第166号 300℃でイオン伝導を示す鉄系酸化物
Arranged by T. HOMMA
1.SOFCの技術開発
2.PEFCの要素および関連技術開発
3.エネファームの事業展開
4.FCV最前線
5.水素ステーション関連技術開発と事業展開
6.バイオFCの開発
・A POSTER COLUMN
1.SOFCの技術開発
(1)東工大
 東京工業大学の八島准教授と九州大学の石原教授らは、SOFC電極内を流れるイオンの通路を3次元画像で表示できる技術を開発した。温度を上げていくと通路が開通し、次第にそれが太くなる様子が分かる。より低い温度でもイオンが流れやすい電極材料の開発に役立つ。材料の化学組成を最適化すれば、発電効率を1.5倍まで高められる他、低コスト化にもつながると期待している。応用したのは固体材料の結晶構造解折に使う中性子線回折法で、回折信号から得られる原子濃度の分布を3次元の画像に変換する。実験ではSOFC用プラセオジム・ニッケル酸化物の空気極内における酸素原子の分布を調べた。温度を27℃から1016℃に引き上げながら酸素の分布を調べたところ、低い温度では酸素は電極内の限られた領域に点在していたが、600℃を超えたあたりで領域同士がつながって酸素がイオンとして流れる通路が開通した。又温度を上げると通路が次第に太くなる様子が分かった。(毎日、日経産業新聞10年2月2日)

(2)京大
 京都大学化学研究所の島川教授と市川教授らは、ペロブスカイト構造酸化物から酸素を欠損させたブラウンミレライトと呼ばれる鉄の酸化物で、従来よりもはるかに低い300℃の温度で、酸素イオンを伝導することを発見した。SOFCの電解質は、YSZが主流であるが、8面体が並ぶペロブスカイト構造の酸化物も検討されている。研究チームは、この構造を持つカルシウムと鉄の酸化物に着目し、これが酸素イオンの移動を起こすことを発見、原子レベルで酸素の動きを観察した。パルスレーザー蒸着により、基板上にこの酸化物の単結晶薄膜を約100nmの厚さまで成長させた。膜が垂直に積層するタイプと水平方向のタイプ2種類を作り、水素化カルシウムと呼ばれる還元剤を添加した。酸素の一部が離脱する様子をX線などにより比較したところ、240℃でも酸素がはずれてイオンが拡散することを発見、積層の仕方が異なっていても、酸素イオンは基板から上方に移動したが、イオンが動くスピードには差があった。このような基礎的成果がSOFCに応用できれば、低温で動作する高性能な製品に結びつく可能性があると研究チームは見ている。(京都新聞10年2月8日、産経、日経産業、日刊工業新聞10年2月9日)

2.PEFCの要素および関連技術開発
(1)ナノメンブレン
 化学ベンチャーのナノメンブレン(東京都)は、金属酸化物などを使った電解質膜を独自開発した。PEFCでは電解質膜に有機膜を使うが、イオン透過率を高めるために膜を薄くすると、化学反応時の高温で膜が破損し易いと云う問題がある。ナノメンブレンは液体状の金属酸化物に遠心力をかけ、厚さがナノメーター単位の薄膜を形成、これを10〜30枚程度積層して電解質膜として活用する。厚さは通常の電解質膜の1/100以下になるが、強度や耐温度性は通常のそれよりも優れている。この膜と市販の電極を組み合わせて、5cm2前後のメダルのような形をしたFCを作製した。理論上の発電効率は42%程度で、現在はまだこの理論的効率は得られていないが、11年夏ごろまで実証実験を重ね、12年夏のサンプル出荷を目指す。(日経産業新聞10年2月4日)

(2)北大
 北海道大学大学院工学研究科の米澤教授らの研究グループは、水中で連続してプラズマを生成できるマイクロ波液中プラズマ装置を開発、同装置を用いて多様な金属系ナノ粒子を容易に連続合成することに成功した。触媒担持担体と共存させることによって、金属担持触媒の合成も行えることから、FC触媒や各種有機反応触媒への応用が見込める。水中プラズマで金属ナノ粒子が生成されるメカニズムは、プラズマによって水素ラジカルが発生、それが金属イオンを還元することによって得られる結果と見られている。又プラズマ発生によって局所的に高温状態になるため、金属のスパッタリングが起こることも発見しており、電極をナノ粒子の金属母体にすることで金属ナノ粒子を発生させることが可能としている。(化学工業日報10年2月15日、日刊工業新聞2月18日)

