第150号 界面構造制御で高活性なSOFC空気極
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.SOFCおよびDCFCの開発研究
3.PEFC要素技術開発
4.家庭用PEFCの実証と事業化
5.FCV最前線
6.水素ステーションの開発と事業
7.水素輸送・貯蔵関連技術の開発
8.携帯用FCの開発
9.FC・水素関連計測技術の開発と事業展開
10.企業による事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)国交省
 国土交通省は9月24日、水素・FC自動車の世界統一基準(GTR)策定の作業部会を東京で開催した。26日までの予定で各国の活動報告などを行い、最終日までに基準案の文章審議に入る予定である。圧縮水素を用いるFCVの安全基準については日本が策定済みで、日本とアメリカを共同議長として国連協定(1998年協定)に基づくGTRの策定作業を進めており、2010年度の制定を目指している。日米の議長国の他、ドイツとEU,カナダ、ハンガリー、中国、韓国の政府、国際自動車工業連合会(OICA)、ISOの関係者らが参加した。(日刊自動車新聞08年9月25日)

(2)経産省
 二階経済産業相は10月7日、エネルギー供給構造の見直しに着手すると発表した。石油、電力、ガスのエネルギー各社に、温室効果ガスを排出しない太陽光や水力、原子力などの導入を拡大させる。地球温暖化対策とともに、石油など資源価格高騰を受けた方針。オイルサンドやメタンハイドレイードなど新エネルギー開発を促進し、FCなどの開発を加速する。太陽光やバイオマスなど既に実用化されているエネルギーについても一層の拡大を図る。"石油代替エネルギー法"を改正し、新法"エネルギー供給構造高度化法(仮称)"を来年の通常国会に提出する。総合エネルギー調査会で議論、年末までに中間報告を行う。(産経、北海道新聞、フジサンケイビジネスアイ08年10月8日)
 経済産業省・資源エネルギーは、家庭用FCシステムの普及促進に向けて補助金制度を導入することにした。同省は09年度予算の概算要求に74億円を計上しており、年末までに補助割合などの詳細を決める方針である。20年以降の本格普及目標に向け、市場育成と量産効果によるコスト低減を図る。(電波新聞08年10月15日)

2.SOFCおよびDCFCの開発研究
(1)立命館大
 立命館大学総合理工学院理工学部の吉原教授は、ガス透過性を持った多孔質構造の固体電解質を開発した。SOFCなどへの応用を目指す。SOFCは低温でのイオン電導性が低いため、起動時に動作温度を高温にするのに数時間を要するのが課題である。この固体電解質はガス透過性のある多孔質構造のため、ガスを燃焼させて急速に昇温させることができるので、5〜30秒で起動できる。又廃熱回収装置も不要でシステムも小型化にも貢献する。今後燃焼により生じるOHやOラジカルなど中間生成物をカソードで多く発生させて活性化分極を抑制し、発電密度の向上につなげることを検討する。(化学工業日報08年9月22日)

(2)東工大
 東京工業大学炭素循環エネルギー研究センターの伊藤准教授は"ドライ炭化水素"を直接燃料として使うSOFC(DCFC:推測)を開発、炭素の付着による電極劣化を抑えて0.26W/cm2の出力密度を達成した。固体の炭化水素を燃料とするので、改質装置を必要とせず、総合(Well-t-Wheel)効率が44%の高い値が見込まれ、又付着した固体の炭素を燃料として何回でも使える"リチャージャブル・ダイレクトカーボンFC"として使用することができる。稼働時間が経過するとともに燃料極に炭素が付着して効率が低下する問題点があったが、今回インフィルとレーション法という手法で従来の燃料極にプロトン伝導体を微量添加することにより、燃料極の高活性化を実現するとともに炭素の析出付着による劣化を抑えることができた。小型化が可能でポータブル電源としても利用できる。今後はプロトン伝導体に注目してドライメタン燃料の加速劣化試験を行い、より劣化が小さく高出力化が可能な電極の開発を目指す。(電気新聞、化学工業日報08年9月25日)
 東京工業大学の八島准教授らは、物質・材料研究機構、兵庫県立工業技術センター、東北大と共同で、SOFCの電解質として研究が進んでいるアパタイト型酸素イオン伝導体内の酸素イオンの動きを可視化する技術を開発した。酸素イオンが激しく動き回るよう1,500℃以上の高温に加熱した状態で、中性子線を照射、反射してくる中性子線を情報理論に基づく分析手法で解析した。その結果、電解質中を酸素イオンが移動し拡散していく様子を捉えることができた。量子力学によるシミュレーションとは異なる経路で酸素イオンが移動することが分かったという。(日経産業新聞08年9月25日)
 東京工業大学の伊原准教授は、石油や天然ガスなど化石燃料を直接電力に変えるDCFC用高性能電極を開発した。従来の電極では炭素が付着して性能が劣化するなどの課題があったが、今回の電極では出力を高めても劣化しにくい。開発した電極は、ニッケルなどでできた素材にストロンチウム、セリウム、イットリウムからなる材料を添加して作る。この電極で炭化水素を使って発電したところ、0.42W/cm2の出力密度が得られた。DCFCでは発電効率を67%程度にまで高めることができるという。企業と共同で5年以内の実用化を目指す。(日経産業新聞08年10月3日)

