第163号 FCVが2回充填で1,100kmを走破
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.MCFCの開発
4.SOFCの開発と実証試験
5.PEFC要素技術の開発
6.エネファームに関する事業展開
7.FCV最前線
8.水素ステーション関連技術開発と事業の展開
9.水素生成・精製技術の開発
10.水素輸送・貯蔵技術の開発
11.マイクロFCの開発と事業展開
12.PEFC機能の応用展開
13.企業活動と事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)経産省
 経済産業省は11月4日、EVなど次世代自動車の国際競争力確保に向けた研究会を設置、第1回会合を開催した。同省は07年5月に"次世代自動車・燃料イニシアテイブ"をまとめたが、欧米でも次世代自動車への取り組みが急速に進んできたことを踏まえて、日本の自動車産業についても、政府の支援策を含めた研究・開発やインフラ整備のあり方、電池の標準化など国際的な課題に対応するための戦略を改めて検討することにした。研究会は自動車、石油、電力、電池の各業界首脳と学識経験者ら民間委員14人と、同省から増子副大臣、近藤政務官、平工製造産業局長らで構成される。研究会の下に自動車全体戦略、電池戦略、充電設備などのインフラ整備に関する3つのWGを設けて、10年1月を目途に討議を重ね、3月には研究会としての方向性をまとめるとしている。結果を政府が策定を進める新たな成長戦略に反映させる。(毎日、産経、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報09年11月5日)
 経済産業省は11月10日、太陽光発電やEVなどの大量導入に向け、有識者による"次世代エネルギー・社会システム協議会"を省内に設置すると発表した。13日に1回目の会合を開く。省内の6つの研究会と民間の会議計7つの組織を束ねて、必要な政策を検討する。10年度中に2か所程度の地域で実証事業を行う計画で、94億円を来年度概算要求に盛り込んでいる。会議では、再生可能エネルギーを大幅に取り入れた電力網の構築、EVやFCVの普及、ビルや家庭での省エネ技術導入などを進めるために必要な施策や社会基盤について検討する。又関連産業の育成策や技術の普及・コスト削減に効果的な標準規格づくりも議論する。(産経新聞、フジサンケイビジネスアイ09年11月11日)
 経済産業省は11月13日、"次世代エネルギー・社会システム協議会"の初会合を開き、環境と経済の両立が可能な低炭素社会構築に向けた検討に着手した。実証事業では、ITを活用した最新の省エネ・新エネ技術を集中投入する。スマートハウスや地区内のEV走行と充電スタンド・駐車場整備、太陽光発電、LED照明、スマートグリッド、次世代暮らしのショウケースなどを整える。又システムとしての海外展開もにらみ、世界のモデルプロジェクトにしていく。資源エネルギー庁では、都市型と農村漁村・地方都市型の2モデルを提示する予定である。(建設通信新聞09年11月16日、日刊建設工業新聞11月17日)

(2)近畿経産局
 近畿経済産業局は10月26日、家庭用FCシステムを手掛けるパナソニックと関西のモノづくり中堅・中小企業14社が家庭用FCに関する技術課題を共有し情報交換する"関西エネファームサロン"を発足したと発表した。(日刊工業新聞09年10月27日)

(3)NEDO
 NEDOは11月16日、革新的な温暖化対策技術の開発を支援する"第2回エコイノベーション推進事業(探索研究)"で採択したCO貯留関連など11件を発表した。10年2月までに1件当たり約1千万円を助成する。(日経産業新聞09年11月17日、日刊工業新聞、化学工業日報11月18日、電気新聞11月20日)

(4)国交省
 国土交通省は11月5日、HVやEVの静音性に関する安全対策の一環で、低速時に人工音を発生する装置の義務付けなどについて、パブリックコメントを開始した。20km/h以下でエンジン音など自動車の挙動がわかる音を発生するようにする。使用過程車は任意装置とするが、市販品の技術要件などを定めて円滑な普及を図る。12月4日まで意見を募集、年内をめどに対策としてまとめる。現段階での適用車種は、トヨタ自動車"プリウス"などHVや三菱自動車の"I -MiEV"などEV、それにFCVである。(日刊自動車新聞09年11月6日)

