第155号 電機各社が多様なDMFCを商用化
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.SOFCの開発と実証試験動向
3.PEFC要素技術開発
4.家庭用PEFCの開発と事業展開
5.FCV最前線
6.鉄道でのFC利用
7.双方向機能PEFCの開発
8.マイクロFCの開発と事業展開
9.水素生成・精製技術の開発
10.水素貯蔵・輸送技術の開発
11.FCおよび水素関連計測技術
12.企業戦略と事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)日米首脳会議
 2月24日にワシントンで開かれる日米首脳会議で、環境分野に重点投資するオバマ政権の"グリーン・ニューデイール"政策に日本政府が全面協力することを提案し、合意することが23日明らかになった。次世代自動車の普及や低炭素技術など4分野の"日米エネルギー・環境技術協力"で、この分野で日米が世界をリードしていくことを確認する。4分野は、1)EV、プラグインHVなど次世代車の普及策、2)CO排出量を大幅に減らす革新的な低炭素技術、3)省エネルギーや新エネルギーの市場拡大、4)原子力の平和利用、であり、具体的課題としては高速充電用プラグの規格や安全性について標準化の検討、インフラ整備の共同実証事業、CCS、FC、高性能太陽光発電の共同開発などが挙げられている。(読売新聞09年2月24日、日本経済新聞2月25日)

(2)資源エネルギー庁
 資源エネルギー庁は、次世代自動車や太陽電池、蓄電池、FC、省エネ住宅・ビルエネルギー管理システムなどを組み合わせる産業・社会システムへの新エネルギー導入についての考え方を示した。個々の新エネルギーの技術や設備の導入を相互作用させるシステム・インテグレーターの育成強化や、関連技術を保有する事業者を連携させる方策などを検討していくとしている。例えば太陽電池や家庭用FCと次世代自動車の利用を組み合わせた次世代型省エネ住宅や、太陽光発電や飲食ゴミなどを活用したバイオマス発電を設置するショッピングモールに急速充電器を設けて、買い物客に電気自動車の利用を促すなどの事例を提案している。(日刊自動車新聞09年3月2日)

(3)国交省
 国土交通省近畿地方整備局、大阪府、兵庫県、大阪市、神戸市、関西財界、学識者による大阪湾ベイエリア活性化方策検討委員会が3月4日"グリーンベイ構想"を打ち出した。大阪湾に世界最先端の環境関連産業を集め、CO排出が少ない物流体制を整える。構想によると10~20年後にグリーンベイを実現、湾岸を太陽光発電やFCなど新エネルギーの研究・開発拠点と位置づけ、大学や企業を誘致する。干潟や護岸、森を作り、経済と環境が両立する地域づくりを目指す。神戸、大阪湾や関西空港などとも連携、船と航空機を組み合わせた効率的な物流システムを整え、接岸中の船舶がエンジンを止めて陸側から電力の供給を受ける海のアイドリングストップを導入するなど、CO排出減を実現する。(朝日新聞09年3月5日、日刊建設工業新聞3月6日、日刊工業新聞3月11日)

(4)NEDO
 NEDOは家庭用FCの低価格化に向けて水処理装置、熱交換器、インバーターの3分野で低コスト化プロジェクトを実施する。年間10万台の出荷ペースで水処理装置が1台2万円、熱交換器が同4,000円、インバーターが同2万円のコスト削減目標を設定、2010年までにこれら目標の達成を目指す。補機類の仕様・規格の共通化と目標価格を設定し、複数企業の競争による低コスト化を実現するプロジェクトの一環である。(日刊工業新聞09年3月3日)
 NEDOは3月1日付で新たに"蓄電池技術開発室"を設置した。同開発室では、LiBの限界性能を極める技術開発を推進する他、新たな革新型蓄電池の開発や用途展開を見据えた課題への対応に取り組む。更に安全性や寿命などに関する評価手法や国際標準化なども検討する。(日刊自動車新聞09年3月4日)

