第169号 重水素を使うPEFCで起電力が4%上昇
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方公共団体による施策
3.SOFC関連の研究開発
4.PEFC要素技術の開発と事業展開
5.エネファーム事業展開
6.EV&FCV最前線
7.水素ステーション技術開発および事業展開
8.水素生成・精製技術開発
9.DMFCの研究開発と事業展開
10.バイオ電池
11.企業による事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)環境省
 環境省は4月26日、太陽光発電システム、家庭用FC、EVなどCO排出量の削減に有効な機器を家庭や中小企業に普及させることを目指し、導入時に費用負担が低いリース販売を支援する構想を明らかにした。同省がこの日発表した成長戦略の具体策"環境経済成長ビジョン"の柱の1つで政府が6月にまとめる新成長戦略に反映したい考えである。(産経、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ10年4月27日)

(2)行政刷新会議
 政府は政権交代後、足踏み状態にあった規制改革の取り組みに本腰を入れる。行政刷新会議の規制・制度改革分科会が、FCVや水素ステーションの設置に関する規制など67項目にわたる規制の見直しに着手、内閣官房の地域活性化統合事務局も、構造改革特区制度を活用した規制改革の検討を急ぐ。(日刊工業新聞10年5月7日)

(3)NEDO
 NEDOは5月14日、自動車用FCや水素インフラの実用化、普及に向けた技術開発などで、ドイツの水素・FC機構(NOW)と協力体制を築くと発表した。16日にドイツ・エッセンで協力に関する覚書を締結する。両国内では、FCVの15年普及開始などをにらんだプロジェクトが進んでいる。NEDOとNOWでは、両機構を通じて進んでいるFCVや水素インフラの技術開発と、早期実用化に向けて情報の交換と共有化などを図り、効率的な事業推進と国際的な普及の促進につなげる。(日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ10年5月15日、産経、電気、日刊工業新聞、化学工業日報5月17日)

2.地方公共団体による施策
(1)福岡県
 水素エネルギーの産業育成に必要な関連製品の開発を支援する国内初の"水素エネルギー製品研究試験センター"の開所式が福岡県糸島市の糸島リサーチパーク内の同所であり、関係者約130人が出席した。産官学の福岡水素エネルギー戦略会議が進める事業で、県が全額出資の公益財団法人が運営する。FCVや水素ステーションで使うバルブや配管、センサーなどの耐久試験を行い、製品開発の手助けや世界標準規格作りにも取り組む。平屋の試験棟と2階建て事務所があり、延べ床面積約2,000m2で、千気圧級の高圧水素や振動、水圧などを加える12の試験室を備える。(西日本新聞10年4月29日、化学工業日報5月6日)

(2)大阪府
 大阪府は、11年3月開催予定の新エネルギーに関する国際会議"大阪新エネルギーフォーラム"の実行員会を立ち上げた。EVの普及やFC導入への取り組みなどを国内外に積極的にアピールしていく。同フォーラムは、新エネルギー分野で活躍する人の交流を通じて、技術革新創出の好循環を起こそうと企画されたもので、世界約20カ国からEV研究者らを集め、1万人規模の一般来場を見込んでいる。(大阪日日新聞10年5月5日)

(3)岡山県
 成長分野として注目される電池関連産業を岡山の新たな基幹産業に育てようと、6月にも産学官による研究会を発足させる。研究のターゲットは、太陽電池、FC、大容量2次電池、の3分野で、太陽電池は大幅なコストダウンが期待される有機太陽電池の開発が目標。FCは関連部品が多いことから参入の可能性を探る。2次電池はEVの基幹部品で自動車産業に不可欠と判断した。(山陽新聞10年5月9日)

3.SOFC関連の研究開発
 太陽光発電で得た電力で水を電気分解して水素を生成しボンベに蓄え、それと都市ガスを混合させてSOFCで電気と熱を生み出す自給システムを、同志社大の千田教授の研究チームが開発、本格実験に乗り出した。最近太陽光発電が広がりつつあるが、昼間に家族が外出する家庭では、バッテリーの設置費用などがネックになり、効率的なエネルギー自給が難しい現状にある。このシステムを使えば、小型システムで、4人家族の家庭が1日平均で消費する給湯用などの熱と電気双方の15%程度を自給できるとしている。(産経新聞10年5月10日)

