第138号 CO2 の回収機能をMCFCで実証運転
Arranged by T. HOMMA
1.国家的施策
2.海外公共機関による施策
3.MCFCの事業
4.SOFCの開発と応用
5.PEFCおよびDMFCの要素技術開発
6.家庭および業務用PEFCシステムの実証実験と事業展開
7.FCV最前線
8.水素ステーション関連技術開発と事業展開
9.水素生成・精製技術の開発
10.水素輸送・貯蔵技術の開発
11.水素およびFC関連測定技術の事業活動
12.ポータブル小型FCの開発
・A POSTER COLUMN
1.国家的施策
 政府は温室効果ガスの削減を目指した京都議定書目標達成計画関係の08年度予算概算要求をまとめた。関係省庁全体で"京都議定書6%削減約束に直接効果のあるもの"として5,956億円、"温室効果ガス削減に中長期的に効果があるもの"として3,409億円などを計上した。概算要求額の合計は1兆4,122億円で、07年度の合計予算額より2割増えた。前者の"直接効果のあるもの"のうち、運輸部門での主な対策は、経産省関連で、FCVなど水素社会構築共通基盤整備事業:20億円、クリーンエネルギー自動車等導入促進対策補助金:20億円、FCシステム等実証研究:15億円、環境省で、自動車のCO2対策推進事業:5億円、エネルギー供給関連対策では、農林水産省による、バイオ燃料地域利用モデル実証事業:54億円、ソフトセルロース利活用技術確立事業:41億円、環境省による、エコ燃料実用化地域システム実証事業費:25億円、他方"中長期的対策"では、新エネルギー技術研究開発(経産省):82億円、次世代蓄電池システム実用化戦略的技術開発:71億円、PEFC実用化戦略技術開発:70億円、を計上、その他"結果として温室ガスの削減に資するもの"として4,222億円を要求している。(日刊自動車新聞07年11月5日)

2.海外公共機関による施策
 EU委員会は、水素自動車の販売認可をEU域内で統一的に行うルールを提案したと発表した。商業用水素自動車は「自動車が所定の基準を満たしているかどうかを判断するEUの"型式認証システム"に組み込まれるべきである」と指摘、水素自動車の認可手続きを簡素化し、EU全域で統一基準を整備することになると強調した。提案の発効には欧州議会とEU各国政府の承認が必要になる。又欧州委は研究開発プログラム"FCと水素共同技術イニシアテイブ"に今後6年間で4億7,000万ユーロ(約6億6,400万ドル)を拠出することを明らかにした。同プログラムには欧州産業界も同額を出資する。同委はこのプログラムについて「2010〜20年の商用化に向けて水素技術の開発を加速させる見通しだ」と述べた。(化学工業日報07年10月12日)

3.MCFCの事業
 中国電力は10月19日、石炭火力の三隅発電所で、排ガスのCO2を活用して発電する50kW級のMCFCシステムの実証実験を始めたと発表した。05年から使っていた10kW級の小型装置を更新し、国内の発電所では初めてCO2回収機能を持たせた。システムはIHI製、30kg/hのCO2濃縮・回収する能力があり、引き込んだ排出ガスからのCO2について70%以上の回収率を見込んでいる。08年3月末まで試験運転を行い、電池性能を含むシステムの信頼性と、CO2回収性能を検証する。将来は回収したCO2の海洋、地中処理を目指すが、実験中は大気に放出する。排出CO2の削減などに向け、中部電力と07年度まで4年間実施している実験の一環で、事業費は計13億円、経産省の補助を受けている。中国電力では「将来は大型システムの開発でCO2の排出削減に貢献したい」と述べている。(中国新聞07年10月20日、電気、日経産業、日刊工業新聞10月22日)

