第146号 伝統と未来革新技術を融合した家屋
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.PEFCおよびDMFC要素技術の開発
3.家庭用PEFCシステムの実証と事業展開
4.FCV最前線
5.水素ステーションの設置
6.水素生成・精製技術の開発
7.水素エネルギーネットワーク
8.計測・分析装置の開発
9.企業活動と事業展開
10.FC市場展望
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)G8環境相会議
 神戸市で開幕したG8環境相会議で、環境省は会合運営で排出されるCOやゴミの量を削減するため様々な取り組みを展開している。来日した大臣等の送迎にはFCVとハイブリッド車を使用、関西国際空港―神戸間の片道約70kmで、FCVにより約15kg/台のCOを削減する。又参加者への連絡には電子メールを活用することで紙の使用量を削減、飲料水はペットボトルではなく水差しを使ってゴミ排出の減量にも努める。更にこうした取り組みをした上でも排出が避けられないCOを同省では約600トンと試算、このため風や水力など自然エネルギーに投資することで同じ量のCO削減につなげることも検討する。(読売、毎日、産経新聞08年5月24日)

(2)G8科学技術相会議
 6月15日に沖縄県で開く科学技術相会議の議長総括案が明らかになった。地球温暖化に向けてCO排出削減につながる技術革新の必要性を強調、食糧価格高騰の一因とされるバイオ燃料については、ワラや雑草など非食料系原料を使った次世代バイオマス燃料の開発を国際協力で進めることが重要であるとした。又温暖化ガス削減効果が大きいCCS技術なども長期間に亘る研究開発が必要でることを盛り込んだ。科学技術分野に絞ったG8の会合を開くのは今回が初めてである。(日本経済新聞08年6月13日)

(3)国交省
 国土交通省は、圧縮水素ガスを用いるFCVの安全・環境基準の最適化と国際対応の一環として、事故後の乗員感電防止のための基準策定を本格化する。HVやEV向け感電防止基準をベースに、関係各国と検討、日本が主導するFCVの国連世界統一基準(GTR)に取り込む方針である。10年度を目途にGTR策定を目指す。(日刊自動車新聞08年6月16日)

(4)経産省・NEDO・産総研
 経産省・NEDOと産業技術総合研究所は6月17日、太陽電池やFC、有機EL照明など環境技術で最先端を走る機器類を設置した住宅"ゼロエミッションハウス"を北海道洞爺湖サミットの国際メデイアセンター(留寿都村)敷地内に建設すると発表した。主要国首脳会議(サミット)を取材するため世界から集まる4,000人の報道関係者を対象に、日本の環境技術を披露する。ゼロエミッションハウスは平屋建てで敷地面積は約280m2、建設費は約2億円で積水ハウスが建設している。近未来住宅を体験できる一方で、土間や板張りも再現して"日本の伝統と未来の革新技術を融合した住宅"に仕上げる。なお設置される設備は、太陽光発電システムは出力14.5kW(積水ハウス、シャープ製)、それに併設する1kW風力発電機(ゼファー製)、小型リチウム電池(九電、三重工製)、家庭用FC(トヨタ製)などで、新エネルギー以外では、有機EL、エコキュート、二足歩行ロボットなどがある。6月末に完成の予定。(電気、日経産業、日刊工業,東京新聞、フジサンケイビジネスアイ、化学工業日報08年6月18日)