2.地方自治体による施策
 山梨県や山梨大、民間企業でつくる"山梨FC実用化推進会議"は10月30日、県内で水素を供給するステーションの整備推進や、FC関連製造拠点の誘致などを盛り込んだ施策方針を決めた。今後、産学官で関係団体や企業に働きかけ、県内への産業集積化を目指す。横内山梨県知事は11月25日、FC実用化推進協議会の西室会長と面会し、水素供給ステーションの県内整備促進を要望した。(山梨日日新聞09年10月31日、日経産業新聞11月12日、山梨日日新聞11月26日)

3.MCFCの開発
 電力中央研究所はMCFCの低コスト化技術を開発し、電池部材にかかるコストを約半分にすることに成功した。工程や部材の見直しにより低コスト化を実現、1kW級スタックを試作して1.03kWの出力に達することを確認した。電池部材については単セルの部品数を従来の10部品から8部品に削減した。具体的には電解質板を作る工程で従来使用していた有機溶剤の替わりに低価格の水溶媒を適用し、流路板には熱交換器用部品として使われる汎用品を採用、又アノード、カソードに予め炭酸塩をしみこませる工法を確立することにより、炭酸塩シートを無くした。それらにより、電池部材にかかっていた価格を従来の30万2千円から17万5千円に低減した。今回の低コスト化技術を用いると、システム全体として従来の200万円/kWから100万円/kWにまで低減できる。ただ、海外では50〜60万円/kWを実現しており、電中研では更に低コスト化の検討を進める考えである。(電気新聞09年11月20日)

4.SOFCの開発と実証試験
(1)大ガス等
 大阪ガスは11月10日、京セラ、トヨタ自動車、アイシン精機と共同開発している家庭用SOFCの実証実験を12月から始める方針を明らかにした。10年春までに23台を実際の住宅に設置する。4社での共同開発を3月に始め、このほど実験機完成の目途がたった。大ガスと京セラ2社で開発した2008年度の実験機に比べて、発電ユニットの体積は16%小さくなった。4社は2010年代前半での実用化を目指して耐久性向上や製造コスト低減を進めている。(日経産業新聞09年11月11日)

(2)ジャパンエナジー等
 ジャパンエナジー、住友精密工業、日本ガイシの3社は11月19日、市販の灯油を燃料とした出力3kW級の業務用SOFCの共同開発し、発電に成功したと発表した。灯油から不純物を取り除き改質する装置はジャパンエナジーが、日本ガイシがセラミックス技術を用いたセルスタックを、住友精密が放熱ロスを減らした熱マネジメントシステムを夫々開発した。3社は今後実用化に向けて発電効率の詳細評価やコンパクト化に関する開発を進め、2010年度に実証実験を行い、2015年までの製品化を目指す。(電気、日経産業、日刊工業、日刊自動車、中日新聞、化学工業日報09年11月20日)

5.PEFC要素技術の開発
(1)東工大
 東京工業大学の山口教授らは、100℃の高温や―30℃の低温や乾燥した環境でも使える高分子膜を開発した。研究チームの開発した膜は、高分子膜の材料に、無数の穴のあいた有機分子ポリイミドを使い、穴の中に電気を通す高分子を表面に取り付けた二酸化ジルコニウムの微粒子を充填した構造で、粒子と高分子の表面に水分がとどまり、水素イオンを伝える役割を果たす。水素や酸素は透過しない。開発した高分子膜は従来品より安定性が高く、広い温度領域と湿度20%の環境でも性能を維持、加湿装置や冷却装置などが不要になり、悪条件下でも抵コストで使える。3〜5年での実用化を目指す。(日経産業新聞09年10月29日)

