第160号 13社が水素供給・利用技術研究組合を設立
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方の自治体等による施策
3.PAFCの事業展開
4.SOFCの技術開発
5.PEFCの要素技術開発
6.家庭用PEFC"エネファーム"の事業展開
7.FCV、水素REV等水素駆動移動体の開発最前線
8.水素ステーションの開発と事業活動
9.水素生成・精製技術の開発
10.水素輸送・貯蔵技術の開発
11.エタノール型FCの開発
12.企業による事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)総合資源エネルギー調査会・都市熱エネルギー部会
 総合資源エネルギー調査会の都市熱エネルギー部会は、近く政策提言「低炭素社会におけるガス事業の在り方」をまとめる。2050年に向けた天然ガスおよびガス事業の中長期シナリオと、10年程度先をターゲットに具体的な課題を整理した内容で、以下のような4つの柱からなっている。1)コージェネレーションの活用やスマートエネルギーネットワークの構築による分散型エネルギーシステムの展開、2)FCの普及と水素インフラ整備など水素エネルギー社会の構築、3)高効率機器の導入などによる産業分門の天然ガス高度利用、4)バイオガスや太陽熱など再生可能エネルギーの導入、である。(化学工業日報09年7月17日)

(2)総合資源エネルギー調査会・新エネルギー部会
 総合資源エネルギー調査会の新エネルギー部会は7月22日、最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合を2020年頃に20%程度に高める目標の達成に向けた中間報告案を基本的に了承した。同案によると、各新エネルギー源の特性に合わせて、規制、支援、民間企業の自主的な取り組みなどを総合的に組み合わせ、政策総動員により新エネルギーを最大限導入できるような環境を整備すること、又太陽光発電余剰電力の高値買取り制度を早期に実施するほか、FCやヒートポンプなどの革新的技術の開発に取り組むことが重要だとしている。(電気新聞、化学工業日報09年7月23日、建設通信、日刊自動車新聞7月24日)

(3)次世代エネルギーパーク
 資源エネルギー庁は7月5日、"次世代エネルギーパーク"として、宮城県、岐阜県、滋賀県東近江市、三重県、兵庫県洲本市など12件の計画を認定した。07年度からの認定累計は25件となった。(建設通信新聞09年8月6日、日刊建設工業新聞8月10日)

(4)水素利用社会システム構築実証事業
 資源エネルギー庁は、水素利用社会システム構築実証事業の公募を始めた。事業は水素社会の構築を目指して、CO排出の少ない水素製造、効率的な水素の輸送・貯蔵、および効率的な水素利用を地域全体で実施し、将来のビジネスモデルとしての検証を行うことで、自治体や企業が協議会を構成するなどして応募する。水素は低炭素社会で重要な役割を担うエネルギー媒体として期待されているが、社会全体で利用するためには、水素を安全で簡便に製造・輸送・貯蔵・利用する単体技術と、それらを組み合わせた総合的なシステム化が必要であり、そのための実証事業を実施することにした。実証事業では、地域全体で水素やFCをどう使っていくかを考え、"未来型のまちづくり"を進めることになる。採択件数は決まっていないが、予算は約30億円の範囲内である。(建設通信新聞09年8月17日)

2.地方の自治体等による施策
(1)北九州
 水素エネルギー戦略会議は7月23日、福岡市で09年度総会を開き、新規に北九州水素タウンの整備などに取り組むことなどを盛り込んだ09年度事業計画を承認した。(建設通信新聞09年7月27日)

(2)三重県
 県工業研究所は8月11日、PEFCのセパレーターにおいて、発電中に発生した水分が発電性能の低下を招く不安定さを低減させるため、余分な水を取り除く複数の流路を設けた流路構造を考案し、特許を取得したと発表した。同所は「研究所の発明を、県内の中小企業が利用し、さらなる研究に繋げてもらえれば」と期待している。(伊勢新聞09年8月12日)

