第170号 触媒作用と混合伝導性を持つ多孔性材料
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.SOFC開発動向
4.PEFC要素技術の開発
5.エネファームとスマートエネルギーシステム事業展開
6.EV&FCV最前線
7.水素生成・精製技術の開発と事業展開
8.水素貯蔵・輸送技術の開発と事業展開
9.AFC用電解質膜
10.DEFC(直接エタノール形FC)の開発
11.バイオFCの開発
12.FC用部材および周辺機器の開発と販売
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)経産省
 経済産業省は、政府の新成長戦略とエネルギー基本計画の閣議決定を受け、"新たなエネルギー革新技術計画"の策定に乗り出す。革新的なエネルギー技術の開発で世界のエネルギー安全保障と地球環境問題の解決につなげるほか、世界最先端技術を維持することで日本の国際競争力の強化を図る。国際標準化を含め、競争力獲得につながる取り組みの強化も目指す。革新技術開発の重点分野としては、高度道路交通システム(ITS)、FCV、EV、PHVなども挙げている。(日刊自動車新聞10年6月21日)
 NEDOは6月16日、アメリカのニューメキシコ州で取り組むスマートグリッド実証事業に着手すると発表、今回実証研究の委託先を決定した。期間は2013年度末までで、総事業費は約30億円。太陽光発電などの再生可能エネルギーを大量導入した場合の電力供給を維持する実証で、蓄電池や蓄熱などの機器を、IT技術を用いて協調制御し、電力品質を保つ技術の確立を目指す。又太陽光や蓄電池、スマートメーターなどを入れたスマートハウスを設置、その効果を一般住宅と比較したり、電力系統から切り離されても自立運転が可能なビルを、ガスコージェネレーション、FCなどを使って構築する。(日刊工業新聞10年6月17日)

2.地方自治体による施策
 佐賀県は産学官連携により次世代型の太陽電池とFCの開発を始めることにし、6月15日にSOFC研究会を、18日には次世代太陽電池研究会を立ち上げる。主要産業である窯業技術を核に、次世代エネルギー技術の基幹部品開発に取り組み、将来の産業振興につなげるのが狙いである。SOFCについては、家畜のし尿から発生するバイオガスを利用したオンサイト型小型システムを想定している。セルに使う高性能セラミックスの大量生産技術が不可欠で、有田町を始めとするファインセラミックスメーカーの技術を活用する。(日刊工業新聞10年5月26日、佐賀新聞6月10日)

3.SOFC開発動向
(1)日立造船
 日立造船は2014年までに工場やビル向け大型FC事業に参入することにした。船舶・発電用エンジンで協力関係にあるフィンランドのエンジン大手バルチラと共同で、発電効率が50〜70%の製品を開発、COを削減したいい製造業などに売り込む。同社は14年までに発電効率が52%、出力が50kWのSOFCを実用化する方針で、年内にも最新型の試験機を投入する。FC本体をバルチラが生産し、日立造船がコージェネレーション設備など全体的なシステムを担当する。バルチラとFCの日本向け事業化に関する協業で契約した。(日本経済新聞10年6月6日)

4.PEFC要素技術の開発
 九州大と高輝度光化学センターなどの共同研究グループは5月30日、COの再資源化やFC電極触媒として期待される"多孔性配向ナノ結晶薄膜"を開発したと発表した。これは、多孔性金属錯体(MOF)を層にしたもので、1つの層が10Å程度の格子状になっている。分子などを吸着する代表的な物質である活性炭は、物質を受け止めるすき間の構造が不規則なため、分子などを通す効率が悪い。研究グループ代表で元九州大学教授の北川京都大大学院理学研究科教授によると、これは規則的なすき間構造のMOFの薄膜を何層も重ねることによって創られた触媒で、これはジャングルジムのように同じ方向に穴が空いているため、電子や分子などを素早く移動させることができる。穴の大きさは調節可能で、目的の物質だけを吸着する特性を持つものである。北川教授は「10年後の実用化が目標で、環境やエネルギー問題の解決に貢献できる可能性がある」と述べている。(西日本新聞10年5月31日、化学工業日報6月1日)
 九州大学古川教授と旭化成の木下主幹研究員らの研究グループは、触媒作用と混合伝導性を併せ持つ新規多孔性材料による電極触媒を開発し、理論機構の解明に成功したと発表した。多孔性材料自体が電子とイオンに対する混合伝導性を持つとともに触媒機能を示すため、PEFCの燃料極、高分子電解質、触媒で構成される3相界面の課題を解決できることを明らかにした。これにより、白金を使用しない脱レアメタル化を実現する一方、バイオエタノールを利用したFCシステムの開発が大きく前進する。この基礎となっているのが、京都大学北川教授が研究レベルで見出していたルベアン酸銅誘導体を構成単位とする多孔性金属錯体が混合伝導性を有すると云うメカニズムである。ルベアン酸銅誘導体のエタノール吸収機能と酸化能について調べたところ、室温で銅2原子当たり0.8分子のエタノールを吸収することを確認した。開発された多孔性材料は、白金などの貴金属触媒と同レベルの極めて低い電位でバイオエタノールからエネルギーを取り出せる。非白金系で高効率に動作する電極触媒が開発されたと云える。(日刊工業新聞、化学工業日報10年6月15日、電気新聞6月16日、日経産業新聞6月18日)

