第171号 水素による金属疲労に関する新しい発見
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体の施策
3.SOFC開発動向
4.PEFC要素技術開発
5.エネファーム主要部材開発成果のレビュー
6.エネファームおよびスマートハウス事業展開
7.エコタウン構想
8.FCV&EV最前線
9.水素ステーションに関する研究と事業化
10.水素生成精製技術の開発
11.水素貯蔵技術の開発
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
 総合科学技術会議は7月8日、政府が重点的に取り組むグリーンイノベーションとライフイノベーションを推進する具体的な研究テーマの検討を進め、11年度科学・技術重要施策アクション・プランをまとめた。アクション・プランのうち環境技術については、再生可能エネルギーへの転換やエネルギー供給・利用の低炭素化など4つの大きな課題を設定、その方策として太陽光発電や原子力発電の推進など9項目の方策を打ち出し、その中で11年度は、@太陽光発電、A木質系バイオマス、B蓄電池・FC、C情報通信技術による低炭素化、D地球観測情報を活用した社会インフラのグリーン化の5項目を重点施策として位置付けた。太陽光発電では、2020年に発電コストを14円/kWh、30年には7円/kWhにすることを、蓄電池とFCについては、20年に蓄電池のコストを06年比9割減、自動車用FCのシステムコストを80万円まで引き下げることを目標としている。その他スマートグリッドを構成する関連機器・システムの研究開発などの開発が挙げられている。(毎日、日本経済、東京新聞10年7月8日、電気、日経産業、日刊建設工業、建設通信新聞、化学工業日報7月9日)

2.地方自治体の施策
(1)三重県鈴鹿市
 三重県鈴鹿市は6月30日、三重大学と連携協定を締結、三重大学の協力を得て地元中小企業の技術力向上を図るとともに研究開発を支援する。EVやFCVなどの部品・部材を開発する次世代自動車研究会を始め、先端材料研究会、医療・介護・リハビリ機器研究会を立ち上げる。(日刊工業新聞10年6月29日)

(2)つくば市
 つくば市は、市DCモデルグリッド実証設備設置等事業の設計・施行一括方式公募型プロポーザルを公告した。内容は、供給から消費までを直接DCで供給する簡易型革新エネルギーシステム(DCモデルグリッド)の全容を形成するための設計・施行や、定期点検、安全管理で、具体的にはPEFC、太陽電池パネル、LiB、スマートメーター又はインテリジェント分電盤などの設置設備、LED、直流配電、圧縮水素ボンベなどの設計・施行等である。(建設通信新聞10年6月30日)

(3)福井県
 県などが進める"福井クールアース・次世代エネルギー産業化プロジェクト"のFCに関する産学官共同研究が、経済産業省の"戦略的基盤技術高度化支援事業"に採択された。12年度までの3年間、計1億円以内の委託費を受けて研究を進める。ステンレス系素材を表面処理することにより、低コストで薄く耐久性のあるセパレーターを開発する。研究に参画する企業や研究機関は、アイテック、西村金属、ケミックス(神奈川県)、福井大学、福井工業大学、福井県工業技術センター。(福井新聞10年7月6日、電気新聞7月8日)

3.SOFC開発動向
 同志社大学の稲葉教授と関西電力は、アンモニアを燃料に使うSOFCの基礎技術を開発した。セラミックスなどで電極などを作り、鉄やニッケルなどから成る化合物を触媒に使う。直径1.5cm程度の簡単なFCを試作した。アンモニアを燃料に700℃で運転したところ、水素を燃料とする従来機と同等の発電性能を確認した。3年後に出力1kW規模の試作機を製作する予定である。アンモニアは常温で液体であり、水素に比べて持ち運びが容易である。開発したSOFCを改良すれば、500〜600℃の低温でも稼働する可能性があり、電池の長寿命化が期待される。研究チームは事務所などの発電設備などの利用を想定しているが、海外で風力や太陽光など自然エネルギーで水を電気分解して水素を作り、空気中の窒素と反応させてアンモニアを製造、これを国内に運んでFCに利用するという将来像を描いている。(日経産業新聞10年7月16日)

