第161号 200〜300℃中温動作型FC電解質の研究
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策と活動
3.SOFCおよびその関連技術開発
4.中温動作型FCの開発動向
5.PEFC要素技術研究
6.家庭用"エネファーム"事業展開
7.FCV最前線
8.水素ステーション事業
9.バイオおよびバイオ関連FCの開発動向
10.水素生成・精製技術の開発
11.FC・素関連の計測・観測技術開発
12.企業による事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)経済産業省・資源エネルギー庁  資源エネルギー庁は、EVやFCVなどへの燃料供給基地として、全国に約17,000件あるLPGスタンドの活用に向けた調査を開始する。09年度から2年間実施し、事業化の可能性を探る。09年度で終了するLPG自動車燃料用容器開発調査、DME混合燃料技術調査に替わる新規の調査事業となる。更に地域で発生するバイオマスをLPGに混合して有効利用するためのシステム開発調査も計画している。(化学工業日報09年8月24日)

(2)水素利用社会システム構築実証事業
 経済産業省は8月28日、国内初の水素利用社会システム構築実証事業として、2団体が申請した事業を採択したと発表した。1つは北九州市での水素タウン実験と首都圏でのFCバス運行を行う水素供給・利用技術研究組合、もう1つは木質バイオマスを水素源に活用する佐賀県地域産業支援センターである。09年度補正予算で計30億5,000万円を補助し、水素利用の先進的な社会モデルの課題や可能性を検証する。水素供給・利用技術研究組合は、福岡県が進める"北九州水素タウン"と連携し、同県が北九州市・東田地区に設ける水素ステーションから延長約3kmのパイプラインを敷設、同地区のマンションや一戸建ての住宅約20軒とコンビニエントストアなどに水素を供給する。各世帯には出力0.7kW、店舗には5〜10kWの純水素FCを置き、発電データーを収集する。首都圏ではFCバス2台を準備し、羽田空港、成田空港と都心を結ぶ定期高速バスなどとして運行する。佐賀県地域産業支援センターは、地産地消型の実証事業に取り組む。鳥栖環境開発総合センターにある木質バイオマスの燃料ガス化プラントを活用し、おが屑状の原料から水素を製造、水素ステーションでFCVに燃料を供給する。(毎日、日本経済、東京、西日本新聞、フジサンケイビジネスアイ09年8月29日、電気、日刊工業、日刊自動車、建設通信新聞、化学工業日報8月31日、中国新聞9月1日)

(3)国際的な共同研究拠点
 NEDOは、2015年にFCVを一般ユーザーへの普及開始をにらんだ国際的な共同研究拠点を立ち上げた。国内だけでなくアメリカ、ドイツ、フランス、韓国、中国などを含めて国内外から30人の一線級研究者を集めて研究体制を築き、2014年までに年間10億円を投じる計画で、高性能の触媒や電解質膜などPEFCの要素研究を進める。新たに稼働する拠点は"山梨大学FCナノ材料研究センター"で8月25日に開所、センター長には渡辺山梨大学教授が就く。同センターは特殊な計測を行うための防振、磁気漏洩シールドが施されている他、クリーンルームなどの防塵環境も備え、又政界最高水準の性能を持つ電子顕微鏡やX線光電子分光装置、核磁気共鳴などの最新装置を備える。FCVの本格普及に向けては、スタックの製造コストを現状の数十万円/kWから約4千円/kWに、耐久性時間は3千時間から5千時間以上とするなどの課題が挙げられている。(電気、日経産業、日刊工業、電波、日刊自動車、東京新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報09年8月20、鉄鋼新聞8月21日)

(4)自立型FCに関する研究調査
 NEDOは9月2日、自立型FCに関する研究調査の委託先に、新日石の子会社ENEOSセルテックを選定した。同研究調査は、自立システムを持たせたFCに関して、国内外の市場性や新たな活用の可能性を調査し、要求仕様・製品コンセプトを検討した上で、自立型FCのあるべき姿を明確にするのが目的である。又自立型を実現するための技術課題も検討、今後の取り組み方について提言する。(鉄鋼新聞09年9月4日)

