第143号 バイオマスからの水素生成技術開発
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.PAFC事業展開
3.SOFCの研究開発
4.PEFC要素技術開発と市場展開
5.家庭用PEFCの実証試験および事業展開
6.FCV最前線
7.FCV用水素ステーション事業と関連技術開発
8.水素生成・精製技術の開発
9.水素輸送・貯蔵技術の開発
10.DMFCおよびマイクロFCの開発
11.水素およびFC関連計測技術
12.FC用補機および周辺技術開発
13.FC事業展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)原子力委員会
 原子力委員会は2月28日、臨時会議を開催し、"原子力の革新的技術開発のロードマップ"の骨子案を審議した。温室効果ガス削減に貢献する原子力技術を、電力供給技術、水素製造などの多様な技術、基盤技術に3分類し、各技術を短期・中期・長期に分けて開発目標と達成時期の設定を行う策定方針を了承した。3月12日のロードマップ案検討を経て、18日には最終案を取りまとめる。特に多様な技術では30年、50年の段階で寄与する中期技術として、高温ガス炉、水分解や放射線励起触媒による水素製造などを、又基盤技術では、FCや水素貯蔵材料の開発を挙げている。(原子力産業新聞08年3月6日)

(2)G20閣僚級対話
 3月14日に開幕したG20閣僚級対話で、政府は日本主催の国際会議で初めて、会議で排出するCO2を相殺する"カーボンオフセット"を実施する。各国閣僚らをFCVなどエコカーで送迎し、CO2排出量を抑制、それでも0にできないため、残る排出量分を温室効果ガス削減事業に資金提供する。ウオームビズも呼びかけ、環境に優しい会議を目指す。7月の洞爺湖サミットでも同様の取り組みを行う。CO2相殺のため、ホテルでの使用電力を風力など自然エネルギーで賄ったとみなせる"グリーン電力証書"を購入するほか、水素自動車とFCV14台、FCバス2台を準備、成田空港と千葉幕張間38kmの送迎に使う。(読売、毎日、北海道新聞08年3月15日、化学工業日報3月17日、電気新聞3月18日)

2.PAFC事業展開
 富士電機ホールデイングスは、出力100kW級の産業用PAFC(富士電機アドバンストテクノロジーが開発)を年間50台販売することを目指している。現行機種を値下げした新型機を08年9月に投入し、各種工程で水素やメタンガスが発生する下水処理場、化学工場、製油所、製鉄所へ売り込む。同社は98年に初号機を出荷したが、価格高などにより納入実績は累計約24台にとどまっている。将来は新型機を現行機種の半額とし、又機器類を小型化して設置面積を6〜7割に収めるなどの改良を加えることにより普及を狙う。なお現行機種は発電効率40%(LHV)、4万時間運転してからオーバーホールを経た製品は最長で約75,000時間稼動しており、抜群の信頼性を誇っている。(電気、電波新聞08年3月5日)

3.SOFCの研究開発
(1)バイオレット・ステイックス
 バイオレット・フュウエル・セル・ステイックスは。同社のSOFC"Stick"が15kW/Lの高い出力密度を達成した。従来は2kW/Lを達成することは困難で、最新の試作コンセプトでも4kW/Lであった。同社のStickはシーリング、クラッキング、マニホールドの制約を克服するなど、多くの問題点を解決している。(日刊工業新聞08年3月11日)

(2)東工大
 東京工業大学の八島正知准教授の研究グループは、SOFCの空気極材料における酸素イオンの拡散経路解明に成功した。対象の材料はイオン伝導度が比較的高く、実用性で有望な立体ペロブスカイト型ドープのランタンコバルトタイトで、独自に開発した高温試料加熱装置を用いた。酸素イオンの移動が見やすい1258oCにおいて、中性子解析法によるその場観察と最大エントロピー法(MEM)およびそれに基づくパターンフィッテイングによって、核密度分布とイオン拡散経路を決定することに成功したものである。又同じペロブスカイト型化合物なら、水素イオンがランタンコバルトタイトとほぼ同じ挙動を示すことも見出した。これは同じ結晶構造を有するイオン伝導体では、拡散経路がほぼ同じになることを意味するものであり、構造によって簡単に分類できる可能性を示唆している。これを契機に今後様々な電極材料の構造物性が解明されていくとみている。(化学工業日報08年3月14日)

