第173号 SOFC新型機の実証実験を開始
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.SOFCの開発と実証
4.FC関連要素技術の開発研究
5.エネファームの事業展開
6.FCV&EV最前線
7.水素生成・精製技術の開発
8.水素FC関連計測センサーの開発と事業化
9.DMFCの開発と事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)経済産業省
 政府は2011年度から、太陽光発電や電気自動車(EV)の導入によって家庭でCOの排出を減らした分を排出枠として集め、企業に売却する事業を始める。環境関連機器の購入に補助金を出す見返りに排出枠を国が取得したとみなす。排出枠を購入した企業は自社が減らした分として計算できる。国全体の約2割を占める家庭部門のCO排出を抑えるとともに、国の排出削減目標にも貢献できる仕組みを作るのが狙いである。経済産業省は11年度、導入促進の補助金として10年度当初予算に比べ約3割増の890億円の予算を要求、この金額が通ると太陽光発電器は約17万、EVは約3万台の普及に繋がる。各家庭でのCO排出量は年間約1トン減るといい、計20万台がフル稼働すれば年間20万トン余りの排出枠を集められる。これを国がまとめ、購入を希望するエネルギーや素材などの企業に売却する。企業は京都議定書の目標達成などに排出枠を活用できる。売却額は市場価格を参考に決める。最近は排出枠1000〜2000円/トンで、来年度家庭が導入した太陽光発電やEVの計20万台がその後10年稼働すると、累計で最大40億円の排出枠の売却が見込める。売却益は国庫に納める。補助金は太陽光発電の平均的な機器(200〜250万円/基)で30万円弱、約380万円のEVでは114万円。家庭用FCや高効率給湯器なども対象となる。補助金を受けるのは各家庭の申請が必要になる。(日本経済新聞10年9月7日)

(2)総合科学技術会議
 政府は科学・技術の面で国の将来にとって重要とされる課題に対し、予算を重点的・効率的に運用するため「科学・技術重要政策アクション・プラン」を策定し、11年度は7省が総額1121億円を概算要求して取り組みを始める。9月13日、内閣府がアクション・プラントとそれの実施パッケージに関する概算要求の取りまとめを発表した。11年度は"グリーン・イノベーション"と"ライフ・イノベーション"に関連して、前者では@太陽光発電の飛躍的な性能向上と低コスト化の研究開発(122億円)、A木質バイオマス利用技術の研究開発(74億円)、B蓄電池/FCの飛躍的な性能向上と抵コスト化の研究開発(135億円)、C情報通信技術の活用による低炭素化(426億円)、D地球観測情報を活用した社会インフラのグリーン化、の5つを施策パッケージとして設けている。(電波新聞10年9月14日、朝日新聞9月17日)

2.地方自治体による施策
(1)兵庫県
 兵庫県企業庁は、潮芦屋(芦屋市)の環境配慮型住宅(エコタウン)ゾーンを積水ハウスに一括分譲した。11年1月から環境に配慮した72戸の一戸建て住宅を、建売方式で販売する。対象地は潮芦屋D1ゾーンの1万6673.51m2。72区画で太陽光発電パネルとエネファームを備えたCOオフ住宅を建設する。8月23日に土地の譲渡契約を結んだ。同社の試算では、4人家族で建物の延べ床面積が120m2、太陽光発電パネルの容量が3kWの場合、従来のシステムと比べて年間約76%のCO排出量が削減される。(日刊建設工業新聞10年9月2日)

(2)相模原市
 相模原商工会議所の工業部会は10月に、海外進出と次世代自動車をテーマにした研究会を立ち上げる。セミナーや勉強会を開いて両分野で実績を持つ企業のノウハウを集め、参加企業の新規参入や収益拡大につなげる。次世代自動車は、HV,EV、FCVなどの技術研究が中心になる。(日刊工業新聞10年9月17日)