2.地方自治体による施策と活動
(1)福岡県
 水素エネルギーの産業化に必要な関連機器の開発を支援する国内初の"水素エネルギー製品研究試験センター"の着工式が9月5日、前原市の前原IC南地区リサーチパークであり、麻生知事ら関係者約60人が出席した。2010年4月に操業を開始する。試験の対象として、FCVや水素ステーションで使う配管、バルブ、センサー、流量計などを想定している。メーカーから依頼があれば、性能を調べてデータを提供し、製品化を後押しする。又関連機器の標準化にもそのデータを生かす。(西日本新聞09年9月6日)

(2)福井県
 北陸3県の産学官で組織する北陸グリーンエネルギー研究会は9月8日、市民の協力でアルミ付き紙パックを回収し、アルミから水素を取り出してそれをFCに使う試みが、環境省のモデル事業に採択されたと発表した。(福井新聞09年9月9日)

(3)大阪府
 大阪府は9月8日、太陽光発電、FC、充電池、EVなどの分野を中心に、新エネルギーに着目した産業振興を図るための"新エネルギー産業振興戦略"をまとめた。(読売新聞09年9月9日)

3.SOFCおよびその関連技術開発
(1)大阪ガス等4社
 大阪ガス、京セラ、トヨタ自動車、アイシン精機は、4社で共同開発している家庭用SOFC発電ユニットの薄型化に成功、高さ900mm、幅560mm、奥行き300mmとなり、重量も従来比10kg軽量化して83kgとした。薄くても断熱性能の高い部材を使い、セルスタックを格納するモジュールを小型化・軽量化した。排熱利用給湯暖房ユニット(高さ1,700mm、幅700mm、奥行き300mm)を含めたシステム全体の設置スペースは0.65m×2m弱で、PEFCシステムの約半分になる。都市部の一戸建て住宅の狭い通路などでも設置が可能で、大ガスはSOFCが設置可能な住宅が1.5倍になると試算している。大ガスはNEDOの家庭用FC実証事業で、小型化したSOFCの09年度1号機を枚方市の一般家庭に設置し、8月22日から運転データの取得を開始した。09年度内に計25台のSOFCを設置して実証運転する。大ガスのSOFC実証実験では、2万時間以上の耐久実績があり、4万2,000時間以上の耐久性確立に目途をつけている。今後、4社はコストダウン技術の確立などを進め10年代前半での開発完了を目指す。(日刊工業新聞09年8月25日)

(2)JFCC
 ファインセラミックスセンター(JFCC)は、小型高集積SOFCに適用可能で、昇降温サイクルの耐久性や急速昇温に耐えられるガスシール材を開発した。このガスシール材は組成が近い2種類の球状粒子を高分散させて柔軟性の高いシート形状とし、約800℃で融着することによって高いガスシール性を発現するもので、ヒートサイクルに対する耐久性は、2種類の粒子の割合と融着の際におけるプロファイルが大きく影響することが分かった。ガラス組成多すぎるとガスリークに至るようなクラックが生じやすく、逆にシリカ粒子の割合を増やすと融着シール材の機械的強度は大幅に向上するが、他部材との界面における接着性に問題が生じやすくなる。600℃と400℃で500回以上のヒートサイクルに対してもガスリークを生じないシール材を実現することができた。(電波新聞09年9月9日)

(3)酸総研、日本特殊陶業等
 産業技術総合研究所は9月10日、ファインセラミックス技術研究組合、日本特殊陶業、東邦ガスと共同で、小型で作動温度が650℃以下の低温で運転できるマイクロチューブ型SOFCモジュールを開発したと発表した。発電密度が2W/m3と高く、40%以上の発電効率と50W以上の出力を実現した。このマイクロチューブを90本組み合わせたモジュールを開発し、性能を確認した。出力200W級モジュールの開発にも成功しており、現在評価試験を行っている。今後モジュールの耐久性や信頼性を向上させ、早期の実用化を目指している。自動車用補助電源や、小型コージェネレーションへの応用が見込まれる。(日刊工業、中日新聞、化学工業日報09年9月11日、電気、日刊自動車新聞9月14日)

