第153号 家庭用FC普及に向けて補助金制度
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体による施策
3.MCFCの開発と利用技術
4.SOFCの開発と実証研究
5.家庭用PEFCの事業展開
6.水素ステーション事業と運営
7.水素生成・精製技術の開発
8.FCおよび水素関連周辺機器
9.水素エネルギーシステム
10.マイクロFCの開発
11.企業による事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)第3期科学技術基本計画
 第3期科学技術基本計画(06~10年度)の中間評価を進めている"分野別推進戦略総合プロジェクトチーム"の第7回会合が1月9日に開催され、エネルギーや環境などの8分野について中間とりまとめの報告があった。エネルギー分野では、原子力の利用推進、原子力安全の確保、再生可能エネルギーの利用、水素・FC、省エネなどについて課題を提示、次世代軽水炉、高速増殖炉、核燃料サイクル、非シリコン系太陽電池、リチウムイオン電池などの研究開発の重要性が指摘された。同プロジェクトチームは4月にも中間評価案を最終的にまとめる。(電気新聞09年1月13日)

(2)太陽光発電とFC普及策
 住宅用太陽光発電システムやFC普及に国を挙げた取り組みが加速する。09年度補正予算に総額90億円が盛り込まれた住宅用太陽光発電導入支援対策費補助金の申請受付は09年1月13日から46都道府県で始まる。補助対象は最大出力が10kW未満で導入価格が1kW当たりで70万円以下に限られ、発電容量1kW当たり7万円を補助する。一方09年度から商用化する家庭用FCには、政府予算原案に60億円が盛り込まれ、1件当たり上限140万円の補助金が予定されている。これは現在市場価格の4割に相当する額である。家庭用FCは05年から4年間NEFがNEDOからの助成金を受けて普及のための実証事業を行い、07年度末で2,232台が稼働している。現在の市場規模は100億円強であるが、経済産業省は15年に2,000億円を目指し、導入コストを15年に100万円まで下げたいと述べている。(電波新聞08年12月26日、フジサンケイビジネスアイ09年1月15日)

(3)経産省
 経済産業省は環境やエネルギーなど成長分野で、日米研究機関の共同研究を推進する。産業技術総合研究所とロスアラモス国立研究所との協力体制を強化するほか、新たにサンデイア国立研究所とナノテクに関する共同研究で覚書の締結を検討する。ロスアラモス国立研究所は、FCや高温超電導で世界有数の施設を活用した高度な解析技術を持つ。これまで産総研がFCについて、又国際超電導産業技術研究センター(ISTEC)がそれぞれ高温超電導の共同研究を実施、高い評価を得ている(経産省)としている。FCの共同研究推進に関しては、09年1月に経産省と産総研の担当者を派遣、水素の貯蔵でより効果的な材料の共同開発に向けて、協力体制の強化策で意見を交換する。経産省は従来の自前主義から外部の経営資源の積極的な活用によって技術革新につなげる"オープンイノベーション"に転換することの重要性を指摘している。(日刊工業新聞08年12月30日)
 資源エネルギー庁は、省エネルギー・新エネルギーの推進に関し、社会システムとしての展開に乗り出す体制づくりのため、1月13日付で"新エネルギー社会システム推進室"を設置する。太陽光発電や蓄電池、FC,次世代自動車などこれまで取り組んできた個別案件を、公共施設や運輸・流通、生活インフラなどでの活用を通じて社会システムとしての普及を目指す。同推進室が窓口になり省エネ・新エネ普及のアイデアを公募、政策資源投入分野の具体化や雇用機会創出などに繋げていく方針である。具体的には、太陽光発電により創出した電力を蓄電池に蓄電、電気自動車の動力として活用又家電など住宅機器との直流連携での活用、公共施設への太陽光発電と蓄電池設置による防災機能強化、タンカーへの太陽光発電の設置などが想定されている。(日刊工業新聞09年1月12日、日本経済、電気、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報1月14日)