3.SOFCの開発と実証
(1)産総研
 産業技術総合研究所はSOFCのセル内における酸素イオン分布を可視化する技術を開発した。酸素の安定同位体を利用し、FC中での酸素イオンの濃度や拡散の状況を見ることができる。高性能電極の設計や劣化メカニズムの解明によるSOFCの高性能化につながると期待される。具体的には、酸素や酸素イオンの動きを捉える"ラベル元素"に酸素の安定同位体を使用、2次イオン質量分析計(SIMS)で安定同位体酸素原子の濃度分布をμmの高解像度で測定する。高温運転中の実用機セルスタックに安定同位体酸素を導入しながらFC反応を行わせ、その後室温まで急冷し、固体中の同位体酸素濃度分布を測定することにより、実用機セルの酸素がイオン化反応を活性化させる部位を可視化することができた。今後は様々な条件で動かしたセルスタックの酸素イオン分布を測定し、酸素がイオン化することによる抵抗発生起源の機構を解明する他、長時間運転したセルを分析し、劣化メカニズムの解明につながる情報を探る。(日刊工業新聞10年9月6日)

(2)トヨタ自動車等
 トヨタ自動車は大阪ガス、京セラ、アイシン精機と共同開発を進めている家庭用SOFCで、量産をにらんだ改良機の実証実験を始める。部品の品質が一定程度ばらついても稼働する設計を採用、量産時と同様の手順で製造した部品を使い、性能を問題なく発揮できるかどうかを確かめる。早ければ2011年度にも開発を完了し、需要次第で量産に入れる体制を整える。昨年12月から取り組んでいる先行実験では、部品を特別に作り込んだ試験機を使って、発電効率や省エネ性能を確認したが、今回は量産向けの設計や部品を試してコスト低減の可能性を探り実用化へ一歩近づける。上記4社はSOFCの改良機を、ガス会社を通じて実際の住宅に設置、今月に20台規模の実験を始め、今年度内を目途に50台規模まで拡大する方針である。(日本経済新聞10年9月6日、毎日、電気新聞9月8日)
 トヨタ自動車とアイシン精機は9月7日、家庭用SOFCの2010年モデルをNEDOに提供すると発表した。09年度に引き続いての事業で、本年度は約60台を提供する予定としている。これを用いた家庭用コージェネレーションシステムは、両社と大阪ガス、京セラの4社で共同開発しており、実証研究事業には北海道ガス、東京ガス、東邦ガス、大阪ガス、西部ガスが参画している。(日経産業、日刊自動車新聞10年9月8日)

(3)大ガス
 大ガスは9月7日、京セラ、トヨタ自動車、アイシン精機と共同開発した家庭用SOFCコージェネレーションシステムの実証実験を開始したと発表した。10年2月までに供給エリア内の戸建て住宅に従来機よりも効率性、耐久性を高めた新型機を41台設置、NEDOの研究開発プロジェクトの一環として実施する。主な仕様は、定格出力が700W、発電効率が75%(LHV)以上、廃熱回収効率が40%(同)以上、貯湯タンク容量は90L、貯湯温度が約70℃で、排熱利用給湯暖房ユニットは大阪ガスと長府製作所で共同開発した。新型機はモジュールの断熱性を高めることで部分負荷効率を向上させたほか、集電材のコーテイング材改良や脱硫剤の増量によって耐久性を向上し、脱硫剤は10年間入れ替え不要とした。又貯湯タンク容量を増やし、補助熱源機を潜熱回収型とすることでエネルギー利用効率を高めた。又CO排出量を約5%、運転コストを約15%削減できるという。(毎日、電気、日刊工業新聞、化学工業日報10年9月8日、電波新聞9月9日)

(4)物質・材料研究機構等
 物質・材料研究機構とイタリア・ローマ大学の研究グループは、SOFCの電解質のイットリウム添加ジルコン酸バリウム(BZY)において、電気の流れを遮る結晶粒界がない膜として作製することに成功した。作動温度350℃におけるプロトン伝導率としては、これまで報告されているSOFC電解質で最大値を記録、更に得られた伝導率は、この温度領域で安定な酸素イオン伝導体が持つ最高性能の伝導率と比べて極めて大きいことが明らかになった。製法としては、短い間隔でレーザーを当ててプラズマを発生させ、放出された原子、分子を基板上に堆積する"パルスレーザー堆積法"を使って結晶粒界のないBZYを製膜した。BZYの焼結ペレットの伝導率は、新製法のこれと比べて1/100、しかし結晶内で伝導率が高いことは以前から知られていた。(日本経済、日経産業、日刊工業新聞10年9月20日、化学工業日報9月22日)

