第175号 最も軽い水素原子1個の直接観察に成功
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.FC要素技術の開発
4.SOFCの開発と事業展開
5.エネファームとスマートハウス実証事業
6.EV&FCV最前線
7.水素ステーション事業および技術開発
8.水素エネルギー事業
9.水素&FC関連計測・観測技術
10.FC関連の事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)政府・行政刷新会議
 政府・行政刷新会議の特別会計を対象にした事業仕分け第3弾で、エネルギー特別会計の"先進的次世代車普及促進事業"については、半減を目途に大幅な予算圧縮を図るとする評価を受けた。同事業はFCVやHV、オフロード自動車などを対象に導入費用の一部を補助することで、初期導入を促している。FCVについては、2005年度から補助を実施している中で、地方自治体など50台程度の導入に留まっている点や、車両価格が依然として高い点などが指摘された。しかし、継続部分もあることから、これを除いて予算要求を見送るほか、コスト低下につながるような研究開発に絞った補助に見直すことが求められた。(日刊自動車新聞10年11月1日)
 政府は横浜市で11月7日に開幕したAPEC会議の14日までの期間中、会場で"日本の知恵と技術の体験空間"(Japan Experience)を実施する。最先端技術の体験ゾーンでは、トヨタ自動車のプリウスPHVやパーソナルモビリテイー"i-REAL"、日産自動車のEV"リーフ"、ホンダのFCV"FCXクラリティ"、又自動車関連では、帝人の先端素材を活用した超計量EVや住宅・EVネットワークへの取り組みなどが展示される。(日刊自動車新聞10年11月9日)

(2)経産省
 経済産業省は、低炭素製品の補助制度と国内クレジット制度をリンクさせた新たな仕組みを構築する。住宅用太陽光発電や次世代自動車などの補助金制度を対象に、導入した機器の利用によるCO排出削減量をクレジット化し、国内クレジット制度で大企業に売却するもの。国内クレジット制度は、大企業が提供する資金・技術を利用して中小企業が低炭素製品や技術を導入、利用による排出削減量を国内クレジットとして認定し、大企業の自主行動計画の目標達成に活用できる制度。同省は、年間約1トンの削減効果を持つEVの場合、2万〜3万台で約2万トンのクレジットが創出されると推計している。同様に太陽光発電で15万トン、エネファームで1万トン、高効率エネルギーシステムで5000トンのクレジット創出を見込む。(化学工業日報10年11月2日)

(3)経産省・資エネ庁
 資源エネルギー庁の"再生可能エネルギー等の熱利用に関する研究会"第3回会合が11月4日に開かれ、河川熱・下水熱利用やFC、計量事業に携わる各業界や、需要家の代表が熱利用事業を展開する上での課題を説明し、規制緩和と経済支援の拡充を求めた。この中で、FCCJはPEFCやSOFCによる熱利用の状況などを示した上で、量産、システム構成の簡素化、耐久性などの技術的課題や、導入コストの高さなど普及阻害要因が存在すること説明、技術開発や経済的支援の継続・拡充を要望した。(電気新聞10年11月5日)

(4)近畿経済産業局
 近畿経済産業局は10年12月から11年3月にかけて、家庭用FCと蓄電池分野への中堅・中小企業の進出を後押しするマッチング研究会などを相次ぎ開催する。家庭用FCでは大手メーカーのパナソニックや大阪ガスなどと、中堅企業、中小企業が分かれて研究会とセミナーを開く。蓄電池は関西中心に進む2件の産官学大型プロジェクトを取り上げ、最新技術、アプリケーション動向などを紹介する。家庭用FCと蓄電池は何れも関西企業の生産シェアが高い。家庭用FCについては企業の規模によって対応できる技術やパーツが大きく異なるため、中堅企業と中小企業に分けてマッチング機会を設ける。(日刊工業新聞10年10月25日)

(5)国交省と経産省
 国土交通省と経済産業省は、全ての新築住宅・建築物を対象に20年までに省エネ基準への適合義務化を行う方向で検討している。11月12日に開かれた有識者会議「低炭素社会に向けた住まいと住まい方推進会議」の第2回会合で、義務化の方向性(骨子案)を提示した。それによると、現行の省エネ基準(平成11年度基準)適合率やCO削減効果を踏まえ、大規模建築物から段階的に義務化する方針である。(住宅新報10年11月16日)