5.エネファームとスマートエネルギーシステム事業展開
(1)エヌエフ回路設計ブロック
 NF回路設計ブロックは2011年1月までに、太陽光や風力発電など再生可能エネルギーやFCなどの電源を、水電解装置、リチウムイオン電池、需要側を直流ネットワークで連携し、電源需給バランスをコンバーターで自動制御する"再生可能エネルギー直流連携システム"を開発した。各種直流電源や蓄電池、直流負荷を夫々5〜15kWのDC/DC自律制御式コンバーターにつなぎ、電力会社からの系統電源とAC需要側とはDC/ACコンバーターでネットワーク化することにより、発電量の多い所から電力を供給するよう供給源を切り替える制御を行う。電源は再生可能エネルギーを優先的に使い、供給電圧は400Vを維持するよう設定する。 筑波大学システム情報工学研究科の石田教授が進める"カーボンニュートラル対応分散型エネルギーシステム"の実証実験に利用する。(日刊工業新聞10年5月27日)

(2)仙台市
 仙台市ガス局は、エネファームの営業に乗り出すことを決め、メーカー指定の販売会社が6月1日から始める販売を支援し、普及につなげる。東芝FCシステムとENEOSセルテックの都市ガス仕様2製品を扱う。昨年度には仙台市内の住宅にモニター10台を導入して冬場の稼働などを検証、今年度は本格営業を決めて4月に予約窓口を設けた。販売目標は30台。(河北新報10年5月29日)

(3)新日石
 新日本石油は10年度のエネファーム販売目標を全国で1,500台としており、太陽光発電とのダブル発電システムとして販売を狙う。エネファームの最大の特徴は、自動学習機能を備えている点で、各家庭により稼働時間が違う。設置後、2〜3週間の発電量とお湯の使用量データを蓄積し、各家庭に合わせて稼働時間を割り出して自動運転する点において、ダブル発電で設置コストの軽減ができる。(電波新聞10年5月31日)
 新日本石油は6月8日、岐阜県群上市の商業施設"クックラひるがの"に、太陽光発電(3.2kW)、FC(0.75kW)、ガスコージェネレーション(4.5kW)、蓄電池(14kWh)で構成するエネルギーシステムを設置したと発表した。新日石が開発した"創エネモニタシステム"を使い、電力やお湯の使用状況を店内のモニター画面に表示し、エネルギーの見える化を図った。通常時はシステムで発電した電気を設備やEVの充電器に供給、不足した場合には系統電源から補う。実証試験でデータを収集し、エネルギー使用量やCO削減効果の分析を進める。(日経経済、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ10年6月9日、電気新聞6月10日、日刊建設新聞、化学工業日報6月11日)

(4)大ガス
 大阪ガスは5月31日、情報技術を使ってエネルギー利用の最適化を図る実験住宅の企画立案や実証研究を進める"スマートエネルギーハウス推進室"を同社エンジニアリング部に6月1日付で発足させると発表した。同社酉島実験場(大阪市)と奈良県王寺町に実験住宅を設置する。実験住宅では、SOFCと太陽電池を組み合わせたダブル発電にリチウムイオン電池を組み合わせ、更に情報技術で最適に制御するシステムや床暖房を構築し、省エネルギー性をより一層高めることを目指す。10年1月に完成、2014年3月まで実際に社員が生活するなどして、要素技術の評価や環境性、ランニングコストなどを検証する。(朝日、毎日、産経、電気、日刊工業新聞10年6月1日、電波新聞、化学工業日報6月2日)
 大阪ガスは、エネファーム販売実績は発売から1年目は1,386台であったが、積水ハウスなどと共同で営業活動を展開し、2年目の目標は1,700台以上に設定した。(産経新聞10年6月2日)