4.PEFC要素技術の開発と事業展開
(1)日清紡ケミカル
 日清紡ケミカルは、PEFC用セパレーターの最新工場である千葉事業所を稼働させた。搬送装置などの自動化を図って生産性を数倍に高めており、今後の需要増とコストダウンに対応する。同社は家庭用定置式PEFC向けセパレーターではシェア100%の独占企業で、2012年度には事業規模を09年度比数倍に拡大することにしている。千葉事業所は600万枚以上への能力増が可能で、定置用のみならずFCVの試作向けセパレーターも生産する。しかしエコカー向け市場はケタ違いに大きいだけでなく、要求される仕様やコストも異なることから、新たな工場において専用プロセスでの量産が必要と考えている。(化学工業日報10年4月27日)

(2)デユポン
 デユポンはイオン交換膜の強度を高め、寿命を従来比20倍に高めた製品を開発、5月下旬から世界で発売する。作動中における膜の劣化メカニズムを解明し、化学的な対処を図るとともに、膨潤による寸法変化も補強材によって抑えた。新製品である"XL-100膜"は、エコカーでの厳しい使用環境においても長寿命を可能にする。FCでは水素と酸素の分離が不完全な場合、過酸化水素が生じ、この過酸化水素からはラジカルが発生して電解質にダメージを与えて劣化させる。同社ではラジカルの攻撃メカニズムを解明し、それに対処することで膜劣化を抑えた。実際に湿度/負荷サイクル試験を行ったところ、寿命は20倍になり、フッ素溶出速度も従来比で1/40になった。又補強材を用いて膨潤による膜の寸法変化も抑えている。数十μmの薄い膜をポリエチレンなどのシートで挟むことによりハンドリング性も改善した。価格は従来比20〜30%高になるが、炭化水素系電解質膜に対しても差別化が図れる。エコカーや家庭用FC、DMFC向けに拡販する。(化学工業日報10年5月12日)

(3)住友金属工業
 住友金属工業は、開発中の金属セパレーターを用いたPEFCの700W運転に成功した。独自のセルスタックを採用しており、実働時間は650時間、実証試験の成功によりセパレーターのさらなる性能向上に取り組むとともに、材料メーカーの立場からFC開発をサポートしていく考えである。同社の金属セパレーターは、厚さ100〜200μmのステンレス箔で、鋼中に均一に分散した微細な導電性金属析出物が、鋼板表面上に形成した不動態被膜を突き破って露出した構造をしている。鋼中の析出物が電気の通り道となり接触抵抗を下げるとともに、不動態被膜の耐食性により表面処理をせずにセパレーターとしての機能を発揮するのが特徴である。今回の実証試験は、21セルスタックを積層したPEFCを用いて実施した。セルスタックには同社セパレーターや外部企業と共同開発したタック樹脂フィルム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)製ガスケットなどで構成した独自のものを採用しており、夜間・休日運転休止を含めて1,300時間にわたって家庭用700W運転を行った。同社では、車載用および定置型の両分野で自社セパレーターの実用化を目指しており、実証試験で得られた知見をベースにして、他の構成部材との組み合わせによりPEFCの性能向上を積極的に支援していく。(化学工業日報10年5月14日)

(4)茨城大と日本原子力機構
 茨城大学と日本原子力研究開発機構は5月17日、重水素を燃料とするPEFCシステムを開発、従来の水素を燃料とした場合に比べて発電効率が約4%高くなることを実証した。装置の小型化や高性能化につながり、潜水艦や深海探査機など限られたスペースに高効率で燃料を搭載する必要のある海中用動力源などの用途に有効と考えられる。開発したFCは水素の代わりに重水素を用いて、発電効率を示す起電力の差が30mVと、水素に比べて約4%高い0.73Vになることを実証した。重水素は自然の水に0.015%の割合で含まれていることが知られており、これを電気分解で取り出す。放射性物質ではないので、扱いは難しくなく、使った重水素ガスは重水に戻すこともできて、循環させて利用することも可能である。年内を目途に海洋研究開発機構の深海巡航探査機"うらしま"で使えるかどうか実験を始める予定である。(日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報10年5月18日、電気新聞5月20日)