4.FC関連要素技術の開発研究
(1)電気通信大学
 電気通信大学はFCの反応原理や触媒構造を明らかにする研究プロジェクトを本格始動させる。NEDOの"PEFC実用化推進技術開発"事業に3年間、20億円のプロジェクトで採択された。推進母体としてFCイノベーション研究センターを設置、9月2日に開所式を開く。12年までに13億円をかけて大型放射光施設"Spring-8"に「先端触媒構造反応リアルタイムXAFS計測ビームライン」を建設、白金触媒の反応原理や効率的な触媒の形を解析して、FCの発電効率を向上させ、白金の使用量を減らすなど、コスト低減につながる指針を得る。新型機では従来の解析法に比べて時間分解能が1/10の800μsecに向上し、白金表面で水素と酸素が反応する課程を経時的に観察することできる。又空間および深さ分解能がそれぞれ200nmおよび1―10μmと優れており、機能する白金触媒がどこにあるか、白金が溶けだしていないかなども観察できる。(日刊工業新聞10年9月2日、電気新聞、化学工業日報9月3日、朝日新聞9月7日)

(2)岐阜県産業技術センター等
 和紙を炭化させ、電気を通す媒体として活用する技術を、岐阜県産業技術センター紙研究部と岐阜、愛知両県の企業が共同開発した。和紙製の"炭素紙"は、炭素繊維を使った製品より電気抵抗率が低くコストも安いとして、FC部材として利用を期待している。和紙は1990年頃から国内需要が頭打ちな状態のため、用途を広げようと炭化による電導性部材の開発に着手、加熱しても燃え尽きないよう特殊な化学繊維を原料に使う他、虫眼鏡で光を集める原理を応用した新たな炭化技術も開発し、効率的に熱を加えて炭化させる炭素紙の製造に成功した。電気を通す炭素紙は、FCの水素を拡散させる部材としての利用が期待される。(中日、岐阜新聞10年9月9日)

(3)東邦テナックス
 帝人子会社で東邦テナックス(東京都)は9月13日、電極のガス拡散層(GDL)基材となる炭素繊維織物を開発したと発表した。従来は樹脂と合わせたシート状の炭素繊維が使われていた。織物にすることで部材の排水性能が改善し、FCの機能向上が期待できるという。シート状に比べて部材表面の穴が1.5倍に拡大するため、水の通りが良くなる。炭素繊維は織物にするとコストがかさむという欠点があったが、同社は独自技術による製法改良で低コストでの製品化を実現した。織物にするとロールに巻き取れるため、製造効率の改善も見込めると云う。今月下旬から販売を始め、2015年に売上高10億円を見込む。(日経産業、日刊工業、日本繊維新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報10年9月14日、繊研新聞9月15日)

5.エネファームの事業展開
(1)大ガス
 大阪ガスはエネファームの販売台数が、4〜7月で920台(契約ベース)と順調な滑り出しを見せている。毎月200台を超えるペースで、10年度目標の1700台以上、09〜10年度合計で3000台を達成するのは確実とみられる。エネファーム、エコウイルの家庭用コージェネと太陽光発電を組み合わせたW発電も積極的に売り込む。9年度は8月に上方修正した目標の1300台に対して、最終的に1386台まで数字を伸ばしたが、10年度は公的補助総額に上限があることや、各ハウスメーカーの目標との整合性もあり、現時点で上方修正は考えていないという。更なる普及拡大に向けては、価格低下が大きな課題であり、将来的には50万円程度を目指すとともに、もう1つの課題信頼性に関してはアフターフォローを適切に行う。(電気新聞10年8月27日)

(2)日本海ガス
 日本海ガス(富山市)9月2日、富山市黒崎のショールーム"プレーゴ"をリニューアルオープンした。屋外に太陽光発電とエネファームのダブル発電システムを設置、ショールーム内にはその発電量やCO排出削減量などが分かるモニターを設けた。ダブル発電の新システムは5年間で300戸の普及を目指す。(北日本、富山新聞10年9月3日)

(3)日本ガス協会
 日本ガス協会は9月3日発表した2009年度末時点の都市ガスコージェネレーションの稼働実績によると、累計設置件数は9万6626件と前年同期比19.7%伸びた。特に家庭用が9万kWで20.9%増しとなった。大半がエコウイルであるが、エネファームも2000〜3000台程度あったとみている。(フジサンケイビジネスアイ10年9月4日、電気新聞9月6日)