(5)トヨタ自動車グループ
 トヨタ自動車グループが環境配慮型住宅の事業化で結集する。デンソー、アイシン精機、豊田自動織機など系列部品9社が、トヨタホーム(名古屋市)に出資、CO排出削減につながる住宅を共同開発する。太陽光発電やFCによる発電電力を使い、家庭で充電可能なプラグインハイブリッド車やEVに電気を供給する仕組みを作る。アイシンはFC、豊田自動織機は充電設備を手掛けており、蓄積した技術を応用できる。太陽光などで発電した電気を自動車の電池に蓄え、地域の電力需要の調整に利用できるようにもする。(日本経済新聞10年6月9日)

(6)富士通
 富士通と富士通システムソリューションズ6月14日、ENEOSセルテック(群馬県)の工場向けに、エネファームの生産管理システムを構築したと発表した。生産システムと設計との連携を高め、開発から製品出荷までの時間を大幅に短縮する。又受注、大量生産の両方に対応し弾力的な工場運営を可能にしたとしている。(電気、日経産業、日刊工業、電波新聞、化学工業日報10年6月15日、日本情報産業新聞6月21日)

(7)LPG業界
 LPG業界は家庭用FCの大量購入に乗り出す。2010年から3年間で2万7,000台を販売店が購入、販売店自身が利用した上で顧客に利点をアピールし、FCの普及ペースを引き上げる。電力会社によるオール電化に対抗する。(日本経済新聞10年6月20)

(8)大和ハウス
 大和ハウス工業は6月23日、家庭用リチウムイオン電池を備えた住宅の実証実験を7月に始めると発表した。太陽光発電からの余剰電力を売電し、それ以上に余った電力の他、夜間の割安な電力を蓄電池に蓄える。実験を通じて必要な容量などを検証し、11年春の発売を目指す。実験住宅"SMA×Eco HOUSE"は埼玉県春日部市と名古屋市の住宅展示場に設置、エリーパワー製の容量が6kWhのリチウムイオン電池を採用した。埼玉県ではオール電化、名古屋市ではエネファームを使う。一般住宅に比べて、光熱費を102%削減できるとみている。(日経産業新聞10年6月24日)

6.EV&FCV最前線
(1)住友化学
 住友化学はEVやFCV向けに、グループを挙げてリチウムイオン電池(LiB)とFC材料事業を拡充する。その一環としてFC用電解質膜も試作しており、実際にFCVデモカーを製作して評価を進めている。FCについては、非フッ素系材料で電解質膜を開発中で、時速50km/h程度が可能なFCVを製作して電解質膜を評価、早期の製品化を目指している。(化学工業日報10年5月25日)

(2)トヨタとダイムラー
 5月25日付のフィナンシャル・タイムズ紙は、ドイツのダイムラーと日本のトヨタ自動車が、FCVの開発で広範な提携を計画していると報じた。両社は既に一定の研究を進めているが、開発には巨額の資金が必要と指摘、ダイムラー関係者の「開発コストを分担することに非常に興味がある」との発言を紹介して、合弁会社の設立もあり得るという。ダイムラーの広報は「提携について多くの企業と話し合っており、トヨタはその1つに過ぎない」と話している。なお、ダイムラーは4月上旬、日産自動車とフランスのルノーとの間で資本・業務提携すると発表、EVや環境重視の小型車開発などで幅広く協力することになっている。又トヨタは「現時点では何も決まっていない」とのコメントを出した。(読売、朝日、毎日、日本経済、中日、中国、西日本新聞10年5月26日、日刊自動車、中国新聞5月27日)

