第177号 百カ所程度の水素ステーションを整備
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方公共団事業体による施策
3.FC要素技術の開発研究
4.SOFCの開発
5.エネファームの事業展開と普及対策
6.EV&FCV最前線
7.水素ステーションの実験と事業展開
8.水素製造技術の開発
9.FC&水素関連計測・観測技術
10.FC関連周辺機器の開発と事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)経産省
 経済産業省の2011年度予算案は、一般会計と3つの特別会計を合わせて前年度比4%減の1兆3728億円となったが、エネルギー対策特別会計は6%増の7356億円で、うちエネルギー需給勘定は11%増の5419億円を確保した。これは地球温暖化対策を中長期的に強化する観点から11年度に導入する地球温暖化対策税の初年度税収規模約350億円を大幅に上回ったことになる。国内の温暖化対策関係では、住宅用太陽光発電導入支援に349億円、民生用FC導入支援に86億7000万円、住宅・建築物高効率エネルギーシステム導入促進に70億円をそれぞれ計上した。(電気、建設通信新聞10年12月27日)
 経済産業省は石油精製の際に使う水素を高純度水素にしてFCVに利用できるようにする官民共同の技術開発に着手する。石油元売り会社は石油精製で硫黄分を分解するための水素を製造しているが、その純度は90%程度で、FCV用には純度は99.99%の水素が要求されている。15年度を目標とするFCVの普及開始をにらみ、分離膜を使って高純度水素を取り出す技術を開発し、専用装置を製造して水素の安定供給につなげる。11年度から3年間で技術開発から実証試験まで手掛ける方針。事業費は約5億円、その半分を補助する。(日本経済新聞11年1月1日)
 経済産業省は、FCVの2015年からの本格普及に向けた規制見直しやインフラ整備に向けた支援策などを検討する。政府・行政刷新会議ではFCVと水素ステーションに関する規制見直しに向けた工程表を作成した。自動車メーカーとエネルギー関係事業者13社による1月13日の「FCVの国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明」を受け、12年度までに規制見直しを検討、13年度から水素ステーションを先行整備する。具体的には、高圧ガス保安法、消防法、建築基準法などを対象に、サービスステーションや天然ガススタンドなどとの併設、セルフ式水素ステーション設置、市街化区域での水素ステーションの立地、水素漏えい防止のためにタンクを肉厚にする規制およびその材料が限られているなどの現行の規制を見直す。同時に採算割れとなる導入初期の水素ステーション設置で民間事業にリスクマネーを供給するなどの支援策も検討する。(日刊自動車新聞11年1月21日)

(2)中部経産局
 中部経済産業局は1月13日、FCVの水素供給インフラの整備推進を進める組織"中部FCV水素供給インフラ整備推進会議"を発足したと発表した。トヨタ自動車、東邦ガス、JX日鉱日石エネルギー、岩谷産業、太陽日酸の5社と、愛知、岐阜、三重の3県、名古屋市、豊田市、中部経済産業局が参加する。(日刊工業新聞11年1月14日)

(3)NEDO
 NEDOはFCVの普及に向けたインフラ環境の整備に乗り出す。政府のエネルギー計画には、15年度のFCV普及開始に向け、諸外国や関連地域、民間企業などと協力・連携して、水素供給インフラを含めた実証活動を強化することが明示されている。NEDOは11〜15年度の5カ年にわたり、実使用に近い条件下でFCVと燃料となる水素の供給インフラに関する技術実証を行うとともに、ユーザの利便性や事業性、社会の受容性などを検証する社会実験を行う。11年度にスタートさせる実証事業では、"技術・社会実証""地域実証研究""地域連携調査""国際共同研究"の4つを設定、普及初期の中核となる大都市圏(東京近辺、名古屋、大阪)で技術実証を行うとともに、大都市圏の周辺地域を中心に地域が持つ既存インフラ・資源、技術を活用しながら普及方策を検討する。その他の地域でも将来の水素供給インフラの導入可能性や立地場所などの調査を行う。実証事業への参加者を来月上旬から募集する予定である。初年度は9.1億円を投じ、実証フィールドの整備などに取り組む。なお国土交通省でも水素・FCVの世界統一基準の策定に向けた活動を展開中である。政府はFCVや水素供給インフラの商用化、海外輸出など、関連技術の普及拡大により、6兆円規模の市場創出効果を見込んでおり、25年にはCO削減効果が年間400万トンに達すると試算している。(日刊建設工業新聞11年1月6日)