4.PEFC要素技術開発と市場展開
(1)ニッポン高度紙工業
 ニッポン高度紙工業は、PEFC用無機・有機ハイブリッド型電解質膜の市場開拓を進める。ポリビニルアルコール(PVA)と無機酸化物を分子レベルで複合化した膜で、フッ素系、炭化水素系に比べて低コストで、高温動作が可能なのが特徴である。独自の水溶液系プロセス、すなわち水溶液中の無機酸化物を塩で中和することにより、同じく水溶液中にあるPVAのOH基と結合・複合化する方式で、工程がシンプルなため低コストが実現できる。又無機酸化物のため、化学的安定性やメタノール遮蔽性に優れ、200oCの高温に対応できる。更に耐アルカリ酸化物を用いることによりアニオン型FCにも適用できる。メタノールなどの遮蔽性に優れることからこれまではDMFC向けが中心であったが、今後は高温作動を目指す自動車用PEFC向けにシフトしていく。(化学工業日報08年3月3日)

(2)グンゼ
 グンゼはフッ素樹脂、ポリイミド(PI)樹脂などの精密加工技術を生かしてFC部材の研究開発を加速する。CNTを焼結加工した高機能ガス拡散膜の他、高純度フッ素樹脂(PFA)薄膜織物・不織布、フッ素系樹脂およびポリイミド製チューブ・シートなどを相次いで開発、サンプル提供を開始した。又反応時間が1秒以内で常温での検知が可能という固体電解質利用の水素ガスセンサーも開発しており、既存品に比較して大幅なコストダウンを実現すると語っている。(化学工業日報08年3月4日)

(3)SGLカーボン
 SGLカーボンは、新開発のカーボン製ガス拡散層により、FC分野での製品展開を加速する。同社のガス拡散層"SIGRACET GDL"は、FC用に独自製法で開発した黒鉛繊維不織布(ペーパーおよびフェルト)で、高い多孔性と良好な電気伝導性により高密度出力を実現しているのが特徴である。厚さ200〜400μmの各種グレードを用意している他、撥水化処理タイプやマイクロポーラス層(MPL)付タイプを取り揃えている。新たに市場投入したHyAmpシリーズは、従来グレードに比べて性能および耐久性を改善するとともに、ロール内およびロール間の品質ばらつきを大幅に低減した。(化学工業日報08年3月12日)

(4)川商エレクトロニクス
 川商エレクトロニクス(東京)は、FCに使われる分離膜で、白金使用量が最大1/10にまで削減できるメンブレン製造技術を提案する。同社が総販売代理店契約を締結しているフランスMHSイクイップメント社が試作中のプラズマ手法による装置が研究開発用に有望とみて、FC開発分野に紹介していく。プラズマ状態を利用したドライプロセスで、ポリスチレン製シートに白金触媒を担持、これまでの試作品では従来の白金量を1/5から1/10にまで削減できるが分かった。(化学工業日報08年3月19日)

5.家庭用PEFCの実証試験および事業展開
(1)新日石と三洋電機
 新日石と三洋電機は2月28日、4月1日付けで設立する定置式FC事業の新会社について、名称を"ENEOSセルテック"とし、代表取締役社長に新日石の一色常務取締役執行役員が就任すると発表した。新会社はFCシステムの開発企画、システム設計、生産管理を行う。(日刊工業、電波新聞08年2月29日、日経産業新聞、化学工業日報3月3日、電気新聞3月4日)
 新日本石油は、家庭用FCの本格量産期を12年頃と想定し、それまでに年産1万台規模に生産能力を拡大する検討に入った。同事業をオール電化に対抗する切り札として育成する。(化学工業日報08年3月13日)