(3)日産自動車
 日産自動車のカルロス・ゴーン社長は5月26日、同社の米スマーナ工場で記者会見し「ゼロエミッション分野での次はFCVだ」と述べ、EV後をにらみ、FCVの開発を強化していることを明らかにした。トヨタがアメリカのテスラ・モーターズと提携し、EV分野に本格参入する方針を表明したことについては「予想されていたこと」と冷静に対応、その上で「我々はEVを手ごろな価格で提供する」と述べ、1台約5万ドル(約450万円)のテスラEVに比べ、300万円前後の日産EV"リーフ"の優位を訴えた。EV事業の黒字化のタイミングについては明言を避けた。(日刊自動車新聞10年5月28日)
 日産自動車は6月11日、横須賀市内のテストコースで、12月発売の5人乗りEV"リーフ"試作車を公開した。低速時に車両が近づいていることを歩行者に知らせる通報装置を搭載。携帯電話端末から充電指示を出すこともできる。又日産はリチウムイオン電池を生産する"オートモーテイブ・エナジー・サプライ"の能力増強策も発表した。生産能力を11年までに3万6,000台分増やし、年9万台にする。増産分はルノーへの供給に充てる。(日本経済新聞10年6月12日)

(4)エネルギー応用技術研究所
 エネルギー応用技術研究所(宇都宮市)は、蓄電池を用いたEV用急速充電システムを展示する。太陽光発電やFCからの電力を蓄電池に貯蔵、この蓄電池から複数のEVに同時に充電する。電池容量の80%を5分で充電し、1度に約10台を充電できる。普通車や大型バスなど車種の違う車にも対応した。実用化に向けて自動車メーカーや電力会社へシステム提案を活発化している。(日刊工業新聞10年6月2日)

(5)トヨタとテスラ
 トヨタ自動車は6月11日、5月に提携したテスラ・モーターズと取り組むEV共同開発で、トヨタの既存車をベースに、テスラのシステムを搭載した試作車を作る方針を明らかにした。早ければ年内にも試作車を完成させ、走行性能などを検証する。(日本経済新聞10年6月12日)

(6)三菱自動車
 三菱自動車は12年度を目途にEVの価格を3割下げ、補助金を含めた実質価格で200万円程度にする。同社は09年7月、主に業務用を想定し459万9,000円で発売、10年4月からは一般向け需要を拡大するため約62万円値下げし、政府の補助金を考慮すると284万円まで下げた。最もコストがかさむリチウムイオン電池の新工場が12年4月に稼働、年産7万台になり、量産効果により1台当たり250万円かかっていた電池調達コストを100万円以下に引き下げる。(日本経済新聞10年6月18日)

7.水素生成・精製技術の開発と事業展開
(1)新出光
 新出光(福岡市)は6月2日、福岡県大牟田市健老町の"大牟田エコタウン"に、建築廃材などの木材チップから水素を作る商用プラントを建設するため、同市との立地協定書に調印した。設備投資額は約21億円。2012年春の操業開始を目指す。同社によると、県内から集めた建築廃材や間伐材などを熱分解し、ガス化するプラントと、水素ガスを精製する工場などを建設する。1日15トンの木材から約7200m3の高純度水素が製造できる。(西日本新聞10年6月3日、日経産業新聞6月4日)

(2)物質・材料研究機構
 物質・材料研究機構(つくば市)は、光合成反応の一種を、植物並みに高い効率で人工的に起こせる材料を発見した。リン酸銀と呼ばれる光触媒材料で、可視光を当てると水を分解して酸素を発生させる。一般的な光触媒の材料である二酸化チタンは、紫外線にしか反応せず効率が低いが、リン酸銀を使うと波長420nmの可視光で、約90%の高い効率を実現する。植物の光合成は効率93%前後と云われる。光合成では水の分解で、酸素と水素をそれぞれつくる2つの反応が連動する必要があるが、新材料は酸素の部分を受け持つ。水素をつくる材料とうまく組み合わせれば、太陽光で水素を製造するなど、人工光合成技術の実現に向けて大きく前進することができる。(日本経済新聞10年6月8日)

8.水素貯蔵・輸送技術の開発と事業展開
 イギリスのイリカ・テクノロジーズは、早ければ2〜3年以内に新規の水素吸蔵合金など自社開発素材の販売に乗り出す。既に量産プロセスは日本と台湾の協力企業と開発を進めている。従来は研究開発を中心に事業展開してきたが、今後自社開発素材事業に軸足を移していく方針で、日本での活動を強化していく。現在進めているプロジェクトは、水素吸蔵合金の他、FC用触媒、同時開発の真空蒸着装置を使ったハイスル―プットプロセスにより、従来に比べて1/10〜1/100の期間で新規材料を開発できる。(日刊工業新聞10年6月9日)