(6)国土交通省
 政府が来年度に創設する"総合特区制度"での制度・規制改革に向けた国土交通省の対応方針が明らかになった。16日に開かれた民主党の総合特区・規制改革小委員会に対応方針が提示され、国交省は所管分野で「優先的に検討に着手する」とされた16項目のうち、"太陽光発電設備に関する建築確認申請の不要化"など以下を含む7項目について「直ちに対応する」と回答した。FC関連では、"FCV水素ステーション設置にかかわる環境整備(経産省所管)"、"低炭素化に資する設備・建物を導入した場合の容積率緩和"などが含まれている。(日刊建設工業、建築通信新聞10年11月17日)

2.地方自治体による施策
 佐賀県地域産業支援センターは、佐賀県玄海町の九州電力玄海エネルギーパークで、水素FCを利用した電動アシスト自転車に関する一般参加型の実証事業を11月13日に開始する。同事業は玄海町や岩谷産業との共同で実施する地産地消型水素社会システム構築の実験で、公園内で一貫して行う。太陽光発電と夜間電力を利用し、水を電気分解して水素を製造・貯蔵、貯蔵した水素は小型容器に充填した上で2台の自転車やレーシングカートにセットし、動力エネルギーとして利用する。又足湯も設置、純水素型FCで給湯したお湯で一休みできる。(日刊工業新聞10年11月12日)

3.FC要素技術の開発
 信越ポリマーは、独自の加工技術で材料に汎用樹脂を使うことにより、PEFCのセパレーターの製造コストを半分以下にする技術を開発した。新技術で開発したセパレーターは、従来はベース素材にフェノール樹脂やポリフェニレンサルファイド(PPS)など高機能素子を使っていたが、汎用樹脂のポリプロピレン(PP)を使用、コークスを粉末状にして黒鉛を均等に混ぜることで導電性を確保するとともに、成型する金型の制度を制御することによって均一な厚さに仕上げた。これまで電池メーカーはセパレーターの耐熱温度を120℃程度としていたが、最近耐熱温度を85〜90℃程度に設定するメーカーが増えたこともあり、PP製でも性能を維持することが出来るようになったという。(日経産業新聞10年11月2日)

4.SOFCの開発と事業展開
(1)物質・材料機構
 物質・材料研究機構は11月18日、SOFC用の新しい電解質材料を2種類開発したと発表した。次世代材料として期待されるイットリウム添加ジルコン酸バリウム(BZY)の焼結性などを添加物などによって高めた。量産プロセスにも適し、電解質に必要な化学的安定性などの条件を高レベルで満たすので、500〜650℃で動作するSOFCの実用化に寄与する。BZYは優れた化学的安定性がある半面、焼結に生まれる結晶粒界がプロトン(水素イオン)の電導性を低めるため、必要な特性が出なかった。今回、レアアースのプラセオジムを10%加えることにより焼結性を改善、特性を観察したところ、600℃の条件下で高いプロトン伝導性が得られた。他方、酸化ニッケルとBZYの混合粉末を固めた基板上にプレス成形したインジウム添加ジルコン酸バリウム(BZI)も作製した。2つの材料とも、汎用のプレス機と大気中の焼結で量産できるので、これによってSOFCの量産化が加速されると思われる。(日刊工業新聞10年11月19日)

(2)リリピューシャン・システムズ
 アメリカ・マサチューセッツ州のリリピューシャン・システムズは、SOFCとMEMSウエハー製造手法をベースに、民生電子機器向け電池を開発した。(電波新聞10年11月18日)

