネファーム事業展開
8.FCV&EV最前線
9.水素ステーション事業
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
 経済産業省は11年度、"エネファーム"導入のための補助金を87億円(前年度比28%増)計上した。1件当たりの上限額は105万円、約8千件の応募を見込んでいる。NEDOが10年に纏めたPEFCをベースとした普及ロードマップによると、国内市場の普及期は15年であり、補助金による後押しは「ここ4,5年が正念場」(縄田課長補佐)と認識している。(電波新聞11年5月18日)

2.地方公共団体による施策
(1)青森県と青森市
 青森県と青森市は"低炭素型モデルタウン事業"の事業者を公募した結果、4月25日までに3グループが提案書を提出したことを明らかにした。同事業は、県と市が土地を所有する広場"青い森セントラルパーク"に新エネルギー実証実験の場として太陽光発電やFC、バイオマス発電などの新エネルギーを取り入れた住宅や商業施設、研究施設などを整備するものである。なお大和ハウスグループを優先交渉権者に決めた。(日刊建設工業新聞11年4月27日、5月12日)

(2)岐阜県
 岐阜県は新エネルギー普及の具体策を推進するため、産官学連携会議の設置を準備している。浜岡原発の停止により電力需給の逼迫が懸念されることを踏まえて、製造業者やサービス業者、一般家庭向けシンポジウムを6〜7月に開く予定で、3月にまとめた次世代エネルギービジョンに、LED照明や高断熱住宅、太陽光発電やFCの導入、エネルギー消費量が分かるスマートメーターを家庭に設置することなど、向こう5年間で推進する取り組みを明記、啓発を強化して対策の前倒しを狙う。(岐阜新聞11年5月10日)

(3)福井県
 福井県と福井大学、県経済団体連合会が共同で整備した産学官共同研究拠点"ふくいグリーンイノベーションセンター"が完成、5月18日に福井大学文京キャンパスで開所式が行われた。この施設は、地元からの提案を受けて科学技術振興機構が福井大学産官学本部施設の2〜6階部分を改修して整備した。低炭素社会やエネルギー源の多角化を実現し地域活性化に結び付ける。具体的には、リチウムイオン電池の材料製造・評価、電池試作・評価、MEMS用めっき処理・分析、FC部材・評価、レーザー微細加工、機能性薄膜製作などを行い、これらに必要な最先端大型計測機器類を備えている。(日刊建設工業、福井新聞11年5月19日、日経産業新聞5月23日)

3.外国政府関係機関による施策
(1)韓国
 韓国のサムソングループは4月27日、朝鮮半島南西部のセマングム(新萬金)干拓地にクリーンエネルギー関連の大規模工業団地を建設することで韓国政府および全羅北道と了解覚書を締結したと発表した。サムソンは約5,740億円を投じて、太陽電池、蓄電システム、FC向けの研究開発施設や工場を建設する。この工業団地はセマングムの新・再生可能エネルギーゾーン11.5km2の土地に建設を予定している。同地は中国の玄関口として成長が期待できる地域である。(電波新聞11年4月29日)

(2)中国
 中国が国家事業として位置付ける環境配慮型の大型工業団地"曹妃甸工業区"について、中国側が重点的に誘致する対象分野を日本の経済界に提示した。それによると、河北省唐山市の臨海部を造成し、太陽光や風力発電所を建設、FCや太陽電池、新エネルギー利用の次世代自動車、水質浄化設備などの製造拠点として整備する考えである。中国は、日本の環境・省エネ関連の技術や製品に着目、2020年までに造成する計画の曹妃甸工業区への日本企業の進出に期待しており、5月11日から4日間の日程で北京を訪問する日本経団連の米倉会長らと中国側要人との会談で、同工業区の開発協力も話題に上がる見通しである。(日刊工業、日刊自動車新聞、化学工業日報11年5月13日)

4.FC要素技術の開発
(1)阪大
 大阪大学の生越教授、大橋助教らはFCの主要部材となるイオン交換膜の樹脂原料を簡単に作る技術を開発した。これはクロスカップリング反応を応用し、1段階の反応で合成する方法である。フッ素を含む工業材料"4フッ化エチレン"に、触媒となるパラジウムやヨウ化リチウム、有機亜鉛化合物を加えると、炭素とフッ素の結合が切れて有機亜鉛化合物の分子が結合し、イオン交換膜の原料となる"トリフルオロスチレン誘導体"ができる。この物質は一般に代替フロンを原料に複数工程を経て作っているが、この新技術によれば、ありふれた工業原料をもとに1段階の反応で作ることができる。フッ素と炭素の結合は非常に強くて切断できないため、クロスカップリングを起こすのが難しいが、研究チームはパラジウムとヨウ化リチウムを加えてこの結合を切る方法を見出し、クロスカップリングを可能にした。有機亜鉛化合物の構造を変えれば、様々な材料の製造に応用できるという。(日経産業新聞11年5月10日)

