第178号 家庭用SOFCが今秋にも商品化の予定
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方公共機関による施策
3.FC要素技術の研究
4.PAFCの事業展開
5.SOFC実証と事業展開
6.エコハウスとエネファーム事業
7.FCV&EV等移動体最前線
8.水素ステーションの建設と運用
9.水素生成精製技術の開発
10.水素貯蔵技術の開発
11.マイクロFCの開発と事業化
12.FC・水素関連計測・観測技術の開発
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)経産省
 経済産業省・資源エネルギー庁の11年度エネルギー関連予算案で、エネルギー対策特別会計は、10年度当初予算比6.0%増しの7356億円となった。産業・民生部門の省エネ設備導入支援に同29.3%増の578億円、EVやPHV補助事業に同約2倍の291億円を充てるなど低炭素型エネルギー需要構造と経済成長の両立に力点を置いた予算案とした。スマートグリッドの構築に向けた取り組みとして、通信を用い、太陽光発電のきめ細かな出力抑制を行う実証に新規で8億円、大型蓄電池などの開発に新規で20億円を振り向けた。(電気新聞11年2月1日)
 経済産業省は11年度から、技術の国際標準化活動を支援する予算を、スマートグリッド、次世代自動車などに重点配分する方針を決めた。企業や業界団体がISOやIECに提案する規格案の策定費用を国が負担する事業で、これら重点分野の採用案件を増やす。一方で全体の採用案件を絞り込み、1件当たりの配分額を多くする。従来は国の負担が500万円程度の案件が多かったが、11年度から1000万〜2000万程度の案件が増える見込みである。(日刊工業新聞11年2月1日)
 経済産業省は経済成長を担う重要産業の中から、技術の国際標準化作業で日本が主導して取り組むべきテーマを選定した。LED照明、超音波を使うがん治療装置、FCなどの安全性や性能評価方法など13テーマを決めた。政府として重要分野を決め、国際競争力をつける手段として取り組む姿勢を明確にする。(日刊工業新聞11年2月7日)
 経済産業省は、FCV用高純度水素供給体制の構築に向けた支援を、COと水素を分離する膜、水素精製用分離膜をそれぞれモジュール化したハイブリッド分離膜型水素精製装置の開発に集中する。CO分離膜には新たに開発した耐熱性の高いイオン液体を用いている。試作機では、純度99%以上の高純度水素が80%以上の高効率で得られ、200℃以上の高温条件でも使用可能なことが確認されており、これまで幅広い技術を対象にしてきたが、早期の実現が見込めるものに対象を絞った。(化学工業日報11年2月10日)

(2)NEDO
 NEDOは2015年のFCV一般ユーザー向け普及開始に向け、実使用に近い条件でFCV・水素供給インフラの技術・社会実証研究を始める。実証研究を通じ、15年の普及開始段階には、水素ステーションについては70MPaで4億円、35MPaで3億円となるような技術レベルに適合できるようにする。水素供給コストも0℃、1気圧の標準状態換算で90円/Nm3を目指す。実証研究事業の11年度事業規模は、全体で約13億4000万円、この中技術・社会実証研究が約12億円(NEDOの負担は2/3)、地域実証研究(No.177参照)では1件当たり2000万円を予定している。(建設通信新聞11年2月8日)
 NEDOは産業、家庭、業務、運輸の各部門で省エネルギー技術の重点分野を記載した"省エネルギー技術戦略2011"をまとめ、2月24日から意見公募を開始した。家庭・業務部門では、ZEBや定置式FCな4項目が挙げられている。(電気新聞11年2月25日、化学工業日報2月28日)

2.地方公共機関による施策
(1)佐賀県
 佐賀県は2月1日、FCV1台を公用車にリース契約で導入した。リース代は月額84万円で、半額は国の補助金を活用する。車種はトヨタの"FCHV-adv"。同県は木質バイオマスプラントで製造した水素を、可搬式ステーションで供給するモデル事業を進めているが、現在鳥栖にステーションを建設中で、3月までに稼働する予定である。(日刊工業、佐賀新聞11年2月2日、日刊工業新聞2月23日)