(4)NEDO
 NEDOはFCVや水素を供給する水素インフラなどの実証実験をする研究プロジェクトに09年度から参加する企業などを公募する。公募期間は2月上旬から約1ヵ月間。FCVの実用化に向けて、今まで進めてきた研究プロジェクトの成果を引き継ぐ。実験では水素ステーションやFCVを使い、省エネルギー効果やコストなどのデータを収集、システムの課題や問題点を明らかにする。(日経産業新聞09年1月7日)

2.地方自治体による施策
(1)福岡県
 国と福岡県は、水素関連製品の安全基準を認定する国内初の"福岡水素総合試験センター(仮称)"を09年度、九州大伊都キャンパスに近い同県前原市に建設する。水素版JISといえるもので、水素製品の世界標準規格つくりを目指す。センターの総事業費は15億円、耐圧仕様の建物とし、床面積は約2,000m2、国の08年度第2次補正予算か09年度当初予算案に盛り込まれる見通しで、国が2/3、県が残りを負担する。運営は同県や企業が約2億円を出資する公益財団法人が行い、10年度から運営開始の予定で、九大の"水素材料先端科学研究センター"と連携して運営する。試験センターではベンチャー・中小企業から持ち込まれた水素FCなどに使われる流量計や配管、バルブなどの試作品を試験して劣化や耐久性などを評価する。(西日本新聞09年1月4日)

(2)埼玉県
 埼玉県の上田知事は1月20日の記者会見で、警察本部を除く県の全公用車約1,500台を今後10年間に次世代自動車に原則的に転換する方針を明らかにした。県によると、想定している次世代車は、電気自動車、ハイブリッド車、天然ガス車の3種類で、FCVも今後検討する。又職員がマイカーを買い替える際にも、次世代車を選ぶよう呼びかける。(電気新聞09年1月21日)

3.MCFCの開発と利用技術
 資源エネルギー庁、中国電力、中部電力の3者は、04年度から4年間、約13億円を投じて実証試験を行い、MCFCによる周波数安定化技術の実用化に目途をつけた。揚水発電の起動・停止時の周波数変動幅を0.1Hz以内に抑えられることを確認、CO回収率も最大75.9%を達成した。50kW級CO回収型MCFCシステムを中国電力三隅発電所構内に設置、2,000時間以上の継続運転で75%超の回収率を達成した。揚水発電30万kWに対して、7,000kWシステムが11台必要と試算しており、もし沖縄電力を除く9電力会社が全国で7,000kW級システムを84台設置すれば、周波数変動を完全に防げるほか、CO排出量も約270万トンが回収できる。又太陽光発電の大量導入に伴う周波数変動対策にも応用できる。システムの信頼性についての実証試験では、電圧低下率が1,000時間単位で0.26%であることを確認、COを回収しながら運転を数万時間続けられる目途をつけた。2月19日の"電源利用対策発電システム技術評価に係る電力技術評価委員会"で評価報告書をまとめる。30年頃にはガスタービンとの複合発電への適用も見込まれており、エネ庁も"エネルギー革新技術計画"の重点項目に位置づけている。(電気新聞09年1月19日)

4.SOFCの開発と実証研究
 フェニックスFC(東京中野)は、起動時間を大幅に短縮し、自動車の予備電源や工事現場などで使う可搬用電源として実用性の高い小型SOFCを開発した。同社はセルの構造を格子状にする設計を採用して反応面積を増やし、重量当たりの出力を高め、従来は据え置き型であった発電装置を持ち運びが可能な重量にまで小さくした。重量当たり出力が高く約5kgで100Wの出力が可能である。セルはイオン電導性のあるセラミックス素材"ランタンガレート"に電極となる金属粉を焼結して作られる。電解質のセラミックス素材と電極金属の間で熱膨張率は異なるが、電極を金属結晶ができる手前の温度で焼結することによって微細な穴を残し、そのためセラミックス素材と素材の伸縮が容易になった。したがって急速にセルの温度を上げてもセルがひび割れなどで劣化することなく、5分程度で起動できる。しかし、小型化するために熱交換器を付けられないため、変換効率は20〜25%程度で高くはない。燃料としてはブタンやDMEなどを想定している。2年後に1台80万円程度で企業に販売する予定。(日経産業新聞08年12月26日)