(3)ホソカワ粉体技研
 JSTは10月8日、ホソカワ粉体技術研究所(大阪市)に委託して開発していた"界面構造制御によるSOFC低温セル"の実現に成功したと発表した。大阪大学の野城、内藤両教授の研究成果を基に、06年から3年間にわたって企業化開発を進めていたもので、SOFCの空気極材料の製造コストを引き下げるため、独自の粒子界面構造制御法を用いて700℃で動作するSOFCを開発した。同社は特殊な回転機械の中で、空気極の原料粒子を攪拌し、粒子界面に圧縮力やせん断力などの機械的エネルギーを与えて、新しい特性を持つ複合材料を合成した。この複合粒子により高活性な空気極材料を実現するとともに、燃料極と電解質の共焼結・連続製造技術を開発してセル全体のコストを低減した。試作したSOFCを単セルで評価したところ、0.4W/cm2以上の出力密度を得られることが確認された。今回の成果はSOFCの低温動作とコストダウンを両立させるものであり、実用化へのブレークスルーとして評価される。(化学工業日報08年10月9日、日刊工業新聞08年10月10日、日経産業新聞10月16日)
3.PEFC要素技術開発
(1)日本原子力研究機構
 日本原子力研究開発機構は9月19日、家庭用PEFCで高い導電性を示し、かつ高温・低湿度の悪条件下でも耐久性を持つ高分子電解質膜の開発に成功したと発表した。強度が高い芳香族炭化水素高分子"ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)フィルム"をベースに、熱グラフト重合と放射線グラフト重合を組み合わせた"熱・放射線2段グラフト重合"法を用いて導電性を付与することに成功した。フッ素系電解質膜に比べて導電性が1.5倍、膜強度は2.3倍の性能を示している。又膜原料が1,000円/m2以下で安価であり、大幅なコストダウンも期待される。実験では80℃で4万時間以上に相当する安定運転を達成、40%程度の湿度でも劣化しないことを確認した。研究グループの浅野主任研究員は「現在の性能を維持し、更に低湿度に対応した電解質膜の研究を進めたい」と話している。(上毛新聞08年9月20日、化学工業日報9月22日、電気新聞9月24日、日刊工業新聞10月3日、原子力産業新聞10月9日)

(2)産総研
 産業技術総合研究所は自動車用PEFCで電池の性能が劣化しにくい触媒材料を開発した。従来のカーボンブラックに替わるPEFC向け触媒材料で、表面に白金を付着させて触媒性能を高める。それは直径100〜500nmの球形金属酸化物で、酸化チタンを焼いて作成した。開発した材料で触媒を作り自動車での利用を模擬した実験によって、従来は5,000時間であった利用可能な時間が6倍に伸びることが確認できた。開発した触媒材料は劣化しにくいので、白金の使用量も減らすことができるという。なお実用化には大きさを従来の1/5以下にする必要がある。(日経産業新聞08年9月22日)
4.家庭用PEFCの実証と事業化
(1)荏原
 荏原製作所と荏原バラードはシステム効率や商品性を向上させた家庭用FC"エネファーム"の出荷を開始したと発表した。荏原では05年から3年間参加している実証事業のデータを基に、耐久性や信頼性を向上させたほか、起動停止時の使用電力削減、家庭の負荷に合わせた運転方法の改善で効率を高め、又商品性を高めるために台所リモコンの画面を従来の2倍に拡大してタッチパネルを採用した。更にFCユニットの横幅を20cm短くし、重量を16%軽量化したほか、側面でメインテナンスができるよう部品のレイアウトを改善して設置スペースを40%削減した。両社は09年度の一般販売に向けて神奈川県藤沢市の自社工場で量産体制を整えており、最大で年間4,000台の生産が可能という。
 荏原は東京ガス、バラード・パワーシステムズ、荏原バラードの4社で共同開発した1kW級家庭用PEFCシステムの都市ガス仕様機を、大規模実証事業用として東京ガスに納入する。発電出力は300〜1,000W、発電効率は37%、熱回収効率は53%、4万運転時間、起動停止回数4,000回の耐久性を実現している。 (電気、日刊工業新聞、化学工業日報08年9月26日、日経産業、電波新聞9月29日)

