第147号 総合的住宅エネルギーシステムの事業化
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.地方自治体および関連機関の施策
3.PAFCの事業展開
4.SOFCの開発
5.PEFCおよびDMFC要素技術の研究開発
6.家庭用PEFCの実証実験と事業展開
7.FCV最前線
8.水素自動車
9.水素生成・精製技術の開発
10.FCおよび水素関連計測機器の開発と事業展開
11.産業活動とFC関連事業の展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)環境省
 温暖化ガスの排出削減目標を定めた京都議定書の実現に向け、環境省は国全体で年6,094億円の追加予算が必要との試算をまとめたことが6月21日に明らかになった。試算によると、現在の国全体の関連予算は年間5,194億円。追加予算の内訳としては、一般家庭や企業が給湯・空調関連などの省エネルギー機器を購入する際の支援に2,760億円、省エネ住宅の新築や、既存住宅の改修などにも750億円が必要と推計した。このほか、太陽光と風力発電の推進に1,360億円、バイオオマス燃料やFCなど新エネルギー導入にも810億円が必要と見積もった。日本の温暖化ガス排出量は06年度時点で13億4,000万トン(確報値)、90年度比で6.2%増加しており、目標達成は厳しくなっている。(日本経済新聞08年6月22日)

(2)NEDO
 NEDOはFC・水素技術の長期的な開発目標および課題を示した"FC・水素技術開発ロードマップ"08年度版を策定した。NEDOが同ロードマップを改定するのは2年ぶり。20〜30年頃を目指した長期目標はほとんど変わっていない。SOFCでは、15年ころから、事業用・自家発コンバインドシステムへの適用、20〜30年頃から石炭ガス化FC複合発電(IGFC)への適用検討を盛り込んだ。水素分野では08年版からは水素貯蔵技術、オンサイト方式水素ステーション技術、オフサイト方式水素ステーション技術のように出口イメージから分かりやすくなるようにまとめを工夫、20〜30年頃に水素貯蔵容器コストを数十万円のレベルへ、水素価格をオンサイト、オフサイトとも約40円/m3とすることを目標と定めた。(電気新聞、化学工業日報08年6月25日)
 NEDOは08年度から開始する"SOFCシステム要素技術開発"で「耐久性・信頼性向上のための基礎研究」などで、委託予定先を6件決定した。委託予定先は、産総研、TOTO、三菱マテリアル、関電、MHI、東大、京大、九大、東北大、名大、岐阜大、電力中研他である。(日刊工業新聞08年7月3日)

(3)総合資源エネルギー調査会
 総合資源エネルギー調査会新エネルギー部会は6月24日"新エネルギー政策の新たな方向性―新エネルギー国家の構築に向けて"とする緊急提言をまとめた。再生可能エネルギーの抜本的導入拡大による"新エネ・モデル国家"の構築に向けた政策を示したもので、太陽光発電の普及加速を柱に据え、導入補助金制度などの支援措置具体化を急ぐ。1次エネルギー供給量に占める再生可能エネルギー比率を05年の5.9%から20年には8.2%、30年には11.1%に引き上げる。最も期待される太陽光発電は、20年に現在の10倍、30年には現在の40倍にまで普及させる。(産経新聞、化学工業日報08年6月25日)

(4)FCCJ
電機メーカーや石油会社などで構成する燃料電池実用化協議会(FCCJ)は6月25日、家庭用FCの各社製品名称を"エネファーム"に統一すると発表した。エネルギーとファーム(農場)を組み合わせた造語で、製品の認知度を高めるのが狙い。(毎日、日本経済、産経、電気、日経産業、日刊工業、電波、東京、中日新聞、フジサンケイビジネスアイ08年6月26日、電気、日刊建設工業新聞、化学工業日報6月27日)  FCCJは7月4日、FCVを2015年から全国的に本格普及するため、水素ステーションを本格整備すると発表した。2010年までに水素ステーションの標準仕様を決める。(読売、毎日、日本経済、日刊自動車、東京新聞08年7月5日、電気、日経産業、日刊工業新聞、化学工業日報7月7日)