5.家庭用PEFCの事業展開
(1)東ガス
 東京ガスは12月29日までに、家庭用FCシステム"エネファーム"を09年度1,000台を超える規模で売り込む方針を明らかにした。オール電化住宅への対抗商品と位置づけ、一般家庭へ本格販売する攻勢を初年度からかけることにした。家庭ではガスと電気料金の支払額が5~6万円割安になるとの試算もある。又CO排出量を45%削減できる。国の補助金の額にもよるが、価格は100万円以下になりそうである。東ガスでは戸建新築やリフォーム需要を掘り起こし、12年度からは目標を年1万台に引き上げる考えである。なお新日石は09年度に2,000台の目標を掲げている。(電波、日本農業新聞08年12月30日)

(2)トヨタ
 トヨタ自動車が09年度に予定していた家庭用FCシステムの発売を延期する方向で検討していることが12月29日に判明した。業績の急速な悪化により、本業の自動車事業立て直しに経営資源を集中する。同社はアイシン精機と家庭用FCの共同開発を進め、06年度から実証事業で東邦ガスに毎年二十数台を供給している。(産経新聞08年12月30日)

(3)セコム
 セコムは12月31日、09年をめどに家庭用FCのレンタル事業に参加する方針を明らかにした。一般的なシステムに加えて、災害時でも電気が確保できるように改良したシステムも順次投入、同社のホームセキューリテイーの契約者に対し、月額2万円程度で提供する。都市部の富裕層を中心に攻勢をかけていく。災害対応のFCシステムは、都市ガス以外にLNGやLP、灯油など複数の燃料を使用できるマルチ方式を採用、地震などで都市ガスが止まった時には、サービスマンがLPガスのボンベなどを契約者宅に設置して家庭電源の早期復旧を図る。又停電時も起動できるように蓄電池を組み込む。水道が断水になった時も、タンクの一部に冷却水を循環させるなど災害対応向けの改良を進めていく。(フジサンケイビジネスアイ09年1月1日)

(4)旭化成ホームズ
 旭化成ホームズは1月7日、先端的環境設備機器をシステムパッケージ化した"発電へーベルハウス"のキャンペーンを8日から展開すると発表した。家庭用FCシステム"エネファーム"又は地中熱利用ヒートポンプ給湯・冷暖房システムを、太陽光発電と組み合わせて発売するもので、同社はエネファームと太陽光発電を組み合わせた場合、一般的な家庭の年間電力消費量をほぼ全量賄えるとしている。エネファームと太陽光発電を組み合わせた"ダブル発電パック"は475万円であるが、補助金と組み合わせると約150万円で購入できる。給湯の70〜90%を賄え、年間CO排出量を約60%、光熱費の55%削減が見込める。エネファームは東京ガスから供給を受け、太陽光発電は京セラ製多結晶シリコン型(3.2kW)を採用した。(化学工業日報09年1月8日、日経産業新聞、住宅新報1月13日)

(5)大ガス
 大阪ガスは1月18日、家庭用コージェネレーションFCシステムを、2030年までに、同社のガスを利用する家庭の約15%に相当する計100万台販売する計画を明らかにした。計画では4月に売り出し、当初3年間は一戸建て向けに計数千台の普及を目指す。品質改良やコスト低減を進め、集合住宅でも使えるように小型化して販売を加速させる。ただ、売り出し価格は、国の補助を受けても現行システム(約80万円)よりも高額になる見通しで、低価格化を如何に早く進められるかが普及のカギとなりそうである。(読売新聞09年1月19日)