4.SOFCの開発と応用
(1)九大とTOTO  九州大学大学院工学研究院の石原教授とTOTOなどは、ハイブリッド車や電子化が進む自動車に対応する大容量電源としての利用を目的として、自動車用補助エンジン(APU)用SOFCの開発に取り組んでいる。このSOFCは、石原教授らが開発したLaGaO3系高酸素イオン伝導性電解質を、マイクロチューブ型セルの高性能電解質薄膜として使用したものである。SOFC本体のチューブは、ニッケル系の電極材料で直径が8mm、長さが50mmであり、懸濁したLaGaO3系電解質の粉体をチューブ基体上に焼成した構成で、筒の中に液体燃料などの改質物質を通して酸素で燃やしながら発電する。LaGaO3を使用することによって小型化を実現、500oCでの作動が可能であり、約5分で起動できるようになった。しかし、実際に自動車で使用するためには、振動で壊れないセルを作ることが技術的課題として残されている。(日刊工業新聞07年10月29日)

(2)ホソカワミクロン
 ホソカワミクロンは10月31日、研究子会社ホソカワ粉体技術研究所で開発中の出力1kWSOFC試作機が、11月末に枚方市に完成予定の新本社ビルに設置したLED看板を、48時間連続点灯することに成功したと発表した。このSOFCの運転温度は700oCで、原料となる酸化ニッケルとYSZ複合粒子の微細構造を高次に制御するとともに、セル構造の最適化を行って発電性能の向上および低温動作を実現した。本試作機はアノード支持型単セルを60枚積層した構造で、連続運転と共に起動・停止サイクルを実証している。ホソカワミクロンでは、低温度性能と実用性が確認できたため、セル性能の更なる改良を加えて装置を開発し、早期の実用化を目指すとしている。(日刊工業新聞、化学工業日報07年11月1日)

(3)明電舎
 明電舎は08年度内に、05年以来FC開発で提携関係にあるドイツ・ジーメンスと共同で、工場、病院、ホテル、大型商業施設やオフィスビルなど事業所向けSOFCを商品化する。主にコージェネレーションシステムとして使う大型機で、発電出力は125kW、発電効率は44〜50%、都市ガスを燃料とし、SOFC内部で水素とCOに分離、これに空気を導入してFCにより電力と熱を発生する。又下水・汚泥処理施設など外部から水素を調達して利用することも可能である。1000oCの高温で動作するため、排熱を回収して再利用することにより発電効率を高めた。電力料金やCO2排出の大幅な削減が可能と同社は述べている。SOFC本体はジーメンスが製造し、明電舎は制御機器などの製造や敷設、管理などを担当する。価格は1台数億円程度の見込みである。(日経産業新聞07年11月6日)

5PEFCおよびDMFCの要素技術開発.
(1)サイエンスラボラトリーズ
 サイエンスラボラトリーズ(千葉県松戸市)は、酸化しにくく耐久性があり、安価な材料で作ることができる新しいDMFC用電解質膜を開発した。開発された膜はフラーレンに硫酸基やリン酸基を結合させ、更に炭化水素系高分子と混合して成形、これにカルシウムや白金を加えることで水に溶けにくくし、セシウムを入れて酸化による劣化を抑えた。酸化性の高い過酸化水素を含む試薬に1晩浸してナフィオン膜と比較したところ、新開発の膜は酸化しなかった。同社は「ナフィオン膜は数万円/m2と高価であるが、新開発の膜は汎用樹脂で作れるので、価格は1/10以下に抑えられる」と話している。(日経産業新聞07年10月29日)

(2)長崎総合科学大学
 長崎総合科学大学の山辺新技術創成研究所長や奥村工学部教授らは、白金量を大幅削減できる技術を開発した。この技術はナノカーボン材料を混ぜたペーストをドット状(水玉模様)に電極に印刷する仕組みで、白金に600oC程度の低温で焼いたナノ炭素材料を混ぜて印刷している。白金使用量が出力1kW当り従来の5〜10gから1.5ないし1gにまで、最大1/10程度にまで減らせると述べている。(日経産業新聞07年10月30日)