4.PEFC要素技術開発
(1)九大と旭化成
 九州大学と旭化成の共同研究グループは、白金を使用しない電極触媒を開発、理論的な機構解明に成功したと発表した。活性炭に代用される吸着剤は、分子を取り込み吸着する役割を果たす物質で、物質内部に多数の細孔を有することから多孔性物質と呼ばれる。これまで同材料を電極触媒に応用する技術が注目されてきたが、今回同研究グループは、エタノールから極めて低い低電位で多孔性金属錯体の開発に成功し、精密な計算化学により吸着機構と触媒機構のあることを明らかにした。これによりFCの低コスト化とバイオマスを原料とするFCの開発が加速されるものと期待されている。(鉄鋼新聞10年7月2日)

(2)旭化成
 旭化成イーマテリアルズは、車載用FCを想定して、新規短側鎖型電解質ポリマーを試作した。NEDOからの受託事業により、同社は高耐久膜の開発に取り組んでおり、ダイキン工業に再委託することで、低湿度プロトン伝導性に優れる短側鎖型電解質ポリマー(超低EWポリマー)の合成に成功、更に同ポリマーの乾湿寸法変化の抑制と強度向上も実現している。これと高温耐久性技術を組み合わせることで車載膜を作製、120℃、40%RH(相対湿度)の条件下で、1A/cm2以上、0.6V以上の出力特性を確認、 500時間以上の耐久性を実証した。膜の分解にともなうフッ素の溶出も長時間にわたって抑制できたという。又80℃、40%RHの環境下では2000時間以上の耐久性を確認、現在も運転を継続している。今後、性能や生産プロセスの改良に取り組み、車載用として高温低加湿に対応し、幅広い動作環境で高性能を示す実用的な耐久性のあるフッ素系電解質膜の開発を目指す。(化学工業日報10年7月12日)

(3)日立製作所と日立電線
 日立製作所と日立電線は、PEFC用長寿命で超軽量なセパレーターの高機能化を促進する。両社は先進的な軽金属材料として、重さが同厚ステンレス鋼の半分の、アルミ合金コアにチタンを被覆したチタン・アルミニウム・チタンクラッド材(TAT材)に注目、これをセパレーターに適用する研究開発に取り組んでいる。厚みを現試作品の1/2レベルまで抑えるとともに、連続発電寿命も5000時間以上の実証を果たした。日立電線は、TAT材、高導電性表面処理技術、セパレーター量産技術を担当、TAT材の薄肉化では、両面のチタンとアルミコアの接合層に適切なアルミ合金を配し、均一なクラッドを形成したうえで当初目標の0.3mm以下をクリアして0.2mmを達成した。今後は更に技術改良で0.1mmを目指す。30mの長尺材を用いた連続均一表面処理技術も確立し、バッチ式で1/10の低コスト化に目途を得た。従来比30%の膜厚で導電性が得られ、表面処理用貴金属の使用量はストライブコートによってほぼ半減し、コストダウンを図った。一方日立製作所は電池劣化に及ぼす材料の影響評価、電池化技術の開発、発電寿命の評価を実施、単セルで5000時間を超える連続発電に成功し、正極厚が半分の厳しい条件下でもセパレーター表面の接触抵抗がほとんど増加しないことを実証した。今後定置用で求められる数万時間の性能を引き出し、実用化への道を開く。(化学工業日報10年7月15日)