(5)JHFCプロジェクト
 FCVと水素インフラの実証実験などを推進するJHFCプロジェクトは、2011年度から新たな事業活動に向けた準備作業に着手する。15年度をめどにしたFCVの一般ユーザーへの普及開始に向け、ユーザーの運転行動や普及をにらんだ水素供給など実用化を念頭においた社会実証などを具体化していく。08年度の"JHFCセミナー"で実証試験推進委員会委員長の石谷慶応大教授が示した。10年度までの事業期間中に次期実証研究で取り組むべき課題の深堀りなどを進め、11年度以降は新たなフェーズで事業活動を推進していく。(日刊自動車新聞09年3月7日)

2.SOFCの開発と実証試験動向
(1)NEF
 NEFは07年度から開始したSOFCの実証研究で、発電効率などのデータを公表した。初年度は29サイト、2年目は25サイトに設置しており、2年目(08年度)に設置したシステムの方が発電効率、熱回収効率、電気利用効率、CO削減量など総じて良好な結果が出ていることを確認した。システム提供者の京セラ、設置運転を行う大阪ガスや東京電力が参加しており、新日石およびTOTOはシステム提供と運転を兼ねている。07年9月~08年12月期間での平均運転データは、機器発電効率34.1%(HHV)、熱回収効率37.2(HHV)、電気利用効率33.8(同)、熱利用効率21.3(同)、月当たりの1次エネルギー削減量665MJ、CO削減量94.6kgとなった。他方08年8月〜12月期間で集計した平均運転データは、機器発電効率36.1%(HHV)、熱回収効率37.9(同)、電気利用効率35.7%(同)、熱利用効率21.0(同)、月当たりの1次エネルギー削減量909MJ、CO削減量117kgであった。(電気新聞09年3月10日)

(2)東ガス
 東京ガスは3月10日、京セラと共同開発している家庭用SOFCを、2014年度を目途に商品化する方針を固めた。外部改質器が不要なため、低コストで製造できるとともに省スペース化ができるのが特徴。(フジサンケイビジネスアイ09年3月11日)

3.PEFC要素技術開発
(1)アスクテクニカと山梨大
 機器部品メーカーのアスクテクニカ(山梨県)は、山梨大クリーンエネルギー研究センター長渡辺教授らと共同で、強度と耐食性を併せ持つセパレーターを開発した。平板の金属材にカーボン樹脂複合材で水素などの流路となる溝を後付けした。金属板の両面に約50μmの耐食塗膜を施し、その上にカーボン樹脂複合材で深さ0.5〜1mmの溝を成型する。切削加工が不要で、低コストでの量産が可能。(日経産業新聞09年2月25日)

(2)原子力研究開発機構
 原子力研究開発機構は、触媒に使われる白金のナノ粒子を微生物に作らせる技術開発に成功した。"鉄還元菌"と呼ばれる微生物を、白金などが溶け込んだ溶液中に入れると、1日程経過した後には白金の9割がナノ粒子になって、菌の表面に現れてきたという。白金ナノ粒子を安くかつ高純度で製造する技術を実現する可能性がある。(朝日新聞09年2月27日)

(3)三吉工業
 三吉工業(横浜市)の新潟事業所は、産学官で研究を進め、金属セパレータの低コストで量産可能なプレス加工技術を開発した。同社はSUS304(板厚0.1,0.2mm)をプレス加工して波状の溝付けに挑戦、展伸性の限界を見極め、技術的目標である溝深さ精度、平坦度精度、間隔の均等さなどの技術的課題をクリアした。従来の金型では1ストローク1パンチでプレス時にスプリングバックと呼ばれる跳ね返り起こっていた。そこでプレスのスピードや回数を調整できるサーボプレスと高速マシニングによる加工を採用することにより、溝付と呼ばれる複雑な集電部分(流量部分)の形状を安定させた。既存のカーボンセパレータと比較して重量は1/10、コストは1/50に低減できる。(鉄鋼新聞09年3月10日)