6.家庭および業務用PEFCシステムの実証実験と事業展開
(1)新日本石油
 新日本石油はコスモ石油にLPG仕様の1kW級家庭用PEFCのOEM供給を開始した。両社は07年4月、FC分野で業務提携したが、今回の取り組みはその一環で、コスモ石油ブランドの第1号機が甲府市の家庭に設置された。コスモ石油に対しては灯油仕様もOEM供給し、07年度中にLPG仕様9台、灯油仕様5台の合計14台が設置される予定である。新日石は同社のFCが石油業界の標準機種となるよう、提携・協力関係にある各社に向けてOEM供給を推進し、市場開拓を進める方針である。(電気、日刊工業新聞07年10月23日、日経産業新聞10月25日)
 新日石は11月6日、九州大学の学生食堂に業務用PEFCを設置し、実証実験を始めたと発表した。08年9月まで運転してデータを収集し、システムの改良に生かす。三菱重工と共同開発したシステムで出力は10kW、燃料に灯油を使う。(日経産業新聞07年11月7日)

(2)日清紡
 日清紡はPEFC関連事業の強化を図る。家庭用PEFC大規模実証事業のデファクトスタンダードとなっているカーボン系樹脂モールドセパレーターは、既存施設で1年前の約2倍となる月産400万枚規模への増強を進めているが、08年末にもフル稼働になると見込んでおり、08年2〜3月には次期増設を決断、今後の需要を踏まえて10月には新ラインを設置する考えである。同社のセパレーターは成形性に優れ、従来のカーボン成形品に比べて約2倍の強度と金属並みの厚さと柔軟性を兼ね備えているのが特徴で、家庭用大規模実証事業で多くのPEFCに採用されている。又同社はカーボン成形技術やナノファイバー技術、微粒子制御技術などを駆使して白金代替触媒への新規参入も目指しており、現在群馬大学工学部の尾崎教授と共同で開発を進めている。1〜2年後にはサンプル出荷を開始、この分野でもセパレーターに続く早期事業化を目指す。(化学工業日報07年10月30日)

(3)大阪ガス
 大阪ガスは10月31日、出力1kWの家庭用PEFCコージェネレーションシステムと出力4.6kWの太陽光発電システムを組み合わせたW発電システムを設置した省エネルギー住宅を、彩都(大阪府茨木市)内の住宅ゾーンに完成させた。ミストサウナ機能付浴室暖房乾燥機やガス温水式床暖房など、同社グループが提供する最新設備も装備している。 11月3日から一般公開する。都市ガスと電気を使用する従来型に比べて、エネルギー消費量で約55%、CO2排出量で約70%が削減でき、「一般的な4人家族で使用する電力の約90%を賄うことができる」と同社は述べている。(産経新聞07年11月1日、電波新聞11月2日、日刊工業新聞、化学工業日報11月5日、電気新聞11月6日)

7.FCV最前線
(1)アメリカGM
 アメリカのGMは10月22日、スポーツ用多目的車(SUV)"シボレー・エクイノックス"のFCV100台を投入して一般の住民に公道走行してもらう試験を、08年1月に始めると発表した。対象となるのはニューヨーク、ワシントン、ロサンジェルスの3都市の住民で、期間は最大30ヶ月、操縦性や信頼性、安全性の他、燃料の補給などに関するデータを定期的に収集する。(電気新聞07年10月24日)

(2)DC社
 ダイムラー・クライスラー日本は、10月24日からマスコミに公開される第40回東京モーターショウの特別企画"クリーンエネルギー車試乗会"にFCコンセプトカー"メルセデス・ベンツF600HYGENIUS"を投入する。−25oCの低温下でもシステム起動が可能な新技術を取り入れている他、700気圧の水素タンクを搭載することで、400kmの航続距離を実現している。27日までの期間限定で来場者に実走行を体験してもらう。同社は"メルセデス・ベンツBクラス"をベースとした次世代FCVを2010年に市場導入する目標を掲げている。(電気新聞07年10月24日)

(3)ホンダ
 ホンダの福井社長は、08年の日米投入(限定販売)を予定しているFCV"FCXコンセプト"の市販予定車を11月のロサンゼルスオートショーに出展する計画を明らかにした。(日刊自動車新聞07年10月25日)