(6)新日石
 新日本石油は09年度から家庭用FCの本格販売を始める。ガソリンやLPGの既存販路を活用し、全国100社で組織する新しい販売代理店を構築、10年度に1万台の販売を目指す。同社は約600社ある系列特約店の中から、暖房器具などの設置ノウハウを持つ大規模店を中心に代理店を募り、全国10か所の支店に計約30人の担当者を置いて特約店から販促策や設置工事の相談に応じる。又本社にも20人程度の販売担当者を配置し、住宅メーカー向けなどの販路を開拓する。15年度には価格を50万円程度に抑える考えで、同年度に4万台の販売を目指すとしている。(日本経済新聞09年1月20日)

6.水素ステーション事業と運営
 東邦ガスが愛知県常滑市の中部国際空港島内で運営する水素ステーション"JHFCセントレア水素ステーション"のFCVへの水素充てん量累計が、06年7月に開所して以来08年12月12日までの2年半で、国内水素ステーションとして初めて1万kgを突破した。同ステーションは、中部国際空港やその周辺地域を走行するFCバス、FCVの計6台に対する燃料供給拠点として使われている。(電気新聞09年1月9日)

7.水素生成・精製技術の開発
(1)大阪大
 大阪大学大学院工学研究科の福住教授は、常温・常圧下で極めて高効率でしかも安全に、ギ酸分解によって水素製造を繰り返し行うことができるロジウム単核金属錯体触媒を開発した。水素はギ酸やギ酸塩として常温常圧で液体や固体として安全に貯蔵・運搬できるが、従来の触媒系では変換に多くの課題を抱えていた。同教授が開発した単核金属錯体触媒は、常温常圧水中でギ酸を効率よく分解し、水素の入手を容易にする触媒であり、有機ハイドライドや炭素系吸着材料など他の手段に比べて使い勝手のよいのが特徴である。この触媒は、ヒドロゲナーゼの活性中心をモデルとしたもので、ニッケル・ルテニウム2核アクア錯体や同2核ヒドリド錯体、単核イリジウムなどが開発されている。同教授はニッケル・ルテニウム2核錯体触媒に比べて、低コストになるロジウム単核錯体触媒を開発した。この触媒は常温常圧水中という非常に温和な触媒条件で、pHを制御することにより水素、重水素、重水素化水素を選択的に作り分け、又COを活用して水素と結合させ、ギ酸として水素を貯蔵できる。(化学工業日報09年1月9日)

(2)東京理科大
 東京理科大学の工藤教授らは、光触媒に可視光を当てて水から水素を作る装置に工夫を加え、酸素との分離に必要な作業を不要にした。新技術は金属のビスマスとストロンチウムを主成分とする2種類の光触媒を使う。これらは可視光によって水から水素と酸素を作り出す触媒であるが、電子だけが通るようにフィルターで仕切った水槽に入れた。ビスマスを含む光触媒は、可視光を当てると、水から酸素と水素イオン、電子を生み出し、ストロンチウムを含む光触媒は、電子を受け取り、水から水素と水酸化物イオンを放出する。水酸化物イオンは水中に溶けて水素となる。2種類の触媒を0.1Lの水槽にそれぞれ0.1gずつ入れて可視光を当てたところ、1時間当たり水素145μLが得られた。水素を分離する必要がなく、水を供給するだけで安全で効率的な水素の大量生産が可能になる。(日経産業新聞09年1月15日)

8.FCおよび水素関連周辺機器
 村田製作所は12月25日、超小型・低背の気体搬送デバイス"圧電マイクロブロア"を開発したと発表した。駆動源に圧電セラミックスを採用、超音波振動を応用し"空気ポンプ"として動作させる構造設計を行った。これにより非常に小型・薄型で高い空気吐出圧の実現に成功した。縦横は20×20mm、ノズル部分を除く厚さが1.85mmで、空気吐出圧は1.3kPa以上、風量は毎分0.85L以上の性能を持つ。低消費電力で電磁ノイズを発生しない。FCなどの空気送風ポンプ用などへの用途を想定している。サンプル価格は1,500円。09年度中の量産を目指す。(電波新聞08年12月26日、日刊工業新聞09年1月8日)

