第172号 新エネ導入の集合住宅型スマートハウス
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体の施策
3.SOFCの開発研究
4.エネファーム事業展開
5.FCV&EV最前線
6.水素生成・精製技術の開発
7.水素利用型蓄電池の開発
8.FC本体および関連機器の事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)経済産業省
 経済産業省は国際電気標準会議(IEA)の2014年大会を東京に招致する方針を固めた。安全、安心、環境、エネルギー、社会インフラの3つをコンセプトに掲げ、関連する委員会を集中開催、世界各地で社会的要請と市場ニーズが高く、日本の技術力を生かせる3分野で標準化の議論を主導する。9月に開くJISCの総会で正式決定し、10月にアメリカのシアトルで開催されるIEC2010年大会で招致を表明する。コンセプトに掲げる3テーマの内容は、省エネルギー技術、スマートグリッドとそれを活用した都市開発、鉄道などのインフラ高度化、電気自動車、蓄電池、FCなどである。(日刊工業新聞10年7月30日)
 経済産業省は、再生可能エネルギーの全量買取制度導入を前提に、11年度から事業者の新エネルギー導入を支援する補助金制度をリニューアルする。太陽熱や雪氷熱、温度差エネルギー利用、天然ガスコージェネレーション、FCなどに絞り、全量買取制度でカバーする太陽光発電や風力発電などは対象外となる。(化学工業日報10年8月6日、電気新聞8月10日)

(2)産業革新機構
 官民出資ファンドの産業革新機構は民間企業と連携し、大学や研究機関が持つ未利用特許を買い取り、ベンチャー企業などに技術を移転する"知的財産ファンド"を年内に設立する。日本が強みを持っている先端技術の実用化を促し、国際競争力を高めたい考えである。投資対象分野は、FC、ナノテクノロジー、ライフサイエンス、次世代リチウムイオン電池、太陽光発電、次世代光通信システムの中核部門"光スイッチ"など。未利用特許を管理するJSTと連携する。(日本経済新聞10年8月5日、朝日新聞8月7日)

(3)環境省
 家庭からの温室効果ガス排出を減らすため、環境省は8月24日、家庭用FCなどエコ製品のリース業者への助成として、新年度の概算要求に約40億円を計上する方針を決めた。"エコリース事業"と名付け、政府が特別枠として設けた"政策コンテスト"に同省の目玉事業として提出する。リース業者がリース用の太陽光パネルや高効率給湯器、EVなどのエコ製品を購入する際、同省が資金の一部を助成する。(読売新聞10年8月25日

2.地方自治体の施策
(1)福岡県など
 福岡県と水素供給・利用技術研究組合(東京都)などは共同で、水素エネルギーの試験的な利用地域として計画されている北九州水素タウン(北九州市)の整備を始めた。2010年度中にマンション7戸やモデルハウス3戸、商業施設1カ所など合計13カ所にFCを設置して実証試験を始め、北九州水素ステーション、FCフォークリフト、FCアシスト自転車も水素タウン内で稼働させる。水素は新日鉄八幡製鉄所からのパイプライン約10kmに合計3kmのパイプラインを新設してFCに直接供給する。総事業費は十数億円を見込む。福岡県では既に福岡水素タウンが08年度に整備され、省エネ効果などの検証を始めている。(日刊工業新聞10年7月30日)

(2)北陸クリーンエネルギー研究会
 北陸クリーンエネルギー研究会は、8月25日にアルミ付き紙パックなどアルミ系廃棄物を利用して発生させた水素によるライトアップをJR福井駅西口芝生広場で行う。同研究会アルミ水素部会は、自治体や住民組織の協力でアルミ系廃棄物を回収、高純度のアルミを分離し、カートリッジ化して水素を発生させる技術を開発した。点灯デモンストレーションは2回目で、今回はアルミと水酸化ナトリウムを化学反応させて水素を発生させる装置を公開、装置と繋いだFCによりLEDを点灯させて、県立恐竜博物館特別展のPR看板と恐竜のレプリカをライトアップする。(福井新聞10年8月25日)