4.家庭用PEFCの開発と事業展開
(1)東ガス
 東京ガスは2月23日、家庭用PEFC用改質装置の小型・低コスト化に成功したと発表した。都市ガスから水素を取り出す反応プロセスに新しい高性能触媒を採用、触媒使用量を3〜5割削減し、定格時の改質効率は従来と同じ83%(HHV)で、容積を従来から7L減らして12L、重量は6kg減らして11kgに抑えた。部品点数は約4割削減し、改質装置の容積を2/3に小型化、製造コストは半減できる。同社は荏原バラードなどに技術提供し、2010年代前半に発売予定のFC次世代機に搭載する予定。(電気、日経産業、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ09年2月24日、化学工業日報2月26日)
 東京ガスは京セラと組み、太陽光と都市ガス発電を併用する家庭用エネルギーシステムを09年度中に発売する。購入電力量を7割、CO排出量を6割減らせる。販売中の"エコウイル"に京セラから調達する住宅向け太陽光発電装置を組み合わせた"ダブル発電システム"を開発した。朝夕の電力使用量が多い時間帯はエコウイルをフルに動かして暖房や給湯にあて、昼間の日照が多い時間帯は太陽光発電で需要をまかない、余剰電力を売電する。光熱費は年10万円程度減らせるという。システムの販売価格は250~300万円程度の見込みである。更に太陽光発電とFCの併用装置も発売するが、FCの価格が下がった段階で本格展開する計画である。東ガスは環境負荷が小さい分散型電源の商品ラインアップを増やし、電力会社に対抗する。(日経産業新聞09年3月10日)

(2)広島ガス
 広島ガスは2月25日、09年度半ばまでに都市ガス仕様の出力1kW級家庭用PEFCシステムの販売を始める方針を明らかにした。LNGを原料にした都市ガスを改質して水素を取り出す方式。(中国新聞09年2月26日)

(3)パナソニック
 パナソニック・ホームアプライアンス社は、国産の天然ガスにも対応できる家庭用PEFCの実用化を目指す。国産ガスは液化による分離精製を経ていないため、輸入天然ガスに比べて窒素やCO2含有量が多いなどの特徴を持つ。同社はこのような成分の違いを踏まえた上で、大手ガス会社と共同で家庭用FCに使用した場合の影響などを調査、2010年以降を目途に国産ガス対応の製品を市場導入する。(電気新聞09年3月2日)

(4)新日石
 新日本石油は3月3日、家庭用FC(エネファーム)と太陽光発電、蓄電池、太陽熱空調・温水システム、高断熱・高気密の壁材導入、機器の運転を集中管理するシステムなどの新エネルギー関連機器を組み合わせ、CO排出量を実質的に0にするモデル住宅"創エネハウス"(2階建て延べ床面積160m2)を横浜市内に完成したと発表した。1年間かけて光熱費などのデータを収集し、10年度に総合エネルギーシステムとして発売を目指す。(日本経済、電気、日経産業、東京新聞09年3月4日、化学工業日報3月5日、住宅新報3月10日、日刊工業新聞3月11日)
 新日本石油は10年4月から、都市ガスやLPGに比べて硫黄分の高い市販灯油を燃料とする家庭用FCシステムを市場投入する。09年度は少数の試験的な設置を行う。同社は硫黄分を0.5ppmまで低減したFC専用の"FC灯油"を燃料とするENEOS ECOBOYを開発したが、専用灯油の製造・物流コストの高さから普及は難しいと判断し、石油精製で培った脱硫技術を活用して市販灯油を使用できるFCシステムの開発を進めていた。(化学工業日報09年3月9日)

(5)福岡水素エネルギー会議
 西部ガス、九州電力、福岡県、九州大学など産学官でつくる"福岡水素エネルギー戦略会議"と共同で実施していた福岡県知事公舎私邸でのFC実証研究を、最新システムに更新した上で継続する。期間は3月1日~2013年3月1日の予定。(電気新聞09年3月6日)