2.地方自治体および関連機関の施策
 産学官連携組織"福岡水素エネルギー戦略会議"は7月10日、水素タウン整備など08年度の事業計画を決定した。前原市内に世界最大規模の"水素タウン"を整備、150戸に家庭用FCシステムを設置し、エネルギー効率などのデータを集める。又同システム用燃焼器の開発など大型研究への展開が見込まれる3つの研究開発に助成金を出すほか、水素エネルギーの集中講義を開く。(西日本新聞08年7月11日)

3.PAFCの事業展開
 富士電機システムズは災害時のビル施設向けPAFCシステムを開発した。主燃料の都市ガスが地震などで供給が停止した場合、備蓄したLPGへ瞬時に切り替え給電を続ける。価格は工事費を含めて約7,000万円、通常運転時は電気出力100kWで、発電端効率は42%、停電時でも100kWのまま給電する。都市ガスが止まった場合には、出力70kWになり、50kgボンベのLPGを使えば3時間の給電が可能である。先ずグリーン庁舎計画を進める官公庁施設の需要を想定して09年度からの納入を目指し、実績を重ねた後に病院などの需要を開拓する意向。過去のPAFC納入実績は10年間で24台にとどまっているが、同社は用途の拡大で販売台数を増やし、FC事業の採算改善につなげる意向である。(日刊工業新聞08年6月23日)

4.SOFCの開発
(1)開発ロードマップ
 NEDOによる"FC・水素技術開発ロードマップ"08年度版におけるSOFC開発ロードマップでは、実証段階にある家庭用コージェネレーションシステムについて、現在(07年末)は発電効率40%(HHV),耐久性5,000時間(連続)、システム価格1,000万円であるが、初期導入期(2010〜15年)には耐久性は4万時間、価格は100万円とし、普及期(2020年以降)には発電効率40%強で耐久性は9万時間、価格は40万円弱を目指すとしている。業務用の中容量(数〜数百kW級)については、現在システム開発段階にあり、発電効率40%、耐久性3,000時間、価格は数百〜1,000万円/kW程度であるが、初期導入期には耐久性4万時間、価格は約100万円/kWを想定している。産業用(数百kW〜数MW級)については現在ガスタービンとのハイブリッドシステムが開発段階にある。初期導入期には発電効率50%強で耐久性は4万時間、価格は数十万〜約100万円/kWを目指すとしている。(化学工業日報08年7月3日)

(2)東工大
 東京工業大学の八島准教授らの研究グループは、物質・材料研究機構、兵庫県立工業技術センター、東北大学と協力して、低い動作温度でもイオン電導性が高い"アパタイト型酸化物イオン導電体"と呼ばれる次世代SOFC電解質のイオン経路を可視化することに成功した。この種酸化物イオン導電体の1種であるランタンケイ酸塩を実験材料に使用、約1500℃の高温下で中性子線を照射し、散乱した中性子を検出することによって、動作温度下でのイオン拡散経路を可視化した。この結果、特定の酸化物イオンの挙動がイオン電導率向上の原因となっていることを把握、イオン電導率を高めるための設計指針を確立できるデータが得られたとしている。ランタンケイ酸塩は動作温度が700℃でも現状の電解質に比べてイオン電導率が高く、低温度動作のSOFC用電解質として期待できる。同准教授らはこれ以外にも約100種類ある次世代型固体電解質の構造解析にこの成果を役立てる方針で、低温型SOFCの実用化へ役立てる意向である。(電気新聞08年7月16日)

(3)JFCC・関電
 ファイセラミックセンター(JFCC)の川原主任研究員と関西電力による研究グループは、ランタンガレート系電解質を採用したSOFCにおいて、動作温度700〜800℃での発電出力を20%向上させた。セラミックスと金属の複合材料を使った従来の燃料極では、電解質から燃料極へとランタンとマグネシウムの各元素が移動し、それが性能を低下させる原因になっている。そこでランタンを添加した新燃料極を開発してランタンの移動を抑え、マグネシウムについては燃料極の厚みを20μm以上にすることにより、移動の影響を抑えられることを発見した。その結果出力密度を0.5W/cm2から0.6W/cm2に向上させた。(日刊工業新聞08年7月16日)