2.地方公共団事業体による施策
(1)北陸グリーンエネルギー研究会
 水素エネルギーを利用した融雪装置のデモンストレーションが12月20日、北陸グリーンエネルギー研究会の企画によって高岡市の済生会高岡病院で行われた。アルミが内側に張られた飲料用パックから高純度のアルミを採取、それによって発生した水素からFCで発電する。融雪装置に100Wの電力を3時間にわたって供給し、融雪できることを実証した。(富山新聞10年12月21日、北国新聞12月22日、福井新聞12月25日)

(2)福岡県
 北九州市の新日本製鉄八幡製鉄所で副次的に発生する水素をパイプラインで家庭などに供給し、FCで電力の1部を賄う"北九州水素タウン"の社会実証実験"水素タウンプロジェクト"の運用が1月15日に始まる。水素を供給する配管は経25mm、50mm、100mm、全長1.2kmで、市立いのちのたび博物館やホームセンター、集合住宅(通称・水素アパート)などに設置した14台の純水素FCで発電する。次世代FCは、1kW級を水素アパートやナフコ八幡東店などに12台、3kW級を水素ステーションに1台、10kW級をイノチノタビ博物館に1台配置する。実証実験を担当するのは、水素供給・利用技術研究組合(HySUT)と地元自治体で、水素を安全に利用するための付臭・脱臭技術、将来水素に課金するための必要な水素ガス計量システム、純水素型FCの運用性などを検証する。(西日本新聞10年12月31日、朝日、電気、日経産業、日刊工業、建設通信、西日本新聞、化学工業日報11年1月14日、西日本新聞1月16日)
 福岡県は1月13日、"ふくおかFCV導入計画"を策定、実施すると発表した。FCVの普及と水素供給インフラ整備に向けて先導的な役割を果たすのが狙いで、県全域を対象に水素ステーションの設置予定や普及促進策などをまとめる。福岡水素エネルギー戦略会議で具体的な検討を始める。(日刊工業、西日本新聞11年1月14日)

(3)つくば市
 2030年までにCO排出量50%削減を目指すつくば市が主催する"つくば環境スタイルクリーンエネルギー展"が1月5日に同市吾妻の中央公園レストハウスを会場に開幕した。太陽光発電システムなど環境に優しい身近な機器を始め、市内の大学や研究機関が開発した最新技術を一堂に集めた。会場では筑波大学大学院システム情報工学研究科の石田教授が開発した太陽光発電や水素FCを組み合わせ、省エネルギーと電力の安定供給を図る電気融通システムが紹介されているほか、EVや家庭用FCなどが展示された。(茨城新聞11年1月6日)

(4)佐賀県
 EVなど次世代エコカーの普及を進める佐賀県は11年度、県内で保有率の高い軽トラックを低コストでEVに改造するプロジェクトに着手する。電動バス開発で実績のある早稲田大学研究者と連携、地場企業も巻き込んでビジネスチャンスにつなげる可能性も探る。又県内全域に24時間利用できる急速充電スタンドを整備する方針。FCV用水素ステーションも2月下旬に鳥栖市に完成する予定である。(佐賀新聞11年1月11日)

(5)青森県
 青森県と青森市が事業者を公募している"低炭素型モデルタウン事業"の事前登録受付が1月13日に締め切られた。同事業は、県と市が土地を所有する広場"青い森セントラルパーク"に、新エネルギー実証実験の場として太陽光発電やFC、バイオマス発電などを取り入れた住宅や商業施設、研究施設などを整備するものである。(日刊建設工業新聞11年1月17日)