4.中温動作型FCの開発動向
 FCの固体電解質において、特定の金属化合物と窒素化合物の働きを組み合わせることにより、200〜300℃の中温領域で高い発電効率が実現できる新素材を、京都大学・物質―細胞統合システム拠点の北川教授らの研究グループが開発した。現在一般的な固体電解質は素材が高価で、温度が100℃以下もしくは600℃以上でないと十分に動作しないという問題点があったが、同研究グループは100℃以上の環境で高い伝導性を持つ固体電解質を合成することに成功した。又NMR測定を用いて、伝導メカニズムの解析にも成功した。具体的には、硝酸アルミニウムとテレフタル酸ジカルボン酸を水中で反応させることにより、1nmの細孔径を持つ安価なアルミニウム多孔性金属錯体を合成、そのナノ細孔の中に水素、窒素、炭素の化合物であるイミダゾール分子を加熱させながら導入することにより、湿度0、中温領域で高いプロトン電導性を示す多孔性金属錯体―イミダゾール複合体を作成した。又金沢大学はNMR測定により、プロトン電導のメカニズムを分子レベルで解析し、イミダゾールが隣同士でプロトンを"バケツリレー"の要領で輸送していることを突き止めた。(日本経済、産経、電気、大阪日日、京都新聞、化学工業日報09年9月7日、フジサンケイビジネスアイ9月10日)

5.PEFC要素技術研究
(1)ニッポン高度紙工業
 ニッポン高度紙工業(高知市)は、無機有機ナノハイブリッド型電解質膜の研究開発で、NEDOイノベーション推進事業に採択されたと発表した。(高知新聞09年8月20日)

(2)横浜国大
 横浜国立大学大学院の安田研究員、渡邊教授らは、プロトン伝導にイオン液体を用いて、無加湿で動作するPEFC電解質膜を開発した。室温から140℃までの幅広い温度範囲で運転できることを確認している。作製した膜は、イオン液体とスルホン酸化ポリイミドの複合膜であり、各種の組み合わせの結果、優れたイオン導電率、電極反応性を示したジエチルメチルアンモニウム(d'ema)トリフルオロメタンスルホネート(TfO)を採用した。高分子材料は高温耐久性のあるポリイミドがベースで、重量で最大4倍量のイオン液体を含ませても、柔軟でかつ強靭な膜が得られた。採用したイオン液体は、熱分解温度が360℃、融点が-6℃であり、幅広い温度で動作できる。イオン伝導度は150℃で53mS/cmであり、既存の膜よりも大きい。実用化できれば、加湿器が不要、又高温で動作させると触媒活性が向上して白金の使用量を抑えることができるため、大幅な低コスト化が期待できる。(化学工業日報09年9月11日)

6.家庭用"エネファーム"事業展開
(1)大ガス
 大阪ガスは6月に販売を開始したエネファームの09年度販売目標を、当初計画の1,000台から1,300台に上方修正する方針を明らかにした。大手住宅メーカーと積極的な営業を展開し、7月末現在で積水ハウスなどを通じて約600台を販売、上方修正に踏み切った。(読売、朝日、毎日、日本経済、電気、日刊工業新聞09年8月27日、産経新聞9月2日)
 大阪ガスは8月27日、実験集合住宅"ネクスト21"での実証結果を基に、FCコージェネシステムを100戸の集合住宅に導入すれば約12%の省エネが実現するとの試算を明らかにした。07年から始まった第3段階の実証試験で、8戸にFCを1台ずつ導入し、余った電力を融通する蓄電装置を組み合わせ、年間7.2%の省エネを実現した。これを100戸の集合住宅に換算すると、約12%の省エネにつながるという。(産経新聞09年8月28日)