5.PEFCおよびDMFC要素技術の研究開発
(1)豊橋技科大
 豊橋技術科学大学の松田教授は、触媒などに使う無機物質の電気的特性を大幅に向上する技術を開発した。硫酸水素セシウムとリン・タングステン酸など無機物質を強い力でかき混ぜると、原子結合に欠陥が生じ、水素イオンが高速でその欠陥をつたって移動することが分かった。欠陥がない場合に比べてイオンの1回での移動距離が1割程度短くなり、その結果水素イオンの伝導性が1万倍に高まった。FCの電解質に応用すれば、有機高分子では難しい100℃以上の高温においても性能を維持することができる。加湿の必要がなくなり、白金の使用量削減につながるので、FCのコスト低減に寄与すると期待される。(日経産業新聞08年6月27日)
 豊橋技術科学大学の松田教授らの研究グループは、正と負の電荷を利用して膜を積層する交互積層法により、厚さがnm単位の薄いDMFCセルと水素ガスセンサーを開発した。交互積層法は、積層したい金属やポリマーなどを、それぞれ水溶液に分散させ、それらが帯びる正と負の電荷に働く引力を利用する。基板を水溶液に浸けることにより、金属やポリマーが付着を繰り返して膜を形成する。DMFCの試作では、多孔質基板上に電解質となるポリマーを電極となる白金で挟む構造で積層した。厚さが約60nmと薄いのが特徴で、電気抵抗が減り、出力向上が見込めるとしている。水素ガスセンサーも交互積層法で開発した。水素に触れると電極間に電位差が生じることを利用して水素を検出する。DMFCも水素センサーも現段階では性能が実用の域に達していないが、今後技術改良を進めていく考えである。(日刊工業新聞08年7月17日)

(2)横浜国大
 横浜国立大学の太田教授の研究グループは、PEFCにおいて白金ではなく、安価なジルコニウムの炭化物を部分的に酸化させて製作したカソード用触媒を開発した。試験用小型PEFCを試作し特性を調べたところ、単位面積当たりの電流値で白金触媒を使ったFC並みの性能が得られた。材料の金属を酸化させることにより、触媒を安定化させることに成功、試作したFCでは400時間利用できることを確認した。原理的には1,000時間程度は可能という。ジルコニウムは白金に比べて埋蔵量は約600倍で、将来にかけて利用可能性が高い点でも有効である。(日経産業新聞08年6月30日)

(3)旭化成ファイケム
 旭化成ファイケム(大阪市)は7月3日、金属含有量を100ppb以下にまで減らした機能化学品"ビニルスルホン酸"を7月7日に発売すると発表した。ナトリウムやカルシウム、鉄、クロムの含有量を大幅に削減した。半導体材料やFC電解質向けに発売する。新製品名は"VSA-S"(日経産業、日刊工業新聞08年7月4日)

(4)九大
 九州大学の持田特任教授らの研究チームは、白金の使用量が半分で済むDMFCアノード向け新触媒を開発した。新触媒はnmサイズの微小な繊維状炭素と白金を混合したもので、繊維状ナノ炭素は導電性が高く、側面に微細な穴がたくさん開いているために表面積が広く、効率よく反応する。繊維状ナノ炭素の大きさは直径7〜20nm、触媒中の白金含有量は40%で、従来の半分程度にした。評価用FCを作成して調べた結果、出力密度は30℃で66mW/cm2、90℃で244mW/cm2となった。今後繊維状ナノ炭素の形状や配合を工夫し、白金使用量を従来の1/4にまで削減し、携帯電話などに使う小型FCとしての実用化を目指す。(日経産業新聞08年7月9日)

(5)日清紡・東工大
 日清紡は東工大と組み、電極触媒にカーボンを使う技術を開発した。炭素を直径20nm前後の球状構造に形成することにより触媒作用が高まった。FCを長時間使用すると白金が電解質に溶出するが、カーボンは溶けないので出力が安定する。家庭用1kWPEFCの白金使用量は数g、出力150kWの中型FCV向けでは約60gの白金を使用する。09年度までに技術を確立し、家庭用や自動車用に供給する。(日本経済新聞08年7月12日)