5.エネファーム事業展開
(1)都市ガス各社
 都市ガス各社はエネファームの営業体制を拡充し、2010年度の販売台数を大手4社合計で前年度比42.7%増しの4,900台に引き上げる。併せて現行機よりも低価格で本体サイズの小さい新型の開発も進める。09年度実績は4社合計で3,434台(成約ベース)であった。計画の内訳は、東京ガスが700台増の2,500台、大阪ガスが400台増の1,700台、東邦ガスが250台増の500台、西部ガスが116台増の200台である。10年度は補助金は継続するが上限は130万円に10万円減額になる。東京ガスが工事費を10万円引き下げることで補助金の減額分を補う。(日刊工業新聞10年4月28日)

(2)静岡ガス
 静岡ガスは5月1日から、太陽光発電システムとエネファーム、ガスコージェネレーションシステムのエコウイル、高効率ガス給湯器のエコジョーズの組み合わせを顧客に提案、快適な暮らしに向け、環境性や経済性を訴える。(静岡新聞10年4月29日)

6.EV&FCV最前線
(1)北京モーターショウ
 アジア最大級の自動車展示会"北京モーターショウ"が、4月23日から5月2日まで北京市内で開幕する。昨年、新車販売で世界首位に躍り出た中国での販売戦略は各社の業績を左右するため、日本メーカーの首脳も相次いで来場、HVやEVなどのエコカーをPRした。展示面積は東京モーターショウの10倍近い約20万m2で、日米欧や中国などの自動車関連企業約2,100社が参加、990台の車が展示され、うち世界初出品は89台(うち中国メーカー75台)である。(毎日新聞10年4月23日)

(2)日産自動車
 次世代の環境対応車として本命視されるEVは、普及に向けた動きが本格化してきた。日産自動車は12月に5人乗りEV"リーフ"を実質(政府の補助金付)299万円で発売、三菱自動車も販売中のEVを約62万円値下げした。ガソリン車と同程度の価格になることで、選択肢にEVを加える消費者が増えそうである。リーフは高性能リチウムイオン電池を搭載、1回の充電で160km以上走れる。最高時速は140km/h以上、2010年度は国内で6,000台の販売目標を掲げる。12年には日米欧でEVと電池の生産拠点を稼働させ、電池だけで年50万基を生産する計画である。提携するルノーなど他社の自動車メーカーに電池を供給し、量産による価格引き下げを狙う。(日経産業新聞10年4月23日)

(3)三菱自動車
 三菱自動車は4月1日からi-MiEVの価格を398万円に引き下げた。補助金を利用すると284万円になる。10月からはプジョーシトロエングループ(PSA)にもOEM供給し、10年代半ばまでに累計10万台の供給を計画する。(日経産業新聞10年4月23日)

(4)GSユアサ、三菱商事、三菱自動車
 GSユアサと三菱商事、三菱自動車が出資する"リチウムエナジージャパン(京都市)"は、滋賀県栗東市にEV用リチウムイオン電池の新工場を建設、総額375億円をかけて、年5万台分を生産できる体制を整える。12年4月に稼働する予定で、i-MiEV以外にも電池供給を目指す。(日経産業新聞10年4月23日)

(5)東芝と三洋電機
 東芝も10月に新潟県柏崎市で約250億円をかけてリチウムイオン電池の新工場を完成させ、11年2月に供給を始める。同電池で世界首位の三洋電機も、電池の研究を手掛ける新技術棟を11月に完成させる計画である。(日経産業新聞10年4月23日)

(6)トヨタとGM
 トヨタ自動車とアメリカGMは15年までにFCVの商用生産を始める計画である。水素を直接タンクに継ぎ足すため、充電時間のかかるEVより便利とされる。ただ家庭用と同様、コスト面の壁はなお高い。少ない白金触媒で発電反応を賄う技術や、高圧で大量の水素を蓄えるタンク技術の開発が進む。(日経産業新聞10年4月23日)

(7)トヨタ
 トヨタ自動車はFCVの製造コストを2000年代半ば時点に比べて約90%削減したことを明らかにした。又最初に投入するFCVの小売価格を5万ドル(約470万円)程度に設定することが可能との見通しを示した。同社増田常務役員はインタービューで、水素を充填するFCVの最初のモデルはガソリン車と同程度の走行距離を持つセダンになると述べた。コストはガソリン車よりも幾分高い見込みだと云う。(フジサンケイビジネスアイ10年5月7日)