(4)積水ハウス
 積水ハウスが9月9日に発表した10年7月の中間連結決算によると、住宅版エコポイントなど政府の施策による後押し、太陽光発電やエネファームを導入した環境配慮型住宅の推進により、主力の戸建て住宅受注が好調で売上高は前年同期比10.6%増しの7387億円、最終損益は136億円の黒字(前年同期は23億円の赤字)を確保した。(朝日、毎日、日本経済、産経、日刊工業新聞10年9月10日、住宅新報9月14日)

(5)JX日鉱日石エネ
 JX日鉱日石エネルギーは、住宅用エネルギーモニター"エネウインドウ"を10月1日から発売すると発表した。太陽光発電とエネファーム導入の経済的効果を表示できる初めての住宅用エネルギーモニター。発電量や消費電力などのデータを収集・蓄積し、エネルギー収支や節電目標達成状況を確認できるようにしている。主な表示項目は、太陽光発電システムおよびエネファームの発電量と貯湯率など。希望小売価格は9万8000円。(産経、電気、日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報、フジサンケイビジネスアイ10年9月14日)

6.FCV&EV最前線
(1)現代自動車
 韓国の自動車メーカー"現代自動車"は、2012年末までにEVを2,500台生産すると発表した。同社は10月までにFC搭載型EV"ブルーオン"のハッチバック30台を韓国国内の複数政府機関に提供することを目指す。同社は10年1月、小型車"i10"がベースのEVを年末までに生産する方針を明らかにしていた。(フジサンケイビジネスアイ10年9月11日)

(2)トヨタ自動車
 トヨタ自動車はダイムラーとハイブリッド車の技術供与に向け交渉に入った。ダイムラー側からの要請を受け、技術供与に加え基幹部品の供給を検討する。両社はハイブリッド車に加えて、FCVなど次世代エコカーで幅広い協力関係も探る。(日本経済新聞10年9月16日、大阪日日、中日、中国、西日本新聞9月17日)
 トヨタ自動車と中国第一汽車集団の合弁会社"天津一汽豊田汽車(TFTM)は9月21日、2012年にもEVを量産する方針を明らかにした。独自の中国専用ブランドで発売する。品質を維持しながら外資ブランドより安い価格を実現し、中国EV市場でのシェア上位を目指す。TFTMはこのほどトヨタの小型車"ヴィオス"をベースにしたEVの試作車を開発、TFTMが08年に開設した研究開発所で量産化に向けた開発を進め、「早ければ12年に量産を始めて中国全土で販売する」という。(日本経済新聞10年9月22日)

(3)ダイムラー
 ダイムラーは現地時間の9月15日、A-クラスをベースとしたEVの量産を今秋から開始すると発表した。これまでコンセプトカーとして公開していたものを商品化する。ドイツ、フランス、オランダなど欧州諸国の一般顧客向けに約500台を販売する計画である。欧州の燃費計測企画"NEDC"基準で最高航続距離は200km以上を確保、容量36kWhのリチウムイオン電池を搭載している。100km走行に必要な電力を充電する場合、230Vの家庭用電源で8時間、400Vの充電設備で3時間かかる。他社のEVに見られない機能として、充電時に系統電源により空調を駆動する機能を搭載、フル充電状態で運転開始時から快適な室内環境を確保できる。ドイツのラシュタット工場で生産される。なお同社は09〜12年にEV生産のため、6億ユーロ(約670億円)を設備投資する計画を立てている。(電気新聞10年9月17日)

(4)中国自動車大手
 中国の自動車大手が相次いでEVを発売する。当初は中国政府が補助金を支給する一部都市で販売し、2015年までに量産体制を整えて全国販売する。大手10社のEVを柱とする新エネルギー車への総投資額は700億元(約8,900億円)規模に達し、新エネ車の生産能力は100万台規模になる見込み。EVの技術移転を迫る中国勢と、日米欧の自動車大手間の綱引きが激化してきた。BYDオート(広東省)は月末にもEV"e6"を広東省などで発売、価格は30万元と見られる。通常の車の3倍程度だが、政府の補助金6万元を利用できる見通し。湖南省にも量産工場を整備、独自開発のEVを11年度には3万台生産し、ダイムラーとの共同開発車を13年に量産開始、15年までにEVなど新エネ車で年30万台の販売、総投資額は3年間で300億元を見込む。(日本経済新聞10年9月18日)