(3)兵庫県
 兵庫県企業庁は、芦屋市にある潮芦屋の環境配慮型住宅(エコタウン)ゾーンを積水ハウスに一括分譲すると発表した。同社はエネファームや太陽光発電パネルを備えた住宅を建設し、2011年1月から住宅を販売する計画である。(建設通信新聞10年8月26日)

3.SOFCの開発研究
(1)東大
 東京大学エネルギー工学連携研究センターは、東京電力の寄付による"低炭素社会実現のためのエネルギー工学寄附研究ユニット"を設立した。今後3年間に、低炭素社会実現のための具体的なロードマップの検討、大規模発電設備の高度化と再生可能エネルギーの活用、産業界に貢献できる学生の育成、について研究する。橋本特任教授、原同大特任講師の2人が専任となる。発電設備の高度化では、ガスタービンと蒸気タービンにSOFCを加えた3つの複合発電で、現行53%から65%を超える高効率発電を狙う。石炭の場合は、石炭ガス化と組み合わせてクリーンなガス燃料として使い、効率55%を目指す。国内の全発電所の設備をこの方式に変更することで、年間2億1,600万トンのCO排出削減ができるという。研究ではトリプル複合発電の出力割合など最適化の検討と、SOFCの基礎科学的な研究も行う。更に石炭火力で間伐材を30%混焼するほか、ガス化・液化して液体燃料を製造する。ロードマップの検討では、日本政府が掲げた20年までにCOを25%削減するという目標達成のため、日本の技術力を反映した戦略的なロードマップを作成する。(日刊工業新聞10年8月7日、建設通信新聞8月9日)

(2)ヤマテック
 ヤマテック(東京都)は、SOFCセパレーター用合金の拡散接合法を開発した。SOFC用合金は拡散接合に向かないが、フェライト系ステンレス鋼"SUS430"を繋ぎにして接合することで0.3MPaの耐圧性を実現した。拡散接合は、金属同士を高温の真空炉で加圧して接合面の原子を拡散させて接合する工法であり、金属板を積み重ねることで複雑な流路を形成できる。供給ガスが反応する面積を広げるため、SOFCのセパレーターに拡散接合が使用されている。接合が不十分だとガス漏れの原因となる。成功したのは日立金属のフェライト系ステンレス合金の"ZMG"と、ドイツ・テイッセンクルップVDMの"クロファー"の接合で、両金属共金属原子が拡散しにくいが、表面の粗さを調整した"SUS430"の薄板を繋ぎとして挟み、SUS鋼の原子を拡散して接合した。試作料金は50万円からで、年5,000万円の売り上げを目指す。今後各メーカーの研究開発の需要を開拓する。(日刊工業新聞10年8月20日)

4.エネファーム事業展開
(1)東ガス
 東京ガスは8月11日、横浜市に太陽熱温水器や太陽光発電、FCなどを組み合わせた集合住宅型の"スマートハウス"を建設し、12年度から社宅として実証を始めると発表した。合わせて業務用建物への再生可能エネルギー導入促進や、地域冷暖房で清掃工場の廃熱を利用するための調査も実施する。横浜市が経産省の支援を受けて進める"横浜スマートシテイプロジェクト"の一環。東京ガスは11年度中に横浜市磯子区に社宅として地上4階建・20数戸の集合住宅を建設する。その屋上には各10kWの太陽光発電装置、太陽熱集熱装置を設置、バルコニー設置型の太陽熱利用ガス温水システム"ソラモ"数台、エネファーム10台を導入する。これらを家庭用エネルギー管理システム(HEMS)で制御し、再生可能エネルギーを優先的に利用することで、CO排出量を従来比3割削減する。(電気、日刊工業新聞10年8月12日、日本経済新聞8月24日)

