第141号 メタノール透過が1/300の電解質膜
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.SOFCの開発と事業展開
3.FC要素技術の研究開発と事業展開
4.家庭用PEFCの実証実験および事業展開
5.FCV最前線
6.PEFCの新しい利用展開
7.マイクロFCおよびDMFCの開発と市場展開
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
(1)環境省
 環境省は08年度から、日本企業が持つ地球温暖化防止技術に関する情報をHPで公開する。太陽光発電やヒートポンプなどを紹介して発展途上国への技術移転を促す。公開する技術は主に日本企業が持つ省エネルギー技術で、ハイブリッド自動車やFCなどの先端技術の他、ヒートポンプやバイオ燃料など途上国においてもすぐに活用できる技術を紹介する。同省は専門家による委員会を設けて公開する優れた技術を選ぶほか、企業からも公開したい環境技術を募集、海外での活用事例や技術を提供する企業名も公開する予定である。(日本経済新聞08年1月18日)

(2)中国経産局
 中国経済産業局は近く水素の利用を促進するため、中国地方のコンビナートで副次的に発生する利用可能な水素の量を把握する調査を実施する。3月末までに報告書をまとめ、水素供給インフラの将来的な整備に生かす。調査は、周南や宇部・小野田、岩国・大竹、水島など各地区のコンビナートに立地する鉄鋼や石油精製、化学メーカーの事業所が対象。同経産局は、水素自動車や家庭での発電に使われるFC向けに水素の需要が高まり、価格が適正ならコンビナート企業が工場内で使用している水素を販売に向けられると予測しており、供給可能な量を探って品質や想定される価格について調査する。1月末には調査を実施するための検討委員会を設置する。同局は「水素社会を実現するためには、インフラの整備が欠かせない。調査の結果を基に、水素を供給するための方策を定めていきたい」と説明している。(中国新聞08年1月22日)

(3)新エネルギー利用法
 経済産業省は、新エネルギー利用法(石油代替エネルギー法の下部法)の対象に1,000kW以下の水力発電と一部の地熱発電を追加すると発表した。両発電に携わる事業者が、NEDOなどから金融面での支援措置を受けられるようにし、普及を後押しする。1月29日の閣議で同法施行の1部を改正する政令を決定し、2月1日に公布、4月1日に施行する予定である。併せてEVやFCなど5項目は新エネルギー利用の定義から削除、同法の対象から外す。(電波、日本農業新聞08年1月29日)

(4)総合科学技術会議
 総合科学技術会議(議長:福田首相)は1月30日、北海道洞爺湖サミットなどを念頭に"環境エネルギー技術革新計画"を策定する方針を決めた。日本が世界に誇る省エネ技術やFC技術の他、温室効果ガスの排出を究極的にゼロにする革新的な技術開発など、日本の技術を世界的にアピールしたい考えである。同日の会合では、08年の科学技術政策の重要課題および08年度科学技術関係予算を審議、重要課題としては、革新的技術創造戦略を打ち出し、特に環境・エネルギーに関しては、技術革新計画の策定に乗り出すことを決めた。具体的には、CO2貯留や革新的次世代原子炉など、究極的には温室効果ガスの排出をゼロにすることを目指した技術の選定と推進方策を示すとともに、省エネなどの環境・エネルギー関連技術の優位性を保持する戦略も検討していく。計画の策定に際しては、関係府省・機関の有機的な連携や協力体制の強化も目指す。一方、同日の会合では、最近の科学技術の動向として、開発が進む超高効率ヒートポンプが福田首相らに披露され、地球温暖化対策として、民生部門の革新的なエネルギー利用の1例として紹介された。(電気新聞08年1月31日)

2.SOFCの開発と事業展開
(1)明電舎
 明電舎は、シーメンスパワージェネレーション(アメリカ・フロリダ州)と研究を進めてきたSOFCについて、高出力型の運転実験を08年から開始する。実験に使うのは125kWか200kW型で、日本の都市ガスを利用した場合の性能特性を確認し、09年から10年での実用化を目指す。アメリカと日本では都市ガスの成分が異なるので、発電効率が落ちる可能性があるため、改質装置を日本市場向けに開発しなければならないかどうかを見極める必要がある。両社は既にこの目的に沿ってシーメンス社製5kW級SOFCを利用した運転実験を開始している。連続運転時間は2,000時間を超え、品質的には完成していると判断されている。なお同社は05年11月、SOFC技術を有するシーメンス社と日本市場での開発・製造・販売・サービスで業務提携しており、両社の共同出資による販売会社の設立を目指している。又明電舎は商業施設や病院向けコージェネレーションシステムとして売り込みたいと考えている。(電気新聞08年1月15日)