7.水素ステーション技術開発および事業展開
(1)横浜ゴムと岩谷瓦斯
 横浜ゴムは、岩谷瓦斯と共同で70MPa高圧水素ガス用ホースを開発した。補強層に特殊合成繊維を採用することで、水素に対する耐性を向上した。軽量かつ柔軟性に優れ、運搬や充填作業がしやすいといった特徴を有する。同社ではデスペンサー用の他、高気密性を生かして各種産業用高圧ガス分野へも展開していく。既存の70MPa級高圧ホースの多くは耐圧性の要となる補強層の材質に鋼線を採用しているが、鋼材中に水素が吸収されて強度が低下する水素脆化の問題を抱えている。新製品"ibar HG70"は、横浜ゴムが保有する高圧ホース製造技術と岩谷瓦斯の工業ガスハンドリングおよび評価技術をベースに開発したもの。(日経産業新聞、化学工業日報10年4月23日、日刊自動車新聞4月26日、日刊工業新聞4月28日)

(2)都市ガス各社
 都市ガス各社が、FCの普及を見越して水素供給ネットワークの構築に向けた研究開発を進めている。FCVに不可欠な水素ステーションの整備を目指した実証実験が先行、その先に描くのは、家庭のFCにも水素を供給し、地域全体で水素を中核エネルギーとして動く姿"ローカル水素ネットワーク"である。(日経産業新聞10年4月23日)

(3)太陽日酸
 FCCJは08年、FCVと水素供給ステーションについて15年の事業化を目指すことで合意、15年を目途に国内で1,000カ所程度の水素ステーションを確保する方針を打ち出し、水素供給・利用技術研究組合もFCCJのシナリオに沿った活動を開始している。このため太陽日酸は高圧水素ラインを標準化し、商用ステーションの設置にそなえることにした。水素ステーションの高圧水素ラインは、主に水素を貯めておく蓄圧器と、そこへ水素を送り込む圧縮機、更に蓄圧器から自動車へ水素を充填するためのデイスペンサーで構成されている。太陽日酸では標準化を進める中で、性能とコストの両面から、これら機器の最適な構成を見極めていく。(化学工業日報10年5月12日)

8.水素生成・精製技術開発
 バンテック(那須塩原市)は、電極寿命を従来に比べて2倍の10年に延ばした水素発生(電気分解)装置を開発、この秋での製品化を目指す。この装置は幅2.2m、奥行き3.2m、高さ2mのハイドロキューブで、電圧をかけると水酸化ナトリウム溶液を、120枚の電解セルが電気分解し、その後精製装置を通じて純度が99.999%の水素を抽出する。同社は宇都宮大と共同で、リンとニッケルの合金であり、ステンレスの約10万倍の耐食性を持つアモルファス合金を開発した。これをステンレスにメッキを施すことで、表面の被覆を均一化し、腐食を遅らせる。これにより電極の寿命が約2倍に伸びるため、0℃、1気圧での水素単価を約30%減となる200円/m3程度に引き下げられると云う。従来の電気分解装置では、ステンレスにニッケルなどのメッキを施したセルを使用している例が多く、この場合表面被膜に結晶粒界が存在して電流が局部的に集中するため、4〜5年で腐食してしまう問題があった。(日刊工業新聞10年5月17日)

9.DMFCの研究開発と事業展開
 トクヤマはFC事業拡大の一環として、1年後を目途にDMFC用電解質膜と、アニオン型電解質膜の試作ラインを徳山製造所(山口県)に新設する。既存のフッ素系に比べて価格性能比が高く、劣化要因になるメタノール透過性が低いのが特徴である。年産1万m2規模の設備を設け、早期の実用化を目指す。同社の電解質膜はフッ素系に比べてメタノール透過性が半分以下で、低コストとカスタマイズのし易さが特徴である。最近はキャンピングカーの発電機向けに欧米から引き合いが活発化しており、出力100〜300W規模のポータブル発電機用DMFCに炭化水素系膜を採用してコストダウンを図る。他方白金触媒をニッケルやクロムなどの遷移金属に代替が可能なAFC向けに、アニオン型電解質膜も開発を進めている。(化学工業日報10年5月10日)