(2)東ガス
 東京ガスは8月20日、三井ホームグループの三井ホームリモデリング社と提携し、三井ホームの住宅リフォームシリーズに、東ガスのエネファームを戸建て住宅に標準装備した創エネリフォームシリーズを25日に発売すると発表した。エネファーム単体の"創エネリフォームby エネファーム" (工事価格:床面積40坪で1,249万5,000円)と太陽光発電の双方を導入する"創エネリフォームbyダブル発電"(同:太陽光発電3kW、1,470万円)の2種類を用意した。(日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ09年8月21日、電気新聞、化学工業日報8月24日、日経産業新聞、住宅新報8月25日、電波新聞8月28日)

(3)新日本ガス
 新日本ガス(岐阜市)は、今期から太陽光発電やLPガス仕様"エネファーム"のエネルギー事業に乗り出した。発電機器の販売から設置工事までを一貫して請け負う。(岐阜新聞09年8月27日)

(4)積水ハウス
 積水ハウスが09年2〜7月に受注した太陽光発電システム搭載住宅は2,800棟となり、08年1年分の受注実績を上回った。又家庭用FCは650戸を受注、太陽発電とFCを設置した同社の環境配慮型住宅"グリーンファースト"は、7月の一戸建て住宅受注数の半分を占めるまでに伸びている。国や自治体の補助制度が追い風になった。(朝日、日刊工業新聞09年8月31日、住宅新報9月1日、電気新聞9月4日)

(5)大手都市ガス3社
 大手都市ガス3社が初年度の販売目標を上方修正した。東京ガスが600台、大阪ガスが300台、東邦ガスが50台上積みし、3社合計の販売台数は当初目標の2,700台から3,650台に引き上げられた。(電気新聞09年9月7日)

(6)新日石
 新日本石油は9月8日、横浜市に建設した住宅用エネルギー機器の実証モデル住宅"ENEOS創エネハウス"の一般公開を9月29日に始めると発表した。(電気新聞、化学工業日報09年9月9日、日刊工業新聞9月10日、住宅新報9月15日、読売新聞9月21日)

(7)東邦ガス
 東邦ガスは9月24日に太陽光発電と組み合わせた高効率ガス機器を発売する。高効率給湯器"エコジョーズ"、ガス発電・給湯暖冷房システム"エコウイル"、家庭用FC"エネファーム"の3機種に、シャープ製太陽光発電システムを組み合わせる。(中日新聞09年9月19日、日刊工業新聞9月21日)

7.FCV最前線
(1)ダイムラー
 ドイツのダイムラーは8月28日、09年末からメルセデス・ベンツ"Bクラス"のFCVの量産を開始すると発表した。先ず10年初めに約200台を欧米の顧客に納入する。水素燃料を満タンにした場合の走行距離は約400km、給油時間は3分程度で済む。(中日新聞09年8月30日)

(2)北陸グリーンエネルギー研究会
 09年5月に設立された北陸グリーンエネルギー研究会が進めている「アルミ系一般廃棄物から回収した高純度アルミを用いた水素発生装置をカートリッジ化し、この水素をFCで電力に変えて利用するシステムの開発プロジェクト」において、09年8月にこのシステムを利用した軽トラックの走行実験が行われた。(鉄鋼新聞09年9月1日)

(3)ホンダ
 ホンダは9月3日、岩谷産業に"FCXクラリテイー"を納入した。岩谷産業はリース購入しているFCXが更新時期を迎えたことに伴う新たな導入である。又出光興産も9月3日、"FCXクラリテイー"をリース契約すると発表した。契約期間は3年間で、通常業務や各種実証試験などに利用する予定。両社とも3台目となる。(日経産業、日刊工業、日刊自動車新聞、化学工業日報09年9月4日、電気新聞、化学工業日報9月7日)