6.家庭用PEFCの実証実験と事業展開
(1)積水ハウス
 積水ハウスは、環境保全で積極的な活動をしており、環境省から"エコ・ファースト企業"として認定されたと発表した。住宅の生産時にCO排出を減らすほか、住宅部材の木材や金属など資源を循環し、生態系復活に取り組みを盛り込んでいる。又戸建住宅などで太陽光発電システムやFCの投入を進めるなど、環境への負荷を減らす取り組みを全社的に実施している。(毎日新聞08年6月22日、朝日新聞6月24日)
 積水ハウスは北海道サミットに合わせて建設される"ゼロエミッションハウス"に技術協力すると発表した。(住宅新報08年6月24日)

(2)東邦ガス
 東邦ガスは6月25日、家庭用PEFCシステムを09年度から販売する方針を明らかにした。一般家庭での実証試験が順調で商品化時期を計画から1年以上早める。トヨタ自動車を中心にメーカーと機器の供給交渉を進め、10年代前半とされる普及期に向けて量販体制を築く。都市ガス使用で出力は1kW級、当初は販売台数を限定し、リース方式も検討する。量販に向けては運転中の故障を減らすほか、補助金のない場合で450万円を超す価格をコストダウンすることが課題である。(中日新聞08年6月26日)

(3)新日石
 新日本石油は6月30日、総合的な住宅エネルギーシステムを事業化、10年度から商品化すると発表した。住宅の高気密化に加え、LPガスなどを使う家庭用FCや太陽光発電などを組み合わせて、家庭からのCO排出量を1990年比で50%削減する。同社はこのシステムの実証・開発を進める"ENEOS我が家で創エネプロジェクト"を発足すると発表した。首都大学東京大学院の小泉准教授ら学識者、NECやミサワホーム総合研究所と共同で、横浜市に2階建、延べ床面積は約150m2もモデル住宅を建設し、HEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)を取り入れることで、各種機器の最適な利用方法を検証する。(朝日、毎日、産経、電気、日経産業、日刊工業、日刊建設工業、神奈川新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報08年7月1日)

(4)松下電産
 松下電器産業は家庭用PEFCで、東京ガス、東邦ガス、西部ガスと提携、09年初の量産開始に備えてガスの供給と装置の販売を委託、当初の価格を100万円程度に設定する予定。松下は7月から発電効率を高めた小型PEFCの性能や安全性を確かめる実証実験を開始、15年までに500億円を投資して滋賀県草津市の工場における生産能力を年20万台に引き上げ、装置価格を50万円程度に引き下げる方針である。松下の試算では太陽光発電(4kW、約300万円)は初期投資回収までに20年以上かかるが、FC(1kW)の場合は16乃至17年で済む。又11年には欧州、中国、北米市場などでも開拓、現地のガス会社などと提携して燃料と販路を確保、15年度での同事業売上高1,000億円を目指すとしている。
 松下ホームアプライアンス社は7月1日、家庭用PEFCの出荷式を草津工場で行った。6月から量産を始めており、09年4月からガス会社などを通じて本格販売に乗り出す。(朝日、日本経済新聞08年7月1日、読売、朝日、毎日、産経、日本経済、日経産業、日刊工業、電波、京都新聞、フジサンケイビジネスアイ7月2日、日刊工業新聞7月16日)

(5)北海道ガス
 北海道ガスは2010年度にも寒冷地向けの家庭用PEFCを発売する。荏原の開発した既存のPEFCを断熱材で保護、−15℃でも運転できるようにする。価格は一般用より数%高に抑える。(日本経済新聞08年7月10日)

7.FCV最前線
(1)スズキ
 スズキはGMと共同開発した小型FCV"SX4-FCV"で国土交通大臣認定を取得した。7月の洞爺湖サミットに出展する。GMが開発した高性能PEFCと独自開発の700気圧水素タンクを搭載した。キャパシター型を採用し、航続距離を520kmとした。FCの出力は80kW、最高時速は150km/h、今後公道試験でデーターを収集し、実用化に向けた開発を進める。(静岡新聞08年6月24日、毎日、日本経済、日経産業、日刊自動車、西日本、静岡、北海道新聞、フジサンケイビジネスアイ、河北新報6月25日、日刊工業新聞6月27、朝日新聞6月28日、化学工業日報6月30日)