(2)積水ハウス
 積水ハウス岡山シャーウッド住宅支店(岡山市)は9月から、快適な住まいを追求したセットプラン"ダブル発電(屋根瓦型太陽光発電システムとエネファーム)+ホームセキュリテイー住宅(防犯サービスやステンレス製システムキッチン)"の取り扱いを始める。 (山陽新聞10年8月5日)
 積水ハウス神奈川県営業本部は9月、LED照明、EV充電施設、太陽光発電と家庭用FCのW発電、の3点をセットした環境配慮住宅"グリーンファーストLED−かながわ"を発売する。40坪程度、家族4人のケースで、5.68kWの太陽光発電システムを設置した場合、生活時に排出されるCOをゼロにすることが可能、400万円弱の初期投資が必要になるが、売電や省エネの効果により約10年で回収できるという。県内での当初の年間販売目標は200棟、3年目は500棟を目指す。(日本経済、神奈川新聞10年8月18日、日刊工業新聞8月20日)
 積水ハウスは、2011年1月期にはエネファームの設置を2,400台にまで増やすことを目指す。ダブル発電の利点を訴え、CO排出をほぼゼロにする住宅"グリーンファーストプレミアム"の販売を強化する。積水ハウスの最高クラスの環境配慮型戸建て住宅で、平均価格は3,700万円程度(延べ床面積140m2強)。首都圏や中部、近畿圏を中心に営業を展開していく。(日経産業新聞10年8月25日)

(3)住友林業
 住友林業は従来の"住友林業の家"の環境性能はそのままに、太陽光発電やエネファーム、エコウイルなどの選択を可能にした木造住宅"New Solabo(ソラボ)"の販売を開始した。3.3m2当たり58万円〜(税込)である。(毎日新聞10年8月19日)

(4)FC普及促進協会
 FC普及促進協会が発表した10年7月末日時点での民生用FC導入支援補助金申し込み受理台数は1,307台(都市ガス仕様1182台、LPガス仕様125台)であった。又設置施設は戸建て住宅が95%以上を占めている。府県別では東京都:266台、神奈川県:209台、兵庫県:145台、大阪府:113台、愛知県:109台が続く。この補助金制度は、家庭用FCシステム"エネファーム"の導入予定者やリースなどの提供者を対象に、その費用の一部を支援するもので、09年度に続いて、10年度も実施している。(電波新聞10年8月19日)

5.FCV&EV最前線
(1)郵便事業会社
 郵政グループの郵便事業会社は、EVをベンチャー企業のゼロスポーツ(岐阜県)から大量調達する。2011年度に年間更新車両の1/3に当たる1,000台と、過去に例のない大型契約と見られる。EVは参入障壁が比較的低く、大手とベンチャーが競いながら普及が進む可能性が出てきた。ゼロスポーツのEVは富士重工業の軽自動車をベースに開発した。リチウムイオン電池、モーターなど主要部品を国内メーカーから調達し、愛知県内の工場で組み立てる。価格は自動車大手のEVより2〜3割安いようである。約8時間の充電で100km以上走行、荷物を積んだ集配業務ができる。荷室を充分確保したのが特徴である。(日本経済新聞10年8月16日)

(2)中国政府
 中国政府はEVを柱とする新エネルギー車の産業振興を主目的に、2020年までに約1000億元(約1兆3000億円)を投じる方針を固めた。財政支援で自国企業を優遇する戦略によって、20年に新エネ車を500万台普及させることを目指す。中国の工業情報化省が"新エネルギー車・省エネルギー車産業発展計画"の素案を作成し、関係省庁との最終調整に入った。EVとPHVを新エネ車の核と位置付ける。政府の方針を踏まえ、国有企業大手が"EV産業連盟"を近く組織する。中国第一汽車集団(吉林省)など自動車大手の他、電池の開発や充電スタンドなどを整備する意向の中国石油化工集団(北京市)など16社が参加する見通しである。中国がEVを後押しする背景には「世界的なメーカーを作り出したい」(工業情報化省幹部)との思いがある。又ガソリンも併用するハイブリッド車(HV)を軸とする省エネ車の開発、購入の支援では200億元を投じる。(日本経済新聞10年8月17日)

(3)浅草サンバカーニバル
 8月28日の"第30回浅草サンバカーニバル"で、パレードをホンダのFCV"FCXクラリテイー"が先導することになった。パレード終了後の同車は、商業施設"ROX"で展示される。(毎日新聞10年8月24日)