5.エネファームとスマートハウス実証事業
(1)JX日鉱日石
 JX日鉱日石エネルギーは10月27日、岐阜市で11月5日に開設するスマートハウス"GREENY岐阜"に、太陽光パネル、風力発電、リチウムイオン蓄電池、エネファームを組み合わせた同社のトータルエネルギーシステムが採用されたと発表した。家庭で必要な全ての電力や給湯を賄う他、LED照明は直流給電を行って電力損失を低減する。スマートハウスは岐阜市が計画している次世代エネルギーインフラ構想の一環として建設され、10年12月から11年3月まで関係者が実際に居住してシステムの実証実験を行う。太陽光パネル、風力発電、FCの出力は各6.3kW、4kW、750W、蓄電池の容量は9.7kWh、家電製品の電力需要や給湯はこれらを組み合わせたシステムで賄われる。HEMS(ホーム・エネルギー・マネジメント・システム)も実装し、エネルギー使用量を可視化する。標準住宅0.4軒分のエネルギー消費量に相当する余剰を見込んでおり、5年後の実用化を目指す。スマートハウスの運営は住宅設備会社のイビケンが行う。(電気、日刊建設工業新聞、化学工業日報10年10月29日、日刊工業新聞11月3日)

(2)パナソニック
 パナソニックは、APECリーダーズウイーク(11月7〜14日)に合わせて開かれる"横浜スマートシテイープロジェクト・デモンストレーション展示"に参加する。同社は同プロジェクトでHEMSを核に、家庭でのCO排出を徹底的に削減する取り組みを行っている。インターネット対応家電や太陽光発電システム、ヒートポンプ、FC、家庭用蓄電池などを組み合わせることにより、持続可能でより安心・快適・楽しいくらしの提案を行い、プロジェクトの目標の1つであるCO排出量の大幅な削減への貢献を目指す。同社はHEMSによる連携をコンセプトに家電製品や設備機器をつなぎ、それにより家全体のエネルギー使用量を一目で把握でき、省エネ目標値の達成状態やアドバイスなどをコントロールパネルに表示する。一戸建てや集合住宅、新築やリニューアル住宅にHEMSの仕組みを導入し、CO排出削減と生活満足度(QOL)維持の両立を図る。同プロジェクトは、日本型スマートグリッドによる新しい都市づくりを目指す横浜市と民間企業の連携による実証プロジェクトで、経産省の「次世代エネルギー・社会システム実証地域」として採択されている。(電波新聞10年11月4日)

(3)FC普及促進協会
 FC普及促進協会が発表した10年度10月末日時点の民生用FC導入支援補助金申し込み受理台数(10年度累計)は、3402台(都市ガス仕様2985台、LPガス仕様417台)となった。建物区分は新築が72%、既築が28%、設置施設別では、戸建て住宅が96.9%、集合住宅が0.8%、店舗は0.7%、地域別では、東京都747台、神奈川県419台、兵庫県383台、愛知県280台、大阪府264台の順。このデータは4月28日の受け付け開始から10月31日時点の申し込み受理台数であり、実際の設置台数とは異なる。(電波新聞10年11月5日)

(4)NTTファシリテイーズ
 NTTファシリテイーズと富士通コンポーネントが、次世代の電力供給方式として期待さている高電圧直流給電システム(DC400V)に対応したコンセントバーと電源プラグ共同開発し、実証実験を実施してきた。その結果、スマートグリッドにおいて、太陽光発電やFC、およびEVのバッテリー、そしてデーターセンターの分野で直流電源が注目を集める中、小形コンセントバーと電源プラグを開発した。(フジサンケイビジネスアイ10年11月16日)

(5)都市ガス各社
 都市ガス各社がエネファームの販売を伸ばしている。10年度上期は、東京、東邦、大阪、西部の4社で合計3767台(受注ベース)を販売、これは年間目標4900台の約7割に相当する。内訳は東京1950台、大阪1271台、東邦390台、西部156台で、各社とも新築ハウスメーカーを中心に営業を進めているが、ガス協会では「補助金の募集期間が11年1月までなので、各社とも上期から積極的に販売活動を展開した」側面があると指摘している。又09年11月から太陽光発電による余剰電力の固定価格買い取り制度が始まっており、FCと組み合わせたダブル発電も普及を後押ししている。(電気新聞10年11月18日)

6.EV&FCV最前線
(1)日本電産
 日本電産はダイムラーに、メルセデス・ベンツ"Aクラス"をベースとしたEV、およびベンツの"Bクラス"をベースとしたFCVに駆動用モーターを供給する。生産量は月数百台となる見込みで、このほど米国工場で量産を開始した。自動車向けモーターなどの需要拡大を受け、100億円を投じて生産拠点をインドに建設することも決めた。(日本経済新聞10年10月27日)