(4)世界有力自動車メーカー
 トヨタ自動車やホンダ、ダイムラー、GMなど世界の有力自動車メーカー各社は9月9日、FCVに関して、2015年を目途に市場投入を実現することなどを盛り込んだ共同声明を発表した。又11年までに公的支援も仰ぎ、経済的に実現可能なドイツ全土にまたがる水素供給インフラ網整備計画立案の覚書に調印し、第2段階では行動計画に沿って同インフラ網の建設を進める。声明には4社以外に、ルノー・日産自動車連合、フォード、現代自動車、起亜自動車なども署名した。(読売、毎日、日本経済、東京、中日新聞09年9月10日、日経産業、日刊自動車新聞、河北新報9月11日)

(5)ダイムラー
 ドイツ・ダイムラーの取締役(開発担当)は9月15日、時事通信とのインタービューで、FCVの分野でトヨタ自動車との連携に関心があることを明らかにした。(電波、日刊自動車新聞09年9月18日)

8.水素ステーション事業
 福岡県は9月16日、北九州水素ステーションを18日に開設すると発表した。九州大学伊都キャンパスで改修した水素ステーションも完工、本格稼働する。これより福岡県が進める福岡―北九州を結ぶ"水素ハイウエイ"構想が実現、同県は今後、FCVや水素エンジン車の実証走行に着手する。(日刊工業、西日本新聞09年9月17日)

9.バイオおよびバイオ関連FCの開発動向
(1)ソニー
 ソニーは安全性を特徴とする"バイオFC"の高出力化を推進し、車載用途を含めた多様なアプリケーションを開発する。バイオFCをDMFCと比較すれば、燃料にはメタノールではなくグルコース(ブドウ糖)を、触媒には白金ではなく酵素を使うので、破損しても爆発などを起こさないなど高い安全性を持つが、同社が07年に試作した出力50mWのバイオFCは、出力密度がDMFCの1/10程度で低い。そこで同社は電解質の緩衝溶液をリン酸ナトリウムからイミダゾール系に変更、ブドウ糖濃度を2倍にすることによって出力密度を5mW/cm2(2.5mW/c.c)へ2倍に向上させた。アノード側の酵素(触媒)にはグルコースデヒドロナーゼとジアホラーゼ、カソード側にはピリルビンオキシダーゼを使用、電極は多孔質カーボンであり、これに酵素を高密度に固定している。酵素は特定の物質のみに反応する高い選択性を持つので、セパレータは安価なセロハンですむ。バイオFCの出力を上げるためには、緩衝溶液だけでなく、電子伝達物質や酵素の実効面積を広げられるよう電極材料を見直す必要があり、同社はDMFC並みの出力を目指して更に改良を進める計画である。(化学工業日報09年8月24日)

(2)マサチューセッツ大学
 アメリカ・マサチューセッツ大学の研究チームは、FCの発電効率を高めるのに役立つ微生物を発見した。表面に細長い毛が無数に生えているのが特徴で、電子を運ぶ性質に優れている。海洋環境を観測するセンサー向けなど、部品交換が難しく長持ちが求められるFCに有効とみている。発見したのは"ジオバクター"と呼ばれる微生物の一種で、体の表面から導電性の毛を伸ばす。FCの負極に使う黒鉛の表面で繁殖させると大電流が取り出せるようになり、発電効率を高められる。研究チームはこの微生物を"KN400"と命名、実用化に向けた研究を進める。(日経産業新聞09年9月9日)