(2)京大
 ナノテクノロジーで2種類の金属を原子レベルで混ぜ合わせ、排ガス浄化触媒などに使われるレアメタルのパラジウムと同質の合金を作ることに、京都大学の北川教授と九州大学のチームが成功した。新合金は水素を蓄える能力をパラジウムの半分程度持っており、研究が進めば水素を使うFCの材料など、流通量に限りのあるパラジウムの代替金属開発につながる可能性があるという。チームは、パラジウムより陽子の数が1個多い銀と、1個少ないロジウムを同量溶かした水溶液を、180〜200℃に熱したアルコールに少しずつ噴霧して加え、直径10nmの合金粒子を作成した。ロジウムと銀は通常、高温で溶かしても分離するが、チームは均一に混ぜることに成功した。(東京、西日本新聞11年5月22日)

5.PAFCの事業展開
 富士電機は価格を従来機種の半額に抑えた産業用PAFCを開発、病院やビル、工場などに売り込む。東日本大震災や電力不足の影響で自家発電の需要が高まっていることに対応する。出力は100kWで、導入費用は約8,000万円。排熱処理装置などの周辺機器と一体構造にしたことで、小型化と低価格化を実現した。例えば300床の病院では停電が起こっても、緊急手術などに対応できるという。災害によって都市ガス網が途絶えたとしても、備蓄のプロパンガスに燃料を切り替えれば発電を継続できる。同社は4月1日付で同社の新エネルギーシステム部から、FCを扱う専門部隊を分離独立させた。国内外で本格的に販売し、これまで年間数台だった販売実績を20台へ増やす考えである。(日本経済新聞11年4月27日)

6.SOFCの開発と事業展開
 日本触媒は2012年3月期にSOFC向け材料事業を強化し、11年3月期実績比5割増しの約30億円の売り上げを狙う。同社は00年にSOFC材料を事業化し、次世代のコア事業と位置付けその育成を進めている。独自のセラミックス粉体加工技術および焼成技術を活用し、SOFC向け電解質ジルコニアシートと、それに電極を焼き付けたセル事業を展開、10億円を投じて年300万枚の量産設備を確立した。次世代以降の需要予測を元に、早ければ11年末にも数億円を投じ、さらなる生産ラインの増強を予定しており、中期経営計画最終年度の16年3月期には50億円の売り上げ規模まで引き上げる。(日刊工業新聞11年5月9日)

7.エネファーム事業展開
(1)パナホーム
 パナホームは4月26日、東日本大震災の被災地向けに低価格の戸建て住宅を発売すると発表した。間取りの選択性を限定することで原材料費や施工費を抑え、平屋建て(床面積65m2)で1,420万円からに抑えた。これと同時に夏場の電力需要増しを控え、全国で電力不足や節電の対策として太陽光発電システムやエネファームの併売も進める。"W発電キャンペーン"と題し、太陽光発電とエネファームを同時に購入すると、一定額の返金や床暖房の割安購入といった特典が受けられる販売促進キャンペーンを実施する。(日経産業新聞11年4月27日)

(2)トーケン
 トーケン(小松市)は4月29日、同市川辺町でファミリエ川辺宅地分譲フェアを始めた。同市の市営住宅建て替え事業の一環で43区を整備した。土地価格は532万〜800万円で、最多の販売価格は545万円。エネファームや太陽光発電を搭載したモデル住宅も建てる。(11年4月30日)

(3)大阪ガス
 大阪ガスは滋賀県彦根市に総合ショールーム"DILIPA(ディリパ)彦根"をオープンした。館内には家庭用ガスコージェネレーション"エコウイル"、エネファームと太陽光発電を組わせたダブル発電の仕組みなどを紹介するコーナーが設けられている。(電気新聞11年5月11日)

(4)広島ガス
 広島ガスのエネファームの販売が伸びている。東日本大震災で電力不足に関心が集まり、分散型電源へのニーズが高まったと見られる。本年度は5月9日までの1カ月余りの間に13台を成約、大手ハウスメーカーに加え、地域の設計事務所からの引き合いも増えている。本年度の成約目標は110台。(中国新聞11年5月12日)