(2)新日石
 新日本石油は2010年度に100社以上の特約店で、エネルギー機器の総合提案営業を開始する。同社が"我が家で創エネプロジェクト"として家庭用FC,太陽電池、高効率給湯器、暖房機器など複数機器を組み合わせた"エネルギー効率を最適化したシステム製品"を10年度に商品化するのに合わせたもので、08年度末から特約店に対する教育プログラムを開始する。石油製品の特約店契約を結ぶ約630社の中から工事能力のあり、大規模実証事業でFC設置の経験を持つ100社強を中心に展開、その後200社程度まで順次拡充していく。特約店の担当者に対して販売ノウハウの他、設置工事やメンテナンスの講習を行った上で、認定制度を設けることも検討する。同時に新日石側でも顧客の電話相談窓口や、支店での技術サポート体制の拡充を進める。(日刊工業新聞08年10月2日)
 新日本石油は09年度から家庭用PEFCシステムの本格販売を開始するのに伴い、これまで大阪ガス向けに絞っていた都市ガス仕様の機器供給を全国の都市ガス会社へ拡大することにし、複数の事業者と交渉に入った。又地方の中小都市ガス事業者からも、オール電化攻勢への対抗策としてFCシステムを求める声が強まっており、こうした要求にも応える。(日刊工業新聞08年10月17日)

(3)和泉プロパン
 和泉プロパン(福岡県久留米市)はLPG仕様PEFCと太陽光発電を組み合わせたハイブリッドタイプ家庭用エネルギーシステムの実証実験に着手した。一戸建て住宅1戸に設置して発電量などのデータを収集、太陽光発電の稼働状況に合わせて、FCを効率的に運転する手法の研究も行う。同社はFCの価格が50万円を切れば本格的に普及するとみている。同社はLPGと太陽光発電を組み合わせたエネルギーシステムの販売にも力を入れており、太陽光発電の累計販売数は300台を超えた。(日刊工業新聞08年10月9日)

(4)北ガス
 北海道ガスの大槻社長は10月8日、パナソニックや荏原バラードと共同で07年度から研究開発を進めている寒冷地仕様天然ガス式家庭用PEFCシステムについて、2010年にも道内で一般家庭向けに販売する考えを明らかにした。同社は05年から07年度まで天然ガス仕様のPEFCを23台札幌市内の家庭に設置し、運転データを収集してきた。(北海道新聞08年10月9日)

(5)福岡水素エネルギー戦略会議
 新日本石油、福岡県などで構成する福岡水素エネルギー戦略会議はこのほど福岡県前原市で"福岡水素タウン"の実証実験を開始した。福岡水素タウンは新日石と西部ガスエネルギーが共同で実施する実験である。前原市の新興住宅地150世帯を対象にLPG仕様家庭用FCを設置し、4年間にわたって実証事件を行う。1台目の家庭用PEFCシステム設置に当たって開かれた記念式典には、麻生福岡県知事をはじめ産学官関係者ら約70人が出席した。(西日本新聞08年10月11日、電気新聞10月15日、日経産業新聞10月20日)
5.FCV最前線
(1)岩谷産業
 岩谷産業は10月1日、トヨタ自動車からリース購入したFCV"トヨタFCHV-adv"の納車式を開いた。同社は03年からトヨタ自動車のFCVをリース購入しており、今回の新型は3代目になる。(日刊自動車新聞08年10月2日、化学工業日報10月3日)

(2)ダイムラー
 ダイムラーのバーラト・バラスブラバニアン副社長は都内での記者会見で2010年にFCVの量産とリース販売を始めることを明らかにした。又HV車"メルセデスベンツS400"も09年に発売する。又HVについては停車中に充電して電気駆動の走行距離を伸ばすPHVを5年以内に実用化する方針を示した。FCVは03年から実証実験をしており、ベンツのコンパクトカーに導入し、当初は年間数百台を生産、主にヨーロッパで企業向けに販売した後、海外市場でも展開する。(読売、日刊自動車新聞08年10月8日)