8.水素ステーション関連技術開発と事業展開
 フジキン(大阪市)は、FCVに高圧水素ガスを供給するための水素充填機用制御弁と遮断弁を開発した。水素ガスの充填圧力では700気圧に対応する。両弁の開閉耐久性は15万回を超え、約5年間の使用に耐える。日立製作所、トキコテクノ(横浜市)が07年度中に実用化を目指す水素充填機に搭載する。フジキン、日立製作所、トキコテクノの3社はNEDO委託開発テーマとして、700気圧対応の高圧水素ガス充填機の実用化に取り組んでいる。フジキンが開発した弁は、化学プラントや原子力・火力発電所向けで実績を持つガス制御用バルブをベースに改良したもので、高圧化対応のために本体の肉厚を確保、他方弁耐圧部内径の小型化や、弁構造の見直しによるコンパクト化も実現した。又安全性確保のために、水素が漏れないようゴムと樹脂を組み合わせたシール材を開発した。弁のサイズはいずれも高さが300mm、幅については制御弁が250mm、遮断弁が150mmで、複数の水素充填機を設置する水素ステーション1ヶ所当りに遮断弁5〜6台、制御弁1〜2台の利用を見込んでいる。(日刊工業新聞07年10月24日)

9.水素生成・精製技術の開発
(1)南阿蘇ナチュラルクリーン
 バイオマスを利活用する新会社"南阿蘇ナチュラルクリーン"が間伐材、食品残渣、畜産糞尿などバイオマスから水素ガスを製造する施設の建設計画を、南阿蘇村で進めていることが分かった。当面は村内から木質材や畜糞、熊本市内から果実搾りかすを集め、1日に計55トンを処理し、7,200Nm3の水素ガスとたい肥などを製造する計画で、総事業費23億6,000万円の内、半分の11億8,000万円は農林水産省の"バイオマス環境づくり交付金"を活用する。(熊本日日新聞07年10月17日)

(2)アルカデイア
 アルカデイア(仙台市)はCO2を発生しない水素生成方式を開発した。ペットボトル500mLの溶媒を使用した実験では、アルミ箔2gを投入して水素ガスを発生させ、それによって5Vで5Wの電気を発生した。アルミ1g当り水素1.24Lが発生し、反応後はゲル状の酸化アルミナが沈殿する。溶媒は水に特殊な加工を施したもので、安価に生産でき、長期保存も可能で、60〜100円/Lの値段で販売が可能と述べている。研究に協力した東北大学大学院工学研究科化学工学専攻の三浦教授は「この方式は原理的に非常に簡単であり、コスト安と思われる。反応も穏やかで電力が不要、CO2などの炭化物を発生しない方式として大変ユニーク」とコメントしている。(電波新聞07年10月30日)

(3)トナミ運輸等
 トナミ運輸(高岡市)、富山県工業技術センター、日本テトラパック(東京)は、飲料容器などに使われるアルミ付の紙パック廃棄物から水素を取り出し、FCに活用する技術を特許出願した。アルミ付廃棄物からアルミのみを回収し、再利用することを可能にした。水素発生装置はカートリッジにすることで、自動車にも搭載でき、安全に水素エネルギーを得ることができる。08年度にミニプラントを建設、3年後に実証実験を予定している。(富山新聞07年11月2日)

(4)戸田工業
 戸田工業はニッケル系水蒸気改質触媒の開発を推進する意向で、広島県西部工業技術センターなどと共同研究に取り組んでいる。ニッケルは貴金属のルテニウムなどに比べて安価であるが、焼結し易く微細化が難しいという欠点があった。同社は酸化鉄事業で培った湿式反応技術を駆使してニッケルを2〜10nmのナノサイズにまで微細化するとともに、独自の担体構造を採用することで、触媒活性の劣化を防ぐなど耐久性を高めることに成功している。連続耐久性試験は2万時間以上を達成し、現在も継続中であり、担体成分の工夫によって耐硫黄被毒性や耐コーキング性(炭素析出による劣化)も良好と述べている。08年度末までに月産数百kg規模の生産を目指し、12年までに量産体制を整える方針である。(化学工業日報07年11月5日)