(2)山梨県
 2011年度政府予算案について、山梨県は2月9日、国に要望した事項の反映状況をまとめた。山梨大FCナノ材料研究センターの研究費となる事業予算が前年度比24.7%減となり、県は「研究への影響が懸念される」としている。予算案で、NEDO委託費を含む"PEFC実用化推進技術開発事業"に計上されたのは38億4100万円。10年度当初予算から12億5900万円減額された。(山梨日日新聞11年2月9日)

3.FC要素技術の研究
(1)岡山大
 岡山大学自然科学研究科の狩野講師らの研究グループは、独自に合成した鉛を含む酸化物が、金や白金などの貴金属のように表面が酸化しない性質を持つことを突き止めた。白金触媒の代替材料として期待される。狩野講師は誘電体の研究において、有力候補として鉛とチタン、ストロンチウム、酸素を含む物質を合成したところ、表面などに4nmの微小な鉛が浮き出て、空気に触れても酸化せず、白金と同じ役割を担えることが分かった。現在詳しい物性の解明に取り組んでおり、今回の合成物が転用できればPEFCの価格を数分の1程度に安価に生産できるし、更に合成物表面にエタノールを噴霧すると水素が発生するので、水素供給装置にも応用可能であると話している。(山陽新聞11年2月18日)

(2)京大
 京都大学の北川教授や大坪研究員らは、カーボンナノチューブをフラスコで簡単に合成する技術を開発した。低温で造れ、壊れにくく、そして大きさや性質の細かな制御も可能である。新技術は部品を組み上げるような方式で合成した。フラスコに白金イオンと2種類の有機化合物を入れ、一辺が約1.1nmの四角形の枠を作った。これにヨウ素を加えると、四角柱の単層型ナノチューブになった。ガスセンサーやFC、電子部品などへの応用を目指す。(日本経済、日経産業新聞11年2月28日)

(3)アリオスと北大
 アリオス(東京都)は、北海道大学の米沢教授と共同で、白金触媒の高速生成技術を確立した。水中プラズマを用い、生成速度を5g/hと従来法に比べ50倍に高めた。粒経2nmの白金ナノ粒子をカーボン粒子表面に付着させる。水と金属、カーボン粒子のみで触媒を生成できるため不純物が発生せず、還元剤を取り除く必要もない。触媒製造では電極先端でプラズマを発生させ、電極の金属原子を弾き飛ばして金属ナノ粒子を生成する。小さいエネルギーでプラズマを作れるため、マイクロ波の周波数2.45GHz、1.5kWと電子レンジと同等の電源で製造装置を作れ、又粒経の揃った金属ナノ粒子が得られる。2014年に事業化する方針。FC向けや化学産業向けに提案する。(日刊工業新聞11年3月1日)

(4)日本精線と大同特殊鋼
 日本精線と大同特殊鋼は700℃の高温領域で熱膨張を低減するニッケル基超合金製のファスナー用鋼線"INS680X"を開発した。高温領域での熱膨張係数を、オーステナイト系ステンレス鋼(SUS310S)に比べて約30%低減する。FCの反応セルに使う締結用ボルトなどに採用を働きかける。価格は同成分のニッケル合金と同程度。(日刊工業、鉄鋼新聞11年3月3日)

(5)東洋紡
 東洋紡は、メタノール透過を抑えられるDMFC用と、ガスバリア性の高いPEFC用の高分子電解質膜2種類を開発した。DMFC用はロールタイプでサンプル出荷を進めており、早期の実用化を目指す。エンジニアリングプラステイック近い独自開発のポリマーを用いることで、フッ素系に比べてメタノール透過を抑えられる。一定条件下で8000時間の連続耐久性を確認した。PEFC用は炭化水素系の電解質膜で、一般のフッ素系膜と比べてバリアー性が2倍程度高いという。量産の時期などは未定。(日刊工業新聞11年3月4日)