(2)積水ハウス
 積水ハウスは今夏、FCや省エネ機器を標準装備した"エコ住宅"を発売する。装備するFCはガス会社がリースし、料金は年間10万円程度(10年間)になる見通しで、設備はオール電化攻勢に対しガス使用量拡大を狙う東京ガスなどから優先的に供給を受ける。新型住宅はFC以外に、機密性が標準より約2割高い断熱材やLED照明、省エネ食器乾燥機などの機器を採用する。(日本経済新聞08年2月29日)
 積水ハウスは3月18日、4月3日からFCを標準装備した住宅"CO2オフ住宅"を発売すると発表した。太陽電池とFCの導入で、家庭の電力使用量の大半を自家発電で賄えるという。価格は従来品より300万円前後上乗せされるが、標準的な世帯であれば年間光熱費は5万円程度になる。(日経産業、日刊工業新聞08年3月19日)

(3)大ガス
 大阪ガスは3月13日、三洋電機、東芝FCシステムと共同開発を進めている家庭用PEFCコージェンレーションシステムで、商品化の目安となる4万時間の耐久性に目途がついたと発表した。今後はコストダウンなどにつながる改良を進めて、09年度の商品化を目指す。製造費は120万円/台であるが、10年代初頭には50万円程度/台に下げたいとしている。(読売、毎日、日本経済、産経、電気、日刊工業新聞、化学工業日報08年3月14日、フジサンケイビジネスアイ3月15日、電波新聞3月17日、日経産業新聞3月18日)

(4)NEF
 NEFはこのほど、05年度から実施している定置式FC大規模実証事業の運転実績を報告した。07年12月末時点での累積発電時間は約940万時間、累積発電量は530万kWhに達した。(電気新聞08年3月17日)

6.FCV最前線
(1)ヴァージン・アトランテイック航空
 イギリスのヴァージン・アトランテイック航空は、アメリカの空港やホテルを結ぶ送迎用リムジンにGM製FCVを導入すると発表した。3月末からロス市内に3台を配備し、ファーストクラスの乗客が対象の送迎サービスに使う。同車は5人乗りのSUVで、水素の充填1回で約240km走行可能、ニューヨークにも導入する計画である。(日経産業新聞08年3月5日、フジサンケイビジネスアイ3月10日)

(2)JHFCセミナー
 2007年度JHFCセミナーにおいて、FCV開発についてはFCCJの取り組みなども踏まえ、15年頃には事業化を決断、16年以降で普及期に入るとする枠組みが示された。11年度以降の"ポストJHFC"もにらみ、車両のコスト低減や耐久性の向上、本格普及の前に整備される水素インフラへの支援など、更に解決すべき課題なども検討された。FCVの燃費性能では、07年度に行ったシャシーダイナモによる燃費計測によって、6車種の平均値では、04年度の計測結果92.4km/kg(水素)に比べて、07年度は101.9km/kg(同)となり、10.3%の改善が見られた。トップランナーのFCVでは、108.7km/kgから126.5km/kgとなり、16.4%の改善となっている。石谷委員長は当セミナーでの基調講演において「02年度のJHFCスタート時に比べると、残されたFCV普及に残された課題は、車両のコスト低減と耐久・信頼性の向上に絞られてきたことなど、技術開発が進展したが、半面インフラ整備や基準・制度などとともに解決すべき課題がある」と指摘した。(日刊自動車新聞08年3月15日、3月17日、化学工業日報3月18日)

7.FCV用水素ステーション事業と関連技術開発
(1)大阪ラセン管工業
 大阪ラセン管工業(大阪市)は、70MPaの高圧ガスを安全に流すことができる金属製フレキシブルホースを開発した。オーステナイト系ステンレスの薄板を細かく折り畳んで蛇腹状に加工、ステンレス製ワイヤを編みつけて加圧時での膨張を抑え、高圧に耐えられるようにした。蛇腹の山数が多く柔軟なため、女性でも簡単に折り曲げられる。繰り返し曲げ回数は3万6,000回で、85oCの環境でも使用可能である。FCV用高圧ガス充填用ホースとしての利用を想定し、日東工器を通じてサンプル出荷を始めた。樹脂製に比べて高価であるが、水素透過による漏れがなく、高温での信頼性が高いという特徴を生かして実用化を目指す。(日刊工業新聞08年2月29日)

