第179号 出力5kW級業務用SOFCシステムの販売
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.FC要素技術の開発
4.SOFCの開発と事業展開
5.エネファームの事業展開
6.FCV&EV等移動体の開発最前線
7.水素ステーション事業
8.水素貯蔵技術の開発
9.DMFCの開発と事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
 11年度予算の成立を前提に、民生用FCシステムの導入支援補助事業が引き続き実施されることになった。補助事業者に決まったFC普及促進協会(FCA)が概要(予定)を発表した。補助対象システムは、規模要件などを満たす民生用FCシステムで、FCAが機器の性能を評価し、対象品名を認定する。システム本体機器の購入費用に加え、設置工事費も補助対象となる。1台当たりの補助金額は、補助対象システム機器費購入費用と従来型給湯器の機器購入費用との差額の1/2および設置工事費の1/2で、上限額は105万円。補助金申し込みの募集開始は4月上旬になる見込み。今回新たに11年度補助金受給者については、国が進める"国内クレジット制度"に参加することが条件となった。国内クレジットは、08年から開始された制度で、大企業等による技術・資金等の提供を通じて行った温室効果ガス排出削減量を認証し、自主行動計画や試行排出量取引スキームの目標達成のために活用できる。(電波新聞11年3月21日)

2.地方自治体による施策
 兵庫県企業庁は、戸建て住宅を中心とした街づくりを進めている潮芦屋のDゾーン(芦屋市)について、今後340区画を分譲する計画である。現在、D2ゾーン(109区画)の事業者を決める指名競争入札の手続き中で、5月10日に入札し、7月に土地を引き渡す。D2ゾーンは先進エコ住宅街とし、太陽光発電と先進エコ設備(家庭用FC、COヒートポンプ給湯器)を備えた住宅とする。住宅工事の着手は12月を予定、2012年3月から分譲を開始する。(建設通信新聞11年3月18日)

3.FC要素技術の開発
 東京理科大学理工学部の郡司准教授は3月10日、環境浄化装置やFCの電極材料などに触媒として使われる白金ナノ微粒子の性能を大幅に高める技術を開発した。白金をnm単位にした微粒子同士がくっついて固まるのを防ぐため、多くは保護剤と呼ばれる物質を加えているが、強い酸性やアルカリ性の環境下では固まり易く、効率が落ちると云う課題がある。新開発の技術では、保護剤に高分子材料の"ポリエチレンイミン"を使用することで、水素イオン指数(pH)が強酸性の−1から強アルカリ性の+15までの間で、微粒子が安定して分散する効果が得られた。微粒子同士が固まらないため、表面積が大きくなり、触媒としての性能が高まる。少量の金属で大きな効果が得られるため、コストダウンや資源の節約につながることが期待できるという。(信濃毎日新聞11年3月11日)

4.SOFCの開発と事業展開
(1)住友精密工業
 住友精密工業は2011年度後半に、他社に先駆けて発電出力5kW級の業務用SOFCシステムの販売に乗り出す。同社はNTTなどと09年に同5kW級において、定格発電効率が46%と業界最高のシステムを開発しているが、10年末から同じ効率で高さ1800mm、幅1500mm、奥行き900mmと、サイズが従来比1/2の小型SOFC実証機による屋外試験を始めており、市販化の目途をつけた。納入先は明らかにしていないが、情報通信関連業者などから2件の受注を獲得しており、11年度後半に納入する。当初の価格は発電出力1kW当たり約300万円の見込みであるが、13年度までに発電モジュールの小型化と周辺機器の簡素化を進め、同約160万円まで抑える。又15年度には家庭用SOFCを手掛けるシステムメーカー向けに、同1kW級のSOFCモジュールのOEM供給を計画しており、それによる量産効果でkW当たり40万円と、ガスエンジン発電機と同等まで低減する予定である。サイズも高さ1500mm、幅950mm、奥行き400mmまで小型化し、環境意識の高い企業や公共施設などに代替を促す。同時に100kW級までの業務用大型SOFCシステムの開発も進め、15年度にSOFC事業で、年100億円規模の売り上げ高を目指す。住友精密は航空エンジン用熱制御システムやオゾン発生装置、半導体製造装置などで培った技術をベースに10年前からSOFCシステムの開発に着手しており、共同開発ではコア部分のセル(発電素子)以外の設計開発を全て手掛けた。(日刊工業新聞11年3月22日)