(5)NEDO
 NEDOは"次世代自動車用高性能蓄電システム技術開発事業"でプラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)、FCVの早期実用化に向けて、脱レアメタルモーターと次世代電池技術の研究開発を推進するための委託先を決めた。車両駆動用モーターの要素技術では5件、電池構成材料の要素技術開発で1件、次世代技術開発では11件の研究開発を実施する。PEFC実用化戦略的技術開発事業では、脱白金などの基礎・要素技術開発を加速するための研究開発の委託先を決定した。非貴金属系触媒や低白金化技術などの要素技術から次世代技術開発まで10件の研究テーマについて研究開発する。SOFCについては、耐久性、信頼性向上のための基礎研究を関西電力や電中研などのグループに、運用性向上のための起動停止技術開発を関電と三菱マテリアルのグループに委託する。(電気、日刊自動車新聞08年6月2日、電気新聞6月4日)
 NEDOは6月6日、水素製造・輸送・貯蔵システムに関する技術開発プロジェクトで、各研究開発テーマの委託先を決定した。水素ステーション機器の要素技術に関する研究開発では、(財)金属系材料研究開発センター(JRCM),日本製鋼所、キッツなど5団体に委託する。建設関係の委託先は、清水建設と岩谷産業グループが選ばれた。又水素貯蔵材料などの要素技術研究開発では日本重化学工業を選んだ。革新的な次世代技術の探索・有効性検証に関する研究開発をエン振協が行う。この他技術開発シナリオに関するフィージビリテイースタデイー等研究開発で、エネ総研や岩谷産業、川崎重工、関電、清水建設、三菱重工、千代田化工によるグループと三菱総研がそれぞれ選定された。同事業は08年度から5年間のプロジェクトで、水素インフラの立ち上げに必要な技術開発を推進、FCVの普及につなげる。(鉄鋼新聞08年6月9日、日刊建設工業新聞6月12日)

2.PEFCおよびDMFC要素技術の開発
(1)住友電工
 住友電気工業は白金やコバルトなどのレアメタルをナノレベルに小型化した粒子材料を開発した。PEFCの発電効率や自動車の排ガス浄化作用が2割以上向上する公算が大きいという。従来レアメタルを含んだ水溶液を還元させて粒子を取り出すと、粒子同士がくっついて肥大化することが課題であったが、同社はメッキ技術を活用し、粒子表面を膜で覆うことによって直径20〜30nmの粒子を維持することに成功した。3年後を目途に実用化し、自動車や家電メーカーに販売する。(日経産業新聞08年5月26日)

(2)物質・材料研究機構
 物質・材料研究機構のFC材料センターは、DMFC用に開発している白金と酸化セリウムを使った負極材料の性能向上を実現した。同グループが開発したのは、白金とセリアを使った電極で、希少金属であるルテニウムを全く使用しない。白金・ルテニウム電極と比べると、オンセット・ポテンシャルは約40mV低下して400mVとなり、電流密度は2.8mA/cm2と1.8倍向上した。白金の使用量を5%まで低下させても、市販の白金・ルテニウムと同程度の電流密度を達成している。これまでも白金・セリアが白金・ルテニウムを上回る性能を示すことは見出されていたが、更に白金とセリアの合金形成における界面の制御を行うことでオンセット・ポテンシャルと電流密度を向上させた。(化学工業日報08年6月10日)

3.家庭用PEFCシステムの実証と事業展開
(1)ジャパンエナジー
 ジャパンエナジーは6月3日、05年度に一般家庭に設置した東芝FCシステム製定置式発電出力700WPEFC2台が、主要部品を交換することなく、発電で2万時間を達成したと発表した。同社は大規模実証事業に参加しており、これまで104台のシステムを設置している。燃料はLPG,発電効率は33%(LHV)、総合効率は83%(同)であった。(電気新聞、化学工業日報08年6月4日)

(2)岩谷産業
 岩谷産業は6月5日、水素を直接供給して運転する純水素型PEFC(東芝FCシステム製)を搭載したコージェネレーションシステムを滋賀県大津市の一戸建て住宅に設置し、6日から実証運転を行うと発表した。純水素型FCの発電効率は同社の実測値で48%(LHV:700W定格出力時)となり、排熱の利用を含めた総合効率は93%(LHV)が期待されるという。サイズは313mm×443mmで高さは1.6mである。水素供給設備は、水素ガスを容器保管庫(容量46.7L、圧力14.7MPa)7本から低圧により配管供給するシステムとし、独自の保安設備を取り入れて安全性に配慮した。(電気、日刊工業新聞、化学工業日報08年6月6日、フジサンケイビジネスアイ6月7日)