(3)大阪府
 大阪府は府内中小企業を対象に"ものづくりイノベーション推進事業プロジェクト育成事業"を、9月下旬にスタートする。環境・エネルギー分野の取り組みに対し、事業化調査や技術開発計画策定の費用を上限50万円まで助成する。件数は合計8件程度で、対象技術は、太陽電池、FC、EV等。(日刊工業新聞09年8月18日)

3.PAFCの事業展開
 富士電機ホールデイングスは今秋から出力100kWの産業用PAFCの量産を始める。設置面積を従来に比べて約半分に抑えた新機種を開発したのを機に量産し、下水処理場や病院、工場などに売り込む。中核事業会社の富士電機システムズの千葉工場に量産ラインを設置、年間20台を生産する体制を整えた。販売価格は1台約1億円。富士電機は1998年に産業用PAFCの初号機を病院に設置し、これまで計25台を納入した。(日本経済新聞09年8月2日)

4.SOFCの技術開発
 産業技術総合研究所は8月14日、低温作動型ジルコニア系SOFCを開発したと発表した。600℃での運転に成功、電極構造制御技術の適用によって、従来材料のSOFCを高性能化するための指針を明確にした。同所の先進製造プロセス研究部門機能モジュール化研究グループは、ファインセラミックス技術研究組合の協力を得て、セリア系材料による高性能チューブ型マイクロSOFCの製造技術を発展させ、電解質の薄膜化と高度な電極構造制御を可能にする製造プロセス技術を開発、これをジルコニア系材料に適用して、従来にない薄膜電解質と高気孔率の電極構造を有するジルコニア系SOFCを実現した。電解質材料にはジルコニア系セラミックス、燃料極にはニッケル−-ジルコニア系セラミックス、空気極にはランタン−コバルト−セリア系セラミックスを用いて1.8mm径のチューブ型マイクロSOFCを作製した。燃料極の気孔率を変化させて水素流通下で発電性能を比較した結果、電極抵抗は気孔率に大きく影響を受けることが分かり、気孔率54%で電極抵抗を1/30まで低減できた。550〜600℃の作動温度における発電試験により最大0.5〜1.1W/cm2の発電密度が得られた。今回の成果により、長期安定性やコスト面で有利なジルコニア系SOFCの高性能化や作動温度の低温化に対する指針が明らかになり、移動電子機器用電源、自動車用補助電源への用途拡大と普及促進が期待される。(化学工業日報09年8月17日)

5.PEFCの要素技術開発
(1)昭和電工
 昭和電工は7月16日、産業技術総合研究所の酸化物系非金属触媒プロジェクトに参加し、PEFC用触媒として、白金などの貴金属に替わるニオブ系あるいはチタン系酸化物に炭素および窒素を配合した代替触媒の開発に成功したと発表した。現状の白金代替触媒としては今までの最高水準である開放電圧1V、耐久性500時間以上を記録し、製造コストも白金触媒の1/20以下である500円/kWに抑えられるという。(日刊工業、日刊自動車、鉄鋼新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報09年7月17日、日経産業新聞7月20日)  昭和電工は7月23日、部材開発の一環として、バイポーラー型カーボンセパレーターを開発したと発表した。ホウ素を添加した2枚のセパレーター板を、特殊接着性樹脂を用いて高精度で熱溶着させる技術を確立し、それにより水素ガス通過面、酸素ガス通過面、および化学反応の結果生じる発熱を抑える冷却水流路が一体化されたカーボンセパレーターである。冷却水路をシールするためのパッキン工程が省略され、セパレーター板同士の接触抵抗を1/10以下に低減、2枚のセパレーター板を積層一体化することで相互補強効果が生まれて0.1mmレベルまで薄肉化することができた。又長期持続性のある親水化処理によって、セパレーター表面における水の排出性高まり、ガス拡散が容易になっている。既存の試作PEFC比で30%の出力密度アップを実現するとともに、30%のコストダウンを可能にした。15年頃からの量産開始を目指す。(日刊工業新聞、化学工業日報09年7月24日、日刊自動車新聞7月27日、鉄鋼新聞7月29日)