(2)TOTO
 TOTOは2014年までを目途に家庭用FC分野に参入する。衛生陶器の製造で培ってきたセラミックスの成形・焼成技術などを応用し、SOFCの発電モジュールを開発中で、11年度前半にも茅ヶ崎工場に初期生産ラインを導入し、量産技術の検討を本格化する。SOFCは電池反応の排熱を燃料の改質反応に利用できるので発電効率はPEFCに比べて10ポイント程度上回るのみならず、部品点数がPEFCの1/2〜1/3と少ないので、小型化やコストダウンが可能である。TOTOのモジュール発電効率はほぼ目標値を達成しており、今後耐久性の確認やメンテナンス条件の検討、部材費低減、量産技術の確立などに取り組む計画である。(化学工業日報11年3月23日)

5.エネファームの事業展開
(1)東ガス
 東京ガスはエネファームの2011年度の販売目標を10年度の2倍となる5000台に設定する。4月に発売する新型機のメリットを訴追して普及促進を図る。エネファームはEVやFCVのチャージスポットとしての活用が期待しされており、次世代車のインフラ整備の観点からも今後の普及状況が注目される。他方同製品の本格普及には集合住宅向けの小型機開発が課題であり、同社やエネファームを開発しているパナソニックは、日産自動車などと参加している"横浜スマートシテイープロジェクト"を通じて、集合住宅向けの製品開発システムを構築し、早い段階で製品化したいとしている。又同社は「水素ステーションとの関連では自動車への水素供給だけではコスト的に成り立たなく、同ステーションで発電した余剰電力を周辺住宅へ提供する方法も検討している」という。(日刊自動車新聞11年3月5日)

(2)フタバ産業
 フタバ産業は自動車用マフラー生産の金属加工技術などを生かして、家庭用FC用部品など電機分野の開拓を始めた。FC向けには改質器用の金属部品の開発を行う。1000℃高温にも耐えることが必要で、高度なノウハウを求められるため、車用マフラーの生産で培った技術を転用する。(日経産業新聞11年3月11日)

(3)大ガス
 大阪ガスは3月11日経営計画を発表、11年度は中長期計画の"ブーストアップの年"と位置付けた。具体的にエネファームの販売目標を10年度見込み比58%増の3000台とした他、家庭用太陽光発電の販売目標を同71%増の2400件に設定、家庭向け市場の開拓に力を入れる。(電気、日刊工業新聞11年3月14日)

6.FCV&EV等移動体の開発最前線
(1)日産自動車
 日産自動車はFCVの低コスト化を実現するため、スタック内にある白金の使用量を大幅に削減する。現在の1台のスタックには数十gの白金が使用されているが、同社は2015年に向けてこれを1/10、もしくは10g以下に減らす。FCシステムのコストは、その約3割が白金の素材費であり、白金の使用量削減によって大幅なコストダウンに道筋をつける計画である。しかし白金触媒量を減らすと、触媒に酸素や水素を送り届ける際の抵抗が大きくなり、これが白金の有効利用率を低下させる原因となることが解っている。このため低湿度時での白金有効利用率の向上と白金周辺の材料や構造の改善にも取り組む。又産学協同で材料レベルから触媒全体の機能や構造を見直し、白金使用量が少ない触媒の開発にも取り組む計画である。FCVにはスタック以外にモーター、インバーター、バッテリーなどが使われるが、これらはEVやHVと技術や部品の共通化・共用化が可能で、今後量産効果によるコストダウンが期待できるとしている。(日刊自動車新聞11年3月8日)

(2)メルセデス・ベンツ
 ダイムラーグループのメルセデス・ベンツはEVに搭載するリチウムイオン電池(LiB)を2014年度までに自社製に置き換える方向で動いている。同社が現在明らかにしているEVは3種類で、A-クラスをベースにした"AクラスE-CELL"はテスラ社のLiBを搭載、昨秋から500台生産し、ドイツやフランスなど欧州主要国でリース販売を行っている。又2012年には小型車"スマート"を市販予定で、これもテスラ社製LiB。更に韓国のSKイノベーションが製造するLiBを搭載したスーパーカーの"SLS AMG"のEVバージョンの投入も計画している。(化学工業日報11年3月8日)

(3)杉国工業
 杉国工業(愛知県)はニッセイ(同)と共同で、3月8日FCを搭載した歩行型フォークリフトの試作品を完成させた。小矢部市で来年建設する新工場で実用化に向けた開発を進め、2014年を目途に発売する。最大積載能力は900kg、1回の充填で4時間の走行が可能、価格は200万円以下に抑える。(富山新聞11年3月9日)

(4)スズキ
 スズキは3月9日、FCスクーター"バーグマンFCスクーター"を2012年中欧州でリース販売を、15年には日本を含めて広く販売する方針を明らかにした。同日市販化に向けた欧州統一型式認定(WVTA)を取得したと発表した。イギリスのインテリジェント・エナジー社と共同開発した空冷式の小型高出力なFCを搭載し、加速時にはLiBの電気出力を使うハイブリッド型であり、最高で63km/h、1回の水素充填で最大350kmの走行が可能である。市販価格は8千ユーロ(約92万円)以下を目指す。同社は昨年からイギリス政府機関が主催するFC車の実証実験に参加している。(読売、朝日、毎日、日本経済、産経、日経産業、日刊工業、日刊自動車、東京、中日、静岡新聞、フジサンケイビジネスアイ11年3月10日)