(2)DHLジャパン
 DHLジャパンが06年7月から集配業務車両に使っているダイムラークライスラー製FCV"F-Cell"が、6月19日から21日まで札幌ドームで開かれた洞爺湖サミット記念環境総合展2008において、メルセデス・ベンツ日本によって展示された。(日本海事新聞08年6月30日)

(3)ホンダ
 ホンダは7月2日、新型FCV"FCXクラリテイ"を11月から日本でリース販売すると発表した。(読売、日本経済、産経、日経産業、日刊工業、東京、中日、北海道新聞、フジサンケイビジネスアイ、河北新報08年7月3日)

8.水素自動車
 マツダは6月20日、水素でもガソリンでも走行できる水素ハイブリッド車"マツダ・プレマシー・ハイドロジェンREハイブリッド"が国土交通大臣の認定を受けたと発表、23日にこの車両を報道陣に公開した。今後は公道走行試験が可能になり、08年度中にリース販売を始める計画である。従来の開発車両に比べて航続距離は200kmに倍増、出力は40%向上した。(日経産業新聞08年6月23日、朝日、毎日新聞6月24日)

9.水素生成・精製技術の開発
(1)ライブニュー
 日大工学部の協力で、ベンチャー企業ライブニュー(東京)は7月2日、連続的に水素を製造することに成功したと発表した。700℃に熱したセラミックス製の特殊触媒に水を触れさせ、熱化学分解で水素を生成する方式で、断続的にしか行えなかったのを改造して、連続的に生成できるようにした。20mLの水から約0.02m3の水素を取り出せる。更に1年以内に、32L水から40m3の水素を分離できるように改造する予定。FCなどとの組み合わせでモデルハウスの計画も進める。モデルハウスは住宅メーカーのアドレスホームと業務提携し、約2年後に神奈川県内に建設する計画である。触媒を700℃に熱するのに太陽光や深夜電力を活用する。(河北新報08年7月3日)

(2)日本精線
 日本精線(大阪市)は天然ガスや都市ガスから高純度の水素を取り出す分離膜を開発した。水素製造装置の大きさと価格を1/5に、又水素精製に必要なエネルギーは1/4に抑えられる。分離膜はパラジウム合金を15μmの厚さにした薄膜で、水素分子がパラジウム合金に触れると水素原子に分かれ、合金結晶の隙間を通過する性質を使っている。薄膜の端と端を特殊な接合法で隙間なくくっつけ、円筒型モジュールにした。99.999%以上の高純度水素が得られる。(日経産業新聞08年7月9日)

10.FCおよび水素関連計測機器の開発と事業展開
 日立製作所は6月19日、シリコン系の金属酸化物半導体電界効果型トランジスタ(Si-MOSFET)の特性を利用して、水素センサーのセンサ部分に、白金とチタンの薄膜積層構造を採用し、長寿命化を実現した小型水素センサーを開発したと発表した。センサーは濃度1,000ppm以上の水素を約1秒で検知することが可能で、熱や湿度にも強い。試作したセンサーを用いた寿命加速試験の結果、3年以上の使用に見通しを得た。(日経産業、鉄鋼新聞08年6月25日)

11.産業活動とFC関連事業の展開
 部品製造のFJコンポジット(静岡県富士市)は09年春、北海道千歳市FC用部品や半導体向け放熱材の量産に乗り出す。工場は半導体向け放熱材の生産ラインが主力であるが、PEFC用セパレーターの生産設備も設置する。独自の成型技術により、現在部品1個につき数分の製造時間を数秒に短縮することに成功、量産化を軌道に乗せ現在の1/10程度の価格で提供する。(日経産業新聞08年6月27)

 ――This edition is made up as of July 17, 2008 ――

・A POSTER COLUMN

家庭での1回充電で楽々80km走るEVの開発
 富士重工業は、4人乗り軽自動車"テスラ"を使ったEVの試作車を開発した。09年以降に市販する。家庭で1回の充電で80km、最高時速は100km/hである。郵政事業会社に1台貸し出し、7月の洞爺湖サミットでは郵便物集配に活用する計画である。急速充電を用いれば15分間で約80%の充電も可能としている。
 EV分野では、三菱自動車は全国の電力会社と実証試験を重ね、市販化の準備を進める。同社は09年200万円台の後半で市販する予定である。又日野自動車は"非接触給電ハイブリッドバス"を洞爺湖サミットに提供する。
(朝日新聞08年6月28日、6月30日、日刊自動車新聞6月30日、7月4日)