4.PAFCの事業展開
 富士電機システムズは2月1日、"北九州水素タウンプロジェクト"内で、純水素型100kWPAFCの実証実験を開始したと発表した。同社がPAFCを供給、岩谷産業が運用を担当、公共施設に電気と熱を供給する。地区内の製鉄所から発生する水素を利用するのでCOの発生はない。発電効率は48%、総合熱効率は90℃の高温水回収時で79%、60℃の中温水回収時で99%に達する。(電気新聞11年2月3日、日経産業新聞2月10日)

5.SOFC実証と事業展開
(1)大阪ガスと積水ハウス
 大阪ガスは積水ハウスと共同で、スマートエネルギーハウスの居住実験を2月から開始した。実験は14年3月までの3年間、実験住宅はSOFC、太陽電池、リチウムイオン電池の採用に加えてEV充電設備、LED照明などの省エネ設備を備え、3電池の最適制御、家電機器や給湯設備などの管理・制御、エネルギーの見える化と省エネアドバイスをHEMS(Home Energy Management System)で行う。居住実験では省エネ効果と快適性を検証する。(毎日、産経、日経産業、日刊工業新聞11年2月2日、電気新聞、化学工業日報2月3日、電波新聞11年2月4日、住宅新報2月8日、読売新聞2月21日)

(2)JX日鉱日石エネルギー
 JX日鉱日石エネルギーは10月を目途に、家庭用SOFCを発売する。発電部品は京セラから調達し、最終組み立ては外部委託する。発電出力は700W、発電効率は45%、燃料はLPGと都市ガスの両タイプを設ける。購入者の費用負担は、現行タイプでは補助金込みで200万円弱であるが、新製品は120〜150万円になるみ込みで、11年度は1000台の販売を目指す。他方、現行タイプ(PEFC)も4月から製造コストの見直しなどで270〜280万円に下げ、東京ガスとパナソニックの新製品と同程度にする。(日本経済新聞11年2月21日、電気新聞2月22日、朝日、日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報2月25日、読売新聞2月28日)
 3月6日に岐阜県群上市でオープンする次世代エネルギーインフラ構想"中山間地モデル"でJX日鉱日石エネルギーが設計した環境対応マルチエネルギーシステム"が採用された。太陽光発電(2.4kW)、リチウムイオン電池(9.7kWh)、SOFC(0.7kW)の他、出力0.5kWの小水力発電を設置、自足型エネルギー供給システムの構築を目指す。又HEMSによりエネルギーを見える化を実現した。(電気、日刊工業、建設通信新聞11年2月24日、日経産業新聞3月4日)

(3)ダイニチ工業
 ダイニチ工業(新潟市)は2月24日、JX日鉱日石エネルギーが10月に発売するSOFC"エネファーム"の製造を受託すると発表した。本社に隣接する空き工場の土地約6600m2と建屋(延べ床面積約2600m2)を3月末までに取得し、新ラインを設ける。発電ユニットの大きさは高さ90cm、幅56.3cm、奥行き30.2cmで、世界最小、従来機より容積比で46%小型化し、貯湯ユニットも36%小さくした。(新潟日報11年2月25日、電波新聞2月28日)

(4)日本触媒
 日本触媒が生産するジルコニアシートが、アメリカ・ベンチャー企業のSOFC電解質に使われるなど需要が増大し、年明けには生産能力の増強に目途をつけた。製品は厚さ200〜300μm、寸法精度は0.1%程度である。同社が新製品開発を始めたのは1980年代の中頃で、製品化は2000年、スイスのスルザ―・ヘキシス社が開発した1kWのSOFCに作用された。(日経産業新聞11年2月21日)