(3)大阪ガス
 大阪ガスが09年度の商品化を目指して開発を進めている家庭用PEFCコージェネレーションシステムの価格を60万円台に設定することが明らかになった。既存の"エコウイル"(約79万円)以下に価格を抑えることで新規顧客を開拓し、事業の拡大を図る。現在システムをENEOSセルテック、東芝FCシステムと共同開発中で、既に今春セルスタックで4万時間の耐久性に目途をつけており、08年9月中旬から約70件の一般モニターによる実証試験を始める予定である。(産経新聞08年6月18日)

(4)東ガス、松下電産、新日石
 東京ガスは松下電器産業と共同開発した都市ガス仕様の家庭用コージェネレーションシステムを北海道洞爺湖サミットの国際メデイアセンター(IMC)の隣接地に設置する。同システムは駐車場に設けられる近未来住宅"ゼロエミッションハウス"に採用される。同ハウスには太陽光発電やロボットに関する最先端の技術が採用される。家庭用FCは照明の電力を賄う他、排熱を足湯に利用する。なお新日本石油はLPGと灯油仕様を担当する。(電波、日刊建設工業新聞08年6月18日)

(5)ホンダ
 ホンダは住宅用FC事業に乗り出す。開発・量産で蓄積した技術や生産設備を応用して10年以内に製品化する。自社で手掛ける太陽光発電装置と組み合わせれば、多様なエネルギー源から水素や電力、熱を生み出し、住宅や自動車用として使うCOフリーの環境が整う。又自動車用と住宅用を手掛けることで、FCスタックの量産効果も狙うことができる。(日刊自動車新聞08年6月18日)

4.FCV最前線
(1)日産とルノー
 日産自動車とルノーは5月29日、FCV試作車両を共同開発したと発表した。ルノーのミニバン"グランセニック"をベースに、日産が開発したFCシステムなどを採用した。日産はSUVのFCVを開発している。共同開発車は、床下にFCを配置することにより5人が乗れる車内スペースを確保した。6月にスペインで開かれる環境関連のワークショップで公開する。(毎日、日刊工業新聞、フジサンケイビジネスアイ08年5月30日、日刊自動車新聞5月31日)

(2)DHLジャパン
 DHLジャパンは5月17日、同社が2007年7月から集配業務車両として使用しているDM社製FCV"F-Cell"を、神戸市内のメリケンパークで開かれた"エコカーワールド2008 in 神戸"に出展した。DHLジャパンは同社の環境保護プロジェクト"グリーンロジテイックス"に沿い、この第1弾として同車を東京都内のビジネスエリアで書類の集配業務として活用、走行データーはメルセデス・ベンツ日本(MBJ)が収集し、DM社のFCV開発に活用されている。(日刊自動車新聞08年5月31日)

(3)ハマイ
 ハマイはインタンク式FCV用電磁バルブを大手自動車メーカーに供給する。水素燃料FCVには、安全性、・機能性が高い水素タンクが求められるが、その際圧力、温度、流量などを調整するバルブが重要であり、同社は7年前から基礎研究を進め、バルブ類のモジュール化に成功、今回の正式受注に至った。現在は小型・軽量化に向けて取り組んでおり、更なる機能性強化を目指す。(日刊工業新聞08年6月2日)

(4)トヨタ
 トヨタ自動車は6月6日、FCV"トヨタFCHV−adv"を開発し、量産化に必要な型式認証を国土交通省から取得したと発表した。−30℃の寒冷地でも始動・走行できるように改良し、1回の水素充填による走行距離を830kmまで伸ばした。年内に国内の官公庁などにリース販売するほか、実績のあるアメリカでも販売する見通しである。(毎日、産経、日刊工業、中日、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ08年6月7日、化学工業日報6月9日、電気新聞6月10日)