10.水素輸送・貯蔵技術の開発
(1)川崎重工業
 川崎重工業(神戸市)は、自社で開発した液体水素コンテナを、岩谷産業に納入した。規格としては最大級で、最大積載量2,617kg、スペースを最大活用し、積載効率を向上させた。又コンテナ内の液体水素を外部の貯蔵設備などに移す際に、加圧装置や設備がなくても対応できるよう、コンテナに加圧蒸発器を搭載している。(神戸新聞07年10月17日、日経産業新聞10月23日)

(2)新日本石油と日立製作所  新日本石油と日立製作所は、有機ハイドライドから水素を取り出す反応器を用いて、FCVに使えるサイズにまで水素発生器を小型化できる技術を開発した。新日石が触媒を、日立が主要部品を開発して板状の基本ユニットを作製、その構造は薄い隙間が通っている板で、一方の端から有機ハイドライドを流し込んで加熱すると、他方の端から水素が出てきるようになっている。反応器はこの基本ユニットを何枚も並べた構成で、触媒には塩素を含まないため、部品が劣化しにくいという特徴がある。又水素を取り出すために必要な熱は、有機ハイドライドを燃やすエンジンとFCの排熱によって供給される仕組みになっている。FCVが走るのに必要な30m3/h程度の水素流量を、25Lサイズの反応器で供給することが可能で車に搭載し易い。又有機ハイドライドは液体で扱えるために、ガソリンなどロータリー車や既存インフラが活用できるので、水素ガス方式に比べてインフラ整備コストが低いのが利点である。(日本経済新聞07年10月26日)

(3)丸八
 丸八(福井県坂井市)は炭素繊維を使ったFCV用水素タンクを開発し、09年3月を目途に販売を始める。医療用酸素ボンベの技術を応用し、1,750kgwt/cm2の圧力に耐えられるようにした。容量は30Lで水素を約1kgまで蓄えることができる。東大、阪大、首都大学東京などと共同で開発、落下試験など自社での基礎耐性データの算出を終えた。08年JARI研究センターで圧力耐性検査を実施する。(日経産業新聞07年11月5日)

11.水素およびFC関連測定技術の事業活動
 菊水電子工業は11月2日、中国の精華大学と共同で"FC電気測定技術セミナー"を開催、北京大学、北京化工大学、FC国家工程研究センターなどのFC専門家、教授、学生ら約100名が参加した。(電波新聞07年11月7日)

12.ポータブル小型FCの開発
 PEFCで運転と停止を繰り返すと、電極に使用している炭素と白金の結合が崩れ、分離した白金が電解質側に溶け出して不純物として蓄積し、それが水素イオンの伝道を妨げる現象が出力低下の原因となっていた。日立マクセルは、電極触媒に使われる白金が溶け出して電解質内に入り込むのを防ぐよう電極を工夫することによって、電解質の劣化を防ぎ、従来に比べて寿命を2倍に延ばす技術を開発、白金を除去するための装置を取り付ける必要をなくした。具体的には、カソード内に独自の有機物を添加、その有機物分子の酸素を使って白金を捕捉することにより、溶け出した白金をカソード側に留めることに成功した。オンオフを5000回繰り返す加速試験の結果、従来の電極では出力が50%以下に低下していたが、有機物を添加したタイプでは約90%を維持できたという。通常は有機物を添加すると電極の伝導率が下がるが、最適な組成の有機物を採用することで出力を維持した。サイズを抑えたまま4,000時間以上の動作が可能で、携帯用小型FCの実用化を進めるのに役立ちそうである。この技術は電解質に固体高分子を使用するPEFC向けであり、マクセルは新しい技術を利用してアルミニウムと水から発生させた水素を燃料とするポータブル電源を開発し、2010年までに製品化する計画である。(日経産業新聞07年11月8日)