(2)新日石
 新日本石油は1月16日、NEFが実施する"07年度SOFC実証研究"において、LPGと灯油仕様の2種類の出力700WSOFCシステムによる実証試験運転を開始した。同社はシステム提供者としてSOFCシステムを製造するとともに、設置・運転試験者として横浜市内にある同社関連施設の管理人居住部分にシステムを設置した。実際の環境下でのデータを今後6ヶ月以上にわたり取得することで、最新技術レベルや技術的問題点を把握し、今後の開発課題を抽出する。同社は石油系燃料から高効率で水素を製造できる独自の改質装置やシステム制御技術などを今回のSOFCシステムに投入している。なお同システムの発電効率は45%(LHV)、排熱回収効率は40%(同)となっている。(電気、日経産業新聞、化学工業日報08年1月17日、日刊工業新聞1月29日)

3.FC要素技術の研究開発と事業展開
(1)日清紡
 日清紡はPEFC用カーボン成形セパレーター製造ラインを自動化し、08年度中に量産体制を整える。08年度内にプレス工程を自動化し、品質の安定と省力化を進めることによって、美合工場(岡崎市)の生産能力を現在の200万枚から400万枚体制になる。自動化するのは、金型に熱硬化樹脂を投入し、プレスしながら加熱後、取り出して検査するまでの工程で、現在は樹脂投入から加熱までの自動化が完成している。自動化用プレス機は1ライン1,000万円で、自動化ラインは2台のロボットと専用プレス機で構成する見込みである。(日刊工業新聞08年1月9日)

(2)東海大等
 東海大工学部の庄善之準教授と大橋春日通商(大阪市)は、化学気相成長(CVD)装置による表面改質に比べて1/100以下のコストで成膜できるPEFC用セパレーターの腐食防止被膜を開発した。耐酸性の強いポリテトラフルオロエチレン(PTFE)に、カーボンナノチューブ(CNT)を混ぜて導電性を付与している。CNTは分子間引力などで凝集しやすい特性があるので、溶液中で安定的に分散させることは難しい。同准教授らはCNTと水を独自開発のセルロース系分散剤であらかじめ溶液にし、フッ素樹脂加工などで用いられる耐酸性の高いPTFE溶液と混ぜることによって各物質を安定的に分散、溶液を塗布してから350oCで約10分間焼成して被膜した。被膜に必要な電気炉の価格は100万円程度、チタン表面への被膜による耐酸性実験では、硫酸に浸しても被膜が溶けないことが確認されている。重金属検知センサーや半導体製造装置部品の帯電防止被膜にも活用が可能で、大橋春日通商は月間3トンの量産体制を整えており、企業へのサンプル出荷を始める。(日刊工業新聞08年1月10日)

(3)ダイセル
 ダイセル化学工業は、ポリエーテルサルホン(PES)極薄多孔質フィルムを開発した。既存のポリアミドイミド(PAI)などより耐酸性が優れており、PEFC電解質膜向けなどとして拡販を目指す。2月からサンプル出荷に本格的に着手し、市場の反応を探る方針で、受注が得られ次第、来期にも量産を図る意向である。開発されたPESフィルムは、孔径0.5μm、空隙率75%で膜厚は50μm、引張強度は4MPa、ガラス転移点温度220oC、通気度(カーレー値)10以下を確保している。  同社は3年前、樹脂合成や膜加工技術により、孔径を0.1〜10μm、空隙率を70〜80%の範囲でそれぞれ制御できる膜厚50μmの極薄フィルムを安定的に量産できる新技術の確立に成功している。これまでPAIとポリエーテルイミド(PEI)の2タイプのフィルムを完成し、サンプル出荷を行ってきたが、微細な空隙が印刷時におけるインキの吸収性や密着性を高める効果が期待でき、更にガラス転移点温度200〜300oCや引張伸度7〜14%を実現した高い機能性が評価され、エレクトロニクスの回路形成向けなどとして本格供給に動き始めている。同フィルムは最近、一部の企業などでPEFC電解質膜材料の有力候補として検討され始めているが、このようなFC利用分野では耐熱性や熱可塑性が求められるため、こうした条件を満たすPESタイプを開発した。 (化学工業日報08年1月18日)