9.AFC用電解質膜
 トクヤマ(周南市)は来春を目途に、電解質膜を作る試作ラインを徳山製造所に新設する。試作ラインでの生産量は年間1万m2規模で、電解質の種類は、白金など高価な希少金属触媒を要しないアニオン型およびモバイル向け直接メタノール形FC用電解質膜である。特にアニオン型電解質膜には、触媒にニッケルなどの金属を使えるのが特徴で、出力はAFCで最高レベルの465mW/cm2を実現した。ソーダ事業で培ったイオン交換膜技術を生かし、従来よりも低価格化を実現する。現時点では非常用電源向けが中心であるが、将来は自動車に採用される可能性もあると見ている。同社は成長事業の中核と位置付ける多結晶シリコンの生産に加え、FC事業の拠点としても重要性が高まることになる。試験集荷を重ね、電池メーカーなどと連携して事業化を急ぐ。(中国新聞10年5月20日)

10.DEFC(直接エタノール形FC)の開発
 コンテイング・アイ(岐阜市)は、バイオエタノールを利用したDEFCシステムを開発した。8月に滋賀県内のモデルハウスで出力1kWの電池で試験運転を始める。これはPEFCのT種で、エタノールと水を1対9の割合で反応させた時に発生する電子と水素イオンを取り出す。電極に蓄積して出力低下の原因となる中間生成物は触媒で分解し、発電効率を高めた。同社は乾燥芝や紙などからバイオエタノールを製造する技術を持ち、供給体制の課題は解消できるとしている。今後は電解質膜や電極の改良、エタノール濃度の最適化を進め、家庭での電力需要ピーク時に必要とされる出力3kWまで性能を高めて販売する予定である。同社から技術供与を受けた機械商社の井高(名古屋市)が装置の設計開発と販売を担当、装置価格は200万円前後の予定である。第1弾として西村建設(滋賀県)が滋賀県で開発中の分譲住宅150戸で採用する見通しで、分譲地内にはコンテイング・アイの技術を用いたバイオエタノール製造プラントを設置する。(日刊工業新聞10年6月15日)

11.バイオFCの開発
(1)東大
 東京大学の橋本教授、中村助教らの研究グループは、電流を発生する細菌(電流発生菌)に鉄イオンなどのエサを与えることで、エサを与えなかった場合に比べて100倍以上の電流を発生させることに成功した。菌がエサを食べることで鉱物を生産(バイオミネラリゼ―ション)し、その鉱物が菌同士を導通するネットワークを形成したためである。実験ではエサとして鉄イオンとチオ硫酸塩を含む電気化学セルを用意、この電気化学セルに電流発生菌で鉄還元菌でもあるシュワネラを注入し、時間経過で光学顕微鏡の観察と電流測定を行った。菌を注入して約5時間後に電流が発生、硫化鉄の沈殿物が観察され、乳酸菌の添加を繰り返し行うことにより、菌注入から約80時間後に最大電流190μAを記録した。微生物FCは一般のFCに比べてエネルギー変換効率が低い。アノードでいかに効率良く電子を取り込むかが課題であり、電極性能向上につながる成果として注目される。(日刊工業新聞10年5月26日)

(2)東京農大
 東京農工大の大野教授らは、イオン分子のみで構成される液体イオンを溶媒として使うことにより、小麦の皮などのバイオマスから常温でセルロースを取り出すことに成功した。全プロセスにかかる時間は数時間、50℃に加熱した場合は30分程度になる。加熱が不要なため、省エネルギーかつ低コストでセルロースが得られ、バイオマスを利用したバイオ燃料電池の開発につながる。大野教授らは、セルロースを溶媒に溶かすためイオン液体の組み合わせを調べ、"T−エチル−3−メチルイミダゾリウムメチル亜リン酸塩"を作った。このイオン液体を溶媒にして小麦の外皮を入れてかき混ぜた後、上澄み液を取り出してエタノールを加えて混ぜると、セルロースが容器の下に沈殿した。反応に使用したイオン液体とエタノールは、蒸発させて回収すれば再利用できる。(日刊工業新聞10年6月22日)

12.FC用部材および周辺機器の開発と販売
(1)菊池製作所
 菊池製作所(八王子市)は、価格が従来品の1/4の数百円と安価なFC向けマイクロポンプを開発した。ステンレス箔を積層して作製し、シリコン製のマイクロポンプに比べて原材料費を1/10以下に抑えられる。7月にサンプル出荷を開始、携帯電話用超小型FCの燃料ガス供給ポンプなどとして提案する。(日刊工業新聞10年6月4日)