(2)京大等
 極微の穴が無数にある多孔性金属錯体に有機化合物を閉じ込め、化合物が持つ水素をバケツリレーのように輸送できる材料を、京都大学物質―細胞統合システム拠点の北川教授と科学技術振興機構の堀毛研究員らが作った。一辺が1nmの四角形の穴が規則的に並ぶ多孔性金属錯体を合成し、約120℃に加熱、気化した有機化合物のイミダゾールを穴に入れた。室温から温度を上げると、直線状に並んでいるイミダゾールが高速で回転するようになり、水素の受け渡しが始まった。幅広い温度に安定で、これをFCの電解質として使えば、短時間に高い電力を作りだせる可能性があり、エネルギーロスの少ないFCが開発できるという。(読売新聞09年10月26日、化学工業日報11月12日、日刊工業新聞11月24日)

6.エネファームに関する事業展開
(1)東ガス、大ガス
 東京ガス、大阪ガスの2社がエネファームと太陽光発電を併設するダブル発電からの余剰電力に対し、9〜10円/kWhを払うキャンペーンを開始した。11月1日から始まった新たな買い取り制度では、ダブル発電の買い取り価格は39円/kWhで太陽光発電のみの場合に比べて9円安い。両社ともキャンペーンは11年3月末まで行う予定で、ダブル発電設置者のうち、期間中に申し込んだ人に対し、余剰電力に10年間一定額を払う。東京ガスは10円/kWh、大阪ガスでは10年3月31日までの申込者に対しては9円/kWh、それ以降の価格は未定としている。年間の補助額は標準的なケースで東京ガスが年間3万円程度、大阪ガスが2万8,000円程度の見込み。(日本経済、電気新聞09年11月13日)

(2)東邦ガス
 東邦ガスはエネファームの施行やメンテナンスの教育、次世代機の性能を評価する試験棟を名古屋市熱田区の本社に開所した。又同社は東芝製家庭用PEFCの販売を新たに始めると発表した。発電出力は250〜700Wで、価格は325万5千円、国から最大140万円の補助金が出る。(中日新聞09年11月14日、電気、日刊工業新聞11月16日、日刊工業新聞11月17日)

(3)広島ガス
 広島ガスは11月28,29の両日、県立広島産業会館で"09ガス展"を開き、エネファームを展示する。(日刊工業新聞09年11月16日)

(4)沖縄ガス
 沖縄ガスはエネファームを県内で初めて那覇市古波蔵の民間住宅に設置し、17日に一般公開した。燃料はLPガス、出力は750Wで、303万円で販売する。最大140万円を国が補助する。(琉球新報、沖縄タイムス09年11月18日)

(5)北海道ガス
 北海道ガスは11月17日、荏原の撤退により販売開始が延期になっていたエネファ−ムについて、2011年に試験販売を始める意向を明らかにした。パナソニックとの共同開発で、寒冷地仕様の商品開発に目途がつきつつあり、住宅メーカーを介して先ず十数台を販売する。(北海道新聞09年11月18日)

(6)新日石
 新日本石油は2012年までにエネファームの製品群を大幅に拡大する。PEFCで燃料が都市ガス、LPGの現行ラインアップに、SOFCのLPGを追加、PEFCも灯油機を増やす。SOFCは省スペース性が要求される都市部やマンション、コンビニエントストア向けとし、PEFCは給湯需要が多い地方や一戸建て向けと狙いを分け、市場のすそ野を広げる考えである。何れも11年度に技術を完成させ、12年度から本格販売を計画している。価格も現行の320万円から、全ての機種を120万円にまで下げることを目指す。(日刊工業新聞09年11月18日)

(7)三井ホームリモデリング
 三井ホームリモデリングは、東京ガスのエネファームを標準仕様とした"創エネリフォームbyエネファーム"とエネファームに加えて太陽光発電を標準仕様とした"創エネリフォームbyダブル発電"を発売した。広さに応じて公示価格が決まる戸建定価性リフォーム"我が家一新"シリーズにエネファームと太陽光発電を組み込む。前者が1,249万5000円(延べ床面積132m2)、後者が1,470万円(太陽光発電3kW)である。(毎日新聞09年11月26日)