3.FC要素技術の開発研究
(1)名古屋大
 名古屋大学エコトピア科学研究所の高井教授らは、水溶液中でプラズマを利用してナノサイズの金属微粒子を高速合成したり炭素などを表面改質したりする技術の実用化に目途を付けた。独自開発の水溶液中プラズマ装置を使って行ったもので、ナノ粒子合成速度は電極1対で0.3g/hで、一般的な手法である化学還元法に比べ約20倍という。又水がプラズマ化してできる活性酸素が働き、炭素などの表面を疎水性から親水性に改質する。実用化に向け、炭素に白金ナノ粒子を付着させたFC用電極材の製造法開発などを進めている。(日刊工業新聞11年1月11日)

(2)戸田工業
 戸田工業は、酸化鉄の製造で培ってきた合成技術をベースに、現在主流の貴金属系に代わる卑金属系の改質触媒を開発した。同社の開発品はニッケルベースの卑金属系で、多孔質担体表面にニッケルをシングルナノサイズで分散させる技術を新たに開発、高活性・高機能化を実現した。ニッケル系でありながら、触媒表面に炭素が析出するコーキング性の抑制に成功した他、耐硫黄被毒性については既存触媒を凌ぐレベルを達成している。新開発の触媒は高価な貴金属を使用しないため、FCの生産コスト低減に寄与できる。一部エネファーム向けに早期採用を目指す。(化学工業日報11年1月19日)

4.SOFCの開発
 産業技術総合研究所は1月17日、都市ガスに使われるメタンを燃料にし、450℃の低温域で発電できるSOFCを開発したと発表した。これまで600℃以下の運転温度では、メタンを水素に充分には改質できず発電が困難であった。運転温度を下げると起動時間の短縮が図られ、急速起動・停止が求められる自動車の補助電源や携帯電話用電源などへの応用につながる可能性がある。開発したSOFCは、直径1.8mm、長さ20mmの小型チューブ状で、燃料側電極の中壁に燃料改質機能を持つセリアによる触媒層をコーテイングしている。今後メタン以外の炭化水素燃料を改質できる触媒層の開発を進める。(日刊工業、中日新聞11年1月18日)

5.エネファームの事業展開と普及対策
(1)FC普及促進協会
 FC普及促進協会は、10年度12月末時点の民生用FC導入支援補助金申し込み受理台数(10年度累計)は、4784台(都市ガス仕様3896台、LPガス仕様888台)になったと発表した。申し込み受理台数100台以上は、埼玉県(250台)、千葉県(201台)、東京都(1009台)、神奈川県(564台)、静岡県(110台)、愛知県(358台)、岐阜県(104台)、京都府(136台)、大阪府(358台)、兵庫県(476台)、奈良県(114台)、福岡県(193台)。データは4月23日の受け付け開始から12月27日時点での申し込み受理台数であり、実際の設置台数とは異なる。なお12月16日現在の申請台数は4501台。(電波新聞10年12月23日、11年1月11日)

(2)大和リース
 大和ハウス工業の子会社大和リース(大阪市)は、地震などの災害時に電気や水道が使えなくても大人2人が約1カ月間暮らせるコンテナ型の仮設住宅EDV-01を開発した。ISO規格の20フィートのコンテナサイズで、屋上と壁面に備えた太陽光発電システムとFCで発電、リチウムイオン電池で電気を蓄える。製水器は湿度40%の環境で1日最大20Lの飲料水を確保できる。キッチンやシャワー、微生物がふん尿を分解するトイレを備えた。(読売、毎日新聞1月11日、産経、日経産業、日刊建設工業、奈良新聞1月12日)