(3)産総研と新光化学工業所
 産業技術総合研究所は新光化学工業所と共同で、品質の揃った金属ナノ粒子を連続的に合成するプロセスによる金属ナノ粒子連続合成装置を開発した。産総研では半導体マイクロ波発生源により、マイクロ波を反応管に集中かつ均一に照射する技術を開発、更に共同研究で同照射技術を金属ナノ粒子合成に最適化することで上記連続合成プロセスの実用化に成功した。金属ナノ粒子は触媒、二次電池やFCの電極材料にも利用されるが、製造コストや品質の安定性が重要な要素で、大量合成技術や連続合成に対する要望が高まっていた。(鉄鋼新聞10年2月18日)

(4)住友化学
 住友化学は、炭化水素系フィルムを用いたプロトン導電膜の開発を進めており、15年頃の実用化を目指している。フッ素系フイルムよりも水素リークが少ない利点があり、定置用、FCV用の両方で事業化を考えている。(化学工業日報10年2月16日)

(5)住友商事とACALエネルギー
 住友商事とイギリス・ベンチャーのACALエネルギー社(ランコーン)は、電極触媒をより安価な化合物に置き換えることにより、カソード側では金触媒を全く使わず、アノード側では従来型に比べて白金の使用量を最大90%削減したPEFCを開発、試作機を3月3日開幕の"FC EXPO"に初公開する。更に熱や水分の制御も簡略化できるため、システムコストが削減されるとともに耐久性の向上が期待できるとしている。特許技術"Flow Cath"の発明者Andrew Creethによる講演もある。(鉄鋼新聞10年2月22日)

(6)ブルームエナジー
 アメリカ環境ベンチャーのブルームエナジー(カリフォルニア州)は2月24日、白金などよりも安い素材を使うことにより、低いコストでの発電が可能な新型業務用FC"ブルームエナジー・サーバー"を始めて公開した。コンテナ大であり、天然ガスやバイオガスなど各種燃料が使用可能で出力は100kW、アメリカの公的な助成金を使った場合の発電コストは通常の電気代よりも安い9〜10セント/kWh、現時点での価格は1台70万〜80万ドルとしている。グーグルやウオルトマート・ストアーズなどが導入済みという。(日本経済新聞10年2月25日)

3.エネファームの事業展開
(1)パナソニック電工
 パナソニック電工は、冷暖房の効果を高める断熱材や太陽光発電システムなどを採用し、CO削減にこだわった木造住宅"エコイエ"を開発した。提携する地域工務店グループが2月1日から発売する。家庭用FCエネファームや家庭菜園などに利用する雨水貯蔵庫"レインセラー"、日々の電気使用量を確認する"ECOマネシステム"など、パナソニックグループ製品を選んで装備できる。地域や立地の特性に合わせ、間取りなども工夫し、太陽光や通気も利用する。1990年に建てられた住宅に比べて、CO削減量を60%以上削減することを目指す。2010年度の販売目標は100棟。(読売新聞10年2月1日)

(2)パナソニック
 パナソニックはエネファームの次期モデルで、国内専用から海外市場への対応を進める。3年以内の商品化を目指す次期モデルでは、国内向け現行機種のプラットフォームを利用するが、燃料改質器やインバーターなどを海外のニーズや仕様に対応して国内とガス成分や電力規格などが異なっても現行機種と共通のプラットフォームで対応できるようにする。同社はエネファームの販売台数を、15年度には6万〜10万台まで伸ばす考えであるが、現行機種の価格は300万円を超えており、量産効果でコスト削減を進めるためには、グローバル展開が欠かせないと見ている。(日刊工業新聞10年2月2日)

(3)アストモスエネルギー
 アストモスエネルギー(東京都)は2月2日、寒冷地仕様LPガス式エネファームを、4月から道内を始め、青森や長野など6県で販売すると発表した。アストモスと東芝FCシステムが共同開発した。09年7月発売の標準機に断熱材を増強し、積雪の影響を受けない改良を加えてー20℃まで対応可能にした。標準機の本体価格は325万円であるが、寒冷地仕様では「標準機から1割高以内に抑えたい」としている。北海道ガスもパナソニックと共同で都市ガス式寒冷地仕様を開発、11年に発売する。(日刊工業、北海道新聞10年2月3日)