7.FCV最前線
(1)トヨタ
 トヨタは東京モーターショウで、"プリウス・プラグイン・ハイブリッド・コンセプト"を出展した。他方、将来をにらんだ小型EV"FT-EBU"を世界初公開した。4人乗りで、フル充電での走行距離は90km。都市部での近距離走行を想定して設計されている。又FCVも展示した。豊田社長は「将来、短距離はEV、長距離はFCVというすみ分けになる」との予測を披露した。(中日、中国新聞、河北新報09年10月22日)

(2)ダイハツ
 ダイハツ工業は、FCVの実用化に向けて、東大、阪大、東工大、徳島大、金沢大、ヒューストン大、ニューメキシコ大、日本原子力研究開発機構、米ガス・テクノロジー・インステイテユートや北興化学工業、大塚化学などとパートナー連携し、貴金属がいらない液体FCの応用研究に共同で取り組む。FCVは軽量でレイアウトの自由性などに優れているため、ダイハツは軽自動車分野ではFCVが中心になると見ている。同社は産総研と共同研究した貴金属フリーの液体FCに関する基礎技術がある。燃料の水加ヒドラジンは高濃度だと引火性が高く危険なため、樹脂に吸着固体化して加水し、再液体化する技術を開発した。又アルカリ性の電解質膜を使って耐食性を高め、白金を不要としている。これらの技術を生かし、更に技術を高度化する。(日刊工業新聞09年10月26日)

(3)ホンダ
 下関海響マラソン2009では、ホンダのFCV"FCXクラリテイー"がランナーたちの後方を走る監察車として参加し、大会を支援する。同マラソンでは他にも、山口県警の白バイや中国電力が借り受けているEVなども大会車両として出場者をサポートする。(山口新聞09年11月8日)

(4)JHFC
 資源エネルギー庁はJHFCプロジェクトの一環として、FCV1,100km長距離走行実証"を行う。11月11日に東京霞が関の同省を出発し、12日に北九州市にゴールするまでの1,100kmを2回の水素充填で走破する計画で、トヨタのFCHV-adv、日産自動車のX-TRAIL FCV、ホンダのFCX-クラリテイーの3台が挑戦する。走行スケジュールによると、11日午前8時30分に経産省の中庭をスタート、愛知県庁を表敬訪問した後、移動式水素ステーションと水素ステーションから1回目の水素充填を行う。大阪府庁を表敬訪問、岡山で移動式水素ステーションにより2回目の水素充填を行って、12日午後5時30分に北九州水素ステーションに到着する。(読売、朝日、日本経済、日刊工業、西日本新聞、化学工業日報09年11月11日、産経、電波、日経産業、日刊自動車、東京、中日、北海道新聞、フジサンケイビジネスアイ11月12日)
 JHFCは、FCVの航続距離性能はガソリン車と同等水準であると報告した。11、12日に実施した長距離走行実証試験の結果、2回の燃料補給で1,137kmを19時間で走破した。FCV3台が全走行工程で使用した水素量の合計は28.8kgで、全区間の3車平均燃費は118.4km/kg、最良燃費性能を示した車両では132km/kgとなった。又1回の満タンで714kmを走行可能という。(日刊工業新聞09年11月16日)

8.水素ステーション関連技術開発と事業の展開
(1)日光水素ステーション
 経産省のJHFCによる日光水素ステーション開所式が11月10日、日光市芹沼の丸彦製菓敷地内で行われた。会場には日産、トヨタ、メルセデスベンツのFCV6台が終結し、日光市市長の他、関係者ら約50人が参加した。エン振協が行う地方実施事業で、6月に福岡県とともに実施個所として採択された。2010年度までの2カ年事業で年間2,000万円の補助金が出る。国内のステーションは15か所となる。(日刊工業新聞、下野新聞09年11月11日)