(3)積水ハウス
 積水ハウスの2010年度(10年2月―11年1月)の太陽光発電システム搭載一戸建て住宅が、10年12月末時点で1万178棟となり、10年度のエネファーム設置住宅は2732棟になった。2月1日からはEV、PHV向け充電用コンセントを一戸建て住宅に標準設置する。(日刊工業新聞11年1月24日、電気新聞1月28日、電波新聞1月31日)

6.EV&FCV最前線
(1)ホンダ
 ホンダは12月20日、埼玉県と共同で、電気で走行する次世代モビリテイーの実証実験を開始すると発表した。12年までを目途に、EV、PHV、電動2輪車、電動カートなど電動車の実用性と利便性を検証する。情報通信技術や太陽光発電によるエネルギー供給などによる総合的な取り組みにより、将来における個人の移動手段のあり方やCO排出削減の効果を検証する。実証実験には"フィット"ベースのEV、"インスパイア"ベースのPHVなどの実験車以外に、12月24日にリース販売を開始する電動2輪車"EV−neo"や電動カート"モンパルML200"を使用する。バッテリーにはジーエス・ユアサコーポレーションとの合弁会社が生産するリチウムイオン電池を採用している。和光ビルには、ソーラー充電ステーションを新設、1日の走行を40kmとした場合、1日にEV4台分の走行エネルギーを太陽光でまかなうことができる発電量を確保した。車両情報提供サービス"インターナビ"を活用し、充電スタンド検索や航続可能エリアマップの表示、バッテリー残量の確認、遠隔操作での充電指示など、充電サポートサービスの有効性も検証する。(日経産業、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ10年12月21日、中国新聞12月24日)
 ホンダは2012年に日米で発売する計画のEVを、本田技術研究所のR&Dセンターで生産する。EVは発売当初は生産台数を抑えて市場導入する計画のため、同研究所が栃木県内に所有する少量生産車用の生産設備で組み立てる。(日刊自動車新聞10年12月24日)

(2)山梨大とダイハツ
 山梨大FCナノ材料研究センターは、FCVの実用化に向けダイハツ工業(大阪府)と共同研究することを決めた。ダイハツとは触媒に白金など貴金属を使わない液体FCの研究を行う。(山梨日日新聞10年12月28日)

(3)トヨタ
 トヨタ自動車は、FCVの発売時期をこれまで目途にしていた15年から1年前倒しして14年にする予定であることが分かった。市場投入を巡って1台1億円とも云われていたコストが、FCに使う白金の使用量低減などで大幅な削減が実現し、価格を1台1千万円以下へ引き下げることが可能になった。同社は次世代ハイブリッドカー戦略でHVを軸に据える一方、EVを12年に発売するとおもにFCVの開発を加速させる。(東京、中日新聞11年1月4日)
 トヨタ自動車の内山田副社長は、アメリカ・デトロイトで開かれている北米国際自動車ショー会場でインタービューに応じ、FCVを遅くとも15年までに日本とドイツ、カリフォルニア州で発売する計画を明らかにし、価格については5万ドル(約415万円)程度になる可能性が高いとの見通しを示した。既に10万ドル未満に引き下げることに成功しており、市場投入までに更に半減を目指すと述べた。(フジサンケイビジネスアイ11年1月14日)

(4)トヨタ、日産自動車、ホンダ
 トヨタと日産自動車、ホンダは15年までに現在1000万円程度するFCVを一般消費者が買える価格帯まで下げる。トヨタは中核システム部分のコストを08年比1/20以下とする。(日刊工業新聞11年1月14日)

(5)GMジャパン
 GMジャパンはFCV"ハイドロジェン3"を1月15日から3月31日まで愛知県に貸し出し"あいち臨空新エネルギー実証研究エリア"に展示されると発表した。(日刊自動車新聞11年1月15日)