(3)船技協
 日本船舶技術研究会は、自動車運搬船(PCC)による水素ガスFCVの海上輸送について研究開発を本格化させる。現在は海上輸送をする際には、水素を抜いて非危険物の形でコンテナに入れて輸送しているが、作業が煩雑になりメーカーへのコスト負担となっている。今後需要の動向から2012年には関係する条約・規則の改正が必要との見方も出ている。(日本海事新聞08年10月9日)
6.水素ステーションの開発と事業
 FCVや水素エンジン車の実用化に向け、福岡、北九州の両市間(約80km)でテスト運転を行う福岡県の"水素ハイウエイ"構想に関連して、麻生知事は15日の定例記者会見で、09年夏から秋にかけて両市に水素ステーションを1か所ずつ設置し、順次稼働させる計画を発表した。施設は企業や大学などでつくる共同事業体が運営し、整備費は1か所当たり約2億円、県が半額を補助する。福岡市側は、九大伊都キャンパスにおいて水電解方式による水素ステーションを設置、09年9月から稼働する。北九州市側は、新日石のガソリンスタンドに併設、新日鉄八幡製鉄所で鉄鉱石を製錬する際に発生する水素をパイプラインで送る方式を採用する。09年6月に稼働予定。(西日本新聞08年10月16日)

7.水素輸送・貯蔵関連技術の開発
 日本合成化学工業は酸素や水素ガスの透過量を大幅に減らせるビニール樹脂を開発した。FCなど水素を利用する設備の配管などへの利用を見込む。開発したのは酢酸ビニールを原料にした"Gポリマー"である。通常のビニール樹脂は分子の鎖にムカデの足のようにアルコール分子が付いているが、今回独自の添加剤を加えることにより鎖についたアルコール分子を増やしてガスが通りにくくした。水素の透過量は従来に比べて約1/20、酸素は1/200に減らせる。09年春までに熊本工場に年産300t試作設備を新設、その後熊本工場と水島工場(倉敷市)に年産2,000tの量産体制を整える。(日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報08年10月17日)

8.携帯用FCの開発
(1)アクアフェリーとNTTドコモ
 携帯電話向けPEFCをNTTドコモと共同開発してきたVB"アクアフェリー(京都市)"が手のひらに収まる試作品を開発した。試作品は体積約10cm3、重量約8gの小型軽量ながら約1.5Wの出力を出す。水素発生剤(成分は未公表)と水を封入したカートリッジを装着してFCに水素を供給するが、水の浸透状態や時間経過によって水素発生量は変動し、そのため出力も変動するので、この出力変動を安定化させる専用の電子回路を開発した。又セルへ水素を十分供給できるように、セル側に水素の流路を刻む工夫をした結果、セル面積当たりの出力密度は150mW/cm2に達したという。アクアフェリーの成果に基づいてドコモは製品化のための技術開発を始めるが、先ず技術的規準が低い携帯電話用充電器での製品化を目指す。(日経産業新聞08年9月18日)
 アクアフェリーはゲーム機などの携帯型機器の充電器として使うマイクロFCを開発した。1個数千円で月産25万台を量産する技術も確立し、09年4月にサンプル出荷を予定する。開発したFC充電システムは縦5.5cm、横4cm、厚さ0.9cm、重量20g、出力電圧は5V、充電容量は5Wh、携帯型ゲーム機"ニンテンドーDS"を1回(約2時間)で充電できる。(朝日、毎日、産経、京都新聞08年10月17日、日刊工業新聞10月20日)

(2)東芝
 電機やITの国際見本市"CEATECジャパン2008"が9月30日に幕張メッセで開幕したが、東芝は10分間で90%の充電を目指す新型2次電池を使ったパソコンやDMFCを内蔵した携帯電話機を展示した。携帯電話内蔵型DMFCの試作品は、リチウムイオン電池(LiB)とのハイブリッド型で、LiBの容量減少に応じてDMFCが発電し充電し、LiBのみを使う携帯電話に比べて駆動時間を2倍にできる。サイズは113×54×17.5mm、メタノールの濃度は99.5%、東洋製缶と共同開発した容量50mLのカートリッジで約15回分の供給が可能である。(電波新聞08年9月30日、日本経済、日経産業、日刊工業新聞10月1日、化学工業日報10月3日)