(4)トヨタ
 トヨタ自動車は8月25日、世界で販売する乗用車の燃費を2015年に09年度比で5%向上させる計画を発表した。トヨタは05〜09年度に平均燃費を19%高めており、15年度の目標は05年度比では25%の向上になる。対象は日本、米国、中国、欧州で販売する乗用車。ハイブリッド車の累計販売台数を10年代初頭にも500万台に増やすほか、家庭用電源で充電できるPHVやEVも拡充して目標を達成する。トヨタは12年からPHVやEVの市販に乗り出す計画で、FCVも15年までの商品化を目指す。環境取り組みプランには、車両1台作る際に発生するCOを12年度に01年度比で29%(世界)、国内で37%削減することも盛り込んだ。(日本経済、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ10年8月26日)

6.水素生成・精製技術の開発
(1)神鋼環境ソリユ―ション
 神鋼環境ソリューション(神戸市)は、日本原子力発電の東海第2発電所に、固体高分子電解質膜を使う"オンサイト型水素・酸素発生装置(HHOG)"を納入したと発表した。同装置は、純水を電気分解して高純度の水素ガス(純度99.999%)と酸素ガス(同99.9%)を発生させる。神鋼環境はFCV向け水素ステーションや家庭用FCにも利用を広げたい考えである。(神戸新聞10年7月29日、鉄鋼新聞8月5日)

(2)工学院大
 工学院大学の雑賀教授らは、アンモニアから安全・効率的に水素を生成する装置を開発した。加熱処理と触媒反応を組み合わせ、液体アンモニアを水素に分解、残留した分も水に溶かすなど除去する工夫も凝らし、水素のみを供給できるようにした。アンモニアには毒性があるため、システム内で循環する仕組みを採用、ヒーターと触媒を一体化させた電気加熱式触媒とすることで、装置の小型化を実現した。ルテニウム・アルミナ触媒を用い、形状もメタルハニカムとすることにより、高効率にアンモニア分解ができるようにした。試作装置では、1.2kWのFCにより、10Lのアンモニアで10時間の連続運転が可能なことを確認した。高圧水素に比べタンクの小型化につながるなどの利点を前面に、水素供給システムとして展開する。同教授は「廃プラ」由来のアンモニアや尿素を含む家畜のし尿などから回収したアンモニアを利用することで、トータルで収支を合わせたい」と話している。(化学工業日報10年8月11日)

7.水素利用型蓄電池の開発
 高砂熱学工業は水素の供給機能を備えた水素利用型蓄電池の試作機を開発した。これはアタカ大機、産業技術総合研究所と共同開発した水電解・FC一体型セル、および水や水素の貯蔵タンクなどで構成されている。発電出力は3kW、同社はこれを総合研究所の補助電源として活用する。研究所での利用を通じて蓄電機能の実用性を確認、除湿・加湿機構やポンプなどの周辺装置の小型化にも取り組み、実用化につなげる。発電所からの電力を夜間に蓄えて昼に供給するシステム、自然災害時の非常用電源、太陽光など自然エネルギーの安定供給、FCV向け水素供給源など幅広い用途が見込めるとしている。(日刊工業新聞10年8月25日)

8.FC本体および関連機器の事業展開
(1)コンセック
 建設工具製造のコンセック(広島市)はFCの量産に向け、本格的な検討を始めた。早稲田大学などと共同開発した装置を使うと高い発電効率が得られるため、競争力のある製品ができるとみて、2,3年後の製造開始を目指す。同社は4月、早稲田大学、照明装置開発のエックスネット(東京都)と共同で、小型の電子線照射装置を開発したが、FCの電解質膜に電子線を当てると発電出力を3〜5倍に高められることが分かり、事業化を進めることにした。早稲田大学では既に試作を進めており、今後は水素の容器メーカーなどパートナーの企業を探す。同社はテレビなどの家電を動かせる程度の小型装置の製造を予定しており、販売価格30万円を目指す。部品調達や組み立てのコストを下げるため、中国南通市の子会社を活用する方向で検討している。(中国新聞10年8月10日)

(2)萩原製作所
 小型ポンプ、水処理装置製造の萩原製作所(諏訪郡諏訪町)は、家庭用FC向けに、新型センサーの開発を進めている。同社の新型センサーは、燃料と反応させる水の中に混入するCOの気泡を検出、検出量に応じて燃料や水の量を制御し、気泡の発生を抑える。酸素と水素が反応する際に生じる気泡は、水素の発生効率を低下させ、又FCの損傷に繋がる危険が指摘されているという。独自開発のセンサーは構造が簡単なため低価格で、省エネや省スペースにも役立つといい、県テクノ財団の「技術シーズ育成事業」に採択された。(信濃毎日新聞10年8月10日)