10.水素生成・精製技術の開発
 東京理科大学理学部の工藤教授、斉藤助教、佐々木大学院生らは、可視光で水を酸素と水素に分解する光触媒を開発した。量子効率は太陽光で0.1%と低いが、金属イオンなど電子伝達系を含まない固体触媒のみで水分解に成功した。これは420nmの可視光にピークのある光触媒で、水素を生成する触媒と、酸素を生成する触媒を組み合わせた2段階光励起型(Zスキーム型)で、水素触媒はチタン酸ストロンチウムにロジウムを1%ドープし、助触媒としてルテニウムを担持させた。酸素触媒にはバナジン酸ビスマスを採用した。水溶液をpH3.5の酸性にすると2つの触媒が凝集し高活性化する。100gの水に0.1gの触媒を縣濁させるだけで、水素を40μモル/h、酸素19μモル/hが得られた。見かけの量子収率は420nmの光で1.7%、太陽光で0.1%であった。同グループでは、見かけ量子収率を実用レベルの3%まで引き上げることを目指すとともに、酸素と水素を効率良く分離、捕集する方法の開発を進める。(化学工業日報09年9月17日)

11.FC・素関連の計測・観測技術開発
(1)島津製作所
 島津製作所は、FC内の酸素濃度分布を可視化する装置を世界で初めて開発した。発電に必要な酸素の消費状況がリアルタイムで正確に計測できる。開発した装置は、酸素感応試薬をガス流路に塗り、半導体レーザーをあててCCD(電荷結合素子)カメラで測定する。高温多湿な状況でも機能低下しない白金系の酸素感応試薬を開発することで製品化に成功した。9月1日からFCメーカー向けに販売する。本体価格は2千万円。(京都新聞09年8月29日、日刊工業新聞、化学工業日報8月31日、日経産業新聞9月1日、電波新聞9月2日、日刊自動車新聞9月8日)

(2)村田製作所
 村田製作所は9月2日、低温で動作可能な燃焼式ガスセンサーを開発したと発表した。感温部の素材を白金コイルからサーミスター(低抗素子)に変え、ガスを燃焼させる触媒の温度を従来の300℃以上から100℃に抑えた。今後製品化の可能性について探る。現在検知できるのは水素で、今後はエタノールやCOにも広げる。FCなどでの利用を見込む。9月からサンプル出荷を始める。(日経産業、電波新聞09年9月3日、化学工業日報9月4日)

12.企業による事業展開
 伊藤忠エネクスは8月27日、FC、太陽光発電、EVなどの新エネ事業を推進すると発表した。9月1日付で"FCソーラー・EV事業推進部"を社長直属組織として設置、石油製品の既存の販売網を生かし、エネファームなど環境対応製品を拡販する戦略を立案する。又同系列のガソリンスタンドにEV用急速充電器を設置するなど、今後普及拡大が見込まれるEV関連サービスの展開も模索する。(日経産業新聞09年8月28日)

 ――This edition is made up as of September 21, 2009――

・A POSTER COLUMN

石油等各社が一斉に充電インフラ整備に向けた実証実験開始
 新日本石油や出光興産などがEVの充電インフラ整備に向けた実証実験を始める。EVは7月に販売が始まったが、急速充電スタンドは関東エリアで39か所しかなく、それがEV普及の課題になっている。計10社・グループは、経産省"EV普及環境整備実証事業"によって、9月以降ガソリンスタンドなどに急速充電器を設置、利用者の使い勝手やニーズを検証する。実証実験は10年3月までで、経産省の事業費は約20億円。
 新日石はNEC、日本ユニシスと共同で、東京や神奈川など計22か所のスタンドに急速充電器を設置、EV"アイ・ミーブ"を20台導入して希望者に貸し出す。急速充電器は利用者が自分で操作、30分の充電で約130kmの走行が可能になる。複数の人でEVを共同利用する会員制のカーシェアリングも実施し、利用状況やシステムを検証する。又一部のスタンドでは太陽電池と充電器を接続し、太陽光発電の電力でEVを走らせる。
 出光興産は自動料金収受システム(ETC)を活用、充電スペースに車を入れると自動的に本人かどうかを確認し、課金するシステムを実用化する。昭和シェル石油は日産自動車と共同で、太陽電池とリチウムイオン電池を組み合わせてスタンドに備え、充電でのCO排出量を減らす急速充電器を開発する。
 NTTデータはコンビニエンスストアや自治体などが設置している充電器を連携させるネットワークを構築する。充電器の利用者に料金を一括請求する仕組みなどを構築する。
(日本経済新聞09年8月13日)