(4)京大
 京都大学物質−細胞統合システム拠点の北川教授らの研究チームは、紫外線を当てると酸素やCOを吸い取り分解する物質を作製した。金属錯体という微小な穴を多数持つ材料に、紫外線を照射してガスを捕える。同教授らは、COを取り込むことができる"ナイトレン"という物質にあらかじめ窒素分子をくっつけて冬眠状態にし、硝酸亜鉛などを混ぜ、直径約0.5nmの極微の穴が無数にあいた粉末状の物質を合成、酸素やCOだけに反応する化合物のアジドを錯体の表面に組み込んだ。この物質に紫外線を当てると、窒素分子がはずれてスイッチが入り、温度に関係なくCOを穴の中に吸着した。半導体用シリコンウエハーなど、酸素を除去する工程や、PEFCにおけるCOの除去に応用できる。FCに対する応用では、膜状にして触媒が付着する電極を覆うことにより、COを効率良く除去できる可能性があり、又塗料に混ぜてガス給湯器などの表面に塗れば、不完全燃焼により生じるCOを除去できる。5〜10年後の実用化を目指す。(読売新聞10年7月24日、日本経済新聞7月26日、日経産業新聞7月27日)

5.エネファーム主要部材開発成果のレビュー
(1)住友化学、旭硝子、日本エネルギー学会
 住友化学は、プロトン伝導性の湿度依存性を低減した炭化水素系電解質膜を開発、高温低加湿でセル電圧をフル加湿と同等レベルまで高めた。同社はブロック共重合体の1次構造を改良し、プロトン伝導性の湿度依存性を低くした炭化水素系電解質膜を開発、高温低加湿運転での初期セル電圧は目標をクリアした。化学耐久性が高い電解質膜も開発、これはセル電圧の経時低下を更に抑制する上で有効となる。旭硝子は、軟化点が高く、低加湿領域での伝導率低下が小さいポリマーを選定するなど、今後これらの研究成果をFCの低コスト・高性能化に反映させる。

(2)日本エネルギー学会
 日本エネルギー学会は、エネファームの低コスト・高性能化に資するスタック主要部材の基盤技術開発プロジェクトを主導、部材の改良や水分輸送制御方法などの検討を通じ、高温低加湿運転における高セル電圧の確保と、経時電圧低下の抑制の両立に目途をつけた。

(3)パナソニック等
 旭硝子とパナソニックは、旭硝子が選定したポリマーを電解質膜とバインダーを用い、低加湿用触媒を組み合わせた新仕様のMEAを作製、高温低加湿条件で当初目標の750mV以上を達成した。又起動停止シーケンスの改良や電解質膜の補強などによって、起動停止による電圧の低下を抑制し、膜材料の機械劣化に対する耐性を高められることを明らかにした。同プロジェクトでは、対向流の採用や起動時の低温過剰加湿運転モードの追加などによって、不純物のセルへの影響を軽減できる可能性なども確認している。
 エネファームについては、2012年頃までにシステムコストを現状の6割程度に引き下げ、耐久性を2倍に高めるロードマップがあり、これらの技術開発成果が反映されることになる。 (化学工業日報10年7月12日)

6.エネファームおよびスマートハウス事業展開
(1)大ガス
 大阪ガスは6月29日付で、リビング事業部内に"家庭用コージェネレーション開発部"を発足させた。発足当初の人員は77人。エネファームに関する耐久性・信頼性、コストダウンに向けた技術開発に加えて家庭用SOFCの市場導入に向けた技術開発、およびエコウイルの商品性向上が主な業務内容、エネファームは09年6月に販売を開始して以来累計販売台数が1,860台となり、うち4割は太陽光発電とのW発電として採用されている。(電気、日刊工業新聞10年6月30日、電波新聞7月1日、化学工業日報7月5日)

(2)FC普及促進協会
 FC普及促進協会が発表した09年度の民生用FC導入支援補助金の申し込み受理台数は5,258台(都市ガス仕様3,814台、LPガス仕様1,444台)で、戸建住宅が8割を占めた。(電波新聞10年7月2日)