(6)NEF
 NEFは3月10日、05年度から実施している"定置用FC大規模実証事業"の08年末時点運転データをまとめた。累計発電時間は1,847万時間、累計発電量は1,038万kWh、07年度設置サイト中08年通年で集計したトップ機種の運転データでは、1次エネルギー削減率25%、CO削減率39%(火力発電CO2原単位使用)を達成、システムの平均価格は08年度で329万円に低下し、05年度の770万円から約57%のコストダウンとなった。(電気新聞09年3月11日)

5.FCV最前線
(1)日産
 日産自動車は2月25日、出力を高めた新型PEFCを搭載したFCVの寒冷地試験を始めたと発表した。気温が−20℃前後まで冷え込む環境でFCが起動するかどうかを確認し、信頼性の確保を目指す。搭載した新型PEFCはセパレーターをカーボン製から金属製に変更、体積を3/4の63Lに小型化し、出力を4割増しの130kWに引き上げた。又白金の使用量も半分に減らし、コストを下げたという。日産は多目的スポーツ車"エクストレイル"に新型PEFCを搭載し、08年末から走行試験を続けている。2010年代半ばにも実用化する考えである。(日経産業新聞09年2月26日)

(2)カナダ・ウイスラー市
 カナダ西部、バンクーバーの北にあるウイスラー市(ブリテイッシュコロンビア州)では09年末からFCバスの営業運転が始まる。同州交通公社が運行する路線バス28台のうち20台がFCVになる予定である。ウイスラーで導入するのはFCと蓄電池のハイブリッド型であり、デイーゼルハイブリッドに比べて乗り心地は良く温暖化ガスを6割減らせるが、車両価格は4割高い。(日経産業新聞09年3月4日)

(3)カナダAFCC
 ダイムラーなどが出資するカナダの自動車用FC開発会社"オートモーテイブ・フュエル・セル・コーポレーション(AFCC)が、FCとバッテリーを動力源とするハイブリッドFCVの開発において、車量産向けシステムの開発に着手した。白金触媒の使用量低減などの技術開発によって2015年までに製造コストを現在の20〜25%まで低減することを目指す。生産規模は当面限定的になる見通しである。(日経産業新聞09年3月4日)

(4)ダイムラー
 ドイツ・ダイムラーは09年夏にもFCV"F-Cell"を限定的に商品化する方針を明らかにした。販売台数は3桁の比較的小さい規模にとどまり、リース販売するという。(日刊工業新聞09年3月9日)

6.鉄道でのFC利用
 JR東日本は4月1日付で、鉄道の環境技術を専門的に研究する"環境技術研究所"を新設する。先ず10人程度で発足、蓄電池駆動システム、FCの搭載車両開発、駅施設などでの太陽光・風力発電の利用に取り組んでいく。(日経産業新聞09年3月6日)

7.双方向機能PEFCの開発
 高砂熱学工業とアタカ大機、産業技術総合研究所は共同で、スイッチ1つで水からの水素供給と水素から発電する双方向動作が1台で可能なPEFCを開発した。発電に使う触媒と水素を生成するための触媒は異なるが、同グループは白金に別の物質を加えるなど、触媒の材料に工夫を加えることで、発電と水素生成の両方で一定の効率を維持することができた。1部の装置で電気を使って水素を製造、残りの装置で発電すれば、太陽光や風力などの自然エネルギーのみによって発電することが可能になる。発電効率が初期性能の90%に低下するまでの期間は4,000時間程度、耐久性を更に高めると同時にコスト削減を図り、早期の実用化を目指す。(日経産業新聞09年2月24日)

8.マイクロFCの開発と事業展開
(1)日立
 日立製作所は2月24日、グループ会社の日立ハイテクノロジーズ、イギリスの研究開発機関CPIと共同で、DMFCの事業化に乗り出すと発表した。日立製作所が開発した100WポータブルDMFCを用いて、遠隔監視カメラや交通標識などのアプリケーションをCPIが開発、英国市場における事業可能性を検討する。事業化のフィールドにイギリスを選択したのは、再生可能エネルギーに対する政府支援が手厚いことに加えて、既存の系統電源から独立したアプリケーションが数多く存在するためである。プロセス技術に優れ、イギリス内に幅広い販路を持つCPIと組むことで、2010年度以降の事業化を狙う。各種アプリケーションの開発およびフィールド試験はCPIによって09年中に開始され、一方日立製作所では機器の効率化に向けた技術開発を進める。(朝日、日本経済、電気、日経産業、日刊工業、電波新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報09年2月25日)