スズキ、E25バイオエタノール車を南米などに投入
 スズキはバイオエタノールを25%混合した燃料E25で走るバイオエタノール車を南米やアメリカ市場に投入する。同社のバイオエタノール車はこれまでE10であったが、エンジンの改良などによりE25達成に目途をつけた。08年内にも発売する。更に混合率が何%でも対応できるバイオエタノール車の開発も進める。
 同社はデイーゼルエンジン車はイタリア・フィアット社、HVやFCVはGMとの提携を深める方針。
(日刊工業新聞08年7月1日)

NEDO"新エネルギーベンチャー技術革新事業"の助成先発表
 NEDOは6月24日、FCやバイオマスなど新エネルギー関連の技術開発に取り組むベンチャーを支援する"新エネルギーベンチャー技術革新事業"の助成先を発表した。15テーマ、21社・機関が選ばれた。1年間で1,000万円以内の助成を受けて研究開発に取り組む。
 バイオマスの分野では、航空機向けのバイオ燃料生産技術開発に取り組むサンケアフューエルス(土浦市)などが選ばれた。
(日経産業新聞08年6月25日)

北海道で端材燃料化プラントの建設事業
 バイオコーク技研(東京)は、製材会社の製材工程で出る端材の燃料化プラントの建設事業を始める。チップ状に切断し、木炭やバイオガス、バイオコークに転換する設備の採用を製材会社などに働きかける。この程、下川町の製材会社から受注が決まり、プラントを09年度中に同町に建設することになった。受注額は約4億円。
 端材などを1日5トンの木材チップとし、500〜600℃で木炭とタールを含んだガスに分解、タールの主成分である炭素を吸着する特殊な粒子を使ってバイオコークに転換する。木炭とバイオコークは更に800〜900℃の水蒸気で水素とCOに分解し、発電などに利用する。約100kWの発電が可能という。
(日経産業新聞08年6月30日)

期待される第3世代太陽電池開発
 環境対応可能な新エネルギー開発が、世界規模で加速しているが、その中で光電変換効率が現在の理論的限界を大きく超え、60%にも達する第3世代太陽電池と呼ばれる量子ドット太陽電池開発へのチャレンジが始まっている。環境とエネルギー問題の同時解決も夢ではないだけに、国際連携研究などを活用したブレークスルーが熱望される。
 これはpn接合などの間に量子ドットと呼ばれる層を積層する方法で、大きさが数nm〜数十nm程度の結晶構造を作りこむ。基板結晶上に化学的気相法や液相法によって、エピタキシャル成長させ、作製する方法などが取り組まれている。
 量子ドットが高い光電変換効率を達成できる理由は、光の透過損失とフォノン放出による熱エネルギー損失などを克服することが見込まれることにある。結果としてアモルファスシリコン型の約6倍、単結晶シリコン型の約4倍の60%を超える理論効率の実現が期待されるという。材料系としては化合物半導体が先行しているようで、代表的なものとして筑波大学の研究グループは、インジウム・ヒ素を用いて変換効率8.54%を達成した。現状では大面積化が困難なため、集光型太陽光発電システムへの導入が注目されている。
 今後コストや量産化を考慮するならば、シリコンで実現されるのが望ましい。しかし、まだ量子ドットを規則的に、しかも安定的に配列できていない。しかし、最近シリコン過剰組成を有するシリコンカーバイトを熱処理する手法があり、又シリコン量子ドット超格子を自己組織的に作製する手法や、シリカの多孔構造を利用するものなどが提案されており、多面的なブレークスルーへの可能性が広がり始めている。
(化学工業日報08年7月3日)