9.水素エネルギーシステム
 国土交通省は09年度から、水素を活用した都市エネルギーシステム実現に向けた技術開発に着手する。12年度までの4年間を開発期間に充て、09年度はガス、電力などの関係業界や経産省資源エネルギー庁など関係機関も含めて検討組織を立ち上げ、これまでの水素利用の要素技術開発状況を踏まえて課題を整理するとともに、技術開発に当たっての役割分担などを決める。又エネルギー原単位の把握が難しいとされている業務用建築物や集合住宅における正確な原単位を得るための実証実験設備を整備する。プロジェクト名は"低炭素・水素エネルギー活用社会に向けた都市システム技術の開発"で、09年度予算案には1億3,900万円を計上した。プロジェクトの検討課題は、1)地域内・建物内の水素配管敷設建設技術、2)都市エネルギーセンターを中心に水素配管網によって水素をトータルで活用するエネルギーシステム技術、3)水素エネルギーシステムの化石燃料依存度を評価する手法、の3本柱からなる。(建設通信新聞09年1月9日)

10.マイクロFCの開発
 東芝は12月26日、急速充電できる独自のリチウムイオン充電池"SCiB"を搭載したノート型パソコンを09年中に発売する方針を明らかにした。材料の構成を従来型と変えるなどして充電時間を短縮、製品化する当初のパソコンは10分程度でフル充電できる性能にし、将来的には充電時間を5分にする。又長時間使える小型DMFCも、パソコンや携帯電話に搭載して09年度に製品化する。東芝は新技術をいち早く製品化して有望なモバイル機器市場で独自性を打ち出す。同社は「電源にリチウムイオン電池とFCを揃え、好みで選べるようにする」戦略を立てている。(産経新聞、フジサンケイビジネスアイ、08年12月27日)

11.企業による事業展開
 昭和電工はPEFC関連でカーボンセパレーターの事業化を目指すとともに、白金代替触媒の実用化を急ぐ。セパレーターは更に薄肉化を図り、家庭用PEFCを手掛ける大手3者にサンプル供給するほか、FCV向けには実証試験での採用を前提とした話合いを始めている。カーボンセパレーターは05年の開発以来改良を重ね、ホウ素添加黒鉛の採用により高電導性で厚さ0.1mm以下を実現、多相系バインダー併用で高強度も備える。高速スタンピング成型が可能なため、他のカーボンセパレーターでコストアップ要因である流路の切削加工が不要であり、金属系に比べて軽量、又課題のフラッデイング性も特殊表面処理技術により大幅に改善した。一方開発中の白金代替触媒であるニオブ系W−X族酸化物は、高い比表面積と活性点が安定した結晶構造が特徴で耐腐食性にも優れ、酸化還元電位は白金の1.05に迫る0.95を実現している。既に高速生産が可能ではあるが、量産プロセスの開発や添加物の分散条件最適化などにも取り組んでいる。年内にもサンプル供給を開始し、15年頃の事業化を狙う。(化学工業日報09年1月19日)