4.FCV最前線
 TOKiエンジニアリング(福岡市)と産業技術総合研究所は、水素配管接続用メタルパッキング"DYリング"を開発した。70MPaの高圧水素ガス環境下でも繰り返し使用できるのが特徴で、FCVの高圧水素ガス容器への応用が期待される。材質はステンレス"SUS316L"で、大きさは内径14.5mm、高圧水素ガス環境下でブリスタ(気泡)破壊を起こすOリングに代わって、金属で劣化することなく繰り返し使えるメタルパッキングとして使える。価格は3,000円である。同リングはリング内部に凹凸の突起を設け、配管接続面に圧着する構造であり、リング内が高圧になるほど、圧着効果が高まる仕組みになっている。水素ガス加圧下試験で70MPaでも水素ガスが漏れないことを確認した。(日刊工業新聞10年2月23日)

5.水素ステーション関連技術開発と事業展開
 ホンダは1月28日、従来のソーラー水素ステーションを小型化した太陽光発電装備の家庭用次世代水素ステーションを開発、アメリカで実証実験を開始したと発表した。ホンダの"FCXクラリテイ"に水素を供給する。太陽光発電による電気で水を分解方式であるが、水素の製造と圧縮を1つの装置で行うため、コンプレッサーや高圧水素タンクが不要で騒音も小さい。8時間の水素充填で約50km走行できる。(日本経済、産経、日刊工業、日刊自動車、中日新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報10年1月29日、電気新聞2月1日、日経産業新聞2月2日、中国新聞2月8日)

6.バイオFCの開発
 京都大学の加納教授、辻村助教らは果物の糖分で発電するFCを開発した。電極をリンゴなどに刺すだけで太陽電池の1/10の電気を取り出せ、LEDならリンゴ1個で一晩以上光続ける。開発したのは微生物や酵素で糖を分解して電流を取り出すバイオFCで、炭水化物から酢酸を作る細菌の酵素を片方の電極に付け、もう一方にキノコの酵素を付ける。細菌の酵素が果糖を分解して水素イオンが発生、キノコの酵素によって水素イオンが酸素と反応することにより発電する。出力密度は約1mW/cm2、酵素の最適な組み合わせや電極の構造などを改良すれば約5mW/cm2まで増えるという。果糖が存在する限り発電を続ける。(日本経済新聞10年2月15日)

 ――This edition is made up as of February 25, 2010――

・A POSTER COLUMN

ガリバー自動車研究所による2010年自動車市場予測
 環境問題の意識の高まりにより、ユーザが描く自動車の将来像では、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)が主流になると予測していることが分かった。09年はHVの普及が加速したが、5年後に主流となる自動車については、HVが59.4%、EVが19.1%と回答、次いで燃料改善型ガソリン車が10.1%となった。
 しかし、10年後に主流となる自動車については、EVが50.3%、HVが12.6%で、EVがHVを逆転する結果となった。現在開発が進んでいるFCVや水素自動車についても、それぞれ約10%が主力になるとの回答が寄せられている。  10年後に主流になると見られているEVであるが、「いくらまでならベース車より高くても買いますか?」の質問については、「ベース車と同価格程度なら」が33.6%、「ベース車より安いなら」が31.1%で、「プラス10万円」が10.1%、「プラス20万円」が9.9%、「プラス30万円」が8.4%であった。
 なお、全国石油商業組合連合会の報告書「次世代自動車対応給油所(SS)の将来像を考える研究会」によれば、HVやEVなど次世代自動車保有台数は20年度には約240万台となり、新車販売数の約5割を占めると予想、それに伴いガソリンの需要は08年度比30%減の4,080万klに、軽油は同15%減の2,866万klになると見ている。
(日刊自動車新聞10年1月29日、日刊工業新聞2月9日、日刊自動車新聞2月13日)

FC市場規模に関する富士経済の予測
 富士経済はFCシステム市場について調査し、その結果を"2010年版FC関連技術・市場の将来展望"としてまとめた。それによると、家庭用FCとFCVが市場をけん引、25年度にはFCシステム市場全体で1兆6,133億円に拡大すると予測している。
 分野別では住宅分野の市場規模が09年度見込みの146億円から25年度には5,070億円に拡大する。FCV分野では15年度以降から本格投入されるとして、20年度に10万台、25年度には45万台となり、FCVを中心とした自動車分野では、25年度に9,900億円に拡大すると予測した。
(日刊自動車新聞10年2月3日、電気、日経産業新聞10年2月4日)

ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)への改修やスマートハウスの開発計画
 東京ガスは2月3日、同社が保有するオフィスビル"東京ガス港北NTビル"をゼロエミッションビルに改修すると発表した。次世代技術を使って、太陽熱、太陽光などの再生可能エネルギーを最大限活用できるシステムを構築、一次エネルギー消費を正味0にするゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)目指す。2月1日に着工、改修費は数億円で、9月末に改修を終える予定である。
 改修では、出力20kWの太陽光発電パネル、発電出力が35kWのガスエンジンコージェネレーションシステム(CGS)、定格熱出力が約100kWの太陽熱集熱器などを導入、太陽熱やCGSの廃熱を冷暖房に活用する。又太陽光発電の導入で課題となる出力変動に対応するため、蓄電池やCGSを組み合わせ、最適制御を行う電力統合システムを導入、需給を安定させる。
 これにより、一般のテナントビルに比べて1次エネルギーを4割、CO排出量を44%削減できる見込みである。同社では13年度までの3年間、建物単体での省エネ・省CO効果を検証する。その後、高効率FCの導入や近隣施設とエネルギーを面的に融通することによって30年までにはZEBを目指す。
 なおスマートハウスに関しては以下のような計画が各社から発表されている。
 大阪ガスと積水ハウスは2月10日、コンピューター制御で電力と熱を効率的に利用し、省エネルギーを図るスマートハウスの実証実験を行っている京都府木津川市の施設を公開した。実験は経済産業省の委託事業で、太陽電池、天然ガスを用いた家庭用FC、蓄電池の3電池を組み合わせ、深夜帯にFCで発電した電力を蓄電池にためるなど効率の良い制御法を探る。
 ミサワホームは2月中にエネルギーなどを最適制御する"スマートハウス"の実証実験に乗り出す。FCや蓄電池を搭載した実証棟のデーター収集から始め、既存の電力線を通じた各設備の制御システムを開発する。又エネルギーの"見える化システム"を発展させ、各機器を制御できるようにする。パナホームはパナソニック電工から"AC/DCハイブリッド配線システム"を搭載した実験棟建設を請け負い、10年度内に完成させる。照明や家電などにDCを利用し、交直変換ロスを減らす。大和ハウス工業は6月を目途に蓄電池付のモデル住宅を東西2か所に建設する。
(電気、日刊工業新聞10年2月5日、毎日、日刊工業、中日新聞2月11日、日経産業新聞2月25日)

スマートグリッドに向けた分要素技術やシステムの開発が進む
 中国電力とNECはスマートグリッドにおいて、分散型電源を統合制御するシステムの開発に乗り出す。このほど電力線通信(PLC)を使い、配電線の事故時に電力系統に接続している分散型電源の単独運転を止める技術を完成した。これをベースに遠隔での監視や保守、機器制御を可能にする技術を開発し、スマートグリッドの基盤づくりを図る。
 開発はほぼ完了し、現在中国電力の"エネルギア総合研究所"内で試験中であり、NECが11年度を目途に製品化することを目指している。分散型電源のパワーコンデイショナーなどに組み込むことを想定し、価格は一個当たり約10万円の見込み。
 TDKはスマートグリッドの電源に使う中核的な電力変換装置を開発した。再生可能エネルギーを利用する際に、電力の変換効率を上げる。地域版スマートグリッドに適した装置として、3月から実証実験を開始、2年以内の商品化を目指す。
 経済産業省の"スマートグリッド実証プロジェクト"を委託された大阪ガスと積水ハウスは、2月上旬から中旬にかけて実験を行った。FC、太陽電池、蓄電池とエネルギー使用機器をホームサーバーで一元管理する手法を検証し、3月中に結果をまとめる。実験では積水ハウス総合住宅研究所"アネックスラボ"にエネファーム(700W)、太陽電池(8.16kW)、蓄電池(5.76kWh)の他、エアコン、ガスコンロ、照明・加湿器も操作できるホームサーバーを設置、エネルギー需給機器の一元管理について検証した。
(日本経済、日刊工業新聞10年2月23日、電気新聞2月25日)