(5)北陸ガス
 北陸ガス(新潟市)は6月下旬、県産の天然ガスを使用するエネファームを県内で初めて発売する。全国では外国産の液化天然ガスを使用するエネファームが2年前に発売されたが、窒素成分が多い本県産の天然ガスは使用できなかった。東芝が天然ガスにも対応する製品を新たに開発した。FC本体(高さ95cm、幅89cm)と貯湯ユニット(高さ190cm、幅75cm)の2台を屋外に設置する。同社の試算では、年間の光熱費が4人家族の戸建て住宅モデルで約6万6千円安くなり、CO排出量を約1.3トン削減できる。本体価格は税込み357万円、国から最大105万円の購入補助金が支給される。(新潟日報11年5月19日)

8.FCV&EV最前線
(1)テスラ・モーターズ
 アメリカのEVメーカー"テスラ・モーターズ"は5月9日、量産型の新型セダン"モデルS"の日本モデル予約受付を同日から始めたと発表した。トヨタ自動車とGMの合弁会社から買い取った工場で生産し、アメリカでは2012年半ば、日本では13年初めに納車を始める。モデルSは大人5人と子供2人が乗車できる量産型EVで、テスラは年間2万台生産する予定。搭載する電池パックは3タイプあり、1回の充電で走れる航続距離がそれぞれ255km、370km、480kmと異なる。アメリカでの販売価格は57,400ドル(約460万円)からで、日本での価格は未定。(日本経済新聞11年5月10日)

(2)ヤマト運輸
 宅配便大手のヤマト運輸は2012年3月期中に三菱自動車のEV"MINICAB MiEV"を約100台発注することを決めた。宅配便を集配する自動車を環境配慮型に切り替え、環境負荷を下げるのが目的。まず12年開業予定の羽田空港近くの物流拠点などに重点的に 配置し、都市部など全国の営業所に広げる方針。(日本経済新聞11年5月16日)

(3)エコタクシー
 改装されたJR大阪駅に北側に5月23日、EVとHVに乗り入れを限定したタクシー乗り場がオープンした。エコタクシー専用乗り場が開設されたのは全国で初めて。駅ビル"ノースゲートビルデイング"2階にある乗り場は午前7時の開場とともに、大阪市内の街並みイラストが車体に描かれたEVやHVが次々と到着した。6月中旬には、太陽光発電を利用したEV用充電器乗り場近くに設置する予定である。(日本経済新聞11年5月23日)

(4)ホンダ
 ホンダは2015年を目途にFCVを量産する。開発部門の本田技術研究所は「現在のEV並みのコストを目指している」としており、量産によるスケールメリットなどを活かし、第1歩としてコストを500万円以下に引き下げる意向だ。水素供給業者は15年までに全国100カ所程度に供給ステーションを整備する予定である。ホンダはFCV専用のモデル"FCXクラリティ"を栃木県にある生産準備部門で製造し、08年7月からアメリカで、同年11月から日本でリース販売しているが、車両コストは高い。量産車は既存車種との部品共通化やシステムの小型化、白金使用量削減などの技術開発を進めるほか、将来は埼玉県などの量産拠点に生産を移す見通しである。
 なおホンダ、トヨタとも次世代エコカーについては、HV,PHV,EV,FCVなど、顧客の要求に応じて全方位の開発を継続する。 (日刊工業新聞11年5月19日)

9.水素ステーション事業
(1)トヨタ自動車
 トヨタ自動車は5月10日、アメリカ・カリフォルニア州の米国トヨタ自動車販売(TMS)の敷地内において、英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルなどと共同で、FCV用水素ステーションの稼働を始めたと発表した。遠隔地で生成した水素をパイプ経由で安定的に水素を供給する"パイプライン型"。設備はシェルが運用、他メーカーが試験的に展開しているFCVに水素を供給する。同社は15年までにFCVをアメリカで発売する計画である。(日本経済新聞11年5月11日、日刊工業、中日、西日本新聞5月12日、日経産業新聞5月13日)

(2)福岡県、北九州市、新日本製鉄等
 福岡県と新日本製鉄、JX日鉱日石エネルギー、岩谷産業が09年9月に共同で立ち上げた北九州市八幡東区東田の"北九州水素ステーション"で5月17日、スズキのFCスクーター実証開始式が行われた。東田地区では新日本製鉄八幡製鉄所で発生する水素を用いる同ステーションを活用し、パイプラインで水素をFC実証住宅や商業施設に供給、水素エネルギーのモデルタウン構想が進んでいる。このFCスクーターの実証式では、欧州統一型式認証を取得した実証車両"バーグマン フューエルセル スクーター"の技術説明と、走行デモンストレーションが行われた。(日本経済、日経産業、西日本、静岡新聞11年5月18日、日刊自動車新聞5月19日、鉄鋼、中国新聞5月20日、日刊自動車新聞5月21日)