(2)共伸技研
 共伸技研(門真市)は、FCや太陽電池の微細部品清掃向けに、極細のアクリル系繊維を用いた工業用チャンネル式ブラシを開発した。三菱レイヨンが開発した直径0.03mmの新繊維"コアブリッドB"を本体に植毛、従来品の同0.05〜0.08mmの植毛に比べ溝などの細かい場所に入り込めるほか、静電気が発生しないためほこりや汚れをきれいに落とせる。(日刊工業新聞10年6月15日)

(3)太陽ステンレススプリング
 太陽ステンレススプリング(東京都)は、PEFC用金属セパレーターの受託加工事業に乗り出す。金属材料に関する知見や保有する加工技術を活用して、試験開発用にユーザー仕様に応じたセパレーターを提供する。既に量産化に優れた分析・観察用の研究評価薄型セパレーターも開発しており、同社では研究開発領域に事業対象を絞り込むことでPEFC分野における事業展開を図っていく。新開発のステンレス製研究評価用薄型セパレーターは、ワイヤ―カット加工により0.2〜1.0mmの薄肉化を実現したもので、従来品に対して量産性の向上を図りつつ同等の電池特性を確保している。(化学工業日報10年6月21日)

 ――This edition is made up as of June 24, 2010――

・A POSTER COLUMN

藻から燃料量産化の研究
 農林水産省は企業や大学と連携し、湖沼などに生息する藻類を原料としたバイオマス燃料の開発に乗り出す。月内にもトヨタ自動車や中央大学などに委託する共同研究に着手、2020年を目標にガソリンや軽油代替燃料の実用化を目指す。委託事業"革新的なCO高吸収バイオマスの利用技術の開発"にはトヨタやデンソーの他、京都大学、バイオベンチャーのマイクロアルジェコーポレーション(岐阜市)など、9社・大学が参加する。
 農水省が手掛けるのは、"シュードコリシスチス"という藻類を育てて内部にたまる油を取り出し、軽油などに代わる燃料を精製する仕組みづくりの研究で、10年後を目標に石油代替エネルギーを抽出、量産できる技術を開発する。国内で消費する軽油の1〜2割を賄える体制を整えたい考えである。藻類を用いたバイオ燃料の開発に乗り出すのは、従来の品目に比べて繁殖サイクルが早く生産効率が高いためである。同省の推計では単位面積当たりの藻類の生産量は最大で大豆の280倍、パームオイルの20倍に達する。
 藻類を使ったバイオ燃料の開発で先行するアメリカでは、オバマ政権が代替エネルギー技術の研究支援を拡大している。政府は6月にも閣議決定するバイオマス活用推進基本計画に「藻類を活用した資源創出を図る」との方針を明記、産学との連携を財政面から支援する。
 なお日米両政府は6月12日、バイオ燃料の新しい生産法などの共同研究を始めることで合意、3年間で計10億円程度を投じる。ジョン・ホルドレン大統領補佐官と川端文部科学相が同日、都内で日米科学技術高級委員会を開き、研究の実施を盛り込んだ共同声明を出した。海洋中にある藻類の働きを使い、燃料を効率的に作り出す方法などを研究する。
(日本経済新聞10年5月22日、6月13日)

木材から精製プラントを開発、14年度を目途に商品化
 新日鉄エンジニアリングと王子製紙は、木材からバイオネタノールを精製するプラントを共同開発する。2011年にも広島県内に試作用のプラントを建設して実証を進め、14年度の商品化を目指す。破砕した木材をプラントに投入し、糖化・発酵の工程を経てバイオエタノールを精製する。研究レベルではユーカリを使ったバイオエタノールの精製に成功しており、理論上は1トンのユーカリから、濃度99.5%超の無水バイオネタノールを約300L精製できると云う。
 試作用プラントは広島県呉市の王子製紙工場内に建設、投資額は10〜15億円程度で、原料の木材換算で日量1〜2トン程度の処理能力を持たせる。パームヤシの殻や古紙などを使ったバイオエタノール精製の技術開発も進める。プラントの商品化時点での製造コストは、40円/Lの想定で、トウモロコシやサトウキビから製造するのと同程度の水準を目指す。木材を使うプラントを実用すれば、原料調達の多様性に加え、建設廃材の有効利用にもつながる。
(日本経済新聞10年6月12日)