(2)日産自動車
 日産自動車は11月1日、2人乗り小型EVを公開した。高性能なリチウムイオン電池を搭載、1回の充電で100kmの走行が可能。1人か2人で近距離を移動する利用形態を想定している。公開したEV"ニッサン・ニュー・モビリテイー・コンセプト"は全長が約2.3m、全幅約1.2m、全高約1.5m、二輪車のように運転者の後ろに同乗者が座るタイプで最高時速は75km/h。横浜市で今月開催のAPECで披露する見通しである。(日本経済新聞10年11月2日)

(3)パナソニック
 パナソニックはアメリカEVベンチャー"テスラ・モーターズ"と資本提携する。テスラの株式数%を取得し、EV用電池の共同開発に取り組む。パナソニックはテスラへの電池供給では1月に合意しており、次世代EV向け電池も優先的に供給する。(日本経済新聞10年11月4日)

(4)GMと上海汽車
 中国の上海汽車集団とアメリカのGMは11月3日、共同で新エネルギー車の研究開発を進め量産化を目指すことで合意、覚書を交わした。これによりGMが計画する再上場後の株式保有先として上海汽車が一段と有力になった。両社が合意したのはEVとFCVの研究開発。中国にある研究開発センターで、主にEVの量産化を推進するという。(日本経済新聞10年11月4日)

(5)BMW
 ドイツのBMWは2013年に発売予定の小型EVの生産に4億ユーロ(約460億円)を投資すると発表した。SUVなどを生産するライプチヒ工場に専用の生産ラインを設け、800人を新規に採用する。欧州車メーカーでは、ドイツのダイムラー、VW,フランスのPSAなどもほぼ同時期に小型EVの量産化に乗り出す計画である。(日本経済新聞10年11月6日)

(6)大阪府立大他
 大阪府立大、村田製作所、ナード研究所(尼崎市)は有機材料を正極に使ったリチウムイオン電池を試作し、貯められる電気量を2倍に増やすことに成功した。府立大の杉本名誉教授らは、炭素、水素、窒素からなる有機化合物"トリキノキサリニレン"を正極材料に採用したが、これは原料物質を酢酸中で混ぜるだけで簡単に作ることができ、得られた化合物をアルミ板にくっつけて使う。既存の負極や電解液を組み合わせ、直径1.2cmのボタン型の電池を試作、電気容量は既存のリチウムイオン電池に約2倍にあたる約420Ah/kgであった。複数の電子を効率良く動かせるために性能が高いと云う。(日本経済新聞10年11月8日)

(7)イーメックス
 電子部品開発のイーメックス(大阪府吹田市)は、導電性高分子をフィルム状にして、リチウムイオン電池の正極を製造する技術を開発した。導電性高分子の正極は電気分解の一種である電解重合で製造でき、連続製造や自動化が可能であり、マンガンなどを使う従来品と比べて製造コストを1/5に低減することができるという。完成品は1万回の充電にも耐え、およそ20年の寿命を持つ。正極の新素材としてEV向けなどに売り込み2010年中にも量産する。20億〜30億円を投じて自社工場を建設する検討も始めた。(日本経済新聞10年11月10日)

(8)トヨタ
 トヨタ自動車は2012年に新規に独自開発するEVを国内で発売する。小型車"iQ(アイキュー)をベースに開発を進めており、国内約4800店の系列店で販売する。充電設備が整った都市部で短距離を移動する需要などを取り込む。トヨタはアメリカなどで12年以降、EVを投入する考えを既に表明しており、1回の充電で100km以上走行できる車両の開発に取り組んでいる。(日本経済新聞10年11月11日)
 トヨタ自動車は11月18日、2012年までに国内外でHVを新たに11車種投入する計画を発表した。家庭用電源でも充電が可能なPHVも12年前半に市販する予定で、国内価格を補助金抜きで300万円程度に設定、先行するエコカー市場で攻勢を強める。内山田副社長は、PHVを電気利用の本命と位置付け、全世界で年間販売目標を5万台以上とした。(読売、日本経済新聞10年11月18日、朝日、産経、電気、日経産業、日刊自動車新聞、化学工業日報11月19日)