 ――This edition is made up as of May 23, 2011――

・A POSTER COLUMN

触媒にグラフェンを使ったリチウム空気電池
 産業技術総合研究所の周豪慎研究グループ長らは、白金などの貴金属や金属酸化物を含んだ触媒を使わず、炭素材料であるグラフェンのみを正極の触媒材料として使う電池を新たに開発した。リチウムを負極にし、正極での反応材料となる酸素を空気から取り込める"リチウム空気電池"内に、触媒としてグラフェンを組み込んだ。現在のリチウム電池では、正極で反応させる物質の分だけ電池が重くなっている。
 放電時には負極の金属リチウムが溶けだして、リチウムイオンと電子を生成、正極では負極から外部回路を通過して移動してきた電子と、正極内にある酸素と水に反応して水酸化物イオンを生成する。
 開発した電極材料は従来のFCで利用されている白金を20%含む他の炭素材料で作った電極材料と近い性能を示した。更にグラフェンで作った電極は酸化されにくく、開発した電池は50回の充放電を繰り返しても性能がほとんど落ちなかった。グラフェンは鉛筆の芯にも含まれており、炭素原子が蜂の巣のような6角形の構造を持つ。
(日刊工業新聞11年4月27日)

LCCMモデル住宅デモ棟を公開
 建築研究所(村上周三理事長)と日本サステナブル建築協会は4月28日、LCCM(Life Cycle Carbon Minus)住宅デモンストレーション棟完成見学会をつくば市で開いた。建設段階から解体までを含めた30年間で、COの総排出量約97トンから太陽光発電による総発電量(CO換算で102トン相当)を差し引き、約5トン相当のCO発生が抑制(マイナス)できると見込む。
 規模は木造在来工法の2階建て延べ142m2。北側には通風塔、南側の開口部には横にスライドする木製の日射を遮ぎるルーバーなどを設けることで光や風を取り込みやすい仕様となっている。設備は7.98kWの太陽光発電パネル、ヒートポンプ式エアコン、太陽熱集熱器対応型ヒートポンプ給湯器、家庭用FC,LED照明、HEMS(Home Energy Management System)などを導入した。
(建設通信、日刊建設工業新聞11年5月6日)

次期プリウスを家庭で充電できるPHVに
 トヨタ自動車は2014年に出す次期モデルから、主力車"プリウス"を家庭用電源で充電できるPHVに全面的に切り替え、価格を現行モデル並みとし幅広く需要を開拓する。PHVは12年に市販するが、HV車の代表車種であるプリウスへの全面採用により、PHVを次世代エコカーの本命として国内外市場での基礎を固める。
 トヨタグループはスマートグリッドの整備をにらみ、エネルギー自給型の住宅事業も計画しており、太陽光で発電した電気をPHVの蓄電池にため、電力を安定供給や非常用電源として使うことを想定しており、多面的なエコカー戦略を展開する。
 トヨタは15年前後にHVの世界販売を年間約100万台(10年の実績は70万台)に引き上げる計画で、普及台数も500万台規模になるとみている。その約7割がプリウス利用者とみられ、乗換需要もPHVで取り込む考えである。
 次期プリウスは4代目で、高性能リチウムイオン電池を採用する。現行モデルの燃費性能はガソリン1L当たり最高38kmであるが、次期モデルでは電気のみの走行分を含めて60km/L超に引き上げる。コストについては電池の量産効果を追求、高性能モーターなど基幹部品でも一段の原価低減を進めることなどにより、車両価格を最安で205万円前後と現行モデル並みに抑える方針である。
 トヨタやHV,PHVの他EV,FCVなどの開発も進めるが、充電インフラなどの普及を考慮すると、当面はPHVがエコカーの最有力候補になるとみており、プリウスを皮切りにミニバンなど他の車種にも展開していく計画である。
(日本経済新聞11年5月9日)

IPCCが再生可能エネルギーの利用予測を発表
 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は5月9日、2050年には世界のエネルギー需要の最大77%を太陽光や風力などの再生可能エネルギーで賄えるとの分析結果を発表した。温暖化ガスを50年までの40年間にCO換算で最大5,600億トン削減できるとした。14年に公表予定の第5次評価報告書に反映する。
 政策的な支援と研究開発投資の拡大によって再生可能エネルギーの発電コスト低下が見込め、普及が促進されるとした。
(日本経済新聞11年5月10日)