(2)JHFC
 JHFCプロジェクトは、今夏にも70MPaの高圧で水素を供給する水素ステーションの運用を始め、安全性や効率を検証する。高圧ガス法などの当局認可を受けてJHFC水素ステーション11ヶ所の内、千住(東京)、横浜・旭、同・大黒(神奈川)、舟橋(千葉)の4ヶ所に設置する。従来の35MPaに比べて充填水素量は約1.6倍に増え、FCVの航続距離は伸びる半面、充填時の昇圧と水素の温度上昇を防ぐための冷却に余分なエネルギーがかかる。JHFCは圧力上昇に伴う安全確保やエネルギー効率などを実証する計画である。(日刊自動車新聞08年3月10日)

8.水素生成・精製技術の開発
(1)京大
 85oC前後の高温条件下で生育する微生物を使い、食品工場の排水から効率よく水素を生産する技術を、京大工学研究科の今中忠行教授(生物工学)が開発した。今中教授は、鹿児島県・トカラ列島の小宝島で、温泉近くでガスを噴出する硫気孔において熱を好む微生物"サーモコッカス・コダカラエンシスKOD1"を発見、デンプンなどの有機物を食べると活発に水素を出す能力を持つことに着目した。細かく切ったスポンジで菌を高密度に保つ方法を考案し、培養液1Lで1.1L/hの水素発生に成功した。排水からの水素製造方法としては、分離したメタンを改質器で水素に変換する方式があるが、新方式は処理速度が約1,000倍も高く、高温培養のため雑菌混入の心配がないというメリットもある。今中教授は、下水や食品工場の排水処理過程で生じる汚泥を従来の5%程度に減らす新処理方式も考案、「"汚泥低減"と"水素生産"の2つの技術を合わせた新しい排水処理システムを確立したい」と話す。(読売新聞08年3月10日)

(2)豊田中研
 豊田中央研究所は、マイクロ波を応用した水素製造技術を開発した。新技術は、ロジウム/酸化セリウム系触媒と独自のマイクロ波(2.45GHz)加熱装置を用いてエタノールを水蒸気改質する手法で、エタノール濃度に関わらず活性化エネルギーが一定、水素への100%転化率を実現した点に特徴がある。マイクロ波プロセスは、外部加熱方式などに比べて消費エネルギーを1桁程低減できる利点があり、又触媒層のみを内部から短時間で加熱できるため、始動性が良く、したがってエネルギー効率の高い改質が期待できる。具体的には、エネルギーを集中できるシングルモード共振器(キャビテイ)内の電界最大位置に石英管を配置し、石英管中心部に触媒ペレットを挿入して改質を行った。実験では100oC/秒の高速加熱によって平衡濃度計算で求めた温度より150〜200oC低い温度での改質を確認している。同研究所では将来の燃料改質技術としてこれの実用化に取り組んでいく。(化学工業日報08年3月11日、日経産業新聞3月14日)

(3)神鋼
 神戸製鋼所は銅系錯体を用いた独自のCO選択吸着剤を用いて水素製造プロセスを実用化し、PSAプロセスの小型化・高収率化を実現する。同選択剤は吸収性能が高く、吸着剤のサイズを従来比で33%削減するとともに、水素回収率は吸着塔の小型化によって従来の70%から80%へ向上させ、更に銅系吸着剤は白金吸着剤よりも安価にシステムを構成ができる点に利点がある。同社は水素流量1m3のラボ装置での実験を実施し有効性を確かたので、08年度以降に100m3級の装置を用いて実証実験に着手する方針である。又CO選択吸収剤と水素吸蔵合金を組み合わせた純水素製造プロセスも提案しており、研究を継続する。これはCO選択剤を用いて改質ガスから純水素を製造し、水素吸蔵合金でそれを貯蔵、PEFCに供給するシステムで、水素貯蔵タンクを不要にするとともに、発電効率を向上させる利点がある。集合住宅や発電規模の大きいシステムの構築を想定している。(化学工業日報08年3月11日)