(9)ロス自動車ショウ
 米ロスアンジェルス自動車ショウが日本時間11月18日に開幕し、トヨタ自動車、日産自動車、GMなど自動車王手が相次いでEVの実車や試作車を公開した。日産やGMは12月にもEVを発売予定。日産は日米で発売するリーフの受注台数が計2万台を超えたことを明らかにした。GMはシボレー・ボルトを公開した。価格は4万1000ドル(約340万円)、初年度300〜500台、3年目に4万5000台の販売を目指す。トヨタは多目的スポーツ車"RAV4"ベースの試作車を公開した。2012年に北米で発売する。テスラ・モーターズと共同開発、1回の充電で100マイル(約160km)程度走れるようにするという。ホンダは小型の試作車"フィットEV"を公開した。1回の充電で160km走行できる。(朝日、日本経済新聞10年11月18日、読売、電気、日経産業、日刊自動車新聞11月19日)

(10)自工会
 日本自動車工業会は10月29日、EV、HEV、低燃費車などエコカーの国内向け集荷台数の09年度実績を発表した。エコカーの合計は402万7624台で、全体の出荷台数の84.7%を占めた。内訳は、エコカー減税制度の対象で、低燃費車355万7632台、HEVが46万6631台、EVが1706台、天然ガス車1197台、FCV3台などであった。(電気新聞10年11月1日)

7.水素ステーション事業および技術開発
 岩谷産業はFCVに70MPaの高圧水素ガスを短時間に充填できる装置を開発中で、2012年にも実用化する。水素は加圧して充填すると温度が上昇して車載タンクが破損するリスクが高まるため、既存の方法では温度変化を確認しながら充填速度を細かく調節する必要があり、標準的な車載用FC(水素容量6kg程度)のフル充填には20分以上を要していた。岩谷産業が開発した新技術は、赤外線センサーを使って車載タンク内の水素量や圧力、温度などを計測し、この情報を水素注入装置にフィードバックすることにより常に最適な充填スピードを維持する手法であり、水素注入速度は既存技術の約10倍の3kg/min程度に高められると云う。したがって、容量6kgの水素ガスであれば、約3分でフル充填が完了する。水素の圧力調整などの要素技術はドイツなどのエネルギー関連企業から供与を受ける。現在は試作装置で貯蔵性能などの実証を進めているが、地上の水素タンクなどの周辺設備を含めた設置コストは、1基当たり2億円程度になる見通しである。岩谷は今後全国で高圧水素の充填設備を増設する計画であるが、この1部に新装置を導入する他、他社の設備への外販も検討する。(日経産業新聞10年11月5日)

8.水素エネルギー事業
 北九州市の新日本八幡製鉄所で発生する水素を使って、COを全く出さない"水素アパート"の賃貸事業を、同市の住宅メーカー"新日本ホームズ"とNPO法人"里山を考える会"がスタートする。工場で排出される水素をFC設備によって電力に変換し、住宅での電力重要を賄う。アパートは同市八幡東区に建設中で、1棟全7戸。一戸当たりの延べ床面積は50〜70m2、各戸に1階部と2階部があるメゾネット式で、2LDKと3LDKがある。建設費は約8000万円、家賃は未定。アパートのCO削減効果や電気代節約効果を説明する展示場も併設される。同社とNPO法人が社団法人を創り、アパート建設と賃貸事業を運営、水素は近くの八幡製鉄所で鉄鉱石を精錬する際に発生する副生水素を活用、福岡県"北九州タウン事業"の一環として地中に敷設したパイプラインを使って供給される。FC設備は岩谷産業が提供、同社は一般家庭の電気をFCで賄った際のデーターを収集し、今後の技術開発に役立てる。生活に必要な電力の7割はFCで賄う設計であり、その電気料金は無料になる。(西日本新聞10年10月26日)