 ―― This edition is made up as of November 8, 2007 ―――

・A POSTER COLUMN

内閣府による環境に関する世論調査
 内閣府はこのほど、地球温暖化対策についての世論調査の結果をまとめた。自動車からのCO2排出量を削減するため、政府が推進すべきだと思う取り組みを聞いたところ、「ハイブリッド自動車のような低燃費車をさらに普及させる」との回答が7割を占めた。環境税の導入については、賛成との回答が4割、反対が3割であった。内閣府が07年8月上旬に、全国の20歳以上の3000人を対象に実施した。
 より詳しくは、上記の「ハイブリッド車など低燃費車の普及」が63.9%、「FCVを早期に実用化する」が38.0%、「燃費のよい車の税金は軽く、悪い車の税金は重くする」が35.5%であった。
 環境に負荷を与えるものに対して税金を課す環境税の導入については、「賛成」が40.1%、「どちらともいえない」が24.4%、「反対」が32.0%であった。
(日刊自動車新聞07年10月13日)

エネ庁がEV普及を明確化
 資源エネルギー庁は2030年需給見通しで、電気自動車EVの普及を明確化する方針を固めた。EVは高性能化に向けた研究開発が着実に進み、30年までには水素・FCやバイオ燃料と並び、電力が輸送部門の主要な燃料になり得ると判断した。電力需要構造が大幅に見直される可能性もある。11下旬に予定されている総合資源エネルギー調査会(経済産業相の諮問機関)需給部会で議論を詰め、最終報告書に盛り込む。
 新・国家エネルギー戦略では運輸部門の石油依存度を、30年までに現状の100%から80%程度に下げる道筋を明記。これに基づき、甘利経済産業相は自動車業界、石油業界のトップと"次世代自動車・燃料イニシアテイブ"をまとめた。11月下旬に開く需給部会では、同イニシアテイブなどをたたき台に、運輸部門に占めるEVの割合をどの程度まで定量化できるかを詰める意向である。エネ庁はEVが本格普及した際の充電インフラの設置状況、供給量、充電時間帯などもある程度定性化したい考えで、火力発電の新・増設など電源構成に与える影響についても総合的に検討する。
 上記イニシアテイブでは、20年までにコンパクトEVの価格を200万円、性能を1充電当り200km走行に引き上げる目標を示している。又30年には価格300万円、1充電500km走行の本格的なEVの普及を目指す意向である。
(電気新聞07年10月17日)

2012年にEVを発売(日産カルロス・ゴーン社長)
 日産自動車のカルロス・ゴーン社長は10月26日、EVを2012年に量産化する方針を明らかにした。10年までに実証試験を開始、リース販売を経て、国内を手始めにEVの販売を本格化させる計画である。
 日産はNECグループと自動車用2次電池の開発・生産を行う合弁会社を設立、09年から高出力のリチウム・イオン電池の量産を開始する。この電池を用いて"ピポ2"をベースに量産車を開発する方針である。EV需要についてゴーン社長は「欧州乗用車市場の4割、400万台の車が都市部を走るなど市場は大きい」と述べた。
(産経新聞07年10月27日)

環境省の公用車がバイオ燃料を採用
 鴨下環境相は10月22日、環境省の公用車にバイオエタノールを3%混ぜた"E3"を採用する方針を明らかにした。公用車24台の内、FCVなどを除くガソリン車12台全てをE3に切り替える。他省庁の公用車にも採用を呼びかける方針である。11月9日から首都圏でE3の流通が始まるのに合わせて実行する。堺市で廃木材から製造したエタノールを、岡山県の油槽所でガソリンと混合、同省が管轄する新宿御苑のスタンドで供給する。政府公用車向けで一般販売はしない。
 バイオエタノールを巡っては、その混合方式で環境省と石油業界などが対立しており、石油業界は"ETBE"の一般販売を始めている。
(朝日新聞07年10月23日)