 ――This edition is made up as of January 19, 2009――

・A POSTER COLUMN

バイオマスFCや微生物電池(バイオ電池)の開発進む
 微生物を活用したFCの実用化に向けた開発が進んでいる。
 サッポロビールは食品廃棄物を微生物に分解させて水素の生産に成功、2010年にも食品工場に売り込む。同社価値創造フロンテイア研究所の三谷研究主幹は「大規模なプラントで実証ができた」と語り、「生ゴミから水素を作り、家庭用FCにも応用できる」として中期的には家庭市場の開拓にも乗り出す意向である。
 タカキベーカリー(広島市)のパン工場では、サッポロビールの技術で食品廃棄物から水素を作る実用化試験が進んでいる。タンクに製品化できなかったパン生地を入れると、タンク内に生息する特殊な微生物が生地に含まれる有機物を分解して水素を作る。試験では食品廃棄物125kgから25,000lの水素を生産、廃棄物からメタンを作る装置と組み合わせて、一般家庭5軒1日分のエネルギー(120kWh)が賄える。廃棄物の処理費用が不要のため、設備の導入コストを含めても採算が合うと云う。
 鹿島は下水の汚泥に含まれる微生物で発電するFCの開発に取り組んでいる。同社はFCの電極に下水や水田に住む微生物を張り付け、汚泥を分解する過程で発電する"微生物電池"の開発に取り組んでいる。東大と共同で小型のFCを試作、130W/m3の発電を実現した。性能向上が課題で実用化は20年頃になる見込みである。
 ソニーはブドウ糖などを燃料に使う"バイオ電池"で、出力を大幅に高め、今後の技術開発で既存の電池を上回る性能を実現できる可能性がでてきた。バイオ電池は、糖などの有機物を酵素が分解する過程ででる電子を取り出すもので、07年に試作したが、今回は電子を電極に伝える電子伝達物質などを新たに開発して電子の受け渡しを効率的にした。出力密度は5mW/cm2を達成、この値は従来の3倍以上である。ブドウ糖になるご飯1杯分のカロリーは、単三アルカリ電池96個分のエネルギーに相当する。しかし、現時点でのバイオ電池の出力は携帯機器向け小型FCのまだ1/10で、今後遺伝子組み換え技術で最適な酵素を作るなどして性能を高める意向である。
(日本経済新聞08年12月26日、09年1月5日)

微生物FCの性能を50倍に
 自然界には下水や生ゴミなどの有機物を分解してエネルギーに変える過程において、電子を出す特殊な菌が存在する。東京大学の橋本教授、中村助教らの研究グループは、このような特殊な菌を使って下水や生ごみから電気を発生する微生物FCの性能を50倍以上に高める技術を開発した。
 同研究グループは、電子を放出する性質を持つシュワネラと呼ばれる菌が、酸化鉄が多く存在する環境で生息する点に着目し、菌の餌となる有機物が入った培養液に酸化鉄の微粒子を入れて透明なガラス電極に載せた。酸化鉄を入れない場合に比べて発電性能が最大50倍になった。菌と菌の間に取り込まれた酸化鉄が、菌から出てきた電子を電極まで効率よく運ぶ媒介になっていると解釈される。
 今後実用サイズの微生物FCを試作して、酸化鉄添加によって実験レベルと同様の性能向上が得られるかどうかを検証する意向である。
(日経産業新聞08年12月1日)

牛ふん尿を活用したバイオFCの開発
 牛の糞尿を無酸素状態で発酵させて取り出したアンモニアを電気分解して水素を発生し、それをFCに活用して発電する技術を、帯広畜産大学の高橋教授と住友商事の研究グループが開発した。人間のし尿にも応用できるので、一般家庭用トイレ発電機が可能になる。
 同教授らは、約200万円をかけて実験装置(縦2m、横1m)を製作し、発酵させた約20kgの糞尿から0.2Wの電力を取り出すことに成功した。発電効率を高めることにより、北海道の平均的な牧場で1日に排出される糞尿6〜8トンで、一般家庭3日分の電力を賄えることが可能になるとの試算を発表している。
(読売新聞09年1月10日)

全国4府県および2政令都市でEV実証実験
 環境省はEVを普及させるため、神奈川県、愛知県、大阪府、兵庫県の4府県と横浜市、北九州市の2政令市で実証実験を始める。三菱自動車や富士重工業などから最新型の車両を調達、1月中旬から自治体に貸出を始め、認知度を高めるとともに実際に使い勝手を確認してもらう。一方09年度からEV導入補助事業を開始する。事業費は約4億円で、08年度の補正予算に計上した。実験期間は納車の時期に応じて6月まで延長する可能性がある。
 車種は三菱自動車の"i-MiEV"、富士重工業の"プラグイン・ステラ"の他、アメリカベンチャー企業ベタープレイン社のバッテリー交換型EV、ホンダの"FCVクラリテイー"を予定、電動バイクとあわせて約50台を準備する。又これと併せて急速充電設備やバッテリー交換所などのインフラも提供する。
 09年度からのEV導入補助制度は、自治体や第3セクターなどが導入する際、初年度のリース料金の半分を補助する。環境省は「初期需要を創出して価格低下に繋げる」と述べている。更に既存の低公害車導入補助制度を拡充し、EVを新たに補助対象として加えて導入を促す。これまでは大型トラックやゴミ収集車など業務用車両が対象であった。
(日経MJ09年1月9日)
(日本経済新聞09年1月8日)