(2)山陽特殊鋼
 山陽特殊鋼は北海道大学と共同で、PEFC向けセパレーターを開発した。直径が約0.1mmの球状金属粉末を金属板の表面に焼結させ、多孔質の層を形成、この層を水素や酸素の供給路、および水の排出路とすることによって、ガスや水の流れが円滑化し、電極との導電性も改善した。同社はこの種セパレーターは既にDMFC用に開発し、高い発電出力密度を達成しているが、これをPEFCに適用しても既存のセパレーターを上回る性能が得られることを確認した。「どこまで発電出力が高められるかはまだ検討中」としているが、金属粉末の直径の違いやその配合比、金属成分などの条件設定を変えて、更に高い性能が得られるよう開発を続けていく。(日刊工業新聞09年7月20日)

(3)山梨大
 山梨大学の古屋理事らは、セルの厚さを従来の1.5mmから0.4mmの1/4にまで薄くすることに成功した。今回改良したのは、湿度を制御する薄いフッ素樹脂層、導電性を持たせる炭素材料層、水素・酸素の燃料ガスが通る溝を掘った厚い金属板が重ねられた部分である。カーボン材料は、約50nmの炭素粒子が集まって500nmの団子状になっているカーボンブラックとし、フッ素樹脂層をなくするために、フッ素樹脂粒子とカーボンブラック粒子を混合、両粒子を液中に分散させた状態において電気泳動で固形化し、不均一になったり崩れたりしない材料にした。加熱圧縮で燃料ガスが通る溝を付け、最後に薄い金属板を組み合わせた。(日刊工業新聞09年7月24日)

(4)慶応大
 慶応義塾大学の山元教授らは、特殊な高分子を使って1nmの均一な白金粒子を作ることに成功した。市販の触媒を使う場合に比べて最大で約13倍の電流を取り出せる。作製法は、内部に微細なカゴ状の構造を持つ有機高分子"デンドリマー"を利用する。白金塩化物の水溶液をデンドリマーに染み込ませ、ナトリウムボロハイドライドを加えると、カゴの中に直径0.9〜1.2nmの白金粒子ができる仕組みである。現行の触媒は白金粒子の直径が2〜5nm程度、白金を微細化すると表面の電子状態が変化して触媒性能が向上すると見られている。電極で活用する場合は、デンドリマーに入ったままでも、一旦焼いてグラファイトにしてからでも使えるという。(日経産業新聞09年7月27日)

(5)ホソカワミクロン
 ホソカワミクロンは7月29日、大阪大学や首都大学東京と共同で、白金の使用量を1/4以下に抑えられる電極用触媒を開発したと発表した。炭素の表面に白金が付着している従来型の触媒粒子に、直径が300nmのタングステンカーバイトの粒子を混ぜて加工したところ、従来は絡まりあっていた炭素原子の群れをタングステンカーバイトの粒子が直線状に引き伸ばし、その結果白金の表面積を4倍以上に増加させた。同社独自のメカノケミカルボンテイング技術(MCB)をベースにして、白金触媒をタングステンカーバイト粒子などと複合粒子化した。少量の白金でも従来通りの効果を発揮できる。今後は触媒メーカーなどと協力して1年後をめどに実用化する。(日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報09年7月30日)

(6)和貴ビジネスグループ
 和貴ビジネスグループ(松戸市)は、フラーレン技術を活用して無加湿膜用材料を開発した。同原料はプロトン伝動を担う成分としてホスホン酸基を有する。フラーレンの化学修飾性を生かしてホスホン酸基と膜成分となるイミダゾール基が安定的に結合する構造を実現した。化学的に安定で、水に溶出することがないため無加湿膜が得られる。同社は粉末状のサンプルを提供し、企業、大学などと用途開発に着手する。(化学工業日報09年8月12日)