(5)NTT
 NTTは東邦ガスや住友精密工業と共同で、発電出力5kW級のSOFCシステムを開発した。定格発電効率44%を実現、1000時間の運転でも発電性能が低下しないことを確認した。3社は09年に発電モジュールを開発したが、今回は高温下での絶縁性向上などでモジュールの発電性能を高めるとともに、周辺機器などに消費電力の小さいものを採用、高効率インバーターを組み合わせて実用可能な水準の性能を実現した。又燃料制御装置は圧力損失を抑える配管設計にして、モジュールに燃料や空気を安定供給できるようにした。今後の運転試験では、平板型セルの間隔を6mmから4mmに狭めてシステムの大きさを半分程度に小型化したものを使い、20年を目途に発電出力を数十kWに高め、NTTグループの通信施設やデーターセンター電源として利用する。(日刊工業新聞11年2月22日)

6.エコハウスとエネファーム事業
(1)工藤建設
 工藤建設(横浜市)は1月22日、EV"日産リーフ"を標準装備した環境配慮型分譲住宅"EVハウス"の販売を開始した。今回1期の分譲棟数は5棟で、6月頃には2期10棟の分譲開始を予定している。建設地は横浜市都築区早渕で2階建て延べ113m2。このEVハウスは高気密高断熱のRC構造を採用、4.48kWの太陽光発電とエネファームを装備、太陽光で発電した電力を売電し、自家消費分の電力をエネファームで賄うことでEVの充電コストを含め、実質コスト0を実現する。(建設通信新聞11年1月25日、産経新聞2月26日)

(2)JR東日本
 JR東日本は様々な環境保全技術(エコメニュー)を導入する取り組み"エコステ"を開始する。モデル駅の第1弾となる四ツ谷駅では、LED照明の導入、空調設備の高効率化、高効率変圧器の取り換え、昼間の電灯消灯等を行う他、駅業務施設へ家庭用FCを導入、又赤坂口の駅舎屋上に50kW太陽光発電を設置する。(毎日、建設通信新聞11年2月9日)

(3)東京ガスとパナソニック
 東京ガスは4月にPEFCでパナソニックが製造するエネファームの新型機を発売すると発表した。現行機から価格を約70万円下げて、補助金を含めた消費者の実質負担を100万円台前半(現行機は200万円弱)にまで抑える。メーカーの希望小売価格は276万1500円、東ガス、東邦ガス、西部ガス、静岡ガス、京葉ガス、大ガスを通じて4月1日に一斉発売する。新型機(定格750W)は発電効率も向上(発電効率40%LHV)しており、更に貯湯、FCユニットの一体化によって装置を小型化、設置面積を1/2となる2m2とし、耐久時間も5万時間と長期化を図った。本格的な普及には一層のコスト低減が不可欠で、普及ラインは実質負担で100万円と見られているが、東ガスはその達成時期を13年度に設定しており、今回の値下げで普及価格の実現に弾みを付ける。東ガスは11年度5千台のエネファームを販売する方針である。(日刊工業新聞11年1月26日、読売、朝日、産経、日本経済、電気、電波、日経産業、日刊工業、東京新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報2月10日)

(4)東邦ガス
 東邦ガスは2月9日、パナソニックが開発したエネファームの新モデルを4月から発売すると発表した。本体価格は298万円で、国の購入補助金を使えば200万円を下回る。(中日新聞11年2月10日)

(5)西部ガス
 西部ガスはエネファームの新モデルを4月から発売、11年度の販売目標を400台程度とする方針を明らかにした。九州電力のオール電化攻勢に対抗し、一般家庭向け営業を強化する。九電のエコキュート販売実績は10年末時点で累計28万5千台に達している。(西日本新聞11年2月10日)

(6)パナソニック
 パナソニックは2月9日、家庭用FCを15年までに海外で販売する方針を明らかにした。先ず、天然ガスが安く入手できる西欧やアメリカで販売を始め、将来は電力事情の悪い新興国向けの展開も目指す。(毎日新聞11年2月10日)