(2)横浜ゴム
 横浜ゴムはFCVに水素を供給するために使う耐圧性能の高いホースを開発した。開発した燃料用ホース"ibara"はナイロン繊維などの高機能繊維2種類を重ね合わせ、ポリエステル樹脂でカバーした3層構造で、耐圧力は70MPaである。複数の樹脂を使うことによって必要な気密性も確保しており、現在主力のゴムと金属を組み合わせたホースの代替を狙う。2010年にも量産に入る計画である。(日経産業新聞09年11月12日)

9.水素生成・精製技術の開発
 神戸製鋼所は、起動・停止特性や負荷変動特性に優れた純水素製造・供給システムの実用化研究を加速する。神戸製鋼所の銅系CO選択吸収剤と既存の水素吸蔵合金を利用したもので、実利可能なコンパクト構造のため大規模な水素ネットワークを構築する必要がない。これまでラボスケール試験装置により、毎日起動・停止させながら目標の100サイクル・150時間の長期運転を完了、精製プロセスとしてほとんど劣化がなく運転できることを確認した。純水素製造・供給システム"COA-MIBプロセス"は06年度から筑波大学の石田教授の研究室と共同研究を進めていた。同プロセスはメタノール水溶液を加圧して、改質ガスを吸着剤が入った塔に送りCOを選択的除去、ここを通過した水素とCOのうち、水素の実を水素吸蔵合金で回収する。引き続き従来の30倍規模となる3m3/hのベンチスケール試験設備を、来年初めを目途に設置、2011年度までの3年間で検証する予定である。(化学工業日報09年11月26日)

10.水素輸送・貯蔵技術の開発
 広島大学先進機能物質研究センターは11月17日、アメリカ・ロスアラモス国立研究所と水素貯蔵材料の共同研究を進めるための部局間交流協定を結んだと発表した。両者は水素をホウ素と窒素の化合物にして蓄える研究を進める。貯蔵できる水素は重量比で化合物の2割を占め、FCVの水素タンクに内蔵すれば、タンクの小型化や軽量化が期待できる。材料自身や水素の貯蔵・放出についても研究し、研究員の交流を深める。(毎日、中国新聞09年11月18日)

11.マイクロFCの開発と事業展開
(1)アクアフェアリー
 ジーエス・ユアサパワーサプライ(京都市)とFC開発ベンチャーの"アクアフェアリー"(京都市)は10月22日、モバイル機器の充電が手軽にできる小型FCを来春にも商品化する計画を明らかにした。水と水素化金属を使った発生剤を燃料に効率よく発電する。比較的容量の大きいノートパソコンもフル充電できるのが特徴で、携帯型の外部電源として市場開拓を狙う。外出先などでモバイル機器に接続し、現在普及している乾電池よりも大容量を短時間に充電できる。携帯電話用は重さ24gで手のひらサイズ以下まで小型化した。約2時間でフル充電が可能で、燃料カートリッジを交換すれば、繰り返し使用できる。カートリッジの大きさは1cm、1cm、3.5cmで使用後は不燃ごみとして廃棄できる。既に機器メーカーなどにサンプル出荷を始めており、ジーエスが製造、販売で協力する。価格は未定であるが、相沢社長は「当初は携帯電話など向けの小型で5千円が1つの目安」で、量産が進めば普及価格で2千円程度に引き下げ、カートリッジは100円程度で販売するとしている。(毎日、日本経済、日経産業、日刊工業京都新聞09年10月23日)

(2)東芝
 東芝は10月22日、外出先で携帯電話や携帯音楽プレーヤーなどの充電が簡単にできる小型DMFC"デイナリオ"を発売すると正式に発表した。東芝のインターネットサイトで、3,000台限定で受付を始め、29日から順次発送する。縦7.4cm、横15cm、高さ2.1cm。燃料のメタノールを約20秒間注入すると、携帯電話を2回程度フル充電できるという。送料込みで本体29,800円、1本で3〜4回注入できるメタノールが5本セットで3,150円。(読売、朝日、日本経済、日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報09年10月23日、毎日新聞10月24日、電気新聞10月26日、西日本新聞10月27日、北海道新聞11月3日)