(2)ソニー
 ソニーはリチウムイオン電池(LiB)と組み合わせたハイブリッド型DMFCシステムを開発した。ハイブリッド化により始動性が向上、発電した電力を蓄え効率的に使うことができる。同社はフラーレン誘導体とバインダー樹脂を複合化したフッ素系電解質膜を開発してきたが、今回のDMFC電解質膜は従来と同じコンセプトながら異なった構造のフラーレン誘導体を採用し、バインダー樹脂も新たに開発、プロトン電導性を向上するとともに、メタノール透過率を1/4に低減した。その結果現在標準とされるフッ素系電解質膜に比べて大幅な薄型化を実現した。触媒はルテニウムコアを白金で包みカーボンを担持させているが、直径は2.9nmで一般的なルテニウム白金触媒に比べて白金の使用量を3〜4割低減できる。DMFCとLiBを制御する回路も開発し、DMFCのみ、DMFCとLiB、LiBのみの3モードを自動的に切り替える。100%近い高濃度メタノールはポンプで送液、酸素と水の供給はパッシブである。LiBがメインの携帯型は容量10ccの燃料カートリッジで現行携帯電話1週間分(5回)の充電が可能である。(化学工業日報09年2月27日)

(3)東芝
 東芝は3月7日、外出先で携帯電話や携帯音楽プレーヤーの充電が容易にできる手のひらサイズの小型DMFC充電器を商品化、4月にも売り出す方針で、近く発表する。東芝のFCを使った充電池は、家庭のコンセントにつなぐのとほぼ同じ時間で充電できる。燃料のメタノールが満タンであれば、4,5回のフル充電が可能。価格は2〜3万円となる見通しで、将来的には1万円以下に引き下げる計画である。別売りのメタノールを注入すれば繰り返し利用できる。なお東芝は09年度中に、更に小型化したFCをノートパソコンや携帯電話に内蔵して商品化することを計画している。(読売新聞09年3月7日)

9.水素生成・精製技術の開発
 出光興産はバイオ燃料を想定した改質評価に成功した。バイオエタノールを想定した純99.5%のエタノールと、バイオガスを想定したメタン80%、CO20%の混合ガスを現行の改質装置で評価し、水素得率は7割を達成、COの発生も10ppm以下に抑えることができた。COを効率的に取り除くための温度環境を最適化するなどの改良は必要だが、ほぼ現行技術の延長線上で対応の目途は立ったという。又同社では吸着剤を使って、市販軽油の硫黄分10ppmを脱硫することに成功、2,000時間継続できることを確認した。(日刊工業新聞09年2月26日)

10.水素貯蔵・輸送技術の開発
(1)バイコーク
 バイオコーク(東京都)は、水素化マグネシウム(MgH2)を使用したFCを試作した。同社は水素化マグネシウムを用いた小型装置を軽量で安全な携帯型FC(ポータブルマグ水素FC)とし、屋外での小型電源などへの実用化に向けて東洋製罐などと共同開発を進めている。大容量装置はビルなどに設置する非常用大型電源、工場などのピーク電力対応電源、僻地・離島などの分散型電源などへの適用が期待される。MgH2は水と反応させることにより約1.8L/gの水素を発生し、現状では24gで120Whの発電能力を持つ。又合金化すれば化学的に安定で劣化しないため、高純度の水素を安全に貯蔵・輸送することが可能。需要が拡大すれば100t/月のオーダーで数千円/kgの販売が可能と見込んでいる。電機メーカーや装置メーカーなどと実用化に向けて交渉を進めている。(鉄鋼新聞09年2月26日)