(5)ホンダ
 ホンダは6月16日、栃木県高根沢町の工場で新型FCV"FCXクラリテイー"の生産を始めた。1回の水素補給での走行距離は約620km、4人乗りセダンで流線形の先進的デザインに仕上げた。7月からアメリカで、秋から国内でリース販売を開始する。アメリカでのリース販売価格は月600ドル、約5万人から申し込みがあったといい、選考の上、カリフォルニア州の映画プロデユーサー等5人を最初の顧客として発表した。今後日米合わせて年間数十台、3年間で約200台の販売を計画している。7月の北海道洞爺湖サミットにも提供する。FCV普及の課題はコストで、希少金属の使用量を約1/10に減らすなどして大幅に削減したが、まだ1台当たり数千万円かかるという。水素の価格も問題でガソリンと比べて4〜9割高いとの試算もある。10年以内に1,000万円を切る価格とし、量産化を目指すとしている。(読売、朝日、毎日、産経、日本経済、日経産業、日刊工業、日刊自動車、東京、中日、中国、西日本新聞、フジサンケイビジネスアイ、河北新報08年6月17日、化学工業日報6月18日)

5.水素ステーションの設置
 GMは6月11日、クリーン・エナジー・フューエルズ社(CNLE)と共同で、FCV用水素ステーションをロサンゼルス国際空港の近くに設置すると発表した。(電気新聞08年6月13日)

6.水素生成・精製技術の開発
 東京大学中尾教授らの研究チームは、FCVにも搭載可能な小型水素発生装置を開発した。水素貯蔵材料である有機ハイドライドから水素を取り出す装置で、熱に強くて水素のみを透過する膜を開発することによって効率の高い水素の回収を可能にした。有機ハイドライドは水素をベンゼンなどと反応させてできる液体であり、自動車内で熱を加え、水素を取り出してFCを駆動することを想定している。同チームは、直径10cm、高さ35cmの円筒形の反応器を試作した。内部に直径3mm、高さ35cmのパイプがあり、反応器内を300℃に加熱してパイプ内部に有機ハイドライドを通すと、パイプの外に水素が出てくる。パイプは独自の成膜技術を使って、アルミナの表面に酸化シリコンの膜を蒸着させた。膜には直径0.5nm程度の穴があいており、圧力を加えると水素だけが外部に放出される。実験では5日間4時間ずつ連続して稼動し、性能を確認したところ、膜の透過率は80%で、純度99.9%の水素を取り出すことができた。(日経産業新聞08年6月2日)

7.水素エネルギーネットワーク
 東京ガスは低炭素社会の実現に向けて、率先して取り組むための長期ビジョンをまとめた。具体的には天然ガスコージェネレーションシステムやFCなど高効率なシステムの開発や普及に力を注ぐ。又水素エネルギーの活用にも本格的に取り組み、天然ガスからの超高効率水素製造技術、水素の輸送・貯蔵技術などの研究開発を進め、ローカル水素ネットワークを構築する考えである。同計画では、水素ステーションで製造した水素を住宅やビル、工場などに供給するシステムと、都市ガスを供給した家庭など顧客先で水素を製造する2通りの方式を想定している。(フジサンケイビジネスアイ08年6月2日)

8.計測・分析装置の開発
(1)東大、奈良女子大等
 東京大学、奈良女子大学、イギリスのクイーンズ大学の研究グループは、膜中の水素イオン濃度(PH)を1nm2毎に調べる技術を開発した。水素イオンと反応すると、光を放つ蛍光分子を利用する。水素イオンが重要な役割を担う生物の細胞膜や水素イオンを通すFC膜の分析などに役立つ。蛍光物質ベンゾフラザンに、水とのなじみやすさが異なる分子などをくっつけて、水素イオンと反応する18種類の蛍光分子を作った。各蛍光分子は水素イオン濃度が高いときに強い蛍光色を出し、その色は分子によって異なる。(日経産業新聞08年6月13日)