7.水素ステーション事業
 ホンダは埼玉県内で、家庭向け水素製造装置の実証実験を開始する。太陽光発電で得た電力を水素製造に使う家庭向け水素製造装置"ソーラー水素ステーション(SHS)"を、急速充電が可能な公共の水素ステーションと組み合わせることにより、FCVの利便性向上を図る。同社は2000年頃から小規模水素供給システムの開発に着手、水素電解装置とコンプレッサーを組み合わせた第1世代(SHS-1)から、両機能を統合してエネルギー効率を高めた第2世代(SHS-2)へ進化させた。アメリカにおけるSHS-2の実証実験では、1年間に130kgの水素を製造しており、これはFCVが1日当たり約50km走行できる距離だという。ホンダは家庭でも水素の補給を可能にするSHSが全国的な水素ステーション網の構築に貢献すると考えており、更なる効率化やコスト低減など水素ステーションの実用化に向けた技術課題を見極めていく。(日刊自動車新聞11年3月7日)

8.水素貯蔵技術の開発
 アメリカ・ロスアラモス国立研究所などは、FCV向け水素貯蔵材料として注目されるアンモニアボラン(AB)について、水素ガス放出後の使用済み材料をABに再生する化学プロセスを確立した。毒性が高い一方でロケットや人工衛星などの燃料に使われるヒドラジンを還元剤に使い、温和な反応条件の下、高い割合でABの再生に成功した。ABは水素化ホウ素(モノボラン)とアンモニアが結びついた化合物である。常温では安定した白色の固体で、重量比で19.6%の水素を貯蔵し、温度を上げると水素を放出する。今回のプロセスでは、ABが水素放出後にできるボラジンの重合体(ポリボラジン)に、液体アンモニアとヒドラジンを加えると、圧力容器中において40℃で反能、約24時間でモノボラン化合物のうち92%をABにすることができた。更に重合体とヒドラジンからはABとともに窒素が作られ、この窒素をアンモニアとヒドラジンの製造に使える。将来FCVなどから回収した使用済みABの再生工場では、ヒドラジン製造設備の併設が想定されるという。ただ、実用化に向けては、現在世界全体でヒドラジンの生産能力が年間20万トン程度に限られているため、アンモニアと次亜塩素酸ナトリウムからヒドラジンを作るオーリン・ラシッヒ法に替わる新たな量産手法が必要になるとしている。(日刊工業新聞11年3月25日)

9.DMFCの開発と事業展開
(1)フジクラ
 フジクラは小型DMFCを2012年にも量産する。大手スマートフォンメーカー向けに補助電源としてOEM供給する見込み。出力2Wでスマートフォンなら2時間程度でフル充電できる。又パナソニックは11年度から屋外での利用を想定した出力100W型FCの実証試験を始める。(日刊工業新聞11年3月8日)

(2)東洋紡
 東洋紡はDMFCを使った緊急・災害対応ソリューション"プロトンキューブシステム"を試作した。純水製造装置や感染症検査装置などを組み合わせることで、非常時に被災者の安全や生活インフラ確保に役立てる。燃料消費率は1.2L/kW、定格出力は400W、照明や通信機器などに活用できる汎用のAC100Vコンセントを前面に複数備える。その電源を使い、小形逆浸透(RO)純水製造装置や限外ろ過(UF)膜浄水装置を運転、河川や湖、沼の水から50m3/日の飲料水を製造できる。又感染症の検査にも使用する小型自動分析装置や迅速に結核菌などを検査できる全自動遺伝子解析装置と接続して衛生状態の確保にも役立てることができる。自治体に提案し、早ければ2011年度にも実証試験に乗り出す。同社は従来からDMFC向け高分子電解質膜の開発を展開しており、この事業でFC市場の拡大と自社部材の拡販につなげる。(日刊工業新聞11年3月11日)