(3)東ガス
 東京ガスは集合住宅内の住宅間で電力、熱などを融通し合う"集合住宅版スマートハウス"の実証試験を2011年度にも自社の社宅で着手する。太陽光発電や太陽熱利用給湯器、家庭用FCなどを導入し、それで得た電力、熱などを複数の住宅に供給するシステムを東ガスの社宅に採用する。太陽光発電と太陽熱利用給湯器で再生可能エネルギーを取り入れつつ、出力の変動分はFCで補う。又発生した電力を有効活用するために蓄電池を設置、自動車メーカーと連携してEVを集合住宅の蓄電池として活用することも検討している。このほか建物の断熱や採光、通風を工夫して省エネルギー性の高い構造にする。実証を通じて課題を探り、従来の集合住宅に比べて
CO排出量を25%以上削減することを目指して、商用化につなげる。(日刊工業新聞10年7月7日)
 東京ガス宇都宮支社はエネファームの販売を始めた。(下野新聞10年7月8日)

(4)住友林業
 住友林業は、環境に配慮した木造注文住宅"Solabo(ソラボ)"について、選択できる太陽光発電システムを拡大するとともに、エコウイル、エネファームも搭載可能とした。今回のリニューアルで、LPガスエリアでもエネファームの設置が可能となった。(電気新聞10年7月9日、住宅新報7月13日)

(5)パナホーム
 パナホームは7月23日、滋賀県東近江市の本社工場で、太陽光発電や家庭用FCを備え、畜熱器やLED照明などを採用した省エネ実験住宅を公開した。実験住宅は2階建て、延べ床面積は135m2、屋根に発電出力4kWの太陽光パネルを設置してFCを併用、蓄熱機能を持つ床や部屋間で熱を融通できるシステムを備える。又空調や照明はパナソニックグループの最新の省エネ製品を揃えている。パナソニックグループと東京大学の産学連携による開発で、CO排出量を計算上0にした。すなわち、CO排出量を一般的な木造住宅の4.5トン/年に対して1.5トン/年に抑え、この1.5トン分を住宅内の発電で相殺する。将来はリチウムイオン電池を導入し、余剰分を充電して夜間に使用することも視野に入れている。実際に4人家族が生活する実証実験後、11年度中に商品化する予定。(毎日、産経、東京新聞10年7月24日、日刊工業新聞7月26日)

7.エコタウン構想
 都市再生機構茨城地域支社は6月28日、つくば市のつくばエクスプレス研究学園駅周辺に、CO排出量の大幅削減を目指した大規模住宅街(約27ha、一戸建て住宅約1,000戸)を整備すると発表した。2011年度末を目標に、住宅街全体でCO排出量70%削減を実現した先導的モデル地区(約7,6ha、200戸)で分譲をスタートさせる意向である。建設する住宅には、高性能の太陽光発電システムやFCなどを導入する他、高木植栽による緑陰効果で冷房エネルギーの削減を目指す。又街路灯にはLED照明、道路には保水・遮熱性舗装を装備、自動車の2台目駐車場を共同化するなどを実現する。(茨城新聞10年6月29日、日刊建設工業新聞7月2日)

8.FCV&EV最前線
(1)関西の中小企業
 関西でFCVやEVの製造関連プロジェクトが相次いでいる。マール金属製作所(八尾市)をはじめとする産学官のグループは、FCV自動製造装置の開発に着手した。FC自動製造装置に目を付けたのは、「FCは現在、大半が人手で組み立てられる。これを自動化すれば、数千万円とも予想される市販FCVの価格低減に役立つ」と思われるからである。一方、淀川製作所(守口市)は異業種と協力して簡易EVを試作した。「リチウムイオン電池の価格がもっと下がれば、EVは急速に普及するかも知れない」と事業化に期待を膨らましている。(日刊工業新聞10年6月25日)

(2)上海汽車集団
 中国最大の自動車メーカー"上海汽車集団"は第3者割当増資を実施して最大100億元(約1,320億円)を調達、独自ブランド車や環境対応車の研究開発を強化する。環境対応車の開発には約13億元を振り向け、2010年には"栄威"ブランドのハイブリッド車を販売、12年にはFCVおよびEVの販売を目指す。同社は09年に272万5000台を販売し、初めて200万台の大台を超えた。(日本経済新聞10年6月28日)