(4)ルネッサンス・エナジー・リサーチ
 ルネッサンス・エナジー・リサーチ(大阪市)と神戸大学、八戸工業高等専門大学、北京科技大学、ポーランドの触媒・表面化学研究所は、PEFC用改質器向けに用いるRu代替触媒として、耐コーキング性と耐シンタリング性を向上させたNi系触媒を開発した。表面積の大きいγ−アルミナ(Al2O3)とLaを担持したもので、カーボン析出抑制効果を確認するとともに、助剤の添加により触媒表面上に炭素質が蓄積して反応物が表面に接触できなくなるシンタリングを抑制した。水蒸気改質用のNi触媒は、KやMgなどの助触媒を添加してカーボン析出を抑制して使うが、Ru触媒に比べて触媒表面の炭化現象(コーキング)により触媒性能が劣化する。今回、表面積が100cm2/g以上のγ−アルミナにNiを担持し、更にLaを担持した触媒でカーボンの析出がないことを確認した。シンタリングを抑制するため、2種類の助剤を同時に添加すると、1,000oCで5時間の焼成、700oC、12MPaで24時間の高温スチーム処理で結晶構造の変化がなく、高温、高圧下でも高いNi分散度を維持できたという。今後は長期耐久性の確認を進めながら量産・工業化技術の確立に取り組むとともに、性能とコストを両立させるためのNi-La担持法の最適化などを検討していく。(化学工業日報08年3月12日)

(5)RITEとシャープ
 地球環境産業技術研究機構(RITE)とシャープは、バイオマスから水素を効率的に作る技術を開発した。遺伝子組み換え技術で開発した大腸菌を利用した。1Lの容器に200gの菌を入れて実験したところ、20L/時間の速さで水素を取り出すことができた。理論的には約180gの糖から約100Lの水素を取り出せる。未だ基礎的な段階で、理論値の半分しか水素を生産できないが、今後大腸菌を改良して生産効率を高めると共に、連続生産の可能性を試す。(日本経済新聞08年3月14日)

9.水素輸送・貯蔵技術の開発
(1)栗田工業
 栗田工業は、独自の包装技術を用いた燃料貯蔵技術の実用化を進めている。包装化合物はゲスト化合物となる液体メタノールや水素を、天然系素材であるホスト化合物中に取り込み固体化する技術で、水素の場合は化学反応を伴わずに水素を分子として取り込むため、少ないエネルギーで水素を貯蔵・放出することができる。又水素吸蔵合金に比べて軽量で、同社は重量密度6wt%、体積密度50kg/m3(水素)を目指している。水素を包み込むホスト分子は繰り返し利用することができ、経済性にも優れると期待される。開発が先行している固体状メタノールにおいては、揮発性を抑制して液漏れを防ぐことができる。当初はDMFCの燃料として用いる際に水と接触させる必要があったが、現在では固体状メタノールだけで発電させることに成功した。開発パートナーと同社のカートリッジを燃料に用いたDMFC搭載機器を発表する予定で、更に今後はこの技術をモバイル機器用だけではなく、水素ステーションなどより大型の用途にも展開していく意向である。(化学工業日報08年2月29日)