太陽光発電やFCなどの直流電源を家庭でそのまま使用
 松下電工は7月5日、家庭用の太陽光発電やFCで発電される直流電力(DC)と、電力会社から供給される交流電力(AC)の両方を使える住宅用の配電・制御システムを2010年にも発売する方針を明らかにした。DCをパソコンやテレビなどデジタル家電などの電源として直接使うことにより、変換に伴う損失を防ぐとともに、直流配電と太陽光発電システムの導入、および家電製品毎の電力消費量を確認できる装置などの組み合わせにより、従来の家庭よりCO排出量を20%程度減らすことを目指す。「システムの導入費用は一戸当たり50万円以下にしたい」と述べている。
 冷蔵庫や照明器具は、ACをそのまま使っているが、パソコンなどは付属アダプターでACをDCに変えている。家庭用太陽電池で発電したDCもACに一旦変換し、それをパソコンなどで使う時には再びDCに変換するので、その度に数%程度のエネルギー損失が発生している。しかし、電力会社の送電設備に悪影響を及ぼさないためには、コンセントや電気製品の仕様も変える必要もあるが、松下電工ではこうした課題も克服できるとみて、ACとDCの双方を制御できる分電盤を開発する。
(読売新聞08年7月6日)

ビール大手がバイオ燃料の開発を加速
 ビール会社には、ビール製造時に使う酵母や発酵・蒸留技術の蓄積があるため、バイオエタノール事業への参入が容易で、開発競争が激しさを増している。
 サッポロビールは食品廃棄物など、食料と競合しない第2世代バイオ燃料技術を相次いで開発し、ジャガイモの皮とおからを原料とするバイオエタノール製造プラントを静岡の廃棄物処理会社に提供、08年6月からは自動車走行試験も始まった。おから400kgとジャガイモの皮1,000kgから350Lのエタノールが製造できる。同社は年間5,000Lの生産を目指している。
 同社は大成建設と組んで、近く北海道工場(恵庭)で稲わらを原料にエタノールの実験製造に着手する。又タイへのバイオ燃料技術の移転にも参加、現地の製造工場で排出される廃糖ミツやサトウキビの搾りかすから、年間36,000kLのバイオエタノールを製造する。更に広島大学と共同で、パン製造の過程で出る副産物に特殊な菌を付けて、水素を生成、FCで使う実験も始めている。
 キリンビールはJA北海道中央会などが十勝管内清水町で取り組む規格外小麦とビートからバイオエタノールを製造するプラントを受注。同社取手工場に清水の1/1,000の実験設備を設置し、効率的にエタノールを製造するノウハウを研究している。
 アサヒビールは06年から沖縄で多収穫サトウキビによるエタノールを製造しているが、原料となる搾りかすが通常の3倍多く「コスト競争力が高まった」という。
(北海道新聞08年7月10日)

ガス中蒸発法によってカーボン被覆の金属ナノ粒子を製造
 立命館大学理工学部の教授が、金属ナノ粒子を製造するためのガス中蒸発法を開発した。金属とカーボンを同時に蒸発させることによって、カーボン被覆の金属ナノ粒子が得られる。ほぼ全ての金属に適用可能であり、粒径は10〜100nmの範囲で制御できる。
CO雰囲気中では、融点の高い貴金属のナノ粒子化にも成功、白金、ルテニウム、ロジウムなど貴金属を20〜30nmにまで微細化を実現した。これは2次電池の電極材料、FC触媒など機能材料への利用が見込まれることから、企業などと具体的な用途開発に取り込む意向である。
(化学工業日報08年7月15日)

酸化金属ナノ粒子の安定製造技術を確立
 イオニックス(東大阪市)は、東北大学金属材料研究所の今野教授と共同で、平均粒径90nmの酸化金属ナノ粒子の安定製造技術を確立した。
 酸化金属ナノ粒子の製造プロセスは、溶融塩の液体中において製造したい金属イオンを溶かし、プラズマ還元して連続製造する。真空装置が不要で常圧で製造できるため、生産コストが大幅削減できるのが特徴。  他方、ナノサイズの粒径安定化は難しかったが、幅広い金属材料のデータを持つ東北大金属材料研究所の解析技術を駆使し、安定粒径で分散性もよい生産プロセスを見出した。
 開発した酸化金属ナノ粒子は、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化銅、酸化コバルトで、同社では「ナノ粒子は薄膜化が必要なコンデンサーやFC,太陽電池などの電極部分や配線材料などの幅広い用途が考えられる」と話している。
(日刊工業新聞08年7月17日)