12.PEFC機能の応用展開
 名古屋大学大学院の田川教授らは、PEFCを化学反応器として使い、有機分子を合成する新手法を開発した。PEFCの空気極近くでは、酸素が水素イオンと反応して活性の低い過酸化水素などができる。他方、通常の化学合成プロセスでは酸素が強い酸化力を発揮するため反応が過剰に進み、目的の化合物を作るのは難しかった。新手法では水素イオンが化学反応のブレーキ役を果たし適度なところで反応を止めるので、これを利用すればアルコールなどが作り易くなる。実際にPEFCの空気極から酸素とプロピレンを送り込んだところ、空気極付近にプロピレンと同様に炭素原子を3個持つアルコールやアルデヒドが生成された。又PEFCには0.83Vの電圧が発生し電力を回収できることも分かった。通常の化学反応では酸化反応が進み過ぎるために温度が上がり、エネルギーの大半が熱として失われる。研究チームは反応の効率を高め、プロピレン以外にも応用を目指し、将来は天然ガスの主成分であるメタンを効率良くメタノールに変える技術などにも応用を試みるとしている。(日経産業、日刊工業新聞09年10月23日)

13.企業活動と事業展開
(1)新日本石油と新日鉱ホールデイングス
 経営統合を発表していた新日本石油と新日鉱ホールデイングスは10月30日、統合契約を正式に締結した。持ち株会社"JXホールデイングス"を2010年4月に設立、JXグループとして太陽電池向けポリシリコンやFCなどの非石油部門に経営資源を積極投入する。(読売、中日、西日本、中国新聞、フジサンケイビジネスアイ09年10月31日、電気、日経産業新聞11月2日)

(2)BASF
 BASFはFC事業の総合的な競争力強化を目指し、同事業部の再構築を進めていく。高温型MEAの製造を小会社のBASFフューエル・セル(BFC)のアメリカサマセット拠点(ニュージャージー州)に集約、ドイツ・フランクフルトにおけるBFCの活動は09年12月31日付で終了し、フランクフルト拠点は10年中に閉鎖する。FC事業はBASFが育成を進める成長事業に1つで、今後はサマセットを生産の中核拠点として、日本の四日市開発センターとともにFC事業の育成を進めていく方針である。同社の高温型MEAは家庭用コージェネレーションから、停電時の電力供給を確保するバックアップシステムまで、広く採用が進んでいる。(化学工業日報09年11月10日)

 ――This edition is made up as of November 26, 2009――

・A POSTER COLUMN

FCV用FCのセパレーターが金属系にシフト
 開催中の第41回東京モーターショウでは、HVやEVに注目が集まっているが、やや影が薄れたFCVの一部で勢力図が塗り替えられた。国内の主要メーカーが出展するFCのセパレーターが、カーボン系から金属系にほぼ全面的に切り替わったのである。
 トヨタは08年9月にリース販売を始めた"FCEV-adv"からFCをステンレス製に切り替えた。「零下30℃の寒冷地でも利用できるようにするため、腐食せず、熱伝導率が高くて錆びにくいステンレスを選択した。熱伝導率が高ければ、氷点下でも素早くセパレーターが温まり、より速く電池を起動できる」。日産も08年8月発表の新しいFCスタックで、ステンレス製に切り替えた。JHFC担当者は「金属だとより狭い間隔でセパレーターを縦に並べられる。又金属なら小さくできるし、熱伝導率も良いので、今は金属系がはやりになっている」と主張する。スズキやホンダはカーボンよりも安いことを強調する。金属系は通常のプレス成形で大量生産が可能であり、その分コストを落とせる。
 それでも「EVやHVが脚光を浴びる中、FCのコストが下がらなければ、FCVの灯が消えてしまう」と関係者が危惧するように、まだまだ普及価格に遠く及ばない。「セパレーターだけでなく、触媒やイオン交換膜も高い」など、コスト面のハードルは高い。
(日刊工業新聞09年10月26日)