(3)村田製作所
 村田製作所は、圧電セラミックスを用いた送風デバイス"マイクロブロア"を今秋から量産開始する。独自の圧電技術により小型・低背を実現した空気送風システムで、小型モバイル機器の冷却、FCなどの空気送風ポンプとしての利用を目指す。マイクロブロアは、共振駆動する圧電体とダイヤフラム、空気を溜めるポンプ室、空気を吐出させるノズルで構成される。圧電素子をダイヤフラムに貼り付け、振動させることでポンプ室の空気容量を変化させ、それによって外部から空気を引き込んでノズルから吐出させる仕組みである。空気を高速で出し入れするため、連続的な空気の吐出が可能で、冷却効果が高まる。空気を送るだけでなく、熱せられた空気を吸引することも可能。縦2×横2×高さ1.86mm、15V駆動時で2kPaの高い空気吐出圧を実現した。風量は1L/min。(化学工業日報10年8月12日)

(4)菊池製作所
 精密部品・金型メーカーの菊池製作所(東京都)は、微量の液体を送り込むマイクロポンプに参入する。2011年春にも従来のシリコンに替えてステンレスを使った低価格の使い捨てタイプを発売する。医療・分析機器や小型FC向け微量の薬剤や燃料を送り込むための道具として需要を見込む。ドイツの研究機関、フラウンホーファーIZM社が持つ微量液体に関する素子技術を応用して開発した。大きさは7mm角、厚さ1mm、指先に載るチップの形状で機器やマイクロFCなどに組み込んで使う。電気を通すと変形する圧電素子の振動でポンプが動く仕組みであり、液体を押し出す圧力は最大60kPaで、流量は最大1.5mL/minである。菊池製作所はこれまで1個ずつ製作していたが、金属薄膜を多層に接合する技術で、1枚のシートから複数枚取り出す量産化に目途をつけた。生産コストはシリコン製品に比べて1/10程度に抑えられるという。今後、液体のなめらかな送り出しなど性能テストを繰り返す。(日本経済、日経産業新聞10年8月26日)

 ――This edition is made up as of August 26, 2010――

・A POSTER COLUMN

石炭ガス化技術の多用途利用について検討と検証する
 中国電力とJパワーが共同出資する"大崎クールジェン"(広島市)は、酸素吹き石炭ガス化技術の多用途利用の可能性を検証する研究会を立ち上げ、7月30日に都内で初会合を開く。学識経験者や、鉄鋼、化学、ガス、石油の4業種から計8名が参加、発電以外に、燃料代替や水素製造などに活用できるかを検証する。
 国内の石炭ガス化技術の開発は、発電方式に優れている"空気吹き方式"とFCとのトリプルコンバインド発電による"石炭ガス化FC複合発電(IGFC)"への展開が期待されている"酸素吹き方式"がある。酸素吹き方式は、発電以外にも石油・天然ガスへの燃料代替や水素製造など、多用途への展開も可能とされている。研究会では、この多用途利用の可能性を検証する。学識経験者3人、産業界から4人、電力中央研究所から1人の合計8人が参加、会合は月に1度のペースで開催を予定する。
 ガス業界向け利用として、COをメタンに変換し、燃料として活用できるかを検証、又鉄鋼業界向けには、酸化鉄に水素を入れ、鉄を取り出す際の還元剤としての利用可能性を検討する。同社が実施する大崎プロジェクトは、10年度から2年間、酸素吹き石炭ガス化発電技術と、CO回収技術の最適モデルを検討・評価し、実証試験の詳細計画を策定、17万kW級の実証機を使い、16年度から3年間実証試験を行う。その後CO分離回収試験設備を追加で設置し、3年程度かけて実証試験を行う。
(電気新聞10年7月27日、フジサンケイビジネスアイ7月28日)