(2)JSW−東北大
 日本製鋼所(JSW)は東北大学金属材料研究所の折茂准教授らのグループと共同で、従来の水素吸蔵合金に比べ軽量で多くの水素を吸蔵できるAlH3を開発した。携帯電話などでの利用を想定したタンク(38×46.5×10mm)で、一般的なAB5合金製に比べて総重量を半分以下に抑えつつ、約1.5倍の水素吸蔵量を実現した。AlH3は重量貯蔵密度は10.1重量%、体積貯蔵密度が149kg/mと高く、水素放出後はリサイクル性の高い金属アルミニウムが得られる。今回液相反応プロセスを解析し、均質なAlH3粉末安定的に合成する技術を開発した。携帯機器用水素燃料タンクとして実用化する考えであるが、ただ水素吸蔵合金に比べて水素の充填が難しいこと、又水素放出温度が80oCとやや高いことが今後の課題である。(化学工業日報08年3月13日)

10.DMFCおよびマイクロFCの開発
 アメリカのMTIマイクロ・フューエル・セルズ(ニューヨーク州)は、日本市場でFC用チャージャーの外販ビジネスを展開する。MTIマイクロの充電器は、ユニバーサルチャージャーとして、アプリケーションはDSCの他、携帯電話、MPSプレヤー、スマートフォンなど、各種ポータブルデバイスに電力を供給する。(電波新聞08年2月29日)
 MTIマイクロ・フューエル・セルズは、パッシブタイプのDMFC事業化に向けた取り組みを加速、年内にも燃料注入型のユニバーサル充電器に続いて燃料カートリッジ型充電器を市場投入し、携帯機器内蔵型も実用化する。同社のDMFCはポンプが不要なパッシブ型で、0〜40oCで作動、濃度100%のメタノールを扱うことができる。様々なパラメーターを制御するアルゴリズムを組み込み、必要量だけ水分を取り込み、発生した水も循環利用できる。ほとんどの部材を射出成形で作れるため量産性が高い。08年中に出荷予定のユニバーサル充電器はデザインを洗練するとともに小型化を進めて予定で、先ずリフィル型、続いてカートリッジ型を投入する。LiB(リチウムイオン電池)に比べて発電性能が高いため、当初はLiB採用の充電器に対しプレミアム分を上乗せした価格となる見通しである。(化学工業日報08年3月12日)

11.水素およびFC関連計測技術
 アツミテック(浜松市)や産業技術総合研究所のグループは、水素を吸収すると透明になる水素吸蔵合金を利用して、微量の水素有無を一目で確認できるセンサーを開発した。開発したセンサーは水素吸蔵合金をガラス基板上で薄膜にした構造で、基板のサイズに合わせて膜をつくれるため、小型から大型まで自在に作ることができる。水素がないと透明ではないが、水素濃度が5,000ppmになると、膜が水素を吸収して3秒程度で透明になる。人目につきやすい天井や床などに大型のセンサーを設置したり、水素配管の継ぎ目部分をセンサーで覆うようにして水素漏れを検出するなどの利用が可能になる。(日経産業新聞08年3月11日)

12.FC用補機および周辺技術開発
 栗田工業は家庭用FC向けに小型・軽量な新型水処理機を開発した。イオン交換膜とイオン交換樹脂を組み合わせた連続式電気脱イオンシステムを搭載し、FCシステムから排出される凝縮水を浄化して再利用する仕組みである。生産水量は2L/h、大きさは幅270mm、奥行き50mm、高さ300mm、重さ2.7kgと軽量化、そしてメインテナンスフリーを実現した。又耐熱素材の採用で高温の凝縮水の処理も可能にした。今後商品化に向けて取り組んでいく。(日刊工業新聞08年3月3日)

13.FC事業展開
 東レエンジニアリングは電池製造事業を強化する。同社はリチウムイオン電池やキャパシター製造用に数十ラインの納入実績があるが、今後はFC用スタック製造ライン向けに装置開発を進める方針で、ニーズ調査に入っている。(化学工業日報08年3月7日)

 ――This edition is made up as of March 19, 2008―――

A POSTER COLUMN

ダイムラーがリチウム電池を量産車に使用すると発表
 ドイツのダイムラーは2月29日、リチウムイオン電池を量産車に使用すると発表した。09年に市場導入する"メルセデスベンツS400"のハイブリッド車で実用化を予定している。電池技術は、コンチネンタルと共同で開発した。
 他方トヨタはリチウム電池を利用したプラグインハイブリッド車を10年に市場投入する方針である。
(毎日、日刊自動車新聞08年3月1日、日刊工業新聞3月5日)