10.バイオ電池
 ソニーはジュースを燃料にできるバイオ電池を開発、タカラトミーと組みジュースで走るリモコン自動車のおもちゃも試作した。パソコンや携帯電話、携帯音楽プレーヤーなどへの応用に期待が高まってきた。電池上部の穴からジュースを注ぐと、糖を酵素が分解して電子を取り出す。遺伝子を改変した新型酵素の採用や、正極材の微細な構造などを改良することによって、07年の開発時には1.5mW/cm2であった出力密度を、10mW/cm2にまで高めた。試作した電池の大きさは縦横4cm角、厚さ2cm程度で、8mLのジュースでおもちゃの自動車を1時間走らせた。バイオ電池は安全性が高く、燃料の購入も簡単、出力はFCの約1/5であるが、酵素の改良などで高出力化や長寿命化を図る。(日本経済新聞10年5月17日)

11.企業による事業展開
 ポーライト(さいたま市)は、ブルームエナジー社(カリフォルニア州)が開発した小型FCに金属製セパレーターを供給する。台湾中部にある工場に専用の生産ラインを設けて年内にも量産を開始、出荷する予定である。投資額は数十億円になる。ブルームエナジーはアメリカの有力環境ベンチャーで、コンテナ型のFCを開発、企業や自治体などに自家発電装置として売り込んでいる。一方ポーライトは金属粉末を焼き固めて成形する粉末冶金の技術を持ち、精密な金属製品の製造を得意としている。(日経産業新聞10年5月13日)

 ――This edition is made up as of May 20, 2010――

・A POSTER COLUMN

EVの開発と普及に向けてEUが包括戦略
 EUの欧州委員会は、EVの開発・普及に向けた包括戦略をまとめた。EU域内何処でも、何時でも走行に必要な充電ができるようにするのが目標である。先ず年内に安全基準を作成するとともに、充電プラグの標準規格つくりに着手、将来は域内共通の充電池再利用システムも整える。人口5億人という巨大市場を抱えるEUは、充電用プラグ、スタンドに設置する急速充電器などの規格作りを急ぎ、世界的な規格競争を主導する構えである。
 包括戦略は、1)EVの安全基準、2)規格などの標準化、3)充電スタンドなどのインフラ整備、4)風力や太陽光など再生可能エネルギーの利用、などの課題毎に必要な対応策をまとめたのが特徴である。欧州委員会は2011年までに充電プラグなどの標準規格などをまとめるとしている。
 欧州委によると、新車販売に占めるEVの割合は30年までに最大30%まで上昇する可能性がある。EUはEVの普及を通じ、温暖化対策、エネルギー対策、技術革新を通じた経済成長戦略を同時に追求できると見ている。
(日本経済新聞10年5月20日)

トヨタ自動車とアメリカのテスラ・モーターズがEV共同開発で提携
 トヨタ自動車とアメリカのEVベンチャーのテスラ・モーターズは5月20日、EVを共同で開発、生産するため資本・業務提携すると発表した。トヨタがテスラに5,000万ドル(約45億円)を出資する。EVを共同開発した上で、トヨタとGMの旧合弁工場で生産する。トヨタはEVの商用化で先行するテスラと提携し、先端環境分野での競争力強化を狙う。
 トヨタのテスラへの出資比率は2〜3%の模様で、両者はEVと関連部品の開発、生産システムなど幅広い分野で業務提携する。共同開発した車は、トヨタとしても販売する見通しで、今後両社で専門チームをつくり、具体的な提携内容を詰める。
 生産面では、トヨタとGMの旧合弁工場で4月に生産を終了したNUMMI跡地の1部をテスラが買収し、2012年を目途にテスラが開発を進める"モデルS"の生産を始める。当面は年間2万台程度の生産を見込んでいる。
(日本経済新聞10年5月21日)

スマートグリッド制御技術を25社と3大学が共同で実証実験
 東芝、三菱電機、関西電力など25社と、東京大学、東京工業大学など3大学は、次世代電力網(スマートグリッド)制御技術の実証実験に乗り出す。経済産業省が主導する産官学プロジェクトで、3年間に約20億円を投じる。太陽光パネルなどを備えたモデルハウスやEVを使い、電力のやりとりを最適に制御できる実用的なシステムの構築に生かすとしている。日立製作所、東京電力、伊藤忠商事、三菱自動車、ダイキン工業なども参加し、費用は経産省と産学が折半する。
 具体的には、東大構内にヒートポンプ給湯器や太陽光パネルを備え、電気自動車のあるモデルハウスを建設する。余剰電力が生じた場合は、電力会社からヒートポンプ給湯機でお湯を沸かしたり、EVの蓄電池に電力を貯めたりする指示を出して電力の需給を制御し、電圧を安定に保つ機器も試験する。
(日本経済新聞10年5月22日)