(2)広大と北大
 広島大学先進機能物質研究センターの小島教授と北海道大学における共同研究グループが、固体の水素化合物と気体が化学反応する様子を電子顕微鏡で観察することに成功した。研究グループは、像がぼやけない程度の微量なアンモニアガスで固体を覆うことができる顕微鏡観察用の容器を開発、ナノレベルでアンモニアガスと水素化ナトリウムや水素化リチウムが反応して水素の気体が発生する過程を撮影した。今後水素が発生するメカニズムの解明が進めば、次世代FCVの開発にも役立つと期待される。(中国新聞、カg買う工業日報08年6月17日)

9.企業活動と事業展開
 日清紡は08年秋を目途にPEFC用セパレーターを3割増産する。美合事業所(岡崎市)での月産枚数を現在の7万〜8万枚から10万枚に引き上げる。09年度に家庭用FCの一般向け販売が本格化することからFCメーカーの需要に対応、又将来の自動車向けを視野に、関東地区に新工場の建設も検討する。同社は高強度で薄型のカーボン成形セパレーターを製造しており、自動車用ではより軽量で柔軟性が高いカーボン製の実用化に向けて、自動車メーカーと共同開発を進める。(日経産業新聞08年6月4日)

10.FC市場展望
2005年、ハリケーン・カトリーナがアメリカの携帯電話システムに甚大な被害を与えた経験から、アメリカ連邦通信委員会(FCC)は、災害時における携帯電話の信頼性を向上させるため、携帯電話基地局に設置されている予備電源の稼働可能時間を8時間以上とすることを携帯電話事業者に義務付けた。稼動可能時間が長時間化されたことで、アメリカの携帯電話事業者は基地局の予備電源を従来の蓄電池からFCに交換を始めている。 08年2月26日、東京の在日カナダ大使館でのセミナーにおいて、クリサリック・エネルギー・ベンチャーキャピタル社のマイク・ワルキンショウ氏は「当社がFCロードマップをどう見ているか、という話をしたい。FCの研究開発は何年も続けられているが、今実用化に向けて動いているという状況で、2007年はとても重要な年であった。投資会社の観点からみると、FC分野ではこの1年非常によい展開があったと思う。それは予備電源に関してである」と語った。(NEW MEDIA 26巻6号 08年6月1日)

 ――This edition is made up as of June 22, 2008 ――

・A POSTER COLUMN

エコカー用リチウムイオン電池の開発競争が過熱
 次世代ハイブリッド車やEVに使うリチウムイオン電池の開発競争が過熱している。日産自動車、トヨタ自動車、三菱自動車の3陣営が09年以降に相次いで量産に入り、電機メーカーも自動車メーカーへ売り込みを図る。
 日産はNECと設立した合弁会社を主体に、日産座間事業所内に世界最大規模の工場を建設する。生産能力は年間6万5千台分で、09年度から量産を始め、10年度に日米で発売する電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)に搭載する。NEC独自のマンガン電極を使い、安全性の高さを強調する。
 トヨタは松下電器産業と合弁で、静岡県湖西市に製造ラインを新設する。10年までに生産を始め、家庭で充電できるプラグインHEVに搭載する計画である。
 三菱自動車は、ジーエス・ユアサと組み、京都市に年間生産能力2,000台分の工場を建設、09年初めから量産を始め、この年に発売するEVに搭載する。
 充電池世界シェア1位の三洋電機は06年春、徳島工場でHEV用リチウムイオン電池の生産ラインを立ち上げた。世界の自動車メーカーに試作品を提供し、"全方位外交"を目指す。佐野社長は5月22日、ドイツフォルクスワーゲンと共同開発に入ることを明らかにした。
 日立製作所も00年にグループ会社と専門の電池製造会社を設立した。10年度に発売するGMのHEV向けに年間10万台分を納入する。
 量産間近とは云え、リチウムイオン電池は発熱し易く、価格が高騰している希少金属を電極に使うため、安全性やコストの面でなお改善の余地が残されている。
(朝日新聞08年5月24日、日刊工業新聞5月28日)