6.家庭用PEFC"エネファーム"の事業展開
(1)東ガス
 東京ガスは7月16日、09年5月に販売を開始したエネファームの成約台数が500台を達成したと発表した。新築住宅市場では大手ハウスメーカーを中心に採用が進み、既存の住宅市場も東ガスグループの提案活動が活発化していることから、堅調な受注につながった。更に同社は09年度のエネファーム当初販売目標を600台上乗せし、2100台を目指すことを決めた。(日本経済、電気、日経産業、日刊工業新聞09年7月17日、フジサンケイビジネスアイ7月18日、鉄鋼新聞7月23日)

(2)広島ガス
 広島ガスは7月23日、エネファームの披露式展を開いた。新築住宅、戸建て住宅をターゲットに、年間50台の販売を目指す。(電気新聞09年7月24日)

(3)岩谷産業
 岩谷産業は、積水ハウスと連携し、LPガスを使ったエネファームの販売を始めた。同社は積水ハウスの住宅購入者に対して、機器の販売、施工、メンテナンスまでを一貫して請け負う。(毎日新聞09年7月27日)

(4)大ガス
 大阪ガスが6月に発売したエネファームの予約を含めた販売実績は500台で、年間目標1,000台の半分に達した。(日本経済新聞09年7月29日)

(5)三谷産業
 三谷産業(金沢市)は、完全子会社の三谷ガスに8月1日付けで新エネルギー開発課を新設、新日本石油製エネファームの販売を本格化する。ボイラーを使用している既存の集合住宅での切り替え需要や、新規の戸建て住宅でも拡販していく方針で、3年後の販売目標を年間100台を目指す。(北国新聞09年8月1日)

(6)東邦ガス
 東邦ガスは、7月末時点で150台の受注を獲得、エネファームの2009年度販売目標を、従来目標の50台増となる250台に引き上げた。(日刊工業新聞09年8月4日)

(7)新日石
 新日本石油は2012年を目途に、低価格の新型家庭用PEFCの"エネファーム"を市場投入する。FCの耐久性を高め、センサーなど電池保護のための周辺システムを簡素化、又オーバースペックの部分を洗い出してコストを抑える。ENEOSセルテックで10年度に試作機の完成や商用化試験などを実施、11年度から生産、12年頃までに量産体制を整える。(日刊工業新聞09年8月4日)

7.FCV、水素REV等水素駆動移動体の開発最前線
(1)西日本水素社会形成イニシアテイブ
 中国経済産業局やマツダ、岩谷産業、広島大は7月15日、経産局の推進プラン"西日本水素社会形成イニシアテイブ"の一環として、中国地方の化学工場から出る水素を燃料とした水素自動車の走行実験を7月27〜30日に実施すると発表した。大阪府から福岡県までの約540kmで、トヨタの"FCHV-adv"1台、マツダの"プレマシーハイドロジェンREハイブリッド"2台、水素とガソリンを併用して走行する"RX-8ハイドロジェンRE"1台を走らせ、水素燃料は岩谷産業の小型移動式ステーションに充填して岩谷ガスとマツダの施設で供給する。走行実験では普及の可能性やインフラ整備の課題を探る。(中国新聞09年7月16日、日刊工業新聞7月17日、日刊自動車新聞7月23日、毎日、産経、日刊工業、日刊自動車、大阪日日、西日本、徳島新聞、化学工業日報7月28日、日刊自動車、中国新聞7月29日)

(2)ホンダ
 ホンダは全国各地のホンダカーズ店と連携してFCV"FCXクラロテイ"の公開走行を柱とするイベントを展開する。第1弾として7月18日から3日間島根県内の主要都市で行った。(日刊自動車新聞09年7月25日)