ホンダがEVを開発しアメリカ市場への投入を検討
 アメリカではオバマ政権が環境規制強化を打ち出しており、大手メーカーは排ガスを全く出さないEVなどの販売を増やすよう求められる見通しに対応して、ホンダはEVを開発、2010年代前半を目途にアメリカ市場に投入する。トヨタや日産自動車は既にEVのアメリカ市場投入を表明しており、国内大手3社がでそろうことになる。
 車の開発を手掛ける本田技術研究所(栃木県)が既に作業に着手、10月開催の東京モーターショウで試作車を公開する。車体は軽自動車並みの大きさで、生産技術などを手掛けるホンダエンジニアリング(同)も10年を目途に同研究所の隣接地に設備を設け、グループを挙げて商品化を急ぐ。
(読売、日本経済新聞09年8月22日、毎日、産経新聞8月23日、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ8月24日)

慶大などが電気自動車の開発で産学連合新会社を設立
 慶応義塾大学やベネッセコーポレーションなどの産学連合は8月24日、電気自動車(EV)の研究開発を手掛ける新会社"システムドライブ"を設立したと発表した。資本金は4,400万円。ガリバーインターナショナルやナノオプトニクス・エナジー(京都市)、丸紅なども出資、新会社の社長には慶大の清水浩教授が、会長にはベネッセの福武会長が就任、ソニー元社長の出井氏を顧問に迎えた。
 新会社は"インホイールモーター"と呼ばれる新型駆動技術を使ったEVを開発する。慶大などの特許技術を"オープンソース"として提携先に割安で供与、共同の開発プロジェクトとして国内外から参加企業を募り、中国など新興国の参加も見込んでいる。
 提携先と共同で1年以内に先行試作車を開発し、2013年までに新型EVの量産を目指す。先ず車両価格150万円以下、充電1回で300km走る5人乗り小型EVを開発するとともに、ガソリン車をモーター駆動のEVに換える事業も展開する。
(日本経済新聞09年8月25日、日刊自動車新聞8月31日)

地方自治体によるEVやPHVの導入と計画
 北九州市は2013年度までにEVやPHV(プラグインハイブリッド車)などの次世代カー50台導入する。北橋市長が、志賀日産自動車最高執行責任者(COO)との意見交換の中で明らかにした。同市は09年春にトヨタのFCV1台を、同年秋には三菱自動車の"i-MiEV"1台を導入、これらと合わせて計50台を導入する方針で、日産自動車のEV"リーフ"も対象とする。(日刊工業新聞09年8月24日)
 東京都墨田区は9月1日、三菱自動車の"i-MiEV"2台を公用車として導入し、墨田区役所庁舎玄関前で納車式を実施した。墨田区は、2000年7月に「すみだやさしいまち宣言」を機に、人と地球と環境にやさしいまちづくりを目指して取り組んでおり、今年10周年を迎えた。08年3月には「墨田区地球温暖化対策地域推進計画」を策定し、区内から排出される温室効果ガス排出量を15年までに1991年比で8%削減することを目標に掲げている。EVの導入はその一環である。(日刊自動車新聞09年9月4日)

自動車産業の将来像を模索 ─ 経産省が研究会
 経済産業省は9月にも、今後の自動車産業の在り方を探る研究会を立ち上げる。EVなどの次世代自動車の普及が本格化しつつあるが、これら次世代自動車の導入拡大は、部品メーカーなど自動車関連産業にも影響を及ぼす。又自動車の保有に関心を抱かない若者が増えていることを背景に、自動車を共有する"カーシェアリング"の広がりなど、商形態の変革も見込まれる。経産省は、海外の動向も見据えながら、将来の自動車産業の姿を描き出し、必要な施策を洗い出す方針である。(電気新聞09年8月31日)