超伝導モーター駆動の高効率EVが誕生
 住友電気工業は6月12日、超伝導モーターを使った電気自動車(EV)の試作品を公開した。基本的に電流をロスなく流すことができるので、エネルギー効率が向上し、ハイブリッド車に比べても25%のCO削減が可能である。又従来の銅線に比べると、単位断面積当たり電流密度を200倍に増加し、モーターの回転力が2倍になるので、変速機も不要になるという。
 試作車の開発コストは1,000万円超で、今後は超伝導線の製造コスト低減など製造コストの削減と、更なるモーターの性能向上を図り、10年以内にバスやトラックなど大型車で実用化する方針である。
(日本経済新聞08年6月13日、日刊自動車新聞6月14日)

食品廃棄物等から高濃度メタンを効率よく生成する技術
 RITEと太陽日酸は5月27日、農産物や食品廃棄物、下水汚泥など廃棄物などから作ったメタンガスに含まれるCOを効率よく除去する技術を開発、実証試験で実用性を確かめたと発表した。2011年に実用化する計画である。
 下水汚泥などを微生物で発酵して作ったガスは6割がメタンでCOが4割含まれる。ボイラーで燃やす場合は問題ないが、そのままでは天然ガス車やFCには利用できず、普及の足かせになっていた。
 具体的には、ガス中のCOを特殊な液で吸収し、微細な穴の開いた中空糸膜に通してCOのみを取り除き、効率よくそれを除去する技術である。北海道苫小牧市にあるメタンガス製造業者のプラントで08年1月から実証試験を進め、メタン濃度を98%に高められることを確認、更に従来技術よりもCO回収率が約2倍に高まった他、消費エネルギーを半分以下に下げられる見通しが得られたとしている。
 この技術を使えば、既存の天然ガス貯蔵タンクなどを使うことができる。太陽日酸は小型化を進め、食品工場や大型農・畜産場、下水処理場に併設したメタンガス製造施設向けに商品化する。
(日経産業新聞08年5月28日)

IEA「脱炭素化が急務」と提言
 国際エネルギー機関は、6月6日08年版の"エネルギー技術展望"を発表した。発電時のCOの地下貯留(CCS)やFCVなど、エネルギーの供給と需要の双方で"脱炭素化"を促すと期待できる17の技術を示した。技術の開発や投資に「先例のない取り組みが必要だ」と強調した。
 50年までにCO排出を05年実績から半減させるためには、追加的な費用は45兆ドル(約4,700兆円)に達する。
 具体的には世界で毎年32基の原子力発電所の建設が必要になる。更に17,500基の風力発電施設、約2億m2分の太陽光発電パネルを設置し続け、現在実用化を急いでいるCCSも、石炭や天然ガス発電所に毎年計55基設置しないと達成できないとした。電気自動車(EV)やFCVも計10億台の普及が必要である。
(朝日、日本経済新聞08年6月7日)

運輸エネルギーの次世代化とインフラ整備
 経済産業省は"経済成長戦略大綱"の改定案を取りまとめ、甘利経済産業相が経済財政諮問会議に示した。食料と競合しないバイオエタノールの製造開発の他、クリーンデイーゼル車の普及、電気自動車やプラグインハイブリッド車などの次世代バッテリー、FCVを始めとする次世代クリーンエネルギー車に関する技術開発といった運輸エネルギーの次世代化を示した。政府が6月下旬にまとめる経済財政運営の基本方針(骨太の方針)に盛り込まれる。
 自動車関連の成長戦略では、次世代自動車・燃料イニシアテイブなどにより、バイオ燃料技術革新計画に基づくセルロース系バイオエタノールの製造技術開発の推進を始めとする新燃料の供給確保と流通環境・インフラ整備の推進などを示している。
(日刊自動車新聞08年6月12日)