4.家庭用PEFCの実証実験および事業展開
 東京ガスは家庭用FCシステム"ライフエル"2機種で新モデルを投入、09年度以降の市販開始に向けて完成度を高める。システムメーカーの松下電器産業、荏原バラードと共同で開発した。同社は発電効率や耐久性でほぼ目途が立ったと認識しており、基本性能を向上させた上で設置性やメンテナンス性を高め、より商品化を見据えた機種を投入することにした。普及期に入る2010年代前半には、50万〜70万円までのコスト引き下げを狙っている。(日刊工業新聞08年1月22日)

5.FCV最前線
 アメリカGM社のワゴナー会長兼CEOは1月8日、ラスベガスで開かれている家電展示会"コンシューマー・エレクトロニクス・ショウ"で基調講演を行い、高級車キャデラックにFCを搭載した最新モデル"キャデラック・プロボーク"を披露した。プロボークは水素を燃料とするFCVに加えて家庭用電源からの充電も可能で、走行距離は480kmを超える。屋根の上には太陽光発電パネルを備え、車内の照明やカーナビなどの電力を賄う。自動車メーカー首脳が家電見本市で基調講演するのは初めてで、同会長は「自動車が電化製品に近づく動きを象徴している」と述べた。(産経、西日本新聞、フジサンケイビジネスアイ08年1月10日)

6.水素生成・精製技術の開発
(1)アルカデイア
 アルカデイア(仙台市)は、アルミと化学反応することによって、CO2を発生することなく、純度の高い水素を生成することができる溶媒を開発した。アルミ1g当たり水素1.24Lが発生、反応後はゲル状の酸化アルミナが沈殿する。この溶媒は水に特殊な加工を施した媒体で、安価に生産ができ、1L当たり60〜100円前後での販売が可能としている。又反応も穏やかで簡単に水素発生を制御できるとともに、溶媒を長期保存ができる点にも特徴がある。(電波新聞08年1月1日)

(2)東芝
 東芝は、独自に開発した2種類の触媒を組み合わせることにより、DMEから水素を効率的に製造する技術を開発することに成功した。DMEと水を廃熱で蒸気にした後、更に廃熱だけで加熱・反応させる手法である。発電所やゴミ焼却施設などからの300oC程度の未利用排熱を使う。京浜事業所内にある東芝京浜発電所に小型装置を設置、毎時1m3の水素を製造することができた。2010年頃を目途に、青森県内のゴミ焼却施設などと併設することで水素製造能力が100m3/hの実証プラントを設ける意向である。製造コストは、現在DMEが高価なため、工業的に水素を製造する場合に比べて約5倍と高いが、中国などが大規模なDME製造拠点を建設中であり、15年頃には同等以下の価格で製造できるようになると期待されている。同社は将来、原子力発電所に水素製造プラントを併設することを検討しており、実現すれば原発が水素の大型製造拠点となる。(日本経済新聞08年1月11日)

(3)サッポロビール
 サッポロビールはパンかすから水素を製造し、燃料に利用する技術の実証試験を始める。パン店"アンデルセン"グループのタカキベーカリー(広島市)の工場に実証装置を建設し、3月から運転を開始する。パン1kgから約200Lの水素を生成し、FCの燃料に使う。パンを砕く前処理をせず、直接水道水に混ぜて溶かした中に特殊な微生物を加えて水素を発生させる仕組みで、微生物は安定して水素を発生するため、雑菌の繁殖を抑える働きのあるポップも加える。製造段階で発生する食品ゴミを高い効率で燃料化し、リサイクルの質を高めることが目的で、実証機の大きさは5m3程度、1日に200kg前後のパンくずを処理する能力がある。設置費用は5,000万円程度、環境省の補助金を利用する。長時間安定して水素を発生することを確認した後、08年度中にFCを工場内に設置し、工場で使う電力と熱の1部を賄う計画である。水素を取り出した後の残りを発酵してメタンガスを発生させる装置も設けることにしている。全体ではパンくずの80%を分解する。(日経産業新聞08年1月24日、中国新聞1月26日)