充電速く大容量・長寿命のリチウムイオン電池(LIB)を開発
 三菱化学やジーエス・ユアサコーポなど電池・材料各社が、EV用電池性能を大幅に高める技術を相次ぎ開発した。LIBに関する材料技術の開発で、短時間充電、大容量、長寿命の次世代電池の実現につなげ、2〜3年内の車載搭載を目指す。LIBは関しては、日本勢は電極材や絶縁材などの材料においては世界市場で8割のシェアを握っているが、技術的課題が多いほか、韓国や中国企業の追い上げが激しい。日本各社は電極材や素材を改良し、既存の電池を上回る性能を実験などで確認した。現在15時間かかる充電を1晩(約10時間)に短縮することや、数年程度の寿命を10年以上に延ばすことに目途を付けた。
 三菱化学は絶縁材の穴を工夫したほか、負極材に安価な天然の黒鉛を使うなどの改良を加え、1.5倍の速さで充電できるようになった。30分の充電で100km近く走れるようになる。戸田工業は、3元系材料を正極材に使い電池の容量を1.5倍に増やす技術を開発、日本ゼオンは負極材原料に使うゴム素材で電池の性能低下を抑えるタイプを開発した。ジーエス・ユアサは"リン酸鉄リチウム"を正極材に使って高性能電池を作ることに成功、価格が安く、かつ充放電を繰り返しても性能が落ちず寿命が長い。
(日本経済新聞10年8月10日)

稲わらなど繊維質バイオマスからのエタノール生産量を3割増
 神戸大学の近藤教授らは、稲わらなど食用にならない植物の繊維質からガソリン代替燃料のバイオエタノールを効率良く生産する技術を開発した。高温でも働く酵母菌に作らせる。生産速度は7割向上し、最終的な生産量は約3割増えると云う。量産向けに改良して実用化を目指す。
 バイオエタノールを作る場合、酵素でセルロースを糖にし、更に酵母菌でエタノールに変える。近藤教授らは酵母の表面に酵素を作らせて、セルロースからエタノールまで一度に処理できる遺伝子組み換え酵母菌の開発を進めている。ただ酵素が最も活動する45〜50℃では、従来の酵母菌はほとんど生産できなかった。このため酵母菌を高温に強い種類に取り換えた。48℃で試したところ、従来の技術よりもエタノールの生産量が3割ほど増えた。
 酵母菌はエタノールが一定の濃度を超えると働きにくくなる。今後はこうした高濃度の溶液中での反応などを高めて実用化を目指す。
(日本経済新聞10年8月23日)

2600万トンのバイオマス利用で5000億円規模の新産業創出計画
 2020年を目標とするバイオマス活用推進基本計画の概要が8月28日に明らかになった。間伐後に森林に放置された木材や食品廃棄物を使い、20年までに国内で1年間に消費される原油の1割に相当する2,600万トンのバイオマスを利用し、5,000億円規模の新産業創出を目指すとともに、COの排出削減につなげる。
 計画は9月に農林水産省、経済産業省、内閣府など7府省の政務官で構成するバイオマス活用推進会議で了承し、10月にも閣議決定する方針である。
 政府が新たなバイオマスとして注目するのが木材。火力発電所で木質チップを石炭に混ぜて燃料に使う動きが広がっている。11年度にも東京電力が常陸那珂火力発電所(東海村)で導入、東北電力はグループ会社が運営する酒田共同火力発電所で導入する。
 新産業の創出では農水省と経産省が連携、家庭や企業が太陽光やバイオマスなどで発電した電力を電力会社が全量買い取る制度を12年度にも始める。化石燃料の利用を抑えるとともに、国内の環境ビジネスを育成し、バイオマス利用量を20年までに09年度より1割増やす。
 基本計画では、飼料や肥料などに使う食品廃棄物、炭化燃料となる下水汚泥などの利用率向上も掲げた。食品廃棄物の利用率を現在の27%から40%、下水汚泥は77%から85%に引き上げる目標を明記した。
 新技術の研究では、湖沼などに生息する藻類を原料とした燃料開発の推進を提起した。他の作物に比べて繁殖が速い藻類の細胞にたまる油を取り出し、石油に代わる燃料を精製する仕組みを作る。自動車や飛行機などに使うガソリンや軽油などの代替エネルギーを抽出、量産できる技術を実用化させたい考えである。
(日本経済新聞10年8月28日)