(3)鉄道総合技研
 JRグループの鉄道技術総合研究所は、次世代型車両として水素を燃料としてFCとリチウムイオン電池で走行するハイブリッド電車を開発、今春から試験車両で走行実験を実施して安定走行を確認した。480kWの発電が可能で加速に問題はなく、試験した線路が45km/hの速度制限のため走行運転はできなかったが、設計上は100km/hが可能である。(産経新聞09年8月10日)

(4)北陸グリーンエネルギー研究会
 トナミ運輸(高岡市)と産学官で組織する北陸グリーンエネルギー研究会はアルミ系廃棄物を使ってFCで発電する水素エネルギー利用システムの開発を進めているが、7月10日試作した同システムで走る軽トラックを公開した。同事業では、飲料の紙パックや錠剤用の包装資材などのアルミ系廃棄物を回収し、プラステックなどを低酸素条件下で高温分解してアルミを分離、水酸化ナトリウムを反応させることによって水素を発生、FCで発電する。軽トラックの荷台に、水素発生装置とFCからなる試作システムを搭載しており、アルミ約500gを反応させることにより、10km/hで10分間走れる。3年後の実用化を目指す。(北日本、富山新聞09年8月11日、日刊工業新聞8月12日、中日新聞8月18日)

8.水素ステーションの開発と事業活動
 新日本石油、出光興産、東京ガス、大阪ガス、東邦ガス、岩谷産業など石油元売り各社や都市ガス大手など13社は8月4日、水素供給インフラの在り方を研究し、スタンドなどを共同開発する"水素供給・利用技術研究組合"を設立した。水素スタンドの実証試験を含む各種課題の検討を通じて水素供給ビジネスの収益性を検証する。総事業費は700億円を超えると見られ、15年中の事業化を目指す。(読売、毎日、産経、日本経済、電気、日経産業、日刊工業、中日、西日本、中国新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報、河北新報09年8月5日、電波新聞8月11日)

9.水素生成・精製技術の開発
(1)神戸製鋼と筑波大
 神戸製鋼所は筑波大学と共同で、製鉄工程で出てくる副生ガスからCOを濃縮・回収するために開発した銅系の化学吸着材を応用し、天然ガスなどから水素を取り出す際にCOを完全に除去する技術を開発した。新技術なら水素のみを吸着させることが可能で、実験ではニッケル系合金を使い、吸着性能を落とさずに繰り返し水素を貯蔵・放出できることを確認した。神戸製鋼所は先ず50kW相当の発電能力を持つ集合住宅向けFCに活用したい考えで、2015年頃には水素ステーション向けの実用化を目指す。(日本経済新聞09年7月27日)

(2)サッポロビール
 サッポロビールは、ブラジルのペトログラス社などとの共同研究で使用するバイオ資源から水素を発生するプラントが完成したと発表した。サトウキビの搾りかすに含まれるセルロースを原料に水素を生産する。11月中旬にもブラジルで実証実験を始める予定で、実証運転の実務はブラジルの環境コンサルタント会社"エルゴステック"が担当、サッポロビールはプラント建設のみならず、セルロースを使った水素発酵技術も供与する。10年以内に製造コストを40円/m3まで下げることが目標である。(日経産業新聞09年8月18日)

10.水素輸送・貯蔵技術の開発
 名城大学理工学部の森田教授は東北大学と共同で、水素を生成・貯蔵する材料の試作品を完成した。大気中の水分を分解し水素を生成する白金の薄板で、貯蔵機能を持つ複合セラミックスを挟んだ構造である。複合セラミックスは、リチウムとジルコニウムを混合したリチウムジルコネートで、試作品のサイズは直径8mm、厚さ1mm、白金の厚さは100nmである。空気中の水分を分解して水素を取り込む白金の性質を活用し、取り込んだ水素を複合セラミックスに貯蔵する。試作品を大気中に4,000時間放置したところ、0.15L/cm3の水素を貯蔵することができた。貯蔵した水素は一定の温度で加熱すると放出される。現状では生成・貯蔵能力が不十分なため、今後素材の改良などの研究を進める。(日刊工業新聞09年8月7日)