COを地下水に溶解貯留
 産業技術総合研究所の嘉藤主任研究員、所立研究員らは、COを地下水に溶かして貯留する技術を開発した。100気圧下でCOを地下水に溶解、重炭素水溶液の状態で地中数十m下に注入する。従来技術より浅い部分に貯留できるので、適する地層の条件が広がり、掘削費などを低減できる。小規模分散型の貯留にも適用可能である。
 従来の貯留(CCS)手法は、COを超臨界状態(超臨界点:温度31℃、圧力7.4MPa)で土中に埋めるものが多い。又長期で安定的に貯留するためには、キャップロックと呼ばれる空気を透さない遮断性を持った岩層や、800m以上の深度であることが必要など、技術やコスト面で問題があった。
 産総研の技術は、水溶液のために容積当たりの封入量が少ない。しかし、扱い易く土中から漏れだすリスクが少ない利点がある。仮想実験では、最も条件が合う場合、1トン当たりのコストが従来の約半分である580円で済む。排出現場付近に小規模で貯留すれば輸送コストなども削減できる。
 独自開発した100気圧の装置下でCO水溶液をつくることに成功し「より低い気圧でも水溶液を作る条件が解明されつつある」と研究者は述べている。近く気圧を下げて反応させる実証実験に入る。
 なお、同研究はFCとCO回収装置を組み合わせた環境型発電システム研究の一環として行われた。
(日刊工業新聞09年1月22日)

新日石が給油所にソーラー蓄電システムを設置
 新日本石油は太陽光発電パネルと蓄電池を組み合わせた業務用システムを開発し、自社系列のガソリンスタンドで試験設置を始めた。発電で電気料金を節減することに加え、電気を蓄えることにより、停電時などでの非常用電源として活用する。又CO排出量は2割程度削減できる。
 開発したシステムは11kWの太陽電池パネルと、8.9kWh容量の蓄電池を連携させたシステムで、試験的に子会社のENEOSフロンテイアが運営する宇都宮市内のスタンドに設置した。太陽電池で同スタンド消費電力の約1/6を賄い、CO排出量も年間約5トン削減できるという。又自然災害などが発生し停電になった際には、自動的に蓄電池からの電力供給に切り替わり、約10時間設備を動かすことが可能である。システムの設置費用は約1,400万円であった。将来は全国で約2,000か所ある自社所有スタンドへの設置を検討し、特約店にも導入を提案する。
(日経産業新聞09年1月23日)

直流給電システムのソリューション
 NTTファシリテイーズは、省エネルギーの電力供給方式として期待されている直流(DC)給電システムのソリューションを拡大する。次世代の給電方式として世界的に注目されている高電圧DC給電システムを2010年に本格導入するのに備えた開発であり、DCシステムと親和性の高い太陽光発電やFCなど分散型電源、リチウムイオン電池などの新技術とベストミックスした給電システムの展開を見据えて多角的に検討する。
 現行のDC48V給電システムについては、データセンターと親和性の高い薄型・高出力ラックマウントタイプ整流装置の普及を促進する他、19インチラック型高効率整流装置を09年春に商品化して販売を始める。又高電圧直流給電システムについては、高電圧直流給電用整流装置を開発し、都内の実証サイトで本格的な検証試験を始める。
 従来、データーセンターなどで使われているサーバーなどのICT機器の電源には、主に交流(AC)が使われているが、サーバー内ではACからDCに変換している。サーバーにDCを供給することによって変換ロスをなくし、消費電力を約20%削減できるほか、UPS(AC無停電電源装置)と比べて、故障率が減り、信頼性は約10倍高まるという。
(建設通信新聞09年1月23日)