(3)ドイツ自動車大手
 ドイツ自動車大手がEV事業の本格展開に向けて動き出した。アウデイやBMWは生産拠点を選定、アウデイはネッカースウルム工場で12年末に発売予定の高級EV"イー・トロン"を生産することを決めた。BMWは13年発売予定の小型EVをライプチヒ工場で量産することを決定済みである。ダイムラーは独エネルギー大手のEnBWと組み、本社のある独南部でEVやFCVなど計200台を投入する大規模実証実験に乗り出す。11年末までに州内に充電スタンドや水素供給スタンドを700カ所以上設置する計画で、州政府も14年までの5年間で2,850万ユーロを支援する。欧州各社は2013年前後にEVの本格販売に相次ぎ乗り出す予定で、コスト低減に向けた提携も進む可能性がある。(日経産業新聞10年7月1日)

(4)トヨタ
 トヨタ自動車が11年末に発売予定の家庭用電源で充電可能なプラグインハイブリッド車(PHV)の価格を300万円以下とする方向で検討していることが分かった。車載用リチウムイオン電池の量産化などで製造コストが下げられると判断、ライバル各社のEVよりも価格を70〜100万円安く設定することにより、PHVで世界のエコカー分野を主導したい意向である。09年12月、600台限定で発売した法人向けのプリウスPHVは525万円だが、電池量産化の他、HV生産で培った原価低減のノウハウを生かせば、大幅な価格引き下げが可能と判断した。(産経新聞、フジサンケイビジネスアイ10年7月19日)

9.水素ステーションに関する研究と事業化
 高圧ガス保安協会は、FCVに水素を充填する水素ステーションにおける基準整備の研究開発に着手する。自動車メーカーは現在、貯蔵する水素ガスの圧力を70MPaと想定しているが、今後整備する水素ステーションには、100MPa程度の高圧水素を貯蔵、供給するインフラを用意する必要がある。現在、水素容器への使用に想定されている鋼材はSUS316Lのステンレス鋼であるが、これを高圧水素の容器に用いると肉厚が大きくなり、製造面、使用面の双方で取り扱いが難しくなる。このためより強度があり、高圧水素の容器に適した鋼種の検討を進める必要がある。より多くの水素を貯蔵できるよう容器の耐圧を高める鋼材の研究などを2012年まで行い、それに基づいた容器の技術基準の策定を検討する。この他、配管などの設備についても肉厚などの設計基準の整備を推進する。又水素ステーションに水素を配送する際に用いる繊維強化プラスチック(FRP)容器も、高圧化の研究を行い、水素の貯蔵量を増やして水素輸送の効率化を図る。NEDOの委託事業で、10年度の事業費は3000万円、石油活性化センターと連携して進める。(日刊工業新聞10年7月23日)

10.水素生成精製技術の開発
 名古屋大学工学研究科の湯川助教らは7月14日、大分工業高等専門学校、鈴鹿工業高等専門学校と共同で、水素透過金属膜を開発したと発表した。ニオブをベースとした合金膜で、水素透過速度は既存のパラジウム合金膜に比べて約5倍の速さを記録、更に材料コストも1/1000に抑えられる。ニオブは透過性能が高い金属であるが、水素が溶け込むことでもろくなる水素脆化が実用化の障壁になっていた。水素透過速度はパラジウム合金膜が約10モルに対してニオブ合金膜は約57〜58モルである。今回、ニオブにタングステンやモリブデンなどを添加して合金化することにより水素脆化を克服した。ニオブはレアメタルの中では比較的資源量が豊富であり安価なため製造コストの大幅な低減につながる。(日刊工業、中日新聞10年7月15日)