(3)STマイクロエレクトロニクス
 伊仏合弁のSTマイクロエレクトロニクスは、携帯電話の充電器用水素式PEFC(推定)を製品化する。既に150mmウエハーを用いてFCを試作しており、現状の出力は1〜2Wであるが、量産時の出力は2.5Wを目指している。サイズは試作では40cm2であるが半分の20cm2に小型化、厚さも0.4cmと薄くし、体積を8cm3にする計画である。燃料となる水素の低圧カートリッジはパートナー企業と開発を進めており、コンビニで容易に入手できるようにする。(化学工業日報08年10月9日)

(4)パナソニック
 パナソニックはリチウムイオン電池パックとほぼ同じ大きさのノートパソコン向けDMFCを開発した。開発したFCパックの体積は270cc、高濃度メタノールを燃料とし、50ccで約5時間駆動する。ノートパソコン本体下部に組み込む。価格は未定。同社は今後FCの発熱を抑え、更に効率を高める他、白金の使用量を減らすなどコスト削減も進める。(日本経済新聞08年10月20日)

9.FC・水素関連計測技術の開発と事業展開
 山武は"デジタルマスフローコントローラーCMQ-Vシリーズ微小流量モデル"のラインアップに、水素・ヘリウムに対応した"水素微小流量モデル"を追加し、9月22日から販売を開始した。1分間当たり0.2〜50mL/minの微小流量で水素の制御を行う必要のある分野に対応する。価格は1台23万円から、3年後に年間1,000台の販売を見込む。(日刊建設工業新聞08年9月22日、電気新聞9月24日、日刊工業新聞、化学工業日報9月25日、建設通信新聞10月6日)

10.企業による事業展開
(1)ハイドロジェニックス
 カナダのハイドロジェニックスは、フォークリフトなど小型輸送機用FCで日本市場向けの事業展開を目指す。豊田自動織機にフォークリフト用PEFCを提供、同ユニットの耐久時間は15,000〜2万時間、水素のチャージは数分で済むので、フォークリフトの停止時間を少なくできるのが特徴である。同社はFCや水素電解プラントの開発が主力で、FCでは非自動車用に特化、フォークリフト向けでは世界トップの実績を持つ。(日刊工業新聞08年9月26日、化学工業日報10月2日)

(2)日清紡
 日清紡はPEFC用カーボン形式のセパレータ生産設備を5段階に分けて増設、総投資額が約60億円に膨らむことを明らかにした。2010年3月に新工場(千葉市)を完成後、10〜14年度の5年間に段階的に総額約25億円を投じ、年間でPEFC30万台分に相当するセパレータを生産する設備を増強する。(日刊工業新聞08年10月6日)

(3)パナソニック
 パナソニック電工は10月18日、電力系統からのACと太陽電池やFCが生み出すDCの両方に対応した"ハイブリッド配線機器システム"を09年度にも発売する方針を明らかにした。ACとDC間の変換で生じるロスを防ぐ。(産経新聞08年10月19日)

 ――This edition is made up as of October 20, 2008――

・A POSTER COLUMN

ハイブリッドデイーゼル鉄道車両が普及の兆し
 日立製作所は9月17日、デイーゼルハイブリッド鉄道車両の高速化を可能にする電池システムを開発したと発表した。複数のリチウムイオン電池を監視する制御技術を開発、高速鉄道に必要な大容量・高出力を確保した。時速200km/h以上での走行が可能になる。 2011年を目途にヨーロッパ、北米などで事業化を目指す。同社は通常の鉄道車両で受注実績があるイギリスで、07年9月から自社製のデイーゼルハイブリッド鉄道(最高時速176km/h)の走行試験をするなどメリットをアピールしており、受注につなげたいと考えている。
 同社は既にJR東日本の小海線に"キハE200形式ハイブリッド車両"に駆動システムを提供しているが、2両編成で最奥時速は100kmであった。ハイブリッド車両の普及を広げるためには、高速化と大量輸送への対応が求められており、今回高性能化を実現した。課題はコストで、小海線のハイブリッドは1両1億9,000万円で、従来の気動車に比べて5割増しになっている。今後はコスト課題の解決が求められる。
 路面電車への応用も動き出した。鉄道総合技術研究所はリチウムイオン電池を搭載した路面電車を試作、07年秋から今春にかけて札幌市内を試走した。停車中に急速充電できる技術が実用化すれば、1駅当たりの区間が短い路面電車の場合、架線を使わずに自力走行が可能になる。
(日経産業新聞08年9月18日、日本経済新聞10月3日)