日産自動車:電気自動車を2010年に発売
 日産自動車のゴーン社長は4月1日、次期経営計画で電気自動車(EV)を中心とする環境対応車と低価格車を成長の柱とする方針を示した。
 EVは既存のガソリン車とは異なる専用車を開発し、2010年にアメリカで、11年にイスラエルとデンマークで発売、12年から日本で世界市場向けに量産を開始し、日欧でも販売する。EVで早期に事業基盤を確立して世界トップシェアの確保を狙う意向である。リチウムイオン電池は、NECグループと設立した電池専門会社で開発生産する。1部の国で優遇税制が適用される予定で、ガソリン車よりも低価格で販売できるとみている。
(日本経済新聞08年4月2日)

経産省の21の革新技術開発計画
 経済産業省は3月5日、産業界代表らによる有識者会議を開き、日本が提唱する"2050年に世界の温室ガス排出量を半減する"との目標達成に向けた21の革新技術の計画をまとめた。太陽光発電効率の飛躍的向上、CCS技術の実用化、次世代自動車の普及などが盛りこまれている。

     高効率石炭火力発電         40%
    高効率天然ガス火力発電        10%
  プラグインハイブリッド自動車        75%
     革新的製鉄プロセス          30%
  地域エネルギーマネジメントシステム   15%

上表に革新技術例と削減効果を示す。
(北海道新聞08年3月6日)

2050年に世界の温室ガス排出量半減に向けたIEA報告書案
 2050年までに世界のCO2排出量を半減させるためには、10年以降CO2の地中貯留施設を毎年58ヶ所建設するほか、太陽電池パネルを毎年175km2製造するなど、エネルギー利用の革新的な転換が必要とするIEA報告書案が3月14日明らかになった。
IEAはこの他、100万kW級原子力発電を毎年26基、4,000kW級風力発電機を同17,500基、バイオマス発電(5万kW級)を同222基建設する必要があると指摘、エネルギー技術への投資拡大を促した。又50年に販売される車の8割以上はFCVかハイブリッド車にする必要があると述べている。
(フジサンケイビジネスアイ08年3月15日)

期待増すCSSベースのフューチャージェン技術
  CSS(炭素隔離)技術が実用化の域に達しつつある中で、大規模実証試験の必要性が世界的に高まりをみせている。石炭火力発電とCSSの融合をテーマとして、ブッシュ大統領のイニシアテイブで始まったプロジェクト"フューチャージェン"。その初めてのRITE主催ワークショップが2月に都内で開催された。
 RITEの伊藤東京分室長・主任研究員は、日本のCSS技術について「要素技術の開発は進んでいるが、石炭火力とのトータルでの検討は進んでいない。アメリカの商業施設での実証と比較すると遅れている」と指摘した。  日本は現在、化学吸収法および膜分離法による回収技術の開発を進めている。化学吸収法はコスト低減、膜分離法は水素の選択性と膜の耐久性向上が課題になっている。経済的には、隔離場所に制限があるため、数十km内の輸送と3,000円/トンの回収コストを目標に掲げている。
(化学工業日報08年3月7日)

国交省がトヨタのE10対応車"カローラフィールダー"を認定
 国土交通省は3月14日、トヨタ自動車が開発したE10(エタノール10%混合ガソリン)対応車である"カローラフィールダー"2台を国土交通大臣認定しと発表した。大阪府で走行実験を行い、分品劣化状況や排出ガスデータなどを収集、今後E10対応車の保安基準を検討する際に活用する。E10対応車については、2月に日産自動車の"ムラーノ"を認定済み。
 走行実験は大阪府が行い、バイオエタノールジャパン・関西が生産する木質系バイオエタノールの混合燃料を使用する。
(日刊自動車新聞08年3月15日)