(6)HySUT
 水素供給・利用技術研究組合(HySUT)は1月21日、FCVを使ったハイヤー実証を1月29日に開始すると発表した。FCVはトヨタの"FCHV-adv"で、タクシー・ハイヤー会社に委託し、高速道路を利用した定期的な車両運行を行って公共輸送システムとしての適用可能性を検証する。全日空が欧州路線のファーストクラス、ビジネスクラスで成田空港に到着した顧客を指定の場所まで送る「ANAお帰りハイヤーサービス」など。(電気、日経産業、日刊工業、日刊自動車新聞11年1月24日、読売新聞1月31日)

(7)北九州市
 北九州市は、日産自動車のEV"リーフ"を3台導入した。2013年までにEVなど合計50台の次世代自動車を導入するとともに、民間への普及を促進させるため、EV用充電器の整備も進める。今年3月には、小倉北区役所にEV用急速充電器1基を整備する予定。(化学工業日報11年1月31日)

7.水素ステーションの実験と事業展開
(1)ホンダ
 ホンダはFCV用次世代水素ステーションを埼玉県庁敷地内に設置する計画である。同ステーションは太陽光で発電した電力で水素を製造するとともに、従来はコンプレッサーが必要であった水素の圧縮工程を製造工程と一体化することで低騒音と小型化を実現した。(日経産業、日刊自動車新聞10年12月21日)

(2)自動車メーカーと水素供給事業者
 自動車メーカーと水素供給事業者の13社は1月13日、FCVの国内市場導入と水素供給インフラ整備に関する共同声明を発表した。この中で2015年のFCV商用販売に向け、東京、愛知、大阪、福岡の4大都市圏を中心に、13年から100カ所程度の水素ステーションを先行整備することが打ち出された。水素ステーションは25年までに1000カ所程度整備する計画である。商用規模の水素ステーションは現在約6億円のコストがかかる。政府は建築基準法、高圧ガス保安法、消防法に基づく規制を見直し、普及に向けた新たな基準を作成して先行整備に備え、15年以降の商用段階では2億円以下に下げる。(読売、朝日、毎日、日本経済、産経、電気、日経産業、日刊自動車、日刊建設、建設通信、東京、中日、中国、西日本、北海道新聞、フジサンケイビジネスアイ、河北新報、化学工業日報11年1月14日)

8.水素製造技術の開発
(1)東工大、東大、豊橋技科大
 東京工業大学の八島准教授、東京大の堂免教授、豊橋技術科学大学の中野准教授らの研究チームは、光触媒の反応効率を高める手がかりを発見した。ランタンとチタンなどからなる光触媒で、8年前に堂免教授らが可視光でも反応する光触媒として開発した。この物質は複数の8面体が重なった"ペロブスカイト型"の結晶構造をしているが、太陽光などがどこで反応しているかなどは詳しく分かっていなかった。研究チームはエックス線などを使って構造を詳しく調べた結果、チタンと窒素が繋がった部分が可視光を、チタンと酸素が繋がった部分が紫外光をそれぞれ吸収し、エネルギーに変換することが分かった。これは光触媒の物質をコンピューター・シミュレーションで分析した結果と一致した。このため模擬実験による予測からランタンとチタンを他の元素に置き換えれば、太陽光をエネルギーに変換する効率が高められるという。現在の反応効率は1%以下であるが、可視光を多く吸収する物質を合成できれば、安価な太陽電池に匹敵する5%以上も可能としている。光触媒は太陽光を当てるだけで化学反応が起きて水から水素を発生したり、微量な化学物質を分解したりできる。FC向けに水から水素を製造する技術として実用化を目指す。(日経産業新聞10年12月22日)

(2)NEC
 NECはスーパーコンピューターを使った計算機シミュレーションで、カーボンナノチューブ(CNT)の内部で光化学反応を起こす新しい手法を発見した。例えばCNT内に水素を含む分子を閉じ込めてレーザーを当てると、効率的に水素が取り出せる。シミュレーションでは強度の高いカゴ状のCNTを試験管に見立てて、その中で化学反応を起こす。塩化水素の分子をCNT内部に閉じ込めて外からフェムト秒レーザーを当てると、分子が塩素原子と水素原子に分かれ、そのうち水素だけが高速で飛び出すことを確認した。ナノ寸法の微細なCNTで反応させれば、既存の大型装置に比べて1万倍以上の高い密度で水素を発生させられるという。水素を大量に生成する効率的な製法になると期待される。(日刊工業新聞10年12月27日)