11.エタノール型FCの開発
 大阪府立大学の井上教授、樋口助教らはバイオエタノールを燃料とするエタノール型FC向けの触媒を開発した。炭素アノード電極の表面に触媒をコーテイングすると、エタノールを効率よく酸化して電子を取り出せる。触媒は直径3nmの白金粒子と直径2nmの酸化スズ粒子からできている。白金だけだと2つの炭素原子が強く結びついたエタノールを効率よく酸化できなかったが、酸化スズを組み合わせることで、触媒機能が高められた。白金とスズが溶けた液体に還元剤を入れて粒子化する。この触媒を炭素電極の上にコーテイングしてエタノールが酸化できるかどうかを調べたところ、従来の触媒よりも効率よく酸化が進み、FCにも応用できる水準であることが分かった。白金と酸化スズの割合を3:1にしたときに触媒としての機能が最も高かった。(日経産業新聞09年7月31日)

12.企業による事業展開
(1)アルテック  アルテックはアメリカ機械メーカーのSONO-TEK社から、電解質膜の製造などに使うスプレー装置の輸入販売を始めた。超音波でノズルを振動させて大きさの揃った液滴を均一に散布できるのが特徴である。(日経産業新聞09年8月4日) (2)パーカー・ハネフィン日本  パーカー・ハネフィン日本(東京)はFCの実験用キット(TekStak)を発売した。PEFCを組み立てたり、水素を供給して発電させることができる。基本型と高機能型の2シリーズ、1セル、5セル、10セルタイプがあり、必要に応じてセルを追加できる。大きさは10cm四方程度。価格は3万9,000円から19万円。(電気新聞09年8月17日)

 ――This edition is made up as of August 18, 2009――

・A POSTER COLUMN

太陽光発電余剰分買い取り新制度を今冬にも導入
経済産業省は7月23日、家庭などの太陽光発電の余剰電力を、現在の2倍の価格で買い取らせる新制度を今冬にも導入すると発表した。一般家庭や企業など全ての電気契約者の電気料金に転嫁する。上乗せ額は、転嫁が始まる2010年4月には少額であるが、11年度が標準的な家庭で平均月額約30円、16年度以降は最大月100円程度になる見込みである。 資源エネルギー庁は、太陽光の余剰電力買い取り制度で、家庭用FCなどを併設するダブル発電については、初年度39円/kWh、非住宅用24円(同)とすることを決めた。エネ庁案は、電力会社が太陽光発電の余剰電力に限定して買い取る際の費用負担を、太陽光発電促進付加金(太陽光サーチャージ)として全需要家に広く負担を求めるもので、新制度が導入され料金原価を見直した後のサーチャージの単価は、買い取り価格48円/kWhから太陽光発電の買い取りに伴う回避可能原価(電気としての価値)に相当する約6円を控除した42円程度となる。2010年度から買取費用の回収を実施する。7月23日の新エネルギー部会・電気事業分科会の買取制度小委員会で了承された。 (読売、電気、日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報09年7月24日、フジサンケイビジネスアイ8月7日)