(5)日産自動車
 日産自動車は9月21日、12月に発売する5人乗りEV"リーフ"に向けに、充電切れへの不安を解消するサポートサービスを提供すると発表した。携帯電話機から車両の充電状況を確認するといったITサービスに加え、電池切れ時に最寄りの販売店までレッカー車で運ぶ手配もする。利用料は1500円/月、利便性を高めてEVの本格普及を目指す。6か月毎の点検や初回車検の費用を負担するほか、充電切れなど緊急時に発生した費用を最大55万円まで補償する。(日本経済新聞10年9月22日)

7.水素生成・精製技術の開発
 東京大学大学院工学系研究科の前田助教、ペンシルベニア州立大学のトーマス・マローク教授らは、可視光で水を分解して水素を生成する高効率の光触媒を開発した。450nm付近の波長で量子収率は25%以上と、これまで知られていた水素生成触媒より高く生成速度も速い。同グループは酸素発生系の開発も進めており、水素発生系と連結して水を水素と酸素に完全に分解する太陽エネルギー変換システムを構築し、水素エネルギー社会の実現を目指す。前田助教らが用いたのはニオブ酸化物、色素増感型の水素発生系システムで、層状のニオブ酸を単層剥離すると自発的に筒状になりニオブ酸ナノスクロール材料が生成される。この材料とルテニウム系色素を用いると水素が高効率に生成できることを見出した。層状のニオブ酸と比べると量子収率は20倍以上となり、色素増感型水素発生系で用いられている酸化チタンに比べても10倍以上の性能を示すことがわかった。酸化ニオブは、正電荷と負電荷を帯びた面が重なって層状構造をとっているが、それを剥離すると筒状になり表面に負電荷を帯びた面が露出する。比表面積は200倍近くになり、正電荷を有するルテニウム系色素との強力な相互作用で高効率化したと考えられる。(化学工業日報10年9月21日)

8.水素FC関連計測センサーの開発と事業化
(1)倉元製作所
 基板製造加工の倉元製作所(栗原市)は、有機トランジスターを使ったガス濃度センサーの開発に乗り出した。岡山大の久保教授(分子界面化学)、ベンチャー企業のイデアルスター(仙台市)と共同開発する。使うのは久保教授が開発した有機トランジスターで、電子の移動度が高く、常温でも動作する炭化水素"ピセン"を活用、酸素や水素など不純物が吸着すると、電気抵抗が増すピセンの特性を利用する。酸素、水素、水分をそれぞれ10ppmの濃度で検知できるようにする。大きさは1.2mm四方、電圧5V以下で消費電力0.01mWの実現を目指す。試作段階の性能は電圧15V、検出濃度1万ppmで、大きさも4mm四方のため、最適な基板材料を探るなどの研究を行う。FC向けやガス警報装置などに向けた販売を考えている。(河北新聞10年8月26日)

(2)鶴賀電機
 鶴賀電機(大阪市)は、FCスタックの内部抵抗や電圧をセル毎に測定できる多点計測器"356M"を10月上旬に発売する。複数チャンネルのスキャナーを内蔵し、スタック内個別セルの電圧測定が1回できる。価格は5チャンネルタイプで21万円。年間100台の販売を目指す。スキャナーは最大40チャンネルまで増設可能、付属するソフトウエアを用いて、試験の制御と測定結果の保存ができることに加え、測定値と許容上限値を比較して判定する機能も持たせた。(日刊工業新聞10年9月11日)

9.DMFCの開発と事業展開
 フジクラは2011年度中にDMFCをOME販売することを決めた。出力は2Wで価格は1万円以下を想定、出力が数十Wのタイプまで製品群を拡充し、15年に事業売上高100億円を目指す。第1弾として大手スマートフォンメーカーが補助電源としてオプション販売する見込みである。フジクラが試作したDMFCの発電密度は105mW/cm2、寸法は幅140mm、奥行き25mm、高さ75mmで、カバンや大きいめのポケットに入るサイズにした。メタノール10mLで約16時間連続稼働し、携帯電話を2〜3時間でフル充電できるという。メタノールの供給にポンプを使わない構造にすることにより低価格化と小型化を実現した。小型FCは外出先などでさまざまな用途に使われるスマートフォンの普及に伴い、電池切れを補う電源として需要が伸びると見られている。09年末にDMFCを商品した東芝は新型機の開発を進め、パナソニックなども事業化を伺っている。(日刊工業新聞10年9月20日)