上海万博でEVやFCVなどエコカー1000台を導入
 2010年5月に開幕する上海万博で、中国当局はエコカーを大量に導入するとともに、来場者に資金を募って排出量取引への参加を促し、開催期間中のCO総排出量を0にする目標を立てている。
 万博事務協調局は開催中に900万トンのCOが発生すると予想している。これに関して会場内の移動に使うEVやFCVなどのエコカーを1,000台導入して、150万トンのCOを削減、残りの750万トンは排出量取引への参加で減らし「ゼロ排出」の実現を目指すとしている。排出量取引は来場者が会場まで利用する交通機関のCO排出量などをサイトに掲示し、来場者が自らつけた価格で排出量を購入する仕組みとする。
(日本経済新聞09年10月31日)

次世代送電網等、地球温暖化対策技術を日米で共同研究
 鳩山首相とアメリカのオバマ大統領が11月13日の会談で、環境・エネルギー分野の技術協力で合意する見通しとなった。両国が年明けにも、沖縄県とアメリカ・ハワイ州で次世代送電網"スマートグリッド"の共同研究を開始、実証実験を経て両国の技術を国際標準とすることを目指す。又COの地中貯留(CCS)や原子力発電の推進なども含め、地球温暖化対策を巡る幅広い連携を打ち出す。
 両国は沖縄県とハワイ州でそれぞれ再生可能エネルギーを使って、スマートグリッドの実証実験を実施中であるが、今後の今協力のあり方を議論するタスクフォース(作業部会)の設置で合意する。年明けにも初会合を開く。アメリカ側はエネルギー省、日本側は政府や沖縄県、電気事業連合会などが参加する。CCSにつては、COを効率的に分離する回収液の開発や、埋めた場合の環境評価などで協力する方針である。原子力分野では地震に強い発電所建設技術の開発、平和利用につながる第3国への導入支援に共同で取り組む。又日本の産業技術総合研究所やアメリカ・エネルギー省傘下の研究所が協力し、水素製造技術の開発を推進する。又次世代自動車でも共同の研究開発や実証を展開する。
(日本経済新聞09年11月12日、読売、電気新聞11月13日、東京新聞11月14日)

国立環境研研究所などが「2020年まで17%減が合理的」と試算
 2050年までにCO排出量を90年比で70%減らす場合、20年までに17%減を達成する道筋が削減費を最も抑えられるとする試算を、国立環境研究所などがまとめた。今後国内削減分の割合検討に影響を与えそうである。
 研究チームは前政権の長期目標「50年までに60〜80%減」に基づき、70%減を実現するのに、約400種類の技術導入が最も費用対効果が高くなる道筋を調べた。50年の人口は00年比2割減少し、GDPは年2%で成長すると想定している。
 それによると、太陽光や風力発電は15〜50年にかけて拡大、FCVは40年以降に本格導入する。他の技術も最適な時期に導入すると、CO排出量は20年に17%減、30年に30%減が達成できる。
(毎日新聞09年11月17日)

セルロース系バイオ燃料の製造費がガソリン並みの40円/リットル
 トヨタ自動車や神戸大学は稲わらなど非食料系植物からバイオ燃料を効率良く生産する技術を開発した。開発には九州大学や豊田中央研究所も参加した。
 バイオ燃料は植物を酵素"セルラーゼ"で分解した後、酵母菌で発酵することにより造られる。トヨタなどは遺伝子組み換え技術を使って、分解と発酵を同時に行う酵母菌を新たに開発、更に稲わらなどが分解しやすいように"イオン液体"に浸して酵母菌を入れれば酵素を加える必要がなくなり、これまで2段階に分かれていた生産工程が1つに削減される。この結果、製造費はガソリン並みの40円/リットルが実現できるとしている。5年後を目途に実用化する意向である。
(日本経済新聞09年11月1日)