(4)横浜国大
 横浜国立大学は産学連携体制の下、独自に探索したバクテリアを利用した高速水素発生システムを、2010年を目途に実用化させる。50oC前後の中温発酵で高速生産するバクテリアの探索に成功、回分培養で従来菌の2〜10倍の速さで水素生産が可能で、又温度制御によって代謝物組成を単純化できる。廃液処理のためのメタン発酵が不要なため、廃液の減量が可能になる上、水素メタン2段発酵に比べて水素収率は2倍となる。発酵液を併設の触媒反応槽との間で循環させ、代謝産物同士を循環過程で直接反応させることにより系から除去する。更にメタン発酵では数日かかっていたのを数時間に短縮している。この工程の適用により、生ゴミなどのバイオマスをバクテリアで発酵させて水素を連続生産するプロセスにおいて、高速発酵のため発酵槽はメタン発酵に比べて数十分の1にまでコンパクトされる。
 日曹エンジニアリングの協力により、同大学の平塚教場の施設内に処理能力1トン/日の実証プラントの設置が完了し、2月から小型実証装置の本格運用をスタートさせる。同時に100トン/日規模の商用設備に関する経済性評価を行うが、最終的には原料投入、前処理、蒸留分離などを組み合わせたトータルシステムに仕上げる考えで、破砕技術などに関連して新たなパートナー企業も開拓していく。
 この工法は酢酸エチルなどの代謝副産物を商品化できる副次効果も期待できる。すなわち、37oCでは酢酸、乳酸、酪酸、エタノールを数十%で代謝生産するが、50oCでは酢酸とエタノールを45%ずつ生産する特殊な代謝特性を持ち、又酢酸とエタノールは酸性下でエステル反応が進むので、エタノールよりも沸点が低い酢酸エチルが合成される。この性質を利用し、固体酸触媒を使用した発酵廃液の減量化装置の開発にも取り組んでいる。更に幅広い資源を投入できるよう、セルロース系バイオマスが利用可能なバクテリアの探査を継続して行い、セルロース糖化のためのスラリー処理装置の開発にも挑む。(化学工業日報08年1月25日)

7.マイクロFCおよびDMFCの開発と市場展開
(1)ポリフーエル
 高分子膜を開発するポリフューエル社(カリフォルニア州)のジム・バルコム社長兼CEOは、DMFC事業について以下のように語った。「リチウムイオン電池に替わりDMFCの利用が進む日は近い。全て切り替わるわけではないが、2011年には5,000万台のモバイル機器に使われるとの予測もある。我々も自動車用PEFCの材料開発を進めているが、実用化には未だ時間がかかる。15年が1つの目途になろうが、当分はDMFC向けに注力したい」(日経産業新聞08年1月18日)

(2)東工大
 東京工業大学資源化学研究所の山口猛央教授らの研究グループは、DMFC向けの新しい高分子膜を開発した。燃料のメタノールが膜を透過して漏れ出してしまう現象を従来材料の1/300に減らせる。開発したのは炭化水素系の高分子膜で、基材となるポリイミド薄膜に形成した100nm程の無数の孔に"スルホン化ポリエーテルスルホン"を隙間なく充填して作製した。微細加工技術を駆使して、スルホン化ポリエーテルスルホンを満たした孔の内部構造を制御、発電に必要な水素イオンだけを透過し、メタノールが電極で反応せずに高分子膜を透過する"クロスオーバー"を発生することに成功した。研究グループは今後、様々な企業と協力して開発した高分子膜の実用化とDMFCの普及を図りたいとしている。又FCVや家庭用FCに使えるような高分子膜の開発にも力を注いでいく考えである。(日経産業新聞08年1月28日)



 ―― This edition is made up as of January 31, 2008 ―――

・A POSTER COLUMN

実用化に向けて動き始めたCCS技術
 石炭火力発電などから大量に発生するCO2を回収して地中深くに埋め込むCCS(Carbon Capture and Storage) が実用化に向けて動き出している。世界でも三菱重工業が開発で先行し、欧米の電力会社などとの交渉も08年から本格化する。
 アメリカは世界最大のCO2排出国であるが、その1/3(年20億トン)は石炭火力が発生源である。07年頃から一部自治体で住民の反対運動が盛り上がって認可が大幅に遅れる事態が相次いでおり、困った複数の電力会社が三菱重工とCCSの導入で協議を開始している。他方ヨーロッパでは、CO2排出権取引市場が整備され、CCS設備の建設が2010年以降に始まる見通しである。
 CCSの仕組みはさほど複雑ではない。火力発電から出るガスを"アミン溶液"に通過させ、CO2だけを分離・回収、それを大型コンプレッサーで加圧して地下1,000m辺りにある帯水層に送り込む。CCS装置の建設ノウハウを持つのはアメリカのプラント大手フルアーやスイスのABBグループなど世界でも極めて少数である。三菱重工は低消費電力でCO2を回収・地中貯留する技術に強みを持ち、発電所が発生する発電出力の約2割を使ってCO2を完全に地中に注入できるようにした。業界他社は3割程度の電力を必要とする。
 出力50万kWの標準的な石炭火力発電所から排出されるCO2は1万トン/日であるが、三菱重工業のCCS技術を使えば他社よりも5万kW少ない電力でCO2の地中貯留が可能になる。CCS装置の建設費は数百億円程度といわれている。
(日本経済新聞08年1月1日)