 ――This edition is made up as of March 25, 2011――

・A POSTER COLUMN

EVの部品数を大幅削減する基幹システムの開発と販売
 軸受け大手のNTNは次世代EVの基幹システムを販売する。車輪内部のモータで直接タイヤを動かす駆動装置や、ハンドル操作に応じてタイヤの角度などを電気信号で制御する装置を開発し、完成車メーカー向けに売り込む。従来のEVに比べて部品点数が大幅に減り、軽量化が可能になる。ガソリン車で主力製品である軸受けの需要減に備え、次世代EV向け市場の先取りを目指す。
 同社は新システムを搭載した試作車を3月18日に発表し、受注活動を始める。新システムでは最高時速150km/hが可能で、30万kmの走行耐久性があるとしている。既に大手を含む複数の企業が関心を示しているという。水没時の耐久性や走行時の安定性について実証試験をしている磐田製作所(静岡県)で生産するとみられる。なお価格については今後詰める。
 新システムにより、車軸やギアなど動力を伝える大型部品の他、ハンドルとタイヤを繋ぐシャフトなどの大型部品が不要になるので、ガソリン車のみならず、モータを車両の中核に置く現行EVと比べても部品数が減る。NTNの試算では、現行EVに比べて駆動装置部分で約20%、車両全体で数%の軽量化ができるので、EVで課題になっている走行距離の向上と省スペース化にも寄与する。又中小企業やベンチャー企業でも容易にEVを組み立てられるようになる。他方大手自動車メーカーに販売向けには、部品ごとの納入も検討する。なお同社自身は完成車の製造は手掛けない。
(日本経済新聞11年3月11日)

東洋紡が3種類の部材とシステムでFC事業を展開
 東洋紡はPEFC用高温無加湿膜、DMFC用高分子電解質膜、ガス拡散層(GDL)などFC構成部材を相次ぎ開発、これを材料にFC分野の事業で攻勢をかける。同社は繊維やフィルムなど既存事業で培ったポリマー重合、製膜加工、分析技術を応用し、約10年前からFC用部材の研究開発に取り組んでいる。
 PEFC用電解質膜は湿潤状態でのみイオン導電性を発揮するため膜への水分供給が必要であり、無加湿膜の実用化が課題となっていた。同社の無加湿膜は膜寸法安定性や耐久性に優れる新規ポリベンズイミダゾール(PBI)膜を採用しており、150℃の高温で無加湿運転が可能という。
 DMFC用の炭化水素系高分子膜は、電圧低下や出力低下の原因となるフラッデイングが起こりにくく、高電流密度でも発電が可能である。メタノール水溶液中で高い寸法安定性を発揮、8000時間の連続発電耐久性を実現している。
 GDLについては、同社の活性炭素繊維"Kフィルター"を応用して開発したものであり、低コストで高い保湿性と通気性を兼ね備えているのが特徴である。
 同社では、これらの電解質膜やGDLに加えて、グループ会社のクレハエラストマー(大阪市)が手掛けるガスケットを組み合わせたシステム展開も視野に入れており、成長が期待できるFC分野での事業育成につなげる考えで、FCメーカーなどを対象にサンプルワークを開始している。
(化学工業日報11年3月18日)

1回の充電で走行距離300kmを超えるEV
 慶応大学発のEVベンチャー、シムドライブ(川崎市)は3月29日、EVの試作第1号車を発表した。日本の走行測定方式"JC80モード"で、1回の充電で333km走ることができる。ガソリン方式に換算すると、70km/L(gasoline)に相当、極めて高いエネルギー効率になる。
 開発した試作車"SIM-LEI"は車輪に直接モータを組込んだ"インホイールモーター"を採用し、定員は4人。東芝のリチウムイオン電池を搭載し、容量は24.9kWhと市販のEV用電池とほぼ同程度としている。停止状態から100km/hまでの到達時間は4.8秒と高級スポーツカー並みの性能と云う。
 SIM-LEIの開発には三菱自動車やいすゞ自動車など34社が参画している。同車の開発に参加する企業を通じて2013年の量産化を目指す。
(日本経済新聞11年3月30日)

車体で発電できる印刷可能な太陽電池の開発
 三菱化学は2012年夏を目途に印刷できる次世代太陽電池を商品化する。重さは現在主流の太陽電池に比べて1/10、シート状にして折り曲げることも可能である。自動車に印刷すれば車体が太陽電池になるほか、発電する屋根や外壁、ロールカーテンなども実現できる。今後、自動車メーカーなどと共同開発する。
 次世代太陽電池は原料に炭素や窒素を使う有機薄膜太陽電池と呼ばれ、厚さは数100nm、インクジェット方式で曲面にも印刷できる。東京大学との共同研究で光を電気に変える変換効率が9.2%となり、この方式の電池では世界最高水準を達成した。15年には現在主流のシリコン系太陽電池並みの15%まで高める予定である。又同電池は炭素など安価な材料を使うため、シリコンを原料とする現在の太陽電池に比べ製造コストが将来1/10になると見られている。自動車ではEVやPHVの蓄電池を充電する用途を想定している。車体に印刷すれば晴天時に2時間で10km走行できる電力を充電できるという。
 三菱化学は国内工場で年3〜5MW分の生産を始める。EVに出力500Wの太陽電池を印刷すると6000〜1万台分に相当する。2015年には年30MW規模の量産を目指す。
(日本経済新聞11年4月3日)