(7)静岡ガス
 静岡ガスが計画した次世代・低炭素型分譲地"エコライフスクエア三島きよずみ"が三島市清住町に完成した。22戸に太陽光発電とエネファームを併設し、その内1戸には蓄電池も設置した。(静岡新聞11年2月24日、住宅新報3月1日)

(8)北ガス
 北海道ガスは2月25日、都市ガス仕様エネファームを8月に発売すると発表した。氷点下15℃でも稼働する性能をセールスポイントに2年間で150台の販売を計画している。北ガスは05年からパナソニックと共同で寒冷地向けFCの開発に取り組み、厚い断熱材や高性能ヒーターなどを使って―15℃までの稼働を可能にした。(北海道新聞2月26日、電気新聞2月28日、建設通信新聞3月1日)

7.FCV&EV等移動体最前線
(1)ダイムラー
 ダイムラー社のFCV "Bクラス・Fセル" 3台が、1月30日に125日間に及ぶ世界一周の旅に出発する。シュツットガルトの本社を出発し、アメリカ、オーストラリア、中国、ロシアなど14カ国、3万kmを走破、創業125周年を記念して出発点に帰還する予定である。記念イベントに出席した同社デイーター・ツエッチェ社長はEVやFCVの開発で主導権を取っていく姿勢を示した。(東京新聞11年1月31日、日刊自動車新聞2月1日、日経産業新聞2月7日)

(2)起亜自動車
 韓国の現代・起亜自動車は2月1日、北欧4カ国とFCV実証モデル事業を実施すると発表した。ノルウエー、スウエーデン、デンマーク、アイスランドが推進する"水素ハイウエーパートナーシップ"に参画するもの。起亜自動車は同社技術の世界展開に向けた足がかりとする。(電気新聞11年2月3日)

(3)ニッセイと杉国工業
 ニッセイは杉国工業と共同でPEFC(出力300W)と鉛蓄電池を搭載した歩行型フォークリフト(FCV-4FW915V)を開発した。最大積載能力は900kgで杉国の従来型バッテリー式リフトと同程度の能力を確保した。1回の充電で4時間走行する。2014年度を目途に杉国が発売する。価格は200万円以下に抑える計画。(日刊工業新聞11年3月2日)

(4)トヨタ
 トヨタ自動車は2020年を目途に、FCVの販売価格を200万円台前半まで低減する目標を設定した。トヨタは10年11月、セダン型のFCVを15年度に日米欧の各市場に投入する計画を発表、更に15年に向けて500万円程度の価格を実現する考えを示していた。(日刊自動車新聞11年3月2日)

(5)フジクラ
 フジクラは3月2日、ボーイング社と共同で航空機向けDMFCを開発すると発表した。電源システムの軽量化やCO排出削減を目指す。2012年3月までに出力1kWの試作品を作り、15年には同10kW程度の製品で実用化を目指す。機内に複数個設置し、補助電力装置を補う電源などとして利用する計画。又排熱を利用して温水を供給するシステムも併せて研究する。(日経産業、日刊工業、鉄鋼新聞11年3月3日)

8.水素ステーションの建設と運用
(1)出光興産
 出光興産は成田国際空港内で水素供給拠点の運用を始めた。水素・供給利用技術研究組合(HySUT)が経産省から受託する"水素ハイウエイプロジェクト"の一環。FCVハイヤーに水素を供給する。(日経産業新聞11年2月28日、化学工業日報3月2日)

(2)HySUTと富士通
 HySUTと富士通は共同で、水素ハイウエイプロジェクトの一環として、首都圏3カ所に実験用の水素ステーションを構築した。富士通はHySUTと共同で、水素ステーションの稼働や水素在庫の状況、FCVの走行情報などを一元管理する"水素ステーション集中管理システム"を開発しており、同社はハード・ソフトからネットワークサービス、運用保守まで一括して提供する。HySUTは実証データをもとに、安定した水素供給の在り方や将来ビジネスモデルを検証する。(電気、日刊工業新聞、化学工業日報11年3月1日)