RITEが地熱を利用したCO2安定的貯留法を開発
 2007年11月、(財)地球環境産業技術研究機構は、CO2の地中貯留技術の一つとして考案したジオリアクターという方法の実証実験について報告をした。ジオリアクターでは、地熱エネルギーを利用し、CO2を岩石中のカルシウムと反応させ、安定した炭酸塩鉱物等として地中に貯留する。今回、(財)電力中央研究所の秋田県雄勝実験場において、地下1,000mの地熱岩体にCO2 を溶かした河川水を注入する原位置試験を実施した。地中原位置でのCO2固定試験は世界でも初めてであり、特に地熱エネルギーが豊富な我が国にとっては、安全なCO2貯留技術として期待される。(科学技術政策研究所:科学技術動向2008年1月号)

経産省がクリーンデイーゼル乗用車の普及策で推進協議会
 経済産業省は"次世代自動車・燃料イニシアテイブ"の重要な戦略の1つと位置づけている"クリーンデイーゼル乗用車(DE)"の普及策に乗り出すこととし、車を長距離利用するような地方自治体での導入を促すなどの施策を検討することになった。関係省庁や自動車業界、石油業界、地方自治体などで組織する"クリーンデイーゼル協議会"を近く立ち上げ、今後の取り組みを協議する。2008年度税制改正で特例措置が創設されるなど普及の足がかりが整ってきた。同省ではEVやFCVと並ぶ次世代車と位置づけて取り組んでいるが、日本メーカーが今秋にも市場投入を予定するなど、実用化が進むことから、"うるさい、汚い"などのイメージ改善や、バイオデイーゼル燃料(BDF)など新燃料の研究・開発も進めることとしている。
 クリーンデイーゼル車については08年度税制改正で、ポスト新長期規制に適合するクリーンデイーゼル乗用車の取得税を、08年4月から1%軽減(09年秋の規制開始後は0.5%軽減)する措置が創設される。経産省は、次世代自動車の中でも実用化が早いクリーンデイーゼル車の普及基盤を充実することで市場投入の追い風にしたい意向である。
(日刊自動車新聞08年1月5日)

新バイオデイーゼル開発へ穀物・農薬・自動車大手が共同
 穀物、農薬、自動車の大手メーカーが共同で新規バイオデイーゼルの開発に乗り出す。穀物メジャーのアーチャー・ダニエルズ・ミッドランド(ADM)、農薬大手のバイエル クロップサイエンス、自動車のダイムラーの3社が、中南米原産の落葉低木であるナンヨウアブラギリを使ったバイオデイーゼル製造事業化のプロジェクトを進める。
 バイエル クロップサイエンスはナンヨウアブラギリの栽培に向けた除草剤、殺菌剤、土壌処理剤を開発し、ダイムラーは07年末までの5年間の研究を通じて、ナンヨウアブラギリをベースにすると高品質のバイオデーゼルを得ることができるとの結論を出しており、既存のエンジンとの相関など調べる。
 ナンヨウアブラギリは南米、アフリカ、中国、インド、インドネシアなどのアジア諸国に広く自生しており、農作物の栽培に適さないやせた土地でも育つことから、食糧の供給に影響を及ぼさないと見なされている。 (化学工業日報08年1月11日)