11.水素貯蔵技術の開発
 九州大学村上副学長(金属疲労学)の研究班は7月1日、水素と金属疲労の関係に関する研究で、金属の水素含有量を通常の20倍超にすると、強度が上がることが分かったと発表した。金属は水素を多く含む程強度が下がるとされてきた定説を覆すもので、アメリカの学会誌にも掲載される。研究班は直径7mm、長さ10cmのステンレス鋼で水素含有量を変え、伸縮を繰り返す耐久テストを実施した。含有量は通常2.2ppm程度のところ、これを約50倍の109.3ppmにまで増やし、長さ3mmの亀裂が入るまでの伸縮回数を調べたところ、通常のステンレス鋼は8,200回であったのに対して、水素含有量が50倍では3万2,600回と強度が約4倍になった。研究班は、金属原子のすき間に侵入する水素は当初強度を弱める働きをする半面、密度が高まると逆の働きをするとみて分析を進め、強度が増すのは水素含有量が通常の20倍を超えてからと判明した。村上副学長は「これまで水素による金属疲労を防ごうと、過度に耐久性の高い設計をしていた水素関連施設や水素燃料自動車を、適度な耐久性で建設・製造することができるので、コスト削減や水素エネルギーの普及につながる」と述べている。(西日本新聞10年7月2日、日刊自動車新聞7月3日、日経産業新聞7月8日、フジサンケイビジネスアイ7月19日)

 ――This edition is made up as of July 26, 2010――

・A POSTER COLUMN

山梨大学を中心としたNEDOプロジェクトのPEFC要素技術研究成果
 PEFCの革新的な技術開発に取り組む山梨大学を中心とした産学協同研究グループは、高性能セルの基礎的材料研究を加速する。このNEDOプロジェクトには、カネカ、東レリサーチセンター、パナソニック、田中貴金属工業、島津製作所、富士電機ホールデイングスなどが参画している。
 同大は市販の白金/グラファイト化カーボン(Pt/GC)の20倍以上のサイクル寿命を持つPt/GC触媒をナノカプセル法で合成、東レリサーチセンターは、電解質膜の劣化挙動を明らかにし、電解質膜に有害なH2O2の生成を抑える手法も突き止めた。更に同大とカネカは広温度範囲・低加湿対応の電解質膜を開発した。2014年までに5000時間作動などを見通せる耐久性の高いMEAを開発するとともに、電解質の低コスト化や電極触媒の低貴金属化などを見込んでいる。田中貴金属は同触媒を5gロットで製造、富士電機は各種触媒の負荷変動や起動停止による劣化度のPt量依存性を評価した。更に同大は炭化水素系電解質膜で混合ガス暴露試験を行い、東レリサーチセンターで分解生成物を精密分析して劣化挙動を確認した。パナソニックは同膜を用いた単セル運転試験で、同じ劣化生成物の同定に成功している。島津製作所などはCO検出用の色素膜を開発、カソード側の炭素劣化の可視化を実現した。
 一方、同大とカネカは自動車用FCで想定される広温度範囲・低加湿条件に対応できる電解質膜を開発、ブロック型ポリエーテル系電解質膜の親水部と疎水部のブロック長を最適化することで、プロトン導電率を大幅に向上させた。大面積での製膜を行い、−30℃でもフッ素系に比べて高い導電率が得られた。
(化学工業日報10年7月9日)