長期エネルギー需給見通しの改定案
 経済産業省資源エネルギー庁は、長期エネルギー需給見通しの改定案をまとめ、8月5日に開いた総合資源エネルギー調査会・需給部会に提示した。2020年に温室効果ガスを05年比15%減とする政府の中期目標が達成されると、削減量は2億0,100万トンとなる。改定案によると、実用段階にある最先端技術で高コストではあるものの、省エネ性能が格段に向上することが見込まれる機器や設備について、国民や企業に対し更新を法的に強制する一歩手前までの政策を講じて最大限に普及させ、劇的な改善を実現させる"最大導入ケース"を実施することによって中期目標が達成される。
 最大導入ケースにおけるCO削減効果が最も大きいのは、建築物の省エネで、現在最も厳しい省エネ判断基準を新築の8〜9割が満たすことで3,800万トン削減できるという。効果の2位以下は次世代自動車・燃費向上で約2,100万トン、ITS(高度道路交通システム)推進などの交通流対策により1,600万トン、太陽光発電を20年に2,800万kWとすれば1,500万トンが削減できる。
 これらの施策に必要な費用も試算されている。次世代自動車を新車販売の50%程度まで拡大する施策が約12兆円で最高。建築物の省エネには約8兆円、太陽光発電にはシステムの設置費用だけで8兆円で、系統安定化コストが別に必要となる。産業・業務部門のコージェネレーションシステムやFCの普及には2兆円が必要としている。
 エネ庁は一般からの意見を募るパブリックコメントを実施した上で、8月中にも改定需給見通しを策定する。
(電気、建設通信新聞09年8月6日)

IGCC・CO2分離回収実証試験に向けて新会社設立
 中国電力とJパワーは7月29日、酸素吹き石炭ガス化複合発電(IGCC)技術とCO分離回収技術の大型実証試験を行う新会社"大崎クールジェン"(広島市)を設立したと発表した。両社折半出資で、資本金、資本準備金各4億9千万円。新会社では、当面環境アセスメントと基本設計を中心に事業を進めるが、13年3月には大崎発電所において17万kW級酸素吹きIGCC大型実証設備の建設に着工し、17年3月に試験を開始、信頼性や経済性などの検証を行う予定であり、総事業費は約1,000億円、国に補助を求める方針である。
 酸素吹き石炭ガス化技術とは、酸素を用いて石炭をガス化し、COと水素を主成分とする燃料ガスを製造する技術である。高い発電効率によるCO排出量の削減や、CO分離回収技術の適用が容易になるなど環境上のメリットが期待されている。将来的には大型FCと組み合わせて、更に効率の高い石炭ガス化FC複合発電(IGFC)の実現を視野に、実証試験を進めていく考えである。
(毎日、産経、電気、日経産業、大阪日日、中国新聞、フジサンケイビジネスアイ09年7月30日、建設通信新聞、化学工業日報7月31日)

CCS共同研究でアメリカ、カナダ、中国と国際協力
 経済産業省は、アメリカや中国、カナダとCCSの共同研究で国際協力を推進する。2010年度予算概算要求に総額10億円程度を盛り込む。アメリカとは09年度中にワークショップを開催、両国研究者レベルで研究テーマの合意を目指す。
 CCSはCO削減の切り札として各国が研究開発に力を入れている。日本ではCool Gen計画により、IGCSやIGFCとCCSを組み合わせるゼロエミッション石炭火力発電の実現に向けて実証プロジェクトを推進しているが、同様にアメリカには"Future Gen計画"、オーストラリアには"Zero Gen計画"、中国には"Green Gen計画"がある。
(化学工業日報09年7月31日)

有機薄膜太陽電池の開発競争が激化
 太陽電池の価格を大幅に下げる可能性を持つ薄膜太陽電池の開発競争が激化している。中でも本命視される"有機薄膜型"は化学各社が新素材の開発に力を入れている。
 有機薄膜型は半導体のような役割を持つ有機材料2枚を重ねた太陽電池で、光を吸収する有機材料が光を受けて電子を発生し、もう1つの有機材料が電子を受け取って発電する。材料が安価なため、主流のシリコン系に比べて価格が1/10になる可能性がある。
 有機薄膜型の特徴は薄くて添付できる点に特徴があり、デジタル機器に添付して発電することが可能なほか、透明なフィルムとして窓に張ることもできる。又有機薄膜太陽電池における理論上の限界効率は36%(シリコン型は29%)とされており、現在発電効率の向上と耐久性の確保を課題に開発競争が進んでいる。
(日経産業新聞09年8月5日)