9.水素&FC関連計測・観測技術
 応用物理学会は11月4日、東京大学大学院工学研究科総合研究機構の幾原教授らが最も軽い元素である水素原子1個を直接観察することに成功したと発表した。この成果は5日発行の応用物理学会誌"Applied Physics Express"オンライン版で公開された。水素吸蔵合金である水素化バナジウム(VH2)材料中の水素を直接観察することに成功したもので、超高分解能走査透過型電子顕微鏡(TEM)法のレンズに球面収差補正を行い、1Å以下の分解能を達成し、水素原子を観察できる角度を理論計算で決定することによって実現した。軽元素の直接観察は、09年9月にリチウムで成功した報告がある。同研究は、同大学研究機構の柴田助教ら研究グループとファインセラミックスセンターナノ研究所斉藤副主任研究員および産業技術総合研究所松田研究員らとの共同でなされた。(朝日新聞10年11月4日、化学工業日報11月5日、電波新聞11月8日)

10.FC関連の事業展開
(1)杉国工業
 バッテリーリフト製造の杉国工業(愛知県安城市)は10月28日、小矢部市に工場を健設する発表した。FCを搭載した新製品の開発・製造などを手掛ける。工場は鉄骨平屋建て延べ825m2で、2012年完成、12月からの操業を目指す。投資額は2億円。(北日本新聞10年10月29日)

(2)信越ポリマー
 信越ポリマーは家庭用FC向けセパレーターの生産設備をマレーシアに移管、量産体制を整えた。移管したのは耐熱性や耐薬品性が高いポリフェニレンサルファイド(PPS)製セパレーターのプラントで、東京工場の研究開発センターからマレーシアの現地法人の工場に移した。移管に伴い設備を改良、年産能力を数万枚程度から10万枚超に向上させた。設備改良や移転などの総投資額は1億数千万円程度とみられる。(日経産業新聞10年11月11日)

(3)帝人
 帝人グループは、アラミドペーパーの用途開発を推進する。独自に開発したアラミドペーパー"JSP(ジェット・スパン・パルプ)"は高温にも耐えられる補強結合材料として、FC用セパレーター、HVの駆動モーター、航空機など幅広い分野で用途を開拓する。JSPはパラ系アラミド繊維を利用した高機能テクニカルペーパー、ワンステップでパルプ化するジェットスピニング製法で造られる。(化学工業日報10年11月22日)

 ――This edition is made up as of November 22, 2010――

・A POSTER COLUMN

スマートグリッド実証実験とEV普及策
 日産自動車はEV"リーフ"の12月発売を控え、普及の基盤整備に取り組む。横浜市で始まる国内最大規模のスマートグリッドの実証実験に参加し、EVに搭載する蓄電池を住宅の電源として再利用するシステムの確立などを目指す。日産自動車と東芝、東京電力など7社と横浜市は11月2日、スマートシテイを推進する中核技術の展示場を開設した。
 日産は2014年までの実験期間中、約2000台のEVを用意し、動力源のリチウムウオン電池を住宅やビルで再利用する方策を探る。高い安全性が要求される自動車用としての耐用年数を過ぎても、「太陽光や風力発電による電力を蓄える住宅用途では高性能蓄電池として使える」からである。リーフは廉価モデルで376万円、国の補助金を使えば299万円で購入できるが、電池は車両価格の半分程度を占めるとされ、コスト削減が大きな課題となっている。住宅やビル用に転用できれば、EVユーザーの負担を軽減できる。
 日産はEVの運転を支援するための情報通信システムを開発済みで、データセンターとEVを高速無線で常時接続し、走行状態や電池の充電回数などの情報を集める。
 トヨタ自動車は11年から、愛知県豊田市でスマートグリッドの実験を本格的に始める。トヨタホームが建設する住宅70戸に充電可能なPHVやEVを置く。太陽光による発電量や電化製品の電気使用量、車のバッテリー残量などを常時把握するシステムを開発済みで、家庭の電気代を最小限に抑える。青森県六ケ所村でも9月から住宅2戸を使い、実験を始めている。
 経済産業省は横浜市など全国4カ所で始まるスマートグリッド実証実験を支援しており、14年度までの総事業費は約1000億円と見込んでいる。自動車大手のほか新日本製鉄やパナソニックなど有力企業が参加する。
(日本経済新聞10年11月3日)