マツダが北欧向けに水素エンジン車を輸出
 マツダの井巻社長兼会長は、10月24日に始まった東京モーターショウで、水素燃料ロータリーエンジン車"RX−8ハイドロジェンRE"を、ノルウエー向けに約30台納入すると発表した。ノルウエーは同国の環境保全国家プロジェクト"HyNor"により、08年までにオスロ市からスタバンゲル市まで約580kmの主要幹線沿いに水素の供給施設を整備する計画で、車は08年以降に順次納入する。(朝日新聞07年10月25日、日刊工業新聞11月8日)

20倍の速さで充放電可能なリチウムイオンラミネート電池
 モリポリマー(横浜市)とピーアイ技術研究所(同)、神奈川県産業技術センターの3社は、従来のリチウムイオン電池に比べて20倍の速さで充放電できる"リチウムイオンラミネート電池"を開発した。独自製法の可溶性ポリイミドで導電材をつなぐことで電極抵抗を従来比1/3に抑え、燃焼の原因になる諸現象を防ぐことを実現した。  開発した電池は3cm×4cmの単層セルで、ピーアイ技術研究所が材料の設計と供給を担当し、モリポリマーが電池を開発、産業技術センターが評価試験を行った。
 電池の特徴は、従来のポリビニリデンフルオライド(PVDF)に替わり、電極内の導電材をつなぐバインダーに可溶性のポリイミドを採用、これで電極内に導電材を安定的に分散させ、電極抵抗を抑制した。産業技術センターの実験では1時間の充放電で電力ロスが発生しないことを確認した。
 リチウムイオン電池の燃焼は、過度の充放電による活性酸素の発生や、イオンの不安定化、電極溶解などを原因として起こる。ピーアイ技研の可溶性ポリイミドはこれを防ぐ機能があり、森社長は「安全で大容量化も容易」と述べている。負極にはハードカーボンを用いて材料費も抑えた。
(日刊工業新聞07年10月25日)

東京モーターショウ2007での主な次世代コンセプトカー
以下の表にまとめて示す。

メーカー     車 名        テーマ               特  徴
トヨタ       リン      心も体も健康になる車       快適温熱シート等
日 産      ピボ2       次世代EV          運転席が360度回転
ホンダ      プヨ      人に優しいFCV         ボデイーにシリコン素材
三菱自      i-MIEV    スポーツ仕様の軽EV       風力発電ファン、太陽電池
スズキ      ピクシー    1人乗り低速移動ツール     移動ユニットSSCと合体
富士重工     G4e      スポーツ軽EV           1回の充電で200km
マツダ      大気      次世代スポーツカー       次世代ロータリーエンジン
ダイハツ     マッド    オフロード小型1BOX車      悪路に強い小型1BOX  
         マスターC                            

(読売新聞07年10月25日)

バイオ燃料の生産等で地域再生
 経済産業省と農林水産省は、地域の農林水産業や商工業が手を結んで新たに取り組む"農商工連携"を対象に、税制優遇措置など総合的な支援策を打ち出す方針を固めた。福田内閣の地域活性化策の目玉として、時限付きの新法制定を検討する。農業でのIT活用やバイオ燃料の生産などが有力なテーマとして挙げられており、これらの事業における農商工連携によって地域の雇用創出と活性化につなげる意向である。(日本経済新聞07年11月6日)

日米欧の自動車メーカーが温暖化対策で努力することを声明
 トヨタ自動車、GM、BMWなど日米欧の主要自動車メーカー首脳が10月24日に千葉市で乗用車グローバルミーテイングを開き、自動車業界が地球規模で取り組むべき課題として、気候変動とエネルギー安全保障を始めて協議し、環境に配慮した次世代技術の開発などへの努力を盛り込んだ共同声明を採択した。
 しかし、ハイブリッドや次世代クリーンデイーゼル技術の向上、FCVや水素自動車など環境技術については、メーカー単独で行うことは不安定な投資を招くリスクがある。このため声明は各国政府に産官学の連携を強化する上で積極的かつ重要な役割を求めるとしている。
(中日新聞07年10月26日)