9.FC&水素関連計測・観測技術
(1)オーバル
 オーバルは11年に300MPaの高圧領域に対応できるコリオリ式の質量流量計を投入する。既存機器は最高95MPaであった。この質量流量計は通電しない流体を測定できる。又補正せずに質量流量、密度、温度を高精度で測れるため需要が伸びている。例えばFCVでは高圧領域で水素燃料を補給するため高精度で計測するニーズが高まっており、高圧領域対応により、これらの新規需要を掘り起こす。(日刊工業新聞10年12月21日)

(2)オムロン
 オムロンはFC向けMEMSフローセンサー"形D6F-70"を1月25日に発売する。従来品では50L/minであった計測最大流量を、流路構造の工夫などで70(同)に高めた。これにより家庭用FCシステムの流量制御に必要な能力を満たした。13年度に約20万個の販売を目指す。MEMSセンサーを採用することで装置の小型化につながり、ポンプの脈動による影響も1/10に抑えた。11年度夏にも計画最大流量200L/minも発売し、業務用FCや医療機器市場への拡販を狙う。(日刊工業、日経産業新聞11年1月17日、電波新聞1月18日)

10.FC関連周辺機器の開発と事業展開
 岡崎製作所(神戸市)は12月24日にFCと太陽電池向けマイクロヒーターの生産拠点である岩岡第6工場(神戸市)を完成する。複数FCメーカーへの納入が決まっており、月産2万本体制を整えた。同社のマイクロヒーターはFCなどの温度制御に用いる。総投資額は約3億円。(日刊工業新聞10年12月24日)

 ――This edition is made up as of January 31, 2011――

・A POSTER COLUMN

経団連がスマートシティーのモデル事業に取り組む
 低炭素・省資源型の環境に優しい都市"スマートシテイー"の実験・建設が世界各地で始まっている。これは電力の有効利用や自然エネルギーの活用だけではなく、公共交通網や道路、上下水道に至るまで、環境負荷の観点から生活を丸ごと効率化した都市である。
 世界で300を超えるスマートシテイー計画があり、今後20年間で累計3000兆〜4000兆円の関連需要を生み出すとの試算もある。日本経団連は12月6日にまとめた成長戦略で、最新の環境技術や交通・通信技術を取り入れたモデル事業に取り組み方針を打ち出した。
 横浜市では清掃工場やビルの廃熱を利用した空調システムや、FCと蓄電池を組み合わせた住宅向けのエネルギー供給システムを作り、EVの普及にも取り組む。実験には電力会社や自動車メーカー、電機メーカーなども参加、環境に配慮した都市インフラ整備の技術やノウハウを実験で蓄え、将来は海外に輸出したい考えである。
 日本のスマートシテイーは一部街区や都市機能の一部に限った実験であるが、中国天津市では郊外の塩田跡地に40万人が生活する新都市の建設が進んでいる。
(日本経済新聞10年12月20日)