9.水素生成精製技術の開発
 工学院大学の雑賀教授らの研究グループは、なた豆に含まれる酵素"ウレアーゼ"を使って尿素からアンモニアを効率的に取り出すことに成功した。ウレアーゼは尿素を加水分解する酵素で、アンモニアとCOを発生させる。10%の尿素を含む水溶液100gを40℃で加水分解したところ、約5時間後に体積濃度で1.8%のアンモニアが得られた。又42℃にすると酵素活性がなくなることも分かった。取り出したアンモニアから水素を回収し、FCのエネルギー源として使うシステムを構想している。(日刊工業新聞11年2月28日)

10.水素貯蔵技術の開発
 長岡技術科学大学と産業機械メーカーのヒューズ・テクノネット(東京都)は、新潟県産のもみ殻を使った高機能活性炭を開発した。COや水素の吸着力が高いのが特徴。活性炭は表面積が広いほどCOや水素の吸着力が高い。長岡技科大などの研究グループは、もみ殻を燃やして活性炭を作成、表面を覆うガラス質のシリカ(SiO2)層をアルカリ液で溶かし、炭の内部にある直径1.1nmの超微細な穴を大量に露出させることで表面積を広げることに成功した。通常の活性炭の表面積は1000m2/g程度であるが、開発した活性炭は2.5倍の2500m2/g近くになる。原理的には活性炭1g当たりCOを1g吸着できる。水素吸着剤としてFCVへの応用も目指す。(日本経済新聞11年2月3日、読売新聞2月13日)

11.マイクロFCの開発と事業化
(1)アクアフェアリー
 アクアフェアリー(京都市)は4月、3W級モバイル機器充電用小型FC"AF-M3000"の販売を開始する。手のひらサイズで水と水素発生剤を用いたフルパッシブタイプ、消費電力の大きいスマートフォンを対象に、軽量で持ち運びに最適な補助電源として訴求する。本体重量は128g、燃料カートリッジ重量が17g、最大出力は2.5W以上、実用稼働時間は90分、本体価格は税抜きで2万5000円、カートリッジは5個入りで同2500円である。同社は「FC製品事業を共同で進めるパートナーを見つけたい」としている。(化学工業日報11年2月21日、日本経済新聞2月23日、日刊工業新聞3月3日)

(2)アテクト
 樹脂製品製造のアテクトは小型FCに参入する。独自の成型技術を活用し、FCの基幹部品であるセパレーターの小型・薄型化に成功、従来のカーボン製セパレーターは5mm程度の厚みだったが、新製品は1〜2mmにできるという。このセパレーターを搭載したFCを2012年を目途に商品化する。(日経産業新聞11年3月2日)

12.FC・水素関連計測・観測技術の開発
 四国総合研究所(高松市)は、水素ガス濃度遠隔計測装置の市場展開を始める。レーザー光を利用し、遠隔地点から水素ガスの濃度と距離を計測する装置であり、装置を持った作業員が爆発の危険がある漏洩個所に近づく必要がない。FCVに水素ガスを補給する水素シテ―ションや石油化学プラントなどにおける水素漏洩監視機としての需要を見込んでいる。(化学工業日報11年3月2日)

 ――This edition is made up as of March 4, 2011――

・A POSTER COLUMN

太陽電池の出荷、2年続き倍増
 太陽光発電協会が2月16日に発表した太陽電池の出荷統計によると、2010年の国内出荷は発電能力ベースで99万1920kWと2年連続で前年比倍増となった。政府の補助政策などが寄与し住宅用市場が拡大した。学校に大規模な太陽光発電装置の導入を促進する政策で、公共・産業用も急増した。市場規模はドイツに次いで、アメリカなどと並ぶ2位の水準に達した模様。
 住宅用出荷は前年比87.3%増の80万3470kW。09年11月に始まった太陽光発電の余剰電力を割高な単価で買い取る制度が年間を通して寄与するとともに、太陽電池の価格も09年は62万円/kW程度であったのが10年には50万円/kW台後半にまで低下、個人の購買意欲も高く、国内市場の約8割を住宅用が占めた。公共・産業用は前年比3.6倍の18万4077kWに急増、学校のほか工場などにも太陽電池を設置するケースが増えている。
 輸出は前年比1.6倍の144万5106kW。欧州では駆け込み需要があり、オバマ政権が積極的な環境政策をとったアメリカ向け販売も1.5倍と堅調であった。国内出荷に占める海外メーカーのシェアは12.7%と09年比で1.8ポイント上昇した。
(日本経済新聞11年2月16日)