中国自動車メーカーが家庭充電型ハイブリッド車の量産
 中国の自動車メーカー"BYD(広東省)"は08年中に家庭用電源で充電できる"プラグインハイブリッド車"を発売する計画を明らかにした。自社開発のリチウムイオン電池を採用し、一度の充電で100km走行できる。
 電気だけの走行と、ガソリンエンジンを併用する2種類の走行が可能。車両専用の電源を使えば約15分で80%充電でき、家庭用では約9時間で充電が完了。販売価格は約15万元(約220万円)になる模様である。同社はアメリカの著名投資家"ウオーレン・バフェット氏が約10%の株式取得を決めるなど技術力には定評がある。
(日本経済新聞08年10月18日)

BMWが超小型電気自動車の開発に着手
 ドイツのBMW社は、大都市での利用を想定した超小型電気自動車の開発に着手したことを明らかにした。ノーベルト・ライトホファー社長は「東京や欧米の大都市を走る超小型車はハイブリッド車よりも電気自動車(EV)を基本にする」と述べた。
 同社は既に傘下の小型車"ミニ"で電気自動車を開発しており、これを基に大都市向け超小型車を実用化する。ベースとなるEVは08年末から09年にかけてアメリカの都市部に500台を配備し、通勤や買い物など大都市での利用で実証試験を始める。ヨーロッパではロンドンとベルリンで実証試験を実施する。
(日本経済新聞08年10月4日)

電解液にイオン液体を使う安全性の高いリチウムイオン電池の開発
 東京理科大学の駒場准教授と慶応義塾大学の研究チームは、発火などの危険がなく安全性の高いリチウムイオン電池を作る技術を開発した。電解液として従来の有機溶媒に替えて燃えにくいイオン液体を使う。基礎研究段階ではあるが、従来の電解質並みの性能を発揮することを確かめた。
 研究チームは、負極の表面を"ポリアクリル酸"と呼ぶ高分子化合物で覆ったところ、リチウムイオンが通り易くなり、放電特性が実用化されている電池と同程度になった。又X線回折でリチウムイオンがイオン液体と負極の間を移動する様子を確認した。
 今後耐久性を高めて自動車用電池としての実用化を図る。
(日経産業新聞08年10月10日)

大ガスのエコウイルが累積販売台数で5万台を突破
 大阪ガスは9月18日、2003年3月に販売を開始した家庭用ガスコージェネシステム"エコウイル"の累計販売台数が08年8月末に5万687台となり、ガス業界で初めて5万台を突破したと発表した。価格は79万5,690円である。
(産経新聞08年9月19日)

新日石と三洋電機が次世代薄膜太陽電池で新会社設立
 三洋電機と新日本石油は9月30日、薄膜太陽電池の事業会社を共同出資で設立するための協議を始めたと発表した。09年4月に会社を設立し、2010年度中の事業化が目標。松村新日石副社長は「10年度中に50〜100MWの生産能力でスタートしたい」としている。
 三洋電機は屋根置型など高機能市場向けに太陽電池"HIT太陽電池"を展開している。薄膜型太陽電池の開発も手掛けているが、結晶型に比べて事業化のための投資額が大きいため新日石との共同事業を選択した。
 詳細は未定であるが、事業化後に出荷する薄膜型は「最低でも10%の発電効率を目指す」(駿田三洋電機副社長)で、販売手法などは今後の協議で検討する。
(日本経済新聞08年9月30日、朝日、日本経済、産経、日刊工業、東京、西日本新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報10月1日)

木質バイオマスチップによるスターリングエンジン発電の実証研究
 中部電力は09年度から木質バイオマスチップを燃料としたスターリングエンジン発電の実証研究を始める。愛知県が常滑市に整備した"あいち臨空新エネルギー実証研究エリア"に出力32kWのスターリングエンジンを設置。建築廃材や木の皮などの多様な木質チップへの適性や連続稼働させた際の耐久性などを検証する。
 実験ではバイオマス燃料用に作られたスターリング・デンマーク社のスターリングエンジンを使用、実験期間は09年6月〜11年3月の予定で、平日の日中8時間稼働させる。
(電気新聞08年10月14日)