 ――This edition is made up as of September 24, 2010――

・A POSTER COLUMN

NEDOがドイツ当局と二次電池技術で連携
 NEDOは9月2日、ドイツ教育・研究省(BMBF)と次世代蓄電池技術開発の国際標準化や非競争領域についての情報交換に関する覚書(MOU)を6日に締結すると発表した。5月に米アルゴンヌ国立研究所との締結に続き2カ国目である。期間は2年間、蓄電池技術開発で世界をリードし続けるため情報収集のネットワークを広げる。
 利用技術と併せて標準化や二次利用、金属空気二次電池などのポストリチウム二次電池の開発を想定し「国毎のメリットを優先するのではなく、一段上のレベルで議論していく」考えであり、フランス、韓国、中国などとの連携も目指す。
 アメリカのオバマ政権は、二次電池分野をグリーンニューデイール施策の重点に置き、年間50万台のプラグインハイブリッド車(PHEV)の生産を支える生産能力構築を標ぼう、エネルギー先進研究計画局を新設している。韓国は産官でPHEV向けリチウムイオン電池開発に関する覚書を締結した他、中国もアメリカとEV開発についての協定を締結している。
MOUの具体的な内容は今後議論して決定するが、政府系研究機関や大学同士の連携を想定する。NEDOとしてはドイツ政府系研究機関のユーリッヒ研究所と具体的な取り組みを検討する。国内の産業技術総合研究所や京都大学などの研究機関と、ドイツ側の産総研に相当するフランホーファーやミュンスター大学が中心になる蓄電池研究クラスター"MEET"、同国南部を拠点とする太陽光・水素エネルギークラスター"ZSW"などを巻き込んだ活動を展開したい考え。開発目標としてはトライ&エラー方式ではなく、原理的計算によって設定したエネルギー密度などを共通ターゲットとして協調するなどが考えられる。
(電気、日刊自動車新聞、化学工業日報10年9月3日、日経産業新聞9月22日)

トヨタ、日立、パナ電工が日本風力開発と次世代送電網実験をスタート
 トヨタ自動車と日立製作所、パナソニック電工の3社は、風力発電大手の日本風力開発と青森県六ケ所村でスマートグリッドの実証実験を今週から始める。送電網や戸建て住宅を新設、自然エネルギー100%の電気を効率良く使う技術を開発する。実験期間は2012年までの約2年間。
 トヨタ、パナ電工、日本風力開発の3社が各2戸ずつ、電力を有効に利用する仕組みを備えた住宅"スマートハウス"を村内に完成させた。技術者などが実際に生活し、車や蓄電池への充電を繰り返すことで改善点を絞り込む。トヨタは家庭用電源で充電できるPHEVを住宅の敷地内に置き、車載蓄電池を住宅用の蓄電池として活用したエネルギーシステムを稼働させる。スマートハウスの一部には太陽光発電パネルや小型風力発電機もつけ、複数の電源を使って車に充電する際の課題などを検証する。日立は各住宅に通信機能を持つ電力計"スマートメーター"を設置、発電量と消費量を常時把握してコントロールセンターへ情報を送るとともに、同センターの指示で家庭の電力消費を抑える仕組みを研究する。電源には、日本風力開発が六ケ所村に保有する風力発電所と、日立が建設した100kW太陽光発電設備を使う。センターでは、メーターから送られる需要側のデータを見ながら、発電設備に付けた蓄電池を利用し、電力量を制御する技術の確立を目指す。
 実験で使う送電線は日本風力開発が独自に架設した。わざと停電させるなどして実験室では難しかったデータを集め、各社の技術向上につなげる考えである。実験は政府の補助を受けず、参加企業の資金で実施する。企業は実際の生活に近い環境での技術開発を急いでおり、トヨタなどは今回の実験に踏み切った。
(日本経済新聞10年9月15日)