トヨタがEV用家庭用充電器を販売
 トヨタ自動車は2012年からEVなどの家庭用充電器の販売に乗り出す。EVとPHVの販売に合わせ、グループの住宅事業を通じて全国的な販売体制を築く。日産自動車やマンション大手、ガソリンスタンドなども充電器の整備に着手しているが、トヨタは太陽光発電などでエネルギーを自給できる住宅の販売も計画し、エコカーを軸に車と住宅事業の相乗効果を追求する。EV用充電器はトヨタホームと豊田自動織機が共同開発、トヨタホームと資本提携先のミサワホームが販売する。
 EV関連では政府が20年までに全国に普通充電器200万基、急速充電器5000基を設置する計画を掲げる。トヨタが本格整備に動くことで次世代エコカーの普及と充電インフラの整備が加速しそうである。
(日本経済新聞11年2月20日)

車載電池を家庭で再利用
 旭化成は日産自動車、オムロンと住宅用の低価格蓄電システムを共同開発する。EVの普及に伴い、今後大量発生が予想される使用済みリチウムイオン電池を再利用し、料金の安い夜間電力を蓄える。家庭用太陽光発電システムで発電した電力を蓄える利用法も想定しており、EVとスマートグリッドの普及を促す仕組みの整備に弾みがついてきた。
 日産は10年末にEV"リーフ"を発売。15年頃から搭載するリチウムイオン電池の交換が始まる。EV用電池は急な充電や放電を繰り返すため、寿命は5〜10年程度と云われ、早めの交換が必要になる。このため、負荷が少ない住宅への再利用が検討されている。住宅用は車で使用した後も20年程度利用できるという。
(日本経済新聞11年3月1日)

リチウムイオン電池の価格低下と新型蓄電池の開発
 日立製作所はEVなど向けリチウムイオン電池のセル当たりコストについて2年後を目途に1/3以下に引き下げる。同時に容量を現在の3倍以上とすることにより、会わせて10倍以上の価格性能比を実現することを目指す。
 総投資額は50億円で、リチウムイオン電池の基幹部材である電極材料の組成や形状、セル構造や製造工程などを1から見直した。日立研究所、日立マクセル、日立ビークルエナジー、新神戸電機などの日立グループを挙げて開発を始めた。2012年末に技術を確立し、13年には製品化と量産に目途を付けたいとしている。
 住友電気工業は安価なナトリウムのイオンを使う新型の蓄電池を開発した。リチウムイオン電池より価格が約1/10と安く、小型化し易い。車載用や住宅向けの次世代蓄電池として2015年の商品化を目指す。
 ナトリウムを含んだ化学物質が高い温度で溶けて液体になった溶融塩を主材料として使う。住友電工は京都大学と共同で、57℃で溶ける新しいナトリウム材料を開発、実用化に目途をつけた。エネルギー密度は一般的なリチウムイオン電池の約2倍。EVに搭載した場合、同じ容量のリチウムイオン電池より走行距離は2倍に伸び、電池の小型化も可能になる。新型電池の材料は全て不燃性で高温や衝撃に強く、発火の恐れも少ないと云う。 ナトリウムは豊富に存在し、リチウムより安く購入できる。新型電池の価格は2万円/kWhを見込む。ただ、リチウムイオン電池が常温稼働であるのに対して新型電池は80℃を維持する必要がある。
(日本経済、日刊工業新聞11年3月3日、日本経済新聞11年3月4日)