(2)東北大
 東北大学の京谷教授と西原助教らは、水素を吸着する能力を持つ炭素原子だけでできた新物質を開発した。この新物質は炭素原子5個連なった輪と6個連なった輪がくっついてできた帯状シートが立体的に結合してジャングルジムのような形をしている。帯状シートの幅は1nm、穴が開いた酸化ケイ素の結晶(ゼオライト)を鋳型にして合成した。ゼオライトの穴の中に炭素を含む化学物質を詰め込んで加熱分解し、フッ素でゼオライトを溶かして炭素だけを残す。新物質は室温で圧力を加えると水素を吸着し、圧力を下げると水素を放出するので加熱を要しない。既に日産と水素貯蔵用を目的に共同研究を始めた。(日本経済新聞09年3月9日)

11.FCおよび水素関連計測技術
(1)島津
 島津製作所は、FC内部の酸素濃度を一目で分かるように表示し、発電効率が最適になるように開発を支援する装置を実用化した。装置は高性能レーザー、カメラで構成され、試薬にレーザー光を当て、酸素濃度によって変化する光度から正確な酸素濃度を得る仕組みである。自動車、電機メーカーに今夏にも発売する予定。(産経新聞09年2月25日、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報2月26日)

(2)シャープタカヤ電子工業
 シャープタカヤ電子工業(岡山県)など岡山県内外の6社・機関でつくる産学官連携コンソーシアムが、FCV用水素ガス漏れ検知センサーを開発した。動作不良などセンサー自体の異常も認識できるのが特徴で、3月中にもマツダと実用化に向けた性能試験を行う。強化樹脂製ボックス(縦約高さは5×8×4cm)に水素ガス検知体などを組み込んだ半導体チップ(6mm四方)を収めた構造であり、FCの周りに複数設置、ガスを感知すると信号を発する。チップ内には水素ガス検知体と別に、ガスを感知する以外の特性を持つ構造が同一の検知体を配置しており、センサー自体の異常は2つの検知体から出る信号の違いを識別することにより認識する。岡山大学大学院の塚田教授が開発した特許出願中の技術を採用した。(山陽新聞09年3月3日)

12.企業戦略と事業展開
(1)JSR
 JSRは2月24日、PEFC用電解質膜の量産設備を四日市工場内に完成させたと発表した。FCV用換算で年間1〜2万台に対応できる。これは耐久性や低温特性などに優れる炭化水素系の電解質膜で、これを採用したFCシステムは−30〜95℃に対応できる温度特性を持ち、既に日系自動車メーカーのFCVに採用されている。同社は今後一層の耐久性向上や長期的な信頼性、起動や停止などの負荷変動に耐える膜の開発を進め、家庭用や携帯機器用への展開を図る。これまではセミコマーシャルプラントを保有し、品質保証や出荷の体制を整えていた。(日経産業、日刊工業、日刊自動車新聞、化学工業日報09年2月25日、電波新聞3月2日)

(2)日清紡
 日清紡はセパレーター新工場の稼働を半年間前倒しし、今秋に完成させて年内の稼働を目指す。家庭用PEFC市場の立ち上がるのに応じ、供給体制の整備を急ぐ。新工場の生産能力は年間2万台程度、将来規模を拡張する構想もある。(No.154参照、日経産業新聞09年2月25日)

 ――This edition is made up as of March 11, 2009――

・A POSTER COLUMN

電磁波でリグニンをほぐすことにより木材から効率的に糖を採取
 京都大学の渡辺教授らの研究チームと日本化学機械製造(大阪市)は、2.45GHzの電磁波で木質繊維を加熱することによりリグニンをほぐす手法を考案、特殊な溶液にそれを浸せば5分程度でリグリンが分解することを確かめた。硫酸やアルカリ系の化学薬品を使わないので中和プロセスが不要、環境負荷が小さいと同時に、植物繊維を糖に変えるために必要な酵素の量も半分以下に減らすことができる。
 1日に20kgの木材を処理できる装置を試作、実験を続けることによって生産効率を向上させ、分解したリグニンを化学品原料に活用する技術開発を進める。
(日本経済新聞09年2月23日)