トヨタ自動車が事業戦略を発表
 トヨタ自動車は6月11日、環境対応車の事業戦略を発表した。EV向けでは次世代電池開発に着手、2010年までに日米欧でプラグインハイブリッド車(PHV)を、レンタカー会社や企業向けなど大口購入先に販売する。 バイオ燃料車の開発も進め、エタノール混合燃料を使うバイオ燃料車では年内に北米で、ピックアップトラックやSUVは発売する。
 次世代型電池の開発に関し、渡辺社長は「革新的な電池の開発を目指す」と強調した。走行距離を延長するため、リチウムイオンを上回る性能を持つと期待される電池"全固体電池"や"金属空気電池"などの開発に着手、そのため6月下旬に"電池研究部"を設立、2年後には100人規模の組織とする予定である。
 FCVについては新型車(走行距離約830km)を日米でリース販売する。
(日本経済、産経、日刊工業、日経産業、日刊自動車新聞、フジサンケイビジネスアイ08年6月12日)

太陽光発電の家庭用普及へ補助金
 経済産業省は地球温暖化や原油高に対応するため、新エネルギー政策をまとめた。太陽光発電を本格的に普及させるため、家庭向けに補助金制度や優遇税制を検討、今後3〜5年で住宅用発電システムの価格を半額にする目標を示した。石油やガスの供給事業者にバイオ燃料や太陽熱などの新エネの利用を義務付ける制度を創設し、新法を09年通常国会に提出する。
 福田首相が6月9日に地球温暖化総合対策を発表、この中で2020年までに「新築持ち家住宅の7割以上が太陽発電を採用しなければならない」といった目標を掲げた。これを受け、経産省は抜本的な新エネ拡大策が急務と判断した。
(日本経済新聞08年6月22日)

非食料バイオ燃料の量産に着手
 出光興産と三菱商事は食料を原料としないバイオ燃料の量産に乗り出す。ホンダの子会社"本田技術研究所"と"RITE"が開発した稲ワラや雑草を原料にバイオエタノール生産技術を導入し、北米か中国、東南アジアの穀倉地帯に一貫生産設備を建設、2011年にも日本などに出荷する計画である。生産能力は年20万〜50万klと世界最大級になる見通しで、総事業費は100億円程度と予想される。
 アメリカのデユポン社などが非食料燃料の量産を計画、日本政府も実用化推進を表明しており、普及に向けた国際競争が加速しそうである。
(日本経済新聞08年6月20日)

ショッピングセンター駐車場にEV用急速充電器を設置
 流通大手のイオンが電気自動車EVに急速充電ができる充電器を、ショッピングセンター駐車場に設置する方針を固めたことが6月21日に分かった。手始めに08年秋、オープンする埼玉県越谷市の店舗"イオン・レイクタウン"に導入、拡大を含めた今後の展開を検討していく。09年にEVの販売を始める三菱自動車や富士重工業などと連携して取り組む。
 EVは三菱自動車の"アイミーブ"の場合、充電時間は家庭用コンセント(200V、15Aを想定)で約7時間かかるが、急速充電なら30分程度で8割まで充電が進む。
 EVの走行距離は1回の充電で百数十kmであり、又EVに対するインフラは現時点ではほとんど整っておらず、利用者にとっては不安材料の1つで普及の壁にもなっていた。三菱自動車などは、他の大手カー用品店とも設置について話し合いを進めており、さらに提携先を広げていきたい考えである。
(産経、東京、中国、北海道新聞、フジサンケイビジネスアイ08年6月21日)