国交・経産省がEV用充電器設置の手引書を作成
 国土交通省と経済産業省は、EVの充電設備に関する一般向けのガイドブックを作成した。充電設備を自宅やマンションなどに設置する際に必要なノウハウをまとめた。政府は2030年に自動車の販売台数に占めるEVの比率を3割にする目標を掲げており、その達成を後押ししたい考えである。
 ガイドブックは戸建て住宅の持ち主や分譲マンションの管理組合、屋外駐車場のオーナーなどを想定。照明や家電に使う一般回線とは別に、配電盤から分岐させた専用回線の敷設が必要になることを周知しているが、短時間で充電できる設備ほど大きな電流が流れるため、設置者には事前に電力会社との契約内容を確認し、必要に応じて最大電力容量を引き上げることを求めている。
 建物の壁にEV向けのコンセントを設置する場合、充電ケーブルの抜き差しを繰り返しても壊れにくい形状のコンセントがあることを紹介、100V用、200V用でそれぞれ数千円、地上にコンセント付ポールを立てるタイプで数十万円などと、本体価格の目安も示した。ただ専用回線の敷設工事費は配電盤との距離などによって違うため、例示を見送った。09年12月にEV"リーフ"を発売した日産自動車によると、壁にコンセントを取り付ける場合で10万〜25万円程度と云う。
 持ち主の一存で導入できる戸建て住宅と異なり、マンションの集合型駐車場で導入する場合のノウハウも提供している。一般的な管理組合での議決手続きや、EVを持たない住民との不公平感を和らげるため、充電量に応じた課金や駐車料金に定額を上乗せするシステムも紹介した。
 この他大きな電流が流れるEVの充電に関する注意点も掲載した。アダプターがあれば家電などを差し込むコンセントでも充電できるが、漏電の際に感電を防ぐアースがない場合は使用しないよう呼びかけた。屋外では風雨を避けるカバー付きコンセントの使用も勧めている。
 政府は充電設備について、20年までに普通充電器200万基、急速充電器5千基の設置を目標に掲げている。今回作成したガイドブックは、国交省ホームページの「自動車交通」のページなどから入手できる。
 EVの急速充電設備に関しては、東京電力や自動車大手が主導した"チャデモ(CHAdeMO)"を作成し、国内で普及を目指している。ただ国際的な統一規格はまだできていない。
(日本経済新聞11年1月5日)

革新電池である金属空気電池や多価イオン電池の実用化へ前進
 トヨタ自動車は革新電池の1つとして注目され、空気中の酸素を利用する"金属空気電池"の実用化へ向けた基礎技術を開発した。
 リチウム空気2次電池は、負極活物質としてリチウム、正極活物質として空気中の酸素を用いる金属空気電池の一種であり、放電時には負極でリチウム金属Liがリチウムイオンになる反応が、正極では酸素が還元される反応が起こる。この電池は飛躍的に高いエネルギー密度を持ち、理論的には電気容量をリチウムイオン電池の3倍以上に増やせ、EVを1回の充電で約500km走行させることができる。しかし、従来これを電気化学的に充電することは困難とされてきたが、トヨタは放電に加えて充電に成功した。
 トヨタは電極間を満たす電解質に特殊な"イオン液体"を採用、充電と放電の両方を交互に起こすことに成功し、リチウムイオン電池の10倍以上の容量を確認した。ただ充電には3〜4日かかるほか、水や空気中の窒素との反応を防ぐ工夫も必要になる。
 京都大学の阿部教授らのグループは"多価イオン電池"の実用化につながる成果を出した。同電池はリチウムを使わず、正極に酸化物、負極にマグネシウム金属を利用する。リチウムは1個ずつしか電子を交換できないがマグネシウムは2個ずつまとめて動かせ、電気容量は2倍になると期待されている。有機物の"2メチルテトラヒドロフラン"に臭化マグネシウムを加えた溶液を電解液に採用、これまで知られている物質のような危険な反応の心配はない。
 負極で放電や充電に対応するマグネシウムの溶解、析出反応が進むのを確かめた。更にマグネシウム化合物を添加し、反応効率を上げる目途も得られた。こうした成果は、3個以上の電子を纏めて動かせる電池にも道を開く。
 オールジャパンで革新電池の開発を目指す"ライジング"プロジェクトには、国が09年度から7年で総額210億円を投じ、トヨタ自動車や日産自動車など12社と京都大学など10研究機関が参加する。テーマ毎に4つのチームが研究を進める。
(日本経済新聞11年1月10日)