ホンダが非食用植物由来バイオエタノール燃料実用化に向けた実験設備を稼働
 ホンダは2月26日、麦わらなど非食用植物を原料とするバイオエタノールの実用化に向け、新規の実験施設を09年11月に千葉県木更津市で稼働させると発表した。高品質のバイオエタノールを安定生産できる製造技術の確立を急ぎ、二輪車や四輪車などの燃料として実用化を狙う。
 新実験棟"本田技術研究所基礎技術研究センターかずさ分室"は延べ床面積約1,050m2で、木更津市の研究開発地区内に4月にも着工する。新実験棟に植物の粉砕からバイオエタノールの精製まで一貫して実験できるラインを設置、従来施設に比べ50倍のバイオエタノールを精製できるようにする。
(日本経済新聞09年2月27日)

EV等次世代自動車の大規模実証試験が始まる
 環境省はEVなど次世代自動車を使った大規模実証試験を開始した。自動車メーカーから試作車を順次調達、地方自治体の公用車などに貸出し、運行データを収集する。エアコンを稼働させて渋滞路を走行するような実走行を通じてEVの信頼性などを実証し、市場投入を見据えた需要喚起につなげる考え。
 実証試験事業は、1月13日に神奈川県庁へ三菱自動車製のEV"アイ・ミーブ"1台を納車してスタート、2月には大阪府庁、兵庫県庁、愛知県庁にも納車し順次拡大していく。又同車は北九州市にも納車予定で5台を使用する。4月には富士重工業が開発したEV"プラグイン・ステラ"15台を日本郵便に順次納車する。3月にはホンダのFCX"FCXクラリテイー"1台を横浜市に、5月にはバッテリー交換方式の充電スタンドの検証を横浜市の実験スペースを使って行う予定。 (日刊自動車新聞09年2月23日)

自動車用に向けての大容量で高性能リチウムFC
 産業技術総合研究所は2月24日、水素の代わりに金属リチウムを使う新しい構造の新型FC(リチウム空気電池)を開発したと発表した。有機電解液と水性電解液を組み合わせて大容量化を達成、自動車用スタンドで金属リチウムをカセットなどで補給することにより充電の待ち時間がなくても連続して走行できる。実用化に向けた研究を更に進め、大容量連続放電が可能な新型FCの開発を急ぐ。
 リチウム空気電池は金属リチウムを負極活物質としており、水素に比べて取扱いが容易、又空気中の酸素を正極活物質とするため、酸素をセルに含める必要がなく、通常のリチウムイオン電池よりも大容量化が可能である。使用済みの水性電解液から電気的に金属リチウムを再生できるため、リチウムを繰り返し使える利点もある。
 今回開発された新電池は、リチウム電極が入った有機電解液と正極側の水性電解液との間に固体の電解質を挟んでリチウムイオンだけが通過できるようにした。試作電池を0.1A/gで20日間連続して放電したところ、5万mAh/gの放電容量に達するまで発電を続けた。これまで電解液の間を仕切らない"リチウム―空気電池"では、反応生成物の酸化リチウムが正極に付着して1,000mAh/g程度で発電(放電)が停止する問題があったがそれを解決した。
(電気、日経産業新聞09年2月25日)

太陽光発電など3分野で日欧協力
 経済位産業省とEUは3月7日、エネルギー技術開発の連携強化に関する"エネルギー技術開発に関する戦略ワークショップ"を都内で開き、高効率太陽光発電、次世代型の蓄電池、CCSの環境3分野9事業の研究開発協力を柱とする議長総括を発表した。日欧以外の先進国や主要途上国との連携を深めることでも一致、次回会合は年内に欧州で開くことも合意した。又今後FC分野でも連携を検討することを確認した。
(毎日、日本経済、日刊工業新聞09年3月8日、建設通信新聞3月10日、化学工業日報3月10日、電気新聞3月11日)