GMワゴナー会長がトヨタ自動車への対抗戦略を語る
 GMのリチャード・ワゴナー会長兼CEOは、デトロイトで開催中の北米国際自動車ショウで新聞社の取材に応じ、世界市場でトップ争いをしているトヨタ自動車への対抗戦略を語った。
「GMとトヨタは、何れも家庭用電源で充電できる"プラグイン・ハイブリッド"を2010年に発売する。同様の技術をお互いに開発しているようだ。2大メーカーが導入すれば、インフラの整備や政府による規制も早く動くだろうし、良い面がでてくる。どっちが先になるかは予想できない。電池のテストなど計画は着実に進展しており、課題克服にベストをつくすだけだ」
「1990年代半ばにEVの販売を始めようとしたが、当時はまだガソリン代が安かったため消費者のニーズが少なかった。プロジェクトを一旦棚上げし、中期課題として水素利用FCVに注力した。エタノールなどバイオエネルギーでは先行しているし、低価格のハイブリッド車も準備した。全ての技術に可能性がある」
「先ず黒字化することが優先課題であり、現時点では利益が重要だ。販売台数は大事ではあるが、利益がついてこなければ健全ではない。利益をきちんと確保したい」
(中日新聞08年1月17日)

上海GMがFCVを含む環境対応車投入計画を発表
 GMの中国合弁会社"上海GM"は1月22日、中国での環境対応車投入計画を発表した。08年はハイブリッド乗用車を発売するほか、燃費性能の高い新型エンジン3モデルを投入、2010年以降にはFCVも発売する計画である。
 今年発売するハイブリッド車は"ビュイックラクロス エコ・ハイブリッド"で、上海GMが現地生産する。中高級ハイブリッド車の中国での量産では第1号とし、現物を公開した。通常の"ビュイック ラクロス"は100kmの走行に9.8Lのガソリンが必要であるが、ハイブリッド版は8.3Lで済む。
 新型エンジンは08年に3モデル、09年から2012年の間に11モデルを投入する予定で、10年以降はGMのEV技術"E-Flex"を使ったFCVも発売する。
 中国ではガソリン価格の上昇を背景に省エネルギー車への関心が高まっている。トヨタ自動車の現地合弁が既にハイブリッド車"プリウス"を生産しており、長安汽車(重慶)や奇端汽車も自社生産のハイブリッド車投入を計画している。
(日本経済、日経産業新聞08年1月23日)

貴金属を使わないでデイーゼル排ガスを浄化する技術
 立命館大学の吉原教授と堀場製作所は、高価な貴金属を使わないデイーゼル排ガス浄化装置を開発した。実験室段階ではPMをほぼ完全に、NOxは9割以上除去される。自動車やセラミックスのメーカーと組んで改良を進め、乗用車やトラック向けに3〜4年後の実用化を目指す。
 デイーゼル排ガスの浄化にはPMを捕らえるフィルターと、NOxを分解する貴金属触媒が必要であるが、触媒には白金など貴金属を排気量1Lにつき5〜10g程使っている。
 開発した技術はセラミックスを使うもので、主な成分は酸化セリウム。フィルター状になったこのセラミックスに排ガスを通し、電圧を掛けて排ガス中のNOxを分解、取り出した酸素イオンでPMを浄化する方式で、NOxとPMは無害なCO2とN2、および水になる。貴金属触媒は長期間使っていると、性能が軽油に含まれる硫黄分などの影響で低下する。このためトラック向けには、尿素水を排ガスに噴霧してNOxを分解する装置が開発されているが、新技術はこうした問題はなく、尿素水補給インフラは不要である。しかし、新技術は現時点では自動車の始動直後や低速運転時にNOx除去性能が不十分であるが、この点については装置の設置場所などの改良で対応できる見込みがあるとしている。
(日本経済新聞08年1月18日)

電解質担体などに有望な高強度ゲルの開発
 理化学研究所と北海道大学の黒川特任助教等のグループは、硬くて脆い強電解質のポリ2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(PAMPSゲル)と、柔軟に変形できる中性のポリアクリルアミドゲルを組み合わせることにより、高強度ゲルを開発することに成功した。単独のゲルに比べると強度は100倍で、激しい変形にも耐えることができる。同グループは、強度不足で使用できなかったFCなどの電解質保持担体、アクチュエーターの他に人工軟骨にも利用できるとみて、より強度の高い材料開発を進め実用化を目指す。
 ゲルは高分子の3次網目の中に多くの水を保持したもので、高吸水性材料やソフトコンタクトレンズなどに利用されている。
 作製したゲルは強度が約20MPaで、ゲルの組成を変えると40MPaの負荷にも耐えることができる。シート状にしたときには、400kg/cm2の荷物を載せることができた。同ゲルは生体適合性もよく電解質保持体、ロボット材料以外に人工軟骨、船底塗料などの用途にも利用できると考えられ、用途に合わせた材料設計、高機能化を進める考えである。
(化学工業日報08年1月29日)