低コストで拡張が容易なスマートグリッド"エコネットワーク"の開発
 大阪ガスと早稲田大学、電力システム開発ベンチャーのVPECは、新興国向けにスマートグリッド技術を開発する。"エコネットワーク"と呼ぶシステムで、太陽光や風力などの再生可能エネルギーとガスエンジンなどの調整用電源、インバーターと蓄電池で構成する。約30世帯を対象にしたクラスターごとに標準システムを導入、人口に応じてクラスターを連結する方式である。スマートグリッドに詳しい横山早大教授、小柳客員教授が開発に参画、2011年にも海外で実証実験を始める。
 再生可能エネルギーを大量導入すると電力の周波数が不安定になると云う課題があるが、周波数制御の機能を持つインバーターの動作により、周波数が変動すると蓄電池に余剰電力を蓄えたり、不足分を放出してクラスター内で電力需給を調整し、周波数を制御する。クラスター内で調整しきれない電力の過不足は、他のクラスターと連系用インバーターを介して融通しあうことになる。研究所での実験ではクラスター間で電力を融通しながら電力品質を確保する技術にめどを付けており、今後は専用インバーターなどを開発し、システムの品質向上と低コスト化を目指す。
 エコネットは電力の「地産地消」を原則とし、既存の電力系統への依存を抑えることを目的としており、先進国でも低コストで再生可能エネルギーの利用を増やせるという。JPモルガンによると、スマートグリッドの関連市場は20年で約9兆円であり、日本政府は有望な輸出産業として、スマートグリッドの海外展開を支援する姿勢を打ち出している。
(日本経済新聞10年7月19日)

ホンダがEVとPHVを12年に日本と米国で発売
 ホンダは7月20日、EVとプラグインハイブリッド車(PHEV)を、12年に日本とアメリカで発売すると発表した。これに合わせて両国で太陽光発電設備や電動2輪、EVなどを組み合わせた実証実験を年内に開始する。又HVの米国生産の検討にも入った。
 EV、PHEVは先進環境技術の開発成果が具現化してきたことと、米カリフォルニア州での環境規制強化を踏まえて投入する。EVは小型で短距離走行を想定したモデルを、PHEVは中型以上のモデル向けに開発を進めており、12年に日米で発売する。PEHVには高性能リチウムイオン電池を搭載し、家庭のコンセントでも充電できる。
 同社はFCVを軸に次世代自動車開発を行ってきたが、大きな方針転換となる。FCVについて伊東社長は"究極の次世代車"とし、ガソリン、デイーゼルエンジンとともに技術開発を続ける考えを示した。
 日本での実証実験は、熊本県、埼玉県と共同で年内に開始する。同社グループが製造する薄膜太陽電池を活用した充電ステーションと、電動2輪、EV、PHEVを組み合わせた走行試験を実施し、都市交通システムの将来像を検討する。アメリカではスタンフォード大学やグーグルなどと協力、次世代自動車を中心に、10年末から順次開始する。
 伊東社長はこのほか太陽光、コージェネレーションなど創エネ省品を進化させ、家庭用エネルギーインフラの可能性を追求することや、中国特有の電動自転車市場に対応した新製品を投入する方針を示した。
 なお、政府は次世代自動車の普及目標として、20年にHVが全体の20〜30%、EVとPHEV合計で15〜20%と設定している。
(日本経済新聞10年7月20日、朝日、電気、日経産業、日刊工業、日刊自動車新聞7月21日)

アメリカ政府のEV促進策とコスト予測
 EVの普及で課題は、充電設備などインフラ整備と、搭載するリチウムイオン電池の高い価格である。アメリカ政府は他国に出遅れた環境技術での巻き返しと化石燃料依存からの脱却を狙い、補助金などを使うEV促進策を強力に進めている。上院のエネルギー天然資源委員会は先週"EV促進法案"を可決。これは今後10年で36億ドル(約3,200億円)の予算を確保し、充電インフラの拡充や消費者への購入支援を進める内容である。ただ財政赤字への批判が強まっており、成立には不透明さも残る。
 一方、アメリカ政府は09年秋以降、企業や大学に24億ドルを拠出してEVや電池の開発を支援している。7月14日にまとめた中間報告では、09年に500あった国内の充電設備が12年には2万に増えると予測、又普及に伴う量産効果で、09年には3万3,000ドルであったEV1台当たりの電池コストは15年には1万ドル、30年には3,300ドルに下がるとの見通しも示した。アメリカの自動車用先進電池の生産シェアが現在、世界の2%にも満たない。アメリカ政府は15年までに40%に増やすとの目標を掲げている。
(日本経済新聞10年7月28日)